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SPB01 ストーリー

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 SPB01 ストーリー

ファースト・リユニオン

突然の轟音―

―同時に、人々の悲鳴がこだまする。
そこは休日の繁華街。さきほどまでは人々の明るい声が響き渡っていた。
が、景色は一変。建物は崩れ去り、次々と爆発と火の手が上がる。

「逃げてください!!! 逃げて!!!」

たまたま居合わせた玉姫は、なりふり構わず叫んだ。
(こんな時に使者が襲来してくるなんて……)
最悪の状況だった。今、彼女のそばに合体できる盟約者はいない。
おまけに今は機密品の輸送任務中。
研究施設からALCA本部へと運ぶ途中だった。
玉姫は険しい顔でケースをギュッと抱きしめるように抱えた。
(これを何としても守らなきゃ……)
その時、玉姫の耳に子どもの泣き声が聞こえた。
ハッとして見ると、逃げ遅れた男の子が母親とはぐれて泣いていた。

「もう大丈夫よ。怖かったね」

玉姫は優しく男の子を撫でると、一緒に逃げようと手を引いた。

「!」

2人に巨大な黒影が落ちる。
使者だ。
玉姫は固唾を呑んで、顔を上げた。
玉姫たちを見下ろしていたのは、全身が毛で覆われた巨人。
血走った一つ目でギロリと玉姫を睨みつけながら、気味の悪い唸り声を上げていた。
「お姉ちゃんにしっかりつかまって!」
玉姫が叫ぶと同時に、巨人は拳を振り下ろしてきた。
玉姫は右腕に男の子を抱え、左手にはしっかりとケースを握り締め、
拳を避けて飛びのいた。
衝撃音とともに巻き上がる砂埃。

『!?』

巨人は玉姫たちを見失いキョロキョロと辺りを見回す。
その頃、玉姫たちは瓦礫の陰に隠れていた。
今にも泣き出しそうな男の子の口を押え、玉姫は息を殺している。
今は巨人が探すのを諦めて去っていくのを待つしかない。
その時、携えていたケースから淡い光が漏れてきた。
中身は、試作テスト中の機密品
――とだけ聞いていた。
(一体なんなの……?)
玉姫が戸惑っていると、突然声が聞こえた。

『わらわを呼ぶのじゃ、玉姫!!』

懐かしい声だ。幼さを残しつつも、凛とした張りのある声――
まさかと、衝動的にケースを開ける。そこにあったのは1枚のカード。
(ゲートカード?)
確かめようと、玉姫がカードに触れた次の瞬間、カードから眩い光が一気に放たれた。
そして、空中に現れた小さなゲート。
そこから現れたのは、かつて盟約者・竜媛皇珠 小玲だった。

「小玲!」

思わず声を上げる玉姫。

『久しいのう玉姫』

小玲も微笑んだ。
玉姫は今起こっていることが信じられず目頭が熱くなる。
もう会えない。もう二度と話すこともないと思っていた小玲が目の前にいるのだ。

「一体どうして――」

そう言いかけたその時、ズシーンと大きな地響きが聞こえた。
巨人が気づいて近づいてきているのだ。

「ごめん小玲! もっと色々話したいけど今は――」
『わかっておる。わらわも世間話をしに戻って来たわけではない。
聞こえたのじゃ。助けを求める玉姫の声が――』

小玲はすっと右手を差し出した。

『――合体じゃろ?』

玉姫は力強く頷き、小玲の小さな手に掌を重ねた。
2人は眩い光に包まれ、再び1つになった。
雅な竜族のドレスに身を包まれた玉姫。頭には角が生え、龍玉が周囲を飛び回る。
前に立ちはだかり異様な雰囲気を醸し出す玉姫に、巨人は一瞬怯んだ表情を見せる。
(巨人も感じているのね……私もビックリだもの。小玲、前と全然違う……)
玉姫は全身に漲る力を感じていた。
小玲も驚く玉姫の心を感じてた。

『わらわの力はどうじゃ? わらわは向こうの世界で遊んで暮らしていたわけではないぞ』
「小玲……強くなったね」

玉姫は微笑んで、杖を両手で握り締めた。

「『ロジックドライブ! 怒竜雷撃陣!』」

叫ぶと同時に、雷の柱が辺りに降りそそぐ。
以前は自分にも雷が当たりかねない自爆スレスレの危険な技だったが、今は違う。
雷は玉姫を避け、敵を中心に落ち続けた。

『ギャアアアアアアッ!!』

その凄まじい攻撃力を前に巨人はなすすべなく敗れ去った。
だが、戦いは終わったわけではない。
玉姫がすぐさま本部にいるオルガに状況を確認すると、
使者たちは同時多発的に現れ、街のあちこちで混乱が続いているようだ。

