キャラクター&ストーリー

モノリウム

  • 迅撃のダイガ

    迅撃のダイガ

    実直なる求道者。
    獰猛で野蛮に見えるが、わりと紳士的。乱暴者扱いされると少し傷つく。
    最近のマイブームはクロエとのかくれんぼ&おいかけっこ。
    子供の遊びと思っていたが、意外にも身体能力の粋を尽くした大勝負になるとか。

     クロエ・マクスウェル & 迅撃のダイガ

    二人の盟約者

    玉姫との通信が途絶えた。
    オルガがスタッフたちと話しているのが聞こえた瞬間、クロエはすでに走り出していた。
    無我夢中で表通りに出ると数キロ先で上がる黒煙が見えた。
    (きっとあそこだ!)
    直感でそう思ったクロエが、黒煙の方向に足を向けたその時だった。
    ドンッ!
    と、突然地面が揺れた。
    「!?」
    驚き立ち止まるクロエ。
    次の瞬間、地面が割れて、中から現れたのは厚い甲羅に覆われた巨大な亀――モノリウムの使者だった。しかも、2体。
    (もう! 今、どんだけの使者が街中で暴れてんのよ!?)
    クロエは街が今、危機的状況に置かれているのを改めて実感し、身が震えた。
    使者はいかにクロエを料理しようかと想像して楽しているのか舌なめずりしている。
    この危機をいかに打開するか――クロエの頭はそれでいっぱいになった。
    だが、妙案は思い浮かばない。
    合体しようにも盟約者は傍にいない。
    (今は自分の力だけで……踏み込んで思いきりキック! イチかバチかやるしかないでしょ!)
    そしてクロエは膝を屈して思いきり敵に飛びかかった。
    その瞬間、クロエの足首に何かが巻きついた。
    使者の長い舌だ。
    「くそッ……」
    抵抗しようにも物凄い力で、クロエは使者のほうへと引きずられていく。
    『グオオオッ!』
    「!」
    突然吠える声が聞こえ、次の瞬間、巨大な影が使者に向かってドシンと体当たりした。衝撃で使者はクロエから離れていく。
    「ダイガ!」
    クロエを救った、白銀の毛皮に黒の縞を持つ大きな虎。
    そう、迅撃のダイガ――故郷の世界へと帰っていたはずのかつての盟約者だ。
    「どうしてここにいるの……?」
    思わず呆然とするクロエ。
    ダイガは『その説明はあとだ』と目で訴えながら、クロエに近づく。
    クロエはダイガの気持ちを察する。
    今、クロエがダイガとできることは一つだけだ。

    「よし合体!!!」

    瞬く間に、クロエの身体は虎柄の毛皮に包まれる。

    『さあ、どれだけ腕を上げたか見せてくれ』

    力強いダイガの声が聞こえる。

    「でもさ、アイツ甲羅ちょ~っと硬そうだよ? アタシたちの力で割れるかな?」
    『信じろ。オレたちの拳に破れんものはない』
    「フフッ……言うと思った!」

    久々に交わすダイガとの会話に、クロエのテンションもMAXに上がった。
    闘志と共に、ふつふつと全身に力がみなぎってくる。
    (アタシたちの力は、前より、もっともっと、凄い!)
    野獣のようにクロエは敵に近づくと、使者に向かって爪を突き立てた。

    『!!』

    敵もクロエたちの力を感じたのか、手足を甲羅に引っ込めて防御に徹する。

    「必殺! スペシャルタイガークラーッシュ!!!!!」

    ギッ! ガガガガッ!!!
    鋭い爪が硬い甲羅を食い込んでくと、次第に亀裂が入り始めた。
    ピッキキキキッ!
    と、亀裂は甲羅全体に広まると同時に、敵の内部から光が漏れだす。

    「うおおおおおおッ!!」

    クロエの拳はついに甲羅を砕き、敵の身体を貫いた。
    やがて敵は内部から爆発したように、砕けて散った。

    「い……痛ぁ~!!!」

    勝ったにもかかわらず、叫んだのはクロエ。

    『す、すまん……捻挫でもしたか?』

    ダイガも少し動揺している。

    「ダイガの嘘つき! めっちゃ硬いじゃん! アイツの甲羅!」
    『いや、確かにそうだが……』

    しどろもどろとなるダイガ。
    軽口を言いつつも、一方クロエは成長した二人の力をはっきり感じていた。
    流す気力をコントロールしてやれば、この爪はもっともっと強く、鋭くなる。

    その間にもう1体の使者はいつの間にか消えていた。

    「あッ! 逃げた!」

    慌てて見回すと運河に逃げ込む残りの1体が目の端に見えた。
    観光スポットにもなる綺麗な運河だが、この運河は港へと通じている。
    今を逃せば、港から海へとどこまで逃げていくだろう。
    (うっ水中……こんな時、あの子がいてくれたら……
    でも、そんな都合よく現れるわけないよね……)

    「とにかく追いかけようダイガ!」

    運河に飛び込もうとするクロエの肩を何者かがそっとつかんだ。

    「え……」

    そこにいたのは流のフィリル。
    彼女もまたクロエのかつての盟約者だった。

    「フィリル! あんたもこの世界にはいないはずでしょ!?
    今日は一体全体どーなってんの!?」
    『その説明はあとにしましょう。それよりも――』

    と、フィリルは水路を見やる。

    『水の中なら、私と合体したほうが戦いやすいでしょ?』

    そう言ってフィリルはいたずらっぽく笑った。

    「そー思ってたとこ!」

    クロエはダイガとの合体を解除。

    「ダイガありがと! フィリルよろしく!!」

    そしてすぐさまフィリルと合体し、水路に飛び込んだ。
    やはり水中ならフィリルは無敵だ。
    あっという間に敵を捉え、クロエは敵にトドメを刺そうと三叉矛を構えた。
    そしてふと思う――
    (戦いながら盟約者をチェンジできるなんてゼータクうううッ!!)
    ――と。

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  • 流のフィリル

    流のフィリル

    おしとやかなシャチ娘。
    モノリウムの戦う人魚一族の少女だが、本来は争うことが好きではない、
    大人しい性格。
    クロエの水中戦闘用臨時パートナー。

     クロエ・マクスウェル & 流のフィリル

    戦下に咲く可憐な乙女心

    ALCAナイエン支局の地下監獄。

    捕獲した使者を収容する場所に、
    身の丈155cmほどの異世界モノリウムのシャチ娘が囚われていた。

    セプトピアのロジックの影響で適応体の姿は普通の少女だったが、
    その正体は戦人魚一族の一番隊長・流のフィリルだ。

    セプトピアに攻め入る四戦王に付き従い、
    支族の一員として戦うことを強いられ、
    フィリルはセプトピアに派遣された。

    そして人間にトランスジャックし、
    ALCAの定理者との戦いに身を投じたのだが、戦闘の末敗北。
    捕虜にされたのだ。

    本来、争いごとを好ましく思っていなかったフィリル。
    その性格も極めておしとやかで大人しい。

    捕虜になった運命を受け入れ、静かに時を過ごしていた。
    そんなある日、監獄に一人の定理者がやってきた──クロエ・マクスウェルだ。

    お喋りが好きだったクロエは休憩時間を利用して、
    話し相手の使者を探しに監獄まで来ていたのだ。

    フィリルはクロエを見た瞬間、一瞬にして心を奪われた。
    クロエ自身にではない──クロエがつけていた可愛らしいリボンに対してだ。

    『それは……なんですか?』
    とフィリルがリボンについてクロエに訊ねると、

    「あー、これはオシャレよ。可愛くない?」
    と笑顔で応えるクロエ。

    それからというもの、クロエとフィリルは毎晩のように、
    セプトピアにおけるファッションについて飽きることなく語り合った。

    フィリルもまた興味深くクロエの話に耳を傾けていた。
    もはやフィリルにとって──支族の命令によって戦うことよりも──
    セプトピアで自由にファッションを楽しみたいという想いが強くなりはじめていたのだ。

    しかし捕虜の身であるフィリルには叶わぬ夢。

    ファッションに恋い焦がれながらも、
    ただクロエとのお喋りのひとときだけを糧に生きる日々だった。

    そんなある日、ナイエン区に新たなモノリウムの船団が襲来。
    ALCAは慌ただしく対応に追われることになった。
    しかしクロエの盟約者は牙獣ダイガ。

    水中戦での活躍は期待できず、待機を言い渡されてしまう。
    するとクロエは思い立ち、監獄へと向かった。

    「フィリル、ここから出してあげる! その代わり、あたしの盟約者になって!」

    フィリルにとって、監獄から解放されて自由を手に入れることは願ってもないことだった。
    自由になれば恋焦がれたファッションというものを思う存分楽しむことができる。

    『でも……なぜわたくしを……?』

    水中戦を苦手としていたクロエにとって、
    フィリルの能力はまさにうってつけだった。

    しかしクロエがフィリルに盟約を申し込んだ本当の真意はそこではない。

    「あたしたち、結構気が合うと思うんだ!
     今度休みの日に一緒にショッピングしたいって思ってさ!」
    『え……本当にいいのですか、わたくしで……?』
    「リルリル、チョー可愛いから、オシャレすればもっともっと可愛くなるよ!」

    フィリルの目から一筋の涙が零れた……。
    一度は敵として戦った自分を、クロエは笑顔で受け入れてくれた……。

    クロエの盟約の申し出を断る理由など、フィリルにあるわけがなかった──。

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  • 稲穂のロッタ

    稲穂のロッタ

    モノリウムで、行方不明となった兄を探しに門をくぐった、兎の獣人少女。
    さみしがりやで、甘えんぼ。
    セプトピアにきた彼女を保護してくれた葵を慕っている。
    最近は葵のボディーガードとの名目でいつも後ろをついて歩いている。

     五六八 葵 & 稲穂のロッタ

    高度33000フィートのわがまま

    学がALCA本部を死守するため孤独な戦いを続けている。
    地上では、クロエが陽動のため激戦に身を投じている。
    一方、高度33000フィートの上空を飛ぶ輸送機。
    そこでは、研究所への潜入のため、定理者たちが空挺作戦の準備を進めていた。
    ――が、トラブルとはいうのは思わぬタイミングで思わぬ人物が起こすものである。

    『どーして私じゃないの!?』

    輸送機の中に、ロッタの声が響き渡る。
    作戦実行に選ばれた葵の合体相手がアルヴだと知り、拗ねて不満を爆発させたのだ。

    「それは――」

    困惑の表情を浮かべる葵。
    間もなく輸送機は研究所上空に到達する。
    作戦決行の時は迫っているのだ。
    まだまだやらねばならない準備は山ほどある……
    のに、ロッタのわがままがこんなタイミングで炸裂してしまうとは……。
    葵はロッタを呼び出すのを作戦終了後にしておけばよかったと少し後悔したが、後の祭り。
    何とかわかってもらおうと説得をはじめた。

    「――この任務は研究所に潜入してそれで終わりじゃないのよ?
    ロッタもわかってると思うけど、研究所の内部には数えきれないほどの敵がいて、
    中にはとんでもなく強いヤツだって」
    『ろっただって強いもん!』

    葵の話を遮るロッタ。

    『弓の技なら、アルヴにだって負けないもん!
    前は1度に1本しか弓を引けなかったけど、今は2本か3本なら引けるよ?』

    確かにロッタの言う通り。
    葵とロッタの合体した姿は以前よりも強くなった。
    同じ弓を「火力」として比べた場合、
    もちろん高出力ビーム弓を主兵装とするアルヴに軍配が上がるのは確かだが、
    センサー以上に敏感に敵を察知する「野生の勘」、
    そしていざ敵を前にした時の身のこなし、俊敏さなど総合して考えれば、
    合理体としての戦闘力は、アルヴにいささかも劣る所ではない。
    しかし、葵はここではその事実を伏せる。

    ―この危険な任務に軍人のアルヴはともかく、
    妹の様に可愛がっているロッタを連れ出したくはなかったのだ―

    「いや、けどね、潜入したあとは戦闘だけじゃないのよ?」

    葵は別の手立てでロッタを説得しようとする。
    「任務の中には、コンピュータのハッキングも含まれているの。
    研究所の中にあるゲートカードの暴走を止めることが第一の目的なんだから。
    ロッタにはコンピュータのハッキングなんてできないでしょ?」

    仕方のないことなのだとロッタも納得できる理に適った説得である。
    そして、この理由であればロッタも傷つかない。
    ロッタはグーの音も出なくなったのように、一瞬黙り込んだ。
    (……よかった。わかってもらえた)
    葵はホッとして胸を撫で下ろす。
    しかし、

    『……できるもん』

    その一言に葵は耳を疑った。

    「できるもんって……ハッキングが?」
    『……できるもん……ハッキング』

    ロッタは目を伏せて、不貞腐れたように、もう一度つぶやいた。
    (……幼稚園児か!)
    葵は心の中でつっこんだ。
    できないことをできると言い出す――幼児のわがままそのものだ。
    (無理……説得できない……)
    と、気が遠くなっていく葵。
    すると、ロッタが感情を爆発させる。

    『だって葵が心配なんだもん! そばにいて葵を助けてあげたいの!
    ねえ、私じゃどうしてもダメなの!?』
    「……」

    葵はしばらく呆気に取られていたが、クスッと笑いが込み上げる。
    ロッタは拗ねて、わがままを炸裂させていたわけではなかった。
    葵が心配で助けてあげたい一心だったのだ。
    すると、ずっと腕を組んで事態を静観していたがアルヴがロッタに近づいて頭を撫でた。

    『大丈夫です、ロッタ。私がロッタの分も葵を守ります。私を信じて任せてください』

    ロッタは涙ぐみながら、アルヴに小指を差し出す。

    『約束だよ?』

    アルヴとロッタは指切りをした。
    葵はその上に、そっと手を重ねた。

    「ロッタ、ありがとう……」

    葵は微笑んで、優しくロッタの思いに感謝する。

    「うん……」

    泣いていたロッタも笑顔を作り、葵に応えるのだった。

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  • 春待のメルチ

    春待のメルチ

    闘牛の獣人女性。
    毎日のんびり楽しく生きていければ良く、
    セプトピアでも楽しく生きていければ良いかな~と、マイペース。
    口癖は「牛乳を飲むと良いわよ?」

     五六八 葵 & 春待のメルチ

    春を待つ2人

    初対面というのは大事だな、と葵は思う。

    葵が彼女に引き合わされる前に聞いていたのは、
    彼女はモノリウムの闘牛の獣人で、
    いくつもの戦いを切り抜けてきた腕利きの戦士だということ。
    人間など太刀打ち出来ない剛力の持ち主で、
    ひとたび怒れば巨大な矛槍を振るい、周囲に嵐を巻き起こす、と。

    だから葵は結構緊張していたのだ。
    心配だからついてくるというロッタを置いて一人で会いに来たのも、
    ロッタが何か失礼をして相手を怒らせてはいけないと思ったからだ。
    無論セプトピアのロジックに適応している以上、本来の剛力とやらは振るえないはずだが、
    それでもモノリウムで戦いに明け暮れていた者達の戦うセンスは侮れない。
    葵は内心、戦々恐々としていたかもしれない。

    そして始めて引き合わされた時に、彼女に言われた言葉を葵は今も覚えている。

    『お姉さんに、甘えていいからね』

    自分より上背のある大柄な女性が、一足で葵の前に滑り込んでくる。
    そのまま、葵をぎゅっと抱きしめた。そしてゆっくり優しく、その頭を撫でた。

    『大丈夫、お姉さんに任せなさい』

    葵は思う。
    そんなに自分は、怯えた顔をしていたのだろうか。
    内心のためらいを瞳に映していたのだろうか。
    あるいは、胸の内にあったあれやこれやを一瞬で見透かされたとでも言うのだろうか。
    今となってはよくわからないし、恥ずかしくて本人に聞くこともできないが、
    とにかくその時葵は、彼女―春待のメルチに、暖かく包まれてしまったのだ。

    こうして、ある意味なし崩しに、メルチとの盟約が進められた。
    幸い葵とメルチの相性は悪くなかった。
    メルチの剛力を借りた葵の合理体は、期待以上の戦闘力を発揮した。
    もう一人の盟約者、ロッタが焼きもちを焼くので、出番は控えめだったが。

    そんなメルチだったが、彼女はいつも緩やかな笑みを絶やさず、のんびりマイペース。
    ALCAのスタッフや周囲の人たち、食って掛かるロッタすらも、柔らかく受け止めている。
    葵自身もあの日からずっと、彼女の腕の中で甘え続けている、そんな気がしていた。

    「・・・だからこそ今日は、聞いてみたい」

    歴戦の戦士であるはずの彼女が、何故そこまで優しく柔らかくあることができるのか。
    ひとたび怒れば嵐を呼ぶ、というのは嘘なのか。
    葵がそう聞くと、何を勘違いしたのか、メルチの答えはこんなものだった。

    『ふふっ、大丈夫。
     大抵のことは、牛乳を飲んで、日向で一眠りすれば、いずれ春は来るわよ?』

    正直、葵ははぐらかされたような気がした。その不満が顔に出たのだろう。
    ふと目をそらすと、メルチはどこか遠くを見ながら、ぽつりとこぼした。

    『・・・本当に怒らなければならないことなんて、滅多にないものよ』

    彼女が怒りのままに剛力をふるい、あの巨大な矛槍で嵐を起こした。
    それはきっと、本当のことなのだろう。
    そしてそれは、彼女にとって恐らく、誇るべきことではないのだろう。

    春待のメルチは今日も、皆を暖かく受け止めながら、ゆっくり春を待っている。

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  • 巌のジェイド

    巌のジェイド

    お酒が大好きな気のいい蜥蜴。
    温かい岩場で寝転がって熟睡していたら、気がついたらセプトピアにいた。
    セプトピアはセプトピアで面白いし、美味しいものもあるので慌てて戻る予定もない。

