キャラクター&ストーリー

ジスフィア

  • 羅刹

    羅刹

    剣の道を極めたい武芸者。
    ジスフィアからセプトピアに来たのも、武者修行の一環。
    ただし暴れ者ではなく、戦う場所と相手は求めるが無関係な者を傷つけることに意味は無いと考えている。

     剣 美親 & 羅刹

    交わる求道者の刃、さらなる高みへ

    定理者と盟約者は必ずしもはじめから仲間だとは限らない。
    羅刹が初めてセプトピアに降臨した時、彼は剣美親の敵だった。

    羅刹は数々の伝説を残すジスフィアの鬼族の異端児。
    六本の腕を有した羅刹は二歳の頃から剣術に強い関心を示し、
    五歳の頃には六本の腕それぞれに異なる流派の剣技を体得。
    十歳の頃には六つの剣技を駆使した独自の流派『六鬼流』を以って、
    たった一人で幻龍を討伐したと言われている。

    羅刹は常に渇き続けた。
    さらに自分を高める為、多くの強者狩りを重ね、
    死線をくぐり抜けながら、己の腕を磨いていたのだ。

    彼にとっては『剣術の追求』こそが全て。

    そんな折、セプトピアとモノリウムの抗争が勃発。
    羅刹はこれを好機と捉えた。
    ジスフィア以外の世界ならば、さらに未知の強者が存在しているに違いないと考えたのだ。
    羅刹は狩場を求めて、セプトピアへとやってきた。

    そんな彼には揺るぎない三つのロジックがあった。

    《その一、決して群れない》
    《その二、格上と判断した相手にしか刃を向けない》
    《その三、相手の命を奪うことはしない》

    彼はセプトピアの人間を媒体にトランスジャックしては、
    モノリウムの屈強な獣たちを相手に敗北知らずの戦いを重ね、その腕を磨いていった。

    そんな彼が初めて敗北することになったのが、一人の若き定理者だった。
    額には鉢巻き。
    ジスフィアのサムライの戦闘服を着こなし、刀を肩に担いだ剣美親だ。

    なぜか母世界ジスフィア由来の装具に身を包んだ若者に対し、
    羅刹は一抹の疑念を抱いたものの、
    襲いかかってくる美親をかわし相手にしようとはしなかった。

    「なぜかかってこない……?」
    『……格下の相手に刃を向けるつもりはない』

    しかし羅刹にその気がなくとも、美親には戦う理由があった。
    羅刹にトランスジャックされた人間を救う為だ。

    本気を出さない羅刹に対し、果敢に挑む美親。
    そんな戦いの最中で美親はみるみる成長し、やがては羅刹の剣技を上回って討伐したのだ。
    羅刹は初の敗北に辛酸を舐めた。
    しかし不思議と清々しい気分でもあった。

    『思い残すことはない……斬れ』
    「……それはできない」

    どんな悪しき使者であろうとも尊い命を奪うことはしない
    信念を掲げていた美親は羅刹を捕獲。ALCAの監獄へと移送させた。

    捕虜になった羅刹がその後、美親に盟約を申し入れるまでそれほど時間はかからなかった。
    彼にとってみれば初の敗北相手である美親と共に
    戦場で剣の腕を磨くことは、この上ない悦びでもあったからだ。

    一方の美親がそんな羅刹の申し出を快く受け入れた理由はただ一つ。
    《相手の命を奪うことはしない》
    という羅刹のロジックに共鳴したからだった。

    が、美親と羅刹の出会いが、哀しき運命の序章であったことを知る者はいない──。

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  • 緋華

    緋華

    ALCAに協力する為にジスフィアからやってきた、女サムライ。
    かなり高い剣技を持ち、若いがいろいろと修羅場をくぐってきた人物。
    普段は柔和な表情を浮かべているが、戦いの際は目つきが鋭くなる。

     剣 美親 & 緋華

    ぶつかる信念、通じ合うロジック

    剣美親は世界各国に存在する定理者の中でも稀有な能力を有する若者だった。

    無限の精神的キャパシティ。
    圧倒的な肉体的忍耐力。
    そして何よりも己の信念を曲げない意志の強さは、
    まさに天が授けた定理者の申し子。

    中学生の頃、定理者の能力が開花し、
    ALCAホンコン支局に所属することになった美親は、驚くほどの速さで戦術論を吸収。
    まさに期待の大型新人だった。

    ホンコン支局長は早速、彼に最も相応しい盟約者を選定。

    白羽の矢が立ったのは、ジスフィアからALCAの加勢に参じていた
    国士無双の女サムライ、緋華。

    緋花は封刀「神楽」を携え、ジスフィア随一の高い剣技と生存力で
    若い頃から死線をくぐり抜けてきた猛者だった。
    その才を買われ、異世界間紛争の火消し役として特級外交官の任を務めていたのだ。

    普段は呑気で柔和な表情を浮かべている緋華だが、
    時折見せる眼光の鋭さは目を合わせた者を畏怖させ、
    戦意を大きく削ぐ力を宿していた。

    ホンコン支局長の采配によって、美親と緋華は盟約を前提とした接見を行うことになった。

    「はじめまして緋華さん。あなたと盟約できるのならとても光栄です」
    『……茶番だな。あなたは私の何を知っているというのだ』

    本来、盟約とは定理者と使者が互いのロジックを信頼し合い、
    その命を預け合う契りを結ぶことである。
    当然その相手の選定は慎重でなければならないのだが、
    美親は支局長の采配に身を委ね、緋華との盟約を安易に受け入れようとしていた。

    緋華は、美親が盟約の重みを侮っていると感じ、彼を試していたのだ。

    『守れない契りは交わさない……それが私の信条でね』

    緋華は眼光鋭く美親を見据え、彼の意志を試した。
    しかし美親は緋華から目を逸らすことなくジッと見つめていた。

    普通の相手ならば即座に畏怖してしまうであろう彼女の眼力が、彼には通じなかったのだ。

    「すみませんが、議論している時間はないんです……
     使者はいつこの街を襲ってくるか分かりません。
     いつこの街を、この街の人々を、壊してしまうか分からないんです……
     俺はこの街を守りたい……子供たちの夢を守りたいんです!」

    美親の言葉が緋華の心に深く刺さった。
    彼女の唯一にして最大の弱点──それは彼女が何よりも子供が好きであり、
    子供を守る為となると冷静さを欠いた無謀な戦い方をしてしまうところがあった点だ。

    「緋華さん。あなたは俺のロジックを受け入れてもらえますか?」

    この時、緋華の美親を見る目は百八十度変わった。

    盟約を侮っていたのは彼の方じゃない。むしろ自分の方である、と──。
    そして美親はこの若さにしてすでに、揺るぎない意志の力を持っている、と──。

    緋華は思わず口元に笑みを浮かべた。

    後に一つの伝説を築き上げることになる
    定理者、剣美親の初めての盟約はその瞬間、成立した──。

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  • 竜媛皇珠 小玲

    竜媛皇珠 小玲

    ジスフィアの竜族の姫。
    一族の掟に従い、嫌々ながらセプトピアに修行にやってきた。
    が、ALCAに到着してからもワガママばかりで周囲を困らせていた。
    そこへ玉姫がお姉さんとして懐柔。見事になついている。

     揺音 玉姫 & 竜媛皇珠 小玲

    新たな時代へ…

    厚い雲に覆われていた空から陽光が差し始めた。
    それはまるで、ALCAの作戦が成功したことを人々に知らせるかのようだった。
    各避難所で不安な日々を過ごしていた人々は、ふと手をとめて、
    天使の梯子のような光の柱を見つめた。
    ナイエン区から遠く離れた、とある高台の療養施設でも、
    心配そうに街を見つめていた一組の男女が、

    『希望の光のようですね……』
    「うん……」

    と、手を取り合っていた。

    「晴れてきたね……」
    『そうですね……』

    キュアと合体している玉姫も研究所内の窓から降りそそぐ陽光を眩しそうに見つめた。
    作戦は終焉に近づいていた。
    ゲートカードの暴走は停止。
    定理者たちは残る使者たちの掃討に動いていた。
    玉姫とキュアは逆理病者の救助を手伝いつつ、戦う仲間たちの救護に務めていた。
    (ここにもいない……)
    玉姫は逆理病者の中に、ヴェロニカの姿を探していた。
    新型ゲートカードを託された直前まで、
    玉姫はヴェロニカと一緒にこの研究所にいたのだ。
    その後、連絡は途絶え、一連の騒動に巻き込まれた可能性が高い。
    ヴェロニカのことだ。そう易々と、犠牲になることはないとは思うが――。
    今も、見つからない現状に、玉姫は不安を覚えつつあった。

    「た、タマヒメ……」
    「!!」

    振り返ると、戦闘で傷ついたクロエがやってきて、膝から倒れた。

    「さっき倒したヤツに毒があったみたい……」
    「大丈夫。お願いキュア」
    『はい!』

    玉姫は薬剤の入ったグレネード弾をクロエに向かって発射する。
    薬剤によって毒が中和され、クロエの体力が回復した。

    「サンキュー……これでまた戦える……」
    「ダメよ! 体力の回復は一時的なものなんだからちゃんと休まないと!
    今、救護班に連絡するわ」

    その時、不気味な唸り声が響き渡り、
    あらゆる計器がパラドクスレベルの急上昇を伝える。
    ズシンズシンと、足音を響かせ、巨大な鬼のような使者が近づいてきた。

    「ラスボスって感じだね……」

    立ち上がろうとするクロエを制する玉姫。

    「ここは私に任せて」

    玉姫はキュアとの合体を解除し、ゲートカードで小玲を呼び出した。

    『待ちくたびれたぞ』

    長らく呼び出されなかったことが不満なのか、頬を膨らませる小玲をなだめる玉姫。

    「それなりの強敵じゃないと、小玲を呼ぶわけにはいかないから……」

    自尊心をくすぐられ小玲はニンマリ。

    『仕方ない。わらわが力を貸してやろう』

    そんな話をしている間に、敵は間近に接近していた。
    唸り声を上げ、巨大な拳が玉姫と小玲に襲いかかる。
    合体しながら攻撃を躱した玉姫と小玲。
    空振りした敵の鉄拳で、床が大きくえぐれている。

    『馬鹿力じゃのう。どーれ、小手調べじゃ!』

    玉姫と小玲は敵に雷撃を放つ。
    敵は避けようともせず、雷撃を身体に受け止め、平気そうにニヤリと笑う。

    「さすがラスボス……」
    『なんじゃラスボスとは?』
    「最後の強い敵ってことよ」
    『なに最後!? ならば、今やらねばあの技は当分使えぬではないか!』

    焦ってロジックドライブと放とうとする小玲を止める玉姫。

    「いや、もっと敵を観察したあとにしましょう!」
    『ならん! 今じゃ!!!』

    ―そんなワガママを、とは思いつつ、素早く状況を確認する玉姫。
    研究所の廊下いっぱいにせまる巨体。腕力が強く、そしてタフな様だ。
    だが背後にはキュアと、治療したばかりのクロエがいる。
    彼女たちをかばいながら逃げるのは難しいだろう―

    「いいわ、やりましょう!!!」

    覚悟を決めた玉姫は、小玲とその技を叫ぶ。

    「『ロジックドライブ! 天竜凛雷陣!!!』」

    ロジックドライブ「天竜凛雷陣」――。
    それは、従来のロジックドライブであった「怒竜激雷陣」のグレードアップ版だ。
    玉姫と小玲を中心とした直径数十メートの範囲内に、無数の雷が降り注ぐ。
    以前の「怒竜激雷陣」は雷をコントロールしきれず、
    敵味方の区別なく攻撃してしまうこともあり、自爆に近い技であったが、
    「天竜凛雷陣」は違う。

    『「うおおおおおおッ!!!!」』

    成長した玉姫と小玲は、無数の雷を見事にコントロールし、敵に集中させる。

    『!!!!』

    雷の群れの前に身動きができず、敵はただそれを受け止めるしかなかった。
    雷の威力も以前の比ではないほど凄まじいものだった。

    『どうじゃ!!』
    「まだよ!!」

    しかし、敵は苦しみながらも笑みを見せ、雷撃に耐えていた。
    ここからは我慢比べだ。
    玉姫と小玲のロジックが敵を上回るか、敵の精神と肉体が耐えられるか――。

    『わ……わらわは竜族の姫なるぞッ!!!』

    小玲はますます雷の出力を上げていくが、敵はしぶとく耐えている。

    「―小玲、任せて」

    そう言うや否や、雷が止む。

    『玉姫!』

    悲鳴のような小玲の声が響く中、笑いを浮かべたままの鬼は大きく踏み出し、
    うつむいた玉姫にむかってその拳を振り上げる―その瞬間。
    使者に向かって顔を上げると、玉姫はあえて柔らかく微笑んだ。
    ふわりとした空気。
    その直後、玉姫の前方、拳を振り上げたままの鬼を飲み込んで、雷の嵐が吹き荒れた。

    「もう、誰も傷つけさせたりしない!」

    わずか一歩、わずか一振りとはいえ、耐える姿勢を崩した鬼は不意をつかれ、
    雷に耐える力を失っていた!
    断続する雷撃を前に敵はついに力尽きた。
    ホッとして合体を解除すると、玉姫にオルガから通信が入った。
    それはヴェロニカが発見されたことを知らせるものだった。

    「無事なの!?」
    「足を骨折してるが、ピンピンしてる。
    自分が指揮をすれば、もっと早く解決できたってさんざん怒られた……」

    思わず苦笑いを浮かべる玉姫。

    「私とキュアも治療を手伝いにいくわ」
    「俺のロジックが聞こえる―
    戦闘を終えた直後のお前が、体力を消耗している確率は100%だ。
    無理はするな」
    「平気よ」

    通信を切り、玉姫はキュアと小玲に目を向けた。

    『どんなもんじゃ!』

    「えっへん」と胸を張る小玲にキュアが瞳を輝かせていた。

    『すごいのですね小玲さんは! 憧れるのです!』
    『なかなか見どころのある娘じゃ。わらわの侍女にしてやってもよいぞ』
    『ジジョ? 長女はどなたなのです?』
    『姉妹の次女ではない! 侍女じゃ!!』
    『へ???』

    小玲とキュアのとぼけたやりとりを微笑んで見つめる玉姫。
    (困った「妹」たちね……)

    「新型のゲートカードが上手く使えるようになったら、
    異世界のみんなと自由に会えるんでしょ?
    なんだか賑やかになるなあ……」

    クロエがふとつぶやいた。
    異世界同士の交通を自分たちで完全に管理できるようになれば、
    この世界はきっと平和になる。
    けど、戦う理由がなくなった時、
    私たち定理者とその盟約者はどうなってしまうんだろう――
    玉姫は新たなる時代がやってくる予感を覚え、すっかり晴れ渡った空を見つめた。

    (――これから私たち何をすべきなんだろう?)

