キャラクター&ストーリー

ジスフィア

  • 羅刹

    羅刹

    剣の道を極めたい武芸者。
    ジスフィアからセプトピアに来たのも、武者修行の一環。
    ただし暴れ者ではなく、戦う場所と相手は求めるが無関係な者を傷つけることに意味は無いと考えている。

     剣 美親 & 羅刹

    交わる求道者の刃、さらなる高みへ

    定理者と盟約者は必ずしもはじめから仲間だとは限らない。
    羅刹が初めてセプトピアに降臨した時、彼は剣美親の敵だった。

    羅刹は数々の伝説を残すジスフィアの鬼族の異端児。
    六本の腕を有した羅刹は二歳の頃から剣術に強い関心を示し、
    五歳の頃には六本の腕それぞれに異なる流派の剣技を体得。
    十歳の頃には六つの剣技を駆使した独自の流派『六鬼流』を以って、
    たった一人で幻龍を討伐したと言われている。

    羅刹は常に渇き続けた。
    さらに自分を高める為、多くの強者狩りを重ね、
    死線をくぐり抜けながら、己の腕を磨いていたのだ。

    彼にとっては『剣術の追求』こそが全て。

    そんな折、セプトピアとモノリウムの抗争が勃発。
    羅刹はこれを好機と捉えた。
    ジスフィア以外の世界ならば、さらに未知の強者が存在しているに違いないと考えたのだ。
    羅刹は狩場を求めて、セプトピアへとやってきた。

    そんな彼には揺るぎない三つのロジックがあった。

    《その一、決して群れない》
    《その二、格上と判断した相手にしか刃を向けない》
    《その三、相手の命を奪うことはしない》

    彼はセプトピアの人間を媒体にトランスジャックしては、
    モノリウムの屈強な獣たちを相手に敗北知らずの戦いを重ね、その腕を磨いていった。

    そんな彼が初めて敗北することになったのが、一人の若き定理者だった。
    額には鉢巻き。
    ジスフィアのサムライの戦闘服を着こなし、刀を肩に担いだ剣美親だ。

    なぜか母世界ジスフィア由来の装具に身を包んだ若者に対し、
    羅刹は一抹の疑念を抱いたものの、
    襲いかかってくる美親をかわし相手にしようとはしなかった。

    「なぜかかってこない……?」
    『……格下の相手に刃を向けるつもりはない』

    しかし羅刹にその気がなくとも、美親には戦う理由があった。
    羅刹にトランスジャックされた人間を救う為だ。

    本気を出さない羅刹に対し、果敢に挑む美親。
    そんな戦いの最中で美親はみるみる成長し、やがては羅刹の剣技を上回って討伐したのだ。
    羅刹は初の敗北に辛酸を舐めた。
    しかし不思議と清々しい気分でもあった。

    『思い残すことはない……斬れ』
    「……それはできない」

    どんな悪しき使者であろうとも尊い命を奪うことはしない
    信念を掲げていた美親は羅刹を捕獲。ALCAの監獄へと移送させた。

    捕虜になった羅刹がその後、美親に盟約を申し入れるまでそれほど時間はかからなかった。
    彼にとってみれば初の敗北相手である美親と共に
    戦場で剣の腕を磨くことは、この上ない悦びでもあったからだ。

    一方の美親がそんな羅刹の申し出を快く受け入れた理由はただ一つ。
    《相手の命を奪うことはしない》
    という羅刹のロジックに共鳴したからだった。

    が、美親と羅刹の出会いが、哀しき運命の序章であったことを知る者はいない──。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 緋華

    緋華

    ALCAに協力する為にジスフィアからやってきた、女サムライ。
    かなり高い剣技を持ち、若いがいろいろと修羅場をくぐってきた人物。
    普段は柔和な表情を浮かべているが、戦いの際は目つきが鋭くなる。

     剣 美親 & 緋華

    ぶつかる信念、通じ合うロジック

    剣美親は世界各国に存在する定理者の中でも稀有な能力を有する若者だった。

    無限の精神的キャパシティ。
    圧倒的な肉体的忍耐力。
    そして何よりも己の信念を曲げない意志の強さは、
    まさに天が授けた定理者の申し子。

    中学生の頃、定理者の能力が開花し、
    ALCAホンコン支局に所属することになった美親は、驚くほどの速さで戦術論を吸収。
    まさに期待の大型新人だった。

    ホンコン支局長は早速、彼に最も相応しい盟約者を選定。

    白羽の矢が立ったのは、ジスフィアからALCAの加勢に参じていた
    国士無双の女サムライ、緋華。

    緋花は封刀「神楽」を携え、ジスフィア随一の高い剣技と生存力で
    若い頃から死線をくぐり抜けてきた猛者だった。
    その才を買われ、異世界間紛争の火消し役として特級外交官の任を務めていたのだ。

    普段は呑気で柔和な表情を浮かべている緋華だが、
    時折見せる眼光の鋭さは目を合わせた者を畏怖させ、
    戦意を大きく削ぐ力を宿していた。

    ホンコン支局長の采配によって、美親と緋華は盟約を前提とした接見を行うことになった。

    「はじめまして緋華さん。あなたと盟約できるのならとても光栄です」
    『……茶番だな。あなたは私の何を知っているというのだ』

    本来、盟約とは定理者と使者が互いのロジックを信頼し合い、
    その命を預け合う契りを結ぶことである。
    当然その相手の選定は慎重でなければならないのだが、
    美親は支局長の采配に身を委ね、緋華との盟約を安易に受け入れようとしていた。

    緋華は、美親が盟約の重みを侮っていると感じ、彼を試していたのだ。

    『守れない契りは交わさない……それが私の信条でね』

    緋華は眼光鋭く美親を見据え、彼の意志を試した。
    しかし美親は緋華から目を逸らすことなくジッと見つめていた。

    普通の相手ならば即座に畏怖してしまうであろう彼女の眼力が、彼には通じなかったのだ。

    「すみませんが、議論している時間はないんです……
     使者はいつこの街を襲ってくるか分かりません。
     いつこの街を、この街の人々を、壊してしまうか分からないんです……
     俺はこの街を守りたい……子供たちの夢を守りたいんです!」

    美親の言葉が緋華の心に深く刺さった。
    彼女の唯一にして最大の弱点──それは彼女が何よりも子供が好きであり、
    子供を守る為となると冷静さを欠いた無謀な戦い方をしてしまうところがあった点だ。

    「緋華さん。あなたは俺のロジックを受け入れてもらえますか?」

    この時、緋華の美親を見る目は百八十度変わった。

    盟約を侮っていたのは彼の方じゃない。むしろ自分の方である、と──。
    そして美親はこの若さにしてすでに、揺るぎない意志の力を持っている、と──。

    緋華は思わず口元に笑みを浮かべた。

    後に一つの伝説を築き上げることになる
    定理者、剣美親の初めての盟約はその瞬間、成立した──。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 竜媛皇珠 小玲

    竜媛皇珠 小玲

    ジスフィアの竜族の姫。
    一族の掟に従い、嫌々ながらセプトピアに修行にやってきた。
    が、ALCAに到着してからもワガママばかりで周囲を困らせていた。
    そこへ玉姫がお姉さんとして懐柔。見事になついている。

     揺音 玉姫 & 竜媛皇珠 小玲

    新たな時代へ…

    厚い雲に覆われていた空から陽光が差し始めた。
    それはまるで、ALCAの作戦が成功したことを人々に知らせるかのようだった。
    各避難所で不安な日々を過ごしていた人々は、ふと手をとめて、
    天使の梯子のような光の柱を見つめた。
    ナイエン区から遠く離れた、とある高台の療養施設でも、
    心配そうに街を見つめていた一組の男女が、

    『希望の光のようですね……』
    「うん……」

    と、手を取り合っていた。

    「晴れてきたね……」
    『そうですね……』

    キュアと合体している玉姫も研究所内の窓から降りそそぐ陽光を眩しそうに見つめた。
    作戦は終焉に近づいていた。
    ゲートカードの暴走は停止。
    定理者たちは残る使者たちの掃討に動いていた。
    玉姫とキュアは逆理病者の救助を手伝いつつ、戦う仲間たちの救護に務めていた。
    (ここにもいない……)
    玉姫は逆理病者の中に、ヴェロニカの姿を探していた。
    新型ゲートカードを託された直前まで、
    玉姫はヴェロニカと一緒にこの研究所にいたのだ。
    その後、連絡は途絶え、一連の騒動に巻き込まれた可能性が高い。
    ヴェロニカのことだ。そう易々と、犠牲になることはないとは思うが――。
    今も、見つからない現状に、玉姫は不安を覚えつつあった。

    「た、タマヒメ……」
    「!!」

    振り返ると、戦闘で傷ついたクロエがやってきて、膝から倒れた。

    「さっき倒したヤツに毒があったみたい……」
    「大丈夫。お願いキュア」
    『はい!』

    玉姫は薬剤の入ったグレネード弾をクロエに向かって発射する。
    薬剤によって毒が中和され、クロエの体力が回復した。

    「サンキュー……これでまた戦える……」
    「ダメよ! 体力の回復は一時的なものなんだからちゃんと休まないと!
    今、救護班に連絡するわ」

    その時、不気味な唸り声が響き渡り、
    あらゆる計器がパラドクスレベルの急上昇を伝える。
    ズシンズシンと、足音を響かせ、巨大な鬼のような使者が近づいてきた。

    「ラスボスって感じだね……」

    立ち上がろうとするクロエを制する玉姫。

    「ここは私に任せて」

    玉姫はキュアとの合体を解除し、ゲートカードで小玲を呼び出した。

    『待ちくたびれたぞ』

    長らく呼び出されなかったことが不満なのか、頬を膨らませる小玲をなだめる玉姫。

    「それなりの強敵じゃないと、小玲を呼ぶわけにはいかないから……」

    自尊心をくすぐられ小玲はニンマリ。

    『仕方ない。わらわが力を貸してやろう』

    そんな話をしている間に、敵は間近に接近していた。
    唸り声を上げ、巨大な拳が玉姫と小玲に襲いかかる。
    合体しながら攻撃を躱した玉姫と小玲。
    空振りした敵の鉄拳で、床が大きくえぐれている。

    『馬鹿力じゃのう。どーれ、小手調べじゃ!』

    玉姫と小玲は敵に雷撃を放つ。
    敵は避けようともせず、雷撃を身体に受け止め、平気そうにニヤリと笑う。

    「さすがラスボス……」
    『なんじゃラスボスとは?』
    「最後の強い敵ってことよ」
    『なに最後!? ならば、今やらねばあの技は当分使えぬではないか!』

    焦ってロジックドライブと放とうとする小玲を止める玉姫。

    「いや、もっと敵を観察したあとにしましょう!」
    『ならん! 今じゃ!!!』

    ―そんなワガママを、とは思いつつ、素早く状況を確認する玉姫。
    研究所の廊下いっぱいにせまる巨体。腕力が強く、そしてタフな様だ。
    だが背後にはキュアと、治療したばかりのクロエがいる。
    彼女たちをかばいながら逃げるのは難しいだろう―

    「いいわ、やりましょう!!!」

    覚悟を決めた玉姫は、小玲とその技を叫ぶ。

    「『ロジックドライブ! 天竜凛雷陣!!!』」

    ロジックドライブ「天竜凛雷陣」――。
    それは、従来のロジックドライブであった「怒竜激雷陣」のグレードアップ版だ。
    玉姫と小玲を中心とした直径数十メートの範囲内に、無数の雷が降り注ぐ。
    以前の「怒竜激雷陣」は雷をコントロールしきれず、
    敵味方の区別なく攻撃してしまうこともあり、自爆に近い技であったが、
    「天竜凛雷陣」は違う。

    『「うおおおおおおッ!!!!」』

    成長した玉姫と小玲は、無数の雷を見事にコントロールし、敵に集中させる。

    『!!!!』

    雷の群れの前に身動きができず、敵はただそれを受け止めるしかなかった。
    雷の威力も以前の比ではないほど凄まじいものだった。

    『どうじゃ!!』
    「まだよ!!」

    しかし、敵は苦しみながらも笑みを見せ、雷撃に耐えていた。
    ここからは我慢比べだ。
    玉姫と小玲のロジックが敵を上回るか、敵の精神と肉体が耐えられるか――。

    『わ……わらわは竜族の姫なるぞッ!!!』

    小玲はますます雷の出力を上げていくが、敵はしぶとく耐えている。

    「―小玲、任せて」

    そう言うや否や、雷が止む。

    『玉姫!』

    悲鳴のような小玲の声が響く中、笑いを浮かべたままの鬼は大きく踏み出し、
    うつむいた玉姫にむかってその拳を振り上げる―その瞬間。
    使者に向かって顔を上げると、玉姫はあえて柔らかく微笑んだ。
    ふわりとした空気。
    その直後、玉姫の前方、拳を振り上げたままの鬼を飲み込んで、雷の嵐が吹き荒れた。

    「もう、誰も傷つけさせたりしない!」

    わずか一歩、わずか一振りとはいえ、耐える姿勢を崩した鬼は不意をつかれ、
    雷に耐える力を失っていた!
    断続する雷撃を前に敵はついに力尽きた。
    ホッとして合体を解除すると、玉姫にオルガから通信が入った。
    それはヴェロニカが発見されたことを知らせるものだった。

    「無事なの!?」
    「足を骨折してるが、ピンピンしてる。
    自分が指揮をすれば、もっと早く解決できたってさんざん怒られた……」

    思わず苦笑いを浮かべる玉姫。

    「私とキュアも治療を手伝いにいくわ」
    「俺のロジックが聞こえる―
    戦闘を終えた直後のお前が、体力を消耗している確率は100%だ。
    無理はするな」
    「平気よ」

    通信を切り、玉姫はキュアと小玲に目を向けた。

    『どんなもんじゃ!』

    「えっへん」と胸を張る小玲にキュアが瞳を輝かせていた。

    『すごいのですね小玲さんは! 憧れるのです!』
    『なかなか見どころのある娘じゃ。わらわの侍女にしてやってもよいぞ』
    『ジジョ? 長女はどなたなのです?』
    『姉妹の次女ではない! 侍女じゃ!!』
    『へ???』

    小玲とキュアのとぼけたやりとりを微笑んで見つめる玉姫。
    (困った「妹」たちね……)

    「新型のゲートカードが上手く使えるようになったら、
    異世界のみんなと自由に会えるんでしょ?
    なんだか賑やかになるなあ……」

    クロエがふとつぶやいた。
    異世界同士の交通を自分たちで完全に管理できるようになれば、
    この世界はきっと平和になる。
    けど、戦う理由がなくなった時、
    私たち定理者とその盟約者はどうなってしまうんだろう――
    玉姫は新たなる時代がやってくる予感を覚え、すっかり晴れ渡った空を見つめた。

    (――これから私たち何をすべきなんだろう?)

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 神曲乙姫

    神曲乙姫

    竜宮城の乙姫さま。
    後を継ぐはずの竜宮から出奔。セプトピアにやってきた。
    幼い頃より歌舞音曲を仕込まれ、踊りは美しく弦の響きは妙なる調べ。
    だが……致命的に歌が下手である。

     揺音 玉姫 & 神曲乙姫

    寄せる想いが奏でる奇跡の旋律

    その日、ナイエン区セントラルエリアの路上には美しい琵琶の音色が鳴り響いていた。

    道行く者たちがその調べに心洗われ、うっとりと耳を傾けている。
    琵琶の演奏者は気をよくすると、琵琶の演奏に乗せて自慢の歌を披露した。
    ところが歌い始めた途端、路上の聴衆たちは逃げるようにその場を去っていく。
    その演奏者・神曲乙姫は琵琶の演奏においては天才的だったのだが、
    歌声に関しては壊滅的なまでに音痴だったのである。

    『なんとか人並みに歌えるようにならないかしら……?』

    が、そんな神曲乙姫に向かって拍手する若い女の子がいた。
    ALCAのオフの日に買い物に出かけていた揺音玉姫だ。

    「あなた……使者よね? なんでこんなところに……?」
    『……ちょっと、家出を』

    神曲乙姫はジスフィアの竜宮城に住む人魚の乙姫さまだった。
    竜宮城の後継者でありながら他の人魚たちの中で唯一音痴だった神曲乙姫は、
    居心地の悪い日々を過ごしていた。

    そしてセプトピアがモノリウムとの争いを起こしていることを利用し、
    セプトピアの仏閣を守るという大義名分のもと、竜宮城を一時的に飛び出していたのだ。
    竜宮城を継ぐまでには音痴な自分を改善したい……それが彼女の切実な想いだった。

    「……大変だね。竜宮城の乙姫さまも」

    その時、ALCAの警報が鳴り響く。
    セントラルエリアにモノリウムの使者が襲来したのだ。

    「近い……乙姫さん! すぐに安全な場所に避難して!」
    『え……貴方はどちらにっ』
    「任せて……私が守るから!」

    すぐに盟約者と連絡を取って合流した玉姫は、合体して使者との戦いに臨んだ。
    しかし相手も手強く、簡単には決着がつかない。

    神曲乙姫はそんな玉姫と使者の激しい戦いを物陰で見つめていた。
    自分とそれほど変わらない年頃の女の子が、
    傷付きながらも町の治安を守るために戦っている姿から目が離せずにいたのだ。
    やがて仲間の定理者たちが駆けつけ、無事使者を討伐することに成功する玉姫。
    神曲乙姫はそんな玉姫の姿に心打たれた──つらいのは自分だけではない。
    どんな困難な宿命であろうとも逃げずに戦っている女の子たちがいる。

    それ以来、神曲乙姫は路上で琵琶を弾いて歌の練習をしては、
    町中で戦う玉姫の姿を遠くから応援する日々を送り続けた。

    玉姫の一生懸命さとひたむきさはその度に神曲乙姫の心を打ち、
    彼女は玉姫に想いを馳せながら、無意識の内に琵琶で新たな曲を弾き始めていた。

    それから数日後、ALCAナイエン支局に、揺音玉姫との盟約を志願する使者が現れた。

    その時、使者が手土産に弾いた曲は、
    この世のものとは思えないほど美しい旋律だったという──。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 阿修羅

    阿修羅

    情に厚い熱血系。
    趣味は鍛錬で、絶えずトレーニングを欠かさない。
    盟約者である聖那すらも把握できないところで、こっそり勝手に鍛錬を積んでは新しい武器や技を開発する戦闘マニア。

     揺音 聖那 & 阿修羅

    聖那、はじめての戦い

    『おい聖那! 聞いてるか!?』

    地鳴りのような阿修羅の声が、耳元で響く。
    しかし、揺音聖那はその声に応えることができなかった。

    目の前には逆理領域が広がり、
    見慣れたキョウトの街が砂漠のような光景に変わっていく。
    そして砂嵐の中を巨大な人影が迫ってきていた。
    敵――モノリウムの使者だ。

    阿修羅と合体した聖那は戦場に飛び込んだ瞬間、頭の中が真っ白になった。
    足は震え一歩も動けない。
    聖那自身も、敵を前にして臆する自分が信じられなかった。

    定理者の適応を判定され、
    聖那がALCAキョウト支局へ召集されたのは一ヶ月ほど前のことだ。
    突然の召集にも拘わらず、聖那に戸惑いはなかった。

    二年前に姉の揺音玉姫も同じくALCAの召集を受けていた。
    憧れの姉と同じ定理者になれることに、「やっときた!!」と喜びの感情が勝っていたからだ。

    元々身体を動かすことが好きだった聖那は訓練でメキメキと頭角を現し、
    周囲は「さすが揺音玉姫の妹だ」と囃し立てた。

    聖那自身も「定理者としてやっていける!」と手応えを感じていた。
    何度も戦闘シミュレーションを重ね、今日に備えてきたのだ。

    いつ訪れるか分からない初出動に、
    むしろ胸を躍らせワクワクと心待ちにしていた――そのはずだった。

    だが、現実は残酷だ。
    巨大で凶暴な敵を前にしては、聖那はただのちっぽけな少女でしかなかった。
    昂ぶった気持ちは萎えて、高鳴る鼓動で本部から指令も何も聞こえない。

    「助けて……お姉ちゃん……」

    そうつぶやいて聖那は固く目を閉じた。

    姉の玉姫は、ナイエン支局で定理者のリーダーになったと先日手紙で知ったばかりだった。
    (いつかお姉ちゃんみたいなリーダーになりたいと思っていたのに……)

    聖那は恐怖に震える自分の不甲斐なさを嘆き、目には涙がたまり始めた。
    阿修羅の声がふいに耳に入ったのはその時だ。

    『おい、六手拳でいこうぜ!! って!!』

    「……え?」

    聖那は呆気にとられ、ためていた涙を流すのを忘れてしまった。

    『俺たちのロジックドライブ――必殺技だよ! まだ名前考えてなかっただろ?』

    ビビっている聖那のことなどお構いなしに、
    阿修羅はただそれを伝えたいがために耳元でがなり続けていたのだった。

    それが分かった瞬間、聖那は呆れて、金縛りのような緊張が解けていった。
    肩の力が抜け、身体が軽くなっていくのが自分でも分かった。

    ジスフィアの神・阿修羅――初対面の時、聖那は阿修羅を見るなり、盟約者になる運命を感じた。筋肉ムキムキの大男でいかつい見た目なのに、
    昔からの友人といるような不思議な居心地の良さを阿修羅から感じていたのだ。