「すぐに皆を助けなきゃ……」
『そうじゃな。他にもそのカードを必要とする者がおるじゃろ……』

男の子の手を引いて現場を去りながら玉姫は、
新たなる可能性を秘めたゲートカードを手に取って見つめた。

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  • 玉姫 & 小玲

     玉姫 & 小玲

     玉姫 & 小玲

    新たな時代へ…

    厚い雲に覆われていた空から陽光が差し始めた。
    それはまるで、ALCAの作戦が成功したことを人々に知らせるかのようだった。
    各避難所で不安な日々を過ごしていた人々は、ふと手をとめて、
    天使の梯子のような光の柱を見つめた。
    ナイエン区から遠く離れた、とある高台の療養施設でも、
    心配そうに街を見つめていた一組の男女が、

    『希望の光のようですね……』
    「うん……」

    と、手を取り合っていた。

    「晴れてきたね……」
    『そうですね……』

    キュアと合体している玉姫も研究所内の窓から降りそそぐ陽光を眩しそうに見つめた。
    作戦は終焉に近づいていた。
    ゲートカードの暴走は停止。
    定理者たちは残る使者たちの掃討に動いていた。
    玉姫とキュアは逆理病者の救助を手伝いつつ、戦う仲間たちの救護に務めていた。
    (ここにもいない……)
    玉姫は逆理病者の中に、ヴェロニカの姿を探していた。
    新型ゲートカードを託された直前まで、
    玉姫はヴェロニカと一緒にこの研究所にいたのだ。
    その後、連絡は途絶え、一連の騒動に巻き込まれた可能性が高い。
    ヴェロニカのことだ。そう易々と、犠牲になることはないとは思うが――。
    今も、見つからない現状に、玉姫は不安を覚えつつあった。

    「た、タマヒメ……」
    「!!」

    振り返ると、戦闘で傷ついたクロエがやってきて、膝から倒れた。

    「さっき倒したヤツに毒があったみたい……」
    「大丈夫。お願いキュア」
    『はい!』

    玉姫は薬剤の入ったグレネード弾をクロエに向かって発射する。
    薬剤によって毒が中和され、クロエの体力が回復した。

    「サンキュー……これでまた戦える……」
    「ダメよ! 体力の回復は一時的なものなんだからちゃんと休まないと!
    今、救護班に連絡するわ」

    その時、不気味な唸り声が響き渡り、
    あらゆる計器がパラドクスレベルの急上昇を伝える。
    ズシンズシンと、足音を響かせ、巨大な鬼のような使者が近づいてきた。

    「ラスボスって感じだね……」

    立ち上がろうとするクロエを制する玉姫。

    「ここは私に任せて」

    玉姫はキュアとの合体を解除し、ゲートカードで小玲を呼び出した。

    『待ちくたびれたぞ』

    長らく呼び出されなかったことが不満なのか、頬を膨らませる小玲をなだめる玉姫。

    「それなりの強敵じゃないと、小玲を呼ぶわけにはいかないから……」

    自尊心をくすぐられ小玲はニンマリ。

    『仕方ない。わらわが力を貸してやろう』

    そんな話をしている間に、敵は間近に接近していた。
    唸り声を上げ、巨大な拳が玉姫と小玲に襲いかかる。
    合体しながら攻撃を躱した玉姫と小玲。
    空振りした敵の鉄拳で、床が大きくえぐれている。

    『馬鹿力じゃのう。どーれ、小手調べじゃ!』

    玉姫と小玲は敵に雷撃を放つ。
    敵は避けようともせず、雷撃を身体に受け止め、平気そうにニヤリと笑う。

    「さすがラスボス……」
    『なんじゃラスボスとは?』
    「最後の強い敵ってことよ」
    『なに最後!? ならば、今やらねばあの技は当分使えぬではないか!』

    焦ってロジックドライブと放とうとする小玲を止める玉姫。

    「いや、もっと敵を観察したあとにしましょう!」
    『ならん! 今じゃ!!!』

    ―そんなワガママを、とは思いつつ、素早く状況を確認する玉姫。
    研究所の廊下いっぱいにせまる巨体。腕力が強く、そしてタフな様だ。
    だが背後にはキュアと、治療したばかりのクロエがいる。
    彼女たちをかばいながら逃げるのは難しいだろう―

    「いいわ、やりましょう!!!」

    覚悟を決めた玉姫は、小玲とその技を叫ぶ。

    「『ロジックドライブ! 天竜凛雷陣!!!』」

    ロジックドライブ「天竜凛雷陣」――。
    それは、従来のロジックドライブであった「怒竜激雷陣」のグレードアップ版だ。
    玉姫と小玲を中心とした直径数十メートの範囲内に、無数の雷が降り注ぐ。
    以前の「怒竜激雷陣」は雷をコントロールしきれず、
    敵味方の区別なく攻撃してしまうこともあり、自爆に近い技であったが、
    「天竜凛雷陣」は違う。

    『「うおおおおおおッ!!!!」』

    成長した玉姫と小玲は、無数の雷を見事にコントロールし、敵に集中させる。

    『!!!!』

    雷の群れの前に身動きができず、敵はただそれを受け止めるしかなかった。
    雷の威力も以前の比ではないほど凄まじいものだった。

    『どうじゃ!!』
    「まだよ!!」

    しかし、敵は苦しみながらも笑みを見せ、雷撃に耐えていた。
    ここからは我慢比べだ。
    玉姫と小玲のロジックが敵を上回るか、敵の精神と肉体が耐えられるか――。