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  • 神曲乙姫

    神曲乙姫

    竜宮城の乙姫さま。
    後を継ぐはずの竜宮から出奔。セプトピアにやってきた。
    幼い頃より歌舞音曲を仕込まれ、踊りは美しく弦の響きは妙なる調べ。
    だが……致命的に歌が下手である。

     揺音 玉姫 & 神曲乙姫

    寄せる想いが奏でる奇跡の旋律

    その日、ナイエン区セントラルエリアの路上には美しい琵琶の音色が鳴り響いていた。

    道行く者たちがその調べに心洗われ、うっとりと耳を傾けている。
    琵琶の演奏者は気をよくすると、琵琶の演奏に乗せて自慢の歌を披露した。
    ところが歌い始めた途端、路上の聴衆たちは逃げるようにその場を去っていく。
    その演奏者・神曲乙姫は琵琶の演奏においては天才的だったのだが、
    歌声に関しては壊滅的なまでに音痴だったのである。

    『なんとか人並みに歌えるようにならないかしら……?』

    が、そんな神曲乙姫に向かって拍手する若い女の子がいた。
    ALCAのオフの日に買い物に出かけていた揺音玉姫だ。

    「あなた……使者よね? なんでこんなところに……?」
    『……ちょっと、家出を』

    神曲乙姫はジスフィアの竜宮城に住む人魚の乙姫さまだった。
    竜宮城の後継者でありながら他の人魚たちの中で唯一音痴だった神曲乙姫は、
    居心地の悪い日々を過ごしていた。

    そしてセプトピアがモノリウムとの争いを起こしていることを利用し、
    セプトピアの仏閣を守るという大義名分のもと、竜宮城を一時的に飛び出していたのだ。
    竜宮城を継ぐまでには音痴な自分を改善したい……それが彼女の切実な想いだった。

    「……大変だね。竜宮城の乙姫さまも」

    その時、ALCAの警報が鳴り響く。
    セントラルエリアにモノリウムの使者が襲来したのだ。

    「近い……乙姫さん! すぐに安全な場所に避難して!」
    『え……貴方はどちらにっ』
    「任せて……私が守るから!」

    すぐに盟約者と連絡を取って合流した玉姫は、合体して使者との戦いに臨んだ。
    しかし相手も手強く、簡単には決着がつかない。

    神曲乙姫はそんな玉姫と使者の激しい戦いを物陰で見つめていた。
    自分とそれほど変わらない年頃の女の子が、
    傷付きながらも町の治安を守るために戦っている姿から目が離せずにいたのだ。
    やがて仲間の定理者たちが駆けつけ、無事使者を討伐することに成功する玉姫。
    神曲乙姫はそんな玉姫の姿に心打たれた──つらいのは自分だけではない。
    どんな困難な宿命であろうとも逃げずに戦っている女の子たちがいる。

    それ以来、神曲乙姫は路上で琵琶を弾いて歌の練習をしては、
    町中で戦う玉姫の姿を遠くから応援する日々を送り続けた。

    玉姫の一生懸命さとひたむきさはその度に神曲乙姫の心を打ち、
    彼女は玉姫に想いを馳せながら、無意識の内に琵琶で新たな曲を弾き始めていた。

    それから数日後、ALCAナイエン支局に、揺音玉姫との盟約を志願する使者が現れた。

    その時、使者が手土産に弾いた曲は、
    この世のものとは思えないほど美しい旋律だったという──。

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  • 阿修羅

    阿修羅

    情に厚い熱血系。
    趣味は鍛錬で、絶えずトレーニングを欠かさない。
    盟約者である聖那すらも把握できないところで、こっそり勝手に鍛錬を積んでは新しい武器や技を開発する戦闘マニア。

     揺音 聖那 & 阿修羅

    聖那、はじめての戦い

    『おい聖那! 聞いてるか!?』

    地鳴りのような阿修羅の声が、耳元で響く。
    しかし、揺音聖那はその声に応えることができなかった。

    目の前には逆理領域が広がり、
    見慣れたキョウトの街が砂漠のような光景に変わっていく。
    そして砂嵐の中を巨大な人影が迫ってきていた。
    敵――モノリウムの使者だ。

    阿修羅と合体した聖那は戦場に飛び込んだ瞬間、頭の中が真っ白になった。
    足は震え一歩も動けない。
    聖那自身も、敵を前にして臆する自分が信じられなかった。

    定理者の適応を判定され、
    聖那がALCAキョウト支局へ召集されたのは一ヶ月ほど前のことだ。
    突然の召集にも拘わらず、聖那に戸惑いはなかった。

    二年前に姉の揺音玉姫も同じくALCAの召集を受けていた。
    憧れの姉と同じ定理者になれることに、「やっときた!!」と喜びの感情が勝っていたからだ。

    元々身体を動かすことが好きだった聖那は訓練でメキメキと頭角を現し、
    周囲は「さすが揺音玉姫の妹だ」と囃し立てた。

    聖那自身も「定理者としてやっていける!」と手応えを感じていた。
    何度も戦闘シミュレーションを重ね、今日に備えてきたのだ。

    いつ訪れるか分からない初出動に、
    むしろ胸を躍らせワクワクと心待ちにしていた――そのはずだった。

    だが、現実は残酷だ。
    巨大で凶暴な敵を前にしては、聖那はただのちっぽけな少女でしかなかった。
    昂ぶった気持ちは萎えて、高鳴る鼓動で本部から指令も何も聞こえない。

    「助けて……お姉ちゃん……」

    そうつぶやいて聖那は固く目を閉じた。

    姉の玉姫は、ナイエン支局で定理者のリーダーになったと先日手紙で知ったばかりだった。
    (いつかお姉ちゃんみたいなリーダーになりたいと思っていたのに……)

    聖那は恐怖に震える自分の不甲斐なさを嘆き、目には涙がたまり始めた。
    阿修羅の声がふいに耳に入ったのはその時だ。

    『おい、六手拳でいこうぜ!! って!!』

    「……え?」

    聖那は呆気にとられ、ためていた涙を流すのを忘れてしまった。

    『俺たちのロジックドライブ――必殺技だよ! まだ名前考えてなかっただろ?』

    ビビっている聖那のことなどお構いなしに、
    阿修羅はただそれを伝えたいがために耳元でがなり続けていたのだった。

    それが分かった瞬間、聖那は呆れて、金縛りのような緊張が解けていった。
    肩の力が抜け、身体が軽くなっていくのが自分でも分かった。

    ジスフィアの神・阿修羅――初対面の時、聖那は阿修羅を見るなり、盟約者になる運命を感じた。筋肉ムキムキの大男でいかつい見た目なのに、
    昔からの友人といるような不思議な居心地の良さを阿修羅から感じていたのだ。

    (まるでこんなふうに阿修羅に助けられるのが分かっていたみたい……)

    聖那は自分の先見の明にクスッと笑い、「うん、それで行こ!」と明るく声を弾ませる。
    『応!』と阿修羅の地鳴りのような声が耳元でまた響いた。
    敵はすぐ目の前に迫っている。
    聖那はキッと表情を引き締めた。先ほどまで怯えた少女の姿はない。

    『「ロジックドライブ!! 六手拳!!」』

    二人の声が重なると同時に、聖那は敵に向かって大きく跳躍していた。

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  • 煌煌

    煌煌

    偶然開いた門を通じ、セプトピアにやってきたキョンシー道士。
    快楽主義者で、面白いことなら周囲を巻き込んで自爆を辞さない困ったちゃん。
    芽路子と出会ってからは彼女と遊ぶのが楽しくなってしまい、今のところ帰る気が無い。

     当麻 芽路子 & 煌煌

    最強の傍観者

    爆発、炎上、混乱する街、人々の悲鳴。
    (……危ない危ない、早めに避難しといて正解正解)
    と、芽路子は騒ぎが起こりはじめた頃から既に安全な場所に避難していた。
    何かあった時に逃げ込む場所は、ずっと前から確保している。
    それは幻の地下鉄の駅。
    工事されて完成していたものの、どういう理由かわからないが、
    使われることのなかった駅だ。
    存在を知る者も、ここにやってくる者もいない。
    芽路子だけが知る秘密のセーフハウスだ。
    避難生活をはじめて3日が過ぎたが、そこは平和そのものだった。
    芽路子が呪いたいと思う人間も、使者も現れない、心穏やかな静かな暮し。
    非常食はたっぷりあるし、パソコンも持ち込んで、ネットもし放題だ。
    (……こんな快適なら、避難ライフとかあと1か月は余裕ッ!)
    などとニヤニヤしていたのも束の間。
    ネットからの情報によると、地上の混乱はやや落ち着き、膠着状態となっているようだ。

    「……え、たったの3日で? ALCA優秀じゃない。どういうこと?」

    情報をチェックする芽路子に、ラルフェが淡々と答えた。

    『ネット上の情報を分析しますに、ALCAは新型のゲートカードを使用したようです』
    「新型のゲートカード……?」
    『異世界からかつての盟約者を自由自在に呼び出させるカードのようです。
    各定理者への配布が着々と進み、
    状況によって適材適所の盟約者との合体を選ぶことによって
    効率よくかつ効果的に戦果をあげているのだと推測します』
    「……やけに詳しいのね」
    『ALCAのコンピュータをハッキングして情報を得ました』
    「その中に、新型ゲートカードのものも含まれていた、と……」
    『はい、抜かりなくデータもコピー済みです』

    と、ラルフェは淡く輝くカードを見せた。
    それを見た途端、芽路子は嫌な予感で顔がひきつる。

    「……はい?」
    『万が一使者が襲ってきた際、
    ご主人も複数の盟約者を使いこなせたほうがよいと判断しました。万全です』

    芽路子に忠誠を誓うラルフェは、ただただ主のことを思いやったのだが、
    これが余計なお世話だったのだ。

    「……ちょっと待って。複数の盟約者って……昔、私と盟約したのって、だって……」

    芽路子が気を動転させていると、カードから閃光が放たれる。

    「眩しッ!!」

    そして、芽路子の前に現れたのはかつての盟約者・煌煌だ。

    『きゃー! 芽路子、ひさしぶり!!』

    キョンシー少女・煌煌は芽路子との再会を喜びピョンピョンと飛び跳ね、

    『パソコンだ! ゲームしようゲーム!』

    と、はしゃいでピョンピョンと飛び跳ね、

    『おでかけしようよ! ねー! ねー!』

    と、駄々をこねてピョンピョンと飛び跳ねた。
    的中する嫌な予感……。
    (わ、私の静かな避難ライフが……)
    呆然とする芽路子と傍に控えるラルフェ。
    その周りをぴょんぴょん跳ね回る煌煌。
    (悪いコトって、一つじゃ終わらないのよね、こういう時は……)
    などと思った途端、壁が崩れ去り使者までも目の前に現れた。

    「!!!」

    実は新ゲートカードの作動を感じた使者が探しに来たのだが、
    そんなことは彼女たちにはわからない。
    次から次へ後を追う様に、わらわらと使者たちが現れ始めた。
    芽路子はやむを得ず煌煌と合体。

    『見て見て! 私ね、帰っている間に超レベル高い呪術覚えたの!』
    「……もう、勝手にやってよ……」

    悪霊、瑞獣などを呼び出し使役させる煌煌の呪術に感動も感心もすることなく、
    芽路子はどうにかこうにか地下のトンネルを抜け出し、地上に辿り着く。

    (おのれ……これもALCAのせいだ!!!
    アイツらが変なゲートカードなんか作るからッ!!!)
    芽路子の気持ちは助かった喜びに浸ることなく、
    ALCAを逆恨みする方向に向かって行った。

    「呪ってやる! 呪ってやる!」

    と、ラルフェのコンピュータを操り、ALCAのコンピュータをハッキング。
    とりあえずウイルスやらボッドやらを仕込みつつ、
    あわよくばゲートカードのデータを消し去ってやることにした。
    ものすごい勢いでキーボードを叩き、
    ALCAの研究所のものらしきサーバーにあともう一歩と迫った時だった。

    「……えッ!?」

    黒い画面に浮かぶ記号の海は消えて画面が乱れると、
    突如現れたのは見知らぬ美少女――ニーナだった。

    「ハッキングしているのは、あなた? 定理者ですか?」

    と、冷静に問いかけるニーナ。
    対する芽路子は気が動転して、しどろもどろ。

    「あ、いや、私は、その、合体はしてるのですが定理者ではなく、何というか……」
    「わかりました。あなたがどなたでも構いません。どうか力をお貸しください」
    「力を貸す……?」
    「この騒動の原因を探り、解決する方法を見つけなければなりません。
    手が足りません、お願いします!」
    「で、でも、わたし、なんか……」
    「ここまで侵入できた貴方は優秀です。素晴らしいです。
    その力をお貸しください。共にこの世界を、守りましょう!」

    端末越しでもわかる、少女のまっすぐな瞳と綺麗すぎる心の輝き。
    人の善意とか勇気とか、とにかくそんなものを信じてやまない子の光だ。

    ……正直、芽路子にはまぶしすぎて直視できない。

    「わ、わかった、わかった、から」
    「ありがとうございます!」

    感謝の言葉と共に、早速指示を飛ばしてくる少女の声を聞きながら、
    (良いけど!手、貸すけど!
    この借りは、必ず、必ず返してもらうからね!)
    そう思っても、口には出せない芽路子であった。

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  • 星

    ジスフィアの、神に祈りを捧げる巫女。
    幼い頃に事件に巻き込まれ、両親は行方不明。
    その後、人に優しい妖怪たちを親代わりにして育つ。
    辛い事があっても胸のうちに秘め、
    明るく陽気に振るまい周囲に笑顔をもたらす。
    セプトピアには、生き別れた幼なじみを探しにやって来た。

     明日葉 学 & 星

    空から降る「ほし」

    同時多発的に起こった使者の襲来――。
    学と冥がいた高層ビルもその例外ではなかった。
    階下から使者たちが押し寄せ、商業フロアにいた人々をパニックに陥れた。
    救援を要請しようにも、ALCA本部も混乱をきたしてるのか通信不能。
    階下のフロアは使者たちに占領され、下に降りてビルから脱出するのは不可能だ。
    客たちを上の階へと誘導し、使者たちの殲滅に徹する――
    学と冥にはその道しか残されていなかった。