    (まるでこんなふうに阿修羅に助けられるのが分かっていたみたい……)

    聖那は自分の先見の明にクスッと笑い、「うん、それで行こ!」と明るく声を弾ませる。
    『応!』と阿修羅の地鳴りのような声が耳元でまた響いた。
    敵はすぐ目の前に迫っている。
    聖那はキッと表情を引き締めた。先ほどまで怯えた少女の姿はない。

    『「ロジックドライブ!! 六手拳!!」』

    二人の声が重なると同時に、聖那は敵に向かって大きく跳躍していた。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 煌煌

    煌煌

    偶然開いた門を通じ、セプトピアにやってきたキョンシー道士。
    快楽主義者で、面白いことなら周囲を巻き込んで自爆を辞さない困ったちゃん。
    芽路子と出会ってからは彼女と遊ぶのが楽しくなってしまい、今のところ帰る気が無い。

     当麻 芽路子 & 煌煌

    最強の傍観者

    爆発、炎上、混乱する街、人々の悲鳴。
    (……危ない危ない、早めに避難しといて正解正解)
    と、芽路子は騒ぎが起こりはじめた頃から既に安全な場所に避難していた。
    何かあった時に逃げ込む場所は、ずっと前から確保している。
    それは幻の地下鉄の駅。
    工事されて完成していたものの、どういう理由かわからないが、
    使われることのなかった駅だ。
    存在を知る者も、ここにやってくる者もいない。
    芽路子だけが知る秘密のセーフハウスだ。
    避難生活をはじめて3日が過ぎたが、そこは平和そのものだった。
    芽路子が呪いたいと思う人間も、使者も現れない、心穏やかな静かな暮し。
    非常食はたっぷりあるし、パソコンも持ち込んで、ネットもし放題だ。
    (……こんな快適なら、避難ライフとかあと1か月は余裕ッ!)
    などとニヤニヤしていたのも束の間。
    ネットからの情報によると、地上の混乱はやや落ち着き、膠着状態となっているようだ。

    「……え、たったの3日で? ALCA優秀じゃない。どういうこと?」

    情報をチェックする芽路子に、ラルフェが淡々と答えた。

    『ネット上の情報を分析しますに、ALCAは新型のゲートカードを使用したようです』
    「新型のゲートカード……?」
    『異世界からかつての盟約者を自由自在に呼び出させるカードのようです。
    各定理者への配布が着々と進み、
    状況によって適材適所の盟約者との合体を選ぶことによって
    効率よくかつ効果的に戦果をあげているのだと推測します』
    「……やけに詳しいのね」
    『ALCAのコンピュータをハッキングして情報を得ました』
    「その中に、新型ゲートカードのものも含まれていた、と……」
    『はい、抜かりなくデータもコピー済みです』

    と、ラルフェは淡く輝くカードを見せた。
    それを見た途端、芽路子は嫌な予感で顔がひきつる。

    「……はい?」
    『万が一使者が襲ってきた際、
    ご主人も複数の盟約者を使いこなせたほうがよいと判断しました。万全です』

    芽路子に忠誠を誓うラルフェは、ただただ主のことを思いやったのだが、
    これが余計なお世話だったのだ。

    「……ちょっと待って。複数の盟約者って……昔、私と盟約したのって、だって……」

    芽路子が気を動転させていると、カードから閃光が放たれる。

    「眩しッ!!」

    そして、芽路子の前に現れたのはかつての盟約者・煌煌だ。

    『きゃー! 芽路子、ひさしぶり!!』

    キョンシー少女・煌煌は芽路子との再会を喜びピョンピョンと飛び跳ね、

    『パソコンだ! ゲームしようゲーム!』

    と、はしゃいでピョンピョンと飛び跳ね、

    『おでかけしようよ! ねー! ねー!』

    と、駄々をこねてピョンピョンと飛び跳ねた。
    的中する嫌な予感……。
    (わ、私の静かな避難ライフが……)
    呆然とする芽路子と傍に控えるラルフェ。
    その周りをぴょんぴょん跳ね回る煌煌。
    (悪いコトって、一つじゃ終わらないのよね、こういう時は……)
    などと思った途端、壁が崩れ去り使者までも目の前に現れた。

    「!!!」

    実は新ゲートカードの作動を感じた使者が探しに来たのだが、
    そんなことは彼女たちにはわからない。
    次から次へ後を追う様に、わらわらと使者たちが現れ始めた。
    芽路子はやむを得ず煌煌と合体。

    『見て見て! 私ね、帰っている間に超レベル高い呪術覚えたの!』
    「……もう、勝手にやってよ……」

    悪霊、瑞獣などを呼び出し使役させる煌煌の呪術に感動も感心もすることなく、
    芽路子はどうにかこうにか地下のトンネルを抜け出し、地上に辿り着く。

    (おのれ……これもALCAのせいだ!!!
    アイツらが変なゲートカードなんか作るからッ!!!)
    芽路子の気持ちは助かった喜びに浸ることなく、
    ALCAを逆恨みする方向に向かって行った。

    「呪ってやる! 呪ってやる!」

    と、ラルフェのコンピュータを操り、ALCAのコンピュータをハッキング。
    とりあえずウイルスやらボッドやらを仕込みつつ、
    あわよくばゲートカードのデータを消し去ってやることにした。
    ものすごい勢いでキーボードを叩き、
    ALCAの研究所のものらしきサーバーにあともう一歩と迫った時だった。

    「……えッ!?」

    黒い画面に浮かぶ記号の海は消えて画面が乱れると、
    突如現れたのは見知らぬ美少女――ニーナだった。

    「ハッキングしているのは、あなた? 定理者ですか?」

    と、冷静に問いかけるニーナ。
    対する芽路子は気が動転して、しどろもどろ。

    「あ、いや、私は、その、合体はしてるのですが定理者ではなく、何というか……」
    「わかりました。あなたがどなたでも構いません。どうか力をお貸しください」
    「力を貸す……?」
    「この騒動の原因を探り、解決する方法を見つけなければなりません。
    手が足りません、お願いします!」
    「で、でも、わたし、なんか……」
    「ここまで侵入できた貴方は優秀です。素晴らしいです。
    その力をお貸しください。共にこの世界を、守りましょう!」

    端末越しでもわかる、少女のまっすぐな瞳と綺麗すぎる心の輝き。
    人の善意とか勇気とか、とにかくそんなものを信じてやまない子の光だ。

    ……正直、芽路子にはまぶしすぎて直視できない。

    「わ、わかった、わかった、から」
    「ありがとうございます!」

    感謝の言葉と共に、早速指示を飛ばしてくる少女の声を聞きながら、
    (良いけど!手、貸すけど!
    この借りは、必ず、必ず返してもらうからね!)
    そう思っても、口には出せない芽路子であった。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 星

    ジスフィアの、神に祈りを捧げる巫女。
    幼い頃に事件に巻き込まれ、両親は行方不明。
    その後、人に優しい妖怪たちを親代わりにして育つ。
    辛い事があっても胸のうちに秘め、
    明るく陽気に振るまい周囲に笑顔をもたらす。
    セプトピアには、生き別れた幼なじみを探しにやって来た。

     明日葉 学 & 星

    空から降る「ほし」

    同時多発的に起こった使者の襲来――。
    学と冥がいた高層ビルもその例外ではなかった。
    階下から使者たちが押し寄せ、商業フロアにいた人々をパニックに陥れた。
    救援を要請しようにも、ALCA本部も混乱をきたしてるのか通信不能。
    階下のフロアは使者たちに占領され、下に降りてビルから脱出するのは不可能だ。
    客たちを上の階へと誘導し、使者たちの殲滅に徹する――
    学と冥にはその道しか残されていなかった。

    「2人で相手するには少し多い……」

    波のように押し寄せる使者たちを前に、学はまるで他人事のようにボソリとつぶやく。

    『……ならば、もう1人増やそう』

    冥が冷静に言うと、学はうなずいた。すぐにあの技だとピンときたのだ。

    『「多重分身の術ッ!」』

    合体した学たちが唱えた瞬間、その身体は3体に分身する。
    残像ではない。呪力と気力によって、本当にその身を分けたのだ。
    3体の学は息の合った連携技で、使者たちの足を止め、一体、また一体と、仕留めていく。
    だが、敵の数は想像以上だった。
    本来、暗殺者である冥に一度に敵を殲滅せしめるような大技はない。
    次から次へと襲い来る使者たち。過ぎていく時間。
    学と冥は次第に疲弊し、ついに分身に費やす気力も限界に達した。
    2人は撤退を余儀なくされ、ビルの最上階から屋上へと追い詰められていった。
    分厚いシャッターで屋上までの侵入は防ぐことができたが、いつ打ち破られるかは時間の問題だった。
    大勢の避難民たちとともに、学と冥は合体を解除して最後の戦いに備え気力を養っていた。
    恐怖に震えながら身を寄せ合う人々を見て、学はボソリとつぶやく。

    「……この人たちだけでも助けたい」
    『……そうだな』

    その時、冥は夜空を見つめていた。
    (星のことを思い出してるんだ……)
    学はすぐにそう思った。学もまた星のことを思い出していたからだ。
    禁断のオーバートランスを使い、遠い世界へと去っていった大切な友達のことを――。
    (……オーバートランスを使うことを冥も考えている、きっと)
    学がその思いを口にしようとしたその時だった。

    『……なんだ、あれは?』

    翼をつけた少年が飛び去ったのが見えたかと思うと、
    キラキラと光りながら何かがヒラヒラと落ちて来るのが見えた。
    (「ほし」が落ちてきた……?)
    学は一瞬そんな錯覚をした。
    だが、その光の欠片から人の姿が飛び出してくるの見えた。
    「ほし」ではない「星」だ。
    やがて星が2人の前に、着地する。

    『助けにきたよ!』

    星は何事もなかったかのように屈託のない笑顔を見せる。

    「……」
    『……』

    学も冥も、あまりのことに驚き、言葉を失っていた。

    『えーと……私のこと忘れちゃった?』

    星は戸惑いながら冗談っぽく言った。
    思いがけない再会に、2人の感情は次第に驚きから感動に変わっていった。
    しかし、学も冥もそれを表に出すのがあまりに下手だった。

    「いや……」
    『……忘れるわけがない』

    そう言うのが精一杯だった。

    『あー……いいよいいよ。2人がリアクション薄いのは何となく予想したから……』

    星は苦笑いで、嬉しい感情を誤魔化す。
    ドン! ガシャーン!!
    使者たちの行く手を遮っていたシャッターの強度はもはや限界のようだ。
    今にも使者たちがあふれだしそうなほど歪んでいる。

    『……こうしちゃいられないね。学、合体しよう』

    星は学に手を差しだした。

    「……できるの?」

    学は驚いた。
    オーバートランスの影響で星はロジックを失い、合体不能のはずだったからだ。

    『まあ、やってみればわかるよ!』

    学と星は手を握り合うと、光に包まれ合体する。
    と、同時にシャッターを打ち破り、ついに使者たちが屋上に現れた。

    『荒ぶる魂を鎮めるのも、巫女の役目……』

    星のつぶやきとともに、学から放出される巨大な霊力。
    使者たちは目に見えぬ重圧に押しつぶされるように、一斉に身動きを止めた。

    「すごい……」

    新たなる星の力に、学は目を見張った。

    『向こうの世界で新しいロジックを得たんだ……。これでまた一緒に戦えるよ』

    星の言葉に、学はやっと笑顔を見せた。
    それを見て、ホッとする星。
    ふと、冥を見ると彼女は学たちに背を向け、
    避難民たちをより安全な場所に誘導しようとしていた。
    だが、一歩踏み出したところで足を止める。

    『……おかえり、星』

    背中越しに冥の声が聞こえた。
    星は微笑んで答える。

    『……ただいま』

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 艶鬼

    艶鬼

    ジスフィアからやってきた、鬼のお姉さん。
    遊女の様な鮮やかな衣装を好み、大胆に着崩しながら
    色っぽいしぐさで男を迷わす魔性の女性。
    一方的にアシュリーを気に入って盟約者になり、
    日々彼女を着せ替えては楽しんでいる。

     アシュリー・ブラッドベリ & 艶鬼

    艶鬼の異常な愛情

    サロンでいつものように読書に耽っているアシュリー・ブラッドベリは、突如黒い影に覆われた。
    ハッとして見上げると、アシュリーの盟約者・艶鬼が笑みを浮かべていた。

    『これから、お暇?』

    艶鬼はアシュリーに顔を近づけてきた。

    アシュリーは艶鬼の大きく盛り上がった胸元にドギマギしながら、コクリと小さく頷いた。

    それを見て、艶鬼は更に笑顔を弾けさせた。

    『ほんま? めっちゃ嬉しい!
    ほんなら、うちらの部屋にもどってきて。
    10分後。待ってるから』

    艶鬼がウキウキとした足取りで去っていくのを見届けると、アシュリーは再び本に目を移した。
    しかし、頭の中にまるで内容が入ってこない。
    アシュリーの脳裏に嫌な予感が渦巻いていた。

    ――艶鬼、一体なにを企んでらっしゃるの!?

    アシュリーと艶鬼はまだ引き合わされたばかり。
    実際にトランスするのもまだだった。

    だが、アシュリーは自分が憧れていた盟約者とは「何かが違う!」と感じていた。

    対する艶鬼は、微妙なリアクションをするアシュリーのことなどお構いなしにアシュリーへの愛情を一方的に深めていくばかりだった。

    ファンタジー趣味のアシュリーが『鬼』も趣味の範囲と艶鬼は思い込み、それが嬉しくてたまらないのだ。
    アシュリーは不安を感じながら、約束の10分後に本を閉じると、自分と艶鬼の部屋へと向かって歩き始めた。
    やがて、部屋の前までやってくるとアシュリーは緊張気味にノックにした。

    『アシュリー? ええから入って』

    中から陽気な艶鬼の声が聞こえ、アシュリーは一度深呼吸をしてドアノブを回し、扉を開いた。

    『おかえりやっしゃ』

    部屋に入るなり、艶鬼はアシュリーに抱きつき、そのままお姫様抱っこをした。

    アシュリーは唖然としたまま室内を見回す。

    ――なんですの!? このお部屋! 朝までは普通のお部屋だったのに!

    壁は朱色に塗られ、あちこちの置かれた行燈が淡く輝いている。

    ALCAの施設内にある部屋とは思えない、あまりにも遊郭チックな内装だった。
    どうやらアシュリーが読書に耽っている間に、艶鬼が勝手に模様替えしてまったらしい。
    「これから何をなさるおつもりなの!?」

    アシュリーは動転し、思わず声を上擦らせた。

    『街で可愛い着物、見つけたの。アシュリーに似合いはると思うて』
    「困りますー! はしたないそんな! 恥ずかしい!」

    アシュリーは抵抗するものの、艶鬼の怪力の前では無意味であった。
    あっという間に身ぐるみを剥がされ、手際よく着物を着つけていく。

    『さあ、おめかししまひょね』

    艶鬼はアシュリーが嫌がっていると気づくことなく、鼻歌さえも歌っていた。
    アシュリーは諦め、されるがままに身をゆだね、気がつくと鏡の前には艶やかな花魁姿の自分がいた。

    おまけに胸元がざっくりと開き、露出度が高い。
    アシュリーはあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして、下を向いた。

    『いやあ、かわええなあ。一緒に花魁道中をしたいぐらいやわあ……』

    ――そこまでなさるおつもりなの!?

    アシュリーは目を白黒させながら、艶鬼を見上げた。
    だが、目に飛び込んだ艶鬼は目を細め、今までアシュリーが見たことないほど幸せそうな表情を浮かべていた。

    『うち、ほんま嬉しい。アシュリーみたいに『鬼』の好きな子と盟約できることになって……』

    そんな艶鬼を見ているとアシュリーは何も言えなくなった。

    ――外に出るのはご遠慮願いたいけどこの部屋の中だったら……。

    アシュリーはそう自分に言い聞かせ艶鬼に向かって小さく笑った。

    「こんな素敵なお部屋にしたんだから、お外に出るのはもったないですわ。
    何かジスフィアにいた頃お話を聞かせてくださらない?」
    『ええよ。とっておきの話があんねん。あんな……』

    艶鬼は目を輝かせて語り始め、アシュリーは微笑んでその話を聞き入った。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 銀影

    銀影

    ジスフィアにて、長いこと紅武と覇を争ってきた武将。
    自分が女性であることをひた隠し、
    長大な野太刀を振るって戦ってきた。
    オルガと出会い、偶然正体を知られた彼女は、
    秘密を守るため強引に盟約を結ぶ。

     オルガ・ブレイクチャイルド & 銀影

    踏み越えた一線

    オルガは自分こそが最強の定理者だと信じて疑わない。

    そんな自分に最も相応しい盟約相手が、ALCAの協力者の中に一名いた。

    ALCAの制服に身を包み、見目麗しく耽美な美青年。ジスフィアの武神・銀影だ。

    「なぜお前はALCAに手を貸す?」

    『セプトピアの治安維持に興味などない。
    私の目的はただ一つ、紅武を討ち取り、覇王となること。その為の修行の一環にすぎぬ』

    紅武とは、ジスフィアの地界で銀影が何度も剣を交えた宿敵らしい。

    「……ククク。お前のこだわりなど興味はないが……」

    オルガがふと左手の甲を見つめると、ルシフェルの紋章が浮かび──消えた。

    「人と神の共存こそ、俺のロジック……その望みを叶えてやってもいい。この俺と盟約すればな!」

    『断る。これは私と紅武の勝負。部外者は黙っていろ』

    「……大した気概だ。ククク、ハーハッハッハッ!!!」

    オルガは盟約の申し出を断られた気まずさを、勢いでごまかした。

    しかしオルガには奥の手があった。
    男同士が絆を深めるために有効なロジックが聞こえていたのだ。

    ALCAのハウスサロン。

    銀影がバスルームに入っていった姿を見たオルガは決意し、自らも裸になって、シャワー音が響くバスルームの戸を開けた。

    男同士、裸の付き合いをするためだ。

    「邪魔するぞ」

    が、オルガの眼前には、驚くべき光景があった。
    シャワーの湯気に隠れて全貌こそは見えなかったものの、銀影の麗しい裸体は彼が男ではないことを物語っていたのだ。

    『き、貴様、どうしてここに……!』

    オルガは引きつった顔のまま、何も言わず戸を閉めた。

    その後、風呂から上がった銀影はひと気のない場所にオルガを呼び出した。

    『……先程の貴様の愚行……私に対する無礼千万だと思え』

    「……俺のロジックが聞こえる。女のお前が男装している理由は、武家を継ぐ為だな」

    男子に恵まれなかった武家に生まれた銀影は、武士としての道を進む為、男として生き抜く覚悟を決めていたのだ。

    「……この俺との盟約を拒否した理由も、それならば納得がいく。お前との盟約は諦めるしかなさそうだな」

    『それは困る』

    意外な銀影の発言にオルガは戸惑った。

    銀影は古風な精神の持ち主だ。

    誰にも見せたことがなかった裸体を見られてしまったことで、もはやオルガと契りを結ぶしかないと思い至ったのだ。

    銀影はわずかに濡れた頬を赤らませると、オルガの首筋に剣を突き立てて告げた。

    『……私と……盟約しろ。それが……貴様の責任だ』

    オルガは戸惑いつつも、首を縦に振ることしかできなかった。

    彼らの電撃盟約はまさに青天の霹靂だった──。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 八雷神

    八雷神

    ジスフィアからやってきた、ジゼルの盟約者。
    周囲からは『ヤクサ』と略称で呼ばれる。
    ジゼルをお嬢様扱いして跪き、
    彼女の指示に従うような関係性を保っている。
    八つの雷神(大雷、火雷、黒雷、柝雷、若雷、土雷、鳴雷、伏雷)の能力を持つ。