    『わ……わらわは竜族の姫なるぞッ!!!』

    小玲はますます雷の出力を上げていくが、敵はしぶとく耐えている。

    「―小玲、任せて」

    そう言うや否や、雷が止む。

    『玉姫!』

    悲鳴のような小玲の声が響く中、笑いを浮かべたままの鬼は大きく踏み出し、
    うつむいた玉姫にむかってその拳を振り上げる―その瞬間。
    使者に向かって顔を上げると、玉姫はあえて柔らかく微笑んだ。
    ふわりとした空気。
    その直後、玉姫の前方、拳を振り上げたままの鬼を飲み込んで、雷の嵐が吹き荒れた。

    「もう、誰も傷つけさせたりしない!」

    わずか一歩、わずか一振りとはいえ、耐える姿勢を崩した鬼は不意をつかれ、
    雷に耐える力を失っていた! 
    断続する雷撃を前に敵はついに力尽きた。
    ホッとして合体を解除すると、玉姫にオルガから通信が入った。
    それはヴェロニカが発見されたことを知らせるものだった。

    「無事なの!?」
    「足を骨折してるが、ピンピンしてる。
    自分が指揮をすれば、もっと早く解決できたってさんざん怒られた……」

    思わず苦笑いを浮かべる玉姫。

    「私とキュアも治療を手伝いにいくわ」
    「俺のロジックが聞こえる― 
    戦闘を終えた直後のお前が、体力を消耗している確率は100%だ。
    無理はするな」
    「平気よ」

    通信を切り、玉姫はキュアと小玲に目を向けた。

    『どんなもんじゃ!』

    「えっへん」と胸を張る小玲にキュアが瞳を輝かせていた。

    『すごいのですね小玲さんは! 憧れるのです!』
    『なかなか見どころのある娘じゃ。わらわの侍女にしてやってもよいぞ』
    『ジジョ? 長女はどなたなのです?』
    『姉妹の次女ではない! 侍女じゃ!!』
    『へ???』

    小玲とキュアのとぼけたやりとりを微笑んで見つめる玉姫。
    (困った「妹」たちね……)

    「新型のゲートカードが上手く使えるようになったら、
    異世界のみんなと自由に会えるんでしょ?
    なんだか賑やかになるなあ……」

    クロエがふとつぶやいた。
    異世界同士の交通を自分たちで完全に管理できるようになれば、
    この世界はきっと平和になる。
    けど、戦う理由がなくなった時、
    私たち定理者とその盟約者はどうなってしまうんだろう――
    玉姫は新たなる時代がやってくる予感を覚え、すっかり晴れ渡った空を見つめた。

    (――これから私たち何をすべきなんだろう?)

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  • アシュリー & シュガー

     アシュリー & シュガー

     アシュリー & シュガー

    地下室のメロディ

    『「魍魎大行進!!!」』

    艶鬼と合体したアシュリーがロジックドライブを放った。
    その瞬間、研究所の壁、床、天井に現れる無数の渦巻き――鬼道だ。
    やがてその中から魑魅魍魎、子鬼たちが現れ、
    アシュリーを取り囲んでいた敵たちを一斉に襲う。
    アシュリーは、凄まじい威力を持った艶鬼のロジックドライブに感心しつつも、
    (……地獄の幼稚園みたい……)
    と、可愛らしくも狂暴で元気な魍魎と子鬼たちの姿に、やや引き気味だ。
    ともあれ、このロジックドライブのおかげでこのフロアの使者たちは掃討できた。

    「艶鬼、そろそろ合体を解除しましょう」
    『いけずやわぁ、 もう、ちぃーとだけええですやろ?』
    「ダメです。トランスリミットに近づいてますし……」

    こうして、艶鬼との合体を解除して、アシュリーはシュガーを呼び出す。

    『作戦終了? だったら成功記念コンサートを』
    「まだです!!」

    アシュリーとルカが、使者大量襲来の元凶であったゲートカードの暴走を止めて1時間。
    通信で確認すると、研究所内を含め、
    各地での混乱は収束に向かいつつあるようだったが、まだまだ予断は許されない。
    敵がこれ以上増える恐れはないが、
    この世界にまだどんな手強い敵が残されているのかわからないのだ。

    「シュガーを呼んだのは、まだまだどんな危険が潜んでいるかわからないからですわ」

    少しガッカリなシュガー。

    『戦いかぁ……コンサートがよかったなぁ……』

    その時、艶鬼が異変に気づいた。

    『はてなぁ?』
    「え?」
    『なんか・・・妙な音が・・・聞こえへん?』

    耳を澄ますアシュリー。
    ドンドン……ドンドン……。
    研究所内のどこからか、何かを叩くような音が聞こえた。
    おもむろにシュガーが口を開いた。

    『……ドラムの練習?』
    「こんな時にそんなことをする人はいません!」

    と、つっこむアシュリー。

    『まぁ、敵やろな……』

    艶鬼に頷くと、アシュリーはシュガーと合体し、
    その音に導かれるように階段を下りていく。
    どうやら研究所の地下から響いているようだ。
    ドンドン! ドンドンドン!!
    さらに音はハッキリと聞こえる。
    地下の突き当りにドアが見えた。音はその中から聞こえているらしい。
    アシュリーたちは息を呑んで、そのドアを開けた。

