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SPB02 ストーリー

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 SPB02 ストーリー

嵐、ふたたび

台風一過。
晴れ渡る秋の空の下、キョウト支局は穏やかな一日を過ごしていた。
「いやー、今日はいちにち、暇でいいねぇ・・・」
局長代理の平朔太郎が、熱めのお茶をすすりながら思わず呟くと、
「全くです。平和が一番です」
と、平から今年教官を継いだ高千穂律が受けて答える。

超未来科学技術をもつトリトミーとの交流により、
異世界とのゲート開通を、ある程度制御できるようになった現在のセプトピア。
悪意ある使者の侵入はめっきりその数を減らし、
その緊急対応組織であるALCAの存在意義も変わってきている。

「だよねぇ。使者の襲来でもないのに、緊急出動で二晩徹夜とか、ホント勘弁してほしい」
「まあいいじゃないですか、お陰で人命にかかわる被害は無かったんですから」

使者と合体した定理者たちは、使者固有の様々な特殊能力を行使することができる。以前なら主に「戦闘」、つまり侵入した使者を撃退する戦力として期待されていた。

「いやー やっぱ聖那のパワーは役に立つわー
ゴリラ顔負け、ブルドーザーも形無しだったじゃん?」
「局長代理、声大きいですよ」

阿修羅と合体した聖那は、身体能力が大きく向上、特に全身の筋力強化は目を見張る。
宙を舞う4つの拳を自在に操りながら、強大な一撃を放つ天性のアタッカーだ。

「ゴリラでわるぅございましたね!」
「うわっ」

いつの間にか、その聖那が局長席の後ろに来ていた。
揺音聖那。キョウト支局の定理者チームリーダーであり、いわば前線指揮官。
キョウトを舞台にした数々の事件に、常に先頭に立って解決にあたってきた。
その彼女も、最近は天災や事故の現場に派遣されることが多い。

「いやいや聖那ちゃん、お兄さん褒めたつもりよ?」

実際、大活躍だったのである。
台風が連れてきた大雨と、直下型の地震がとある山際の町を直撃。
脆くなっていたトンネルが崩落、バスが生き埋めになりかけたのだ。
ALCAは警察の下部組織として、こういった事故の情報も受け取っている。
事態を重く見たキョウト支局定理者チームは、待機していた聖那を現場に至急派遣。
阿修羅と合体した聖那は、周囲を飛ぶ四つの拳を自在に操り、瓦礫を砕き、弾き、取り除き。
見る見る間にトンネルへの道を拓いたのだ。

「聖那~おかえり~」
と声をかけたのは、同じ支局員で定理者のノエル。
盟約者の政木狐は3本の尾を持つジスフィアの狐妖だが、今は普通の狐の姿でノエルの膝に乗り微睡んでいる。
「聖那ちゃんががんばってくれるから、もうおねーさん安心だわあ」
「ノエルさん・・・」
ノエルは既に、今年いっぱいでALCAを離れると宣言している。
元々遊び好きで奔放な彼女のこと、強制招集が無くなった今、彼女を縛りつけるのは酷と言うものだ。
「合体できなくなっても、別にマサキさんとお別れってわけじゃないしね」
と言って政木狐の頭をなでる。
狐はくぅと気持ちよさそうに声を上げる。
そう、定理者として活躍できる時間には、タイムリミットがある。
20歳を過ぎると、だんだんと合体の能力が衰えていく。
それは若く柔軟な精神でなければ異世界のロジックを受け入れられないからだ、
とか言われているが、本当のところはわからない。
まだ研究が追い付いていないのだ。
「来週末は、キヨミズでジゼルのライブでしょ? みんなで行こうね!」
聖那の相棒として数々の事件を解決してきたジゼルは、今ここにはいない。
待機任務のない時は「アイドル兼定理者」「使者と合体できる唯一のアイドル」として芸能界に復帰、アイドルとして再び売り出し中なのだ。
それが許されたのも、使者襲来の危機が去ったから。
平和が一番。改めてそのことを噛みしめる一同だったが―

鳴り響く警報。
「大変です! キョウト駅を中心に、大型の逆理領域が発生!」
オペレータの声と前後して、外出していた五条奏からも
「空が! 異常な雲が・・・雷で!!!」
いつも無口気味の奏にしては珍しい、悲鳴の様な声で報告が入ってきた。

キョウトの平和な一日は終わりを告げ、事態は風雲急を告げていた。

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  • 明日葉 学 & 月影の ロウ

     明日葉 学 & 月影の ロウ

     明日葉 学 & 月影の ロウ

    明日葉 学 & 月影の ロウ

    学の首に巻かれた光るマフラーは、合体したアルテミスの能力の一部である。
    学の意志によって自在に動き、必要に応じ壁面を登るためのアンカーやロープにもなる。
    マフラーを助けにしながら、壁面のハシゴやパイプを手掛かり足掛かりに、宙を跳ねるように駆ける。
    あっという間に高層ビルの屋上まで駆け登った学は、スナイパーの性か、さっと周囲を確認。
    さらに高所から状況を伺う。
    しかし。
    「―アルテミス?」
    『ええ。宴の主人は場を辞した様ですね』
    ―空気が変わった。
    もう雷の音も嵐のうなりも聞こえず、空の黒雲が流れ、光が差し込んで来ていた。
    そして玉姫から通信が入ってきた。
    「……うん、わかった」
    どうも、玉姫の妹・キョウト支局の聖那と相棒のジゼルがうまいこと問題の使者を撃退したらしい。しかし使者は適応体となって逃亡したらしく、まだ確保に至っていないという。
    「アルテミス、行くよ」
    『貴女の願いのままに』

    再び光るマフラーを打ちこみつつ、地上へと跳ねる様に降りていく。
    時に住宅の屋根、時にベランダの端を蹴りながら、周囲に油断なく目を配っていく。
    「―この地区に不審な姿はない。他の地区に回る」
    「了解、気を付けて」
    玉姫と短い通信を交わすと、次の地区へ。
    だが怪しい姿を発見することはできなかった。

    そこで、何か情報がつかめるかもと思い、近くの避難所へ足を向ける。
    合体を解き、アルテミスをいったんフォーリナーカードで異世界テトラヘヴンへと戻す。
    学の後見人として、セプトピアで暮らしていることの方が多い彼女だが、今は万一に備え、いったん故郷で力を蓄えてもらった方がいいと判断。
    すると別のフォーリナーカードが輝き、光の中から今度は一抱えほどのサイズのぬいぐるみ、もとい、青と白の羽毛に包まれたペンギンが現れた。
    学の盟約者のひとり、モノリウムから来た海颯のウィーゴである。
    「ウィーゴ?」
    『状況はわかっている。まだ付近に危険な使者がうろついているかもしれないのだろう?
    安心しろ、学は俺が守ってやる』
    どうやらボディーガードを買って出てくれたらしい。
    断る理由もなく、学はそのまま避難所のゲートをくぐる。
    その後ろを、赤いマフラーを巻いたペンギンが、ぺったぺったと続く。
    すると。

    「うわぁあああ ペンギンさんだー!」
    「かわいいー!」
    「もこもこー」
    「ふわふわー」

    避難所には、付近の幼稚園に通う子供たちがそのまま避難してきていた。
    以前から度々あったこととはいえ、避難所内の空気と、大人たちの深刻な様子、そして時折聞こえてきた雷と嵐の轟音は、子供たちを脅え縮みこませていた。

    そこに、可愛らしいペンギンが現れたのだ。
    親や先生が止める間もあらばこそ、あっという間にウィーゴはもみくちゃにされる。

    『う、うわああああああ、お、お前たち落ち着け、こら、やめろおおおお』

    ペンギンは寒い海での生活に特化するため、翼は1枚のオールの様な形状へ進化した。
    このひれ状になった翼を「フリッパー」という。
    フリッパーは鋭く水を打ち、飛ぶがごとく海中を泳ぐ、その推進力を産み出す。相当な筋力を備えているのだ。
    さらに、モノリウムの拳法家である海颯のウィーゴにとってこのフリッパーは、鍛え抜かれた武器であり気合を込めて振り下ろせば、岩をも砕く自信がある。(セプトピアではまだ、試したことがない)
    しかし。
    このまとわりつく子供たちの頭に、フリッパーを振り下ろすわけにはいかないではないか。