    「2人で相手するには少し多い……」

    波のように押し寄せる使者たちを前に、学はまるで他人事のようにボソリとつぶやく。

    『……ならば、もう1人増やそう』

    冥が冷静に言うと、学はうなずいた。すぐにあの技だとピンときたのだ。

    『「多重分身の術ッ!」』

    合体した学たちが唱えた瞬間、その身体は3体に分身する。
    残像ではない。呪力と気力によって、本当にその身を分けたのだ。
    3体の学は息の合った連携技で、使者たちの足を止め、一体、また一体と、仕留めていく。
    だが、敵の数は想像以上だった。
    本来、暗殺者である冥に一度に敵を殲滅せしめるような大技はない。
    次から次へと襲い来る使者たち。過ぎていく時間。
    学と冥は次第に疲弊し、ついに分身に費やす気力も限界に達した。
    2人は撤退を余儀なくされ、ビルの最上階から屋上へと追い詰められていった。
    分厚いシャッターで屋上までの侵入は防ぐことができたが、いつ打ち破られるかは時間の問題だった。
    大勢の避難民たちとともに、学と冥は合体を解除して最後の戦いに備え気力を養っていた。
    恐怖に震えながら身を寄せ合う人々を見て、学はボソリとつぶやく。

    「……この人たちだけでも助けたい」
    『……そうだな』

    その時、冥は夜空を見つめていた。
    (星のことを思い出してるんだ……)
    学はすぐにそう思った。学もまた星のことを思い出していたからだ。
    禁断のオーバートランスを使い、遠い世界へと去っていった大切な友達のことを――。
    (……オーバートランスを使うことを冥も考えている、きっと)
    学がその思いを口にしようとしたその時だった。

    『……なんだ、あれは?』

    翼をつけた少年が飛び去ったのが見えたかと思うと、
    キラキラと光りながら何かがヒラヒラと落ちて来るのが見えた。
    (「ほし」が落ちてきた……?)
    学は一瞬そんな錯覚をした。
    だが、その光の欠片から人の姿が飛び出してくるの見えた。
    「ほし」ではない「星」だ。
    やがて星が2人の前に、着地する。

    『助けにきたよ!』

    星は何事もなかったかのように屈託のない笑顔を見せる。

    「……」
    『……』

    学も冥も、あまりのことに驚き、言葉を失っていた。

    『えーと……私のこと忘れちゃった?』

    星は戸惑いながら冗談っぽく言った。
    思いがけない再会に、2人の感情は次第に驚きから感動に変わっていった。
    しかし、学も冥もそれを表に出すのがあまりに下手だった。

    「いや……」
    『……忘れるわけがない』

    そう言うのが精一杯だった。

    『あー……いいよいいよ。2人がリアクション薄いのは何となく予想したから……』

    星は苦笑いで、嬉しい感情を誤魔化す。
    ドン! ガシャーン!!
    使者たちの行く手を遮っていたシャッターの強度はもはや限界のようだ。
    今にも使者たちがあふれだしそうなほど歪んでいる。

    『……こうしちゃいられないね。学、合体しよう』

    星は学に手を差しだした。

    「……できるの?」

    学は驚いた。
    オーバートランスの影響で星はロジックを失い、合体不能のはずだったからだ。

    『まあ、やってみればわかるよ!』

    学と星は手を握り合うと、光に包まれ合体する。
    と、同時にシャッターを打ち破り、ついに使者たちが屋上に現れた。

    『荒ぶる魂を鎮めるのも、巫女の役目……』

    星のつぶやきとともに、学から放出される巨大な霊力。
    使者たちは目に見えぬ重圧に押しつぶされるように、一斉に身動きを止めた。

    「すごい……」

    新たなる星の力に、学は目を見張った。

    『向こうの世界で新しいロジックを得たんだ……。これでまた一緒に戦えるよ』

    星の言葉に、学はやっと笑顔を見せた。
    それを見て、ホッとする星。
    ふと、冥を見ると彼女は学たちに背を向け、
    避難民たちをより安全な場所に誘導しようとしていた。
    だが、一歩踏み出したところで足を止める。

    『……おかえり、星』

    背中越しに冥の声が聞こえた。
    星は微笑んで答える。

    『……ただいま』

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  • 艶鬼

    艶鬼

    ジスフィアからやってきた、鬼のお姉さん。
    遊女の様な鮮やかな衣装を好み、大胆に着崩しながら
    色っぽいしぐさで男を迷わす魔性の女性。
    一方的にアシュリーを気に入って盟約者になり、
    日々彼女を着せ替えては楽しんでいる。

     アシュリー・ブラッドベリ & 艶鬼

    艶鬼の異常な愛情

    サロンでいつものように読書に耽っているアシュリー・ブラッドベリは、突如黒い影に覆われた。
    ハッとして見上げると、アシュリーの盟約者・艶鬼が笑みを浮かべていた。

    『これから、お暇?』

    艶鬼はアシュリーに顔を近づけてきた。

    アシュリーは艶鬼の大きく盛り上がった胸元にドギマギしながら、コクリと小さく頷いた。

    それを見て、艶鬼は更に笑顔を弾けさせた。

    『ほんま? めっちゃ嬉しい!
    ほんなら、うちらの部屋にもどってきて。
    10分後。待ってるから』

    艶鬼がウキウキとした足取りで去っていくのを見届けると、アシュリーは再び本に目を移した。
    しかし、頭の中にまるで内容が入ってこない。
    アシュリーの脳裏に嫌な予感が渦巻いていた。

    ――艶鬼、一体なにを企んでらっしゃるの!?

    アシュリーと艶鬼はまだ引き合わされたばかり。
    実際にトランスするのもまだだった。

    だが、アシュリーは自分が憧れていた盟約者とは「何かが違う!」と感じていた。

    対する艶鬼は、微妙なリアクションをするアシュリーのことなどお構いなしにアシュリーへの愛情を一方的に深めていくばかりだった。

    ファンタジー趣味のアシュリーが『鬼』も趣味の範囲と艶鬼は思い込み、それが嬉しくてたまらないのだ。
    アシュリーは不安を感じながら、約束の10分後に本を閉じると、自分と艶鬼の部屋へと向かって歩き始めた。
    やがて、部屋の前までやってくるとアシュリーは緊張気味にノックにした。

    『アシュリー? ええから入って』

    中から陽気な艶鬼の声が聞こえ、アシュリーは一度深呼吸をしてドアノブを回し、扉を開いた。

    『おかえりやっしゃ』

    部屋に入るなり、艶鬼はアシュリーに抱きつき、そのままお姫様抱っこをした。

    アシュリーは唖然としたまま室内を見回す。

    ――なんですの!? このお部屋! 朝までは普通のお部屋だったのに!

    壁は朱色に塗られ、あちこちの置かれた行燈が淡く輝いている。

    ALCAの施設内にある部屋とは思えない、あまりにも遊郭チックな内装だった。
    どうやらアシュリーが読書に耽っている間に、艶鬼が勝手に模様替えしてまったらしい。
    「これから何をなさるおつもりなの!?」

    アシュリーは動転し、思わず声を上擦らせた。

    『街で可愛い着物、見つけたの。アシュリーに似合いはると思うて』
    「困りますー! はしたないそんな! 恥ずかしい!」

    アシュリーは抵抗するものの、艶鬼の怪力の前では無意味であった。
    あっという間に身ぐるみを剥がされ、手際よく着物を着つけていく。

    『さあ、おめかししまひょね』

    艶鬼はアシュリーが嫌がっていると気づくことなく、鼻歌さえも歌っていた。
    アシュリーは諦め、されるがままに身をゆだね、気がつくと鏡の前には艶やかな花魁姿の自分がいた。

    おまけに胸元がざっくりと開き、露出度が高い。
    アシュリーはあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして、下を向いた。

    『いやあ、かわええなあ。一緒に花魁道中をしたいぐらいやわあ……』

    ――そこまでなさるおつもりなの!?

    アシュリーは目を白黒させながら、艶鬼を見上げた。
    だが、目に飛び込んだ艶鬼は目を細め、今までアシュリーが見たことないほど幸せそうな表情を浮かべていた。

    『うち、ほんま嬉しい。アシュリーみたいに『鬼』の好きな子と盟約できることになって……』

    そんな艶鬼を見ているとアシュリーは何も言えなくなった。

    ――外に出るのはご遠慮願いたいけどこの部屋の中だったら……。

    アシュリーはそう自分に言い聞かせ艶鬼に向かって小さく笑った。

    「こんな素敵なお部屋にしたんだから、お外に出るのはもったないですわ。
    何かジスフィアにいた頃お話を聞かせてくださらない?」
    『ええよ。とっておきの話があんねん。あんな……』

    艶鬼は目を輝かせて語り始め、アシュリーは微笑んでその話を聞き入った。

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  • 銀影

    銀影

    ジスフィアにて、長いこと紅武と覇を争ってきた武将。
    自分が女性であることをひた隠し、
    長大な野太刀を振るって戦ってきた。
    オルガと出会い、偶然正体を知られた彼女は、
    秘密を守るため強引に盟約を結ぶ。

     オルガ・ブレイクチャイルド & 銀影

    踏み越えた一線

    オルガは自分こそが最強の定理者だと信じて疑わない。

    そんな自分に最も相応しい盟約相手が、ALCAの協力者の中に一名いた。

    ALCAの制服に身を包み、見目麗しく耽美な美青年。ジスフィアの武神・銀影だ。

    「なぜお前はALCAに手を貸す?」

    『セプトピアの治安維持に興味などない。
    私の目的はただ一つ、紅武を討ち取り、覇王となること。その為の修行の一環にすぎぬ』

    紅武とは、ジスフィアの地界で銀影が何度も剣を交えた宿敵らしい。

    「……ククク。お前のこだわりなど興味はないが……」

    オルガがふと左手の甲を見つめると、ルシフェルの紋章が浮かび──消えた。

    「人と神の共存こそ、俺のロジック……その望みを叶えてやってもいい。この俺と盟約すればな!」

    『断る。これは私と紅武の勝負。部外者は黙っていろ』

    「……大した気概だ。ククク、ハーハッハッハッ!!!」

    オルガは盟約の申し出を断られた気まずさを、勢いでごまかした。

    しかしオルガには奥の手があった。
    男同士が絆を深めるために有効なロジックが聞こえていたのだ。

    ALCAのハウスサロン。

    銀影がバスルームに入っていった姿を見たオルガは決意し、自らも裸になって、シャワー音が響くバスルームの戸を開けた。

    男同士、裸の付き合いをするためだ。

    「邪魔するぞ」

    が、オルガの眼前には、驚くべき光景があった。
    シャワーの湯気に隠れて全貌こそは見えなかったものの、銀影の麗しい裸体は彼が男ではないことを物語っていたのだ。

    『き、貴様、どうしてここに……!』

    オルガは引きつった顔のまま、何も言わず戸を閉めた。

    その後、風呂から上がった銀影はひと気のない場所にオルガを呼び出した。

    『……先程の貴様の愚行……私に対する無礼千万だと思え』

    「……俺のロジックが聞こえる。女のお前が男装している理由は、武家を継ぐ為だな」

    男子に恵まれなかった武家に生まれた銀影は、武士としての道を進む為、男として生き抜く覚悟を決めていたのだ。

    「……この俺との盟約を拒否した理由も、それならば納得がいく。お前との盟約は諦めるしかなさそうだな」

    『それは困る』

    意外な銀影の発言にオルガは戸惑った。

    銀影は古風な精神の持ち主だ。

    誰にも見せたことがなかった裸体を見られてしまったことで、もはやオルガと契りを結ぶしかないと思い至ったのだ。

    銀影はわずかに濡れた頬を赤らませると、オルガの首筋に剣を突き立てて告げた。

    『……私と……盟約しろ。それが……貴様の責任だ』

    オルガは戸惑いつつも、首を縦に振ることしかできなかった。

    彼らの電撃盟約はまさに青天の霹靂だった──。

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  • 八雷神

    八雷神

    ジスフィアからやってきた、ジゼルの盟約者。
    周囲からは『ヤクサ』と略称で呼ばれる。
    ジゼルをお嬢様扱いして跪き、
    彼女の指示に従うような関係性を保っている。
    八つの雷神(大雷、火雷、黒雷、柝雷、若雷、土雷、鳴雷、伏雷)の能力を持つ。

     ジゼル・サンダース & 八雷神

    家出少女ジゼル

    ジゼル・サンダースがALCAキョウト支局に配属され、数週間が経った。

    ジゼルの教育係に任命された揺音聖那は、
    いつまで経っても定理者としての自覚を持とうとしないジゼルに愛想が尽きかけていた。

    「もういい加減、ローカルアイドルだった頃は忘れなさい!」

    いつもであれば「はいはい」と聞き流すのだが、『ローカルアイドル』というフレーズがジゼルの逆鱗に触れた。

    「ローカルアイドルですって……?
    もうすぐ全国区のアイドルになれたのにあんたらが無理やり辞めさせたんでしょ!?」

    それからここに書き記すのも見苦しい罵り合いが展開され、この日の研修は2人の猛喧嘩で幕を閉じた。

    その後も怒りが収まらないジゼルは、施設からの脱走を決意する。

    研修期間中、キョウト支局内の一室に監禁状態にいたジゼルだったが、言葉巧みに局員を一人、また一人と籠絡し、ついに施設外へと出ることに成功する。

    だが、そこからが手詰まりだった。

    施設の周辺は馴染のない土地であるのに加え、研修が終わるまで私物など全てALCAに一時保管されていたためジゼルはお金も持っていなかった。

    あっという間に行き場を失い、ジゼルはキョウト支局から数キロ離れた公園でブランコに揺られ途方に暮れていた。
    「ここでしたか」と柔らかな声が聞こえ、顔を上げるとジゼルの盟約者・八雷神が笑顔で彼女を見つめていた。

    「……帰らないわよ」

    ジゼルは、八雷神を見るなり冷たく言い放った。
    八雷神は微笑んだままだ。
    ジゼルの盟約者となってから、八雷神はまるでジゼルの従順な執事のようだった。

    この時も、八雷神はジゼルの前にひざまずくと、そっと手を差し伸ばし、言った。
    『せっかく外に出たんですから、この辺りをご案内しましょう。
    ジゼルさんはまだここの土地柄に不慣れでしょう』