     ジゼル・サンダース & 八雷神

    家出少女ジゼル

    ジゼル・サンダースがALCAキョウト支局に配属され、数週間が経った。

    ジゼルの教育係に任命された揺音聖那は、
    いつまで経っても定理者としての自覚を持とうとしないジゼルに愛想が尽きかけていた。

    「もういい加減、ローカルアイドルだった頃は忘れなさい!」

    いつもであれば「はいはい」と聞き流すのだが、『ローカルアイドル』というフレーズがジゼルの逆鱗に触れた。

    「ローカルアイドルですって……?
    もうすぐ全国区のアイドルになれたのにあんたらが無理やり辞めさせたんでしょ!?」

    それからここに書き記すのも見苦しい罵り合いが展開され、この日の研修は2人の猛喧嘩で幕を閉じた。

    その後も怒りが収まらないジゼルは、施設からの脱走を決意する。

    研修期間中、キョウト支局内の一室に監禁状態にいたジゼルだったが、言葉巧みに局員を一人、また一人と籠絡し、ついに施設外へと出ることに成功する。

    だが、そこからが手詰まりだった。

    施設の周辺は馴染のない土地であるのに加え、研修が終わるまで私物など全てALCAに一時保管されていたためジゼルはお金も持っていなかった。

    あっという間に行き場を失い、ジゼルはキョウト支局から数キロ離れた公園でブランコに揺られ途方に暮れていた。
    「ここでしたか」と柔らかな声が聞こえ、顔を上げるとジゼルの盟約者・八雷神が笑顔で彼女を見つめていた。

    「……帰らないわよ」

    ジゼルは、八雷神を見るなり冷たく言い放った。
    八雷神は微笑んだままだ。
    ジゼルの盟約者となってから、八雷神はまるでジゼルの従順な執事のようだった。

    この時も、八雷神はジゼルの前にひざまずくと、そっと手を差し伸ばし、言った。
    『せっかく外に出たんですから、この辺りをご案内しましょう。
    ジゼルさんはまだここの土地柄に不慣れでしょう』

    そんな八雷神の優しい言葉にグッとくるジゼルだったが、表面に出る態度は素直なものではなかった。

    「……勝手にすれば」

    ジゼルは素っ気なくつぶやいて、ブランコから降りて歩き出した。
    こうして八雷神のキョウト案内が始まった。

    『あそこがキョウト支局から一番近いコンビニです』

    「あ、そう」

    『あの神社に祀られている神は、ジスフィアにいた頃の私の友人です』

    「聞いてない」

    『この辺りは猫が多いんです。私も時折エサをあげています』

    「私は猫より犬が好き」

    八雷神のガイドにも、ジゼルの態度は素っ気ないままだったが、そのうち八雷神は軽快なメロディが聞こえていることに気づいた。
    ジゼルの鼻歌だった。

    なんだかんだ言って楽しんでいる――
    それがわかると、八雷神は思わず微笑んだ。

    キョウト支局に戻ると、心配した聖那が前で待っていた。

    勝手に出て行ったジゼルを叱るつもりであったが、ジゼルを背負って帰ってきた八雷神を見るとその気は失せてしまった。

    ジゼルは八雷神の背中で、子供のような寝顔で眠っていた。

    「……八雷神も振り回されて大変ね」

    聖那は溜息混じりでねぎらいの言葉をかける。

    『いえ、私の大切な盟約者ですから』

    八雷神は微笑んで施設の中へと入っていった。

    その時、ジゼルの口から「ありがとう……」と聞こえた。

    見るとジゼルは目を閉じたままだった。

    それが、寝言だったのか、目を覚ましていたのか、八雷神はわからなかった。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 紅武

    紅武

    ジスフィアにて、長いこと銀影と覇を争ってきた武将。
    見た目通り豪放磊落、馬上槍と軍配を奮い、
    部下の騎馬隊を率いて戦ってきた。
    セプトピアにてオルガを気に入り、自分も盟約を申し出る。

     オルガ・ブレイクチャイルド & 紅武

    響き渡る不協和音

    「……ククク、ハーハッハッハッ!」
    『……ククク、ガーハッハッハッ!』

    その日、ALCAには二人の男の奇妙な笑い声が響き渡っていた。
    一人は、もはやALCAメンバーもスルーすることに慣れていた定理者オルガの高笑い。
    もう一人、オルガと肩を組んで豪快に笑っていたのが──ジスフィアの軍神・紅武だ。
    自尊心が強かったオルガが誰かと仲良くしている光景は稀だった。
    二人が意気投合していたのには訳があった──。

    覇王の座を争って銀影をライバル視していた紅武がある日、セプトピアにやってきて民間人にトランスジャック。銀影に再戦を挑んできた。
    そしてオルガと銀影は合体して紅武を討ち取っていたのだ。
    敗北を悔しがった紅武に対し、オルガは告げた。

    「……俺のロジックが聞こえる。この勝敗は……無効だ!」

    紅武と銀影、互いに同じ条件で戦わなければ意味がないからだ。
    紅武は潔いオルガの対応に応える為、自分も潔く軍門に降ることを決意。

    『我が勝負、どうやら第二の時を迎えたようだ』

    そして今度はオルガの盟約者として、紅武と銀影のどちらが相応しいかを勝負しようと考えたのだ。

    「……ほぅ面白い。この俺様を取り合うとは、見所があるな」

    が、ALCAはこの二人の盟約を受け入れてしまったことを早々に後悔することになった。
    オルガと紅武は暇さえあれば、男気を賭けて互いのロジックを披露し合っていたのだ。
    その日もALCAハウスサロンのバスルームから騒々しい声が響き渡る。

    「道とは探すものではない。己で作り上げるものだ!」
    『我が眼前に道は無し! 我の往く跡に道はできる!』
    「時代の中に俺が生まれたのではない。俺が時代を生んだのだ!」
    『時代が我に逆らうならば、我が手で時代を斬って正すまで!』
    「……ククク、ハーハッハッハッ!」
    『……ククク、ガーハッハッハッ!』

    そんな時、使者襲来の一報が舞い込んだ。
    瞬時にオルガと紅武の表情が一変し、戦場へと出撃していく。
    普段は陽気な一面を見せる二人だが、いざ戦いとなれば切り替えは早い。

    現場に到着したオルガと紅武は、暴れる使者と対峙した。

    「紅武。お前に問う……お前にとって、戦いは何を意味する?」
    『愚問だ。我は軍神。我が軍こそがジスフィア最強であることを証明するため。その為に覇王の座を手にする!』
    「……追いついてこれるか? セプトピア最強の定理者である俺様のところまでな」
    『望むところだ』

    オルガと紅武は互いの拳を突き合わせる。

    「トランス!」

    真紅の鎧を纏った合理体・オルガは使者に反撃の隙も、逃亡の隙も与えなかった。
    まさに軍神の如き猛攻撃。

    後に、その戦いでオルガによって捕縛された使者はこう語ったという。

    たった一人の定理者の力とは思えない。
    相手にしていたのは『軍』の如きであった、と──。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 冥

    ジスフィアの、暗殺者として生きてきたくの一。
    幼い頃に事件に巻き込まれ両親を亡くし、
    その後、闇の組織に育てられた。
    自分の感情は心の奥底に押し隠し、
    命じられるまま、数々の暗殺をこなす。
    セプトピアには、組織から指令を受けてやってきた。

     明日葉 学 & 冥

    少女たちの覚悟

    『……学。星のことは頼んだ』

    そう呟くと、静かにALCAの下を去っていくジスフィアの暗殺者──冥。
    その眼差しには──死の覚悟が宿っていた。

    ──その昔、ある事件で星と生き別れた冥はジスフィアの暗殺組織に拾われて育てられた。
    確実に任務を遂行する暗殺者になるために心を殺す教育を受ける日々。
    やがて任務の為、セプトピアを訪れた冥は、
    セプトピアで暗殺対象の情報を得るために学と盟約し、
    そこで奇跡的に幼馴染の星と再会を果たしたのだ。
    学や星との暮らしは長年殺し続けた冥の心に彩りを与え、
    失った時は徐々に取り戻されていった。

    が、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。
    組織が星を暗殺するために大勢の刺客を差し向けたのだ。
    冥は知った──自分に与えられた暗殺任務はダミーであり、全ては星をセプトピアに誘導するための囮。
    組織は神の巫女たる星の力を恐れ、
    本来の力を発揮できないセプトピアの地で亡き者にしようとしていたことを……。
    冥の心は一つだった──刺客と刺し違えてでも星だけは守る。

    冥は単身で大勢の刺客の前に立ちはだかり、命を賭して戦い続けた。
    が、そこへ現れたのが──星と合体した学だ。
    全ての事実を知り、冥を守るべく抵抗したのだ。
    しかし屈強な大勢の刺客には敵わず、ほとんどのロジックを使い果たしてしまう。
    すると刺客は冥を人質に囚え、学に合体を解除して星を殺害するよう要求した。
    星が殺さなければ、冥が死ぬ。
    しかしどちらか一方を、学が選べるわけもなかった。

    『退け、学……このままでは三人とも死ぬっ』
    「……やだ……冥を連れて帰る」

    冥だけを犠牲にして退避する選択など、学の頭にはなかった。
    すると星は決意し、突然学との合体を解除した。学は戸惑いを隠せなかった。
    星は学と冥を守るために決意。自ら自害することで学と冥の命を救ってほしいと組織に取引を持ちかけたのだ。
    組織の狙いは星の命一つ。星の取引に応じようとした。

    『やめろ……星がいない世界に生きる価値なんてない……
    一人だけ残されて自分だけが生きるなんて……嫌だ』
    『冥……それは私も同じよ。でもこれしか方法がないの……お願い』

    互いが互いを救いたい一心で対立する冥と星の想い。
    冥は、腰に身につけたアクセサリーを握りしめた。
    星もまた、頭の右側につけたアクセサリーを握りしめた。
    それは二人が幼い頃から身につけていたお揃いのアクセサリーだった。
    冥と星を意味する二つの飾り。
    どちらかが欠けることなくいつでも一緒──そんな想いを込めて。

    その時、学が呟く。

    「……やだ……連れて帰る……冥も……星も……」

    冥と星、どちらの提案も受け入れようとしない学。
    冥は叫ぶ──『学! 星を連れて逃げてくれ! それが私の唯一の望み!』
    星は叫ぶ──『学! 冥と共に生きて! 二人の幸せが、私の幸せなの!』
    しかし学はどちらの声にも耳を傾けようとしない。
    長年の時を経て、ようやく再会を果たせたばかりだというのに、冥と星が再び引き裂かれてしまうことを、学は受け入れることなど到底できなかった。
    冥と星が共に歩むこと──それだけが学の望み。
    すると学は星のすぐそばに歩み寄り、耳元で囁いた。

    「……一つだけ、方法がある」

    二人だけにしか聞き取れない声で星にある決断を迫る学。
    星は言葉を失った。
    が、同時に、他の選択肢がないことを瞬時に悟った。
    学はALCAに通信し、ある作戦の行使を進言。局長の許可を取った。
    そう、学と星が下した決断は──。

    「……オーバートランス!」

    勝負はまさに一瞬。
    星光の如き速さで刺客を殲滅し、冥を救うことに成功した……。
    オーバートランスによって、学と星のロジックカードが飛散しかける。
    が、星は神の巫女たる力を開放し、学のロジックカードの飛散を全て防いだ。
    学が驚いて星を見ると、星は何も言わずにただ微笑んだ。

    冥は知った。
    どんなに過酷な運命でさえも、強い意志で変えることができることを。

    闇に生き続けた冥に、道標となる希望の光が射した──。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 七宝

    七宝

    弥生が初めて盟約した使者。若くして武術を極めた功夫の達人で、棒術と酔拳が得意。人間の住む世界に美味しいお酒を求めてやってきた。
    酒の飲み過ぎで倒れていたところを弥生に介抱された。弥生のしっかりものな性格をうざったいと考えるところはあるも、その実直さに心を許す。同じパンダ好きなこともあり、彼女と盟約をすることになる。

     橘 弥生 & 七宝

    橘 弥生 & 七宝

    あの「桜に見送られる卒業式」からしばらくして。
    春、Sクラスの皆と共に2年に進級した橘弥生は、
    生徒会副会長となったアシュリー・ブラッドベリから、とある誘いを受けた。

    「生徒会の仕事を、経験してみませんか?」

    生徒会のメンバーは、上級生である5年生の中から毎年秋に選ばれるのが通例だという。
    だが昨年の生徒会はあの東瑞希が会長として仕切り、転入したばかりの五六八 葵を会計に。
    そしてまだ3年生だったアシュリーを書記に、と任じてきた前例がある。

    「私に、生徒会のメンバーに加われ、と?」
    「流石は主さま、アシュリー先輩もお目が高い!」
    「やったね主さま~ ゆくゆくは生徒会長だね~~」
    「二人ともお待ちなさい、まだお引き受けしたわけではありませんわ。
    まずは詳しい話をお伺いしてからです」

    華凛と華恋が勝手に盛り上がるのをたしなめつつも、
    弥生自身、心がわくわくしてくるのを感じている。
    弥生の目標はずばり、ALCAの長官になること。
    そして世界を平和に導き、ますます世の中を豊かにしていくことだ。
    大商人である橘家の家訓と、弥生自身の向上心が合わさった結果の高い目標だが、
    そこに至る道筋として、ピラリ学園の生徒会に招かれる、というのは良いステップの様な気がする。

    「お話、大変光栄ですわ。ぜひお引き受けしたいところですが、
    どんなお仕事を任せていただけますの?」
    アシュリーは柔らかく微笑みながら答える。
    「ハッキリこれ、という役割を任せたいというわけではないの。
    肩書はそう、庶務、というところになりますわね」

    ピラリ学園の生徒会の場合。
    様々な物事を判断し、作業を割り振るリーダーである、会長。
    そのサポート役であり、こぼれた物事を拾っていく、副会長。
    それら一切合切に関わる話し合いを、議事録として保管・整理する、書記。
    さらに、様々な物事に関するお金の動きを確認し報告する、会計。
    以上の役割分担は決まっていたものの―

    「東先輩が会長だったころは、
    先輩の思い付きを実現するのに、みんなであたふたしていた思い出ばかりですわ」
    と言いながら、アシュリーは笑顔だ。
    「今の生徒会は、東先輩を見習って、
    生徒の皆が楽しく学園生活を送れるよう、頑張っていますわ。
    そのお手伝いをして欲しいんですの」

    皆が楽しく学園で過ごす、その手伝いをする―
    であれば、弥生に否はない。

    「わかりました。
    この橘弥生、ピラリ学園生徒会庶務として、全力を尽くさせていただきますわ!」

    かくして弥生は、早速生徒会の一員として働き始めた。
    新入生がなじめずに困っていると聞けば、行って悩みを聞いてやり。
    グラウンドの使い方でソフトボール部と陸上部がケンカしていると聞けば、仲裁に走り。
    風紀の先生が下した処罰が厳しすぎると聞けば、先生に対して抗議をし。
    もちろんその後、その生徒にもたっぷりお説教をした。ちなみに上級生だった。

    『弥生、こっちだ』
    夜も更け、生徒たちはみな寝静まったころ。
    月明りが雲に陰った中、盟約者であるジスフィアの使者、凪がそっと耳打ちしてくる。
    「わかりましたわ。華凛、華恋、二人も手はず通りに」
    「了解です!」
    「はいな~!」
    白樺寮で、不審な侵入者の姿を見かけた、という噂が立った。
    だがピラリ学園は、元々は世界を守る要員としての定理者を育てる教育施設。
    その警備体制は、ちょっとした軍事基地並み、と言われている。
    そこに侵入者なんて!何かの見間違いじゃないの?という者も多い中、
    親元を離れたばかりの1年生を中心に、震えて脅える子も出ていた。
    もちろん、それを黙って見ている生徒会庶務橘弥生ではない。
    自主的なパトロール隊を組織、夜回りを開始。
    そして。
    『悪の企みは往々にして闇夜に紛れて行われる―
    だが任せておけ。この俺が、必ずや悪を粉砕してやる』
    本来、勝手にフォーリナーカードを使って凪を呼び出すのは、先生に知られたら大目玉ものだ。しかし適応体でも闇夜を苦にせず、いざとなれば合体できる凪の存在はとても心強い。
    その凪が、早速忍び込んでいた怪しい人影を見つけた、と言うのだ。

    『見つけたぞ、あれだ』
    凪の指さす先に、確かに人影が見える。
    見れば、寮の壁沿いに動き、時折上を見る様な動きをしている。
    窓から忍び込もうとでもいうのだろうか。
    凪にはそのまま見張りを命じ、
    「お待ちなさい!」
    ぴしり、と通る声で一喝。
    人影もおびえたように、びくりと震えた。
    ―と、ばたばたと取り乱した様子で逃げ出し始めた。結構速い。
    このままでは、夜の闇に紛れて逃がしてしまうかもしれない。
    素早くフォーリナーカードをかざして叫ぶ。
    「ゲートアクセス・ジスフィア!
    出番ですわよ、七宝!」
    『あらあら、しょうがないわねぇ~』
    「『合体!!』」
    七宝と合体した弥生は、七宝が長きにわたり研鑽してきた功夫と、その体術の数々を己のものとして使いこなす。
    「お待ちなさい! 待たないというのなら―」
    乙女の園に忍び込み、後輩を脅えさせ泣かせた罪は重い。
    「如意棒!」
    如意金箍棒。かの孫悟空が使ったと伝えられる、伸縮自在の神宝。
    重さは一万三千五百斤、つまり約8トンと伝えられるが本当か否か。
    これをあたかも体の一部の様にふるい、鋭く重く、不審者の後ろの地面に突き落とす。
    「ひっ」
    重い音が背後で響き、おもわず立ち止まる侵入者。
    そこを、如意棒を棒高跳びの棒にして高々飛び上がった弥生が、背中から踏みつける様に襲い掛かる。
    「ぐわっ」
    地面に叩きつけると、そのまま首を如意棒で押さえつけ拘束。
    「おとなしくなさい。さもないと」
    『この如意棒で~ もっと痛いおしおき、しちゃうわよ~』
    逃げ道を断つために待機していた華恋が、ロープを持ってやってきた。
    「よ~し、ぐるぐる巻きにしちゃうぞ~!」
    いずれ、華凛が先生たちを連れてやってくるだろう。
    雲が晴れて月の光が届くと、そこにはぐるぐる巻きに縛られ観念した、平凡な中年男の姿が現れていた。

    「結局、なんだったんすかねー?」
    「あのチカンが忍び込もうとした時、
    たまたま警備システムが不調で、敷地内に入れてしまった、という事だそうですわ」
    「うーん、この学園の警備システムにそんな穴が・・・
    これはつまり、あたしの出番って事っすね!
    アリの入り込むスキもない、不審な人間は即・タイホなシステムを構築してやるっすよ!」
    「-はいはい、無実の人まで、捕まえないようにお願いしますわ」

    この事件を経て、弥生の名はますます校内で有名になった。
    そして今日もまた、華凛・華恋の二人を従え、校舎を右へ左へ走り回る弥生。
    その姿を学園の皆が見慣れるようになるのに、そう時間はかからなかった。

    「-夕子先輩、やはり先輩の目は確かでしたわ」
    弥生の姿を生徒会室から見下ろしながら、アシュリーは春に卒業した先輩の言葉を思い出していた。

    「弥生ちゃんはね、天井を高くしてあげると、どんどん大きく、何処までも登ってこれる、そんな子だと思うの。
    ただ、ちょっと頑張り屋さんすぎるから、思わぬところでつまづいたり、疲れてしまったりするかもしれない。
    そんな時、支えてあげる人が周りにいたら、いいわね」

    ここからなら良く見える。
    先頭切って走り出す弥生に、付いたり離れたりしながら周囲を走っては戻ってくる華凛と華恋の姉妹。
    さらに。

    「やっちゃ~~ん、頼まれてたものっすけど、これでいいっすかー?」
    「それでいいですわ! でもやっちゃんは止めなさい」
    「橘さん、これ、頼まれていた計算書」
    「ありがとうニーナさん。ニーナさんの計算はいつも確かだから安心ですわ」
    「やよいちゃーん、みんな連れて来たよー!!」
    「ありがとうリオンさん。さあ皆さん、やりますわよ!」

    中心にいるのはリオンやニーナ、万博といった2年Sクラスの皆だがそれだけではない。
    弥生の世話になった生徒たち、上級生も下級生も巻き込んで、弥生の指示で動いていく。

    「今日中に、入場門の設営は終えますわよ!」
    「「「りょうかーい!」」」

    季節は夏を過ぎ秋。
    生徒会の企画した新たな催し、「ピラリ学園大運動会」。
    その開催が近づいていた。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 蓮香仙女

    蓮香仙女

    仙術を得意とするジスフィアの仙女。
    他人のために尽くすことが好きな、心優しい性格の持ち主。ジスフィアでも名を馳せる仙術の腕前を持つ。とある魂を求めてセプトピアにやってきたところ、縁と出会い、運命のように盟約を結んだ。

     七星 縁 & 蓮香仙女

    七星 縁 & 蓮香仙女

    玉姫と学のキョウトからの報告を受けた、ナイエン支局作戦司令室。
    使者はいったん撃退され、被害は最小限に留まったのはなによりだった。
    玉姫の活躍で逆理病患者もみな後遺症なく治療できそうだ、という報告は特に支局のスタッフを喜ばせた。それに、学が新たな使者を拾った、というのは驚きだ。
    だが、問題の使者二人はいまだ見つかっていない。
    一連の報告の後、オルガは縁を呼び、新たな指示を出した。