    『-学、学、おい、早く、助けてくれー!』

    学としてもお気に入りのぬいぐるみ、もとい、盟約者であるウィーゴが子供たちにもみくちゃにされているのは、自分のモノを奪われたようで嬉しくはないが―

    「-がんばれ」

    子供たちが歓声を挙げて喜び微笑んでいる姿、それを見てその親たちが微笑んでいる姿、さらにその笑顔が周囲に伝染していく様子を見ると、今取り上げるのは酷な様な気がした。

    『お、おい、そんな殺生な、ちょ、おま』
    「うわぁあああああい」
    「かわいいー!」
    「もこもこー」
    「ふわふわー」

    聞こえたかどうかわからないが、「健闘を祈る」と伝えて学はALCAの職員の下へ足を進めた。
    さて職員の話によると、付近で大きなミミズクの目撃情報があるという。
    キョウトにも野生のフクロウはいると思うが、昼間に街の中にいるのは、ちょっと珍しい。
    子供たちにたっぷり遊んでもらい(もみくちゃにされただけだ!とは本人の弁)へとへとのウィーゴを連れ、目撃されたという公園の方に向かう。

    いつもは子供たちや親子連れで賑わっているであろう公園が、人ひとりいない様子はなんとも悲しく寂しいものだ。
    以前はたいして気にもしなかった学だが、過去の事件を通じ、命を大切にすること・生きて全うすることの意味を教えてもらって以来、人と人のつながりには少し気を惹かれるものがある。
    (だからこの場所は大切……きっと)
    思わず握った拳に力の入る彼女の袖を、ウィーゴが引いた。
    『おい、あそこだ』
    見れば、公園の木の一本、その根元に寄り掛かるように、大きな鳥が倒れている。
    正面を向いた顔に、特徴的な羽角。ミミズクだ。
    駆け寄って抱き上げてやると、気を失っているのか目は開かないが、苦し気な鳴き声がもれる。
    『……学、こりゃ俺と同じ匂いがするぜ?』
    「うん」

    キョウト支局に連絡を入れトランスポーターを回してもらった学は、保護したミミズクを抱え、そのまま支局の盟約室へと向かった。
    『俺のカンが当たりなら、モノリウムの元体に戻してやった方が、傷の治りは早いぜ』
    職員から借りた応急手当キットを傍に置きつつ、フォーリナーカードを掲げる。
    「ゲートアクセス、モノリウム」
    学の声に応じて、超自然世界・モノリウムへのゲートが開く。
    モノリウムの青白い月の光が照らすなか、ミミズクはみるみる元の姿―モノリウムの獣人としての姿を取り戻していく。
    『そうじゃねぇかなとは思っていたが―』
    すらりとした長身の、若い女性の姿。
    やや浅黒い肌に、灰白色に縞の入った髪。
    露出の多い服装は、緑や赤の帯で縁取られエキゾチックな魅力を出している。
    一見、野性的な民族衣装のダンサーにも見える彼女だが、背中側の腰のあたりから生えた大きな翼が、人ならざる身であることをはっきり主張している。
    『こいつは珍しい。フクロウ族だぜ』
    ゆっくり目を開いていく。どうやら気が付いたらしい。
    「―大丈夫?」
    『・・・ここは、モノリウム?』
    「違う。でも、近い」
    学とウィーゴが見守る中、彼女は周囲を見回し、そして―
    『ヒト! それに、ペンギン!!』
    『おう、俺サマは海颯のウィーゴ。北厳海の鉄拳たぁ俺のことよ。
    そしてこっちが、アンタを助けたセプトピアの定理者、俺の盟約者の学だ』
    「よろしく」
    『・・・ええ、ありがとう・・・痛っ』
    『おう、ドコが痛いか言ってくれ。簡単な治療はできるからよ!』
    「見せて」

    かくして、このモノリウムのフクロウ族の女性は、学とウィーゴの治療を受けながら、少しずつ自分の事、これまでの事を話し始めた。
    『私は、月影のロウ、と言う。ただの風来坊だよ。
    元々わたしは、風の吹くまま気の向くまま、旅をしていたのだけど―』
    モノリウムの各地を放浪していたロウだったが、ある時、セプトピアへのゲートが開いた際、その一団に混ざってセプトピアに渡ったのだ、という。
    『こちらに来たのもなんとなく、だったのだけどね』
    セプトピアに渡ったロウの体は、セプトピアのロジックに適応し大柄のミミズクになった。
    最初は戸惑ったものの、彼女にとって空を飛ぶことは地上を走るより容易い。
    新しい体のバランスにもすぐに慣れ、セプトピアの空を自在に飛ぶことができたという。
    そしてしばらくは、セプトピアでの旅暮らしを楽しんでいた。
    しかし。
    『あの突然の嵐には、驚いた』
    折悪しく、キョウト付近の森を飛んでいた所、
    今回の鳴神と玉風が起こした事件に巻き込まれたらしい。
    『お恥ずかしい。枝に掴まろうとしたところを、あおられてこのザマさ』
    といって自嘲するのを、学はかぶりを振って否定した。
    「あの嵐はジスフィアの風神が起こした嵐。しかたない」
    『そうだ、気にするこたぁないぜ!』
    「ウィーゴだって無理だった」
    『ああ、俺にだってあの嵐は― って学!俺はそもそも飛べねぇよ!』
    「うん、知ってた」
    そんなやりとりを見て、初めてロウの顔に自嘲ではない本当の微笑みが浮かんだ。
    『定理者と使者というのは・・・噂には聞いていたが、仲の良いものなのだね』
    『ああ!俺たち盟約者同士の仲ってのは』
    反らすぐらい胸を張るウィーゴを背中から学がぎゅむと抱きしめる。
    「うん、なかなか」
    『お、おい、だからむぎゅう』
    『―長いこと独りで旅してきたからね、眩しいね。そういうのも』
    「ロウも、盟約してみる? 誰かと」
    『いやぁ、私なんかは・・・
     いろいろなしがらみに捕らわれるのが嫌で、
    ろくに目当ても無く放浪していたような私だ。とても務まらないよ』
    「そう」
    応急処置を済ませた学は、それ以上無理強いはしなかった。

    その後、怪我が治り飛べるようになるまで、当面ロウの身柄は学が預かることになった。
    かつてのナイエン支局の問題児も、今や立派なベテラン定理者である。
    『未知の領域に漕ぎ出す船。新たな航海の始まりに、皆の祝福を』
    つまり皆で見守り、支えてあげて欲しい、ということらしい。
    アルテミスを始め、星や冥、ウィーゴという盟約者たち。
    あるいは玉姫やクロエ、そして縁といった同僚の定理者たち。
    オルガやヴェロニカ、他にALCAのスタッフたちも、
    ちょっと言葉足らずで顔色の読みにくい、
    だが少しずつ、少しずつ感情が豊かになっていく学がロウの面倒をみているのを、心配し、応援していた。

    『いろいろ手間をかけた。ありがとう。
     何か、私に礼をさせてもらえないだろうか』
    「―いらない」
    『しかし…』
    「リーダーが言ってた。
    人と神―使者が共存しちゃいけない、なんて、誰が決めた事でもない。
    そう、オルガに教えられたって」
    ロウの怪我はすっかり癒えて、モノリウムへと戻ることになった。
    盟約室でゲートを開くと、またあの時の様に、青い月が輝いている。
    「仲良くできるなら、その方が、いい。
    だから、こうした」
    『そうか』
    大きな翼を広げ、軽くはばたくと、ふわり体が浮かびあがる。
    ロウの姿を見上げながら、学がぽつりと尋ねた。
    「―空を飛ぶのは、楽しい?」
    『それはもちろん。特に夜、月明りの下、空を飛ぶのは―』
    と説明をしようとして口を閉ざす。
    ロウも、あまり言葉を費やすのは得意ではない。
    『なぜそんなことを?』
    「仲間に、空を飛ぶのがいる。楽しそう、だから」
    合点がいった、とうなずいて、
    『ならば、その答えは、君自身が出すべきだ』
    ロウが差し出した手を、学が受ける。
    『共に飛ぼう。青白き月の下、星の瞬きを縫うように』
    「・・・うん」