    そんな八雷神の優しい言葉にグッとくるジゼルだったが、表面に出る態度は素直なものではなかった。

    「……勝手にすれば」

    ジゼルは素っ気なくつぶやいて、ブランコから降りて歩き出した。
    こうして八雷神のキョウト案内が始まった。

    『あそこがキョウト支局から一番近いコンビニです』

    「あ、そう」

    『あの神社に祀られている神は、ジスフィアにいた頃の私の友人です』

    「聞いてない」

    『この辺りは猫が多いんです。私も時折エサをあげています』

    「私は猫より犬が好き」

    八雷神のガイドにも、ジゼルの態度は素っ気ないままだったが、そのうち八雷神は軽快なメロディが聞こえていることに気づいた。
    ジゼルの鼻歌だった。

    なんだかんだ言って楽しんでいる――
    それがわかると、八雷神は思わず微笑んだ。

    キョウト支局に戻ると、心配した聖那が前で待っていた。

    勝手に出て行ったジゼルを叱るつもりであったが、ジゼルを背負って帰ってきた八雷神を見るとその気は失せてしまった。

    ジゼルは八雷神の背中で、子供のような寝顔で眠っていた。

    「……八雷神も振り回されて大変ね」

    聖那は溜息混じりでねぎらいの言葉をかける。

    『いえ、私の大切な盟約者ですから』

    八雷神は微笑んで施設の中へと入っていった。

    その時、ジゼルの口から「ありがとう……」と聞こえた。

    見るとジゼルは目を閉じたままだった。

    それが、寝言だったのか、目を覚ましていたのか、八雷神はわからなかった。

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  • 紅武

    紅武

    ジスフィアにて、長いこと銀影と覇を争ってきた武将。
    見た目通り豪放磊落、馬上槍と軍配を奮い、
    部下の騎馬隊を率いて戦ってきた。
    セプトピアにてオルガを気に入り、自分も盟約を申し出る。

     オルガ・ブレイクチャイルド & 紅武

    響き渡る不協和音

    「……ククク、ハーハッハッハッ!」
    『……ククク、ガーハッハッハッ!』

    その日、ALCAには二人の男の奇妙な笑い声が響き渡っていた。
    一人は、もはやALCAメンバーもスルーすることに慣れていた定理者オルガの高笑い。
    もう一人、オルガと肩を組んで豪快に笑っていたのが──ジスフィアの軍神・紅武だ。
    自尊心が強かったオルガが誰かと仲良くしている光景は稀だった。
    二人が意気投合していたのには訳があった──。

    覇王の座を争って銀影をライバル視していた紅武がある日、セプトピアにやってきて民間人にトランスジャック。銀影に再戦を挑んできた。
    そしてオルガと銀影は合体して紅武を討ち取っていたのだ。
    敗北を悔しがった紅武に対し、オルガは告げた。

    「……俺のロジックが聞こえる。この勝敗は……無効だ!」

    紅武と銀影、互いに同じ条件で戦わなければ意味がないからだ。
    紅武は潔いオルガの対応に応える為、自分も潔く軍門に降ることを決意。

    『我が勝負、どうやら第二の時を迎えたようだ』

    そして今度はオルガの盟約者として、紅武と銀影のどちらが相応しいかを勝負しようと考えたのだ。

    「……ほぅ面白い。この俺様を取り合うとは、見所があるな」

    が、ALCAはこの二人の盟約を受け入れてしまったことを早々に後悔することになった。
    オルガと紅武は暇さえあれば、男気を賭けて互いのロジックを披露し合っていたのだ。
    その日もALCAハウスサロンのバスルームから騒々しい声が響き渡る。

    「道とは探すものではない。己で作り上げるものだ!」
    『我が眼前に道は無し! 我の往く跡に道はできる!』
    「時代の中に俺が生まれたのではない。俺が時代を生んだのだ!」
    『時代が我に逆らうならば、我が手で時代を斬って正すまで!』
    「……ククク、ハーハッハッハッ!」
    『……ククク、ガーハッハッハッ!』

    そんな時、使者襲来の一報が舞い込んだ。
    瞬時にオルガと紅武の表情が一変し、戦場へと出撃していく。
    普段は陽気な一面を見せる二人だが、いざ戦いとなれば切り替えは早い。

    現場に到着したオルガと紅武は、暴れる使者と対峙した。

    「紅武。お前に問う……お前にとって、戦いは何を意味する?」
    『愚問だ。我は軍神。我が軍こそがジスフィア最強であることを証明するため。その為に覇王の座を手にする!』
    「……追いついてこれるか? セプトピア最強の定理者である俺様のところまでな」
    『望むところだ』

    オルガと紅武は互いの拳を突き合わせる。

    「トランス!」

    真紅の鎧を纏った合理体・オルガは使者に反撃の隙も、逃亡の隙も与えなかった。
    まさに軍神の如き猛攻撃。

    後に、その戦いでオルガによって捕縛された使者はこう語ったという。

    たった一人の定理者の力とは思えない。
    相手にしていたのは『軍』の如きであった、と──。

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  • 冥

    ジスフィアの、暗殺者として生きてきたくの一。
    幼い頃に事件に巻き込まれ両親を亡くし、
    その後、闇の組織に育てられた。
    自分の感情は心の奥底に押し隠し、
    命じられるまま、数々の暗殺をこなす。
    セプトピアには、組織から指令を受けてやってきた。

     明日葉 学 & 冥

    少女たちの覚悟

    『……学。星のことは頼んだ』

    そう呟くと、静かにALCAの下を去っていくジスフィアの暗殺者──冥。
    その眼差しには──死の覚悟が宿っていた。

    ──その昔、ある事件で星と生き別れた冥はジスフィアの暗殺組織に拾われて育てられた。
    確実に任務を遂行する暗殺者になるために心を殺す教育を受ける日々。
    やがて任務の為、セプトピアを訪れた冥は、
    セプトピアで暗殺対象の情報を得るために学と盟約し、
    そこで奇跡的に幼馴染の星と再会を果たしたのだ。
    学や星との暮らしは長年殺し続けた冥の心に彩りを与え、
    失った時は徐々に取り戻されていった。

    が、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。
    組織が星を暗殺するために大勢の刺客を差し向けたのだ。
    冥は知った──自分に与えられた暗殺任務はダミーであり、全ては星をセプトピアに誘導するための囮。
    組織は神の巫女たる星の力を恐れ、
    本来の力を発揮できないセプトピアの地で亡き者にしようとしていたことを……。
    冥の心は一つだった──刺客と刺し違えてでも星だけは守る。

    冥は単身で大勢の刺客の前に立ちはだかり、命を賭して戦い続けた。
    が、そこへ現れたのが──星と合体した学だ。
    全ての事実を知り、冥を守るべく抵抗したのだ。
    しかし屈強な大勢の刺客には敵わず、ほとんどのロジックを使い果たしてしまう。
    すると刺客は冥を人質に囚え、学に合体を解除して星を殺害するよう要求した。
    星が殺さなければ、冥が死ぬ。
    しかしどちらか一方を、学が選べるわけもなかった。

    『退け、学……このままでは三人とも死ぬっ』
    「……やだ……冥を連れて帰る」

    冥だけを犠牲にして退避する選択など、学の頭にはなかった。
    すると星は決意し、突然学との合体を解除した。学は戸惑いを隠せなかった。
    星は学と冥を守るために決意。自ら自害することで学と冥の命を救ってほしいと組織に取引を持ちかけたのだ。
    組織の狙いは星の命一つ。星の取引に応じようとした。

    『やめろ……星がいない世界に生きる価値なんてない……
    一人だけ残されて自分だけが生きるなんて……嫌だ』
    『冥……それは私も同じよ。でもこれしか方法がないの……お願い』

    互いが互いを救いたい一心で対立する冥と星の想い。
    冥は、腰に身につけたアクセサリーを握りしめた。
    星もまた、頭の右側につけたアクセサリーを握りしめた。
    それは二人が幼い頃から身につけていたお揃いのアクセサリーだった。
    冥と星を意味する二つの飾り。
    どちらかが欠けることなくいつでも一緒──そんな想いを込めて。

    その時、学が呟く。

    「……やだ……連れて帰る……冥も……星も……」

    冥と星、どちらの提案も受け入れようとしない学。
    冥は叫ぶ──『学! 星を連れて逃げてくれ! それが私の唯一の望み!』
    星は叫ぶ──『学! 冥と共に生きて! 二人の幸せが、私の幸せなの!』
    しかし学はどちらの声にも耳を傾けようとしない。
    長年の時を経て、ようやく再会を果たせたばかりだというのに、冥と星が再び引き裂かれてしまうことを、学は受け入れることなど到底できなかった。
    冥と星が共に歩むこと──それだけが学の望み。
    すると学は星のすぐそばに歩み寄り、耳元で囁いた。

    「……一つだけ、方法がある」

    二人だけにしか聞き取れない声で星にある決断を迫る学。
    星は言葉を失った。
    が、同時に、他の選択肢がないことを瞬時に悟った。
    学はALCAに通信し、ある作戦の行使を進言。局長の許可を取った。
    そう、学と星が下した決断は──。

    「……オーバートランス!」

    勝負はまさに一瞬。
    星光の如き速さで刺客を殲滅し、冥を救うことに成功した……。
    オーバートランスによって、学と星のロジックカードが飛散しかける。
    が、星は神の巫女たる力を開放し、学のロジックカードの飛散を全て防いだ。
    学が驚いて星を見ると、星は何も言わずにただ微笑んだ。

    冥は知った。
    どんなに過酷な運命でさえも、強い意志で変えることができることを。

    闇に生き続けた冥に、道標となる希望の光が射した──。

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  • 七宝

    七宝

    弥生が初めて盟約した使者。若くして武術を極めた功夫の達人で、棒術と酔拳が得意。人間の住む世界に美味しいお酒を求めてやってきた。
    酒の飲み過ぎで倒れていたところを弥生に介抱された。弥生のしっかりものな性格をうざったいと考えるところはあるも、その実直さに心を許す。同じパンダ好きなこともあり、彼女と盟約をすることになる。

     橘 弥生 & 七宝

    弥生 & 七宝

    橘弥生は、焦っていた。
    本人は認めたくはないだろうが、焦っていた。

    「主様~ わっちも盟約の相手が見つかったよ~」
    のんびりと報告をしてくる華恋。
    「そう、良かったですわ」

    「す、すいません主様。うちも、その・・・」
    余計な気を回す華凛。
    「華凛も、お見事ですわ」
    恐縮して小さな背をさらに縮める華凛と、変わらず大きな体をふにゃーと伸ばす華恋。
    二人は幼いころから橘の家、特に弥生に仕えている「忍びの者」だ。
    そして何より、弥生の大切な友人、いや家族、でもある。

    元々弥生は、目標を自分できちんと決めて、そこに向けて努力するのが好きな性分だ。
    自分や華凛・華恋に定理者の素質があることがわかり、来年から定理者育成校・ピラリ学園への入学を勧められた時。最初に弥生がしたのは、自分なりに「定理者とはどういう存在か」
    「彼らが所属するALCAがどういう組織か」などなど調べることだった。華凛にもいろいろ情報収集をさせたものだ。そして決めた。
    「定理者となるからには、その中でも1番の定理者になりましょう。目指すはALCAの長官ですわ!」
    と。
    有言実行。目標を定めた弥生は、それに向かって日々、彼女なりに努力している。

    ・・・しかし。定理者は一人ではどうにもならない。
    異世界の使者と盟約できなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
    もちろん、来年入学してから、学校で学びつつゆっくり盟約者を探すこともできるのだが、
    それでは彼女の目標たる「1番の定理者」に後れをとってしまう気がするし、なにより―なにより、華凛・華恋と別のクラスになってしまうではないか。

    「主様、うちの盟約者はジスフィアのニンジャです」
    「わっちの盟約者はサムライだよ~」
    「それぞれ、向こうの世界での人脈もあるようです。
    ・・・差し出がましいようですが・・・」
    華凛・華恋の言いたいことはわかる。彼女たちの盟約者に、故郷の世界・ジスフィアで弥生と盟約しても良いという使者を探してもらおう、というのだ。
    「ありがとう、華凛、華恋。
    でも心配は無用ですわ。わたくしは橘弥生。あなたたちの主です。
    自分の盟約相手は自分で、探してみせますわ」
    そう言い放ち、供を断って一人歩き出したものの・・・
    正直なところ、何か当てがあるわけではない。

    折しも今日は休みの日。あてどもなく歩いていたら、いつの間にかオビヒロの街まで降りて来ていた。
    街の賑やかな様子をみると、少し心が晴れる。
    商店街には、彼女の生家である橘財閥の系列も店を構えている。
    他の商店と足並みを揃えつつ、街を発展させ、住む人々を豊かにする。
    大財閥にして大商人、橘家の家訓は
    「商いで得た利益は人々のために使うべし。世界を豊かにすれば、さらに大儲け!」
    であり、その教えは弥生にもしっかり根付いている。だから街を行き交う人々が笑顔だと、自分と自分の生家が褒められたような気がして嬉しいのだ。
    「この世界を守り、正しく導いていくためにも、わたくしは1番の定理者にならなければいけませんのに―」
    その時。
    「!!」
    平和だった街の中に、物が壊れる音と野太い怒号が響いてきた。
    考えるより先に、そちらへと弥生は走り出している。ほどなくして辿り着いたのは、繁華街の一角。見れば、少女らしき人影が、二人の大柄な男性に絡まれている様だ。酔っぱらった観光客だろうか。見過ごせない。声をあげるか、あるいは警察を呼ぶかと思ったが、

    『おやおやぁ、お二人さん、よくない酒をしているねー
    そういうの、あたしぃ見過ごせないわねぇー』

    言うが早いか。少女の手が左右にするすると伸び―
    いったいいかなる技なのか、くるり体を翻すと男たちは軽々空を舞い、
    近くを流れる用水路に次々落ちていく。
    『水でもかぶって酔いを覚ますといいわよぉ。そしたら一杯、付き合ってあげる。
    そっちのおごりならだけど』
    思わず呆然と見ていた弥生の視線に気づいた少女は、目を合わせるとにやっ と笑い、そのまま―
    ―そのまま、ぐらりと道に倒れ込んだ。
    「ちょっ、だ、大丈夫ですの!?」
    思わず駆け寄り助け起こす弥生。
    『アタタタタ・・・ 急に動いたら回ちゃってぇ~~』
    答える声が、うっ、酒臭い。それもかなり。
    「貴女いったい―」
    『いっや~ こっちの世界の酒も、なかなか美味しいわね~ ヒック!』
    それが、ジスフィアのカンフーマスター、七宝との出会いだった。