    「……え?」

    中にいたのは、一般市民だった。
    ゲートカードの暴走が起きた時、逃げ遅れた人々だ。

    「助かった……このドアは中から開けられないんだ」

    ALCAの通信を傍受して、作戦の成功を知り、
    意を決して助けを呼んだのだと人々は話す。
    この地下シュルターには、耐パラドクスゾーンの対策が施されており、
    逆理病の心配はなかったが、さすがに肉体的にも精神的にも疲労困憊の様子だ。

    「もう安心です。さあ、私たちと一緒に逃げましょう」

    手を差し伸べるアシュリー。
    その時、外から爆発音が聞こえた。

    「いやあ! 怖い!!」
    「!!」

    中にいた子どもの怯えた声だ。
    研究所の家族もこのシュルターに避難しており、子どももたくさんいた。

    「大丈夫。外ではまだ戦闘が続いているところもあるけど、私たちが守るから」

    アシュリーは優しくなだめるが、全員、シェルターから出ることを怖がり、
    なかなか出ようとしない。
    すると、突然、地下室にメロディが響き渡った。
    合体しているシュガーが、装備を使って曲を流し始めたのだ。
    (え!?)
    戸惑うアシュリー。

    『ここを出る前に、みんなをちょっと元気にしてあげようよ、アシュリー』

    ハッとして見ると、子どもたちは泣くのをやめて、アシュリーを見つめている。
    (……ここは、シュガーの言う通りかもしれない)
    まずは子供を落ち着かせるよう、柔らかく童謡を歌う。
    子供たちの表情が明るくなるのを見て取ったアシュリーは、能力を全開。
    一気にコンサートモードに突入した。
    心に染み入るバラード、軽快なポップス、激しいロック……
    いつの間にか持ち歌を増やしていたアシュリーとシュガーは、
    メドレー形式で、疲れきった人々に笑顔を届けようと必死に歌い踊る。
    その思いは人々に伝わっていった。
    苦しかった日々を忘れるかのように、
    大人たちも、子どもたちも笑顔の花を咲かせていく。
    (ああ……よかった)
    人々の顔を見渡し、心から嬉しく思うアシュリー。
    だが、その中に目がハートになっている艶鬼の姿が。
    キュートに歌い踊るアシュリーにときめいてしまったらしい。
    その艶鬼の目に、イヤな予感を覚えるアシュリー。
    やがてメドレーは、ダンサブルなナンバーに突入。

    「アシュリーはん、やっぱり最高やわあ!!」

    イヤな予感は的中。
    艶鬼は周りの人々を巻き込んでアシュリーに声援を送り出す。
    (艶鬼のためにやってるんじゃないんですけど……ま、いいか)
    そんな艶鬼を苦笑いで許すアシュリー。
    地下シェルターを埋めていた不安や恐怖の空気は消え、みな明るい笑顔になっていた―

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  • 縁 & ケッツー

     縁 & ケッツー

     縁 & ケッツー

    ディナー・オア・ダイ

    ――作戦が始まった。
    ケッツーと合体した縁は、アシュリーと葵を抱え、輸送機から飛び立った。

    「うわあああああッ!!」
    「きゃあああああッ!!」

    高度33000フィートからの急降下に思わず悲鳴を漏らすアシュリーと葵。
    だが、縁の表情は引き締まったままだ。
    縁の使命は、アシュリーと葵の2人を研究所まで無事届けること――。
    雲を突き抜けると、眼下に研究所が見えてきた。
    そして、その周辺に上がる火柱も。
    (あれはクロエ先輩が……)
    地上で陽動作戦をしているクロエの奮闘を想像し、縁はいっそう気持ちを引き締める。
    縁とは対照的に、

    『なア! なア! なア! これが終わったら何を食わせてくれんだ!?』

    ケッツーには緊張感がまるでない。
    ため息混じりで返す縁。

    「……なんでも作りますよ。ケッツーは何が食べたいですか?」
    『そうだなァ、ええと……あ、焼き鳥!』

    その瞬間、バサッと羽音が聞こえたかと思うと、黒影が縁たちを覆った。
    鋭い眼光を放つ鳥型の使者が3体。縁たちの周りを羽ばたいている。

    「ケッツーが焼き鳥を食べたいなんて言うから!」
    『オレのせいじゃねぇ!!』

    だが、縁は落ち着いていた。

    「しっかりつかまっていてください! あと、目が回りますので気をつけて!」

    アシュリーと葵に声をかけると、迎撃態勢に入る。

    「いっきますよぉおおおおおお!!!」

    縁が叫んだ瞬間、竜巻が大蛇のようにうねり彼女の身体に巻きつく。
    そして、敵たちに突進していった。
    その衝撃と竜巻に巻き込まれ、一瞬にして3体の敵は飛行能力を失い、
    空から地面へと真っ逆さまに落ちていく。