     アシュリー・ブラッドベリ & 巌のジェイド

    読書好きの夢想少女が出会ったのは、大きなトカゲ! デコボコ合体の二人

    人生の目的を見つけた……そういう事なのかもしれない。
    大柄な男はそう考えていた。
    いや、よくよく見ればそれは男……というか人間とは呼べない代物だった。

    三メートルを超す巨大な体躯、
    そして臀部から伸びる太く長いそれは尻尾だった。
    いわゆるコモドドラゴンと呼ばれる生物に属する姿だが、
    身体の大きさは生物学的にはありえない程だ。

    それはセプトピアの夜の繁華街をゆっくりと歩いていた。

    ほろよいの彼の名は、ジェイドと言う。

    無論使者の彼はモノリウムからやってきたトカゲの戦士だった。

    彼は先程までトックリを片手に考えていた。
    モノリウムにいた頃、
    世界の法則に基づき戦いの日々を送っていたが、
    正直なところ彼にとってそれは生来の習慣であり
    目的意識などまるで無かった。

    周囲がやるように彼も戦い、
    そして戦士としての生き方を矜持と思い込んできたのだ。

    だがセプトピアに来て彼が出会った定理者、
    つまり彼と盟約した相手は戦いとはかけ離れた世界で生きる、
    か弱く小さな少女だった。

    読書に明け暮れ、幻想と恋物語に焦がれる
    年相応の女性アシュリー・ブラッドベリだった。

    彼女は当初合体する相手がジェイドだったことに
    それなりにショックを受けていたようだった。

    たとえ言葉を介すことができなくても、
    さすがのジェイドも彼女の表情を見ていればそれくらいは理解できる。

    彼にとって読書を通じて彼女が読み解き巡らせる空想の世界が、
    どれほどのものかは知るよしもない。
    だが繊細かつ可愛らしい思考の旅なのだと察することくらいはできる。

    そんな彼女にとって、自分のように戦いしか知らず、
    しかも見た目も無骨で滑った皮の異形の者が盟約者となったことは、
    甚だ遺憾に違いないのだろうと察しはついていた。
    会話は交わさずともこちらへの心象は理解しているつもりだった。

    でもそんなアシュリーと言う少女は
    ALCAと呼ばれる戦いに身を置く組織に召集され、
    自らに与えられた任務をこなそうと必死に頑張っている。

    本来このような仕事場は彼女の気質に合わないのは誰もが知るところ。

    それでも必死に皆の役に立とうとする小さな背中に、
    ジェイドの心はこれまでモノリウムで味わったことのない感覚に芽生えていた。

    その背中を少しでも押してあげられたら。

    彼女を見ていてそう感じた。
    これまで無味乾燥に戦いを続け、
    それを自分に与えられた充足感と錯覚していた日々。

    それとは違う誰かのために戦う……柔らかな満足感。
    それをアシュリーとの合体によってジェイドは感じていたのだ。

    少し酔ってしまったのかもしれない、とジェイドはふと思った。
    ちょっとおセンチな気分に浸っていたことに、
    我がことながら自分らしくもないと考えていた。

    事実セプトピアの酒は旨い。

    酒だけではなく料理全般がモノリウムのそれらとは
    比較できないほどに美味だと言わざるを得ない。

    セプトピアの生活から感じる充足感も、
    アシュリーに対するそんな感情を
    湧き立たせたのかもしれない、そう思った。

    その時周囲から警告音が鳴り響く。
    これは近隣で使者による襲撃が始まったという知らせである。
    今頃アシュリーはベッドから飛び起きて、
    パタパタと小走りしている頃だろう。

    この戦いを前にした高揚感、これも忘れられない。
    彼は舌舐めずりをする。
    セプトピアの安穏な生活で
    戦意という名の爪を砥ぐことを忘れたわけではない。

    酔い覚ましにはちょうどいいだろうと、
    ジェイドは飲み屋街を千鳥足で歩く人間達の波を
    掻き分けながら走り出した。

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  • 燕黒のルシア

    燕黒のルシア

    故郷の空を飛んでいるうちに、空に開いた門をくぐってしまい、セプトピアにやってきた。
    セプトピアのロジックの影響で、セプトピアにいるときは単独で空を飛ぶことは出来ない為、
    意気消沈していたが、ジークとトランスすることで再び空を飛べることが分かり立ち直った。

     ジークハルト・クラウス & 燕黒のルシア

    ジークハルト・クラウス & 燕黒のルシア

    『やれやれ、紫車の姉御も金錆の兄貴も、ヤキが回っちまったんじゃないですかね?』
    何処とも知れぬ部屋の中で。
    第5世界、財貨のロジックが支配する、歯車と蒸気に彩られしペンタクルスから来た3人の使者が密談を交わしていた。
    円卓に座り、端末を開き目を落としている一人は、中年のビジネスマン然とした冴えない風貌の男。オルガ・ブレイクチャイルドの前に現れた、金錆ギゼ。
    もう一人、上座に座り、ネイビーのスーツを着こなした秘書かマネージャーかといったシャープな女性。こちらはヴェロニカ局長の前に現れた、紫車リィス。
    そして最後の一人は、扉の近くに立ち、口にタバコか何かを咥えたままの大柄な男性。
    『量産品の兵隊2体はまあご愛敬としても、貴重な身代わり人形を1体。更に高価な特注機構の人形を1体。それだけ使って、姉御は交渉決裂、兄貴は仕入れに失敗。
    おっと、もう「兄貴」呼びは失礼でしたかね?』
    慇懃無礼な態度を隠そうともしない。彼の名は鉛鎚ラハン。
    『いえいえラハン。私の評価額は下がりましたから、その態度は正当です』
    ギゼがおとなしい口調でそう返すと、ラハンはフンと鼻を鳴らす。
    『まあいいや、姉御、じゃあ俺は俺の商売をさせてもらいますぜ』
    『ええよ。はなからそういう約束やし。好きにしたらええ。
    ・・・まあ、せいぜい気張りや』

    リィスの明らかに気の入らない送り出しを受けて、当てつけにドアをわざと音を立てて閉めてやる。
    『リィスめ、見てろ。この仕事が上首尾におわりゃあ、俺の評価額は2倍、いや3倍だって狙える。手前ぇの地位も奪ってやるぜ―』
    言いつつ、左右の暗がりに向け手をやると、中から更に何人かの男たちが現れた。
    彼らは蒸気人形ではない。
    同じペンタクルスの使者であり、ラハンよりも桁下の評価値で、個人的に雇った部下たちだ。リィスやギゼに無断で、ゲートを開いて招き入れた。
    『いいかお前ら。この仕入れ、しくるんじゃねぇぞ!』

    一方。
    ギゼの工作やリィスの交渉を経て、未確認世界である「ペンタクルス」の使者侵入を確認したALCAは、トリトミーの使者の協力の下、改めて「キョウト風雷事件」前後の異世界ゲート記録を子細にチェック。
    それにより、未確認の波長をもつゲートが確かに数度開閉されていたことを確認したのである。
    この事実は、現在ALCA上層部および世界政府間でのトップシークレットとして扱われ、その対応に今も議論が重ねられている所だ。
    武断派の主張としては、新たな世界の出現を世界の危機と捉え、直ちに凍結されている
    「世界統一自衛法」を復活、いわば戦時体制に戻すべき、という意見。
    これには、各国軍部出身のALCA高官、特に平和になった現在その発言力の低下を嘆く者たちが同調している。
    一方の穏健派としては、今回のデータにより今後は対ペンタクルスのゲート開閉も監視できる事を軸に、現在の体制を保ちつつ事件の解決、今後の事件の予防に努めるという意見を主張している。
    前ALCA長官であり「ルシフェル事変」でも活躍し、現在は政治家として腕を振るうヤルノ現乃氏を主導に、こちらも多くのALCA職員が賛同している。
    ナイエン支局よりもたらされた、彼らのロジックが「財貨」である、という貴重な情報が鍵だ。彼らの目的がいわば「金儲け」であるなら、セプトピアを武力侵攻する可能性は低いのではないか。何故なら、ロジックの違うセプトピアを彼らが侵略して奪う価値は低い。
    であるなら、膨大な消費行動である戦争は、勘定に合わないと判断するのではないか。
    これを希望的な楽観と非難する声と、火のない所に煙をたてるがごとき事大主義だと非難する声が、今日もALCA本部の議事堂を埋め尽くしている。

    「というわけだよヴェロニカ君。すまないね~ これは簡単に方針は決まらないよ」
    モニターの向こうのヤルノは、いつもと変わらない飄々とした姿勢を崩さない。
    が、言葉の端々に疲れが見える。
    「いえ。長官、いえヤルノさんのご尽力には感謝しています」
    そう答えるのはALCAナイエン支局のヴェロニカ。
    すると、向こうのヤルノが柔らかく笑うのが見えた。
    「? 何か?」
    「いやいや~ 君も変わったなと、思ってね。
     昔の君なら、一も二も無く武断派に同調していただろうに」
    「そう言わないでください。
    私も、あれからいろいろ学びました。
    今の世界は、結構気に入っているんです。
    ―だから」
    ヴェロニカは体を翻すと、作戦室に集まった定理者たち、そしてナイエン支局の全スタッフに向けて檄を飛ばした。
    「いいか、必ずペンタクルスの使者の足取りを掴め。
    そして、彼らが更に事件を起こすのを、決して許すな。
    未然に防ぐんだ。必ず!」
    「頼むよ、諸君」
    了解、と返す声が作戦室に響いた。

    今も支局に詰める縁の占術を元に、支局スタッフたちは各地に飛んだ。
    今回、まだALCAや世界政府の方針が固まっていない以上、動かせるのはナイエン支局のメンバーと、一部個人的に協力してくれた他の支局のメンバーだけだ。
    そして。
    オルガ・ブレイクチャイルドと剣美親、そしてジークハルト・クラウスの3名は、ここホッカイドウはオビヒロに来ていた。
    「悪いなジーク、今回は俺たちに付き合ってもらって」
    「いえ! 剣先輩とオルガ先輩の力になれて、光栄です!」
    「剣はそうかもしれないが、俺はそんなんじゃないだろう。何せ俺はルシフェル事変の―」
    「とんでもありません!」
    食い気味に答えるジークに、オルガも少し気圧される。
    「ちょっと生意気かもしれませんが、いいでしょうか。
    オルガ先輩は、確かに過ちを犯したかもしれません。
    でも、その後の活躍で、多くの人を救っています。
    過ちを犯したことは消せないかもしれませんが、だからといって、今の行為を過去の過ちで否定するのは正しいことではないと思います!」
    真正面からそう言われたオルガは、視線を逸らしながらジークの頭に手をやると、その綺麗な灰金色の髪をぐしゃぐしゃとかきまぜた。
    「へへっ、ありがとうな、後輩!」
    「うわ、ちょっと、や、やめてください~~~!」

    彼らがオビヒロに来たのは、ペンタクルスの使者が、定理者養成校であるピラリ学園への侵入、
    生徒への悪しき勧誘、最悪誘拐などの暴挙に及ぶことを懸念してのことだ。
    「彼らの目的が、セプトピアをハブにした異世界間密貿易だとするなら」
    「ハブ、ですか?」
    「あー、つまり、セプトピアを仲介して、モノリウム、ジスフィア、テトラヘヴン、トリトミーそしてペンタクルスとの異世界間貿易をするなら」
    「その中心となる世界は、このセプトピアだ。セプトピア人の協力者が絶対に必要になる」
    「金を積まれれば、協力するセプトピアの人間はいくらでもいるだろう」
    「そんな!」
    「ジーク。この世には、ヤクザとかマフィアとか、その手の仕事の方々がいるだろ?」
    「しかし、彼らをたぶらかして協力させたとしても、わざわざゲートを開くなんて派手な事をしていれば、いずれは発覚しALCAが鎮圧に動く。
    仮に協力者たちをトランスジャックしたとしても、今のALCAなら、撃退できる」
    「でも協力させるのが、定理者だったら?」
    「それも、まだ若くて、知識や正義感の幼い子供だったら?」
    「誘拐したうえで、何かをネタに脅迫、協力しなければ家には帰してやらないぞ―」
    「ひ、卑劣です! 許せない!!!」
    「まあ、本当にあのギゼやらリィスやらがそう考えているかどうかは、わからないが―」
    「ピラリ学園の子たちが、彼らにとって宝の山である可能性は高いね」
    おりしもこの週末、ピラリ学園は学外のゲストも呼び体育祭を実施していると聞く。
    ゲストに紛れ、ペンタクルスの使者が侵入するかもしれない。
    既に、元々正式なゲストとして招待されていたヴェロニカが学園に向かい、学園長をはじめごく一部の教職員には事件の可能性を伝えているはずだ。
    「それを水際で防ぐ。できれば、学園には事件が起きた事すら気づかせずに片付ける」
    「まあ、空振りならそれはそれでいいんだけどね」
    「わかりました! 上空からの監視は、お任せください!」
    「頼むぜ」
    あたかもピクニックに行くような風体で、ピラリ学園の周囲をパトロールして回る3人。
    定期的にジークがルシアと合体し、怪しい動きが無いか、上空から周囲を偵察している。
    「―で、どうだ?」
    「はい! 今のところ、怪しい動きはありません!」
    「・・・見てきたのは、それだけか?」
    「・・・はい?」
    「あの森の向こうには、乙女の花園たるピラリ学園。
    そして今、麗しき乙女たちが集い競う体育祭が行われている―
    俺のロジックが聞こえる。
    お前が思わずその目を奪われた確率は、ひゃ」
    「ぜ、ゼロ、ゼロパーセントです!!!」
    顔を真っ赤にして抗議するジークを、まあまあと美親がなだめる。
    「だ、だいたい、僕が空を飛んでいる時は、ルシアと合体しているんですから!
    そんな、他の女の子を見てるなんて、するわけないじゃないですか!」
    「ほぉう。ルシアってのは、お前の盟約者の―」
    「モノリウムの、燕の獣人の女の子だったね」
    「はい! ルシアは、その―」
    と、自分の盟約者について説明しようとした時。
    ジークはふと気づき、いつもポーチにしまっているフォーリナーカードを、改めてポーチごとタオルにぐるぐると包み、背負ったザックの底にぎゅっと押し込んだ。
    これからの会話は、聞かれたくない。
    「・・・剣先輩、大事な相談があります」
    「なんだい?」
    「ふ、俺たち歴戦の定理者に相談とは。いかなる難事か想像がつくな」
    「剣先輩、剣先輩は、テトラヘヴンの女神アテナと、その、お、お付き合いされてるんですよね!」
    「は?」
    思いもよらぬ言葉に、先輩二人が目を丸くする。
    「先輩、教えてください! どうやったら、その、僕も使者の子と、その、あの、特別な関係に、なれ、ますか?」
    「・・・・あー。つまり君の相談というのは・・・・」
    「恋の相談、ということか」
    更に顔を赤くする少年を前に、美親とオルガはだいたいの事情を悟った。

    定理者と、盟約した異世界の使者との、恋愛。
    もちろん、過去に例が無かったわけではない。
    だが大抵は悲劇に終わり、しょせん住む世界が違う者、結ばれることはない、というのが定説だ。
    しかし一方。完全にセプトピアに適応し人の身体を得た使者ならば、もはや物理的な垣根はない。
    神話などに登場する人と神との恋愛沙汰は、過去にあった定理者と使者の恋愛が人伝えに形を変えて伝説になったのだ、と主張する学者もいる。

    「そりゃあまあ、何というか、お互いの気持ちを尊重して、っていうか・・・」
    「―よくわかりません」
    「ふっ 男なら正々堂々正面突破。
    俺のロジックが聞こえる。
    お前の告白が成功する確率は―」
    「―オルガ先輩には聞いてません」
    男3人、ああでもないこうでもないと、話し出す。
    そもそも、実はこの3人、確かに女性と接することは多いものの、別に恋愛に達者なわけではなく。口々に出てくるのは、実に他愛無い、それこそ男子中高生の休み時間と変わらない会話だった。

    『・・・美親、ちょっと良いですか』
    少し硬い声でフォーリナーカードから現れたのは、剣美親の盟約者テトラヘヴンのアテナ。
    そのままジークの手をぐいとつかむと、つかつか歩き出し、美親とオルガから距離を取る。
    引きずられていくジークの無事を祈る二人である。

    『―ふう、ここらへんでいいかしら』
    声が届かないぐらいに離れると、アテナは掴んでいた手を放す。
    「あ、アテナさん、あのう・・・」
    憧れの先輩定理者の、その盟約者。
    テトラヘヴンに名高い女神アテナを前に、流石のジークも緊張していた。
    ジークは女系家族の中で特に可愛がられて育ったうえ、配属されたALCA支局でも女性職員たちにはいろいろあれこれ騒がれてきた。だから特に女性の前で緊張するということは無いのだが―これは格が違う。
    光に透ける金の髪をさらりと流し、振り向いたアテナは、まず一言。
    『ジークハルトさん。貴方、意外と意気地がないんですね』
    うっ、と思わず声が詰まるジーク。
    『私はテトラヘヴンの勝利の女神として、多くの戦士たちと共に戦い、祝福を与えてきた者です。
    でも今の貴方には、祝福を与えることはできません。
    戦いに赴く前に、怯えて立てない様ではないですか。
    そもそも剣を握ることすらできないのでは、願う勝利など掴めません』
    「すいません・・・」
    『仮に貴方が女の子だったとして、そんな様子の男の子を好きになりますか?』
    アテナの口調はいつもの様に穏やかで、優しげですらある。
    いっそ厳しく叱責されるならまだいい。
    まさしく「女神」の様な綺麗で素敵な大人の女性から、こうして諭されるのは、正直辛い。
    ・・・そんな気持ちが表情に出ていたのだろうか。
    俯いていたジークに、
    『顔を上げなさい、ジークハルト・クラウス』
    その言葉には、背筋を少し伸ばさせる魔法の力があった。
    『ごめんなさい。私も神とはいえ女、ですから。どうせならあの娘にも幸せになってほしくて、ちょっとおせっかいをしてしまいました』
    顔を上げた少年の額を、揃えた指先でちょっとつつく。
    『ではジークさん、この勝利の女神アテナが、今回だけは特別に、貴方にひとかけら勇気を差し上げましょう』
    そのまま腰を折るようにかがんで、そっと耳に囁く。
    『-キライな人と、合体なんて、できないでしょう?』
    その言葉が、ジークハルトの勝利への祝福となった。