    木陰に座り、膝枕をしながら、扇子であおいで風を送る。
    改めて、七宝と名乗った少女の姿を見る。いや、本当に少女だろうか。
    身長は同じぐらいだが、スタイルは圧倒的だ。服の上からでもよくわかる。
    (いや、羨ましくなんかないですわ)
    喋り方からして年上らしいが、確かに流す目つきは通りがかる男の人が立ち止まるぐらい色っぽい。一方、こぼれた笑みは乙女の様でもある。
    『あんまり美味しいから、飲み過ぎちゃったわぁ。
    ・・・あ、そういえばこっちの世界のお金持ってなかったわー
    あんたさ、代わりに払っといてくんない? だめ?』
    「ダメに決まってるでしょう!
    ・・・いえ、ここで放置してはお店の方にご迷惑がかかります」
    弥生の脳裏を、噂好きなマスコミがあることないこと好きに書き立てる様が駆け巡った。
    「わかりました。ここはわたくしが立て替えておきますわ。
    その代わり、私と一緒に学園まで来てもらいます。
    そのうえで、しかるべき身元引受人に来てもらい、酒代をお支払いいただいたうえで、丁重にお帰り願いますわ!」
    『なんだいなんだい細かいねー アタマの可愛いパンダが泣くよ?』
    「細かいのは性分です、ほおって置いてください!
    ・・・でもこのパンダの可愛いらしさに気づいたところは褒めてあげますわ。
    というか、そちらの世界にもパンダいますの?」
    『いるよ~ ただこっちのパンダは可愛いってより――強いけど』
    「強い!?」
    『ヤツら結構鍛えてるからねー。パワーがあって、タフなのよ。
    前に戦ったときは三日三晩ぶっ通し』
    「ごめんなさい、それ以上聞くとわたくしの中のパンダ観が変わりそうです」
    『にしても、驚かないのね。もしかして、お嬢ちゃんが噂の定理者、ってやつ?』
    「お嬢ちゃん、は止めてください!
    ・・・それにまだ、定理者とは言えませんわ。わたくしには、盟約相手がいませんから」
    『ふ~ん、そりゃ大変ねぇ~』

    「ところで貴女の先ほどの技、素晴らしいものでしたわ」
    『わざ~? べつに、あんなの、技って言うほどのもんじゃないよ』
    セプトピアのロジックに適応した使者は、故郷の世界の様々な能力を失って、
    大概はただの人間や動物などになる。にもかかわらず、腰の回転と重心の移動?だけで大の男二人を投げ飛ばした七宝は、
    どれだけその身に超絶の技を宿しているのだろうか。

    「この世界、セプトピアには、何をしにいらしたの?」
    『―お酒』
    「え?」
    『美味しいお酒、呑みにきたの』
    思わず、膝から彼女の頭を落としそうになる。
    「貴方、それだけの技を磨いていながら、今はただの酒飲みですの??」
    弥生も、茶道華道といった習い事をしているし、特に日舞は好きで日々鍛錬を積んでいる。
    だからこそ、この使者がどれだけ自分の体を苛め抜いて鍛えてきたか、推し量れるつもりだ。
    それには相当な決意と覚悟が必要なはずで、およそ何がしかの使命を帯びた人物であろうと思ったのだが―

    『いやいや、酒もバカにしたもんじゃないよ?
    お嬢ちゃんにはまだ早いけどね』
    「だからお嬢ちゃんは止めてください!」
    『その土地のお酒を飲むとね、その土地のこと、その土地に住む人のことが、よくわかるの。
    ・・・ここは、良い世界よね。
    人々がちゃんと努力して、世界を豊かにしてきた、そんなふっくらとした味がする。
    だからわかるよ』
    すい、と一呼吸で身を起こす。
    逆に見下ろす形になった七宝は、弥生の頭に手を伸ばし、ゆっくりなでると、

    『――良く頑張ったわね』

    気が付くと、弥生の頬に熱いものが流れていた。
    涙のしずくがこんもりと盛り上がり、後から後から流れてきた。
    自分でも良く分からない。
    この世界が、この街が褒められて、嬉しかったのかもしれない。
    なのにそれを守るチカラを得られない自分が、悔しかったのかもしれない。
    止め方もわからず、そのまま弥生は泣いた。大泣きした。そしてその激情のまま、叫んでいた。

    「わ、わたくし、わたくし橘弥生は! 橘家の娘として、この世界を守りたい。導きたい。
    もっともっと平和に、もっともっと豊かに、もっともっとみんなが幸せに笑って暮らせる、そんな世界にしたい!
    そのために、そのための、それに必要な力が、チカラが、欲しい!!
    だから七宝さま、わたくしに力を、お貸しください!!」
    そう言い終わるが早いか。
    七宝の腕がついと伸び弥生を捉えると、そのまま豊かな胸にしまい込む様に抱き込んだ。
    『これからは七宝、って呼んでいいわよぉ、弥生』

    「主様、本当によろしいのですか?」
    「主様ぁ、二対一だよ~?」
    合体し武器を構えた華凛・華恋の二人に、弥生はゆっくりその手を向けて、手招きをしてみせた。
    「構わない、と言っているのです。さあ、いきますわよ、七宝!」
    『弥生はやる気満々だねー。ま、その方がらしいけど』
    「『合体!』」
    また一人、頼もしい定理者のひながピラリ学園に現れた。

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  • 蓮香仙女

    蓮香仙女

    仙術を得意とするジスフィアの仙女。
    他人のために尽くすことが好きな、心優しい性格の持ち主。ジスフィアでも名を馳せる仙術の腕前を持つ。とある魂を求めてセプトピアにやってきたところ、縁と出会い、運命のように盟約を結んだ。

     七星 縁 & 蓮香仙女

    七星 縁 & 蓮香仙女

    縁は、困惑していた。

    「縁さま、お寒くはないですか?ひざ掛けをご用意したので、ぜひどうぞ」
    「明日はお天気が悪いようです。本日中にお洗濯を済ませておきます」
    「お醤油がもう少しでなくなるので、私、買ってまいりますね」

    「あ、ありがとうございます…蓮香仙女さん」

    ―落ち着きません…!

    縁の傍ら、甲斐甲斐しく世話をしているのはジスフィアからやってきた使者、蓮香仙女。
    彼女はとある魂を求め、このセプトピアにやってきたという。

    ―でも、蓮香仙女さんはどうして私の世話をしてくれるのだろう?

    そういえばと、縁は思った。実はまだ縁と蓮香仙女は盟約をしていない。
    それどころか、出会ったのはつい先日。街中でぽつんと佇む蓮香仙女に、縁が声をかけたのが出会いだった。
    街の景色からに馴染んでいない彼女を見て、使者がいることにも驚いたが、
    縁はなぜだか彼女に声をかけなくてはいけない気がした。
    そうして声をかけたところ、蓮香仙女は蕩けるような甘い笑みを見せ、そのまま縁に導かれこのALCAに滞在している。

    「蓮香仙女さん、貴方は街中で何を探していたんですか?」

    縁のためにお茶を入れている蓮香仙女に疑問を投げかけると、蓮香仙女はぴたりとその手を止め、縁との距離を縮めた。

    「私は仙術を用い、私が想い続けるただ一人の魂を探しておりました。大好きな、あの方の魂を。
    私の生き甲斐といえば、その方の為にこの身を尽くすことでした。
    …しかし、ジスフィアにその魂は輪廻していなかったのです。」

    「そんなことってあるんですか!?」

    「実際にあったようなのです。あの方の魂はどういう理か、ジスフィアでの輪廻から外れ、魂のままこのセプトピアに来たようです。そして、このセプトピアで長い時を経て人間になった……それが、縁さま、貴方様です」

    蓮香仙女は、薄らと頬を薄紅色に染め、瞳を濡らしながら縁の顔を覗き込んだ。
    その瞳の中の人間離れした虹彩に、思わず縁も息をのんだ。

    「私…ですか??」

    「はい、間違いなく、縁さまの魂はあのお方のもの。
    鏡に映した水面のように澄んだ魂のお色を、私が間違えることもございません」

    どこまでも優しいほほ笑みを携え、美しい声色で喜びを音にする蓮香仙女。

    「縁さま。どうか、私と盟約をして頂けませんか?」

    「蓮香仙女さんと?私が??盟約を…!?」

    あまりに突然の話が多すぎて、縁の頭はオーバーヒート寸前となっていた。
    しかし蓮香仙女はそんな縁に、さらに言葉を続けた。

    「はい。こうして異世界…セプトピアで私たちが出会うのも、運命だったのではないかと思います。
    私の仙術では、このような予見はできませんでした。
    でも貴方となら……私一人では見えない運命も、見える気がします」

    「運命……」

    ふと、縁にはあの日のことが思い浮かんだ。
    ―あの時、私に定理者の才能が目覚めてALCAに召集されたのも、運命?

    「縁さま、運命は確かに存在するものです。でも、変えることもできるのですよ」

    まるで心を見透かされたかのような答えに、縁はキョトンとした。

    「あの方の魂と同じ縁さまのお気持ち、仙術を使わなくともお見通しです」

    「…蓮香仙女さんってば、ずるいです」

    軽く頬を膨らませ蓮香仙女を見上げれば、ほほ笑みを返された縁。
    蓮香仙女と描く運命はどんな形だろう。
    そして、未来は、どんな色をしているのだろう。
    縁の心は決まっていた。

    ―…というよりも、今の話を聞いて、混乱はあったものの、
    蓮香仙女の思いは縁の心にスッポリと当てはまった。
    ずっと前から盟約をしていたような、心が通じ合っているような…そんな気さえしてくる。

    「蓮香仙女さん。これからは私にも貴方のお世話をさせてくれますか?」

    「それとは話が別ですよ、縁さま。ですが……そうですね、ぜひ、縁さまの手料理を頂いてみたいです」

    「もちろんです!とっておきのお料理を用意しますね!」

    縁と蓮香仙女が仲睦まじくキッチンに立っているのをALCAの局員が目撃するのは、
    もう少し先のお話である。

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  • 凪

    夏以降に出会い、盟約を結ぶことになるフォーリナー。
    悪の陰謀を防ぐ(という妄想の)ため、セプトピアに調査に来たところ、平和すぎて落胆していた。そんな最中通り過がりのロジカリストだった弥生と出会い、彼女が悪と戦う戦士だと知ったことから盟約した。

     橘 弥生 & 凪

    橘 弥生 & 凪

    『―風が吹いていた。
    良くない風だ― 

    ジスフィアの使者、凪はそう呟くと、隻眼で闇の向こうを見透かす。
    風が運んでくる・・・悪の匂いッ
    しかし安心するがいい。
     いかなる悪の邪智暴虐が世を乱そうとも。
    この悪しき風、俺が止めてやる。
    風が止まると書いて凪と読む。
    そう、この俺の名だ!
    くっくっく・・・・
    はっはっはっはっはーーー!!!!!!』

     ―という、独り言にしては結構大音量のモノローグが、木の上から聞こえてくる。
    「・・・・凪さん。そろそろ、よろしいかしら?」
    『ヌ? 我を呼ぶのは誰か―?』
    「下をごらんなさい。わたくしですわ」
    『ム! そこに見えるは我が輪廻が導きし宿縁の盟約者、橘弥生ではないか。
     だが済まぬ、今ここに悪しき気の流れが―』
    「ではあなた、今夜のご飯はいらないんですのね?」
    『―! い、いります、いります。
     すぐ、すぐに降りるから!』
     と答えると。
     黒ずくめの小柄な姿が木の上からよっこいしょ、どっこいしょと言いながら降りてきた。
    「まったくもう・・・
     そんなに苦労するなら、わざわざ木の上になど登らなければいいでしょうに」
    『くっくっく・・・
     仕方がない。これは、悪の気配をいち早く掴むための日課なのでな・・・
     というか、この前までは鳥に適応していたのだ!空が飛べたのだ!
    高いところから見たいのだ、木登りは仕方ないではないか!』

     フォーリナーカードが実装され、定理者はその力が必要なときにだけ、盟約者である使者を異世界から呼び出すことができるようになった。
    呼び出された使者は、用が済んだ後は自らの世界に速やかに帰るのが普通だ。使者たちにとってはここ、セプトピアこそが『異世界』だ。セプトピアのロジックに適応すると体が変化し、セプトピアに住む人間や獣など、近しい何かに成り代わる。そのため、本来の世界で使えた超自然的な力を振るえなくなってしまう。だから彼らにとってこのセプトピアは、決して過ごしやすい世界ではないはずだ。
     しかし。たまに、呼び出されたあと、これ幸いとなんやかんや理由をつけてはなかなか帰ろうとしない者もいる。
     弥生の二人目の盟約者、このジスフィアの烏天狗・凪もその一人だ。
    「確かに、出会った頃のあなたの適応体は鳥でしたわね」
    『うむ』
    「なんで人間の姿になりましたの?」
    『・・・わからん』
     適応の仕組みについては、ALCAでも研究中だが詳しいことはわかっていない、と聞く。
    つい数年前までは、トランスジャックした使者に対する戦い方だったり逆理病に侵された人を救うことだったりが研究の主体だったのだから、まあ仕方ない。
    『待たせたな我が盟約者よ! では今宵の供物を頂戴に参ろうか!』
    「はいはい、食堂に行く前に、まずちゃんと手を洗うのですよ?」
     凪については学園長の許可を得たので、一晩ぐらいなら寮の自室に泊めることもできるし、食事も用意してくれる。
    『白樺寮の夕餉は実に滋味豊富な天上の果実。
     日頃ジスフィアにて霞を喰らうて生きる俺には、ふっ、過ぎた供物よ・・・』
    「まあ! ジスフィアでは霞を食べているなんて!
     ふふっ 万博さんに教えてあげたら、喜ぶかもしれませんわ。
     他にどんな物を食べているのか実験してみよう!
     とか言いそうですわね」
    『まてまてまて弥生、それはヤダ! それはヤーダー!』
    「安心なさい、本当に実験なんて、させませんですわよ?」
    『いや、うん、それはありがたい。
    そのう、霞というのも、まあ、そういう設定の方がカッコイイかなー、なんて・・・』

    凪は一度呼び出されると、こうして夕方の「日課」を済ませ、弥生や1年Sクラスの少女たちといっしょに食事をとる。その後、しぶしぶと故郷に帰っていく。

    『クククッ 我が輪廻が導きし宿縁の盟約者、橘弥生・・・
     再び悪がこのセプトピアに手を伸ばそうというなら、
     いつでも構わぬ。この俺を呼ぶが良い・・』
    「はいはい、わかりました、ですわ」
    『本当だぞ! 本当の本当に、呼ぶんだぞ!約束だぞ!』
    「ええ、遠慮なく呼びつけますわ」
    『では、サラバだ!』