    「お見事です……!!」
    「落ち着いてますね、さすがベテランです」

    縁の手際よい攻撃に、感心の声を上げるアシュリーと葵。
    ところが縁は、
    (わ、私がベテラン……??)
    と、照れて頬を赤らめた。

    『当たり前だ! オレの巫女を舐めんじゃねえ!!』

    口は悪いがケッツーも縁が誉められて嬉しいようだ。
    それを聞いて縁は苦笑いを浮かべていると、再び羽音が聞こえた。

    「!!」

    新たな鳥型の使者が縁たちに接近しようとしている。
    しかもその数は数えきれないほどの大群。
    本部を襲っていた使者たちが研究所の異変を察知し引き返してきたのだ。
    (けど、今はこの2人を届けないと――)
    縁は再び気を引き締めると、研究所に向かって急降下を始める。
    使者の大群を振り切るつもりだ。
    それを見て使者たちもスピードを上げる。
    残り300メートル、200メートル、100メートル……。
    研究所が縁の目の前に迫って来た。
    (あと少し……もう少し……)
    だが、その瞬間、縁の身体に激痛が走る。
    敵の鋭い嘴が縁の背中を斬り裂いたのだ。

    「うッ」
    『縁ッ!!』

    ついに縁は追いつかれ、続々と敵たちが襲いかかる。
    縁は痛みに耐えながら必死にアシュリーと葵を庇った。
    (なんとか2人を送り届けなきゃ……でも、どうすれば……? あ、そうだ!!)
    絶体絶命の危機の中で、縁は彼女の存在を思い出した。

    「ケッツー、サンドラと交代です!」
    『わかった! 縁、死ぬんじゃねぇぞ!! 晩飯ちゃんと作ってもらうんだからな!!』

    ケッツーの別れの言葉に、微笑む縁。
    次の瞬間、眩い閃光が彼女を覆った。
    ケッツーとの合体は解除され、ゲートカードから現れたサンドラと新たに合体する。
    一方、 縁の手を離れたアシュリーと葵は、

    「「きゃあああッ!!!」」

    地面に向かって落下していく。

    「サンドラ、風を!!」
    『――っ!!!』

    縁は、手に握った鮮やかな羽でできた扇を2度振るう。
    最初に起こった風は、囲っていた敵たち吹き飛ばし、
    2度目の風は落ちていくアシュリーと葵に向かって吹いていく。

    「!?」
    「風が!」

    アシュリーと葵の身体はその風に乗り、再び上昇。研究所へと運ばれていった。
    それを見て、使命を果たせたとホッと胸を撫で下ろす縁。
    だが、まだ安心はできない。
    相変わらず敵の大群に囲まれたままなのだ。

    『だ……大丈夫……縁、私が守る……』

    サンドラの小鳥のような優しい声が聞こえた。
    縁は嬉しそうに、小さく頷く。

    「ありがとう。この戦いが終わったら、サンドラは何が食べたいですか?」

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  • クロエ & ヴァルキリー

     クロエ & ヴァルキリー

     クロエ & ヴァルキリー

    ロンリー・ウォーリアー

    ティーブと合体したクロエが研究所へと続く路上に降り立つと、
    無数の視線が彼女を突き刺した。
    それは研究所の前でたむろしていた使者たちだ。
    その時クロエは、よくある西部劇の一場面のようだと思った。
    町の酒場にふらりとやってくる流れ者。主人公の凄腕のガンマンだ。
    すると、その瞬間、酒場に賑やかに笑っていたならず者たちから笑顔が消えて、鋭い眼光を主人公に向けるのだ。

    「――って映画みたいじゃない?」
    『観たことないが面白そうだな――』

    そう言って、ティーブはイタズラっぽく笑った。

    『――で、その後どうなるんだ?』
    「決まってるじゃない……ド派手な撃ち合いよ!」

    クロエが言い放つと、無数のミサイルが放たれる。

    『!!』

    突然の攻撃に敵たちも面食らった。
    使者たちに炸裂したミサイルは、轟音を上げ爆発していく。
    辺りは爆風が吹き荒び、白煙が舞い上がる。

    「まだまだ」

    クロエはニヤリと笑う。
    これで終わりではないことは百も承知だ。
    白煙の中から雄叫びを上げて、無数の使者たちの影がこちらの向かってくるのが見えた。

    「いっくよ! クレイジーパワードキャノン!!」

    お次は肩部のキャノン砲から放たれるビーム。連射モードで乱れ打ちだ。

    『こりゃ敵に当たってるかどうかわかんねぇな』

    ティーブも思わず笑ってしまう。

    「いいのいいの! 派手にやるほどいいんだから!」

    クロエの言う通り、考えなしに滅茶苦茶やっているわけではない。
    これは立派な作戦の一部だった。
    倒しても倒しても敵は続々と湧いて出てくる。
    クロエのド派手な攻撃が呼び水となって、
    研究所の内部からも続々と使者たちがやってきていたのだ。
    この間に、はるか上空で仲間たちが研究所に突入するタイミングを見計らっているはずだ。
    クロエの役割は、陽動。
    敵の目を引きつけ、仲間たちを無事に潜入させること。
    なので、ド派手に攻撃すればするほど効果バツグンなのである。