    「オルガ先輩、次は左から3体、早いです!
    剣先輩、そちらには5体!」
    「ふっ、任せろ! 銀影、全て斬り伏せる!」
    『承知だ』
    「アテナ、ロジックドライブで行こう」
    『ええ!』
    「『ロジックドライブ、リフレクション!』」

    戦闘は、極めて唐突に、かつ雑な形で始まった。
    明らかに不審な様子の集団―どう見ても、観光客でも、学園の関係者や父兄でもない、チンピラヤクザの様な風体の数人に率いられる、表情すら変えない人形の様な、いや本当に人形の一団。
    ずらずらと列を揃え、堂々山道を登ってくるのをジークが発見。
    オルガの誰何の声に、答えたのは何らかの銃器による射撃だったのだ。
    『ちっ この完璧な変装が見破られちゃあしょうがねえ。
    お前ら、相手はたったの3人だ、潰して通れ!』
    鉛鎚ラハン、評価額8200万GD。その得意商売は、強盗まがいの仕入れと押し売りだ。手荒い仕事を数撃ちゃ当たるでこなしてきた。
    今回も、量産品の戦闘専門の蒸気人形100体を揃え、更に手下を潜ませ、金でたぶらかした人間をさらっておき、
    『へへっ、トランスジャックってえんだろ!』
    噴き出す蒸気。
    うなりを上げる歯車とピストン。
    それが彼らの元体なのか、身体を奇怪なパワードスーツに潜め、襲い掛かる。

    しかし。

    『オルガ。この者たちは、私をこの世界に呼び戻した痴れ者の仲間の様だな』
    「ああ。―罰を、与えたいか?」
    『当然だ。行いには報いを。それが神と人との関わりだからね』
    「いいだろう。トランスチェンジ!」
    湧き上がる黒い神気。
    二又の魔杖が唸りを上げ、暗黒をたたえた星を呼ぶ。
    『神罰を受けよ―』
    「セブンスター!!!」
    七つの流星が、数多の人形を巻き込み砕いていく。

    「アテナ、ここは誰一人、通さない」
    『はい、美親』
    オルガの派手な攻撃を前に置き、美親は後衛に。
    討ち漏らし横を抜けようとする者を、空を舞う盾が打ち砕く。
    『ええい、何してる! しかたねぇ、これでもくらえや!』
    背負った筒は大きな大砲だったらしい。
    前に倒すと、ひときわ大きな蒸気の漏れる音とともに、巨大な何かが唸りをあげて飛んでくる。巻き込まれて壊れる人形も無視し、連射、連射。
    「オルガ!」
    「剣!」
    ひと呼吸で位置を変える。
    飛来する砲弾、それを受け止めるのはもちろん美親の盾だ。
    そのままロジックドライブで相手に返す。
    巨大砲弾の往復が、相手の布陣をずたずたに崩した。
    「剣先輩、オルガ先輩、今です!!」
    「いくぞ剣!」
    「ああ、オルガ!!」
    白と黒の流星が、混乱する敵陣へと飛び込んでいった。

    *******

    さて今回は特別に、時計の針を少し先に進めたい。
    今回の騒動の後の、もう一つの戦いの、話だ。

    彼をかまいたがる各種のお姉さんたちを撒いて、ルシアと二人きりの時間を作るのに成功したジーク。
    二人だけで歩く秋の公園の夕暮れはとても綺麗で、これならムード満点だ!と心中で勝利を確信する。
    大丈夫、大丈夫。
    いけ、行くんだ、ジークハルト・クラウス!
    自分で自分を叱咤して、横を楽しそうに歩くルシアの手を、ぎゅっと握る。
    『ん? ジーク、どうしたの?』
    「あ、あのね、ルシア。
    君に、君に伝えたいことが、あるんだ」
    『何?』
    ルシアはいつも、ジークの話なら顔をまっすぐ見て聞いてくれる。
    赤い空の色に照らされて、ルシアは『重くて暗くて嫌い』というけど彼はとても似合っていると思うその黒髪が映え、いつも以上に可愛く見えた。
    「ルシア、君が、君が、好きだよ」
    『!』
    「出会った時からずっと、盟約してからもずっと、君のことが、大好きだ。
    君のことを思って合体するといつも、心がふわっとして、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
    だから僕と、これからもずっと、いっしょにいて欲しい!」
    『-』
    しかしルシアは、大きな目をもっと大きく開いたかと思うと―
    ぎゅっと下を向いて、黙ってしまった。
    「あ、あれ?」
    なんてことだろう。
    このシチュエーションなら、このタイミングなら、ええと、うまく行くと思ったのに!
    「だ、だめ、なの、か、な・・・」
    思わず声が小さくなっていく。
    湧き上がっていた期待と幸せの未来のプランが、空気の抜けた風船の様にしぼんでいく。
    ああ、やっぱり僕はまだまだダメなのか。
    『-ばか。
    ばかばかばか。ジークのばか。
    ジークはあんなに勉強もトレーニングもやってるのに、ほんっとにばかなんだね!』
    「え、ええええ!」
    勇気を振り絞ったにもかかわらず、この返答。
    先輩たちのアドバイス(というより、女神の一言)に背中を押され、自分なりには自信が持てたのに、このザマはどうしたことか。
    ・・・でも、顔を上げたルシアの、この表情は何だろう。
    口調とは裏腹に、怒っているわけでも、もちろん嫌がっているわけでもなさそうだ。
    というより、泣いているし・・・笑っている?
    『ジークは忘れちゃった?
    最初に合体の説明をいっしょに受けたとき、言われたよね。
    合体していると、お互いのロジックを与え合う。だから、お互いの記憶や感情が交じり合うことがある、って』
    「うん」
    『合体すると、こころがふわっとして、胸の奥がぎゅっと熱くなるんだよね』
    「うん」
    『そんなの、私も同じに決まってるじゃん!』
    「!」
    『ジークはそんなこともわからない、ばかだから。
    私が見ていないと、ほんとダメなんだから。
    だから・・・ 
    だからこれからも、いっしょにいてあげる!』

    ルシアは今も覚えている。忘れることなんてできない。
    「ねえ、ルシア。
    使者はね、合体することで、本来の力をセプトピアでも使う事ができるんだって」
    あの日、あの時、彼がそう言ってくれて。
    彼と盟約することで、また空を飛ぶことができるようになった。
    セプトピアの空の素晴らしさを知ることができた。
    この空とこの翼は、ジークからルシアへの贈り物だ。
    彼から私だけに贈られた、大切な宝物だ。

    (いつもいっしょにいてね、私の王子様)

    今は言えないこの気持ちも、ジークと合体している限り、いつかはきっと、彼にばれてしまうだろう。
    でも早くばれてしまわないかな、とも思っている。
    その日が楽しみでもある。

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  • 貴純のリリアナ

    貴純のリリアナ

    モノリウムからやってきた、百合の花の獣人。治癒の力を操る長杖を携えている。
    平和を愛する穏やかな少女だが、
    平和を守るためならどんなこともしでかすような、意志の強さと危うさを秘めている。

     ニーナ・アレクサンドロヴナ & 貴純のリリアナ

    不屈のニーナ

    『「花園の祝福ッ!」』

    リリアナと合体したニーナが高く杖を掲げると、
    道を覆っていた使者たちは一斉にピタッと立ち止まる。
    やがて使者たちは、「花園の祝福」が放つ多幸感に、戦意を失い、倒れていく……。

    「相変わらず凄まじい威力を持った技ですね……」

    ニーナがつぶやくと、リリアナのおっとりとした笑い声が聞こえた。

    『さあ、道が拓けました。急ぎましょう』

    リリアナの言う通り、今、ニーナを遮る者はない。目的地まで一本道ができていた。
    「アイシャ、ついてきてくださいね」
    合体を解除したニーナが歩を進めながら、背後にいるアイシャに声をかけた。

    『ふーん……まあまあな、技ね』

    アイシャはツンとしながら、ニーナのあとをついていく。
    ニーナとリリアナと一緒に戦う覚悟で来たものの、結局合体するタイミングが無く、
    少し拗ねていたのだ。

    3人が目指した場所は、街の外れにあるALCAの支局。

    「……誰もいないんでしょうか」
    ガランとしていて人の気配を感じない。
    それに壁は傷つき、廊下には物が散乱している。
    それは、この場所もまた使者たちに襲われていたことを意味していた。
    『郊外の支局なら安全かと思ってましたのに……』
    リリアナは悲しげにつぶやいた。
    『それじゃ、ニーナのお目当てのモノもやられてるんじゃ……』

    アイシャが言い終える前に、ニーナは駆け出していた。

    『ニーナ!!』

    ニーナが向かったのは、支局にある指令室だ。
    そこにあるコンピュータから、本部のホストコンピュータにアクセスできる。
    ――この事態を招いたものは何だったのか?
    支局の端末からそれを探るため、ニーナはここにやってきたのだ。
    「……!」
    指令室を見て、ニーナはハッと息を呑む。
    アイシャが懸念していた通り、端末も無残に破壊されていた。
    「……」

    立ち尽くすニーナに、リリアナもアイシャも声をかけづらそうにしている。
    そのうちニーナは諦めがつかないのか、
    破壊された端末に近づき、黙々とイジリはじめた。
    その姿はアイシャには悲痛に見えた。
    いくら修理しようが無駄――
    そうとしか思えないほど端末はズタズタに破壊されていたのだ。

    『ニーナ、あんまり無理しないで。ちょっとさ、息抜きしようよ』
    気遣ってアイシャは言った。
    『それがいいかもしれませんね。ここに来るまで戦い続きでしたし』
    リリアナも同じ気持ちだ。
    『そうそう! 何かして遊ぼうか! 気晴らしにさ!』
    『じゃあ……おままごと?』
    『いや……』
    『かくれんぼ?』
    『ええと……』
    『鬼ごっこ?』
    『もう、子ども扱いはよしてよ!!』
    アイシャはたまらず叫んだ。
    『ごめんなさい。アイシャは子どもじゃないものね……』
    リリアナはクスクスと笑った。
    アイシャは不満そうに「んもお……」と腕を組んで行こうとする。

    『何か面白そうなものがないか、探してくるよ』
    「結構です」
    ニーナは目もくれずピシャリと言った。
    「私は任務をまっとうします」
    『任務ったってそれがそんな状態じゃ――』

    そう言いかけた瞬間、部屋が次々と淡い光りに照らされはじめた。

    『!!』

    部屋のあちこちにあるモニターが息を吹き返したのだ。
    「……これで何とかなりそうですね」

    そして、ニーナは淡々とキーボードを叩き始める。
    ニーナは、不可能としか思えなかった端末の復旧をやり遂げてしまったのだ。
    ――忘れてた。ニーナは天才だった。
    リリアナもアイシャも、その小さく可憐な背中をただただ唖然と見つめていた。
    一方、ニーナは目的だったホストコンピュータへのアクセスに成功し、
    この状況を分析するため、深い思考の海へと沈んでいった。

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  • 輪菌のシータ

    輪菌のシータ

    モノリウムからやってきた、キノコの獣人少女。
    見た目によらず博識で、モノリウムの植物に精通。
    セプトピアには研究目的でやって来たが、
    好奇心旺盛で、気になったことは調べずにはいられない。
    武器は多彩なキノコを詰めたキノコポットと、そこから放たれる様々な胞子。

     七星 縁 & 輪菌のシータ

    危険なディナー

    「さあ、シータさん特製、キノコ砲弾です!」
    キノコポッドからポンポンと胞子が飛び出し、次々敵にまとわりつくと、
    それを吸い込んだ敵が力を失い倒れていく。
    それを見て、縁はホッと一息。敵を倒して安心したわけではなく―
    シータに振り回された疲れからくるものだった。

    モノリウムからやってきたキノコの獣人少女にして、天然のマッドサイエンティスト、
    好奇心旺盛なシータにとって、
    セプトピアの世界はまだまだ興味深い不思議なものであふれているようで、

    『これは興味深い!』

    と、集中モードに入ると、合体のことも忘れ、戦闘そっちのけで調べものを始めてしまう。
    今回の戦闘でも、シータの気持ちを戦いへと向けるのに一苦労だったのだ。
    縁とシータは合体を解除して、支局に戻る。
    するとシータは一目散にどこかへ向かって行った。

    「シータさん、またですか!?」

    慌てて追いかける縁。
    シータがやってきたのは台所だった。

    『戦闘中、美味しそうな料理を思いついたの』
    「……やっぱり」
    『だから、今晩は私が料理を振る舞おうと思って』

    ニッコリと笑うシータ。
    ひきつった笑いを浮かべる縁。
    自分の研究のためにセプトピアにやってきたシータは、
    盟約することになった縁の日常を見ていたと思ったら、突然「料理」に興味を示したのだ。

    『様々な材料を組み合わせ加工し、まったく別の、料理というものにしてのける。
    この技術は大変、興味深い! 私もやりたい!!』

    しかし― 今まで縁が口にしてきたシータの料理は激マズなものばかり。
    縁ひとりであるなら、我慢して口にしてきたが、仲間たちが口にしたら……
    今後のALCAの業務に支障をきたすことは間違いない。
    けれども、目を輝かせて楽しそうに料理をしているシータを見ていると、
    悪い気がして縁には止めることができなかった。

    と、迷っている傍から、シータが割った卵は殻が入ってグチャグチャに。

    「あああ! シータさん慌てず卵は一個一個丁寧に割りましょう!」
    『む?卵の殻は混じってはいけないのか?カルシウムが摂れると思うのだが―』

    息つく間もなくコショウを取り出すシータ。
    その危なっかしい手つきはドバーッとコショウが入りそうな予感がプンプン。

    「ダメですシータさん、コショウは味見しながら少しずついれてください!」
    『ぬ?コショウには薬効があるのだが・・・なるほど、適量は確認するべきだな!』

    『よーし綺麗に切れた!』
    「ダメですシータさん、具はもっと細かく刻んでください!」

    『―隠し味・・・ よかろう、これだな!』
    「ダメですシータさん、隠し味はちょっとだけです!板チョコ1枚丸ごとはダメ!」

    『ナツメグがない! では私特製のこれを代わりに!』
    「ダメですシータさん、その怪しいキノコ粉を入れるのは止めて!」

    その後もファインプレーで、シータのデンジャラス・クッキングを回避していく縁。

    『ありがとう縁。今夜の料理は上手くいきそう。きっと、忘れられない味になる!』

    シータの笑顔にホッとした気持ちにもなるが、縁の苦労の日々はまだまだ続きそうだ。

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  • 鉄牙のライア

    鉄牙のライア

    モノリウムからやってきた、狼の獣人少年。
    父母は群れを率いていた頭目であったが、
    とある使者に殺され、その復讐のため、
    敵を追い求めてセプトピアにやってきた。
    頭に血が上りやすい激情家だが、
    正義を重んじる信念も持つ。

     揺音 聖那 & 鉄牙のライア

    咆哮、再び

    「聖那戻れ!! 戻るんだ!!」

    司令部からの声は、聖那には届かなかった。
    気がつくと無我夢中で走っていた。
    数百メートル先――目と鼻の先で、今、仲間が苦しんでいる。
    それを知った途端、聖那は向かわずにはいられなかった。
    現場は、ショッピングモール。
    聖那が息を切らして、辿り着いた頃にはあちこちが破壊され、瓦礫の山が築かれていた。
    聖那は、敵に気づかれないように地下へと降りていく。
    司令部と仲間との連絡が途絶えたのは、地下2階の駐車場だった。
    戦闘不能に陥り、そこに避難しているはずだった。

    「私よ。無事?」

    聖那は声をひそめて、ロジグラフで仲間に呼びかけながら真っ暗な駐車場を進む。

    「聖那!」

    安心しきった声とともに、車の陰に身をひそめていた仲間が聖那の前に現れる。
    と、同時に驚いた顔を見せた。

    「聖那……あんたトランスしてないじゃない!」

    そう。今の聖那は、一般人と変わらない。
    パラドクスゾーンに巻き込まれれば、逆理病に冒される危険もあるのだ。

    「そういうわけだから急ぎましょう。今はあなたの避難が最優先」

    そう言って、仲間の手を引き立ち去ろうとした時だった。
    凄まじい音とともに天井が崩れ、真っ暗な駐車場に光が差し込む。
    やがて聖那に気づいた敵――巨大なワニの獣人が瓦礫の中から現れた。

    『飛んで火にいる夏の虫だな……』

    不敵に笑う敵に、聖那は迷うことなく仲間に告げた。

    「私が囮になる。あなたは逃げて」
    「でも!」
    「大丈夫。逆理病になるようなヘマはしないから」

    聖那は仲間を安心させようと微笑むと、敵に向かって行った。

    『その勇気だけは誉めてやる……勇気だけはな!!』

    敵は、容赦なく向かって来る聖那に拳を突き出す。
    聖那はその拳を間一髪避けた。

    『なに!?』

    何かの間違いだろう、と自分に言い聞かせるように敵は再び聖那に襲い掛かる。
    再び、聖那は紙一重で敵の攻撃を躱す。

    『ちょこまかと!』
    「たいしたことないわね。アイツに比べれば……」
    『アイツ……?』
    「あんたよりももっと強いヤツがいたってことよ。
    アイツに比べれば、たいした攻撃じゃないわね」
    『小癪な!!』