    「―なるほどわかりました、蓮香仙女さんの占いの力を使おうというわけですね!」

    縁の盟約者のひとり、蓮香仙女はジスフィアでも名高い仙術の使い手である。
    特に未来を見通す占いの道術に優れ、その力を人々の生活や日々の幸せを守るために生かしてきた。最も、本人に言わせると
    『私よりも優れた道術を使いこなす、それこそ天に才を授かったような娘がいたのですよ』
    ただその娘は、道術を研鑽し修行して仙人になることより、遊んで暮らしたり他愛のないイタズラで人を困らせたりする方が好きだったらしく、
    仙女にはなれなかったらしい。
    『とはいえ、私も吉凶を見通すことにかけてはそれなりに修めて参りました。
    事はジスフィアとも縁の深いキョウトの一大事。
    ぜひこの力、お使いくださいませ』

    「ゲートアクセス・ジスフィア!」

    フォーリナーカードをかざし、直ちに合体。
    こうすることで、このセプトピアでも蓮香仙女の道術を使うことができる。
    「いきますよ!」
    『吉凶あざなえるごと縄のごとし。
    しかして縄をなうは大いなる運命の導き。
    いざ問わん、宿縁の蛇、因果の果てへ』
    両手を前にかざすと、背中にまとった水晶の帯がきらめき光を放つ。
    手の間に遁甲盤と呼ばれる道具が現れ、水晶の光を跳ね返す。中央に黒白の太陰を描き、八方に描かれた方位と図表。
    一見、セプトピアで使われる占いの道具にも似ているが、より細かく文字が描き込まれ、怪しい呪術の道具にも見える。
    そして縁の周囲を一抱えもありそうな大きな水晶の塊がぐるぐると回りだし、時に高く微かに、時に低く太く、不思議なうなりを上げる。
    「む、むむむむ・・・」
    『これは、なかなか因果が深い―』
    自然、少し額にしわが寄り、汗がひとしずく頬を流れていく。

    ところで、七星縁もなかなかのナイスバディであることは、ナイエン支局の男性スタッフなら皆知っている。
    最初に盟約したテトラヘヴンの蛇神・ケツァルコアトルとの合体の時はよかった。何故か、可愛らしいモコモコの着ぐるみ姿になっていたので。
    しかしその後やってきたトリトミーのアリオールやソルトとの合体は、体の線がはっきり見えるボディスーツ姿だったりした。モノリウムのサンドラとの合体はまるでサンバの様な極彩色の孔雀姿で、相当露出が激しかった。
    そして今。蓮香仙女との合体は、ジスフィア由来の着物に身を包みながらも、裾は短く縁の見事な脚線美を隠してくれないし、占いに夢中で前かがみになると、なかなか胸元が悩ましく、ハッキリ言って目の毒だ。
    「・・・(おい、ゼラ!)」
    ナイエン支局の定理者チームリーダーの職責を担う者として、かかる事態は見過ごせない。
    オルガは、戦術部主任であり強面で睨みを効かせるゼラにアイコンタクトを送った。
    「・・・(了解です、お任せください)」
    ゼラはひとつふたつ、あからさまな咳をして注意を引くと、フロア中に低く響く声で、
    「お前たち、目の前の業務に集中しろ。いいな、集中だ、集中!」
    「「「は、はい!了解です!」」」
    オペレーションフロアのスタッフたちの背筋がピンと伸び、各自、目の前のモニターに集中する。

    しばしのち。
    「リーダー、出ましたよ!わかっちゃいました!」
    と、いつもの明るい調子で縁が報告してくる。
    「―わかったわかった、落ち着いて報告してくれ」
    「顔赤いですね、どうしました?」
    「何でもない!報告!」
    「はい!」

    縁と蓮香によれば。
    キョウトに起きた凶事そのものは、これで片付くだろう、とのこと。
    『良き出会いが凶事を慶事に変える、と卦が出ています。
    使者二人のことは、流れに任せるべし、と』
    「それよりも、気になっちゃう事があるんです」
    『傷門より景門へ・・・つまりキョウトから流れこんだ因縁の流れが、このナイエン区を通り、さらに北へと流れていくのが見えます』
    「因縁・・・それは何なのだ?」
    「すいません、そこまではっきりとはわからないんです」
    「キョウトに端を発し、ナイエン区、そして北へ・・・?
    俺のロジックが聞こえる。
    キョウトの騒ぎが大きな企みの始まりに過ぎない可能性は90%・・・」
    目を閉じ、しばし考えこんだオルガは、目を開くと素早く指示を出した。
    「ゼラ、揺音と明日葉には、当面の治療などが終了次第、こちらに戻ってもらってくれ。
    ピエリ、キョウトの事件発生後の、ナイエン区周辺の不振報告を再度洗いなおしてくれ。
    クラウは調査部および警察に警戒レベルを上げるよう指示。
    ただし不必要に市民に動揺を与える必要はない。あくまで内々の調査に務めること」

    太古からの占術に、亀卜というものがある。
    亀の甲羅を桜の枝を燃したもので熱し、現れたヒビの様子で吉凶を占う、というものだ。
    オルガに一旦の報告を行った後、縁はさらに占いを続けていた。
    『不思議な卦が出ています。吉凶いずれとも判じがたし』
    「再会、そして新たな出会い」
    『吉と出るか、凶と転じるか』
    「導くのは、人の縁・・・」
    縁は、人と人、あるいは人間と使者をも結ぶ絆を、大事に考えている。
    (言葉にしちゃえば、「せっかく出会ったのだから、仲良くしましょう」ってだけ、なんだけど・・・)
    出会いは偶然。でもそれを良いものにするか、悪いものにしてしまうかは、自分の意志と努力で変えることができる、と思っている。

    だから縁は―
    「それじゃあ皆さん、忙しくなりそうですから、今のうちにご飯でも食べましょうか!
    久しぶりに、私が鍋を振っちゃいますよ!」
    すると、すぐさまフォーリナーカードが輝き、縁の周囲は賑やかになる。
    『メシか! オレ様も食うぞ!たくさん作ってくれー!』
    とケツァルコアトルがいつものミニサイズで騒げば
    「はいはい、待っていてくださいね」
    『わかった。本機は直ちに狩猟任務に就く』
    とアリオールが爪を光らせ
    「いいです、材料は既にありますから!」
    『任務、了解。材料の切断を開始する』
    とソルトがレーザー剣を抜こうとし
    「ソルトさん、包丁。包丁を使ってください!」
    『あ、あの、わ、私は何をすれば? お、お皿を並べるぐらいなら・・・わわっ』
    とサンドラがわたわたし
    「サンドラちゃん、落ち着いて。ゆっくりでいいからね!」
    『これは興味深い。私の発見した新種のキノコを干して砕いたパウダーを提供しよう』
    と怪しい粉末を振りかけようとする。
    「止めて! 毎回だけど、それだけは止めて!」

    彼女の名前は「縁」―
    『人と人の繋がりを意味する、「えにし」とも読む文字。
    この字をあてたご両親は、先見の明が御有りになったのでしょうね』
    この繋がりこそが彼女の力だ。
    その一端であることを、蓮香仙女はひそかに誇りに思っている。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 凪

    夏以降に出会い、盟約を結ぶことになるフォーリナー。
    悪の陰謀を防ぐ(という妄想の)ため、セプトピアに調査に来たところ、平和すぎて落胆していた。そんな最中通り過がりのロジカリストだった弥生と出会い、彼女が悪と戦う戦士だと知ったことから盟約した。

     橘 弥生 & 凪

    橘 弥生 & 凪

    『―風が吹いていた。
    良くない風だ― 

    ジスフィアの使者、凪はそう呟くと、隻眼で闇の向こうを見透かす。
    風が運んでくる・・・悪の匂いッ
    しかし安心するがいい。
     いかなる悪の邪智暴虐が世を乱そうとも。
    この悪しき風、俺が止めてやる。
    風が止まると書いて凪と読む。
    そう、この俺の名だ!
    くっくっく・・・・
    はっはっはっはっはーーー!!!!!!』

     ―という、独り言にしては結構大音量のモノローグが、木の上から聞こえてくる。
    「・・・・凪さん。そろそろ、よろしいかしら?」
    『ヌ? 我を呼ぶのは誰か―?』
    「下をごらんなさい。わたくしですわ」
    『ム! そこに見えるは我が輪廻が導きし宿縁の盟約者、橘弥生ではないか。
     だが済まぬ、今ここに悪しき気の流れが―』
    「ではあなた、今夜のご飯はいらないんですのね?」
    『―! い、いります、いります。
     すぐ、すぐに降りるから!』
     と答えると。
     黒ずくめの小柄な姿が木の上からよっこいしょ、どっこいしょと言いながら降りてきた。
    「まったくもう・・・
     そんなに苦労するなら、わざわざ木の上になど登らなければいいでしょうに」
    『くっくっく・・・
     仕方がない。これは、悪の気配をいち早く掴むための日課なのでな・・・
     というか、この前までは鳥に適応していたのだ!空が飛べたのだ!
    高いところから見たいのだ、木登りは仕方ないではないか!』

     フォーリナーカードが実装され、定理者はその力が必要なときにだけ、盟約者である使者を異世界から呼び出すことができるようになった。
    呼び出された使者は、用が済んだ後は自らの世界に速やかに帰るのが普通だ。使者たちにとってはここ、セプトピアこそが『異世界』だ。セプトピアのロジックに適応すると体が変化し、セプトピアに住む人間や獣など、近しい何かに成り代わる。そのため、本来の世界で使えた超自然的な力を振るえなくなってしまう。だから彼らにとってこのセプトピアは、決して過ごしやすい世界ではないはずだ。
     しかし。たまに、呼び出されたあと、これ幸いとなんやかんや理由をつけてはなかなか帰ろうとしない者もいる。
     弥生の二人目の盟約者、このジスフィアの烏天狗・凪もその一人だ。
    「確かに、出会った頃のあなたの適応体は鳥でしたわね」
    『うむ』
    「なんで人間の姿になりましたの?」
    『・・・わからん』
     適応の仕組みについては、ALCAでも研究中だが詳しいことはわかっていない、と聞く。
    つい数年前までは、トランスジャックした使者に対する戦い方だったり逆理病に侵された人を救うことだったりが研究の主体だったのだから、まあ仕方ない。
    『待たせたな我が盟約者よ! では今宵の供物を頂戴に参ろうか!』
    「はいはい、食堂に行く前に、まずちゃんと手を洗うのですよ?」
     凪については学園長の許可を得たので、一晩ぐらいなら寮の自室に泊めることもできるし、食事も用意してくれる。
    『白樺寮の夕餉は実に滋味豊富な天上の果実。
     日頃ジスフィアにて霞を喰らうて生きる俺には、ふっ、過ぎた供物よ・・・』
    「まあ! ジスフィアでは霞を食べているなんて!
     ふふっ 万博さんに教えてあげたら、喜ぶかもしれませんわ。
     他にどんな物を食べているのか実験してみよう!
     とか言いそうですわね」
    『まてまてまて弥生、それはヤダ! それはヤーダー!』
    「安心なさい、本当に実験なんて、させませんですわよ?」
    『いや、うん、それはありがたい。
    そのう、霞というのも、まあ、そういう設定の方がカッコイイかなー、なんて・・・』

    凪は一度呼び出されると、こうして夕方の「日課」を済ませ、弥生や1年Sクラスの少女たちといっしょに食事をとる。その後、しぶしぶと故郷に帰っていく。

    『クククッ 我が輪廻が導きし宿縁の盟約者、橘弥生・・・
     再び悪がこのセプトピアに手を伸ばそうというなら、
     いつでも構わぬ。この俺を呼ぶが良い・・』
    「はいはい、わかりました、ですわ」
    『本当だぞ! 本当の本当に、呼ぶんだぞ!約束だぞ!』
    「ええ、遠慮なく呼びつけますわ」
    『では、サラバだ!』

    「いやー やっちゃんの二人目、凪は面白いっすねー!」
     そう声をかけてきたのは、同じ1年Sクラスのクラスメートで幼馴染の、京橋万博。
     凪と出会って盟約したのも、この幼馴染と一緒の時だった。
     そもそも凪は、自分の方からこのセプトピアに盟約者を探しに来た使者だ。
    あの楽しかった夏祭りのあと。
    白樺寮に帰る道の途中、黒い鳥ががぁがぁ叫びながら皆の回りを飛び回るものだから、さてはカラスが優勝メダルを取り返しにでも来たのかと身構えた。しかしよく見れば様子がカラスとは違うし、何よりまた万博のフォーリナーレーダーが鳴り出すので、まさかと思い学園の盟約室に連れて行ったのだ。
    盟約室で元の世界での姿―元体を現した凪は、居並ぶ少女たちを見て開口一番、言ったものだ。
    『お前たち、この俺と、悪を倒さないか?』
     あまりのセリフにぎょっとする一同の中、それに動じず
    「もちろん、悪はこの橘弥生が許しませんわ!」
     とすかさず返したこの幼馴染は凄い、と万博は思う。
    『くくっ そう言ってくれるのか。有難い。
     では早速だが橘弥生よ。今、この世界には悪の手が忍び寄っている!』
    「なんですって!」
    『闇に潜む巨悪を見つけ、暴き、葬るのが俺の役目だ!』
     この凪のセリフを最初に聞いたときは、一同大騒ぎになったものだ。
    まさかまさか、新たなる異世界からの侵略が!
    ALCAにも報告、至急調査と対策を!
    ―と盛り上がったところで。
    『ま、まてまてまて、おちつけ! 落ち着くんだ!』
    「これが落ち着いていられますか! 凪さん、早速ですが、その「闇に潜む巨悪」とやらについて、知っている限りの情報を教えてください!」
    『い、いや、そのう・・・
     俺もまだ、調査中というか、まだ詳しくはわかってないというか、これから設定するっていうか・・・』
    「わからないからこそ、調査が必要なのです! まずは貴方の知っている情報を―」
     と詰め寄った所で、後ろから弥生をつついたのが万博だった。
    「あー、やっちゃん、やっちゃん、それぐらいにしてあげるっす」
     見れば、凪はなんだか小さく背を丸めると―
    『・・・ゴメンナサイ・・・』
    全てが自分の「妄想」であることを認めた。

    「なんですか「設定」って! まったく、本気にしたわたくしがバカみたいではないですの」
    「まあまあ、良かったじゃないすか。本当じゃなくて。
    あたしもまさか、異世界から来た使者が中二病患者だーなんて、驚いたっすけどね」
    「全く、困った子を任されたものですわ」
    「そうすか? それにしては、やっちゃんも悪い気はしてないように、見えるっす」
     どうかしら、と弥生は肩をすくめてみせた。

    そんなある日。
     授業中の実技訓練で凪を呼び出した後、別れた弥生は、クラス委員の仕事が少し長引いたので、いつもより遅く寮に帰ってきた。
     ほとんど陽も落ち、いつもの「日課」に行っているであろう凪を迎えにいかなければ。そんなことを思いながら寮の門をくぐると、ほとんど同時に、凪も戻ってきたようだ。
     だが、その様子がなにやらおかしい。
     息を切らせて走ってくる。
    『わ、我が盟約者、橘弥生よ!帰ったか!
     く、くくくっ 
     今こそ、今こそ我らの力で正義を執行、闇を払い光をもたらしこの世に正しき風をもたらすのだ!! ふ、ふははははは―がほっげほっ』
    「・・・今度は何の設定なのです?」
    『ち、違う、今度は本当なのだ!』
     改めて話を聞くと。
     遠くの方、森の端に、赤いものが見えた、気がするのだという。
     さらに、風に乗って何か焦げた匂いもすると。
     それを聞いた弥生は―
    「―華凛、華恋」
    「はい、主さま」
    「おそばに~」
    「華凛はすぐに学園に向かい、先生方にこの事を知らせなさい。応援を頼むのです」
    「はっ!」
    「華恋はわたくしと来なさい。力が必要になるかもしれません、フォーリナーカードは持っていますね?」
    「ばっちり~」
    「凪、貴方はわたくしと合体しますわよ。すぐに現場へ向かいます」
    『弥生、その・・・ありが、とう・・・』
    「貴方のことは、盟約者であるこのわたくしが、一番わかっていますわ。
     ―まあ、貴方の勘違いなら、いいのですけれど」

     凪と合体した弥生は、烏天狗の力を得る。
     空を蹴る様に舞い上がると、上空から闇を見通す。
    「凪! 貴方が見たのはどちらの方角です?」
    『あっちだ弥生、見ろ! 火の粉が!』
     強化された感覚が捉えたのは、火の粉が踊る赤い色、生木が焦げる嫌な匂い、そして―
    『「―子供の声!」』
     空を駆けて闇を渡る。一気に近づく。眼下に見えたのは、炎に囲まれた二人の子供の姿だ。泣いている。
     間に合った。まずい。どうしよう。囲まれている。対策は?避難は?どうしてこんなところに子供が?火はどこから?
     弥生の脳裏を様々な思いが駆け巡るが、決断は早い。
    「凪! 貴方の力を!」
    『おお! 使いこなして見せろ!』
    『「ロジックドライブ! 神仙竜巻返しの術!!!!」』
     威力と範囲を絶妙に絞り込まれた竜巻が、子供たちを優しく包むと宙に巻き上げる。
    「華恋!」
    「お~まかせ~!」
     ついてきていた華恋が子供たちをキャッチするのを確かめると、気流を操り延焼が広がらないよう制御する。風を操る力で火を消すのは難しいが、応援が来るまで被害が広がらないよう防ぐことはできる。
     皆が華凛の先導でやってくるのに、時間はほとんどかからなかった。

     合体を解くと、弥生は凪に
    「お手柄ですわ、凪」
     と声をかけたが、その本人は何かを噛み締めたかのように拳を握って呟いている。
    『よ、良かった・・・お、俺も、俺にも正しい事が、正義の味方が、できるんだな・・・』
    「まあ、当たり前ですわ。
     この橘弥生の盟約者ですもの。正しい心で世界の役に立つ。当然の事ですわ」
     凪は何かを感じたかの様に、明るい笑顔を見せたが―
    『い、いや、この程度、お、俺の力をもってすれば容易いこと。
     フ、フハハハハハ―!』
     とまあいつもの調子に戻る。
     それでも、今夜は夕子に頼んで、食後に凪の好きなデザートを出してもらおう、と思う弥生だった。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 哪吒太子

    哪吒太子

    強さと知性を兼ね備えている、ジスフィアの使者。あふれる正義感を持っており、平和を脅かすものには乾坤圏や火尖鎗を用いて、立ち向かう。クロエの必殺技のネーミングセンスには、疑問を抱いているとか。

     クロエ・マクスウェル & 哪吒太子

    クロエ・マクスウェル & 哪吒太子

    「ジスフィアの使者と盟約したいなー!」
    突然のクロエの発言に驚くアシュリー。
    「だってさー!シュリリンがシェリーっちとこの間盟約したでしょ!
    それを見てたら羨ましくなっちゃって!」
    たしかに先日、クロエの計らいにより、アシュリーはシェリーと盟約をすることが出来た。
    一緒に水族館に行った時のアシュリーの一言をクロエが覚えてくれていて、
    フィリルにお願いをしてくれたからこそであった。

    「それなら私も…」
    小さな声で呟くアシュリー。
    「ん?シュリリンどしたのー?」
    「い、いえ。なんでもないですわ!」
    クロエさんを驚かせるためにも秘密にしておきましょう!