    「『―合体』」

    さてしばらくのちの事。
    夜に生きるフクロウの眼は、わずかな光でも闇を見通す力をもつ。
    影から影へ目を盗んで走る犯罪者の姿を、ロウと合体した学はしっかり捉えていた。
    柔らかな羽毛は羽ばたく音を消し、気配を絶ちながらの追跡を可能にする。
    そして。
    「―獲った」
    気づいた時には、もう遅い。
    頭上から振り落とす鋭い爪が、逃亡者の服を地面に縫い付けていた。
    「オルガ、対象を確保」
    「フッ、流石はナイエン支局随一のハンター。
    俺のロジックが聞こえる・・・
    お前が獲物を逃がす確率は、0パーセン―」
    「対象を警察に引き渡した。帰投する」
    『仕事はこれで終わり。
    そして今夜は、月が綺麗だ。』
    「うん」
    ならば、少し遠回りして帰っても、いいだろう。
    音もなく羽ばたいた翼が、学を夜空へと舞い上げた。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

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  • 小湊 くらら & 玉風【前編】

     小湊 くらら & 玉風【前編】

     小湊 くらら & 玉風【前編】

    小湊 くらら & 玉風【前編】

    「小湊くーん! やっと連絡ついた! 今ドコ? 無事なの?」
    「うん、ダイジョブだよ。いま? んとねー シンキョーゴクの方ぶらぶらしてるー」
    「無事ならよし。
    で、そろそろどうするか、決めた?」
    「んー まだ。そのうち、決める」
    「だからそのうち、っていつだよ、おい、おーいー!」
    まだしゃべり続けているケータイをプチっと切って。
    キョウトの女子高生小湊くららは、鼻歌混じりに散歩を再開する。

    玉風と鳴神と呼ばれる、ジスフィアの風神と雷神によるトランスジャック事件が起きて数日。
    幸い被害が大きく広がる前に、二人の使者はALCAキョウト支局の活躍によって撃退されていた。
    街は平穏を取り戻し、暴風や稲妻の直撃によって破損した建物や施設についても、急ピッチで修復が進んでいる。
    なにより、逆理領域に捕らわれた人々の逆理病が、ナイエン支局から派遣された揺音玉姫によって素早く治療されたことが大きい。

    まだ、当の使者二人の身柄は確保できていない。
    未だこのキョウトの何処かに、潜んでいるかもしれない。
    適応体になりこの世界の人々や生物に紛れ込んだ使者は、非常に見つけにくいのが実情だ。
    何しろ見た目は、この世界の人間となんら見分けがつかないのだから。

    とはいえ、まだ捕まらない使者たちを恐れて家に閉じこもっているほど、キョウトの人々は臆病ではない。
    あしざまに言えば「慣れた」というところだが、またあの2体が暴れてもALCAがなんとかしてくれる。そんな信頼も、あるのだ。

    というわけで。
    営業を再開した商店街の一角を、くららはだらだらと歩いていた。
    手に持っているのは、さきほど列に並んで買ってみたドフィノワ。
    旬のくるみをたっぷり使った焼き菓子で、外側のサブレのさくさく加減と内側のキャラメルとくるみのこってりした甘さがたまらない。
    「これヤバイ。わかるー!」
    歩きながら、手づかみも構わず、むしゃむしゃと食べる。
    そんな彼女の爪は、それぞれの指を別々の色で染めたネイルでキラキラ輝いている。
    ネットで観たデザインで気に入ったものを即採用、今日は早起きしてネイルしてきたのだ。
    普段は学校の規則があるから、うっすらピンクのネイルでキメているが休みの日ぐらいはばっちり派手派手にしたい。

    (・・・いや、ガッコ―行かないなら、毎日ネイルしてもいーのかなー)

    ひと月ほど前。
    定期の健康診断といっしょに受けさせられた、定理者の適性検査で、非常に高い適正値を示したくららは、ホッカイドウのピラリ学園へ転校し、定理者としての才能を伸ばしていくことを強く勧められた。
    現在、以前の様な強制招集こそ行われていないものの。
    定理者の才能はやはり特別な才能であり、世の中にその力を役立てていくことを、周囲からかなり期待される。
    「以前と違って、今は命がけで戦ったりとかはないんだろう?
    これで将来も安心じゃないか?」
    と両親や進路相談の先生も喜んでくれた。

    ・・・だけど。
    だけど、くららはイヤだったのだ。
    いつも学校帰りにだべる友達たちと、別れるのが。
    くっだらない事をあれこれ喋りながら、流行りのスイーツを食べ歩いたり、互いのファッションにあれこれケチつけながらも笑いあう、あの時間をなくすのが。

    パパとママのことは好きだけど、ああもあからさまに「良かったね!」「でかした!」みたいな目で見られると、ツライ。
    だからこの間、大好きなバァチャンの所に相談した。
    バァチャンは苺農家を切り盛りして、ジイチャンが腰を悪くした後もしっかり働いてパパを育てて大学に入れたという、小湊家のビッグマザーだ。パパもママも頭が上がらない。
    でもくららにはとっても優しくて(でも悪い事したり約束を破るとチョー怖い)若いころはすっごい美人で服のセンスもイケてる、憧れのバァチャンなのだ。
    バァチャンは一言、

    「くららの好きにさせたらええ」

    でみんなを黙らせた。サスガ。
    バァチャンのお墨付きを得たくららは、自分でALCAのキョウト支局に行き、
    「キョウトは離れたくない、友達とも別れたくない。
    通いでいいなら、すぐここで働いてあげる」
    と啖呵を切った。
    定理者のリーダー、とか紹介されたお兄さんが、優しそうな表情を白黒させると、どうしよう、こうしよう、いやルールが?規則が?でもでも? とアタフタするのは見て面白かった。
    でも局長代理の平、とかいうオジサンが出てくると、オジサンは、顔は笑顔だったけど―
    「バイト感覚なら、学校へ帰っていいよ」
    とぴしゃり言った。
    その後、定理者としてALCAに務めた場合の、いろいろな仕事について説明を受けた。
    どちらかというと、軍隊というよりは警察や消防、救急に近い仕事をしていること。
    また、異世界の使者との平和的な共存や、世界の仕組みについての研究も、ALCAの大事な仕事であること。
    「異世界の使者とも、友達になるの?」
    「そう、仲良くなれる奴とは仲良くするさ」
    そういうと、おっきな烏が部屋の中に飛んできて、傍の止まり木につかまりカァと鳴いた。
    ちょっとびっくり。
    「確かに今世界は平和だし、命のやり取りなんてしないかもしれない。
    でも、いざという時、やはり矢面に立つのは僕たちだ。
    覚悟がない子は、いらないな~」
    くららにしては珍しく、ぱっと返事ができなくて。
    連絡先だけ教えて、その日は家に帰った。

    あれからしばらく。
    時々、オジサンからは電話がかかってくるが、なかなか返事ができないでいる。
    家族とも友達とも別れて、ホッカイドウに行くのか。
    学校には行けなくなるみたいだけど、キョウトに残り、定理者として働くのか。
    あるいは、全部忘れてしまうか。

    ぐうううう

    と、突然、派手にお腹の鳴る音が聞こえた。
    思わず自分のお腹を押さえるが、さっきお菓子も食べたし、そこまでお腹が空いているわけではない。

    ・・・では、誰?