    聖那の計算通り、挑発にのり、敵はムキになって襲い掛かってきた。
    もう敵の目には聖那しか映っていない。
    聖那は、横目で仲間が離れていくのを確認し、ひとまず安心する。
    だが問題は、これから自身のピンチをどう切り抜けるかだ。
    敵の攻撃を必死に避け続けていた聖那だったが、ついに拳がかすめ、聖那は跪いた。

    『手間をかけさせやがって……』

    敵は聖那へと近付いた。そしてパラドクスゾーンも聖那の足元へ広がってきた。
    完全に勝ちの目の無い戦いであったが、それでも聖那の闘志は消えることはなかった。
    聖那は立ち上がると敵に向かってファイティングポーズをとった。

    『そうか……死にたければ死ね!!』

    敵のトドメの一撃が聖那に迫る。
    その時だった。
    物陰から狼のような影が飛び出し、聖那の身体に体当たりした。
    その衝撃で聖那の身体は投げ出され、敵の攻撃は空振りに終わる。
    驚くのも束の間、聖那は見覚えのある狼のようなその姿を見て叫んだ。

    「ライア!」
    『相変わらず無茶しやがって……』

    ライアは少し呆れたような顔を浮かべていた。

    「助けに来てくれたの!?」
    『言っただろ。お前が手こずることがあったら助けに来てやるって……』

    照れくさそうなライアを見て、聖那は思わず微笑む。

    『ボヤボヤしてる場合じゃない。やるぞ』
    「やるって?」
    『合体ってやつだよ。そうじゃないとヤツに勝てないだろ?』
    「あなたと私が合体……!?」

    テストもしていない相手との合体に戸惑う聖那。しかし今は迷っている場合ではない。

    「……わかった。盟約しよう!」

    こうして合体する聖那とライア。
    その瞬間に、聖那は想像以上のものを感じた。
    今、自分の身体に漲る力を。

    『ウオオオオオッ!!!』

    敵は再び襲い来る。

    『「紅月の牙ッ!!!」』
    『!?』

    聖那の鋭い一撃が、敵の身体をはね飛ばした。

    「すごい! すごいよライア!」
    『感心してる場合じゃない。俺のあの技を覚えているか?』
    「……もちろん」

    聖那は力強く頷いた。忘れるわけがない。
    かつて聖那の窮地を救ったライアのとっておきの技だ。

    『「ロジックドライブ! 月光の咆哮!!!」』

    聖那とライアの魂の叫びが重なり合う。その咆哮の衝撃波をうけ、敵はがくりと崩れ落ちた。

    『……やるな』
    「ライアもね」

    かつて拳を交えた敵と手を結ぶ――聖那は最高の高揚感を覚えていた。

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  • 闘舞のアイシャ

    闘舞のアイシャ

    モノリウムからやってきた、山猫の獣人少女。
    母はモノリウムでは知らない者がいないほどのダンサーで、
    その母を超えるため、異文化に興味を持ってセプトピアに渡って来た。
    舞い踊るような体術と気功の力で戦う。

     ニーナ・アレクサンドロヴナ & 闘舞のアイシャ

    ニーナ、お姉さんは私なんだから!

    『そこならここから近い! 私たちが行くわ!』
    司令部に通信で伝えると、アイシャは『行こう!』とニーナの手を引いて走り出した。
    敵が出現したのは、ここから数百メートルの距離。
    アイシャとニーナがその近くにいたのはまったくの偶然なのだが、
    (今日はツイてる!)
    と、アイシャは心を躍らせていた。

    アイシャとニーナのコンビはとにかく強かった。
    今まで7回出撃し失敗はゼロ。しかも相手は瞬殺。
    その戦績に、アイシャは相当な自信をつけ、次の出撃はいつだろうといつもウズウズしていた。
    そんな時に現れた敵の出現。気持ちがはやらずにはいられなかった。

    「ちょっと待ってください!」

    現場が目前に迫った時、ニーナが突然手を離した。

    「もう少し敵の情報を仕入れてから、戦闘に臨みませんか?」
    『はあ?』
    「今まで上手くいきすぎていて、少し不安なんです……」

    真剣なニーナの顔を見て、アイシャは余裕たっぷりに笑った。
    そして妹を励ます姉のように言い放つ。

    『ニーナ、怖がることないよ。大丈夫大丈夫。
    おねーちゃんにまかせなさい!
    私たちは無敵なんだから!』
    「けど!」
    『いいから早く行こう!』

    問答無用で、再び、ニーナの手を引いて走り出すアイシャ。
    こうなってしまったら、やるしかない。
    現場に到着、アイシャと合体したニーナの前に現れた敵。
    それは、トリトミーのロボット型の使者だった。

    『よーし! いつも通り、一瞬で決めちゃうよ!!』

    ノリノリで指示を出すアイシャに従い、
    ニーナは素早い体術で敵に迫ると、
    肉球のついた手のひらから気功を放つ。
    この一撃で、敵の身体は内部から破壊され、戦闘不能に陥るのだ。
    いつも通りの手応えを感じ、

    (フフッ……また勝ってしまった。えっへん)

    と、ほくそ笑むアイシャ。
    しかし――敵は動いた。

    『ええええッ!? なんでええええッ!?』

    一方、ニーナは冷静に敵の反撃をかわし、距離をとる。

    『一体どうして……!?』

    うろたえるアイシャに、ニーナは淡々と答える。

    「相手はロボットなんですから、内部は機械です。
    だから、いつもの気功は通じないんでしょうね……」
    『え!? え!? だったらどうすんの!? 勝てないじゃん!!!』

    アイシャの頭は、完全にパニックだ。

    「大丈夫です」

    さきほどとは逆に、今度はニーナが余裕の笑みを見せた。

    「内部からの破壊は無理なら、外側からコツコツとダメージを加えていけば……」
    『けど……』
    「アイシャ、怖がることはありません。私たちは無敵、なんでしょう?」

    ニーナの気品あふれる優しい笑顔に、アイシャの動揺は徐々におさまっていった。

    『……わかった。ニーナ、ごめんね』
    「?」
    『次は、ちゃんとニーナの言うことも聞くね……』

    すっかり、しおらしくなったアイシャの言葉に、

    (どっちがお姉さんなんだか……)

    と、ニーナは思わずクスッと笑った。

    かくして。
    初出撃から今まで、7連続で相手を瞬殺してきたニーナとアイシャにとって、
    その日の戦闘は初めての長丁場。トランスリミットぎりぎりまで粘る激闘であった。
    支局へ戻るトランスポーターの中、疲れ果てて眠るアイシャと、

    (むにゃむにゃ・・・やっぱり私たち、無敵・・・)

    その傍らに、見守るニーナがいた。

    「これからも、がんばりましょうね、“おねーちゃん”」

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  • 美棘のローダンテ

    美棘のローダンテ

    モノリウムからやってきた、銀狐の女獣戦士。
    冷静に物事を見極めるクールな性格。
    美しい毛並みを乱すことなく敵を討つ華麗なる剣士で、
    武器は茨で出来たレイピア。
    セプトピアには、没落した一族の再興を求め、
    その手がかりをつかむためにやって来た。

     ヴェロニカ・アナンコ & 美棘のローダンテ

    「ギムレットには早すぎる」

    繁華街の外れにあるそのバー。カウンターにはヴェロニカただ一人。
    この界隈では酒に酔った使者が一般市民をトランスジャックする事件が多発していると聞いていたが、今宵はその気配は無さそうだ。
    静かだからこそ、人が店に入ってくると、すぐに気がついた。
    そこにいたのはヴェロニカと同じ銀髪の女――ローダンテだった。

    『……隣、空いてるか?』
    「聞くまでもないだろう」

    ガラガラの店内を見回してヴェロニカはクスッと笑う。
    ローダンテは硬い表情のまま無言でスツールに腰かけた。
    突然の再会だったがヴェロニカに驚きはなかった。
    ローダンテは先日の戦闘の際、偶然出会ったモノリウムの使者だ。
    ヴェロニカはその時からローダンテと再び巡り会う運命のようなものを感じていた。

    『……私と盟約しないか? お前は、私が力を貸すべき相手である気がしたんだ』

    ヴェロニカが感じた運命をローダンテも同じように感じていたようだ。
    だが、ヴェロニカはすぐに返事はしなかった。

    「……まぁ、先ずは一杯飲んだらどうだ?」

    答えをはぐらかすヴェロニカに、ローダンテは少し戸惑いながら、仕方なそうに従う。

    『あまり甘くない酒がいい……』
    「ならば、この辺りだな」

    と、ヴェロニカはメニューを指差す。しばし考えた後、ローダンテはバーテンを呼んだ。

    『ブラッディ・マリーをくれ』

    それを聞いて、ヴェロニカがまたクスッと笑った。ローダンテは再び戸惑う。

    『? 何がおかしいんだ?』
    「酒にも言葉があるんだ」
    『言葉?』
    「花言葉のようにな……ブラッディ・マリーには『私の心は燃えている』という意味がある。
    たまたまかもしれないが、そんなお前の強い心情を表しているのかな……」

    それを聞いてローダンテは神妙な顔を浮かべた。

    『妙なものだな……図星だ。私の心は燃えている』

    ローダンテは、セプトピアの世界に来た理由を打ち明けた。それは一族の再興だ。
    今や滅びゆく種族になってしまった自分の一族に再び栄華を取り戻したい――
    その手立てを探るため、ローダンテは別の世界へとやってきたのだ。

    『私には背負わなければならないものがある。
    しかし、この世界では盟約しなければ真の力を出せない。お前に協力してもらいたい』

    力強くヴェロニカに訴えるローダンテ。
    だが、ヴェロニカは黙ったまま。そのまま数分が経過した。
    じれったくなったローダンテがもう一度問いかけようとした時、
    やっとヴェロニカが口を開いた。

    「ギムレット」

    酒の注文か――と肩を落とすローダンテ。

    『ギムレットにも言葉はあるのか?』
    「ある。『長いお別れ』だ」

    それを聞いてローダンテはハッと立ち上がった。

    『それが答えか……私と盟約するつもりないという……』
    「早まるな」

    ヴェロニカは笑いながら言った。

    「私が『長いお別れ』をしたのは、過去の自分とだ。私には長い間背負ってきたものがあった」

    ローダンテの話を聞いて、ヴェロニカは復讐に囚われていた頃の自分と重ねていた。

    「お前は、あの頃の私と似ている」
    『今のお前は背負っているものはないのか?』
    「ああ。お前が今の思いを成就させるのか、それとも別の道を見つけるのか……
    お前がこれからどうなるか見てみたい」
    『そ、それでは……』

    ローダンテが盟約を口にしようとした時、店の外から悲鳴がこだました。
    程なくして司令部からヴェロニカに出撃の命令が通信で入る。

    「このまま静かな夜を期待したが、やはり使者が現れたか……」

    繁華街の裏路地。
    酩酊し、一般市民をトランスジャックした使者が暴れ回っている最中、
    合体したヴェロニカとローダンテが現れた。
    ゴージャスな毛皮を身に纏い、銀髪はネオンに照らされ輝いている。
    その手に握られているのは茨でできたレイピアだ。

    「早速だが、お前の腕を見せてくれ」
    『望むところだ』

    そして次の瞬間、鋭い剣先が目にも止まらぬ速さで敵に襲いかかった。
    その手応えにヴェロニカには満足そうに微笑む。また得難い友を得た――と。

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  • 七輝のサンドラ

    七輝のサンドラ

    モノリウムからやってきた、孔雀鳥人少女。
    本来オスにしかない飾り羽を持って産まれたため、
    凶兆の象徴とみなされ、迫害を受けて育った。
    そのため、いつもオドオドとした気弱な性格。
    セプトピアに来たのも、迫害から逃れるため。

     七星 縁 & 七輝のサンドラ

    すくわれる時

    「まず卵白だけを泡立ててメレンゲにしておいて、
    それから黄身を入れてかき混ぜると美味しいオムレツができるんです」

    縁がそう言ってやってみせると、サンドラは興味深そうに見つめて、ポツリとつぶやいた。

    『……私も、やって、みたい……』
    「もちろんです! どうぞ!」

    そしてサンドラは縁がやった通りのことをぎこちない手つきで始める。

    サンドラがALCAの保護下におかれると、縁に世話をするよう命令が下った。
    そんな命令がなくとも、縁はそうするつもりだった。
    ALCAにきたばかりのサンドラは、誰とも口を聞かず、
    いつもオドオドと何かに怯えているようだった。
    さらに、身体には至るところに傷痕があった。
    おそらく元いた世界で迫害され、辛い思いをしていたのだろう、と想像された。
    一体どうすれば心を開いてくれるのか――
    サンドラの深い心の傷の前にALCAのスタッフも方法がわからず、縁に託すしかなかった。

    (少し時間はかかるかもしれないけど……)

    そんな不安を感じながら、縁はことあるごとにサンドラに家事の手伝いをお願いした。
    一緒に施設の掃除をし、洗濯をして、ご飯の支度もやった。
    それで心を開いてくれる――
    確信はまるでなかったが、できるだけ一緒にいて一生懸命話しかける。
    縁にはそれしか思いつかなかった。
    その甲斐があってか、最近サンドラはポツポツとやっと言葉を出せるようになり、
    縁はホッとする気持ちだった。

    「ごちそうさま! じゃあサンドラ洗い物を手伝ってください」

    夕飯のオムレツを食べ終えて、皿を片付けようとした時だった。
    サンドラは立ち上がらず、暗い表情でうつむいている。

    気分が悪いんですか? ひょっとして食あたり!?」

    縁が慌てて訊ねると、サンドラは首を横に振って、小さな震える声で言った。

    『……縁……いつも一緒にいる……でも急にいなくなる』
    「え? ああ、急な出撃がありますから……」
    『帰ってくる……怪我してる……かわいそう……』
    「私もまだまだですからね。もっと強くなりたいですけど……」
    『縁の……力に……私、なりたい!!』
    「え……それって……」

    思いがけないサンドラの言葉に、縁は驚いた。

    『私と縁、盟約……私となんか迷惑……?』

    今度、縁が大きく首を振った。

    「そんなことありません! よろんで! 盟約しましょう!」

    こうして心を開きかけたサンドラと縁は盟約を交わし、早速合体のテストをすることになった。

    『大丈夫……かな……、上手くいく、かな……』
    「大丈夫です。私を信じて」

    緊張するサンドラを縁は何度も励まし、最初の合体を開始する。
    眩い光に包まれた後、縁は閉じていた目を開ける。そして、ゆっくりと自分の身体を確認した。

    『やっぱり……』

    自分たちの姿を見て、落胆するサンドラの声。
    それは、縁の身体に「尾羽」がついていたからだ。
    オスにしかついていないその尾羽が、メスのサンドラにあったために、
    サンドラは一族に「凶兆」を呼ぶものだと迫害を受けたのだ。
    あの頃の辛い思い出が脳裏をフラッシュバックしていく。

    (もう、イヤです! こんな姿見たくない!)