    「いやー やっちゃんの二人目、凪は面白いっすねー!」
     そう声をかけてきたのは、同じ1年Sクラスのクラスメートで幼馴染の、京橋万博。
     凪と出会って盟約したのも、この幼馴染と一緒の時だった。
     そもそも凪は、自分の方からこのセプトピアに盟約者を探しに来た使者だ。
    あの楽しかった夏祭りのあと。
    白樺寮に帰る道の途中、黒い鳥ががぁがぁ叫びながら皆の回りを飛び回るものだから、さてはカラスが優勝メダルを取り返しにでも来たのかと身構えた。しかしよく見れば様子がカラスとは違うし、何よりまた万博のフォーリナーレーダーが鳴り出すので、まさかと思い学園の盟約室に連れて行ったのだ。
    盟約室で元の世界での姿―元体を現した凪は、居並ぶ少女たちを見て開口一番、言ったものだ。
    『お前たち、この俺と、悪を倒さないか?』
     あまりのセリフにぎょっとする一同の中、それに動じず
    「もちろん、悪はこの橘弥生が許しませんわ!」
     とすかさず返したこの幼馴染は凄い、と万博は思う。
    『くくっ そう言ってくれるのか。有難い。
     では早速だが橘弥生よ。今、この世界には悪の手が忍び寄っている!』
    「なんですって!」
    『闇に潜む巨悪を見つけ、暴き、葬るのが俺の役目だ!』
     この凪のセリフを最初に聞いたときは、一同大騒ぎになったものだ。
    まさかまさか、新たなる異世界からの侵略が!
    ALCAにも報告、至急調査と対策を!
    ―と盛り上がったところで。
    『ま、まてまてまて、おちつけ! 落ち着くんだ!』
    「これが落ち着いていられますか! 凪さん、早速ですが、その「闇に潜む巨悪」とやらについて、知っている限りの情報を教えてください!」
    『い、いや、そのう・・・
     俺もまだ、調査中というか、まだ詳しくはわかってないというか、これから設定するっていうか・・・』
    「わからないからこそ、調査が必要なのです! まずは貴方の知っている情報を―」
     と詰め寄った所で、後ろから弥生をつついたのが万博だった。
    「あー、やっちゃん、やっちゃん、それぐらいにしてあげるっす」
     見れば、凪はなんだか小さく背を丸めると―
    『・・・ゴメンナサイ・・・』
    全てが自分の「妄想」であることを認めた。

    「なんですか「設定」って! まったく、本気にしたわたくしがバカみたいではないですの」
    「まあまあ、良かったじゃないすか。本当じゃなくて。
    あたしもまさか、異世界から来た使者が中二病患者だーなんて、驚いたっすけどね」
    「全く、困った子を任されたものですわ」
    「そうすか? それにしては、やっちゃんも悪い気はしてないように、見えるっす」
     どうかしら、と弥生は肩をすくめてみせた。

    そんなある日。
     授業中の実技訓練で凪を呼び出した後、別れた弥生は、クラス委員の仕事が少し長引いたので、いつもより遅く寮に帰ってきた。
     ほとんど陽も落ち、いつもの「日課」に行っているであろう凪を迎えにいかなければ。そんなことを思いながら寮の門をくぐると、ほとんど同時に、凪も戻ってきたようだ。
     だが、その様子がなにやらおかしい。
     息を切らせて走ってくる。
    『わ、我が盟約者、橘弥生よ!帰ったか!
     く、くくくっ 
     今こそ、今こそ我らの力で正義を執行、闇を払い光をもたらしこの世に正しき風をもたらすのだ!! ふ、ふははははは―がほっげほっ』
    「・・・今度は何の設定なのです?」
    『ち、違う、今度は本当なのだ!』
     改めて話を聞くと。
     遠くの方、森の端に、赤いものが見えた、気がするのだという。
     さらに、風に乗って何か焦げた匂いもすると。
     それを聞いた弥生は―
    「―華凛、華恋」
    「はい、主さま」
    「おそばに~」
    「華凛はすぐに学園に向かい、先生方にこの事を知らせなさい。応援を頼むのです」
    「はっ!」
    「華恋はわたくしと来なさい。力が必要になるかもしれません、フォーリナーカードは持っていますね?」
    「ばっちり~」
    「凪、貴方はわたくしと合体しますわよ。すぐに現場へ向かいます」
    『弥生、その・・・ありが、とう・・・』
    「貴方のことは、盟約者であるこのわたくしが、一番わかっていますわ。
     ―まあ、貴方の勘違いなら、いいのですけれど」

     凪と合体した弥生は、烏天狗の力を得る。
     空を蹴る様に舞い上がると、上空から闇を見通す。
    「凪! 貴方が見たのはどちらの方角です?」
    『あっちだ弥生、見ろ! 火の粉が!』
     強化された感覚が捉えたのは、火の粉が踊る赤い色、生木が焦げる嫌な匂い、そして―
    『「―子供の声!」』
     空を駆けて闇を渡る。一気に近づく。眼下に見えたのは、炎に囲まれた二人の子供の姿だ。泣いている。
     間に合った。まずい。どうしよう。囲まれている。対策は?避難は?どうしてこんなところに子供が?火はどこから?
     弥生の脳裏を様々な思いが駆け巡るが、決断は早い。
    「凪! 貴方の力を!」
    『おお! 使いこなして見せろ!』
    『「ロジックドライブ! 神仙竜巻返しの術!!!!」』
     威力と範囲を絶妙に絞り込まれた竜巻が、子供たちを優しく包むと宙に巻き上げる。
    「華恋!」
    「お~まかせ~!」
     ついてきていた華恋が子供たちをキャッチするのを確かめると、気流を操り延焼が広がらないよう制御する。風を操る力で火を消すのは難しいが、応援が来るまで被害が広がらないよう防ぐことはできる。
     皆が華凛の先導でやってくるのに、時間はほとんどかからなかった。

     合体を解くと、弥生は凪に
    「お手柄ですわ、凪」
     と声をかけたが、その本人は何かを噛み締めたかのように拳を握って呟いている。
    『よ、良かった・・・お、俺も、俺にも正しい事が、正義の味方が、できるんだな・・・』
    「まあ、当たり前ですわ。
     この橘弥生の盟約者ですもの。正しい心で世界の役に立つ。当然の事ですわ」
     凪は何かを感じたかの様に、明るい笑顔を見せたが―
    『い、いや、この程度、お、俺の力をもってすれば容易いこと。
     フ、フハハハハハ―!』
     とまあいつもの調子に戻る。
     それでも、今夜は夕子に頼んで、食後に凪の好きなデザートを出してもらおう、と思う弥生だった。

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  • 哪吒太子

    哪吒太子

    強さと知性を兼ね備えている、ジスフィアの使者。あふれる正義感を持っており、平和を脅かすものには乾坤圏や火尖鎗を用いて、立ち向かう。クロエの必殺技のネーミングセンスには、疑問を抱いているとか。

     クロエ・マクスウェル & 哪吒太子

    クロエ・マクスウェル & 哪吒太子

    「ジスフィアの使者と盟約したいなー!」
    突然のクロエの発言に驚くアシュリー。
    「だってさー!シュリリンがシェリーっちとこの間盟約したでしょ!
    それを見てたら羨ましくなっちゃって!」
    たしかに先日、クロエの計らいにより、アシュリーはシェリーと盟約をすることが出来た。
    一緒に水族館に行った時のアシュリーの一言をクロエが覚えてくれていて、
    フィリルにお願いをしてくれたからこそであった。

    「それなら私も…」
    小さな声で呟くアシュリー。
    「ん?シュリリンどしたのー?」
    「い、いえ。なんでもないですわ!」
    クロエさんを驚かせるためにも秘密にしておきましょう!

    数日後、クロエはアシュリーから盟約室に呼び出された。
    「シュリリン、話ってなにー?」
    「私、あの…お礼に艶鬼さんにお願いしたんです」
    「お礼?お願い?」
    いまいち話を理解できていないクロエ。
    「艶鬼さん、お呼びいただけますか?」
    『アシュリーのお願いなら聞かんわけにはいきませんなあ』
    「えっもしかして!!」
    以前自分がアシュリーにした流れとほとんど同じだ、とここで気が付くことが出来た。

    次の瞬間、赤い服を身にまとい、炎を帯びた槍を持ち、自信にあふれた表情の女性が現れた。
    『あとは、お二人におまかせしましょ』
    「ありがとう艶鬼さん」
    二人を見守るアシュリー。
    先に口を開いたのは、ジスフィアの使者であった。
    『名前は?』
    「クロエ!クロエ・マクスウェル!あなたは?」
    『哪吒太子と呼ばれている』
    クロエは少し考えこんだ表情を見せ、
    「じゃあ、ナタッチだね!!」
    神妙な面持ちから一転、ぽかんとした表情を見せる哪吒太子。

    「よろしくね、ナタッチ!」
    まだ盟約をしていないのにもかかわらず、強引に話を進めていくクロエの様子に、
    アシュリーは苦笑いをしていた。
    『艶鬼から紹介をされたはいいが、盟約したい理由が、
    これまでの盟約相手にジスフィアの使者がいないから、とはどういうことだ?』
    自分に対して、初対面でここまで距離を縮めようとする者は、初めてかもしれない。
    ジスフィアでは、“太子”と呼ばれているだけのことはあり、尊敬の念を抱いて、
    接してくる者がほとんどであった。いや、戦いにも秀でていることから、尊敬よりも、“畏怖”であったのかもしれない。
    そのため、これまでに呼ばれたことのない名前で、しかも親しみを込めていきなり呼ばれることは、驚くべきことであった。だが、その気持ちを悟られないように、平静を装いながら、目の前にいる少女に疑問をなげかけてみた。

    「いろんな世界を知りたいんだ!ジスフィアのことをよく知るには、
    やっぱり使者との盟約かなって思ってさ!」
    『たしかに、知識が増えることで見えてくる世界もある。
    探求心があることは、良いことだ。私も、セプトピアの世界には興味がある。』

    2人の様子を見守っているアシュリーが、小さな声で、艶鬼に問いかける。
    「哪吒太子さんはどのような方なんですの?」
    『えらい強おて賢しゅうて、正義感にあふれておりますなあ。まるでうちみたいやわあ』
    (…最後の一言は、聞こえなかったことにしよう。)
    そんなアシュリーたちの様子をよそに、嬉しそうに口を開くクロエ。
    「じゃあ盟約してくれるってこと!?」
    『定理者として、戦う理由はなんだ?』
    鋭い視線でクロエを見つめ、制するように問いかける。
    「街を、みんなを守るためだよ!」
    自信を持って即答する。
    ALCAから強制召集という形で、定理者として戦うことになったが、
    自分の使命や立場に不満を感じたことは一度もなかった。

    「ま、戦うこと自体も好きだけどね!今はけっこう平和になったから、
    前ほど戦うこともなくなったけどねー!」
    と付け加える。
    『その言葉に偽りはないようだね。表情を見ればわかる』
    ふっと微笑み、
    『ジスフィアのこと、教えよう。私の知識は、きっと君を満足させることができるはず。
    もちろん、戦いとあらば、私の力を存分に使うといい』
    クロエの答えは、哪吒太子を満足させたようだった。

    ・・・・

    「よーしいくよ!ナタッチのスピード、甘く見てるとケガするよ!」
    『平和を脅かすというのなら容赦はしない!』
    風火二輪を操り、空を飛び回るクロエ。
    「いやー!空も飛べちゃうんだね!いろんな武器があって、楽しいね!」
    『クロエ、戦いに集中しよう』
    「集中してるよー!よしっ、いくよー!必殺“ハイパーファイヤーランス”だっ!!」
    『…火尖槍だ』
    盟約をしてから、クロエの持つ、裏表のない素直さをどんどんと知るようになり、尊敬していた。
    …が、“ナタッチ”といい、ネーミングセンスだけはいつまでたっても、あまり尊敬できるものではないな、と苦笑した。

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  • 懍玲

    懍玲

    ジスフィアからやってきた竜族の使者。玉姫の盟約者・小玲の姉。とある理由から、阿修羅に聖那を紹介してもらい、セプトピアにやってきた。

     揺音 聖那 & 懍玲【前編】

    揺音 聖那 & 懍玲

    その日、ALCAナイエン支局に二人の訪問者があった。
    訪ねて来たのは、キョウト支局のチームリーダーを務める定理者、揺音聖那。
    今日は休暇を使っての訪問だ。そして傍らに、一人の妙齢の美女を連れている。
    二人が訪ねた相手は、ナイエン支局では指折りの実力ある定理者、揺音玉姫。
    聖那の実の姉でもある。
    「おねぇちゃああああああん!!」
    「ふふ、聖那、ひさしぶり」
    飛びついて抱きつかんばかりの聖那と、優しく受け止める玉姫。
    でも実は玉姫の方が背が低く、眼鏡をかけていることもあって優美で知的な印象を受ける。ここ数年で、その印象はさらに高まった。
    聖那の方は、均整が取れた体を優れた運動神経に任せて鍛えぬいた感じがあり、スポーティーでアグレッシブな雰囲気をまとっている。
    ちなみに二人とも、すこぶるナイスバディだ。
    「ところで、そのお隣の方は?」
    「あ、ごめんごめん。お姉ちゃん、紹介するわ。この娘は懍玲」
    『懍玲、と申す。よしなに』
    不思議な雰囲気の女性だった。
    輝く金髪が飾る小顔の美しさはもちろんだが、和服に包まれた立ち居振る舞いには思わず目を奪われるものがある。
    「彼女は実は―」
    「-もしかして」
    なぜだろう、玉姫は彼女、懍玲に見覚えが合った。いや、初対面なのは間違いない。ただ、彼女の面影や喋り方に、何か知人に似たものを感じる。