    見れば。
    道端に二人の少女が座り込んでいる。
    ぱっと見たところ、自分と同じ年恰好の二人。
    顔はけっこうきりっとした美人系で、二人ともよく似ている。姉妹か?
    (・・・むねおっきー)
    出るところ出てひっこむとこ引っ込んだ、グラビアアイドルか?って感じのスタイルは正直うらやましい。
    そして目を引くのが髪の毛の色。
    どこで染めたんだか、ひとりは金髪にちかいすこしくすんだ黄色。
    もうひとりは空の色みたいな青になっている。
    (・・・コスプレってやつ? なんかイベントあんの?)
    思わず頭の中にハテナが飛び回るくららの目の前で。

    ぐうううう

    またお腹の音が鳴り、黄色の少女がお腹を押さえて
    『腹減ったあああああ』
    すると青色の少女の方はそれをとがめて、
    『ちょっとなる、恥ずかしいわよ』
    『だーって腹減ったンだからしょーがねーだろー!』

    ぐうううう

    う、とうめいて今度は青色の少女がお腹を押さえる。
    『ほらみろ、たまだって腹減ってンじゃねーか!』
    『わ、私は鳴ってない。ごろごろ鳴るなんて、なるじゃあるまいし』
    『んだとー!
    -っておい。お前、見てんじゃねーよ』
    なる、と呼ばれた黄色の少女、鳴神がくいと目尻を吊りあげてこちらをにらむ。
    たま、と呼ばれた青色の少女、玉風も少し垂れ気味の目を細めるようにねめつける。
    その視線と表情の圧に対し。

    「ん」

    くららは左手の紙袋をぐいと突き出した。まだドフィノワが残っている。
    『な、なんだよ!』
    反射的に声を荒げる鳴神を手で制しながら、玉風は
    『それ、私たちに?』
    「だって、お腹空いてるんでしょー?」
    確かに、その紙袋からは甘く美味しそうな匂いがただよっている。
    「だから、あげる」
    『-ホントだな? 嘘じゃないな?』
    『ちょっと、なる?』
    止める暇もあればこそ、鳴神は紙袋をひったくるように奪うと、中に入っていた焼き菓子にかぶりついた。
    『んぐんぐんぐ・・・うめー!! たま、これすげーうめー!!!』
    『ちょっとあなた、はしたないわよ。仮にもジスフィアの神格たる者が』
    『たまも食えよ、ほらほら』
    『え、う、うん・・・ あら、確かにこれは・・・』
    あの土壇場の逃走劇から、丸二日。
    この世界のことなど何も知らない二人は、自分たちをこの世界に呼び寄せた「あの男」を探すも出会えず連絡もつけられず。
    うるさい音(サイレン、というらしい)を鳴らしながら街を走り回る車と、
    厳めしい制服の男たちが自分たちを探して見つけて捕まえようとしている気がして。
    ろくに食べることも眠ることもできず、逃げ回っていたのだ。

    (こんなはずじゃなかったのに)
    (あたしたちは、上の神さまから言われた通りに雷を落としたり風を吹かせたりするのに飽き飽きしてた)
    (そしたら「あの男」が手紙を寄こしてきた。
    セプトピア。
    この世界に来たら、なんでも好きなように遊べる)
    (自分のちからを好きにしていい。
    そうして遊んでいたら、次々楽しい遊び相手も現れて、もっともっと楽しくなる!)

    そう、こんなはずじゃなかったのに。
    お腹に甘いお菓子が入って少し落ち着いたからだろうか。
    目尻から熱いものが落ちる。
    「ちょっとなる・・・」
    玉風が布でこちらの顔をぬぐおうとするのを
    「な、泣いてない。泣いてないし!たまだって!」
    みれば、玉風の顔もちょっとぐしゃっとなっていた。
    これは大泣きする前兆だ。

    ―すると
    「ゴハン、食べにいこ」
    『『え?』』
    いつのまにか、くららが二人のそばに来ている。
    腰を落とし、そのまま二人の肩に手を回すと、肩を抱くようにしながら顔をくっつけてきた。
    「今回はぁ、あたしの、おごり。
    だから、ゴハン、食べよう」
    そして、ぎゅっと、腕に力をこめてきた。
    「あたし、ヤなんだ。人が泣いてんの。
    あたしまでオチる感じするんだ。
    だからさー
    がーっと食べて、
    ぱーっとやって、
    アゲてこ?
    ぶわーっと。ね?」
    正直、くららの言葉の意味はイマイチわからないとこもあるが、
    彼女の言いたいことは、わかった。
    『なるぅ』
    『たまぁ』
    「ばか、あたしも貰い泣きするじゃん、やめてよぅ」
    何故だかわからないが、後から後から涙が出るので。
    鳴神と玉風、そしてくららは、恥ずかしくも道端で、
    3人抱き合いながら、わんわん泣いた。おんおん泣いた。

    その後、ドスバーガーとファミレスとカラオケをハシゴした3人。
    鳴神も玉風も、自分たちが異世界から来た事や、元の世界で退屈していたこと、
    「あの男」の言うまま、この世界にきて遊ぼうとした事などを自分から語りだした。
    擬音混じりで勢い込んで喋る鳴神と、こぼれ落ちる話を拾う様に喋る玉風が面白かった。
    くららの今月の小遣いは見事空っぽになってしまったが、まぁいいかな、と思った。

    「・・・ねぇ、定理者になったら、あんた達ともなれるかな。
    -友達に」

    くらら×鳴神編(後編)に続く

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  • 揺音玉姫 & 清純の ニコ

     揺音玉姫 & 清純の ニコ

     揺音玉姫 & 清純の ニコ

    揺音 玉姫 & 清純の ニコ

    「揺音、明日葉、行ってくれるか」
    ALCAナイエン支局、リーダーのオルガ・ブレイクチャイルド。その判断は早かった。
    しばらく無かった、大型の逆理領域の展開。
    2体の使者による同時襲来、さらに固有能力によるものと思われる異常気象。
    「でも…いいの?」
    「構わない。ゼラ?」
    以前から戦術部主任を務めるゼラは、
    「万一ナイエン区側で襲来事件が発生しても、クロエと縁がいる。大丈夫だ」
    と太鼓判を押す。分析官のピエリに視線を移せば、
    「キョウトに現れた2体の使者は、単体ならパラドクスレベル3程度と観測されています。
    しかし2体が相乗効果でその影響を広げているため、単純観測では自乗のレベル9、
    という意見も出ています」
    「それってルシフェル事変並みじゃないですか!  ・・・あっ」
    思わず声を出しながらも、失言に気づいて口をつぐむのが管理官のクラウ。
    「いいんだクラウ。移動の手配は?」
    「は、はい、既にALCAの緊急権限でトウキョウ‐キョウト間の路線を確保しました。
    緊急車両もスタンバイまであと10分とのことです」
    「リニアで1時間。すぐに行け。そして―」

    緊急輸送専用のリニア車両に学と乗り込みながら、玉姫はオルガの最後の言葉を思い返していた。
    「そしてできるなら、早く、早く解決してくれ」
    今、世界は使者襲来からやっと解放されたばかりだ。
    ここで再び大きな事件が起きれば、世の中は再び、使者襲来への恐怖から定理者たちを戦いの備えに駆り立てるだろう。
    玉姫自身は、そのことを受け入れてきた人間ではある。
    が、同僚の七星縁の様に、本来やりたい事・今やっていることを強制的に取り上げて戦いに備えさせるのが、決して良い事とは思っていない。
    早く解決しなければ。
    その思いが、思わずフォーリナーカードを収めたケースを握りしめさせる。
    「…それ、新しい子?」
    それを見た隣席の学が、気を紛らわせるためか、そんなことを聞いてくる。
    昔は口を開くこと自体珍しかったのに、ずいぶんと変わったものだと思う。
    「うん、ニコ。モノリウムの子で、清純のニコって言うの」