    思わず叫び出しそうになったその時だった。

    「すっごーい! キレイ!!!」

    縁の声が弾んだ。

    『え……』

    サンドラの驚きに気づかず、縁は興奮しながら尾羽を広げた。
    「この羽とってもキレイ……嬉しいな、こんな姿になれるなんて……
    サンドラ、あなたと合体できてとっても幸せです!!」

    縁は目を輝かせ言った。
    心の傷の原因であった「尾羽」を生まれて初めて誉められたサンドラ。
    驚くよりも救われた気持ちが広がっていった。

    『うん、私も……』

    胸いっぱいのサンドラはそう答えるのがやっとだった。

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  • 花唇のローザ

    花唇のローザ

    異世界にある薔薇の国の姫。姫故に孤独であったが、人間の住む
    世界を訪れた際、リオンと偶然に出会ったことにより、盟約を結
    ぶ。
    同じような境遇のリオンを妹のように思い、触れ合ううちにその
    孤独は解消されていった。

     リオネス・エリストラートヴァ & 花唇のローザ

    リオネス・エリストラートヴァ & 花唇のローザ

    異世界モノリウムは、「力」のロジックに支配された驚異の大自然世界である。
    この世界では、意志と知恵を持った様々な生命由来の獣人たちが闊歩し、何か事あれば「力」そしてその表明たる「闘争」で解決する。
    それは、遥か北方の大森林に住む草花樹木由来の獣人たちも変わらない。
    北方花樹人の国に咲く大輪の薔薇姫と称えられしは花唇のローザが、その玉座に可憐かつ豪奢な身をたたえながら
    『ほぅ』
    と物憂げなため息をついた時ですらも。
    『―姫、いかがされましたか』
    『我ら臣下一同、ご下命あればいかにても果たす所存』
    『皆、蔓を張り棘を磨き、討って出る準備はできております!』
    腕自慢知恵自慢の家臣たちが膝を折りローザの言葉を待つ。
    が。彼女の親しい友人として宮殿にも出入り自由を許された、とある藤の花の姫は広間の隅に立ちながら、半目でローザの方をみやる。
    『・・・ま、だいたいわかってるけど』
    視線の先、大輪の薔薇姫は、その名の通り薔薇色の唇を物憂げに開いた。
    『―妾の―』
    家臣たちが息することも忘れ、一言も聞き逃すまいと静まる中。ローザは言った。
    『―妾の盟約者が、最近妾を呼んでくれぬのじゃ・・・・』
    一同が膝から崩れたりせず、堅く姿勢を保ち続けた鋼の精神力は、まさしく力のモノリウムの獣人として称えられてよいと思われた。
    『なあなあなあ、誰か聞いてくれぬか!
     しかも、しかもな? 最近リオンがまた考え込んでいるようなのじゃ・・・
     妾は、妾はどうしたら良いのだ!』
    居並ぶ臣下たちが、くるりその首を巡らせる。
    視線が集中した先は、今にも広間から逃げ出さんとしていた藤の花の姫を縫い留めた。
    『・・・ええ~ わたくし?』

    ホッカイドウはオビヒロの、更にその奥に設立されたピラリ学園。
    元々は悪意ある異世界の使者からこの世界を守るため、定理者の素質を持つ子女を集め育成する、特別な教育機関だった。
    今もその建前は変わっていないが、使者襲来事件が激減し世の中が平和になった現在、教職員たちもその在り方を考えている真っ最中ではある。
    ただはっきりしているのは、異世界の使者と合体し超常の力を奮うことができる彼女たちの力は、戦う事以外にも使う道がある、という事だ。
    いざという時その力を正しく使う事ができるよう、今日もピラリ学園の少女たちは己を磨き切磋琢磨している。

    「―っ ぜーっ はーっ も、ダメっす~~~」
    ばたりと倒れ込んだのは、2年Sクラスの京橋万博。
    頭には、真っ赤な鉢巻が巻かれているが、それもだらしなく解けていく。
    「つ、疲れたっす~~~」
    おりしも現在、ピラリ学園は生徒会の発案で始まった「体育祭」に向け、校内一丸と盛り上がり始めているところだ。
    この企画には、生徒たちに普通の子供らしい学生生活を与えたいと考えている教職員たちも賛成で、そのためここひと月の体育の授業は全て体育祭の練習となっている。
    Sクラス特有の、合体しての訓練も最近は特殊な能力よりも基本的な身体能力の発揮・向上に着眼点が置かれている。例えばリオンでは、モノリウムの使者・綿毛のワッフルと合体しては縦横無尽の運動能力を見せつけていた。
    さて何本もスタートダッシュをさせられ、日ごろの不摂生がモロに出た形の万博がなんとか身を起こすと、そこには既にノルマを終えたリオンが、ぽつんと座っている。巻いている鉢巻は赤。万博と同じ、紅組である。
    「リオン、どうしたっすか?」
    「あ、万博ちゃん・・・」
    リオンは万博よりもずっとタフだ。この程度の運動なら楽にこなしてしまう。合体しなくても単純な体力勝負なら、Sクラスでもトップなのではないか。
    そんな彼女が、何やら物憂げにため息をついている。
    傍にいる青い毛並みの小さな獣―異世界の使者らしいベルもお揃いの鉢巻をしながら、
    『キュウ~・・・』
    と心配そうに鳴いている。
    「・・・ニーナちゃんがね・・・」
    言われて視線の先を追えば、そちらには同じSクラスのニーナがスタートダッシュを素早く繰り返すのが見える。
    元ALCAの現役定理者として戦いにも赴いていただけあって、彼女の運動能力もクラスでトップクラスだ。
    「ニーナがどうかしたっすか?」
    「体育祭の準備が始まってから、ちょっと元気が無いんだー」
    「・・・そうっすか? そうは見えないっすけど・・・」
    切れ味良く体を翻すニーナ。そのたび、白い鉢巻がくるりと踊る。
    今回、各学年のSクラスはくじ引きで紅組と白組に分けられることになっていた。
    こういう催しではクラス単位で組み分けをすることが多いが、ピラリ学園の場合、盟約者を持ち合体ができるSクラスの面々はとりあえず「目立つ」。
    特に、身体を動かすことでは自然良い成績を取ることも多く、これをどちらかの組に入れてしまうと、入らない組の方から不公平だ!と声が上がるのは明らかだった。
    なので、生徒会の発案でSクラスの生徒は同じ人数ずつ紅組と白組に分けられる。
    2年Sクラスではリオン、万博、華凛たちが紅組。ニーナや弥生、華恋たちは白組だ。
    「・・・ううん、元気ない。ちょっとだけだけど」
    ニーナはあまり感情を表情に乗せる方ではない。
    少なくとも万博にはリオンの言う「ちょっと」の違いはわからなかったが、
    「なるほど、そうっすかー」
    「うん」
    ことニーナのことで、リオンの感覚が間違うことはないだろう、と思う。
    「聞いてもね、何でもない、って言うんだ」
    「それは困ったっすねぇ」
    万博にとってもニーナは大切なクラスの仲間だし、それにルームメイトでもあるリオンがこうして落ち込んでいるのは、部屋の空気的にちょっと困る。
    「じゃあ、ちょっと考えてみるっす」
    え? とリオンが顔を上げた時には、既に万博は弥生の方へ走っていくところだった。
    「やーっちゃーん ちょっと聞いて欲しいっすー!」
    「だからやっちゃんは止めなさい! で、何ですの?」
    ごにょごにょごにょ
    「なるほど、それは困りましたわね。ではこういうアイデアは―」
    ごにょごにょごにょ
    遠目で見ながら、リオンは少し胸が軽くなり、丸まっていた背が少し伸びた。
    そう、万博ちゃんも弥生ちゃんも、すごいんだ。
    二人とも、リオンの自慢の友達である。

    さてそれからしばし後。また体育の授業にて。
    「今日の体育の授業は、騎馬戦の練習をしますわ!」
    神楽先生の代理とばかりに、声を張る弥生。
    「じゃあ班分けをしますねー 基本、背の順ですから」
    「あう~ わっちも主さまの馬やりたいのに~」
    「華恋ちゃんは大きいから仕方ないでしょう!」
    藤崎先生の指示に従い、まず紅組と白組に分かれ、次いで騎馬を組む班に分ける。
    誰が馬になり、誰が馬に乗るかは班の中で決めていいことになった。
    「リオン、今日はリオンが乗るっす」
    「でも、万博ちゃんの方が小さいのに」
    そう言うリオンに、万博はグラウンドの反対側を指さした。
    丁度、弥生とニーナのいる班がニーナを上に乗せようと騎馬を組んでいるところが見えた。
    「思い切りぶつかってみるっすよ」
    「―うん、わかった!」
    恐らく今日の体育が騎馬戦の練習になったのも、万博と弥生の「おせっかい」の結果なのだろう。ここは「ありがとう」の気持ちで受け取っておく。
    さて今日は初めて騎馬を組む生徒も多い。まずは騎馬として動けるか、が最初の関門だ。だが流石にSクラスのメンバーたち。すぐにある程度慣れて動ける様になる。困ったところと言えば、後ろ脚の一本になった華恋が派手に動きすぎるのでその馬がまっすぐに走れない!というぐらいだった。
    「じゃあ、模擬戦、してみましょうか」
    弥生の掛け声で、早速お互いの鉢巻に手を伸ばす模擬戦が始まる。
    当日の競技では、他の学年や他のクラスも混ぜて行う予定なので、もっと多くの騎馬が入り乱れる乱戦になるだろう。しかし今日は数が少ないから、直ぐにぶつかっては崩れ― まるで予め決まっていたかのように、ニーナを乗せた弥生たちの馬とリオンを乗せた万博たちの馬の一騎討ちになる。
    「万博ちゃん、まっすぐ前に!」
    「りょうかーい!いくっすよー!!」
    と前のめりの勢いのまま突っ込んでくれば、
    「橘さん、右にかわして!」
    「わかりましたわ!」
    と応じる。
    上手くかわすも、リオンは全身と腕をぐいと伸ばして攻めてくる。こういう時のリオンのバランス感覚、身体を動かすセンスというのは侮れない。
    しかし、それにしても。
    「ニーナさん、こちらからも攻めないと!」
    「え、ええ。わかって、る」
    と言いつつ、返すニーナの勢いは弱い。彼女だって格闘のセンスはずば抜けているし、下の騎馬も前脚を預かる弥生の下、しっかり支えられているはずなのに。
    「ニーナちゃん、どうしたの!!」
    リオンも叫ぶ。
    「こんなの、ニーナちゃんらしくないよ!」
    「・・・・」
    いつの間にか、既に崩れた騎馬のクラスメートも遠巻きに見守り、それぞれの組の馬もバランスを取るのに専念し。
    ひたすらに手を伸ばすリオンと、それをなんとか弾いてやり過ごそうとするニーナ、二人の荒い息遣いだけがグラウンドに響いていた。
    「ニーナちゃん!!!!」
    ニーナがリオンに伸ばした手は、それこそ皆がわかるぐらい、気の入っていない緩いものだった。それをぱしっ と、掴むリオン。
    「・・・・だって・・・・」
    「・・・・だって?」
    馬上のニーナは、手を掴まれたまま、リオンに顔を背けながら、ぼつりと漏らす。
    「私たち、敵、になっちゃったのに。・・・リオンは平気、なの?」
    「・・・・え?」
    「私は白組で、リオンは紅組なのに! 平気なの!?」
    ニーナの叫びに、思わず弥生も万博も、Sクラスの皆が頭が真っ白になった瞬間。
    「ニーナちゃーーーーん!」
    掴んだ腕を引き戻す勢いで、リオンが馬から飛び、ニーナに抱き着いていった。
    「ちょっ リオンさん!」
    「う、うわああああああ」
    もちろん双方の馬が無事で済むわけはなく、突然衝撃をくらった弥生の馬も、反動をくらった万博の馬ももちろん崩れてしまい勝敗的にはドローとなったが、まあ、そんなこと誰も気にしてなかった。
    「大丈夫だよニーナちゃん! 私も、万博ちゃんも、紅組のみんなも、みんなみんな友達だよ!ライバルだけどね!」
    崩れた馬の上で。
    リオンに抱き着かれながら、ふと見た青空はとにかく澄んで、青く、高く、深かった。
    「―ええ、そうね」
    ニーナにとって、同じ年頃の少女たちとクラスでいっしょの仲間として学び暮らしていく経験は、まだ1年と半年に満たない。
    更に、様々な経験を経て、学園に残ると決めたのはまだ今年の春の事だ。
    だから―
    「・・・ふふっ 私、バカみたい?」
    視線を落とすと、今度はクラスの皆が自分たちを見ていて、なんとも言えぬ緩んだ笑顔だったので― 自然と顔が赤くなっていく。
    「・・・ニーナさん、リオンさん、早く、早く降りてくれませんこと・・・?」
    「もう、中身出るっす・・・ぎゅう」

    この一件があってからというもの。
    ニーナは元々の運動能力をいかんなく発揮、いやそれ以上に成績を伸ばすので、紅組首脳陣としてはどう彼女を押さえるか、あるいは彼女の出場種目を読んでどう捨てるか、みたいな作戦を練り始めたとか。
    リオンはといえば、こちらも思い煩う事がなくなり、今日も明るい笑顔を周囲に振りまいて皆を自然と前に引っ張っている。
    「ニーナちゃん、私、先輩たちの勧めで、応援団に入ることになったんだ!
     見て! かっこいい?」
    ちょっと丈の長い学ランを羽織った姿は、カッコいいというより可愛いとか愛らしいとか言うべき姿だったが、みんなを鼓舞し力づける応援団という役割はリオンに相応しいと思えた。
    「うん、いいんじゃない。似合ってる」
    「へへー。あくまで紅組の応援団だけど、ニーナちゃんの出る種目は、ニーナちゃんを応援するね!」
    「それはダメっす! 利敵行為でタイホっす!」
    「うわ、逃っげろ~~!」
    「待つっす~~!」

    『というわけで、妾の盟約者も、無事笑顔を取り戻したのじゃ。
     めでたしめでたし、じゃなあ』
    まさしく大輪に咲くごとく、ローザの笑顔は煌びやかに周囲を照らす。
    それを受け、
    『おお、流石は姫の盟約者たるお方』
    『同じく姫の身ながら、自ら騎馬を率いてぶつかられるとは!』
    『うむ、セプトピアの者でありながら、我らがモノリウムのロジックを体現しておられる』
    口々にローザの盟約者を称える臣下たち。
    一方少し離れた場所で。
    一連のローザのボヤキというか愚痴というかを聞かされた挙句、勝手に自己解決した結末まで聞かされてきた藤の花の姫は、もちろん塩でも舐めたような表情を浮かべていたが―
    『・・・で、いつになったらわたくしと合理体同士で戦っていただけるのです?』
    その呟きは、残念ながらローザの耳には届かないようだった。
    『今宵は宴としよう! さあ、歌じゃ!踊りじゃ!』
    『おお、これは久方ぶりに、姫の御歌が聞けますな』
    『素晴らしい、酔いしれるとしましょうぞ!』
    『ティア様もぜひ、ご一緒に楽しまれていかれるとよかろう』
    やってられるかとそっぽを向いていた藤姫ティアだったが―
    『とんでもありませんわ。
    歌は聴かされるものではありません。
    ――聴かせるものです!!』
    『よかろう! ならば妾から、まいくを奪ってみよ!』
    『いいでしょう、そこになおりなさい!!』
    とりあえず、北方果樹人の国も、今日の所は平和であるようだ。

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  • 薫花の ティア

    薫花の ティア

    藤の花の姫。とある薔薇の国の姫をライバルとしており、彼女に引けを取りたくないという負けず嫌い。
    薔薇の姫が異世界で盟約を結んだと聞きおよび、セプトピアまでやってきた。
    自分に似合う最適な盟約相手を探していたところ、ヴェロニカに玉姫との盟約を勧められ、盟約を結んだ。

     揺音 玉姫 & 薫花のティア

    玉姫 & 薫花のティア

    盟約室の中。
    視界を覆う見事な藤棚に目を奪われながら、玉姫はモノリウムの使者「薫花のティア」の身の上話に、かれこれ3時間ほど付き合っていた。
    一見、ドレスに身を包む可憐な少女に見えるが、その身を飾る薄紫の髪、蔦をもてあそぶ緑の指先、そして彼女を守り飾るように咲く藤の花が、彼女が異世界の住人であることを物語っている。

    『~~というわけで。ぜひ、この私に相応しい相手を見繕ってほしい、とそちらの局長殿に頼みました』
    彼女の語る3時間を要約すると、幼いころから「ローザ」という使者をライバル視していて、
    その彼女が少し前に盟約したらしい。彼女が盟約したいと言い出したのも、その辺りに理由がありそうだ。
    ところがこのお嬢様、自分から盟約を願ったにも関わらず、かなり好き嫌いが激しい。

    手を挙げた候補者たちを盟約室に呼びつけては、やれ「背が小さい」「高すぎる」「気品が感じられない」「声が低い」「目つきが悪い」とまあ、あれこれ難癖をつけては門前払いにしていたのだ。
    そこで、ALCAナイエン支局でも多くの盟約経験を持つ玉姫が呼ばれ、まずはティアと話をしてみよう、と言うことになった。

    ―そして今に至る。
    「ちなみに何故、盟約を望まれるのですか?」
    『良くぞ聞いてくれました!』
    飛びつかんばかりの勢いで答えるティア。
    『あれからというもの。
    ローザはしばしば宮殿を留守にしてはセプトピアの様子を見に行ったり、
    薔薇を通じて己の盟約者とやらの日々を伺ったり、まあ気もそぞろな様子で見ていられません。
    とてもとても北方花樹人の王たる責務を果たしているとは言えません。
    なので! 私が! その大任を負う覚悟で挑戦したのです!
    ―したのです、が・・・』
    (負けたんだろうな・・・)
    力が全てのモノリウムのこと、いかなる勝負が行われたのかは想像に難くない。
    ティアの悄然とした様子から、手痛い敗北の様子が伺えた。

    『そしたらあの女、言うに事欠いて
    「わらわは負けぬ。盟約の友が共にまばゆく咲く故な」
    とか言うのです。許しがたい、許しがたい!』
    「それで貴女も、盟約したい、とお考えになられたのですね」
    『別に、羨ましいとかじゃありませんから!』
    「ええ、まあ、はい。わかります、わかります」
    『聞く所によると、ローザはとある小国の姫と誼を結んだと聞きます。
    であるなら、この私にも、相応しい相手が必要なのです』
    「そうです、か・・・」
    ALCAに登録している定理者たちのなかで、王子様とかお姫様とかはいたかなーと頭の中で探し始める玉姫。
    一部の女子職員たちがジークハルト君を「王子様」と呼んでた気もしないでないが、この場合意味が違うよね―とか思っていると。
    盟約室をモニターしていたヴェロニカ局長の声が響いた。

    「ではティア様。
    その揺音玉姫はいかがですか?」
    『ほう・・・この娘が?』
    (ちょ、局長! 私聞いてません!)
    「流石に一国の王子・王女をお見合わせするのは難しいのですが、
    揺音はこのセプトピアでも由緒正しい古い都・キョウトの名家の出身です」
    (ちがいます!うちはただの医者です!)
    「それに彼女は、このALCA全てを探しても指折りの実力と経験の持ち主。
    貴女がなんらかの「力」をお求めなら、揺音は必ずやその期待に応えるでしょう」
    『なるほど。そこまで言うなら、試してみましょう』
    (・・・局長、恨みますよ・・・)
    玉姫が何もしゃべれなかったのは、盟約室の壁面モニター、ティアの背後になる位置にでかでかと【業務命令】の文字が映し出されていたからだ。

    かくして。
    「じゃじゃ馬ならし玉姫」の輝ける戦歴にまた新たな1ページが加わり、
    いよいよもって「難しい使者が来たらナイエン支局の玉姫」と皆が語るようになるのだが、正直本人は望んでいない。