    「もしかして―使者の方?」
    「さすがお姉ちゃん! そう、彼女はジスフィアの使者なの」
    聖那はジスフィアの使者、阿修羅と盟約を結び、様々な事件を戦い抜いてきた。
    今は世界がかなり平和になり、またフォーリナーカードが実装されたこともあって、阿修羅も故郷の異世界に戻った。ひとたび必要があれば、すぐに召喚に応じてくれる。
    そんな阿修羅が、故郷でこの懍玲から相談を受け、聖那に引き合わせたという。
    聖那が懍玲から持ちかけられた相談、それは。
    「ほら、懍玲、自分から言うんでしょ?」
    『う、うむ。無論、わらわの問題であるからな。相談することなど、ぞ、造作もない、のだぞ。
    ・・・だが、どうも日が悪いのではないかな。どうだろう、場所を改めてまずは卦を立てて』
    「あー! もう! 情けない!わたしから言っちゃうよ!?」
    『待て、待ってほしい』
    二人のやり取りを観ていた玉姫は

    「もしかして・・・ 小玲?」
    『ひっ』
    その名前を聞いた懍玲は、短い奇声を上げたまま固まってしまう。
    「うん、そうなのよ、お姉ちゃん。ほら、固まってないで・・・貴方も「お姉ちゃん」なんでしょ?」
    『う、うむ、そうなのだ・・・』
    ぽつりぽつり話すのを聞くと。
    彼女、懍玲は玉姫の盟約者の一人、ジスフィアの竜族の娘である竜媛皇珠 小玲の姉、なのだという。
    「でも、小玲は一族の子供の中で一番年上だ、って言っていたわ。
    だから竜族の次期後継者として、一族を導いていく使命がある、とか」
    『・・・小玲は、わらわの事を、知らぬ』
    「え?」
    「お姉ちゃん、なのに?」
    『実は、わらわは黄龍の一族から放逐されておる。小玲が産まれ、黄龍の力、雷霆の力を持っていることがわかった時、
    雷を出せぬわらわは不要、になったのじゃ・・・』
    放逐、という言葉の重みに思わず声を失う二人。
    ぽつりぽつりと懍玲は、自分の妹への複雑な思いを打ち明けた。

    竜族の媛、というのはお神輿に担がれて悠々としていればいい、というものではないらしい。
    行儀振る舞いを厳しく仕込まれる事はもとより、一族に受け継がれる様々なしきたりを守り、一族を継ぐという重責を常に意識させられる、という。
    そもそも、小玲が使者としてセプトピアに来たのも、一族のしきたりが理由だ。
    一方懍玲は、黄龍の一族に産まれながら、雷を出すことができなかった。
    一族が決めたこととは言え、それらの責任全てを放り出して妹に押し付けてしまった気がして、懍玲は気が咎めていた、という。会って詫びをしたいが、そもそもそんな話を聞いて、小玲は自分を恨むのではないか、という気もする。
    そもそも、ジスフィアの一族の里付近では人の目もあり、放逐された彼女が小玲に会うことはできない。
    日々悩んで過ごしていたところ、セプトピアと親交のある神々、つまり阿修羅や八雷神たちを通じ、セプトピアでなら会って話をすることができる、と思いついた次第。
    そういう事情なら喜んで、と玉姫が話を受けたその時。不意にロジグラフが鳴った。その意味は、聖那にももちろん判る。緊急事態を告げるアラームだ。

    「休憩中に済まない玉姫」
    「何があったのオルガ」
    「警察が追っている密輸組織だが、中に使者が混ざっている可能性がある。
    念のためALCAに協力要請が出た」
    「判った、ランデブーポイントを送って」
    「すまん、目立つからトランスポーターは使えないぞ」
    「了解。
    ―ごめん、というわけだから」
    「ええ、わかってる。事件が片付いたら、また」
    『勤めの無事を祈っておる』

    とはいえ、1時間やそこらで片付く話ではないだろう。
    支局を辞してホテルに戻ろうとしたその時、今度は聖那の個人端末が着信を知らせた。
    「-キ、キョウト支局の揺音聖那、アンタが探してるもの、見つけたわよ」
    ボイスチェンジャーを掛けた声。だが喋り方になんとなく聞き覚えがある気がする。
    いやいやいや。今なんてこの子言った?
    「-探してるものって、まさか!」
    「アンタの相棒、ジゼル・サンダースの喪われたロジックカード」
    瞬間、聖那の全身の血が沸騰した。
    いや、沸騰したかと思った。
    「・・・どこにあるの?」
    思った以上に冷静な声が出た。
    本当は叫びだしたいぐらい、心の奥で叫んでいる自分を感じる。
    でもダメだ。焦ってるときほど冷静に。
    定理者として様々な危険をかいくぐってきた経験がそうさせる。
    「とある密輸犯罪組織が拾ったみたい。
    海外のヘンタイ金持ちがオークションで高値を付けた。これから取引きするらしい」
    「どこで!」
    「その端末にデータを送る。取引は1時間後。急いで」
    決断に時間は要らなかった。たとえ間違いだろうと罠だろうと、構うものか。
    「わかった。・・・けどなんで貴方がこの情報を?」
    「ハッキングしてたら、ひっかかったの」
    着信したデータを確認。懍玲には視線だけで合図する。
    「データを確認したわ。でも、何故?」
    「『超幻戦記ファンタジア』」
    「え?」
    「知らないの?神ゲーなんだけど。
    オープニング、ジゼルが歌ってるの。超良い曲だから」
    「へぇ・・・」
    「今度、続編が出るんだけど。ジゼルにまた歌ってほしいのよ。だから」
    「わかった。ありがとう」
    「必ず取り戻して。でないと・・・呪う」
    不穏な言葉で通話は切れた。おそらく、発信者はたどれまい。それでも良いと思った。
    善意の第三者?に感謝することにした。

    経路を調べ、タクシーを捕まえる。
    道々、懍玲には事情を説明する。
    『なるほど、お主の相棒の、喪われたロジックカードを探しておったのか』
    「ごめん懍玲、現場から離れた所で下ろすから、貴女は避難していて」
    『何を申す。放逐されたとは言え、わらわは竜の媛。
    これも天祐、恩を返す機会を先祖の竜神が与えてくれたのであろう。
    あてにするがよい』
    「ごめん、ありがと」

    タクシーで近くまで行き、あとは歩き。
    移動しながら、一応キョウト支局にもメールを入れておく。
    ・・・と、すぐに通信が入ってくるが、これも心で謝りながら着信を切る。心配させているだろう。
    なにしろ休暇の今、彼女はフォーリナーカードを持っていない。盟約者の阿修羅やライアを呼ぶことはできず、鍛えぬいた体だけが頼りだ。

    現場の港付近まで行くと・・・驚いたことに、そこには姉の玉姫がいた。警官隊の姿も見える。
    「おとなしく投降しなさい! ここは完全に包囲されている!」
    それに答えたのは、物が崩れる耳障りな轟音だった。
    「バーカ! 大金がかかってるんだ、諦められるかよぅ!」
    コンテナが崩れ、港湾施設のクレーンが倒れている。
    警官隊が遠巻きにするなか、蛇腹のマジックハンドやらホースやらダクトやらをいくつもくっつけたような異形が、その腕を振るって暴れている。

    -まさか、トランスジャック?
    いや、違う。逆理領域は展開されていない。
    ・・・つまり、この異形は合理体。相手は、定理者、なのだ。
    ALCAに管理されない、違法な定理者の存在は噂されていたがー

    『フウフフフ、キミたち人類の行動は、実に興味深い』
    「お気に召しましたかね、“教授”」
    『ココロ、というアルゴリズムの解析には、やはりフィールドワークが最適だ。
    さあ、好きに吾輩の機能を運用したまえ』
    「了解っすー!」

    「下がってください!」
    鋭く叫ぶのは玉姫。一歩前に出ると、懐からフォーリナーカードを掲げ、叫ぶ。
    「ゲートアクセス!ジスフィア!」
    光り輝くゲート。そこから現れるのは―
    『あれは!小玲!』
    そう。まばゆい稲妻をまとって、黄龍の姫君、竜媛皇珠 小玲が現れた。
    そしてたちまち玉姫と合体。
    「定理者としての力を悪事に使うなんて!私が」『わらわが』
    「『許さない!!!』」
    相手はどうやらトリトミーの機械人との合理体のようだ。ならば。
    『わらわたちの雷撃には耐えられまい!!』
    放たれる猛烈な雷撃が、相手の合理体を直撃。だが。
    『フウフフフ、キミたちはこの世界の物理学を知らないのかね?』
    なんということだろう。合理体から伸びたホースから海水が噴き出すと、
    雷撃を海に流す避雷針になっている!
    「くっー! ならばもっと近くからー」
    『そうはいきませんぞう』
    海水がさらに勢いよく噴き出すと、包囲している警官隊を水浸しにしていく。
    「まずい!」
    この状態で雷撃を使えば、警官隊も巻き込んでしまう。ならば、トランスチェンジで―
    『フゥフフフ、その隙は与えませんぞう』
    伸びたマジックハンドが玉姫をつかみ上げ、そのままぐいっと絞り上げる。
    玉姫と小玲の絶叫が響いたー

    「お姉ちゃん!!」『小玲!!』

    ここまで、物陰からかたずをのんで見守ることしかできなかった、聖那と懍玲。
    この時、二人の思いは一致していた。
    『聖那!』「懍玲!」
    伸ばした手がからみあう。
    お決まりの盟約文すら必要なかった。
    『「合体!!!」』

    次の瞬間。
    玉姫をつかんでいたマジックハンドが、その体からぽとりと落ちた。
    「い、いてぇえええええ!!!」
    『わ、わたぁしの3号ハンドが!!!』
    見れば肩口が赤く溶け落ちている。恐ろしいほどの高熱を瞬間的に浴びせられたのだ。
    その視線の先には、怒りに燃える蒼い竜の媛がいた。

    「おねぇちゃんを」『わが妹を』
    「『傷つけるやつは許さない!!!』」

    黄龍の血に連なる者は、雷を自在に操る力を持つ。
    だが、ごくまれに、その力を持たない者が産まれることがある。
    それは遥かな昔、一族に交わった、ある竜の媛の力。一族の長い長い歴史のなか、忘れられ失われた力。それが蘇り、宿るからだという。
    その力は、蒼炎の力。赤い炎よりもなお熱い、敵を焼き尽くす蒼き炎の力だ。

    「こ、このー!」『吾輩の機能はこの程度ではありませんぞう』
    ホースやら周囲のコンテナやら海水やら、次から次へ猛烈な勢いで投げつけてくるものを、宙に浮かぶ蒼い結晶体がことごとく迎撃。ぶつかる端から燃やし、溶かし、消し炭に変えていく。
    いつの間にか周囲はむっとする熱気に当てられ、あたりの水気は消し飛んでいた。

    「今だよお姉ちゃん!」『小玲、とどめはお主が撃つのじゃ!』
    玉姫と小玲の雷撃が、今度こそ敵の合理体を直撃。抗する術はなく、相手はたちまち合体を解いていく。
    『うむ! 見事な雷霆じゃ。流石は竜媛皇珠の名を継ぐ者ぞ』
    その時初めて、小玲も玉姫を通して聖那、そして懍玲の姿を見た。
    『・・・その姿、その力・・・ もしや、竜族の者かや?』
    『お初にお目にかかる。わらわは懍玲。我もまた、黄龍の血に連なる者―』
    『そうか、そうか、そなたの炎も、実に見事じゃ!
    何やらお主には、近いものを感じておる!
    話を、聞かせてくれぬか?』
    『ええ、わらわも、そう、願っておった・・・』

    その時。
    玉姫と聖那の注意は確かに倒した相手から逸れていたが、それを責めるのはあまりに酷というものだろう。
    警官隊に取り押さえられようとしていた犯人、定理者であろう人間の方が立ち上がると、どこからかアタッシュケースを取り出し掲げると、叫んだ。
    「お、お前たちに渡すぐらいならー!」
    まさかその中には―!
    「返して!」
    気づいた聖那の悲痛な叫びが響く中、鈍い音がしてアタッシュケースが破裂した。

    ジゼル×此花咲耶編に続く!

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  • 此花咲耶

    此花咲耶

    花を愛するジスフィアの桜の精霊。生命を産む力を持っている。まだ見たことのない美しい花を見ることを夢見ている。

     ジゼル・サンダース & 此花咲耶【後編】

    ジゼル・サンダース & 此花咲耶

    聖那とジゼル。
    向かい合った二人の間に置かれていたのは、所々焼け焦げたように破損した、1枚の透明なカード。
    -ジゼルの、喪われたロジックカードだ。

    「-ごめん」
    絞り出すように一言。言ったきり、うつむく聖那。
    あの時、犯人はアタッシュケースのセキュリティ機構を使い、自爆させた。
    収められていたロジックカードは、この様に見る影もなく破損。
    回収後、これを修復する術はないかと、玉姫を始めナイエン支局のスタッフたちが
    総出で当たってくれたのだが―
    残念ながら、玉姫の盟約者であるトリトミーのキュア・メディスン119による治療も、テトラヘヴンのヴィーナスによる回復も、この傷ついたロジックを修復することはできなかった。

    「・・・・」

    ジゼルは、無言だ。
    無言なのは当然。このロジックが喪われたために、彼女は声を喪ったのだ。

    人気絶頂にして、今こそトップアイドルの座に就こうとした時に定理者の資質が開花してしまい、そのまま強制招集を受けたジゼル。
    今、平和になったこの世の中でこそアイドルに返り咲き、本来の自分の道を華やかに駆け登っていいはずの彼女。
    だが彼女は、冥府のオーゾとのグロリアストーンをめぐる戦いの中、人々を守るためオーバートランスを決行した聖那を助けるべく、自分もオーバートランスを敢行。聖那を守ることはできたが、自分は1枚のロジックカードを失くしてしまった。
    そのロジックこそ、彼女の「声」のロジック。
    これなくして、彼女が再びアイドルとして舞台に立つことは、もうないだろう。

    無言のまま、手を伸ばして聖那の肩に触れる。
    思わず顔を上げた聖那の前にあったのは、ジゼルの笑顔、だった。

    (見つけてくれてサンキュー)
    (しかたないじゃない)
    (ま、なんとかなるって)

    肩をすくめるようなジェスチャーと、くるくる動くハンドサインでそれだけ伝える。
    そしてジゼルは、くるり体を翻すと部屋を出て行った。

    「・・・・」

    一緒に死線をくぐってきた相棒だ。
    聖那にはあれが、懸命に作り出した笑顔だという事ぐらい、わかっていた。
    わかっているからこそ、追いかけられない。
    と、その時。
    聖那の新しいフォーリナーカード―懍玲と盟約後にあつらえたものが、光り輝いた。