    話は数週間前に戻る。
    ナイエン区の玉姫と言えば、「じゃじゃ馬慣らしの玉姫」としてALCAにその名は鳴り響いている。
    ジスフィアの竜媛皇珠 小玲を始め、トリトミーのシグマ・ブラスター010やジスフィアの薫花のティア。
    扱いの難しい使者と次々盟約を結んでおり、盟約者の数ではALCAでもトップクラス。
    現在交流のある全ての異世界の使者と付き合いがあり、能力もバラエティに富む。
    ハッキリ言って、世界のALCA各局を見渡しても、そんな定理者はそうはいない。
    「……」
    にも関わらず。
    このところ玉姫は、時間を作っては支局のデータベースを漁ったり、
    あるいは使者たちに話を聞いたりして、「新たな別の使者」を探していた。
    ―すると。
    『玉姫、私では力不足だと言うのですか?』
    いつの間にか、豊かな巻き毛の少女が傍らに立っていた。
    「そうじゃないのよ、ティア」
    『何が違うというのです!』
    愛らしく高貴に整った顔立ちの彼女だから、怒るとなかなかに迫力がある。
    薫花のティアはモノリウムの使者だ。
    モノリウムは力のロジックが全てを決める世界。
    それに、彼女はそもそも、ライバル(と彼女が思い込んでいる)の使者と対決し乗り越えるため玉姫と盟約したという成り行きがある。
    自分の力が足りぬ、と判断されるなど、認められないのだろう。
    「あなたの力は私が一番わかってるわ」
    実際、ティアと合体した玉姫は、モノリウムらしい運動能力・生命力の向上のうえに、藤の蔓を自在に操る力を使い、更に活躍を広げている。
    「でも、あなたにもできないことがあるでしょう?」
    『私にできないことなんて・・・!』
    ティアはちょっと早合点がすぎるところや思い込みの過ぎるところがあるが、けっして愚かな子ではない。
    玉姫の表情を見て、それを悟る。
    『あの時は・・・力になれず、すまなかったわ』
    かぶりを振る玉姫。
    「別に、ティアのせいじゃないもの」
    あのジゼル・サンダースのロジックカードが破損した事件で。
    玉姫は強力な治癒の力をもつテトラヘヴンのヴィーナス、そしてトリトミーのキュア・メディスン119を盟約者に持ちながら、結局何もできなかった。
    「傷つく人たちを救いたい。
    逆理病や使者の襲来に悩まされる人を救う。
    それこそが私の願いだし、
    ううん、正直なことを言うと、私が一番うまくやれる。
    そんな自信だってあったのだけど・・・」
    と、背中からぎゅっと抱きしめられる感触。
    この暖かさと豊かさ、いっそこのまま眠ってしまいそうな心地よさと言えば―
    『ふふっ 玉姫ったら、ずいぶんお姉さんになったのね』
    「もう、ヴィーナス、からかわないで・・・」
    玉姫を豊かな胸元に収めて離さない、妙齢の美女はヴィーナス。
    テトラヘヴンの愛の女神であり、こうしてセプトピアに適応してもその愛らしさ、そして周囲に振りまく過剰な愛情表現は相変わらずだ。
    恥ずかしさからとがめる様に言う玉姫の台詞も、彼女の胸の中では勢いを失ってしまう。
    『自分に出来る事と、出来ない事。
    それがあるってわかるのは、人として大きな成長よ?』
    そしてそのまま、ティアへと目をやると
    『だからティアちゃんも、出来ることがあったら、力を貸してくれると嬉しいな?』
    『・・・』
    ティアの胸のうちで、どんなやり取りが成されたかはわからない。
    だが相当な葛藤があったらしいことは、その表情から見て取れる。
    「―ティア?」
    『わかった。わかったから。私がなんとか、してあげるから』
    「え?」
    『だから― そんな顔をしないでくれる?
    貴女は、この薫花のティアの、盟約者なんですから』

    そんなやりとりの後。
    ティアが自分の世界で、どれだけ周囲に掛け合ったかはわからない。
    相当な苦労が察せられた。
    そもそも、自分の「力」を貴ぶモノリウムという世界で、他者を頼るという行為がどれだけロジックに反しているかは、想像するしかない。
    だがティアは連れてきた。
    モノリウムの、とある草原の果て。
    緑の海の彼方に住むという、ユニコーンの一族。その一人を。
    清純のニコ。
    揺音玉姫の、また新たな盟約者となる少女であった。

    キョウトに到着後、キョウト支局の定理者・五条奏と合流した二人は、そのまま街の人々が避難しているエリアに向かう。
    聞けば、玉姫の妹・聖那が相棒のジゼルと共に今回の事態を引き起こしている使者を撃退に向かっているという。
    そちらに向かいたい気持ちをぐっと抑えて―
    「-学、頼める?」
    「わかった」
    その一言で、光るマフラーを翻し学が走り出す。
    その背中を見送りながら、
    「ありがとう、玉姫さん。
    でも安心してください。ウチのリーダーも、結構やる時はやるんですよ。
    来てるのはどうもジスフィアの使者らしいし、
    だったら私たち、キョウトが一番わかってますからね。
    ちゃんと罠も張りましたから、もしかしたら今頃、もう倒しちゃってるかも」
    「ええ、そうね。だから、私もできることをしなくちゃ」
    「はい、お願いします」

    既に逆理領域から運び出された逆理病の患者たちが、避難所の床に並べられている。
    およそ50人ほどだろうか。体のところどころがモザイク状になり、ロジックの喪失をうかがわせる。
    「既に損傷ロジックの回収は済んでいますが、身体への吸収と定着が追い付いてません」
    「わかった。任せて」
    ひとつ息を吸うと、高々とフォーリナーカードを掲げて叫ぶ。
    「ゲートアクセス・モノリウム!」
    生命の樹を模した樹状魔法陣が輝き、彼方から光の珠に包まれて一人の少女が現れる。
    『たまきー!』
    見たところ、まだ5歳ぐらいだろうか?
    元気いっぱいに駆けてくる、でも時折ちょっとつんのめるような様子がまた愛らしい。
    うすく紫に輝く尻尾と、頭の上からつんと突き出した角が、彼女が人の子でないことを教えてくれる。
    「ニコ、いっしょに、がんばってくれる?」
    『うん、にこ、たまきといっしょにがんばるー!』

    光が収まったとき、玉姫は清純のニコとのトランスチェンジを終えていた。
    頭にはニコのものと同じ、ユニコーンの白く輝く角。
    おなじ色で輝く槍を掲げ、高らかに唱える。

    「『ロジックドライブ!!』」

    玉姫の角と槍が共鳴し、周囲に七色の光を放っていく。
    虹にも似た光が横たえられた患者たちを包んでいくと―
    「!」
    体のそこかしこを蝕むモザイク状のロジック障害が消え、
    苦しんでいた人も穏やかな寝息を立てていくではないか。

    「・・・すごい・・・」
    数々の現場に立ち会ってきた奏だからこそわかる、ロジック障害をも修復する癒しの光。
    これこそは、「力」のロジックに従い壮大なる生命が輝く世界・モノリウムに伝わる究極の癒しの力、ユニコーンの角に秘められた力である。
    「奏さん、次の避難所へ行きましょう」
    「は、はい!」
    次の場所へと先導する奏の背中を追いながら、玉姫は自分の手にした力の手ごたえを感じていた。

    (この、この力ならきっと、喪われたロジックも!)