    『―玉姫! 聞きましたよ!』
    「何をですか?」
    『ホッカイドウ! オビヒロ! ピラリなんとか!』
    「ああ、ピラリ学園、のことですね」
    『あのローザの盟約相手がいるピラリなんとかに、この支局から稽古をつけに行くそうではないですか!』
    「ええ、後輩たちがどれだけ育っているか、クロエたちも楽しみにしているみたい」
    『ふふふふふ・・・ これこそ天が与えた千載一遇の好機!
    あの女に、今度こそ大地の味を確かめさせてやります!』
    「・・・私たちはお留守番ですけど」
    『―おるすばん、とは?』
    「私たちはこの支局で待機です。全員行ってしまったら、何かあった時困りますから。
    あ、お土産、たくさん買ってきてもらいましょうね」
    『な、な、な、なーーーーんでじゃあああああ!!!!』
    (あ、お茶美味しい―)
    しばらく発散させておいて、疲れたころにお茶とお茶菓子を出そう、と玉姫は思った。

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  • 泡沫のシェリー

    泡沫のシェリー

    おしとやかなクラゲ娘。争う事が得意ではなく水中散歩や海底探索を好む。セプトピアの浜辺を歩いていたところをALCAの使者探知機にかかり、データーベースに登録される。その後、クロエの機転で海への憧れを契機に同じ思いに共鳴したアシュリーと盟約を結んだ

     アシュリー・ブラッドベリ & 泡沫のシェリー

    アシュリー & シェリー

    アシュリーがピラリ学園に来ることになる、数か月前のこと。

    アシュリーはクロエに誘われ水族館に来ていた。
    いつも図書館にこもりがちなアシュリーを、クロエが半ば強引に連れ出したのである。

    「すっごーい! 何アレ!」
    「ほら、クロエさん。あちらもご覧になってください。」
    「何アレ!見たことない魚!超おっきいね!リルリルと合体したときにも見たことないよー!!」
    リルリルはクロエの盟約者の一人、シャチの使者フィリルのことだ。
    「海に入れるとこんな景色が見られるんですね。うらやましいですわ。」
    そんなアシュリーの一言がクロエを本気にさせるとはその時、思ってもみなかった。

    数日後、ALCAの盟約室にヴェロニカ、クロエ、アシュリーの姿があった。
    「アシュリー、詳細はクロエから聞いた。水中戦闘可能な使者との合体を認めよう。」
    ――あれ……?私、そんなこと言ったかしら。
    「シュリリンが海に強い思いがあるって局長に伝えた甲斐があったよー!」
    ――クロエさん……。こないだの水族館の時に言ったこと、覚えてくださっていたんですね。
    とても、うれしいですわ!
    「ヴェロニカ局長。クロエさん!本当にありがとうございます!合体して海の探索をしたいですわ。是非、盟約者となっていただける方がいらっしゃるのであれば盟約したいです!でも、合体してくれる方がいらっしゃるかしら?」
    「大丈夫!リルリルに頼んどいてあげたからー!」

    そういってクロエはフォーリナーカードでフィリルにコンタクトを取る。
    「リルリルー?例の件で、盟約室に今いるのー!シェリーっちに声かけてあげてくれないかな?
    データベースに入ってるみたいだからこっちからもコンタクト入れるから!」
    『かしこまりました。今お呼びします。シェリーも楽しみにしていましたわ。』

    ほどなくして、クラゲの使者の少女が現れ、盟約室はたちまちモノリウムの海の底、
    大小さまざまな魚が大海原を行き交う様子に変化する。

    ゆらゆらとアシュリーに向き合った白髪の少女はとても神秘的なドレスをまとっており、
    思わず息をのむアシュリー。
    「私は、、、私はアシュリーと言います!あなたのお名前は?」
    少しうつむいて、恥ずかしそうに下を向く少女。はかなくも可憐な姿。

    今までのアシュリーの盟約者は癖の強いメンバーばかり。
    振り回されるばかりの毎日がつらくもあり、楽しくもあった。
    そんな彼らとは全く異なる雰囲気の使者に、アシュリーは、相手が女の子という事も忘れ、恋に近い感情を抱いていた。
    「お名前を知りたいの。教えてほしいですわ。」
    『私は……、シェリー……。』
    ぽつりとつぶやく。
    『あなたは……、とても暖かい……やさしい声……。』
    アシュリーは、声をほめられて顔を赤らめながらもうれしさを隠しきれない。
    「ありがとう、ですわ。」

    アシュリーとシェリーの二人の会話は、ぽつりぽつりと口数は多くなかったが、
    お互いの言葉が共鳴しているかのように、盟約室が光り輝き始める。
    『セプトピア……って…どんな場所……?きらきらしてる……?』
    「セプトピアはとても美しい世界ですわ。」
    なにか、特別な会話をしているわけでもない、
    しかし、お互いに相手がなにを言おうとしているかが手に取るようにわかる。
    そんな感覚が二人を包んでいた。

    『もっと知りたい……、アシュリーの世界……。』
    「……もちろんですわ」

    「盟約完了だな。では、さっそく、アシュリーにはしばらく海浜警備全般を担当してもらう。
    今回の配備は毎日早朝3時からの勤務となるから注意するように。
    クロエに担当してもらおうと思っていたが、アシュリーに任せよう!」
    そう言い残し部屋を出ていくヴェロニカ。

    「クロエさん。海浜警備ってどういうことですの!?しかも早朝3時って、早すぎますわ!」
    「シュリリン、海に入りたそうだったしー、盟約者も見つかったしよかったじゃん!」
    ――きっと、朝早く起きたくなかっただけですわ!
    「海浜警備なんて言ってないですよ!クーローエーさーん!!!!」
    「いいじゃんいいじゃん!今度一緒に海遊びに行こうよー!」
    まったくこの人は!そう思いながらも思わず微笑むアシュリーの手元でフォーリナーカードが応えるようにきらきら光っていた。

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  • 綿毛のワッフル

    綿毛のワッフル

    家族と元気いっぱい生活していた、チンチラの獣人少女。
    遊んでいるうちに一人はぐれてしまい、人間の住む世界まで
    偶然来てしまっていた。
    たまたま出会ったリオンに帰る手伝いをしてもらい、帰る際に
    もっと一緒に遊びたいとリオンと盟約を結ぶ。

     リオネス・エリストラーヴァ & 綿毛のワッフル

    リオネス・エリストラーヴァ & ワッフル

    「「「可愛い~!」」」
    可愛い動物たちの動画を観て、思わず歓声が上がる。
    それは定理者の素質を持つ少女たち、ピラリ学園1年Sクラスのクラスメートたちでも変わらない。
    「これ! この動物、なんて言うの?」
    「うーん 毛むくじゃらで丸くて素早くて― でもモルモットよりは大きいですわね。
    耳もカールしていて特徴的ですが― 可愛いですわね」
    「どれどれ~ むむむむ~なるほどわかったっす!これはチンチラっすね!」
    「チンチラ? 確か猫にもそんな名前がありましたわね」
    「こっちのチンチラは、ネズミの仲間、げっ歯類っすね。チリ原産の固有種で~」

    万博が検索した結果を読み上げるのを、リオンは実のところ途中から全く聞いていなかった。画面の中で動き回る小動物をじーっ と見ている。
    「-リオンさん、何か気になることがあるの?」
    「うん、ニーナちゃん。ちょっと― どっかで見たことがあるような―」

    ・・・・

    「思い出した! あの子だ!」
    それはつい昨日のこと。
    山の神社の方に散歩に出たリオンは、山道の途中で、可愛らしい小さな子供に出会ったのだ。
    ふわふわのファーが付いた上着が良く似合うその子は、とても元気で人懐こく、リオンともすぐに仲良くなり、日が暮れるまで山の中を二人で走り回って遊んだのだと言う。

    「なんでこのチンチラを見て、その子を思い出しますの?」
    「なんでかな・・・ ! わかった!耳だ!」
    「耳?」
    「その子にもね、こんなくるっとした耳がついてた!」
    といって頭の上に手をやるリオン。
    「・・・・頭の上に、耳?」
    「主さま、これはひょっとすると―」
    「―使者、かもしれないわね」
    「つまりこのあたしの出番っすね!」
    と言って取り出したフォーリナーレーダーを見て、皆が少しゲンナリしたのは言うまでもない。

    かくして、早速委員長弥生を中心に使者捜索隊が結成。
    放課後、山の神社の方へと歩いていく。
    「でも、今日もいるとは限らないんじゃない?」
    「ううん、その子ね、昨日お別れするとき、『また遊んでくれる?約束だお?』って言ったんだ。
    だからね、きっと、待ってる。そんな気がする」

    プー、と気の抜けたような例のブザー音。
    「どうやら、リオンが正しいみたいっすよ」
    万博がレーダーを向けた山道の先に、その子はいた。
    『りおんちゃん! また遊んでくれるんだお?』
    「うん! ワッフルちゃん、今日はお友達をたくさん連れてきたよ!」
    『わっはははーい!』
    「初めまして、ワッフルさん。私は橘弥生、麓にあるピラリ学園1年Sクラスの―がふっ」
    弥生の自己紹介は言い終えることができなかった。ワッフルが体当たりの様に飛び込んできたからだ。
    『何して遊ぶ?何して遊ぶ?何して遊ぶんだおー!?』
    「主さま!」
    「こら~ 主さまにひどいことすると~」
    「「許さない!」」
    華凛と華恋がワッフルを取り押さえようと飛び掛かる。
    二人はこう見えて橘家に仕えるシノビの者、合体前の運動能力ならクラスでも随一、
    のはずだが―

    『わはははーい! 最初は鬼ごっこかお?』
    手の中をするりとすり抜けると、道のわき、木々の間へと消えていく。
    「待ちなさい!」「待て~ こら~!」
    追っていく二人の背中が小さくなる前に、なんとか復帰した弥生は、
    「万博さん、レーダー! リオンさん、私たちも追いましょう!」
    「おっけー! 新開発の“どこでも追いかける君V3”が役立つときが来たっすね!」
    「よーし、私も負けないよー!」
    ・・・・
    「-え?」
    嵐の様な一瞬のあと。皆が放り出した荷物と共に、ニーナが置いていかれていた。

    結局その後。
    鬼ごっこに始まり、影ふみ、手つなぎ鬼、だるまさんがころんだ等々、また日が暮れるまで、少女たちは遊びに遊んだ。
    最初は「本当に使者だったら?」とか「どこの異世界から?」とか「この場合の正しいコンタクトルールは」とか言っていた皆々だったが、全身を使って駆け回り、全力で遊んでいるうちに、どうでもよくなっていた。

    そして、日は暮れる。
    『・・・・りおんちゃん、やよいちゃん、まひろちゃん、かりんちゃん、かれんちゃん、にーなちゃん、みんなもう帰っちゃうのかお?』
    「ワッフルちゃん、もうすぐ夜になっちゃうよ」
    「夜は危ないわ」
    「ワッフルさん、あなたもお家にお帰りなさい、お父さんは?お母さんは?」
    そう言われたワッフルは。
    つぶらな瞳に大きな涙を浮かべた。
    『帰れないお! おうち、わかんないんだお!』
    「やっぱり、迷い込んだ使者だったのですね」
    「学園に戻ってALCAに連絡すれば、帰るゲートも開けるはずっす。安心するっすよ」

    しかし。
    『いやだお! 帰らないお! まだまだみんなと遊んでいたいんだおおお!』
    駄々をこね始めた子供に、思わず肩をすくめる少女たち。
    その中からひとり、リオンがそっと手を伸ばした。
    「わかった、ワッフルちゃん。私と、盟約しよう」
    『めーやく?』
    「うん。そうすれば、いつでも私たちと会える」
    『めーやくしたら、りおんちゃんともっと、もっとあそんでいられるお?』
    話はこうしてまとまった。
    『わかっただお! じゃあわっふる、りおんちゃんとめーやくするだお!』

    それから数日。
    ピラリ学園の模擬戦場に1年Sクラスの少女たちが集まり、
    それを担任の神楽と副担任の藤崎が見ていた。
    「これは・・・思った以上ですね」
    「うむ・・・」
    幼いころから「あの」父親のトレーニングで育てられたリオンは、
    「小国のお姫様」の肩書とは裏腹に、純粋な体力・運動能力、ついでにサバイバル能力がクラスでもずば抜けている。
    それに、天真爛漫で屈託のない彼女の心理傾向も、野生に生きるモノリウムの使者たちとは、相当に相性がいい。

    「それはもちろん、使者側のロジックを受け入れすぎてしまう事にも繋がるが」
    「心配、ですね」
    「だがー」

    「うっははははー!
    たっのしいだおーーーー!!!」
    「ちょ、リオンさんー!」
    リオンの方は、体が動くのに任せて模擬戦場を駆けずり回っているだけだろう。
    だがそのスピードはもの凄い。
    それも、直線的な動きではなく、思いつくままに右へ左へはたまた上へ下へと
    壁を蹴ったりジャンプしたり不規則に動き回るものだから―

    「すごいっすー やっちゃんが完全に見失ってるっすー」
    「好きにはさせませんわよ! 如意棒!」
    伸縮自在の如意金箍棒、これを長く伸ばし、いずれの方向から来ても良いように油断なく構える弥生。
    「いっくだおー!」
    「ふっ! やらせませんわ!」
    飛び込んでくるリオンに、流石のカウンターを合わせていく。
    合体相手の七宝が積んだ功夫四千年の重みは、伊達ではない。

    「はあっ!」
    気合を込めて突き込む如意棒―が。
    「だおーーーー!」
    打撃をかわし、そのままひらりと棒に乗ったリオンが体ごとぶつかってきて、弥生の防御シールドはあっけなく砕けた。
    勝負が決したことを告げるブザーと共に、バリアーが解除されていく。

    「わ、わ~~~ 頭ぐるぐるする~~」
    「アイタタタ・・・頭から突っ込んでくるからですわ! 武器があるんだから武器を使いなさい!」
    「リオン― ちょっと、ちょーっとそのワッフルの体、調べさせてほしいっすー!」
    「万博さん、次は私との試合よ。準備、お願いします」
    「えー ちょっと、ちょっとでいいっすからー」
    「ダメ」
    「そうですわ万博さん、あなたも少しニーナさんに鍛えなおしてもらった方がいいと思います!」
    「そーんなー!」
    「次はニーナちゃんとなの?いいなー 万博ちゃんもがんばってねー!」

    「-やれやれ。藤崎、これは相当、手がかかりそうだぞ?」
    「先輩、それにしては、なんだか嬉しそうですよ?」

    苦笑する神楽たちが見守る中、Sクラスのひなたちは今日もすくすく育っている。

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  • 海颯の ウィーゴ

    海颯の ウィーゴ

    ペンギンの格闘家。強さをまっすぐ求め、常に強くあろうとする。
    装備した手甲の正拳突きは岩をも砕く。首に巻いている赤いマフラーは師匠から譲り受けたもの。自分より強い者にはすぐに強さを認め、何が自分に足りないのかを顧みる。
    たまたまセプトピアの学の自室に迷い込むが、学のただならぬ強さを感じて弟子入りを志願することになる。

     明日葉 学 & 海颯のウィーゴ

    明日葉 学 & 海颯のウィーゴ

    定理者は使者を自ら引き寄せることが多い。そんな逸話がある。

    ALCAナイエン支局―学自室、ある朝のこと

    目を覚まして学は違和感に気付いた。
    ――なにか自分のベッドの中にいる――

    今の学の部屋は個室だったし、昨夜床に就いた時は一人だった。
    時々、クロエが「マナマナ!一緒に寝よー!」とかなんとか言って自室に上がり込んで来る時もあるけれど、今日にかぎってはそんなこともなかった。
    寝ながら、自分のシーツの中で恐る恐る手で探ってみると、柔らかい感触に触れた。

    「何これ……!」
    驚いて手を引っ込める。
    異物の正体を確かめるべく、ベッドから飛び起きて、
    シーツをめくってみるとそこには大きなペンギンのぬいぐるみがあった。
    「ペンギン……!?」
    愛らしいぽっこりしたお腹に、よく見るとマフラーを巻いている。
    (きっと、クロエが驚かせようとして私のベッドに入れたんだ)
    くすりと微笑んで、学はそのぬいぐるみを撫でる。
    (かわいい)
    「すーすーすー」
    何故か、そのペンギンのぬいぐるみから寝息が漏れている。
    (もしかして……これ、生きてる!?)
    「すーすーすー」
    驚いた学は一気にベッドから後ずさり、机の角で足をぶつけた。
    ドカッと大きな音がして、そのペンギンが目を開けた。
    「痛っ」
    「ん……なんだここは……、お、おい!だれだお前は!?」
    そういってペンギンは飛び起きて拳を両手に構えた。
    「私の部屋、むしろあなたこそ…」
    学が答える間もなく、そのペンギンはジャンプし、学に掌底を放つ。
    ペチ。
    「どうでもいい、寝込みを襲うとはいい度胸だ!はっ、とうっ、」
    ペチ、ペチペチ
    とそのペンギンから学に痛くもかゆくもない連続攻撃が飛んでくる。
    「やるな、なかなかの耐久力だ。これでどうだ!」
    ペチン!
    「いたっ!」
    しっぺをお見舞いされたような微かな痛みが学を怒らせた。
    「止めて!」
    そう言って学はペンギンを手でつかみ、ベッドに放り投げた。
    「おいっ、おいっ、やめろ!わーーーーーー」
    そう言いながらペンギンはベッドに放り投げられ、コロコロとシーツの上を転がっていった。
    「参った参った!お前が強いのは俺が認める。俺の名前は海颯のウィーゴだ。」
    「学。私の名前。あなたは、使者……?」
    「なんだその『使者』というのは……?」

    暫くウィーゴの話を聞いてみると、モノリウムの氷河エリアのクレバスから落下して
    意識を失って気づいたら学のベッドで寝ていたこと。
    そしてここが異世界であることに驚いていること。
    さらに、本当の自分はモノリウムの氷河エリアでは随一の拳闘家であることを、本気にしない学に対して何度も語った。