    数日後、クロエはアシュリーから盟約室に呼び出された。
    「シュリリン、話ってなにー?」
    「私、あの…お礼に艶鬼さんにお願いしたんです」
    「お礼?お願い?」
    いまいち話を理解できていないクロエ。
    「艶鬼さん、お呼びいただけますか?」
    『アシュリーのお願いなら聞かんわけにはいきませんなあ』
    「えっもしかして!!」
    以前自分がアシュリーにした流れとほとんど同じだ、とここで気が付くことが出来た。

    次の瞬間、赤い服を身にまとい、炎を帯びた槍を持ち、自信にあふれた表情の女性が現れた。
    『あとは、お二人におまかせしましょ』
    「ありがとう艶鬼さん」
    二人を見守るアシュリー。
    先に口を開いたのは、ジスフィアの使者であった。
    『名前は?』
    「クロエ!クロエ・マクスウェル!あなたは?」
    『哪吒太子と呼ばれている』
    クロエは少し考えこんだ表情を見せ、
    「じゃあ、ナタッチだね!!」
    神妙な面持ちから一転、ぽかんとした表情を見せる哪吒太子。

    「よろしくね、ナタッチ!」
    まだ盟約をしていないのにもかかわらず、強引に話を進めていくクロエの様子に、
    アシュリーは苦笑いをしていた。
    『艶鬼から紹介をされたはいいが、盟約したい理由が、
    これまでの盟約相手にジスフィアの使者がいないから、とはどういうことだ?』
    自分に対して、初対面でここまで距離を縮めようとする者は、初めてかもしれない。
    ジスフィアでは、“太子”と呼ばれているだけのことはあり、尊敬の念を抱いて、
    接してくる者がほとんどであった。いや、戦いにも秀でていることから、尊敬よりも、“畏怖”であったのかもしれない。
    そのため、これまでに呼ばれたことのない名前で、しかも親しみを込めていきなり呼ばれることは、驚くべきことであった。だが、その気持ちを悟られないように、平静を装いながら、目の前にいる少女に疑問をなげかけてみた。

    「いろんな世界を知りたいんだ!ジスフィアのことをよく知るには、
    やっぱり使者との盟約かなって思ってさ!」
    『たしかに、知識が増えることで見えてくる世界もある。
    探求心があることは、良いことだ。私も、セプトピアの世界には興味がある。』

    2人の様子を見守っているアシュリーが、小さな声で、艶鬼に問いかける。
    「哪吒太子さんはどのような方なんですの?」
    『えらい強おて賢しゅうて、正義感にあふれておりますなあ。まるでうちみたいやわあ』
    (…最後の一言は、聞こえなかったことにしよう。)
    そんなアシュリーたちの様子をよそに、嬉しそうに口を開くクロエ。
    「じゃあ盟約してくれるってこと!?」
    『定理者として、戦う理由はなんだ?』
    鋭い視線でクロエを見つめ、制するように問いかける。
    「街を、みんなを守るためだよ!」
    自信を持って即答する。
    ALCAから強制召集という形で、定理者として戦うことになったが、
    自分の使命や立場に不満を感じたことは一度もなかった。

    「ま、戦うこと自体も好きだけどね!今はけっこう平和になったから、
    前ほど戦うこともなくなったけどねー!」
    と付け加える。
    『その言葉に偽りはないようだね。表情を見ればわかる』
    ふっと微笑み、
    『ジスフィアのこと、教えよう。私の知識は、きっと君を満足させることができるはず。
    もちろん、戦いとあらば、私の力を存分に使うといい』
    クロエの答えは、哪吒太子を満足させたようだった。

    ・・・・

    「よーしいくよ!ナタッチのスピード、甘く見てるとケガするよ!」
    『平和を脅かすというのなら容赦はしない!』
    風火二輪を操り、空を飛び回るクロエ。
    「いやー!空も飛べちゃうんだね!いろんな武器があって、楽しいね!」
    『クロエ、戦いに集中しよう』
    「集中してるよー!よしっ、いくよー!必殺“ハイパーファイヤーランス”だっ!!」
    『…火尖槍だ』
    盟約をしてから、クロエの持つ、裏表のない素直さをどんどんと知るようになり、尊敬していた。
    …が、“ナタッチ”といい、ネーミングセンスだけはいつまでたっても、あまり尊敬できるものではないな、と苦笑した。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 懍玲

    懍玲

    ジスフィアからやってきた竜族の使者。玉姫の盟約者・小玲の姉。とある理由から、阿修羅に聖那を紹介してもらい、セプトピアにやってきた。

     揺音聖那 & 懍玲

    揺音 聖那 & 懍玲

    黒雲が空を覆う。
    ひっきりなしに雷鳴が轟き、時折空が輝いては、てんでんバラバラな方向に稲妻が走る。
    『ハッハッハァ! 轟け!吠えろ! アタシの稲妻、たっぷり拝んでいきな!』
    かと思うと、猛烈な風が嵐となって、横殴りに叩きつけて体ごと飛ばそうとする。
    『吹けよ風、呼べよ嵐。ふふっ これほどの凄風、セプトピアにはないでしょう!』
    見上げれば、良く似た黄と青の装束の少女が、翼も無いのに空に浮かんでいる。
    もちろん、ただの少女でないことは見ればわかる。
    黄色の少女は二つ、青の少女はひとつの立派な角を生やし、雷、そして嵐をまとって高らかに笑っている。
    『こうしていれば、面白い事が起きる、ってアイツは言ってたなァ』
    『ええ。私たちを楽しませてくれる相手がいるって、言ってましたけど・・・』
    『なんでもいいや。さあ、楽しもうゼ!』
    黄色の少女が手を振れば、背中に八つの太鼓が現れる。
    手にした五鈷杵の様なバチを叩きつければ、ドドンという音ともに稲光が空を裂く。

    「なにあれ。カミナリ様ってこと? じゃああっちは―」

    急行したトランスポーターから空を見上げる聖那。
    視線の先で、今度は青の少女が、
    『あなたは乱暴すぎるわ。もっと風流になさいな』
    腰に巻き付けた白い帯。これを解くと、たちまち大きな袋になる。
    なったかと思うと更に膨らみ膨らみ、縛った紐を解けば、その口からゴゴウと旋風が舞う。

    『ああ。こっちの―ジスフィアの雷神と風神だ』
    フォーリナーカードが震え、阿修羅―ジスフィアの闘神にして聖那の盟約者―のぼやくような声が響いた。
    『悪ィな、こっちの神格がまた迷惑かけてよ。
     ―おおぃ手前ら! 何やってんだ!』
    「あなたたち、すぐに止めなさい!」
    トランスポーターから降り、声を張る聖那。
    その声が届いたのか、二人の少女は初めて聖那を見た。
    『なんだァ、今イイとこだってのによお』
    『なにやら聞いた事のある声ですね。闘神阿修羅です?』
    「その盟約者、ALCAキョウト支局の揺音聖那。
     すぐに止めないと、世界統一自衛法第7条に基づき実力を行使するわ」
    『アぁん?ナンだって?』
    『ちょっと聞こえなかったです―わ!」
    青の少女が袋をしごくと、猛烈な風が聖那を襲い―
    ―降りたばかりのトランスポーターが巻き上がり、そのまま聖那の上に落ちてきた。
    『アタシはジスフィアの雷神、鳴神』
    『同じくジスフィアの風神、玉風』
    『っても、もお聞こえねぇかなぁ!ハハハハ―』
    二人の笑いは途中で止まった。
    聖那を押しつぶすかと思った車体がゆらり浮くと、二つの宙を飛ぶ拳に支えられ、ゆっくり路上に降ろされたからだ。
    「安全なところへ、早く」
    ドライバーに声をかけ、彼が脱出するのを確認すると、改めて二人を見据える。
    「これが返事ってわけね。いいわ。
     力づくでも、おとなしくしてもらう」
    『手前ぇらちょっと降りてこい。熱いゲンコでおしおきしてやるからよ』
    闘神・阿修羅と合体した聖那は、和風のボディスーツに身をつつみ女性らしい健康的な肢体を見せながらも、優れた格闘センスと強化された身体能力、そして宙を自在に舞う四つの拳を使って戦うALCAキョウト支局きってのパワーファイターだ。
    『ハ! 驚かせんな! 阿修羅だろーと、空飛べないんじゃあケンカにもならね―』
    と胸を張る鳴神のすぐ横を、風を突き破る勢いで阿修羅の拳が飛んだ。
    『-ッ!!』
    『降りてこねーってんなら』
    「無理やり引きずりおろすまでよ」

    とはいえ。
    二人の使者を相手に、独りで戦うのは困難を極めた。
    勝手知ったるキョウトの街を盾に使い、隙を見ては対空ミサイルの様に拳を叩きつけるが、向こうも暴風で身を守り、鞭のごとく稲妻を振らせてくる。
    息の合ったコンビプレイが、聖那を追い詰めていく。
    なにより、愛する街が巻き添えに壊れていくのが、まるで自分の体を傷つけられたように感じる。
    「・・・まだなの?」 
    焦る聖那に、やっと待ちかねた通信が入る。
    「-聖那、こっちはだいたいOKだよ」
    「ありがと、律さん」
    キョウト支局の他のメンバー、律の率いる別動隊は、雷と暴風に囲まれた街から人々を非難させていた。
    異世界から来た使者がこの世界に及ぼす悪影響は、異世界由来の特殊な力で暴れることそのもの、だけではない。
    彼らがこの世界の人間を取りこむ―トランスジャックして世界に現れる時、周囲に己の異世界に合わせて世界を作り変えようとする力が働く。これを「逆理領域」と呼ぶ。
    逆理領域に取り込まれた普通の人間は、程度の差こそあれ、徐々に異世界のロジックに体を蝕まれこの世界のロジックを喪ってしまう。そのまま放置すれば、人格が破壊され、死に至る。
    使者の悪意ある侵入に対し、定理者たちがまずしなければならないのは、逆理領域から人々を避難させることだ。
    幸い、キョウトにはシェルターも充実し、人々の意識も高い。
    時折飛んでくる流れ弾ならぬ「流れ岩」も、
    『カカカっ この程度!』
    律と合体した妖怪・唐笠小僧の番太が広げる、巨大な蛇の目傘ががっちりブロックする。
    「それと、君の相棒の方も―」

    通信を終えた聖那は、宙の二人に背を向けると、小路を抜けて走り出す。
    『あ! おい! 逃げんのかよ!』
    『逃がさない。ふふふ、神を挑発してタダですむと思ってるのかしら』
    細い路地を選んで走ることでこちらを巻こうとしているのか、見え隠れする聖那を追いかける鳴神と玉風。
    『追いかけっこも面白いけどよー』
    『そろそろ飽きましたね』
    鳴神の放つ稲妻をくぐるように、聖那はとある商店街のアーケードを折れ、そのまま大きな建物の中へと逃げ込む。
    『建物ン中なら安全ってかぁ?』
    『とんだ間違いですわ』
    玉風の風が拳となって扉を吹き飛ばし、そのまま後を追う。と。
    ―バチリ。
    『ぐっ』
    入口から伸びる通路をくぐろうとした鳴神を、四方から雷が襲った。
    『・・・雷神のアタシに、雷だと? 効くわけねーだろーがー!』
    腹立ちまぎれに周囲に稲妻を飛ばせば。
    別の通路の先にたたずむ、金髪に和装のドレスを着こなした少女も涼しい顔でそれをやり過ごす。
    「そうかしら。貴女の雷、たいしたことないんじゃない?」
    『まあまあジゼル。鳴神も若い神ですから、仕方ないですよ』
    『んだと!!!!』
    更に勢いを増す雷の雨の中、踊るようにかわして微笑む。
    『ALCAキョウト支局所属、ジスフィアのイカヅチの神、八雷神』
    「その盟約者、ジゼル・サンダース。今日は特別に、アンタと踊ってあげるわ」
    『・・・たま』
    『わかった、なる』
    その一言で決めたのか、鳴神は八雷神と合体した少女・ジゼルを追い、玉風は聖那の後姿を追う。

    ―つまり、見事に分断されたのである。

    『ジゼルさん、気を付けて。ああは言いましたが、単純な力比べなら、鳴神の方が上かもしれません』
    「ちょっと、敗北宣言?」
    通路を駆け抜けつつ、ところどころに稲妻を放つ札を地雷の様に配置。
    鳴神は稲妻そのものにはダメージを受けないが、八雷神の操る「雷」とは。
    『とんでもありません』
    黒雷は天地を暗くし視界を奪い。土雷は鳴神の雷を地面にそらし。伏雷は闇に潜んで稲光を走らせ。
    『「火雷(ほのいかづち)!!」』
    声を合わせるジゼルと八雷神。放つ雷の起こす炎が、鳴神を炙った。
    『うわーっ』
    『雷の扱いにかけては、この八雷神に及ぶ者はおりません』

    セプトピアの建物は、玉風の知るジスフィアの建屋とは違い、硬く、隙間がなく、冷たく。
    彼女の放つ風にいちいち抵抗する。
    だが無駄な抵抗だ。
    風で拳を作って殴りつけてやれば、扉も吹き飛んでしまう。
    だが。
    それをあざ笑うように、あの阿修羅と合体した女はひょいひょいと逃げ回る。
    『いつまで逃げまわるつもり? 闘神阿修羅の名が泣くのではなくて?』
    いらいらするので壁の2、3枚ごと殴りつけてやるが、砕けた扉の破片を縫って、阿修羅の拳が飛んでくる。顔を思わずそらす。が。
    『ぐっー!』
    影から飛んできたもうひとつの拳が、深々と腹をえぐる。
    『・・・・おのれ・・・・』
    視界の端を、女のおさげが消えていく。
    『許さない!!!』

    それぞれを追う鳴神と玉風は、とある廊下の端でぶつかる様に再会した。
    『-なる、ひどい顔。煤けてるわ』
    『うっせー。たま、お前こそ服破けたんじゃねーの』
    視線をかわし、改めてあのナマイキな二人に目にもの見せることを誓う。
    扉の向こうにいるはずだ。
    近づくと勝手に扉が開き、踏み込むと閉まる。
    『誘いこまれた?』
    『かんけーねー ぶっつぶす』
    耳がキンとなって痛む。
    少し息苦しい。
    ついでに、妙に熱い。

    ホールの様になった少し広い部屋の向こうに、あの阿修羅と合体していた女が、別の装束で立っている。
    『鳴神様、玉風様、少しは頭が冷めましたかの?』
    『だれだてめー』
    『また別の者と合体しているのね?』
    『合体しながらで失礼申す。わらわは懍玲。ゆえあって、この者とキョウトを守っておる』
    「いいかげん暴れ飽きたでしょ? おとなしくトランスジャックを解いてくれないかな?」
    『うっせー!』
    『その顔にお返しするまでは、止められませんわ』
    「-しかたないか」
    『一度、痛い目を見てもらうしかないようじゃ』
    聖那の前にある、青く輝く水晶のような八角錐。
    それがひときわ強く輝いたかと思うと、むっ とした熱気が更に高まった。
    「-ロジックドライブ」
    『「驚烈超火球!!!」』
    そのまま蒼い火の玉となって、鳴神と玉風に向かってくる。
    『バカね、こんなもの!』
    風の壁を作って弾き返そうと風袋を膨らませるが―妙に手ごたえがない。
    「気圧が落ちてるの、わかる? 当然、風の力も弱まるってわけ」
    気圧、というのが何のことだかはわからなかったが、風が薄くなっているのはわかった。
    『どけ、アタシの雷で!』
    だが放つ雷は、あらぬ方向へと飛ぶ。その先にはあの雷女が札を持って立っている。
    「なんかね、気圧の低くなったところでは、放電しやすくなるんだって。
    勝手に雷が出ちゃうから、うまく操るのは難しいみたい。
    ま、私たちは楽勝だけど―
    あんたには無理みたいね」
    『てっめええええ!!!!』
    『なる、ダメ!!!』
    火の玉が二人を直撃するのと、無理やり束ねた風が天井を吹き飛ばすのは、ほとんど同時だった。

    「で? 鳴神と玉風だっけ? 逃げちゃったの?」
    「-ゴメン、平さん」
    聖那とジゼルの奮戦によって、鳴神と玉風はトランスジャックを維持できなくなり、取り込んだ人を解放してどこかへと逃げたようだ。
    逆理領域も消え、青空が戻ったキョウトではシェルターから出てきた人々が笑顔を取り戻している。
    通信の向こうで、支局長代理の平もほっとした返事を返す。
    「ま、しょうがないよ。あとは調査部に任せて、いったん戻ってこいや」
    「-いや、まだそこらにいるかもしれない。私はちょっと探してみる」
    と聖那が答えると、
    「私はリハに戻らせてもらうわ。抜け出してきたんだからね、取り戻さないと」
    とジゼルも答える。
    二人は視線を交わし、
    「ありがとねジゼル。ライブ、楽しみにしてるから」
    「ハイハイ、じゃあ私が集中できるように、なるべく呼び出さないでね」
    ふっ、と笑みを浮かべると、反対方向に向けてそれぞれ歩き出した。

    「ちょっとー! お兄さんの指示、たまには聞いてくれても良くない?」

    後には平のいつものボヤキが残された。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 此花咲耶

    此花咲耶

    花を愛するジスフィアの桜の精霊。生命を産む力を持っている。まだ見たことのない美しい花を見ることを夢見ている。

     ジゼル・サンダース & 此花咲耶

    ジゼル・サンダース & 此花咲耶

    ステージ裏に、赤と青の揃いの衣装を身に着けた少女たちが、抱き合って、ちょっと震えていた。
    「やっぱりこの恰好恥ずかしいよ、お姉ちゃ~ん!」
    「泣かなくても大丈夫よ、聖那」
    と答えながら、玉姫の声も少し震えている。
    おへそと脇を大胆に見せ、スカートも大きくフリルが広がりつつしっかり足は魅せる。
    そう、二人の衣装は見事にラブリーな(ヴィーナスも太鼓判を押した)アイドル衣装である。
    「ほ、ホントに私たち、こんな格好で歌うの・・・!?」
    「そ、そうね。ジゼルさんに何かの間違いですよね、って確かめた方が・・・」
    そんな二人の希望的観測を無情に断ち切る鋭い声。
    「何も、何も間違ってないわ」
    ステージから漏れる光を受けて、逆光気味に立つのはジゼル・サンダース。キョウト支局の定理者「兼」歌って踊れて合体もできる、唯一無二オンリーワンとしてアイドル界に君臨しつつある超人気アイドル、その人である。
    彼女の方は、水色基調のやはりへそ出しでフリル盛り盛りな衣装を可愛く着こなしている。やはり本職、その姿に隙は無い。豊かな金髪をツインテールに結わえた衣装と同色のリボンがアクセントだ。
    「で、でもジゼル、私たち、そんなにちゃんと、レッスンとかしてないし・・・」
    「そ、そうよジゼルさん。わ、私たちの素人芸で貴女のステージを邪魔しても・・・」
    「うっさい」
    「「ひっ」」
    一言で黙らせるこの迫力。
    「いいからとっとと上がんなさい。次、アンタたちなんだから」
    『そーだぜぇ。もう腹くくってやっちまえってーの!』
    カン高い声で口を挟むのは、マスコットキャラの様に小さい蛇体に、誰が用意したのかサングラスとカーディガンをあつらえた蛇神、ケッツーこと、ケツァルコアトル。
    「け、ケッツー、あなたね―」
    『おおっと。今日ばかりはケッツーじゃあねぇ。
    ケッツPと呼びな。
    さあ、このイベントの総合プロデューサーである俺様の命令だぜ。早く行きなー!』
    「あんたら姉妹、せっかく良いもの持ってるんだから、それをさっさと見せつけて、こい!」
    ジゼルに半ば突き飛ばされて。
    揺音姉妹が立つは、キョウト・キヨミズコロシアムのメインステージ。
    スポットライトと観客たちの視線が二人を射抜く。と。
    「うおおおおお!!!!!!」
    「聖那ちゃんだー!!!!」
    「おねえさまもいるぞー!!!」
    「すっげーー!!!!」
    「揺音姉妹のデュエットだと・・・これは歴史に残るぞ!!!」
    怒号の様な歓声が二人を祭り上げる。
    その中心で。
    「―聖那」
    「うん、お姉ちゃん」
    視線を交わした姉妹は、その時にはもう腹をくくっていた。
    「後で、オルガの奴は」
    「うん、平さんも」

    「さあ、続きますは、ご存知キョウトの守護神、揺音聖那とその実の姉にしてナイエン支局の揺音玉姫、二人の姉妹定理者が息を合わせて歌います!曲は!」

    「「おしおきラブリードリーム!!!」」

    まあ、なんでこんな事になっているか、というと。
    話はしばらく前に戻る。

    「・・・で。なんで私のライブツアーにALCAが口挟んでくるわけ?」
    怒りを隠そうともしないジゼルの剣幕に、いつもの様にへらへらりとした表情を崩さずキョウト支局局長代理平は答える。
    「いや~ ほら、例の事件で君のツアーラストを飾るはずのキヨミズコロシアム、壊れちゃったでしょ?」
    「そうね。どっかのバカが好き放題やってくれたおかげでね」
    じろり。
    視線の先にいたくららが、ごめん!と手を合わせる。恐らく、彼女の懐にあるフォーリナーカードの先でも二柱の神が同じ動作をしているはずだ。
    「―まあ、もういいけど。で? ALCAが全面協力して、修理はもう終わったんでしょ?」
    今のALCAなら、重機以上のパワーを柔軟かつしなやかに運用するモノリウムの使者と合体した定理者やら、現代科学を遥かに超える超科学を実践するトリトミーの使者と合体した定理者やらを投入。従来の建築技術を遥かに超える速度と精度で修復をこなすことができるのだ。
    「うん、そこだよ。
    実は、けっこうこの修理には、ALCA本部が人と、それからお金を出しててね」
    「・・・」
    なんとなく話が見えてきた。
    「キヨミズスタジアムも修理っていうよりリニューアル、以前より更に高度な演出を可能にする複合型総合エンタメステージ施設として改築されちゃったわけ」
    「・・・で?
    それだけしてやったんだから、ALCAの言う事を聞け、ってこと??」
    ゆらりゆらり、再び立ち上るジゼルの怒気。
    その時。
    「まあまあ、その辺にしてやってくれないか、ジゼル・サンダース君」
    いきなりモニタが付くと、作戦室のメインモニタに背広姿に色眼鏡の男が映し出された。
    年齢不詳、長髪をラフにまとめ、丸眼鏡の向こうににやりとした笑みを浮かべた彼。
    その名は
    「・・・アンタ、ヤルノ長官・・・」
    「ジゼル君! 言葉使い!」
    「元、長官だよ、ジゼル君」