    だが今は、キョウトの人々を一人でも多く救う時。
    胸に思いを秘めつつ、玉姫は走った。

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  • 揺音聖那 & 懍玲

     揺音聖那 & 懍玲

     揺音聖那 & 懍玲

    揺音 聖那 & 懍玲

    黒雲が空を覆う。
    ひっきりなしに雷鳴が轟き、時折空が輝いては、てんでんバラバラな方向に稲妻が走る。
    『ハッハッハァ! 轟け!吠えろ! アタシの稲妻、たっぷり拝んでいきな!』
    かと思うと、猛烈な風が嵐となって、横殴りに叩きつけて体ごと飛ばそうとする。
    『吹けよ風、呼べよ嵐。ふふっ これほどの凄風、セプトピアにはないでしょう!』
    見上げれば、良く似た黄と青の装束の少女が、翼も無いのに空に浮かんでいる。
    もちろん、ただの少女でないことは見ればわかる。
    黄色の少女は二つ、青の少女はひとつの立派な角を生やし、雷、そして嵐をまとって高らかに笑っている。
    『こうしていれば、面白い事が起きる、ってアイツは言ってたなァ』
    『ええ。私たちを楽しませてくれる相手がいるって、言ってましたけど・・・』
    『なんでもいいや。さあ、楽しもうゼ!』
    黄色の少女が手を振れば、背中に八つの太鼓が現れる。
    手にした五鈷杵の様なバチを叩きつければ、ドドンという音ともに稲光が空を裂く。

    「なにあれ。カミナリ様ってこと? じゃああっちは―」

    急行したトランスポーターから空を見上げる聖那。
    視線の先で、今度は青の少女が、
    『あなたは乱暴すぎるわ。もっと風流になさいな』
    腰に巻き付けた白い帯。これを解くと、たちまち大きな袋になる。
    なったかと思うと更に膨らみ膨らみ、縛った紐を解けば、その口からゴゴウと旋風が舞う。

    『ああ。こっちの―ジスフィアの雷神と風神だ』
    フォーリナーカードが震え、阿修羅―ジスフィアの闘神にして聖那の盟約者―のぼやくような声が響いた。
    『悪ィな、こっちの神格がまた迷惑かけてよ。
     ―おおぃ手前ら! 何やってんだ!』
    「あなたたち、すぐに止めなさい!」
    トランスポーターから降り、声を張る聖那。
    その声が届いたのか、二人の少女は初めて聖那を見た。
    『なんだァ、今イイとこだってのによお』
    『なにやら聞いた事のある声ですね。闘神阿修羅です?』
    「その盟約者、ALCAキョウト支局の揺音聖那。
     すぐに止めないと、世界統一自衛法第7条に基づき実力を行使するわ」
    『アぁん?ナンだって?』
    『ちょっと聞こえなかったです―わ!」
    青の少女が袋をしごくと、猛烈な風が聖那を襲い―
    ―降りたばかりのトランスポーターが巻き上がり、そのまま聖那の上に落ちてきた。
    『アタシはジスフィアの雷神、鳴神』
    『同じくジスフィアの風神、玉風』
    『っても、もお聞こえねぇかなぁ!ハハハハ―』
    二人の笑いは途中で止まった。
    聖那を押しつぶすかと思った車体がゆらり浮くと、二つの宙を飛ぶ拳に支えられ、ゆっくり路上に降ろされたからだ。
    「安全なところへ、早く」
    ドライバーに声をかけ、彼が脱出するのを確認すると、改めて二人を見据える。
    「これが返事ってわけね。いいわ。
     力づくでも、おとなしくしてもらう」
    『手前ぇらちょっと降りてこい。熱いゲンコでおしおきしてやるからよ』
    闘神・阿修羅と合体した聖那は、和風のボディスーツに身をつつみ女性らしい健康的な肢体を見せながらも、優れた格闘センスと強化された身体能力、そして宙を自在に舞う四つの拳を使って戦うALCAキョウト支局きってのパワーファイターだ。
    『ハ! 驚かせんな! 阿修羅だろーと、空飛べないんじゃあケンカにもならね―』
    と胸を張る鳴神のすぐ横を、風を突き破る勢いで阿修羅の拳が飛んだ。
    『-ッ!!』
    『降りてこねーってんなら』
    「無理やり引きずりおろすまでよ」

    とはいえ。
    二人の使者を相手に、独りで戦うのは困難を極めた。
    勝手知ったるキョウトの街を盾に使い、隙を見ては対空ミサイルの様に拳を叩きつけるが、向こうも暴風で身を守り、鞭のごとく稲妻を振らせてくる。
    息の合ったコンビプレイが、聖那を追い詰めていく。
    なにより、愛する街が巻き添えに壊れていくのが、まるで自分の体を傷つけられたように感じる。
    「・・・まだなの?」 
    焦る聖那に、やっと待ちかねた通信が入る。
    「-聖那、こっちはだいたいOKだよ」
    「ありがと、律さん」
    キョウト支局の他のメンバー、律の率いる別動隊は、雷と暴風に囲まれた街から人々を非難させていた。
    異世界から来た使者がこの世界に及ぼす悪影響は、異世界由来の特殊な力で暴れることそのもの、だけではない。
    彼らがこの世界の人間を取りこむ―トランスジャックして世界に現れる時、周囲に己の異世界に合わせて世界を作り変えようとする力が働く。これを「逆理領域」と呼ぶ。
    逆理領域に取り込まれた普通の人間は、程度の差こそあれ、徐々に異世界のロジックに体を蝕まれこの世界のロジックを喪ってしまう。そのまま放置すれば、人格が破壊され、死に至る。
    使者の悪意ある侵入に対し、定理者たちがまずしなければならないのは、逆理領域から人々を避難させることだ。
    幸い、キョウトにはシェルターも充実し、人々の意識も高い。
    時折飛んでくる流れ弾ならぬ「流れ岩」も、
    『カカカっ この程度!』
    律と合体した妖怪・唐笠小僧の番太が広げる、巨大な蛇の目傘ががっちりブロックする。
    「それと、君の相棒の方も―」

    通信を終えた聖那は、宙の二人に背を向けると、小路を抜けて走り出す。
    『あ! おい! 逃げんのかよ!』
    『逃がさない。ふふふ、神を挑発してタダですむと思ってるのかしら』
    細い路地を選んで走ることでこちらを巻こうとしているのか、見え隠れする聖那を追いかける鳴神と玉風。
    『追いかけっこも面白いけどよー』
    『そろそろ飽きましたね』
    鳴神の放つ稲妻をくぐるように、聖那はとある商店街のアーケードを折れ、そのまま大きな建物の中へと逃げ込む。
    『建物ン中なら安全ってかぁ?』
    『とんだ間違いですわ』
    玉風の風が拳となって扉を吹き飛ばし、そのまま後を追う。と。
    ―バチリ。
    『ぐっ』
    入口から伸びる通路をくぐろうとした鳴神を、四方から雷が襲った。
    『・・・雷神のアタシに、雷だと? 効くわけねーだろーがー!』
    腹立ちまぎれに周囲に稲妻を飛ばせば。
    別の通路の先にたたずむ、金髪に和装のドレスを着こなした少女も涼しい顔でそれをやり過ごす。
    「そうかしら。貴女の雷、たいしたことないんじゃない?」
    『まあまあジゼル。鳴神も若い神ですから、仕方ないですよ』
    『んだと!!!!』
    更に勢いを増す雷の雨の中、踊るようにかわして微笑む。
    『ALCAキョウト支局所属、ジスフィアのイカヅチの神、八雷神』
    「その盟約者、ジゼル・サンダース。今日は特別に、アンタと踊ってあげるわ」
    『・・・たま』
    『わかった、なる』
    その一言で決めたのか、鳴神は八雷神と合体した少女・ジゼルを追い、玉風は聖那の後姿を追う。

    ―つまり、見事に分断されたのである。

    『ジゼルさん、気を付けて。ああは言いましたが、単純な力比べなら、鳴神の方が上かもしれません』
    「ちょっと、敗北宣言?」
    通路を駆け抜けつつ、ところどころに稲妻を放つ札を地雷の様に配置。
    鳴神は稲妻そのものにはダメージを受けないが、八雷神の操る「雷」とは。
    『とんでもありません』
    黒雷は天地を暗くし視界を奪い。土雷は鳴神の雷を地面にそらし。伏雷は闇に潜んで稲光を走らせ。
    『「火雷(ほのいかづち)!!」』
    声を合わせるジゼルと八雷神。放つ雷の起こす炎が、鳴神を炙った。
    『うわーっ』
    『雷の扱いにかけては、この八雷神に及ぶ者はおりません』