    「わかった。」
    「本当だな?故郷の俺は強い。だが、奢りはない。この世界ではお前の方が強い。」
    「帰り方を教える。一緒に来て。」
    「ちょっと待て。この世界で強くなったら、故郷でもっと俺は強くなれる。そんな気がするんだ。」
    「そうかもね。」
    「学といったな、頼みがある。」
    「何?」
    「俺を鍛えてくれ。お前は、俺の勘だが、相当な修羅場をくぐってきているな。」

    当惑する学。人を鍛えるなんてことはしたことがなかったし、その相手がペンギンのぬいぐるみ、もといペンギンの使者だったからだ。
    暫く考えこんだ学の口から出た言葉は本人にとっても意外なものだった。
    「いいよ。」
    「本当か!?恩に着る。しばらくここに居候させてくれ。」
    「わかった。」

    後日玉姫はその時の話を微笑みながらクロエにこう話す。
    「『弟ができたみたいだった。』学、そう言ってた。」
    「マナマナと一緒にペンギンがついて回ってるのチョー可愛んだよねー!」
    「本当。でも、なんとなく学も楽しそう。」
    「そーそー!多分あの二人相性いいんじゃないかな!」
    学について回るウィーゴはとても愛らしく、ナイエン支局でも注目の的だった。
    一方のウィーゴ本人は至ってまじめだったし、学もウィーゴを抱っこして歩いたり真面目に話を聞いたり。ときどき単純に可愛がっているだけに見えるが二人の仲のよさそうなところはだれの目にも明らかだった。
    ウィーゴが合体や盟約の仕組みを知ったときには、「これで学に俺の強さを見せられる。」
    と嬉しそうに語っていた。

    一度、海に迷い込んだ凶暴なモノリウムの使者に対して、学はなんの躊躇いもなくウィーゴを選び合体して使者と対峙したことがあった。

    『学、突っ込みすぎだ。こいつは強いぞ。』
    「水中なら、本気出せばアルテミスの銃弾よりも早く動けるから。」
    『コントロールだけは気をつけろよ。』
    「わかってるって。」
    海中にも関わらず、一瞬で敵の巨大な体躯に入り込み、手甲からすさまじい数の打撃を打ち放ち、海上に使者が打ち上げられるまで数分とかからなかった。
    『流石だな。また、いつでも助けが必要だったら俺を呼べ。』
    「助けが必要じゃなくても呼ぶ。」
    『まったく、しょうがねえな。たまには一人で寝やがれ。』

    1人と1匹はまるで姉弟のようだった。

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  • 清純の ニコ

    清純の ニコ

    モノリウムのとある秘境に住む、一角獣の少女。その角には、異世界でも稀な癒しの力を秘めている。

     揺音玉姫 & 清純の ニコ

    揺音 玉姫 & 清純の ニコ

    「揺音、明日葉、行ってくれるか」
    ALCAナイエン支局、リーダーのオルガ・ブレイクチャイルド。その判断は早かった。
    しばらく無かった、大型の逆理領域の展開。
    2体の使者による同時襲来、さらに固有能力によるものと思われる異常気象。
    「でも…いいの?」
    「構わない。ゼラ?」
    以前から戦術部主任を務めるゼラは、
    「万一ナイエン区側で襲来事件が発生しても、クロエと縁がいる。大丈夫だ」
    と太鼓判を押す。分析官のピエリに視線を移せば、
    「キョウトに現れた2体の使者は、単体ならパラドクスレベル3程度と観測されています。
    しかし2体が相乗効果でその影響を広げているため、単純観測では自乗のレベル9、
    という意見も出ています」
    「それってルシフェル事変並みじゃないですか!  ・・・あっ」
    思わず声を出しながらも、失言に気づいて口をつぐむのが管理官のクラウ。
    「いいんだクラウ。移動の手配は?」
    「は、はい、既にALCAの緊急権限でトウキョウ‐キョウト間の路線を確保しました。
    緊急車両もスタンバイまであと10分とのことです」
    「リニアで1時間。すぐに行け。そして―」

    緊急輸送専用のリニア車両に学と乗り込みながら、玉姫はオルガの最後の言葉を思い返していた。
    「そしてできるなら、早く、早く解決してくれ」
    今、世界は使者襲来からやっと解放されたばかりだ。
    ここで再び大きな事件が起きれば、世の中は再び、使者襲来への恐怖から定理者たちを戦いの備えに駆り立てるだろう。
    玉姫自身は、そのことを受け入れてきた人間ではある。
    が、同僚の七星縁の様に、本来やりたい事・今やっていることを強制的に取り上げて戦いに備えさせるのが、決して良い事とは思っていない。
    早く解決しなければ。
    その思いが、思わずフォーリナーカードを収めたケースを握りしめさせる。
    「…それ、新しい子?」
    それを見た隣席の学が、気を紛らわせるためか、そんなことを聞いてくる。
    昔は口を開くこと自体珍しかったのに、ずいぶんと変わったものだと思う。
    「うん、ニコ。モノリウムの子で、清純のニコって言うの」

    話は数週間前に戻る。
    ナイエン区の玉姫と言えば、「じゃじゃ馬慣らしの玉姫」としてALCAにその名は鳴り響いている。
    ジスフィアの竜媛皇珠 小玲を始め、トリトミーのシグマ・ブラスター010やジスフィアの薫花のティア。
    扱いの難しい使者と次々盟約を結んでおり、盟約者の数ではALCAでもトップクラス。
    現在交流のある全ての異世界の使者と付き合いがあり、能力もバラエティに富む。
    ハッキリ言って、世界のALCA各局を見渡しても、そんな定理者はそうはいない。
    「……」
    にも関わらず。
    このところ玉姫は、時間を作っては支局のデータベースを漁ったり、
    あるいは使者たちに話を聞いたりして、「新たな別の使者」を探していた。
    ―すると。
    『玉姫、私では力不足だと言うのですか?』
    いつの間にか、豊かな巻き毛の少女が傍らに立っていた。
    「そうじゃないのよ、ティア」
    『何が違うというのです!』
    愛らしく高貴に整った顔立ちの彼女だから、怒るとなかなかに迫力がある。
    薫花のティアはモノリウムの使者だ。
    モノリウムは力のロジックが全てを決める世界。
    それに、彼女はそもそも、ライバル(と彼女が思い込んでいる)の使者と対決し乗り越えるため玉姫と盟約したという成り行きがある。
    自分の力が足りぬ、と判断されるなど、認められないのだろう。
    「あなたの力は私が一番わかってるわ」
    実際、ティアと合体した玉姫は、モノリウムらしい運動能力・生命力の向上のうえに、藤の蔓を自在に操る力を使い、更に活躍を広げている。
    「でも、あなたにもできないことがあるでしょう?」
    『私にできないことなんて・・・!』
    ティアはちょっと早合点がすぎるところや思い込みの過ぎるところがあるが、けっして愚かな子ではない。
    玉姫の表情を見て、それを悟る。
    『あの時は・・・力になれず、すまなかったわ』
    かぶりを振る玉姫。
    「別に、ティアのせいじゃないもの」
    あのジゼル・サンダースのロジックカードが破損した事件で。
    玉姫は強力な治癒の力をもつテトラヘヴンのヴィーナス、そしてトリトミーのキュア・メディスン119を盟約者に持ちながら、結局何もできなかった。
    「傷つく人たちを救いたい。
    逆理病や使者の襲来に悩まされる人を救う。
    それこそが私の願いだし、
    ううん、正直なことを言うと、私が一番うまくやれる。
    そんな自信だってあったのだけど・・・」
    と、背中からぎゅっと抱きしめられる感触。
    この暖かさと豊かさ、いっそこのまま眠ってしまいそうな心地よさと言えば―
    『ふふっ 玉姫ったら、ずいぶんお姉さんになったのね』
    「もう、ヴィーナス、からかわないで・・・」
    玉姫を豊かな胸元に収めて離さない、妙齢の美女はヴィーナス。
    テトラヘヴンの愛の女神であり、こうしてセプトピアに適応してもその愛らしさ、そして周囲に振りまく過剰な愛情表現は相変わらずだ。
    恥ずかしさからとがめる様に言う玉姫の台詞も、彼女の胸の中では勢いを失ってしまう。
    『自分に出来る事と、出来ない事。
    それがあるってわかるのは、人として大きな成長よ?』
    そしてそのまま、ティアへと目をやると
    『だからティアちゃんも、出来ることがあったら、力を貸してくれると嬉しいな?』
    『・・・』
    ティアの胸のうちで、どんなやり取りが成されたかはわからない。
    だが相当な葛藤があったらしいことは、その表情から見て取れる。
    「―ティア?」
    『わかった。わかったから。私がなんとか、してあげるから』
    「え?」
    『だから― そんな顔をしないでくれる?
    貴女は、この薫花のティアの、盟約者なんですから』

    そんなやりとりの後。
    ティアが自分の世界で、どれだけ周囲に掛け合ったかはわからない。
    相当な苦労が察せられた。
    そもそも、自分の「力」を貴ぶモノリウムという世界で、他者を頼るという行為がどれだけロジックに反しているかは、想像するしかない。
    だがティアは連れてきた。
    モノリウムの、とある草原の果て。
    緑の海の彼方に住むという、ユニコーンの一族。その一人を。
    清純のニコ。
    揺音玉姫の、また新たな盟約者となる少女であった。

    キョウトに到着後、キョウト支局の定理者・五条奏と合流した二人は、そのまま街の人々が避難しているエリアに向かう。
    聞けば、玉姫の妹・聖那が相棒のジゼルと共に今回の事態を引き起こしている使者を撃退に向かっているという。
    そちらに向かいたい気持ちをぐっと抑えて―
    「-学、頼める?」
    「わかった」
    その一言で、光るマフラーを翻し学が走り出す。
    その背中を見送りながら、
    「ありがとう、玉姫さん。
    でも安心してください。ウチのリーダーも、結構やる時はやるんですよ。
    来てるのはどうもジスフィアの使者らしいし、
    だったら私たち、キョウトが一番わかってますからね。
    ちゃんと罠も張りましたから、もしかしたら今頃、もう倒しちゃってるかも」
    「ええ、そうね。だから、私もできることをしなくちゃ」
    「はい、お願いします」

    既に逆理領域から運び出された逆理病の患者たちが、避難所の床に並べられている。
    およそ50人ほどだろうか。体のところどころがモザイク状になり、ロジックの喪失をうかがわせる。
    「既に損傷ロジックの回収は済んでいますが、身体への吸収と定着が追い付いてません」
    「わかった。任せて」
    ひとつ息を吸うと、高々とフォーリナーカードを掲げて叫ぶ。
    「ゲートアクセス・モノリウム!」
    生命の樹を模した樹状魔法陣が輝き、彼方から光の珠に包まれて一人の少女が現れる。
    『たまきー!』
    見たところ、まだ5歳ぐらいだろうか?
    元気いっぱいに駆けてくる、でも時折ちょっとつんのめるような様子がまた愛らしい。
    うすく紫に輝く尻尾と、頭の上からつんと突き出した角が、彼女が人の子でないことを教えてくれる。
    「ニコ、いっしょに、がんばってくれる?」
    『うん、にこ、たまきといっしょにがんばるー!』

    光が収まったとき、玉姫は清純のニコとのトランスチェンジを終えていた。
    頭にはニコのものと同じ、ユニコーンの白く輝く角。
    おなじ色で輝く槍を掲げ、高らかに唱える。

    「『ロジックドライブ!!』」

    玉姫の角と槍が共鳴し、周囲に七色の光を放っていく。
    虹にも似た光が横たえられた患者たちを包んでいくと―
    「!」
    体のそこかしこを蝕むモザイク状のロジック障害が消え、
    苦しんでいた人も穏やかな寝息を立てていくではないか。

    「・・・すごい・・・」
    数々の現場に立ち会ってきた奏だからこそわかる、ロジック障害をも修復する癒しの光。
    これこそは、「力」のロジックに従い壮大なる生命が輝く世界・モノリウムに伝わる究極の癒しの力、ユニコーンの角に秘められた力である。
    「奏さん、次の避難所へ行きましょう」
    「は、はい!」
    次の場所へと先導する奏の背中を追いながら、玉姫は自分の手にした力の手ごたえを感じていた。

    (この、この力ならきっと、喪われたロジックも!)

    だが今は、キョウトの人々を一人でも多く救う時。
    胸に思いを秘めつつ、玉姫は走った。

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  • 月影の ロウ

    月影の ロウ

    モノリウムから興味本位でセプトピアに来た、フクロウ族の女性。
    穏やかでミステリアスな雰囲気を持つが、優秀なハンターでもある。
    ミミズクに適応してモノリウムの空を旅していたが、嵐に巻き込まれ墜落。
    怪我をして動けなくなっているところを、学に助けられる。

     明日葉 学 & 月影の ロウ

    明日葉 学 & 月影の ロウ

    学の首に巻かれた光るマフラーは、合体したアルテミスの能力の一部である。
    学の意志によって自在に動き、必要に応じ壁面を登るためのアンカーやロープにもなる。
    マフラーを助けにしながら、壁面のハシゴやパイプを手掛かり足掛かりに、宙を跳ねるように駆ける。
    あっという間に高層ビルの屋上まで駆け登った学は、スナイパーの性か、さっと周囲を確認。
    さらに高所から状況を伺う。
    しかし。
    「―アルテミス?」
    『ええ。宴の主人は場を辞した様ですね』
    ―空気が変わった。
    もう雷の音も嵐のうなりも聞こえず、空の黒雲が流れ、光が差し込んで来ていた。
    そして玉姫から通信が入ってきた。
    「……うん、わかった」
    どうも、玉姫の妹・キョウト支局の聖那と相棒のジゼルがうまいこと問題の使者を撃退したらしい。しかし使者は適応体となって逃亡したらしく、まだ確保に至っていないという。
    「アルテミス、行くよ」
    『貴女の願いのままに』

    再び光るマフラーを打ちこみつつ、地上へと跳ねる様に降りていく。
    時に住宅の屋根、時にベランダの端を蹴りながら、周囲に油断なく目を配っていく。
    「―この地区に不審な姿はない。他の地区に回る」
    「了解、気を付けて」
    玉姫と短い通信を交わすと、次の地区へ。
    だが怪しい姿を発見することはできなかった。

    そこで、何か情報がつかめるかもと思い、近くの避難所へ足を向ける。
    合体を解き、アルテミスをいったんフォーリナーカードで異世界テトラヘヴンへと戻す。
    学の後見人として、セプトピアで暮らしていることの方が多い彼女だが、今は万一に備え、いったん故郷で力を蓄えてもらった方がいいと判断。
    すると別のフォーリナーカードが輝き、光の中から今度は一抱えほどのサイズのぬいぐるみ、もとい、青と白の羽毛に包まれたペンギンが現れた。
    学の盟約者のひとり、モノリウムから来た海颯のウィーゴである。
    「ウィーゴ?」
    『状況はわかっている。まだ付近に危険な使者がうろついているかもしれないのだろう?
    安心しろ、学は俺が守ってやる』
    どうやらボディーガードを買って出てくれたらしい。
    断る理由もなく、学はそのまま避難所のゲートをくぐる。
    その後ろを、赤いマフラーを巻いたペンギンが、ぺったぺったと続く。
    すると。

    「うわぁあああ ペンギンさんだー!」
    「かわいいー!」
    「もこもこー」
    「ふわふわー」

    避難所には、付近の幼稚園に通う子供たちがそのまま避難してきていた。
    以前から度々あったこととはいえ、避難所内の空気と、大人たちの深刻な様子、そして時折聞こえてきた雷と嵐の轟音は、子供たちを脅え縮みこませていた。

    そこに、可愛らしいペンギンが現れたのだ。
    親や先生が止める間もあらばこそ、あっという間にウィーゴはもみくちゃにされる。

    『う、うわああああああ、お、お前たち落ち着け、こら、やめろおおおお』

    ペンギンは寒い海での生活に特化するため、翼は1枚のオールの様な形状へ進化した。
    このひれ状になった翼を「フリッパー」という。
    フリッパーは鋭く水を打ち、飛ぶがごとく海中を泳ぐ、その推進力を産み出す。相当な筋力を備えているのだ。
    さらに、モノリウムの拳法家である海颯のウィーゴにとってこのフリッパーは、鍛え抜かれた武器であり気合を込めて振り下ろせば、岩をも砕く自信がある。(セプトピアではまだ、試したことがない)
    しかし。
    このまとわりつく子供たちの頭に、フリッパーを振り下ろすわけにはいかないではないか。

    『-学、学、おい、早く、助けてくれー!』

    学としてもお気に入りのぬいぐるみ、もとい、盟約者であるウィーゴが子供たちにもみくちゃにされているのは、自分のモノを奪われたようで嬉しくはないが―

    「-がんばれ」

    子供たちが歓声を挙げて喜び微笑んでいる姿、それを見てその親たちが微笑んでいる姿、さらにその笑顔が周囲に伝染していく様子を見ると、今取り上げるのは酷な様な気がした。

    『お、おい、そんな殺生な、ちょ、おま』
    「うわぁあああああい」
    「かわいいー!」
    「もこもこー」
    「ふわふわー」

    聞こえたかどうかわからないが、「健闘を祈る」と伝えて学はALCAの職員の下へ足を進めた。
    さて職員の話によると、付近で大きなミミズクの目撃情報があるという。
    キョウトにも野生のフクロウはいると思うが、昼間に街の中にいるのは、ちょっと珍しい。
    子供たちにたっぷり遊んでもらい(もみくちゃにされただけだ!とは本人の弁)へとへとのウィーゴを連れ、目撃されたという公園の方に向かう。