    ヤルノ現乃。
    元ALCA長官にして、現在世界政府ニホンエリアを代表する政治家のひとり。
    その彼が言うには、この「ALCAが協力してリニューアルした施設のこけら落としとして、ジゼルのツアーフィナーレを飾って欲しい」ということ。さらに。
    「できれば、ALCAの諸君にも、君の舞台に協力してほしくてね」
    「・・・何が狙い?」
    「―わかるだろう?」
    「まあね」
    目を伏せて、思考は一瞬。考えは決まった。
    「いいわ。私のツアーフィナーレ、ALCAにあげる。
    その代わり、中身は私の好きにするわよ」
    「素晴らしい、よろしくお願いするよ」

    ジゼルとヤルノの密約?が組まれてからというもの。
    彼女のツアーフィナーレ・キョウト公演の後援にでかでかとALCAのロゴが入り、ALCAからも多数の人員と経費が投入。
    ジゼルは改めて公演の舞台監督とプランの練り直しに入り、大胆にそのプログラムを変えていった。
    「―ジゼルくん、本当にこんな演出が成立するのかね?!」
    「できるわ。定理者なら、ファンの目の前での早着替えができる」
    「こんな特効装置、どこにあるんだ?」
    「装置じゃない。私と咲耶の能力で出すのよ」
    「なるほど、これはかつてないステージができそうだ!」
    「―しかし、この曲数は・・・大丈夫なのか?」
    「そうね・・・」
    現役の定理者であり、合体して特殊な力を発揮することができる、ジゼル。
    そのことを、ツアーを見に来る彼女のファンたちはみな、知っている。
    そしてその姿を目の前で見たい!と思っていることも分かっている。
    これまでステージ上で合体することを考えなかったわけではないが、あくまで「一般の芸能活動」である以上、その許可は降りていなかった。
    しかし今回は違う。
    ヤルノと取引して、ALCAの全面協力を取り付けたジゼルは、己のアイドルとしてのオンリーワンの能力である「合体」を大胆にステージプランに導入しようとしていた。
    「残念だけど、合体しながらステージをこなすのは、精神的にも体力的にも負担が大きい。今までと同じ曲数は、無理ね」
    「では減らすか?」
    「・・・そうね、でも私に考えがある」

    「というわけで、私としても理解に苦しむのだが・・・
    我々ナイエン支局としても、局を挙げてジゼル・サンダースのライブツアーファイナルに協力することになった」
    いつもの冷静な仮面を少し崩しながら告げるヴェロニカ。
    「まあ、私たちがペンタクルスの件で出払っていた時に、聖那たちキョウトのチームにサポートしてもらいましたから、協力はしますけど・・・」
    そうなのだ。ナイエン区の定理者チームが北はホッカイドウに向かっていた時、何かあってはまずいと留守を守ってくれたのは、聖那やくららといったキョウトのチームの面々だったのだ。
    「で、アタシたち、何やるの? ステージ見に来て~ってチラシでも配る?
    それとも裏方さんで荷物運び? ジゼっちの肩でも揉む?
    それともそれとも、いっそ代わりにステージで歌っちゃう、とか?」
    いつもの軽い調子で聞くクロエだったが、
    『金髪ゥ、それ、正解。にしししし』
    ネメシスの答えに皆がぎょっとする。
    「え、どういうことですか、ネメシスさん?」
    「ああ、つまり、だ。
    揺音、クロエ、明日葉、七星。君たちに、ステージで歌って欲しい、そうだ・・・」
    「「「ええ~~~!!!!」」」
    「ふっ、俺のロジックが聞こえる・・・
    お前たちの頼りない歌で客が盛り下がる確率は60%といったところか―」
    「ああオルガと剣、お前たちにも前座を務めてもらう」
    「な、なんですって!?」
    「バカな、俺たちの華麗なるステージングが、前座だと!」
    「オルガ、まさかお前、歌も歌えるのか?」
    「ふっ・・・」
    「今までやったステージは? 曲のレパートリーは?」
    「ははっ」
    「ダンスは? 衣装は?」
    「ふははっ はーっはっはっはー!!」
    「―経験、無いんだな」
    「まあな」

    結局、ジゼルのライブツアーフィナーレは、ALCAの全面協力によりその趣旨を変え、
    「ジゼル・サンダーズ with ALCAロジカリストムーンドリーマーズ
    スペシャルチャリティライブ」
    として開演することとなった。
    プロではない定理者たちをステージに上げるについては、本来高いプロ意識を持つジゼル自身が悩んでいた様だが・・・
    「プロとしての技、ステージは私が魅せる。
    あんたたちは、とにかく客を喜ばせることに集中して。やりすぎぐらいで丁度いい。何かやらかしても、私が拾って見せるから安心して」

    揺音姉妹がデュエットの途中でそれぞれ盟約者と合体、トランスチェンジを繰り返しては可憐な姿に変身すれば、
    「あの二人は、あの衣装でがんばってくれれば、充分お客様を喜ばせると思うのよね」
    『ああ、あのバディは罪だぜ・・・』
    クロエはノリノリでピンクのフリルから赤炎のスーツまで合体しながらワイルドなダンスを披露する。
    『やっぱクロエが一番ダンスの覚えが早かったナ』
    「体動かすことならなんでもこい、って感じだったものね」
    学が恥ずかしそうにステージの中央で可憐な歌声を乗せれば、彼女を挟んで二人の盟約者―星と冥があわせてくるりくるりと舞い踊る。
    「さすがジスフィアの踊り巫女、やるわね」
    『学もこれで「守ってあげたいオジサン」が大量に湧いてきたんじゃねーか?』
    以外にも積極的だったのが縁で、フリル多めのカントリーガール風な衣装で歌いつつ、トランスチェンジでサンバの踊り子の様な姿になり観客の度肝を抜いていた。
    「くっ、ここにも伏兵がいたか・・・」
    『お前ら! それは俺の巫女だ! 見てるんじゃねー!!!』
    さらに、部下たちにだけ恥ずかしいことはさせられぬと、ヴェロニカまで一曲こなしたのは驚きだった。和風のドレスに扇子を使った艶やかでしとやかな舞から一変、トランスチェンジで女王様然とした姿でスピーカーに足をかけると、マイクスタンドを蹴立てて
    「ついてこない奴は置いていくぞ!」
    と客を煽る。
    「―やるわね」
    『―ああ、やるなあ』

    そして。いよいよ。
    「みんな、まだまだ行ける? 行けるよね?」
    答える歓声を全身に浴びて。
    「いいわ、これからは私のステージ。
    みんなを楽園へ連れて行ってあげる。
    まずはこの曲。
    ラッキーバルーン!!!!」
    躍り出たジゼルは、いつもの様に、いつも以上に、歌って、踊って、語って、舞って、歌った。
    あえてあの日、あの「定理者になってしまった日」のあの歌をあの時と同じ衣装を新たに仕立てて歌う。途中で一瞬の暗転を挟み、曲が中断したか?と思わせ直後、八雷神と合体し客席上空から舞い降りる。
    稲光をアクセサリーに、より激しく突き刺さるアレンジで残りを歌い上げ、続くはハードなロックナンバー。敵に見立てたダンサーたちと群舞を織り交ぜ、時にはまた阿修羅と合体した聖那を壇上に吊り出し殺陣を演じ、背中合わせにサビを歌う。
    これまでついてきてくれたファン、待っていてくれたファンたちへの感謝と。
    新たに彼女を見に来てくれたファンたちへの歓迎の思いをMCに。
    続くスローナンバーはピンスポットの中心で大きく腕を振り上げると此花咲耶と合体、全身で「華」を演じると、ステージと客席いっぱいに桃色の花びらが艶やかに舞う。
    『なるほど、これはこれは素晴らしい花、ですね。
    いいものを見せてもらいました』
    「言っとくけど、まだ途中だから。気合い入れなさい、咲耶」
    合理体の特殊能力によるかつてない特効を織り交ぜながら、トランスチェンジと、従来通りの早着替えを織り交ぜ、多彩なレパートリーを展開、時に客席のノリを煽り。時に客席の意表を突き。一瞬たりとてファンを飽きさせない。

    「すっごー・・・・」
    今回、ステージ裏のアシスタントとして、言われるまま右へ左へと独楽鼠の様に働かされていた小湊くらら。
    ステージを直接は観られないが、その魅力はあちこちに設置されたモニターと、なにより割れんばかりに響いてくる客席の反応でわかる。
    「これが、ジゼル先輩のステージ・・・ うう、客席で見たかったーっ!」
    『ご、ごめんなさい、くらら』
    『でも、あたしたちに付き合う事無かったんじゃね?』
    くらら達がアシスタントをしているのは、今回の事件の「犯人」である鳴神と玉風の連帯責任を取った形、なのだが。鳴神と玉風が会場を破壊したのはくららと盟約する前だったのだから、彼女にとってはとばっちり以外の何物でもない。
    「いーよいーよ。裏から見るなんて、逆にレアだし?
    先輩のライブだって、これが最後じゃないし?
    次は、三人で客席から見ようね!」

    鳴りやまぬアンコールの中、ジゼルがあたふたする聖那の腕をむんずとつかみながらステージに戻ってくるのを、VIPルームから見下ろすヤルノ。
    「いいステージになったじゃないかね、ヴェロニカくん。まさか君まで歌うとは思わなかったケド」
    隣には、いつもの制服に戻ったヴェロニカが来ていた。
    「これで、思惑通りというわけですか?」
    「このライブは世界中に配信されている。
    彼女―ジゼル君のファンは世界中に広がっていく。
    歌って踊って合体できるアイドル―イイじゃないか。
    みんな、彼女をまた観たいだろうね?」
    「世界防衛法を復活させれば、ジゼル・サンダースの芸能活動は再び中断する―
    それは世界中のファンが許さないでしょう。
    ―つまり、武断派の思うようにはさせない、と」
    「僕たち定理者は、もうこの新しい世界を生きている。
    過去の栄光が忘れられない俗物たちには、そろそろ引退していただくつもりサ」
    ジゼルが此花咲耶と。聖那が懍玲と合体しながら、再び二人でデュエットしている。
    蒼い炎が幻想的に彩るステージ。
    花びらが舞い、燃え、儚くもしたたかな、生命の輝きを歌い上げる。
    「―いやあ、イメージ広がっちゃうねぇ」
    「今度は芸能プロデューサーでもおやりになるつもりですか?」
    「君がデビューするなら、考えちゃおうかなァ」

    ジゼルのライブツアーフィナーレにしてキヨミズコロシアムのリニューアル記念でもあるこのライブは記録的な興行収入を得、関連グッズもソールドアウト。見に行けなかったファンの怨嗟の声が遂に運営を動かし、当初予定されていなかった映像ソフト化が実現「そんな! 後には残らないから、って約束したじゃない!!!」し、ただいま各種店頭および通販サイトで好評予約受付中。出演者の日常の姿も織り込んだ特製ブックレット付の「ロジカリストスペシャルセット」はALCA広報サイトでのみ販売中だが、受付初日サーバーをダウンさせ、お客様からのクレームが殺到したという。

    こうして、キョウトの異変から始まった一連の事件は、キョウトはキヨミズコロシアムにて一つの締めくくりを見た。
    キョウトで始まった、新たな出会い。そして再会。
    だが再会があれば、別れも、また。
    それについても、ここで記しておきたい。

    その時。
    キョウト支局の盟約室は、異様な緊張感に包まれていた。
    特別な許可のもと、盟約室は外からもロックが成され、万一のためにキョウト支局の定理者たち、揺音聖那やジゼル・サンダースたちも合体したまま、外で警戒についていた。

    盟約室の中。
    壁際から中央を油断なく監視するように。
    揺音玉姫と、愛と美の女神・ヴィーナス。
    クロエ・マクスウェルと、剣と戦いの女神・ヴァルキリー。
    明日葉学と、月と狩猟の女神・アルテミス。
    七星縁と、翼蛇神・ケツァルコアトル。
    そして。
    剣美親と、正義と勝利の女神・アテナ。
    一同に囲まれる、その中央。
    ヴェロニカ・アナンコと復讐の女神・ネメシスの前に立つのは。

    オルガ・ブレイクチャイルドと、その盟約者にして、「ルシフェル事変」の張本人、100年戦争を起こした魔神、堕天使ルシフェルであった。

    「準備はいいか?」
    「ああ」
    『私も構わない』
    ヴェロニカの問いに、オルガとルシフェルが短く答える。
    と、盟約室の空気が一変した。
    熱く、寒く、乾いて、湿った。不快で刺々しい空気。
    遠くから響く、唸り声とも悲鳴ともつかぬ絶叫。
    『ふふ、懐かしい』
    ここは堕天の地へと至る道。
    堕天使ルシフェルがテトラヘヴンの大神ゼウスに逆らった末、その羽根をもがれて落とされた場所。一度落ちたら二度と天の光は浴びられぬと伝えられる永久の監獄。その、入り口にあたる場所だ。
    そこに向かって。
    一歩踏み出すルシフェル。
    その足並みはあまりに軽く、無造作で。
    あたかも己の家に変える帰途のごとく。
    たまらずアテナは声をかけていた。
    『―ルシフェル!』
    『何かな?』
    『大神ゼウスに、従うつもりはありませんか?』
    『ないね』
    即答だった。
    『ゼウスに降るぐらいなら、この身を再び解いた方が、ましというものだ』
    ゼウスとルシフェルの間に何があったか。それはもはや、時の彼方であり二柱の神同士でしかわかりえない。
    『だがそれでは、ふふ、また愚かな者たちの愚かな行為で、我が盟約者に迷惑をかけるかもしれないからね。控えておこう。
    となれば、私に選択肢はない。いざ、帰るとしよう、堕天の地へ』
    そして再び歩を進めんとした時、ルシフェルはくるり身を翻す。
    『オルガ、我が盟約者よ。
    そしてアテナ、剣美親。君たちのおかげで、私も楽園のあり方を考える機会を得た。
    今やこのセプトピアは、モノリウム、ジスフィア、トリトミー、そして我がテトラヘヴンの神々や魑魅魍魎、獣や機械が跋扈しながらも、平和的に皆が快楽のロジックを享受する新世界だ。あの宴―ライブと言ったか? 実に良い出し物だった。セプトピアのロジックの賜物だね。
    私が目指したセプトヘヴンとは違うが、ふふ、神と人間の共存を真なる意味で叶えているのは、この今のセプトピアかもしれない」
    改めて視線をオルガにやると、
    「良い手本を見せてもらった。改めて、感謝しよう。
    そして願おう。この世界を、君たちが守りぬくことを。
    さらにここに誓おう。
    幾万幾億の月日がかかろうと、この堕天の地を我が王国とする。
    そしていずれこの地にこそ、我が楽園を築いてみせよう」
    最後にアテナに向け、
    「ゼウスに伝えてくれ。その暁には、ぜひ我が玉座まで来駕賜りたく存じます、とな』
    メッセージを託すと大仰に腰を折り、居並ぶ者たちに綺麗なお辞儀をすると―
    『では、さらばだ』
    そう言い残し、二度とは振り向かなかった。
    一歩、二歩。
    歩み去る背中が遠ざからんとする前に、盟約室は元の世界、セプトピアへと戻った。

    一同の緊張が、明らかにゆるりとほぐれた中。
    「局長、これを」
    オルガがヴェロニカに差し出したのは、フォーリナーカード。
    盟約者ルシフェルが登録された、フォーリナーカードだ。
    そう、これはペンタクルスの蒸気人形を依代としてルシフェルがこの世界に再臨したのち、オルガとヴェロニカで話し合い、決めていたことだ。

    少なくとも今のナイエン支局に、オルガの意志を疑う者はいない。
    また、彼が主体となって合体する限り、ルシフェルもまた、彼の意図に沿うものであろう。その事は、ナイエン支局の面々なら理解している。
    ―だが、市井に生きる普通の人々は、どうだろうか。
    彼らにとってオルガとルシフェルの合理体の姿は、この世界を破壊し作り変えんとする黒き魔神の記憶である。
    今、世界が平和を享受し始めた今だからこそ、その「記憶」が「現実」に蘇る。それは危険にすぎる。
    だから。
    今回の事件が解決した時は、ルシフェルはテトラヘヴンに帰る。
    登録されたフォーリナーカードはALCAに預ける。
    そう、決めていた。

    「うむ」
    フォーリナーカードを預かったヴェロニカは、カードの表面に指を走らせ、ある動作を行った。そして、カードを再び、オルガに差し出した。
    「受け取れ」
    「え?」
    これはオルガも承知していない事だ。覚悟を持って手放したカードを返す、とは?
    「今、このカードに私の権限でロックをかけた。
    ロックを解除しない限り、合体することも、意志を伝え合うこともできない。
    ―ただの飾りだ」
    ヴェロニカの視線がオルガを射た。
    「だからお前が持っていろ。
    いずれ世界がその力を必要とする、その時のために」
    「―局長・・・」
    思わず周囲を見回す。
    剣とアテナ、玉姫とヴィーナス、クロエとヴァルキリー、学とアルテミス、縁とケツァルコアトル。
    みな、何も言わなかったが、オルガに向けたまなざしこそ、万言より雄弁だった。
    そして、ヴェロニカと、ネメシス。
    『さっさと受け取れ、リーダー』
    自分に差し出されたそのカードに、伸ばす手は奇妙なほど時間がかかった。
    少し、震えていたかもしれない。
    しかし、遂にはそのカードを手に、そしてぐっと掴んだ。
    「局長、みんな」
    ぐるり、見回す一同の、暖かなそれを受けて。
    「ありがとう」
    さすがのオルガ・ブレイクチャイルドも、そう言うのがやっとであった。

    ALCAのデーターベース。
    かつてALCAと接触した、全ての使者の記録が登録されており、中には敵として戦った者も、斃して排するしかなかった者の名も刻まれている。
    テトラヘヴンの堕天使、ルシフェル。
    その名もまた、刻まれている。
    ALCA支局定理者チームリーダー、オルガ・ブレイクチャイルドの「盟約者」、として。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 鬼道丸

    鬼道丸

    ジスフィアから甘味を求めてやってきた鬼の使者。
    派手な格好にくわえ、口を開けば若者言葉と、とてもギャル。
    本人曰く、芽路子はニコイチでズッ友。

     当麻 芽路子 & 鬼道丸

    当麻 芽路子 & 鬼道丸

    「はぁ………」

    芽路子は今日も、ひとり日差しのもとを歩いていた。
    しかし、いつもとは異なり口から出るのは独り言ではなく溜息ばかり。

    先日、盟約を交わしたテトラヘヴンの死神・タナトスは、とにかく明るく死を説いた。
    威圧的ではなく、まるで教師のように、死とはどんなにすばらしいものであるかを説いていくのだ。

    さすがにそんな話をいつまでも聞かされ続けては芽路子でさえも嫌になる。
    とっさに出した使者カードでタナトスをテトラヘヴンに強制送還したのだ。
    それがつい10分ほど前の話である。

    「もう嫌…死神なんて……結局理想なのよ……」
    「じゃあ鬼はどうよ?メッチャ強いよ~」
    「鬼なんてどうせ退治されるじゃない…」
    「それは童話とかの話っしょ?アタシは違うけどな~」
    「ていうかアンタ誰よ!!」

    陽気な声に振り向けば、そこには着物のような和服を着た、ピンク髪の派手な少女が芽路子の隣を歩いていた。

    ピンク髪…眼帯……DQN…厨二病……ヤバイ…

    あまりにも派手過ぎるその少女に、芽路子はもはや言葉も出なかった。

    「ねぇねぇ、アンタ、定理者っしょ?」
    「……な、なんの話?」
    「隠さなくていーって!私も使者なんだけど、さっき、使者を門カード??で送り返してるの見ちゃったんだから!」

    まさかあれを見られていたなんて…!
    芽路子には嫌な予感しかなかった。

    「ところでさ、こっちには、うまかわな甘味があるんしょ?アタシ、それ食べたいんだよね!案内してよ!」
    「なん、なんで私が…!」
    「こっちでアタシがひとりうろついてたら怪しさMAXじゃね?でも、定理者が近くにいるなら別っしょ。だからヨロ!」
    「はあ?私になんの得もないじゃない…」
    「甘味ご馳走してあげるからさ!んね、んね!?」

    キラキラとした片目をこちらに向け、いつまでも食い下がる少女。
    通りすがりの人の視線も後を絶たず、芽路子は今日一番の盛大な溜息を吐いた。

    「わかったわよ……食べたらとっとと帰りなさいよ」
    「マジ!?あざお~!あ、ところで名前なに??アタシ、鬼道丸!」
    「……芽路子」
    「芽路子ね!りょりょ、早くいこーよ!」