    セプトピアの建物は、玉風の知るジスフィアの建屋とは違い、硬く、隙間がなく、冷たく。
    彼女の放つ風にいちいち抵抗する。
    だが無駄な抵抗だ。
    風で拳を作って殴りつけてやれば、扉も吹き飛んでしまう。
    だが。
    それをあざ笑うように、あの阿修羅と合体した女はひょいひょいと逃げ回る。
    『いつまで逃げまわるつもり? 闘神阿修羅の名が泣くのではなくて?』
    いらいらするので壁の2、3枚ごと殴りつけてやるが、砕けた扉の破片を縫って、阿修羅の拳が飛んでくる。顔を思わずそらす。が。
    『ぐっー!』
    影から飛んできたもうひとつの拳が、深々と腹をえぐる。
    『・・・・おのれ・・・・』
    視界の端を、女のおさげが消えていく。
    『許さない!!!』

    それぞれを追う鳴神と玉風は、とある廊下の端でぶつかる様に再会した。
    『-なる、ひどい顔。煤けてるわ』
    『うっせー。たま、お前こそ服破けたんじゃねーの』
    視線をかわし、改めてあのナマイキな二人に目にもの見せることを誓う。
    扉の向こうにいるはずだ。
    近づくと勝手に扉が開き、踏み込むと閉まる。
    『誘いこまれた?』
    『かんけーねー ぶっつぶす』
    耳がキンとなって痛む。
    少し息苦しい。
    ついでに、妙に熱い。

    ホールの様になった少し広い部屋の向こうに、あの阿修羅と合体していた女が、別の装束で立っている。
    『鳴神様、玉風様、少しは頭が冷めましたかの?』
    『だれだてめー』
    『また別の者と合体しているのね?』
    『合体しながらで失礼申す。わらわは懍玲。ゆえあって、この者とキョウトを守っておる』
    「いいかげん暴れ飽きたでしょ? おとなしくトランスジャックを解いてくれないかな?」
    『うっせー!』
    『その顔にお返しするまでは、止められませんわ』
    「-しかたないか」
    『一度、痛い目を見てもらうしかないようじゃ』
    聖那の前にある、青く輝く水晶のような八角錐。
    それがひときわ強く輝いたかと思うと、むっ とした熱気が更に高まった。
    「-ロジックドライブ」
    『「驚烈超火球!!!」』
    そのまま蒼い火の玉となって、鳴神と玉風に向かってくる。
    『バカね、こんなもの!』
    風の壁を作って弾き返そうと風袋を膨らませるが―妙に手ごたえがない。
    「気圧が落ちてるの、わかる? 当然、風の力も弱まるってわけ」
    気圧、というのが何のことだかはわからなかったが、風が薄くなっているのはわかった。
    『どけ、アタシの雷で!』
    だが放つ雷は、あらぬ方向へと飛ぶ。その先にはあの雷女が札を持って立っている。
    「なんかね、気圧の低くなったところでは、放電しやすくなるんだって。
    勝手に雷が出ちゃうから、うまく操るのは難しいみたい。
    ま、私たちは楽勝だけど―
    あんたには無理みたいね」
    『てっめええええ!!!!』
    『なる、ダメ!!!』
    火の玉が二人を直撃するのと、無理やり束ねた風が天井を吹き飛ばすのは、ほとんど同時だった。

    「で? 鳴神と玉風だっけ? 逃げちゃったの?」
    「-ゴメン、平さん」
    聖那とジゼルの奮戦によって、鳴神と玉風はトランスジャックを維持できなくなり、取り込んだ人を解放してどこかへと逃げたようだ。
    逆理領域も消え、青空が戻ったキョウトではシェルターから出てきた人々が笑顔を取り戻している。
    通信の向こうで、支局長代理の平もほっとした返事を返す。
    「ま、しょうがないよ。あとは調査部に任せて、いったん戻ってこいや」
    「-いや、まだそこらにいるかもしれない。私はちょっと探してみる」
    と聖那が答えると、
    「私はリハに戻らせてもらうわ。抜け出してきたんだからね、取り戻さないと」
    とジゼルも答える。
    二人は視線を交わし、
    「ありがとねジゼル。ライブ、楽しみにしてるから」
    「ハイハイ、じゃあ私が集中できるように、なるべく呼び出さないでね」
    ふっ、と笑みを浮かべると、反対方向に向けてそれぞれ歩き出した。

    「ちょっとー! お兄さんの指示、たまには聞いてくれても良くない?」

    後には平のいつものボヤキが残された。

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  • 当麻芽路子 & ヒュプノス

     当麻芽路子 & ヒュプノス

     当麻芽路子 & ヒュプノス

    当麻 芽路子 & ヒュプノス

    帰宅して部屋に戻ると―
    ―知らない少女が寝ていた。

    「・・・これ何てギャルゲ?」

    芽路子は、とりあえず部屋の電気を点けると(同時に端末の電源も立ち上げる)
    椅子に腰を落ち着けて、ゆっくり深呼吸してみた。

    (うん、落ち着いている。さすが私)

    異世界から来たやたら陽気な死体(得意技・呪殺)に憑りつかれて高い所から落ちてみたり。
    異世界から来たやたら面倒見よすぎる蜘蛛型ロボに押し掛けられ高い所から落ちてみたり。
    異世界から来たやたらギャルな鬼娘にズッ友とか懐かれて高い所から落ちてみたり。
    異世界から来たやたら明るい死神に死に方を選びましょ?と高い所から落ちてみたり。

    (フフフ、いまさら幼女の一人や二人で驚かないわ)

    今までのアレやコレやを思い出しては、昏い笑みが浮かぶ芽路子。
    ちなみに彼女は高所恐怖症なのである。

    さて改めてベッドの上を見てみれば。
    小学生ぐらいだろうか。
    赤いくせっ毛をざっくりショートにまとめ、頭にのった青いベレー帽が良く似合っている。
    羊だろうか?ふわふわとしたぬいぐるみをクッションにして抱き込み、
    それはそれは気持ちよさそうに熟睡している。
    白いベッドの中心で、猫の様に体を丸めた姿は、まるで1枚のイラストの様だ。

    ・・・

    そのまましばらく見ていたが、起きる気配は、ない。
    起こした方がいい。お前は誰だ、と問い詰めたい。
    何処から来たの? ってか、どの異世界から来やがったの?
    いやもう、何処から来たんでもいいから、すぐに帰ってほしい。

    (私だって寝たいんだし!)

    お気に入りのベッドなのである。
    以前のアジトを引き払ってこっちに移った時、ついでにベッドを買ったのだ。
    実際の寝心地を試すため、出不精の自分を奮い立たせ、
    寝具店・家具店を回りお節介な店員を眼力で排除。
    ひとつひとつ確かめて選び抜いた、至高の逸品なのである。

    ・・・あ、よだれ。

    可愛らしいものではあるが、流石に我慢ならぬ。
    芽路子は敢然と立ちあがり、少女の肩に手を掛けた。

    「ちょ、ちょっと! あんた、人の部屋で、何寝てんのよ!」
    『・・・』

    返事がない。ただのようじょのようだ。(ムカッ!)