    「よーし、ここらへんで……グレートフルブレークバーストッ!!」

    と、ミサイルのビームの一斉放射で、至るところが爆発。爆発。大爆発。

    『……こんな性に合った任務はねぇな』

    ド派手な火柱を眺めながらティーブのつぶやくと、クロエはうなずく。

    「陽動って……サイコーッ!」

    なにせ、思う存分暴れ回っても、誰も怒らない作戦なのだから、クロエもノリノリだ。

    『ギャアアアアオッ!!!』
    『「!?」』

    凄まじい哭き声とともに、炎の中から、巨大なワイバーンが現れた。
    だが、クロエは動揺することなく、むしろ楽しげだ。

    「ティーブ、サンキュー!」
    『ラジャー』

    クロエはティーブとの合体を解除すると、ゲートカードでヴァルキリーを呼び出す。

    「だって、ドラゴンっていったら、やっぱ剣で倒すものじゃない?」
    『なるほど、竜といえば剣で――って、そんな理屈があるか!?』

    などと、真面目に返すヴァルキリーの手を取るクロエ、そして合体。
    対するワイバーンは、クロエが先ほどまでやっていたことを真似をしているのかように、口から炎を乱れ打つ。
    それを躱すクロエの動きは早い。
    炎の間隙を縫い、踊るように敵へと近づくと、高く跳躍。
    あっという間にワイバーンの鼻先に姿を現した。

    「ハロー、ドラゴンちゃん」

    と、相手をおちょくるように笑顔で手を振るクロエ。

    『!!』

    ワイバーンは再び炎を吐き出す。

    「うりゃあああああっ!!!」

    だが、その炎をクロエの大剣が切り裂いた。
    真っ二つに割れた炎の中から、現れたクロエの身に纏う鎧、そして大剣が黄金色に輝き始めた。
    クロエが再び大剣を振り上げる。

    「ゴールデンッ!ファイナルフィニッシュソオオオドッ!!!」

    大剣は黄金色の軌跡を残しながら、ワイバーンを一気に斬り裂いた。
    クロエが着地すると、ワイバーンの断末魔の叫びが聞こえる。
    だが、

    『ギャアアアオッ!!!』

    再び、ワイバーンの叫びが聞こえた。
    別のワイバーンたちの群れが姿を現したのだ。

    『仲間の叫びを聞いてやってきたか……義理堅い種族だ』

    苦笑いを浮かべるヴァルキリー。
    クロエは怯むことなく不敵な笑みを浮かべた。

    「陽動って言ってもさ……私がぜーんぶ倒しちゃってもいいんでしょ?」

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  • 葵 & ロッタ

     葵 & ロッタ

     葵 & ロッタ

    高度33000フィートのわがまま

    学がALCA本部を死守するため孤独な戦いを続けている。
    地上では、クロエが陽動のため激戦に身を投じている。
    一方、高度33000フィートの上空を飛ぶ輸送機。
    そこでは、研究所への潜入のため、定理者たちが空挺作戦の準備を進めていた。
    ――が、トラブルとはいうのは思わぬタイミングで思わぬ人物が起こすものである。

    『どーして私じゃないの!?』

    輸送機の中に、ロッタの声が響き渡る。
    作戦実行に選ばれた葵の合体相手がアルヴだと知り、拗ねて不満を爆発させたのだ。

    「それは――」

    困惑の表情を浮かべる葵。
    間もなく輸送機は研究所上空に到達する。
    作戦決行の時は迫っているのだ。
    まだまだやらねばならない準備は山ほどある……
    のに、ロッタのわがままがこんなタイミングで炸裂してしまうとは……。
    葵はロッタを呼び出すのを作戦終了後にしておけばよかったと少し後悔したが、後の祭り。
    何とかわかってもらおうと説得をはじめた。

    「――この任務は研究所に潜入してそれで終わりじゃないのよ?
    ロッタもわかってると思うけど、研究所の内部には数えきれないほどの敵がいて、
    中にはとんでもなく強いヤツだって」
    『ろっただって強いもん!』

    葵の話を遮るロッタ。

    『弓の技なら、アルヴにだって負けないもん!
    前は1度に1本しか弓を引けなかったけど、今は2本か3本なら引けるよ?』

    確かにロッタの言う通り。
    葵とロッタの合体した姿は以前よりも強くなった。
    同じ弓を「火力」として比べた場合、
    もちろん高出力ビーム弓を主兵装とするアルヴに軍配が上がるのは確かだが、
    センサー以上に敏感に敵を察知する「野生の勘」、
    そしていざ敵を前にした時の身のこなし、俊敏さなど総合して考えれば、
    合理体としての戦闘力は、アルヴにいささかも劣る所ではない。
    しかし、葵はここではその事実を伏せる。

    ―この危険な任務に軍人のアルヴはともかく、
    妹の様に可愛がっているロッタを連れ出したくはなかったのだ―

    「いや、けどね、潜入したあとは戦闘だけじゃないのよ?」

    葵は別の手立てでロッタを説得しようとする。
    「任務の中には、コンピュータのハッキングも含まれているの。
    研究所の中にあるゲートカードの暴走を止めることが第一の目的なんだから。
    ロッタにはコンピュータのハッキングなんてできないでしょ?」