    「ま、待ちなさいよ…!」

    芽路子の手を取り、鬼道丸は飛び跳ねる勢いで駆け出した。
    行く店は決まってんの、方向わかってんの、と問う暇もなく、鬼道丸に引き摺られないよう、
    芽路子も必死で足を動かした。

    「芽路子、ゴチ!」
    「……わ、私のお金が…リア充デザートになってしまった…」

    結局、鬼道丸の行きたい店は決まっていたらしく、芽路子は流れるように入店した。
    そこで注文したデザートは季節のフルーツもふんだんに使用し、甘さも控えめで確かにおいしかった。
    しかし、鬼道丸はこの世界で使用できるお金を持っていなかった。
    カウンターにお金ではないものを堂々と並べた鬼道丸を見る店員の目が芽路子に向き、芽路子は慌てて自分の財布からお金を支払ったのだ。

    「こっちのお金ないの忘れてたんだって~!めんごめんご!」
    「それなのにどうして食べたいとかいうのよ…!」
    「ねぇ芽路子……アタシらってさ、もうニコイチじゃね?」
    「…は?」

    あまりに唐突な意味不明発言に、芽路子はビタリと立ち止まった。
    鬼道丸は立ち止まった芽路子より一歩前に出て、片足でくるん、と振り向く。

    「こーやってエンカして、一緒に甘味食べて、帰るってさ……ニコイチじゃん?」
    「いや、全然…」
    「まー聞いてって!芽路子と一緒に甘味食べたの、テラ楽しかった。
    芽路子、アタシと盟約して、ズッ友になろう!」
    「私は別に……意味わかんないし辞めて」
    「え~!そんなこと言わないでさ~」

    これ以上付きまとわれても困る、というのが芽路子の正直な考えだ。
    だが鬼道丸はきっとなんだかんだ言ってこの後も芽路子の傍に居座ろうとするだろう。
    どうにかして鬼道丸を他の定理者のところに追いやりたいが、芽路子のことがALCAにバレても面倒くさくなるのが事実。
    そんな芽路子に不安をいだき、鬼道丸は自分の力をアピールし始めた。

    「ねね、アタシ、めちゃんこ強いから!超怪力だよ??おっきー刀も振り回せるし、岩だって人間だって一握りでバラバラになっちゃうんだから!」
    「…人間も?」
    「え、ソコ?ソコ突っ込んじゃう系??まーいいけど…」
    「人間も懲らしめられるの?」
    「モッチ!芽路子、私の怪力、ナめてない??もう、こう……ぎゅってしたら粉々だかんね!」
    「い、いいわね…フフフ…!」

    芽路子は考えた。
    もしその怪力を私の力にできるなら、それは大いにアリではないか?と。
    その怪力を以てして、握りつぶすまではいかなくても、脅したり、懲らしめたりと、
    芽路子にとっての利点が多そうだ。

    「盟約してあげてもいいわ。その代わり、私が力を揮いたいときは迷わず貸しなさい。
    そうしたら、月1回までならリア充デザートも食べさせてあげる」
    「本当に!?さっすが芽路子~~!」
    「”ニコイチ”にも”ズッ友”にもなってあげるから、約束は守りなさいよ」
    「あったりまえじゃーーん!」

    フフ……勝った!オカルトの力と使者の力で、私に逆らうリア充はいなくなるのよ!

    鬼道丸はニコニコと芽路子の手を取り、その手を高く掲げた。

    「芽路子!今日からアタシ達、ニコイチでズッ友だかんね!」
    「そ、そうね、アンタと私は”ニコイチ”で”ズッ友”よ!」

    ………ところで”ニコイチ”と”ズッ友”ってなに?

    その後、芽路子は「ニコイチ」「ズッ友」の意味を調べ、丸5日間自室に籠った。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 玉風

    玉風

    ジスフィアの風神として、天候を司っている。
    物腰柔らかで、言葉遣いも丁寧だが、遊びで竜巻を起こしたり雨を降らせたりする。見た目にそぐわずけっこう過激。
    雷神の鳴神とは双子の姉妹。

     小湊 くらら & 玉風【前編】

    小湊 くらら & 玉風【前編】

    「小湊くーん! やっと連絡ついた! 今ドコ? 無事なの?」
    「うん、ダイジョブだよ。いま? んとねー シンキョーゴクの方ぶらぶらしてるー」
    「無事ならよし。
    で、そろそろどうするか、決めた?」
    「んー まだ。そのうち、決める」
    「だからそのうち、っていつだよ、おい、おーいー!」
    まだしゃべり続けているケータイをプチっと切って。
    キョウトの女子高生小湊くららは、鼻歌混じりに散歩を再開する。

    玉風と鳴神と呼ばれる、ジスフィアの風神と雷神によるトランスジャック事件が起きて数日。
    幸い被害が大きく広がる前に、二人の使者はALCAキョウト支局の活躍によって撃退されていた。
    街は平穏を取り戻し、暴風や稲妻の直撃によって破損した建物や施設についても、急ピッチで修復が進んでいる。
    なにより、逆理領域に捕らわれた人々の逆理病が、ナイエン支局から派遣された揺音玉姫によって素早く治療されたことが大きい。

    まだ、当の使者二人の身柄は確保できていない。
    未だこのキョウトの何処かに、潜んでいるかもしれない。
    適応体になりこの世界の人々や生物に紛れ込んだ使者は、非常に見つけにくいのが実情だ。
    何しろ見た目は、この世界の人間となんら見分けがつかないのだから。

    とはいえ、まだ捕まらない使者たちを恐れて家に閉じこもっているほど、キョウトの人々は臆病ではない。
    あしざまに言えば「慣れた」というところだが、またあの2体が暴れてもALCAがなんとかしてくれる。そんな信頼も、あるのだ。

    というわけで。
    営業を再開した商店街の一角を、くららはだらだらと歩いていた。
    手に持っているのは、さきほど列に並んで買ってみたドフィノワ。
    旬のくるみをたっぷり使った焼き菓子で、外側のサブレのさくさく加減と内側のキャラメルとくるみのこってりした甘さがたまらない。
    「これヤバイ。わかるー!」
    歩きながら、手づかみも構わず、むしゃむしゃと食べる。
    そんな彼女の爪は、それぞれの指を別々の色で染めたネイルでキラキラ輝いている。
    ネットで観たデザインで気に入ったものを即採用、今日は早起きしてネイルしてきたのだ。
    普段は学校の規則があるから、うっすらピンクのネイルでキメているが休みの日ぐらいはばっちり派手派手にしたい。

    (・・・いや、ガッコ―行かないなら、毎日ネイルしてもいーのかなー)

    ひと月ほど前。
    定期の健康診断といっしょに受けさせられた、定理者の適性検査で、非常に高い適正値を示したくららは、ホッカイドウのピラリ学園へ転校し、定理者としての才能を伸ばしていくことを強く勧められた。
    現在、以前の様な強制招集こそ行われていないものの。
    定理者の才能はやはり特別な才能であり、世の中にその力を役立てていくことを、周囲からかなり期待される。
    「以前と違って、今は命がけで戦ったりとかはないんだろう?
    これで将来も安心じゃないか?」
    と両親や進路相談の先生も喜んでくれた。

    ・・・だけど。
    だけど、くららはイヤだったのだ。
    いつも学校帰りにだべる友達たちと、別れるのが。
    くっだらない事をあれこれ喋りながら、流行りのスイーツを食べ歩いたり、互いのファッションにあれこれケチつけながらも笑いあう、あの時間をなくすのが。

    パパとママのことは好きだけど、ああもあからさまに「良かったね!」「でかした!」みたいな目で見られると、ツライ。
    だからこの間、大好きなバァチャンの所に相談した。
    バァチャンは苺農家を切り盛りして、ジイチャンが腰を悪くした後もしっかり働いてパパを育てて大学に入れたという、小湊家のビッグマザーだ。パパもママも頭が上がらない。
    でもくららにはとっても優しくて(でも悪い事したり約束を破るとチョー怖い)若いころはすっごい美人で服のセンスもイケてる、憧れのバァチャンなのだ。
    バァチャンは一言、

    「くららの好きにさせたらええ」

    でみんなを黙らせた。サスガ。
    バァチャンのお墨付きを得たくららは、自分でALCAのキョウト支局に行き、
    「キョウトは離れたくない、友達とも別れたくない。
    通いでいいなら、すぐここで働いてあげる」
    と啖呵を切った。
    定理者のリーダー、とか紹介されたお兄さんが、優しそうな表情を白黒させると、どうしよう、こうしよう、いやルールが?規則が?でもでも? とアタフタするのは見て面白かった。
    でも局長代理の平、とかいうオジサンが出てくると、オジサンは、顔は笑顔だったけど―
    「バイト感覚なら、学校へ帰っていいよ」
    とぴしゃり言った。
    その後、定理者としてALCAに務めた場合の、いろいろな仕事について説明を受けた。
    どちらかというと、軍隊というよりは警察や消防、救急に近い仕事をしていること。
    また、異世界の使者との平和的な共存や、世界の仕組みについての研究も、ALCAの大事な仕事であること。
    「異世界の使者とも、友達になるの?」
    「そう、仲良くなれる奴とは仲良くするさ」
    そういうと、おっきな烏が部屋の中に飛んできて、傍の止まり木につかまりカァと鳴いた。
    ちょっとびっくり。
    「確かに今世界は平和だし、命のやり取りなんてしないかもしれない。
    でも、いざという時、やはり矢面に立つのは僕たちだ。
    覚悟がない子は、いらないな~」
    くららにしては珍しく、ぱっと返事ができなくて。
    連絡先だけ教えて、その日は家に帰った。

    あれからしばらく。
    時々、オジサンからは電話がかかってくるが、なかなか返事ができないでいる。
    家族とも友達とも別れて、ホッカイドウに行くのか。
    学校には行けなくなるみたいだけど、キョウトに残り、定理者として働くのか。
    あるいは、全部忘れてしまうか。

    ぐうううう

    と、突然、派手にお腹の鳴る音が聞こえた。
    思わず自分のお腹を押さえるが、さっきお菓子も食べたし、そこまでお腹が空いているわけではない。

    ・・・では、誰?

    見れば。
    道端に二人の少女が座り込んでいる。
    ぱっと見たところ、自分と同じ年恰好の二人。
    顔はけっこうきりっとした美人系で、二人ともよく似ている。姉妹か?
    (・・・むねおっきー)
    出るところ出てひっこむとこ引っ込んだ、グラビアアイドルか?って感じのスタイルは正直うらやましい。
    そして目を引くのが髪の毛の色。
    どこで染めたんだか、ひとりは金髪にちかいすこしくすんだ黄色。
    もうひとりは空の色みたいな青になっている。
    (・・・コスプレってやつ? なんかイベントあんの?)
    思わず頭の中にハテナが飛び回るくららの目の前で。

    ぐうううう

    またお腹の音が鳴り、黄色の少女がお腹を押さえて
    『腹減ったあああああ』
    すると青色の少女の方はそれをとがめて、
    『ちょっとなる、恥ずかしいわよ』
    『だーって腹減ったンだからしょーがねーだろー!』

    ぐうううう

    う、とうめいて今度は青色の少女がお腹を押さえる。
    『ほらみろ、たまだって腹減ってンじゃねーか!』
    『わ、私は鳴ってない。ごろごろ鳴るなんて、なるじゃあるまいし』
    『んだとー!
    -っておい。お前、見てんじゃねーよ』
    なる、と呼ばれた黄色の少女、鳴神がくいと目尻を吊りあげてこちらをにらむ。
    たま、と呼ばれた青色の少女、玉風も少し垂れ気味の目を細めるようにねめつける。
    その視線と表情の圧に対し。

    「ん」

    くららは左手の紙袋をぐいと突き出した。まだドフィノワが残っている。
    『な、なんだよ!』
    反射的に声を荒げる鳴神を手で制しながら、玉風は
    『それ、私たちに?』
    「だって、お腹空いてるんでしょー?」
    確かに、その紙袋からは甘く美味しそうな匂いがただよっている。
    「だから、あげる」
    『-ホントだな? 嘘じゃないな?』
    『ちょっと、なる?』
    止める暇もあればこそ、鳴神は紙袋をひったくるように奪うと、中に入っていた焼き菓子にかぶりついた。
    『んぐんぐんぐ・・・うめー!! たま、これすげーうめー!!!』
    『ちょっとあなた、はしたないわよ。仮にもジスフィアの神格たる者が』
    『たまも食えよ、ほらほら』
    『え、う、うん・・・ あら、確かにこれは・・・』
    あの土壇場の逃走劇から、丸二日。
    この世界のことなど何も知らない二人は、自分たちをこの世界に呼び寄せた「あの男」を探すも出会えず連絡もつけられず。
    うるさい音(サイレン、というらしい)を鳴らしながら街を走り回る車と、
    厳めしい制服の男たちが自分たちを探して見つけて捕まえようとしている気がして。
    ろくに食べることも眠ることもできず、逃げ回っていたのだ。

    (こんなはずじゃなかったのに)
    (あたしたちは、上の神さまから言われた通りに雷を落としたり風を吹かせたりするのに飽き飽きしてた)
    (そしたら「あの男」が手紙を寄こしてきた。
    セプトピア。
    この世界に来たら、なんでも好きなように遊べる)
    (自分のちからを好きにしていい。
    そうして遊んでいたら、次々楽しい遊び相手も現れて、もっともっと楽しくなる!)

    そう、こんなはずじゃなかったのに。
    お腹に甘いお菓子が入って少し落ち着いたからだろうか。
    目尻から熱いものが落ちる。
    「ちょっとなる・・・」
    玉風が布でこちらの顔をぬぐおうとするのを
    「な、泣いてない。泣いてないし!たまだって!」
    みれば、玉風の顔もちょっとぐしゃっとなっていた。
    これは大泣きする前兆だ。

    ―すると
    「ゴハン、食べにいこ」
    『『え?』』
    いつのまにか、くららが二人のそばに来ている。
    腰を落とし、そのまま二人の肩に手を回すと、肩を抱くようにしながら顔をくっつけてきた。
    「今回はぁ、あたしの、おごり。
    だから、ゴハン、食べよう」
    そして、ぎゅっと、腕に力をこめてきた。
    「あたし、ヤなんだ。人が泣いてんの。
    あたしまでオチる感じするんだ。
    だからさー
    がーっと食べて、
    ぱーっとやって、
    アゲてこ?
    ぶわーっと。ね?」
    正直、くららの言葉の意味はイマイチわからないとこもあるが、
    彼女の言いたいことは、わかった。
    『なるぅ』
    『たまぁ』
    「ばか、あたしも貰い泣きするじゃん、やめてよぅ」
    何故だかわからないが、後から後から涙が出るので。
    鳴神と玉風、そしてくららは、恥ずかしくも道端で、
    3人抱き合いながら、わんわん泣いた。おんおん泣いた。

    その後、ドスバーガーとファミレスとカラオケをハシゴした3人。
    鳴神も玉風も、自分たちが異世界から来た事や、元の世界で退屈していたこと、
    「あの男」の言うまま、この世界にきて遊ぼうとした事などを自分から語りだした。
    擬音混じりで勢い込んで喋る鳴神と、こぼれ落ちる話を拾う様に喋る玉風が面白かった。
    くららの今月の小遣いは見事空っぽになってしまったが、まぁいいかな、と思った。

    「・・・ねぇ、定理者になったら、あんた達ともなれるかな。
    -友達に」

    くらら×鳴神編(後編)に続く

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 鳴神

    鳴神

    ジスフィアの雷神として、天候を司っている。
    気性が荒く、粗雑。何に対しても感情的になりがち。何かと喧嘩っぱやいが、涙もろい。
    風神の玉風とは双子の姉妹。

     小湊 くらら & 鳴神【後編】

    小湊 くらら & 鳴神

    「新入りのくららで~す♪ これからよろしくね、先輩?」
    「え、ええ・・・」
    キョウト支局定理者チームのチームリーダー、揺音聖那もちょっと気圧される。
    明るく笑顔を振りまき、屈託なく接するゆるふわロング。
    人の視線を捉えてはにこっ と返し、隙を見せるとすぐ距離を詰めてくる。
    かと思えば、再びついと離れて距離をとる。
    椅子の上でだらー っとしていたかと思えば、真剣な表情で端末をいじっては何かを調べている。かと思えば、年の近い女性スタッフと何やらファッションの話題で盛り上がる。
    「・・・わ、若い・・・」
    「何言ってんの、聖那だって若いでしょうに!」
    そう答えるノエルは、けっこう彼女のノリにも付き合えるようだ。もともとお祭り好きの性質が合っているらしい。一方、委員長気質の奏はすぐに自室に逃げたようだ。
    「じゃあ、小湊さんの指導、よろしく頼むね・・・」
    そう律から言われ、「教官は律さんでしょ」と言いかけて言葉を飲み込む。
    律の顔が心なしゲッソリしていたからだ。
    「最低限の座学は、しておいたから、あとお願い・・・」
    「は、はい・・・」
    そういえば、ジゼルの時もなんだかんだ言って教育係を押し付けられたな、と懐かしく思う。あの時はまずジゼルの非協力的な態度に困らされたが・・・
    「はい!はい!はい! 聖那先輩! 何するんですか?」
    「ああ、うん、そうね・・・」
    くららの距離の取り方やテンションの変化についてけないものを感じる。
    「じゃあ、まずは律さんから習ったことの復習と確認を―」
    「えー つまんなくない?」
    「つまんないって、小湊さんね」
    「くららでいいですよー 先輩」
    「じゃあ、くらら。いい? ちゃんと定理者として活躍するには、何よりまず基本の―」
    「先輩、あたし、合体ってしてみたいなー」
    「え?」
    「だから、合体―」
    「あのねくらら。合体ってのは、異世界の使者と心を通じ通わせてね」
    「知ってまーす」
    「大体あなた、盟約者がいないでしょう?」
    「いるよ?」
    「え?」
    「なるー、たまー、出てきなよ!」
    いつの間に手に入れたのか、手には2枚のフォーリナーカード。
    「ゲートアクセス・ジスフィアー!!」
    瞬く光が晴れると、そこには二人の使者の姿が。
    「あたしのズッ友、なるとたまだよ! みんなもよろしくね!」
    『おう! ジスフィアの雷神・鳴神だ。よろしくな!!』
    『・・・同じく、風神・玉風です・・・ あの、すいません・・・』
    そこには、ここ数日支局総出で探し回り、警察の力も借りて捜索中の2体の使者の姿が、あった。

    「「「「ええー!!!!」」」」

    『はっはー! くららの言ったとおりだな! 皆びっくりしてるぜ!』
    『なるも、くららも、正気? わたしたち、お尋ね者、だったと思うのだけど・・』
    「にゃはは、ダイジョーブ! あたしがホショーするし?
    二人とも、もう悪い事しないし、ひとにメーワクもかけないから。ね!」
    周囲一同、呆然と息を飲み声も出ないところ、
    「まあ、いいんじゃないの~?」
    と声を掛けたのは局長代理の平朔太郎
    「で、でも平さん!」
    「事情聴取とかは後でやらせてもらうとして、さ。
    まずはちょっと、見せてもらおうか」

    場所を移して、支局内のVR戦闘訓練室。
    早速、鳴神と合体したくららを前に、少し間を空けて立つはこちらも阿修羅と合体した聖那。
    「―平さん、どういうつもりですか?」
    端末の回線を合わせ、問いただす。
    「ほら、彼女も早く合体試したがってたじゃない?」
    「だからって、いきなり模擬戦だなんて」
    「聖那もここでしっかり実力差ってやつを教えてやってよ」
    「でも!」
    それを遮るように、律のアナウンスが被る。
    「二人とも、防御バリアが張られてるから、普通の攻撃ならダメージは出ない。
    でも一定量のダメージをカウントしたら、シールドカウントを減らすからね。
    先に相手のシールドを全てブレイクした方が勝ち、だけど・・・
    ホントにハンデ無しで、いいの?」
    「ダイジョブでーす!」
    思わずくららの表情を伺う聖那だが、そこには、こちらを下に見るような侮った様子も、あるいは力に浮かれて上気した感じもうかがえない。
    「・・・わかりました。じゃあくらら、本気、見せて」
    「りょーかいっ!」

    さて、初めての合体をしたくららの方は、と言うと。
    「ちえー ちょっとざんねーん」
    『おう、何が残念なんだよ? アタシの力に文句あんの?』
    鳴神にしても合体は初めての経験だ。
    ひとつの体を二つの意識で共有し、記憶と感情が端の方で混じり合うような不思議な感覚。
    「だってさー。合体したら、もっとおっきくなるかなーって」
    『そこかよ!』
    「ま、いっかー。あんまりおっきくても、おもそーだしね」
    『うるせぇよ。 おい! 始まるぞ』
    「うん!」