    いつもは子供たちや親子連れで賑わっているであろう公園が、人ひとりいない様子はなんとも悲しく寂しいものだ。
    以前はたいして気にもしなかった学だが、過去の事件を通じ、命を大切にすること・生きて全うすることの意味を教えてもらって以来、人と人のつながりには少し気を惹かれるものがある。
    (だからこの場所は大切……きっと)
    思わず握った拳に力の入る彼女の袖を、ウィーゴが引いた。
    『おい、あそこだ』
    見れば、公園の木の一本、その根元に寄り掛かるように、大きな鳥が倒れている。
    正面を向いた顔に、特徴的な羽角。ミミズクだ。
    駆け寄って抱き上げてやると、気を失っているのか目は開かないが、苦し気な鳴き声がもれる。
    『……学、こりゃ俺と同じ匂いがするぜ?』
    「うん」

    キョウト支局に連絡を入れトランスポーターを回してもらった学は、保護したミミズクを抱え、そのまま支局の盟約室へと向かった。
    『俺のカンが当たりなら、モノリウムの元体に戻してやった方が、傷の治りは早いぜ』
    職員から借りた応急手当キットを傍に置きつつ、フォーリナーカードを掲げる。
    「ゲートアクセス、モノリウム」
    学の声に応じて、超自然世界・モノリウムへのゲートが開く。
    モノリウムの青白い月の光が照らすなか、ミミズクはみるみる元の姿―モノリウムの獣人としての姿を取り戻していく。
    『そうじゃねぇかなとは思っていたが―』
    すらりとした長身の、若い女性の姿。
    やや浅黒い肌に、灰白色に縞の入った髪。
    露出の多い服装は、緑や赤の帯で縁取られエキゾチックな魅力を出している。
    一見、野性的な民族衣装のダンサーにも見える彼女だが、背中側の腰のあたりから生えた大きな翼が、人ならざる身であることをはっきり主張している。
    『こいつは珍しい。フクロウ族だぜ』
    ゆっくり目を開いていく。どうやら気が付いたらしい。
    「―大丈夫?」
    『・・・ここは、モノリウム?』
    「違う。でも、近い」
    学とウィーゴが見守る中、彼女は周囲を見回し、そして―
    『ヒト! それに、ペンギン!!』
    『おう、俺サマは海颯のウィーゴ。北厳海の鉄拳たぁ俺のことよ。
    そしてこっちが、アンタを助けたセプトピアの定理者、俺の盟約者の学だ』
    「よろしく」
    『・・・ええ、ありがとう・・・痛っ』
    『おう、ドコが痛いか言ってくれ。簡単な治療はできるからよ!』
    「見せて」

    かくして、このモノリウムのフクロウ族の女性は、学とウィーゴの治療を受けながら、少しずつ自分の事、これまでの事を話し始めた。
    『私は、月影のロウ、と言う。ただの風来坊だよ。
    元々わたしは、風の吹くまま気の向くまま、旅をしていたのだけど―』
    モノリウムの各地を放浪していたロウだったが、ある時、セプトピアへのゲートが開いた際、その一団に混ざってセプトピアに渡ったのだ、という。
    『こちらに来たのもなんとなく、だったのだけどね』
    セプトピアに渡ったロウの体は、セプトピアのロジックに適応し大柄のミミズクになった。
    最初は戸惑ったものの、彼女にとって空を飛ぶことは地上を走るより容易い。
    新しい体のバランスにもすぐに慣れ、セプトピアの空を自在に飛ぶことができたという。
    そしてしばらくは、セプトピアでの旅暮らしを楽しんでいた。
    しかし。
    『あの突然の嵐には、驚いた』
    折悪しく、キョウト付近の森を飛んでいた所、
    今回の鳴神と玉風が起こした事件に巻き込まれたらしい。
    『お恥ずかしい。枝に掴まろうとしたところを、あおられてこのザマさ』
    といって自嘲するのを、学はかぶりを振って否定した。
    「あの嵐はジスフィアの風神が起こした嵐。しかたない」
    『そうだ、気にするこたぁないぜ!』
    「ウィーゴだって無理だった」
    『ああ、俺にだってあの嵐は― って学!俺はそもそも飛べねぇよ!』
    「うん、知ってた」
    そんなやりとりを見て、初めてロウの顔に自嘲ではない本当の微笑みが浮かんだ。
    『定理者と使者というのは・・・噂には聞いていたが、仲の良いものなのだね』
    『ああ!俺たち盟約者同士の仲ってのは』
    反らすぐらい胸を張るウィーゴを背中から学がぎゅむと抱きしめる。
    「うん、なかなか」
    『お、おい、だからむぎゅう』
    『―長いこと独りで旅してきたからね、眩しいね。そういうのも』
    「ロウも、盟約してみる? 誰かと」
    『いやぁ、私なんかは・・・
     いろいろなしがらみに捕らわれるのが嫌で、
    ろくに目当ても無く放浪していたような私だ。とても務まらないよ』
    「そう」
    応急処置を済ませた学は、それ以上無理強いはしなかった。

    その後、怪我が治り飛べるようになるまで、当面ロウの身柄は学が預かることになった。
    かつてのナイエン支局の問題児も、今や立派なベテラン定理者である。
    『未知の領域に漕ぎ出す船。新たな航海の始まりに、皆の祝福を』
    つまり皆で見守り、支えてあげて欲しい、ということらしい。
    アルテミスを始め、星や冥、ウィーゴという盟約者たち。
    あるいは玉姫やクロエ、そして縁といった同僚の定理者たち。
    オルガやヴェロニカ、他にALCAのスタッフたちも、
    ちょっと言葉足らずで顔色の読みにくい、
    だが少しずつ、少しずつ感情が豊かになっていく学がロウの面倒をみているのを、心配し、応援していた。

    『いろいろ手間をかけた。ありがとう。
     何か、私に礼をさせてもらえないだろうか』
    「―いらない」
    『しかし…』
    「リーダーが言ってた。
    人と神―使者が共存しちゃいけない、なんて、誰が決めた事でもない。
    そう、オルガに教えられたって」
    ロウの怪我はすっかり癒えて、モノリウムへと戻ることになった。
    盟約室でゲートを開くと、またあの時の様に、青い月が輝いている。
    「仲良くできるなら、その方が、いい。
    だから、こうした」
    『そうか』
    大きな翼を広げ、軽くはばたくと、ふわり体が浮かびあがる。
    ロウの姿を見上げながら、学がぽつりと尋ねた。
    「―空を飛ぶのは、楽しい?」
    『それはもちろん。特に夜、月明りの下、空を飛ぶのは―』
    と説明をしようとして口を閉ざす。
    ロウも、あまり言葉を費やすのは得意ではない。
    『なぜそんなことを?』
    「仲間に、空を飛ぶのがいる。楽しそう、だから」
    合点がいった、とうなずいて、
    『ならば、その答えは、君自身が出すべきだ』
    ロウが差し出した手を、学が受ける。
    『共に飛ぼう。青白き月の下、星の瞬きを縫うように』
    「・・・うん」

    「『―合体』」

    さてしばらくのちの事。
    夜に生きるフクロウの眼は、わずかな光でも闇を見通す力をもつ。
    影から影へ目を盗んで走る犯罪者の姿を、ロウと合体した学はしっかり捉えていた。
    柔らかな羽毛は羽ばたく音を消し、気配を絶ちながらの追跡を可能にする。
    そして。
    「―獲った」
    気づいた時には、もう遅い。
    頭上から振り落とす鋭い爪が、逃亡者の服を地面に縫い付けていた。
    「オルガ、対象を確保」
    「フッ、流石はナイエン支局随一のハンター。
    俺のロジックが聞こえる・・・
    お前が獲物を逃がす確率は、0パーセン―」
    「対象を警察に引き渡した。帰投する」
    『仕事はこれで終わり。
    そして今夜は、月が綺麗だ。』
    「うん」
    ならば、少し遠回りして帰っても、いいだろう。
    音もなく羽ばたいた翼が、学を夜空へと舞い上げた。

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  • 流離の アルベルト

    流離の アルベルト

    モノリウムの豹の獣人で、吟遊詩人。風の噂で友人の月影のロウがセプトピアに渡ったと聞き、興味を持ってやってきた。女性にも優しく紳士的で、モノリウムの基準ではイケメンでイケボイス。しかし芽路子にとってはー?

     当麻 芽路子 & 流離のアルベルト

    当麻 芽路子 & 流離のアルベルト

    ボロロン
    弦楽器の甘い音色が芽路子の耳元をくすぐった。
    そのままにしていると、音色は少しずつ激しくアップテンポなものになり。
    それでも放っていると、少し低音よりの滑らかなイケボイスで歌いだしやがった。
    『らぁらぁら~ 朝が~~ 光を伴い~~ 君の元に~~』
    ・・・くそう
    「―うっさい! 起きてるわよぅ!」
    『やあ芽路子。おはよう。今日もいい天気だ』
    止める間も無くカーテンを開きやがり、くそ太陽のくそ光線が芽路子の脳内にくそ侵入してくる。うあやめろ。
    『さあ朝食にしよう。今朝はトーストに豆のサラダ、目玉焼きは君の注文通りターンオーバーで黄身は半熟。食べごろだ。スープはオニオンコンソメ。さあ、どうぞ』
    「うううううー」
    『オレンジジュースはこちらだ。だが食前に飲み過ぎると胃を荒らす。まずはスープを飲むといいだろう』
    「ぐううううー」
    断固抵抗すべきと思う一方、漂ってきた香ばしいベーコンの匂いに自動的に腹がなる。
    ぐう。
    く、くそうこんな事で私を懐柔できると思うなよちょっと料理が上手くてイケボイスなだけじゃないかちくしょおおおおう
    と、ベッドの端っこで無駄な抵抗を試みていた所、背後から眠ったままのヒュプノスに蹴りだされて床にダイブ。
    しかたなくそのまま、這うようにテーブルまで行きつくと、ぐううう、もう理性で抵抗するのは無理だった。もぐもぐもぐ美味しいぞちくしょう。

    この歌う家政婦に押し掛けられたのは、数日前の事だ。
    独りで(そう、独りで、だ! フォーリナーカードをあえて置いてきた!)いろいろ買い漁ろうと、その筋のショップが集まる街角に出かけた芽路子。
    さてその彼女の容姿だが―
    実はけっこう美少女、というのはご存じだろうか。
    素材はいい。
    だがオカルト趣味が高じすぎて、オシャレに興味ある普通の女子と仲良くなれなかったためその方面に疎く。ちょっと背が高いのを気にしてか、俯きがちで人付き合いの苦手な陰キャ。いろいろな要素が絡まって巡る巡る悪循環。ここに素材の良さを全く活かさない残念美少女当麻芽路子がいたわけだ、が。
    最近はちょっと事情が異なる。
    『ご主人、いくら近所のコンビニとはいえ、スエット上下で出歩かれるのはどうかと…』
    『メジ、もちょい派手に行こうよー けっこうイケてんだかさー!』
    『そだね。じゃあ私が着物仕立てようか? ちゃんと呪いの経文書いてあげるー!』
    『いついかなる時死んでも大丈夫なように、最低限の化粧はしておいた方がいいですね。
    スキンケアも大事ですよ。死に顔は綺麗でないと!』
    『くぅうう・・・ すぴ・・・』
    とまあ、おせっかいな使者たちがぎゃあぎゃあうるさいわけで、ちょっと外に出ようものなら、ああだこうだと数時間かけて強制的におめかししようとしやがるのだ。
    バカヤロウ私は買い物に行くだけだ、即売会の売り子するわけじゃねぇ! とまあ、その筋の方々が聞いたら怒り出しそうなことを思いながら。
    着せ替え人形地獄をなんとか脱出すると、まあ最近は、それなりに見られる(かつ、本人に意識はないが、異世界趣味が混じってるのでちょいエキゾチックで目立つ)少女ができあがるというわけで。・・・これ広義のセクハラなんじゃなかろか。ALCAに訴えてやる。とかブツブツ言いながら歩いていると。
    「お! お嬢さん可愛いじゃん! モデルとか興味ない?」
    なんたることか、最も嫌悪する類の生き物が湧いてでたじゃないか。
    「だまってないで、ちょっとこっち見てヨー!」
    「おっ! 君イケてるねー ヤバくない?」
    さ、3人。増えた。しかも慣れてるのか、微妙にこちらの行く方向をふさぐ。
    「ねぇ彼女~」
    「いいじゃんいいじゃん」
    「さあ、こっち来なよー」
    おのれ。かつてこれほど、フォーリナーカードを置いてきた事を悔いた事があっただろうか。いやない。
    なんかもう、奇声を放って駆け抜けるしかないかと思い極めた所。
    ぼろろん
    『君たち、止めたまえ』
    「!!!」
    芽路子と、取り巻く男たち3人の視線の先に。
    長身を野性的な革のジャケットに包んだ男が、立っている。
    手には弦楽器。芽路子は知らなかったが、形状からしてイタリアのマンドリン、あるいはアラブのウードに似ていた。右の指に指輪、いや金属製の爪の様なものを付け、これで弦をつま弾いている。
    ぼろろん
    『美しい花に惹かれるは、男の悲しいサガ~
    しかし手を掛けては花が枯れてしまう。
    ここはおとなしく身を引きたまえ』
    芽路子の趣味ではなかったが、顔はイケメンといっていいのだろう。
    声もなかなか、イケボイスと評価しても良い。
    それだけに、歌っているのか、妙な抑揚の台詞回しと。
    自分に酔っているのか、妙に傾いて立つポーズがおかしい。何?漫画のポーズ?
    総合的に言うと、あまりにも残念大賞。
    芽路子の脳内でアラートはイエローからレッドにシフト。即時戦略的撤退を命じていた。
    「んだてめー」
    「おいおい調子づいてるかよ」
    「イッパツ逝っとくかこらぁ」
    幸い、男たちの注意がそちらに逸れたので、そろりそろり忍び足。
    ゆっくり後退を・・・
    「あ! お前逃げんじゃねぇ!」
    失敗! 気づかれた!
    伸びてきた手を払いのけ、くるり後ろを向くとダッシュ。逃げる!!
    ぼろろん
    『逃げたまえ可憐な少女よ~』
    「おい、お前のせいで―ぐわっ」
    「ぎゃあっ」
    「ぐはっ」
    背後でなんか、暴力の音が聞こえたような聞こえなかったよおな。
    だが一切振り向くことなく、芽路子は逃走。危地を脱出した。

    ・・・が、真の危機はその後に!
    なんと向こうからやってきたのであった!!

    ぼろろん
    『やあお嬢さん、先日はどうも』
    「うわあああああああああああ」
    驚いた。
    あの逃走劇からしばし後。
    あの楽器を持った変なイケボイス野郎が芽路子のアジトを訪ねて来やがったのである!
    「な、なんでここが・・・」
    ぼろろん
    『そう、風の導き、か・・・?』
    ヤバイ。ここに至っては仕方ない、タナトスと合体し亡き者にするしか! とフォーリナーカードを手探りした時、目の前にぐいと突き出されたものがある。
    『これ、君の物だろう?』
    それは、芽路子がいつも右手首に巻いている数珠のアクセだ。
    これは呪われた逸品で、冥界の怨霊を束ねた闇の力を黒石に。堕ちた天使の力を白石にこめ循環、芽路子の体内に眠る呪力を引き出し強化する力がある。
    ―という設定。
    本当は蚤の市で売っていた怪しげな品々の中で、妙に気を惹いたってだけのものなのだが・・・それだけに愛着がある。
    「・・・拾って、くれたの」
    『良かった、持ち主に返せて嬉しいよ』
    今にして思えば、逃げ出そうと男たちの手を払った時に糸がひっかかって落ちたのだろう。もしかしたら、落ちた石も拾って修理してくれたのかもしれない。
    「・・・ありが、と」
    ぼろろん
    『その表情こそ、最高の報酬だ。報われたよ
    ―しかし、家ではそんな服なのかね』
    「うわあああああああああああ」
    灰色のスウェット上下の芽路子は、この姿を見られたからにはやはりこの残念イケメン、闇に葬るしかないと思った。

    かくして。
    まあ、そうなんじゃないかなー と思っていたら案の定この男、使者だった。
    芽路子としては初の、大野生世界モノリウムの使者。
    元体はというと、つややかな黄色に斑点、毛皮に身を包んだ豹の獣人である。ネコミミ美少女は需要があるが、豹頭の兄貴はどうなんだろうか、と思わないでない。いや業界は広く人の欲望に限りはない、きっとお呼びがかかる事もあるだろう・・・私以外に。
    「だからもう、帰っていいんじゃない・・・?」
    『何を言う。君の生活態度は花の乙女として実に悲しい。
    これを放置するなど、私の美を愛する魂が許さない』
    ぼろろん
    『さあ芽路子。少しは太陽を浴びた方がいい。散歩に行こう。
    大丈夫、私がいれば、暴漢の一人や二人』
    「・・・やだぁ」
    『そうです! 嫌ですよね!
    ほら、ご主人は嫌がってるじゃないですか!
    押し掛け主夫はとっととお帰りください!』
    「・・・お前だって押し掛けだよね」
    『外行くなら、アタシも行く―! ほら見てみて、流行りのスイーツ特集!
    新しい店ができたみたいだぜ!』
    「・・・それ、前の店をアンタが食い潰したからじゃん?」
    『うひひっ どうする? 呪い殺す?』
    「・・・そう言ってすぐ悪霊出すの止めて」
    『全くです。まず死ぬのは芽路子さんですよね? 順番は守りましょ?』
    「・・・だから死にたくないってば」
    『ぐう』
    「・・・この騒ぎでどーしてあんたは寝てられるの」
    というわけで。
    当面は芽路子周辺も平和であるようだ。
    「平和じゃないわよう!!!!」
    平和、であるようだ。
    「うわあああああああああああ」

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