    仕方のないことなのだとロッタも納得できる理に適った説得である。
    そして、この理由であればロッタも傷つかない。
    ロッタはグーの音も出なくなったのように、一瞬黙り込んだ。
    (……よかった。わかってもらえた)
    葵はホッとして胸を撫で下ろす。
    しかし、

    『……できるもん』

    その一言に葵は耳を疑った。

    「できるもんって……ハッキングが?」
    『……できるもん……ハッキング』

    ロッタは目を伏せて、不貞腐れたように、もう一度つぶやいた。
    (……幼稚園児か!)
    葵は心の中でつっこんだ。
    できないことをできると言い出す――幼児のわがままそのものだ。
    (無理……説得できない……)
    と、気が遠くなっていく葵。
    すると、ロッタが感情を爆発させる。

    『だって葵が心配なんだもん! そばにいて葵を助けてあげたいの!
    ねえ、私じゃどうしてもダメなの!?』
    「……」

    葵はしばらく呆気に取られていたが、クスッと笑いが込み上げる。
    ロッタは拗ねて、わがままを炸裂させていたわけではなかった。
    葵が心配で助けてあげたい一心だったのだ。
    すると、ずっと腕を組んで事態を静観していたがアルヴがロッタに近づいて頭を撫でた。

    『大丈夫です、ロッタ。私がロッタの分も葵を守ります。私を信じて任せてください』

    ロッタは涙ぐみながら、アルヴに小指を差し出す。

    『約束だよ?』

    アルヴとロッタは指切りをした。
    葵はその上に、そっと手を重ねた。

    「ロッタ、ありがとう……」

    葵は微笑んで、優しくロッタの思いに感謝する。

    「うん……」

    泣いていたロッタも笑顔を作り、葵に応えるのだった。

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  • 学 & アルテミス

     学 & アルテミス

     学 & アルテミス

    嵐の前

    ニーナたちの分析によって、使者たちが大挙襲来した原因が突き止められた。
    実験段階にあったゲートカードの暴走によって、
    各異世界との間に次々とゲートが開き、
    それを通じて招かれざる客たちが押し寄せたのだ。
    新型ゲートカードを手にした定理者たちの奮闘で、
    市街地での騒動は沈静状態に向かいつつあった。
    しかし、ALCA研究所の暴走しているゲートカードを止めなければ、根本は解決しない。
    ただちにオルガを中心に作戦が立案され、今、実行の時を迎えていた――。

    「よりによってこんな時に……」
    慌ただしく鳴り響く警報に、司令部の一同は苦虫を嚙みつぶしたような顔を浮かべた。
    作戦実行のため、出撃準備をしていた最中に敵が再び大挙して襲来したのだ。
    その目標は、ALCA本部である。
    作戦を続け攻めるべきか、定理者たちを待機させ守るべきか。
    危険を承知のうえで作戦を決行すべきか。
    それとも、中止にして本部を防衛するか。
    現行の作戦では、本部の防衛に当たる定理者は学ひとりだけだったためだ。
    苦悩の表情を浮かべるオルガに歩み寄ったのは学だった。

    「……作戦は続けるべき」
    「しかし!」
    「大丈夫。本部は私一人で守る」

    学の鬼気迫る表情に、オルガも決断する。

    「……わかった。作戦決行だ」

    学の決死の覚悟は、他の定理者たちにも伝わり、士気はいっそう高まった。
    だが、その中で一人、アルテミスが学を心配そうに見つめていた。
    (……あの子、まだ死に場所を求めているのかしら)

    親に捨てられた孤独な出自を抱え、
    今生きる世界に執着を持たず、
    生と死の境界線に憧れのような感情を抱き続けていた学。
    長い間、学を母親のように見つめていたアルテミスは、
    学が抱え続けていた苦悩をよく知っていた。
    仲間たちと歩むことでその闇は消えたように思えたが、
    この危機を前に再びあの感情が蘇ったのか――
    アルテミスの脳裏には、直感的にそんな不安が過ぎった。

    アルテミスと合体した学は、本部の屋上にある狙撃ポイントへ向かう。
    エレベーターの中で、敵の到達予想時間を通信で聞きながら、
    学は無表情のまま静かに目を瞑っていた。
    合体しているアルテミスに伝わるのは、静かな凪の海のような落ち着いた感情。
    学の心の奥底に眠る心理まではわからなかった。

    『……嵐の前の静けさね』

    アルテミスの声が耳元で囁くように聞こえた。

    「え?」
    『あなたの心を表わす言葉……』
    「……嵐」

    学がボソリとつぶやいた。
    その瞬間、学の心がざわめき始めたのをアルテミスは感じた。

    『……あなたの心に炎が見えた。それは自らも焼き尽くす炎かしら?』

    学はクスッと笑うと首を横に振った。

    「……みんなと、約束したんだ」
    『約束?』
    「ぜんぶ終わったら、遊園地にいこうって……」
    『遊園地……』
    「射撃のゲーム。おもちゃのライフルで景品を当てるヤツ。
    私がぜんぶ当てて係の人を困らせてみようって……」