    「んじゃ、いっくよー!」
    「―速い!」
    素早い踏み込み。くららは一瞬のうちに、ひと太刀の間合いに入ってきた。
    リニアモータ効果。
    くららと鳴神の合理体は、その大電力を操って床を磁化、一種の電磁石にして吸引力と反発力を操って恐ろしい初速を得る。
    「ずぎゅーんて感じで!」
    『やってやるぜ!』
    「いきなりこんな事ができるなんて!」
    聖那の驚きは続く。
    「てやー!」
    両手にひとつずつ。両刃の直刀が鋭く振り下ろされる。
    ちなみに
    「右がバリバリで、左がビリビリね!」
    「別に聞いてない!」
    くららの太刀筋は、剣士のそれではない。
    まだまだ粗く、隙だらけだ。
    だが―
    「うりゃ! てい! たあ!」
    回転が速い。踏み込みが速い。そして
    「ビリっといくよー!」
    特有のオゾン臭が鼻をつく。
    この二振りの刀。これは鳴神の雷のちからを凝縮し、くららにイメージしやすい武器として顕在化させたものだ。つまり掠めただけでも電撃を受けるのと同じ。必然、大きくかわさざるを得ない。
    「どお先輩? もうコーサン?」
    「んなわけないでしょ」
    周囲に浮かぶ、阿修羅の四つの拳。
    うち二つがぐいと飛び出し、くららに殴りかかる。
    「おっと!」
    これを双剣で迎撃。しかし、
    「まだまだ!」
    残る二つが弧を描きながら時間差で飛び、くららを死角から狙う。
    「あぶなっ!」
    これもなんとか迎撃、撃ち落す。だが。
    「はっ!」
    「うわっ」
    逆に距離を詰めた聖那は、自らの拳をボディーブロー気味に叩きこむ。
    訓練用のバリアがその衝撃を大半包み込むが、吹き飛ばされたくららは大きく距離を取らされる。シールドを先に破られたのは、やはりくららだった。
    「阿修羅の拳は六つ。六手拳は甘くないよ」
    「さっすが先輩、やるじゃん」
    口元をぬぐうくらら。その目は闘志を全く失っていない。
    「んじゃあ、たま、出番だよ!」
    「トランスチェンジするつもり?」
    複数の盟約者を持つ定理者は、フォーリナーカードを介することで、合体相手を素早く変えることができるようになった。
    ―しかし。
    「その暇はあげないよ!」
    わずかな間ではあるが、合体を解き、また別の盟約者を呼び出して再度合体する以上、そこには隙ができる。だから、実戦慣れした定理者は物陰に身を隠したりしてトランスチェンジをする。くららにはその素振りはない。拳を飛ばして教訓を与えようとする聖那だったが―
    「!!!」
    拳はあっさり迎撃された。
    だけではない。次々連射される鋭い弾丸が聖那を押し返す。
    パキン、と乾いた音が響き、かわし切れなかった弾丸が聖那のシールドを割った。
    「どういうことだ」
    観察していた一同が困惑する中、まるで動画の途中を切って繋いだかの様に、瞬時にくららの姿は変わっていた。雷の双剣士から、嵐の双銃士に―!
    「わかりません。合体が解けた隙は無かったようですがー」
    そう。くららは合体を解いていない。
    彼女に言わせると、
    「んとねー
    なるにちょっとあっち行ってもらって、代わりにたまにこっち来てもらうの!」
    正直、スタッフも良く分からない。
    後にくらら自身によって「メーク」と名付けられるこの能力は、合体を解くことなくその相手だけを入れ替えることができる。そこにほぼ、隙は無い。
    「いっくよー! 覇離氣院! 沙射苦論!!」
    『ふふっ 私の嵐にふさわしい名前です』
    『そっかー? なんかガチャガチャじゃね?』
    『なるのバリバリビリビリよりましです!』
    両手に持った自動拳銃。同じくこれは玉風の暴風のちからを凝縮し、くららにイメージしやすい武器として顕在化したものだ。超圧縮された空気を弾丸として発射、その威力とスピードはマグナム弾を超える。そして玉風の力が続く限り、弾切れは、ない。

    「―すごい」
    正直驚く。
    合体したばかりでここまで動けるのはもちろん、使者の力をいかんなく引き出し、自分の武器として使いこなしている。本当に今合体したばかりなのか? よほど深く、くららと鳴神、玉風の3人は「繋がって」いるのだろう。
    何を平が狙っているのかはわからないが― だからと言って、ここで負けてやるわけにはいかない。
    「トランスチェンジ」
    阿修羅の拳を相手の顔面目掛けて叩き込み、これを影に一瞬視界を奪う。聖那にはその一瞬で十分だ。
    「いくよライア」
    『任せろっ!』
    モノリウムの狼の獣人・鉄牙のライアと合体した聖那は、オオカミのスピードと体術を得る。
    「このー!」
    『ちょっと、当たらないわ!』
    直線的な射線を弧を描いて回避。そして。
    「『ウゥオオオオオオオオオーーーー!!!!』」
    「うわっ」
    ライアの持つ滅裂の咆哮は、破壊力をもつ狼の咆哮だ。
    たまらず耳を押さえるくらら。
    そこを聖那の鋭い爪が迫る。
    「ま、まだまだっ!」
    また瞬時に鳴神との合体に戻すと、剣で爪を払う。
    「―っ、はーっ、はーっ」
    終始、玄人顔負けの新人離れした動きを見せるくららだったが、流石に息が切れてきた。
    「―まだ続ける?」
    対する聖那は、すぐに飛び掛かれる間合いを保ったまま、ゆらり悠然と立つ。隙は無い。
    「・・・さっすが先輩、強いじゃん・・・でも」
    ぐいと体を起こすと、強い目力が聖那を捉えた。
    「でもあたしも、引けないんだよね!」
    両手をぐいと握り、まっすぐ前を見ながら。
    「なる、たま、気合いだー!」
    『おう!』
    『ええ!」
    三度、くららの姿が変わった。
    目を疑う一同。
    その姿は。
    右手を中心に、渦を巻く青い嵐のちから。
    左手を中心に、光を放つ黄の雷のちから。
    玉風と合体した姿とも、鳴神と合体した姿とも異なる、強いて言うなら
    「―二人の使者と、同時に合体している、っていうのか―」
    驚愕に包まれる指令室をよそに、今度はくららが吼えた。
    「いっくよー!!!!!」
    滑る様に、弾ける様に、まっすぐ突進。
    迎撃する聖那の爪を、
    「!」
    ブ厚い風のバリアが遮り、逆から鋭い雷をまとった手刀が裂く。
    攻防一体。
    単純だからこそかわしにくい、意思を持った雷嵐。
    『『「うわああああああああ!!!!!!!」』』
    荒れ狂うそれを、聖那は―
    「くっ」
     バリアの割れる音と共に、遂にくららの突き出した手刀が聖那を捉える。
    「やった!!」
    だが。
    「―うん。捕らえた」
    そのまま誘い込まれるように腕を掴まれロック。
    「え?」
    次の刹那、自分が宙に浮いた感覚があるかと思うと、天井が見えて―
    だあん!
    激しい音と共に、自分が床に投げ落とされたことが分かる。
    背中に響く鈍い痛み。バリアでも殺しきれない。
    さらに、首元にちくり。
    のぞき込む様に聖那の顔が迫り、鋭い爪が首に当てられる。
    そして。
    鋭く耳障りなブザーが鳴り、決着がついた事を知らせた。

    身を起こした聖那は、合体を解き、くららに声をかける。
    「凄いね、驚いたよー って」
    くららも合体を解く、というより流石に維持できなくなったのだろう。
    彼女を中心に、鳴神と玉風も姿を現し、みな大の字になって倒れている。
    ―いや、くららは、荒い息のまま、身を起こそうとしていた。
    「いいよ、まだ寝てなって。しんどいでしょ?」
    首を振り、無理やり手を膝について、身を起こす。
    「ぜーっ ぜっ はっ はっ」
    「―あなたいったい・・・」
    「せんぱい、せんぱい、あ、あたし、つよかった? 強かった、でしょ?」
    「うん。認める。だから」
    「だから、だからいいでしょ?
    なるも、たまも、強いから! 役に立つから!
    あたしもがんばるから! だから、だから、いいでしょ?」
    「良いでしょ、って何が―」
    「だから、許してあげて!
    なるも、たまも、これからいっしょけんめい、役に立つ。
    悪い奴がいたら、戦う。こらしめる!
    困ってるひとがいたら、飛んで行って、助ける。
    役に立つ。
    だから二人を、許してあげて!」
    「・・・」
    鳴神も玉風も起き上がっていた。
    くららを挟んで立つと、二人も深々と頭を下げる。
    『悪かった』
    『ごめんなさい』
    「これから一生懸命、3人でガンバルから! だからー」
    目を上げると、視界にニヤリと笑う平の姿が目に入った。なるほど、こういう筋書きか。
    シナリオ通りに踊るのはしゃくに障るけど。
    「うん、聖那ちゃんもこーゆーの、好きだよね?」
    「うっさい」
    3人に近寄った聖那は、そのままぐいっとまとめて抱きしめてやることで、その気持ちを伝えてやった。

    それからしばらく後のことになる。
    キョウトで有名なニシキ市場は、先日の襲来騒ぎでも停電や倒壊騒ぎで被害の大きかったところだが、今はその影もない。
    今日も買い物客を呼び込む声が響いているが、最近は特ににぎやかだ。
    『おうおう、そこ行く見物人のにーちゃんよう! この千枚漬け、うめーから買ってけ!な?』
    『今日はこちらのお惣菜がお安いですよ。いかがです?』
    「オススメはこの番茶ソフト! ちょーアガる!ヤバイ!食べて!」
    時折、髪の色が黄色に青色にピンクと、とても目立ってしかも可愛い女子高生3人が、商店街で呼び込みのバイトをしているとの話だ。
    地元でもちょっとした人気で、そろそろTVの取材も噂されている。
    「え? ヤバくない? メークどうする?」
    『私たちなら』
    『素でいけっだろー!』
    「ヤバイヤバイ、それはヤバイって!!」
    周囲の人々の暖かな笑顔が、3人を何より輝かせていた。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • 楓狐

    楓狐

    鳴神と玉風を連れ戻すよう命を受けて派遣された、稲荷大神の神使。ただ大神を敬っているところは確かなものの、悪戯好きで人をからかうのが好きという困り者。頭の回転は速く鋭いが、主に悪戯のために使われる。

     クロエ・マクスウェル & 楓狐

    クロエ・マクスウェル & 楓狐

    縁と蓮香の占いを受けたナイエン支局定理者チームリーダー・オルガは、早速キョウトに出動中の玉姫と学に、いったん帰投するよう連絡を入れた。
    「―以上、私の方は残念ながら収穫はないわ」
    モニタの向こうから、そう語る玉姫に
    「いや、清純のニコの能力と効果が確かめられた。
    多くの人の逆理病が治療され、キョウト支局からも感謝の言葉が届いている。
    十分な成果だと俺は思う」
    とオルガは返す。
    「ありがとう、リーダー。ニコも喜ぶと思うわ」
    一方の学は、
    「報告書の通り。特にない」
    「報告書は読んだ。要点を押さえて簡潔にまとめられた良い報告だ。
    それに、また一人使者を保護したそうだな。
    担当を名乗り出てくれて助かる。よろしく頼む」
    「・・・わかった」
    それだけ言い、通信を切ろうとする学だったが、流石に玉姫が止めた。
    「学、いい加減、オルガをリーダーって認めても」
    「―認めてる。だから従ってる」
    「だったら呼び方も」
    「やだ」
    「あなたね、やだってそんな子供みたいな」
    「リーダーって呼ぶのは、一人だけ。
    ・・・玉姫だって、忘れてないくせに」
    「―っ」
    だがオルガはそんな二人に割って入ると、
    「揺音、いいんだ。構わない。
    明日葉も、呼びたいように呼べばいい。な」
    すると、今の今まで、ほとんど口を挟まず事態の推移を見守っていた少女がオルガの席を振り仰いで言った。
    「ガンガンリーダー、アタシもキョウト、行っていい?」
    豊かな金髪をポニーテールに結った、活発的な印象を与える少女、クロエ・マクスウェル。
    このナイエン支局定理者チームきってのアタッカーであり、単純に戦闘能力、あるいは攻撃力という尺度では他のメンバーの追随を許さない。
    だがもう一つの面として―
    「タマヒメとマナマナが戻ってきた後で良いからさ」
    「匂うのか?」
    「んー なーんとなく。空振りかもしんないけど」
    と言いながら、オルガに向けたニヤッとした笑いは肉食獣の様な輝きに満ちている。
    「わかった、好きにしろ」
    ―クロエは天性のハンター、狩猟者でもある。

    玉姫・学と入れ違う様に、クロエはリニアでキョウトへと向かった。
    行った先で、特にキョウト支局のスタッフに連絡を入れることもなく。
    まるで普通の観光客の様に、ぶらぶらと街を歩く。

    今回、鳴神と玉風が暴れまわったのは、京都駅から観て北方、錦市場や二条城がある方になる。京都御所はやんごとなきお方のご指示により周辺住民の避難場所として機能していたが、もしキョウト支局チームの活躍が遅れていたら、そこまで被害が広がっていたかもしれない。

    クロエはそのあたりを軽く散策しつつ(もちろん食べ歩きも欠かさない)レンタサイクルを使い南へ。
    いくつか見て回り、辿り着いたのは千本鳥居で有名な伏見稲荷大社。全国に三万社ある「お稲荷さん」こと稲荷神社の、総本宮である。
    特に何か、あてがあったわけではない。
    が、クロエは自分の勘と嗅覚を信じて、朱塗りの鳥居をくぐった。
    すると。
    『お主、参拝かや?』
    連なる鳥居の間から、白と朱色を艶やかに彩った黒髪の少女が現れた。
    着ているのは和装の巫女姿の様でもあり、洋装のスカートの様でもある。
    ただ何より目を引くのは―
    「お面?」
    『ふふっ こんこーん、じゃ』
    顔には狐の面。なので年の頃はよくわからないが、背格好や声の様子からみて、クロエとそう変わらない歳に思える。
    「サンパイ、ってわけでもないんだけど・・・ うーん、探し物、かな」
    『ふん、金髪の異人であれば仕方も無し。わしが参拝の作法を教えてやろう。
    まずはほれ、神域に入る際は鳥居をくぐる前に一礼するものじゃ。
    今からでも遅くない。神に礼を尽くすがよい』
    「・・・ん、わかった」
    言われるまま、軽く目を閉じ頭を下げる。
    「これでいい?」
    と顔を起こすと、すぐ目の前に狐面。いつの間にか、少女がすぐ近くに来ていた。とー
    『隙あり、じゃ!』
    額にぱちり。いわゆるデコピンをかまし、にははっと笑う。
    『ひっかかったのう!』
    「―――やったな!」
    さしものクロエも、何が起きたか理解するのに少し間が必要だった。
    が、一度スイッチが入ってしまえばクロエのエンジンはかかりが早い。
    『おっと』
    クロエの伸ばした長い手をすんででかわすと、身をくるりと翻す。
    『わしを捕まえてみよ! さすれば、探し物とやらも見つかるであろうよ!』
    腰からわさっ と尻尾の様に垂れるのは、紙垂という特別な折り方をした紙製の祭具である。
    「いいよ。捕まえて― イタズラ娘はオシリペンペンだよ」
    そういって唇をなめる。
    そういえば本気の追いかけっこは、ダイガとやって以来かな?と思いながら。

    夕陽が山肌を赤く染め、鳥居の朱と混じって絶妙なコントラストを出している。
    遠くを烏の鳴く声が響く。
    例の騒動のせいで参拝客も少ない稲荷神社総本宮の、その中心たる本殿の前の広場で。

    「ぜーっ ぜっ ぜーっ・・・ つ、捕まえた・・・」
    『お、おう、つ、捕まえられて、やった、わ・・・・』

    ほぼ半日。
    有り余る体力と鍛えぬいた運動センス、そして天性の嗅覚で追いかけるクロエに対し。
    少女は土地の理を活かして縦横無尽に逃げ回り、時には服を脱いで変装したり、面を他人にかぶせてまで逃げ回った。
    しかし流石の少女も、無限とも思えるクロエの追走に、ついに音を上げたのである。

    『いや、こりゃ参ったわ。こーこーまでシツコイとは』
    「あんたが逃げるからでしょー」
    『お主が追うからじゃー』
    「捕まえてみよ、とか言ったくせに!」
    『そ、そうじゃったかのー 
    むー
    そうじゃったのー』
    「で? ホントに私の探し物、見つけてくれるの?」
    『む? むー。仕方ないのー。
    ここまで境内で大騒ぎしておきながら、何もせんでは、流石に稲荷大神様に叱られてしまうわなあ。
    ほれ、まずは居住まいを正し、そこの本殿で、お稲荷さまに願い奉れ』
    「シキタリとかって?」
    『お稲荷さまは堅苦しいのは苦手なふれんどりーな神様じゃ。
    気持ちのままに、素直に頭垂れて手を合わせ、願いを述べたらええ』
    「んー。わかった」
    言われるまま、賽銭を放り手を合わせる。
    「今、このキョウトに・・・セプトピアに、何か起きてるらしいの!
    その後ろにいるやつの、尻尾をつかみたい!
    んで、そいつらがなんかする前に!そのーなんていうの?捕まえる?
    んー・・・・」
    『どうした?』
    「・・・違う。うん、違う。ゴメン、やり直し。

    アタシ、戦う!戦いたい!
    この世界で悪さするヤツを、追いかけて、捕まえて、とっちめてやる!
    だから、見てて!オイナリさま!!」

    こーん、と何処か遠くで狐が鳴いた、様な気がした。

    『・・・なんともまあ』
    呆れたように、楓弧は声をかける。
    『お主、その勢いで、悪者とやらと戦って戦って戦いぬくつもりかや』
    「そうだよ?」
    『じゃあもし、全ての悪者を退治したら、その後どうする?』
    「んー。その時は、その時! その時考える!
    考えて、また戦う相手を見つける!」
    『お主、思ったより難儀なやつじゃな』
    「ナンギ?ナンギって、何?」
    『面白い、ちゅうことじゃ。
    ま、ええじゃろ、手を貸してやるわい』
    「え?」
    『お主、名前は何という』
    「クロエだよ。クロエ・マクスウェル。よろしく!」
    『わしゃあ楓狐。ジスフィアより稲荷大神さまの命を受けまかりこした神使よ。
    今回、鳴神と玉風の始末を頼まれたのじゃが、ふふ、セプトピアの定理者、とやらもやるわいな。わしがなんやらする前に、もう捕まったようじゃの』
    「ん、そうなんだけどね。でもさー」
    『そうじゃ。あのバカ者共をそそのかした者がおるはず。
    ・・・お主も定理者じゃろ?』
    「わかる?」
    『匂いでな。なんとなく。
    ふん、遊びも飽きたでな。よかろ、お主、わしをキョウトの詰所に連れて行け』

    さて楓狐を連れてキョウト支局に顔出したクロエ。
    挨拶もそこそこに。クロエやくららが見ている前で、鳴神と玉風に対し、楓弧によるそれはそれは激しい「折檻」があったりしたのだが本筋ではないので省く。

    『つまり、お前たちの前に門を開き、セプトピアに招いた輩がいる、という事じゃな』
    『アタタ・・・おもいっきし叩きやがって。ケツ割れるっつーの!』
    『質問に答えんか! さらに割ってやろうかの!』
    『はいはい、その通りです。こう、背の高い美丈夫ってやつでしたわ。
    緑の髪が印象的で、こう、なんとも言えず色気があるというか・・・』
    『ケッ!たまはあんなのが好みかよー!』
    『そんな事言ってないでしょう!』
    『お主ら少し黙れ。
    さてわしが考えるに・・・そやつ、このバカ共を囮にしたな』
    「なるほど。じゃあ探すのは、反対側かな?」
    『うむ。キョウトの南、じゃろ。
    ま、もうそこにはいないかもしれんがな』
    と、そこへ今までスマホをいじっていたくららが割って入る。
    「なるも、たまも、ちょっといいかな。
    そいつって、こいつ?」
    スマホに表示されたのは、1枚の写真。
    『こいつだ!』
    『うん、まちがいない!』
    くららが示した写真は、彼女のクラスメートたちが撮影したもので、キョウトに来た外国からの観光客、ということらしい。確かに旅行客、と見えなくもないが、こちらに向けて妖しい笑みを浮かべる緑髪の存在は確かに浮いている。
    「やられたねぇ」
    キョウト支局の調査班、および警察たちが捜査網を引いたのは、二人の女性の使者と思われる者たち。そして、こちらの捜索から逃げるかのように怪しい動きをする者。
    逆に、堂々とふるまう観光客は網の外だった。
    『クロエ、こやつ、見覚えは?』
    楓弧が問うまでもなく、クロエはその写真から目を離せなくなっていた。
    見覚え? あるなんてもんじゃない。

    「―ルシフェル・・・!」

    続く

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

    閉じる
  • side_anime
  • side_wataraku2
  • side_comic
  • side_column
  • side_movie
  • side_radio