    そのころ、ジゼルは一人、夕焼けの見えるバルコニーにたたずんでいた。
    (さすがにこれは・・・しんどいな)
    今まで、どんな苦境、運命のいたずらであろうとも、屈せず戦ってきた自負がある。
    恵まれていたとは言えない家庭環境も、デビューしてからの衝突や軋轢も、全部自分の実力で黙らせてやった。
    定理者に「させられて」しまったのは正直閉口したし、あの最後のライブ以降に組んでいたツアーの計画が全部パーになったのは許せなかったが・・・逆に言えば、「元」定理者なんて肩書を持ったアイドルはいない。オンリーワンだ。これを武器に、返り咲いたら必ずナンバーワンになってやる。
    そう、思っていたの、だが。

    ちょっと泣きそうだったが、泣いてやるのは悔しいので。
    近くに、心配して八雷神が来ているのもわかっていたので。
    泣く代わりに、思いっきり叫んでやった― 声は出ないんだけど。

    だんだんだん!
    そこへ、騒がしい足音とともに、駆け込んできた者たちがいた。
    もちろん、こんな時にこんな騒がしい奴は、あいつしかいない。
    相棒の、聖那だ。

    「ジゼル! あんたのロジックカード、治るかもしれない!」

    ほら、なんとかなるじゃない? 相棒のことは、少しだけ、信頼している。

    場所を移して盟約室。
    部屋がジスフィアの荘厳な風景に変わると、そこに現れたのは巨大な桜の樹。
    風が舞い、桜吹雪の中、ひと柱の女性が進み出てきた。

    『初めまして、私が此花咲耶です』

    まさしく桜の精、といった風情の、美しい女性だった。
    儚げな微笑み。たおやかな所作。
    みれば、彼女の周囲では常に花が咲き、散り、再び咲いている。
    (-! 私としたことが、女の美しさに目を奪われるなんて!)
    流石はジスフィアの女神。ちょっと気を引き締める。
    そして喋れないジゼルの代わりに、八雷神が望みを伝える。
    『-というわけで、貴女の生命を産む力で、なんとか彼女のロジックを修復していただきたいのです』
    此花咲耶は、柔らかな微笑みを浮かべながら、言った。
    『確かに、わたくしの力ならば、それはできるかもしれません』
    『では、お願いします、なんとか、彼女を助けていただきたい!』
    『・・・八雷神、貴方には、私の山をひとつ焼かれたことがあったわね』
    『! た、確かに。しかしあれは、ずいぶん昔の話というか、若気の至りというか、・・・あ、謝ったではありませんか!』
    一部始終を見守る聖那や阿修羅、懍玲、そしてキョウト支局の定理者、使者スタッフたち一同が思わずぎょっとする。
    いつも穏やかで冷静、知的で執事の様な佇まいの八雷神に、そんな過去があろうとは。
    『まあ、俺が闘神、争いの神であったように、熱と炎、雷の神である八雷神も、もとはと言えばけっこうやんちゃな方だったからなぁ』
    此花咲耶は笑みを浮かべたまま答える。

    『そうですね、まあ確かに、昔の話、ですし。
    神の昔の行状をほじくり返して人にご迷惑をかける、というのもジスフィアの神格としてどうかと思いますし、ね。いいでしょう、そのお話、お引き受けいたします』
    ほっとした空気が流れた、その次の瞬間。

    『ただし、一つだけ条件を付けさせていただきます。
    -花を。
    わたくしが見たことのないような、美しい花を、見せてくださいまし』

    早速。
    キョウト支局、そして連絡の行ったALCAナイエン支局、あるいは有志の定理者・使者・スタッフたちが、様々な花の写真、動画、データを送ってきてくれた。
    例えば、セプトピアでも高山の片隅に咲くという雪割草。
    モノリウムの生命力を代表するかのような、力強い大輪の薔薇。
    テトラヘヴンの神の果樹園に数百年に一度咲くという桃の花。
    トリトミーからは、「計算上、最も数学的に美しいとされる曲線の組み合わせで作った」花の画像なんてものまで送られてきた。
    だがそのいずれを見ても、此花咲耶は
    『ええ、美しいですね。でも、そのぐらいならわたくし、どこかで見たことがありますわ』
    と言い、首を縦にはふらなかった。

    『ええい、此花咲耶姫よ、この黄龍が末裔、竜媛皇珠小玲も頭を下げる。
    なんとか、助けてやってはくれぬか』
    『こたびのこと、わらわの力足らずが故でもある。この懍玲も、どうかお頼み申しあげる』
    『なあ、頼むぜ咲耶、俺にできることなら、なんでもするからよ』
    『私の過去が許せぬというなら、この私を罰していただきたい、彼女にはなんの咎もないことではないですか!』
    桜の木の下、何人何柱もの使者が訪れた。
    そのいずれにも、此花咲耶は柔らかい笑みをたたえたまま―
    『なるほど、あのジゼルという娘は、ずいぶんみなに慕われているようですね』
    首をかしげると、笑顔のまま、言った。
    『しかし、あなたたちも忘れているのでは?
    神というのは、人に恩恵を与えるだけの存在ではありません。時には試練を、与えるものですよ』

    花、花、花。
    植木鉢や花壇、生木や花束、さらに大判に刷り出された写真や投影されたデータにいたるまで。
    キョウト支局の盟約室は、ありとあらゆる花々で埋め尽くされていた。
    そのどれもが、ジゼルの「声」の復活を願って送られてきたものだという。
    部屋の隅で膝を抱えていたジゼルの視界に、またひとつ花輪が運び込まれてきた。

    ―祈 ジゼルさん復活 ジゼル・サンダース ファンクラブ一同より

    どこからか、今回の騒動が漏れたらしい。
    未だに活動を維持しているという、彼女の私設ファンクラブから送られてきた花輪だった。

    (・・・まったく。わかった。わかりましたよ)
    声にならない声で、そう、つぶやくと。
    ジゼルは花輪に手を伸ばし、一輪引き抜いて自分の髪に挿した。

    盟約室を起動させると、再び桜の木の下に此花咲耶がいる。
    『おや、今度はその挿した花が、私にみせたいものですか?』
    いいえ、とばかりに首をふる。
    自前の端末を取り出すと、曲を選んで再生。音量を最大にセット。
    指を揃えて突き出す。
    勝負を挑む。
    『まあ! これは楽しみです』
    曲が流れだした。
    ジゼル・サンダース、最大のヒット曲。
    あのスタジアムでかけた、最高のダンスナンバー。
    アイドルを休業させられた時からも、一日だって自主トレをさぼったことはない。
    一挙一動、頭のてっぺんから指先の端の端に至るまで、全身の神経に気を入れてコントロール。
    思い描く表現をなぞっていく。

    一曲、踊り通した。

    『-これが、貴女の見せたい、花ですか?』
    声が出ないから、せめて視線で答える。
    これが私。
    ジゼル・サンダースという、花。
    (どう? 此花咲耶!)
    『ふふっ、ありがとう、素敵な花を見せていただきました。
    ですがこれは未完成』
    (そうね)
    『本来なら、これに貴女の歌が、つくのですよね―
    ええ、わたくしもそれが、見たくなりました』
    ついと伸ばす手が、ジゼルの手を取った。
    『いいでしょう、ジゼル・サンダース。
    わたくし此花咲耶が、貴女の花を、もう一度咲かせてみせましょう』

    かくして。
    此花咲耶はジゼルと盟約を結ぶと、合体し、傷ついたロジックカードを取り込んだうえで、
    彼女の声を取り戻す事を約束した。
    『でもジゼルさん、今までと同じ声に戻る、というわけではありません。
    この傷ついたロジックを元に、私の力で、もう一度、声を「産みなおす」のです。
    種から芽が出て花を咲かせるように、もう一度。
    だから元通りになる、とは限りません。
    どんな花が咲くかは、貴女次第です』
    (それでいいわ。どんな声でも私の声だもの。もう一度、咲かせてみせる。
    アイドル、ジゼル・サンダースの花をね!!)

    数か月後。
    アイドル兼定理者として活躍するジゼル・サンダースの復活ライブが開かれ、多くの観客が彼女の復帰を祝った。
    職務上の事故で歌えなくなったのでは、と心配されていた彼女だが、それは杞憂であった。
    音楽関係者によれば、復帰後の彼女の歌声は、以前よりもさらに力強くかつ繊細で色気があり、
    一言で言うと「華がある」、とのことだ。

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  • 鬼道丸

    鬼道丸

    ジスフィアから甘味を求めてやってきた鬼の使者。
    派手な格好にくわえ、口を開けば若者言葉と、とてもギャル。
    本人曰く、芽路子はニコイチでズッ友。

     当麻 芽路子 & 鬼道丸

    当麻 芽路子 & 鬼道丸

    「はぁ………」

    芽路子は今日も、ひとり日差しのもとを歩いていた。
    しかし、いつもとは異なり口から出るのは独り言ではなく溜息ばかり。

    先日、盟約を交わしたテトラヘヴンの死神・タナトスは、とにかく明るく死を説いた。
    威圧的ではなく、まるで教師のように、死とはどんなにすばらしいものであるかを説いていくのだ。

    さすがにそんな話をいつまでも聞かされ続けては芽路子でさえも嫌になる。
    とっさに出した使者カードでタナトスをテトラヘヴンに強制送還したのだ。
    それがつい10分ほど前の話である。

    「もう嫌…死神なんて……結局理想なのよ……」
    「じゃあ鬼はどうよ?メッチャ強いよ~」
    「鬼なんてどうせ退治されるじゃない…」
    「それは童話とかの話っしょ?アタシは違うけどな~」
    「ていうかアンタ誰よ!!」

    陽気な声に振り向けば、そこには着物のような和服を着た、ピンク髪の派手な少女が芽路子の隣を歩いていた。

    ピンク髪…眼帯……DQN…厨二病……ヤバイ…

    あまりにも派手過ぎるその少女に、芽路子はもはや言葉も出なかった。

    「ねぇねぇ、アンタ、定理者っしょ?」
    「……な、なんの話?」
    「隠さなくていーって!私も使者なんだけど、さっき、使者を門カード??で送り返してるの見ちゃったんだから!」

    まさかあれを見られていたなんて…!
    芽路子には嫌な予感しかなかった。

    「ところでさ、こっちには、うまかわな甘味があるんしょ?アタシ、それ食べたいんだよね!案内してよ!」
    「なん、なんで私が…!」
    「こっちでアタシがひとりうろついてたら怪しさMAXじゃね?でも、定理者が近くにいるなら別っしょ。だからヨロ!」
    「はあ?私になんの得もないじゃない…」
    「甘味ご馳走してあげるからさ!んね、んね!?」

    キラキラとした片目をこちらに向け、いつまでも食い下がる少女。
    通りすがりの人の視線も後を絶たず、芽路子は今日一番の盛大な溜息を吐いた。

    「わかったわよ……食べたらとっとと帰りなさいよ」
    「マジ!?あざお~!あ、ところで名前なに??アタシ、鬼道丸!」
    「……芽路子」
    「芽路子ね!りょりょ、早くいこーよ!」

    「ま、待ちなさいよ…!」

    芽路子の手を取り、鬼道丸は飛び跳ねる勢いで駆け出した。
    行く店は決まってんの、方向わかってんの、と問う暇もなく、鬼道丸に引き摺られないよう、
    芽路子も必死で足を動かした。

    「芽路子、ゴチ!」
    「……わ、私のお金が…リア充デザートになってしまった…」

    結局、鬼道丸の行きたい店は決まっていたらしく、芽路子は流れるように入店した。
    そこで注文したデザートは季節のフルーツもふんだんに使用し、甘さも控えめで確かにおいしかった。
    しかし、鬼道丸はこの世界で使用できるお金を持っていなかった。
    カウンターにお金ではないものを堂々と並べた鬼道丸を見る店員の目が芽路子に向き、芽路子は慌てて自分の財布からお金を支払ったのだ。

    「こっちのお金ないの忘れてたんだって~!めんごめんご!」
    「それなのにどうして食べたいとかいうのよ…!」
    「ねぇ芽路子……アタシらってさ、もうニコイチじゃね?」
    「…は?」

    あまりに唐突な意味不明発言に、芽路子はビタリと立ち止まった。
    鬼道丸は立ち止まった芽路子より一歩前に出て、片足でくるん、と振り向く。

    「こーやってエンカして、一緒に甘味食べて、帰るってさ……ニコイチじゃん?」
    「いや、全然…」
    「まー聞いてって!芽路子と一緒に甘味食べたの、テラ楽しかった。
    芽路子、アタシと盟約して、ズッ友になろう!」
    「私は別に……意味わかんないし辞めて」
    「え~!そんなこと言わないでさ~」

    これ以上付きまとわれても困る、というのが芽路子の正直な考えだ。
    だが鬼道丸はきっとなんだかんだ言ってこの後も芽路子の傍に居座ろうとするだろう。
    どうにかして鬼道丸を他の定理者のところに追いやりたいが、芽路子のことがALCAにバレても面倒くさくなるのが事実。
    そんな芽路子に不安をいだき、鬼道丸は自分の力をアピールし始めた。

    「ねね、アタシ、めちゃんこ強いから!超怪力だよ??おっきー刀も振り回せるし、岩だって人間だって一握りでバラバラになっちゃうんだから!」
    「…人間も?」
    「え、ソコ?ソコ突っ込んじゃう系??まーいいけど…」
    「人間も懲らしめられるの?」
    「モッチ!芽路子、私の怪力、ナめてない??もう、こう……ぎゅってしたら粉々だかんね!」
    「い、いいわね…フフフ…!」

    芽路子は考えた。
    もしその怪力を私の力にできるなら、それは大いにアリではないか?と。
    その怪力を以てして、握りつぶすまではいかなくても、脅したり、懲らしめたりと、
    芽路子にとっての利点が多そうだ。

    「盟約してあげてもいいわ。その代わり、私が力を揮いたいときは迷わず貸しなさい。
    そうしたら、月1回までならリア充デザートも食べさせてあげる」
    「本当に!?さっすが芽路子~~!」
    「”ニコイチ”にも”ズッ友”にもなってあげるから、約束は守りなさいよ」
    「あったりまえじゃーーん!」

    フフ……勝った!オカルトの力と使者の力で、私に逆らうリア充はいなくなるのよ!

    鬼道丸はニコニコと芽路子の手を取り、その手を高く掲げた。

    「芽路子!今日からアタシ達、ニコイチでズッ友だかんね!」
    「そ、そうね、アンタと私は”ニコイチ”で”ズッ友”よ!」

    ………ところで”ニコイチ”と”ズッ友”ってなに?

    その後、芽路子は「ニコイチ」「ズッ友」の意味を調べ、丸5日間自室に籠った。

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