    「うあー もう! 起きろ!起きろっての!!!」
    頭にきた芽路子は、さらに激しく少女をゆすり、大声で起きろと叫ぶ。
    すると流石に。

    『・・・・』
    まぶたを開くと、青色の瞳がきらっと輝く。確かに美少女だ。ほんとゲームみたい。
    「あんた、どこの誰? なんで勝手に私のベッドで寝-むぎゅっ」
    少女は抱きしめていた羊クッションをつかむと、それで芽路子を叩く。叩く。叩く。
    別に痛くはないが、顔を狙ってくるので喋れない。
    「ちょ、ちょっと止めなさい、止めなさいよ!」
    『お前。死ぬか』
    可愛い顔の可愛い唇から、なかなか物騒な台詞が出てきた。
    『人間のブンザイで神の眠りをジャマするとか。死ぬか。死ぬのか。死にたいのか』
    「へ、へぇ、神サマでしたか」
    そう言われても、もはや驚かない芽路子である。神様なら知り合いがいる。
    『そうだ。わかったか。わかったら邪魔するな。オヤスミ』
    と言って再び寝転がろうとする自称神サマを慌てて止める。
    「ちょっと! その神様が、なんで私のベッド占領して寝てるのよ!」
    『先ほどから軽々しく神の体に手をかけおって・・・ 殺すぞ。
     タナトス! ターナートースー!』
    すると、芽路子の懐、フォーリナーカードが震え、勝手に宙に浮きあがると光を放った。
    『はーい、タナトスさんですよ。こんばんわー』
    あたかもスマホの様に、異世界テトラヘヴンにいるはずの死神・タナトスの声が響く。
    「『タナトス。こいつなんとかしろ(して)』」
    面白いことに、芽路子と少女の声がユニゾンした。
    『まあまあヒュプノスちゃん。芽路子さんはただいま、私と共に楽しい終活中なので』
    「してない。終活してない」
    『そのうち死にますから、待っててくださいね?』
    「しばらく死なないから!死ぬ予定ないから!」

    やはりというか、案の定というか。
    芽路子の盟約者のひとりであるタナトスが説明するに、
    この少女も同じくテトラヘヴンの、安眠と微睡みを司る神ヒュプノスだという。
    芽路子と盟約し、この部屋に転がり込んだタナトスが、
    そのベッドの素晴らしさをうっかり茶飲み話で持ち出したのが、きっかけらしい。
    興味を持ったヒュプノスが、わっざわざゲートをこっそり開けてその寝心地を確かめにきた。そして今に至る。

    『お前、寝床を選ぶセンスはいいな。ニンゲンにしては。
     さっきの無礼は許してやる。喜べ。じゃあな。ふわああ』
    と言って再び寝ようとするものだから、
    「ちょっと! 返せ! 返して! 私のベッド!!」
    『うるさい。安眠妨害。黙れ』
    「私どこで寝るのよ!」
    『床ででもどこでも寝るがいい』
    「私のベッドよ!!」
    芽路子は、無理やり自分もベッドにあがって取り返そうとする。
    『お前、やめろ、狭いじゃないか』
    「いやならあなたが出なさいよ」
    『断る』
    「ちょっと、枕返しなさいよ」
    『イヤだ』
    ベッド上で今、神と人との極めてしょうもない争いが始まるところだったが。
    『じゃあ、合体しちゃったら?体がひとつになるから、ちょうどいいんじゃない?』
    タナトスのこの馬鹿な提案を受け
    『なるほど、死神にしては良い案だ』
    「・・・はぁ?!」
    『さ、合体するぞ』

    ALCAに未登録の非合法な定理者とはいえ、
    ここまでしょうもない理由で合体を迫られるのは自分ぐらいだろうな、と芽路子は思った。

    しばしのち。
    大騒ぎしてドタバタやったせいか、すっかり目が冴えてしまった彼女は、
    ウェブにアクセスして日課の巡回を始めていた。
    ちなみにヒュプノスの方は、ちゃっかりベッドで寝ている。
    寝ている姿がホントに可愛らしいのがまた頭にくる。

    と、メーラーが着信を伝えてきた。ビデオメールだ。

    「-またあの子か」

    気が進まないながらも、仕方なく、ビデオメールを再生する。
    ウィンドウの中で、銀髪の美少女が微かに表情をほころばせながらしゃべり始めた。

    「――というわけで、私にも、友達と呼べる人ができました。
     ぜひメジィさんにも紹介したいのです! お願いします。お待ちしています」

    今でも、決して表情豊かというわけではない。
    破顔一笑、という感じではない。
    しかし随分可愛らしい表情をするようになりやがったなー、とは思う。
    あの時は、窮屈そうな軍服みたいなグレーの制服を着ていたが、今は可憐なブレザー姿で胸元の赤いリボンが良く似合っている。
    本人が言うように、学校で、良い友人ができたのだろう。

    「美少女はいいよねー」

    思わず口に出していたらしい。すると。
    『いやいや、メジもけっこイケてっしょ! マジで!』
    テンション高く答える声が響く。
    と同時に、また別のフォーリナーカードが光り、ピンク髪に着崩した風の和服というド派手な少女がそばに現れた。
    彼女の名前は鬼道丸。こう見えて、ジスフィアから来た鬼娘。
    使者で、芽路子の盟約者で、そのうえ
    『ズッ友のアタシがホショーするし?』
    芽路子のズッ友でニコイチだ。ただし自称。
    「・・・・」
    声にならない返事とジト目を送るが、鬼娘は全くそれを理解せず
    『だーいたい、メジにはアタシらがいるじゃーん!
     さびしくナイナイ。うりうり!』
    何を勘違いしたか、背中から絡みついてきた。重い。
    しかも手には、チョコ塗りポテチなる罪深いお菓子を持ちもっしゃもっしゃ食べている
    『ほらほら、メジもポテチ食う?ウマいよ?』
    口の前に突き出されたそれを、悔しいのでぐわっと噛みつかんばかりに食ってやった。
    しょっぱさと甘さが交互に襲ってきて、いつまでも食べ飽きないという恐るべき菓子である。糖分と塩分と油分、ついでにジャガイモのでんぷんとまあ乙女の敵なのだが。
    「――貰ったの私だってのに、勝手に食べやがって」
    画面の向こうの、銀髪の美少女がたまに送ってくれるのだ。
    こっちはろくにメールの返事もしないのに、ちょっと申し訳ない。いやかなり。

    あの連続使者襲来事件のただなか。
    ALCAに逆恨みで復讐してやろうと研究所をハッキングした芽路子は、偶然にもあの少女と出会った。いや映像を介してだが。出会ってしまった。
    行きがかりで彼女の説得に負けて、研究所内の暴走したシステムを回復、復旧への手助けをさせられてしまった。
    その時のことを、彼女は随分恩に感じたらしく、たびたびメールを送ってくる。
    そうそう、最初のころは、ALCAの実働部隊から外されて学校に通わされた、と押し殺した怒りがダダ漏れのメールを貰ったことを覚えている。
    割と適当に、同意と相づちだらけの返事を戻した気がするのだが、向こうはなんか嬉しかったらしい。

    『メジ、ポテチなくなっちゃったよー』
    「そりゃ、食ったらなくなるよね」
    『もっと無いのー?』
    「ここらじゃ売ってない。ホッカイドウの名物なんだよ。お取り寄せって奴だね」

    ほとんど脊髄反射でブラウザをなぞると、通販サイトが商品と料金を表示する。
    ウィンドウの横では、開きっぱなしのメールが添付ファイルの存在を主張する。
    ホッカイドウへのデジタルチケット(宿泊付き!)に、ついでにピラリ学園とやらの体育祭への招待状がついている。

    『へー メジ、ホッカイドウまでポテチ買いに行くの? いいね、たくさん食おう!』
    「はァ? な、なにを」

    思わず変な声出た。

    『ポチっとな。アタシにもわかるよ、へへん、これでチケット受け取りなんだろ?』
    「ば、ばかばか、受けとるなぁ!」

    受け取ったら、受け取ったことが相手に伝わるじゃないか。
    ご招待を受け取ったことが、伝わっちゃうじゃないか。

    『りょっこう、りょっこう、みんなでりょっこう、イエー!』
    「イエー!、じゃないよ!」
    『ホッカイドウで何食べる? 他にどんなデザートある? 楽しみー!』
    『ホッカイドウには、どんな自殺の名所があるんでしょうか。わくわくしますね』
    「わくわくしないよ!ってかタナトス! 出てくんな!」
    『うるさい。寝てられない。ホッカイドウだかなんだか知らないが、とっとと行って』
    「あんたも帰れぇ!」

     どうして私の使者どもは人の話を聞かないやつらばかりなのか。
     不幸だ。
     ちくしょう。
     みんな呪われろ。

     ・・・

    鬼道丸が首根っこにつかまってぐらんぐらん揺らすものだから、止まったままのビデオメールが視界に入る。

    そんなに、友達って、いいもんだろうか。

    画面の向こうで、少女がふわりとほほ笑んだ。

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