    それを聞いていたのかクロエから通信が入った。

    「そーそー! なんか、楽しそうじゃない?」
    「申し訳ない気もするけど――」

    今度は玉姫からの通信。

    「――キョウトにいる聖那とジゼルちゃんにプレゼントできるもの、
    ゲットできたら嬉しいな……」

    その後、続々と仲間たちから通信が入った。
    いずれも、遊園地で何をしようかという話ばかりだ。
    やがて狙撃ポイントへと到着した学。
    その心は紅蓮の炎に燃えている。
    だが、それは自らを焼き尽くす炎ではない。
    仲間たちとの未来、希望に燃える学の心だ――と、アルテミスに伝わった。
    (杞憂だったわね……)
    今ここにいる学は、もう昔の学ではないと知り、アルテミスは喜びを噛みしめる。

    「敵影、指定距離に到達!」

    司令部からの通信を聞き、学はライフルを構える。
    アルテミスが囁いた。

    『……嵐が来たわ。でも、それが過ぎれば、あとは希望があなたを照らす』
    「―うん」

    一条の光芒。
    先頭の影が音もなく崩れ落ち、押し寄せる使者たちに動揺が走る。
    相手の姿を視認することすら難しい、超・長距離。
    動揺する敵たちに、立て直す隙を与えず次々光の銃弾を当てていく。

    『風よ、嵐よ、しかし我が灯火は消せず』
    「一人も通さない」

    至高の銃撃が、嵐を切り裂いていく。

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  • 芽路子 & 煌煌

     芽路子 & 煌煌

     芽路子 & 煌煌

    最強の傍観者

    爆発、炎上、混乱する街、人々の悲鳴。
    (……危ない危ない、早めに避難しといて正解正解)
    と、芽路子は騒ぎが起こりはじめた頃から既に安全な場所に避難していた。
    何かあった時に逃げ込む場所は、ずっと前から確保している。
    それは幻の地下鉄の駅。
    工事されて完成していたものの、どういう理由かわからないが、
    使われることのなかった駅だ。
    存在を知る者も、ここにやってくる者もいない。
    芽路子だけが知る秘密のセーフハウスだ。
    避難生活をはじめて3日が過ぎたが、そこは平和そのものだった。
    芽路子が呪いたいと思う人間も、使者も現れない、心穏やかな静かな暮し。
    非常食はたっぷりあるし、パソコンも持ち込んで、ネットもし放題だ。
    (……こんな快適なら、避難ライフとかあと1か月は余裕ッ!)
    などとニヤニヤしていたのも束の間。
    ネットからの情報によると、地上の混乱はやや落ち着き、膠着状態となっているようだ。

    「……え、たったの3日で? ALCA優秀じゃない。どういうこと?」

    情報をチェックする芽路子に、ラルフェが淡々と答えた。

    『ネット上の情報を分析しますに、ALCAは新型のゲートカードを使用したようです』
    「新型のゲートカード……?」
    『異世界からかつての盟約者を自由自在に呼び出させるカードのようです。
    各定理者への配布が着々と進み、
    状況によって適材適所の盟約者との合体を選ぶことによって
    効率よくかつ効果的に戦果をあげているのだと推測します』
    「……やけに詳しいのね」
    『ALCAのコンピュータをハッキングして情報を得ました』
    「その中に、新型ゲートカードのものも含まれていた、と……」
    『はい、抜かりなくデータもコピー済みです』

    と、ラルフェは淡く輝くカードを見せた。
    それを見た途端、芽路子は嫌な予感で顔がひきつる。

    「……はい?」
    『万が一使者が襲ってきた際、
    ご主人も複数の盟約者を使いこなせたほうがよいと判断しました。万全です』

    芽路子に忠誠を誓うラルフェは、ただただ主のことを思いやったのだが、
    これが余計なお世話だったのだ。

    「……ちょっと待って。複数の盟約者って……昔、私と盟約したのって、だって……」

    芽路子が気を動転させていると、カードから閃光が放たれる。

    「眩しッ!!」

    そして、芽路子の前に現れたのはかつての盟約者・煌煌だ。

    『きゃー! 芽路子、ひさしぶり!!』

    キョンシー少女・煌煌は芽路子との再会を喜びピョンピョンと飛び跳ね、

    『パソコンだ! ゲームしようゲーム!』

    と、はしゃいでピョンピョンと飛び跳ね、

    『おでかけしようよ! ねー! ねー!』

    と、駄々をこねてピョンピョンと飛び跳ねた。
    的中する嫌な予感……。
    (わ、私の静かな避難ライフが……)
    呆然とする芽路子と傍に控えるラルフェ。
    その周りをぴょんぴょん跳ね回る煌煌。
    (悪いコトって、一つじゃ終わらないのよね、こういう時は……)
    などと思った途端、壁が崩れ去り使者までも目の前に現れた。

    「!!!」

    実は新ゲートカードの作動を感じた使者が探しに来たのだが、
    そんなことは彼女たちにはわからない。
    次から次へ後を追う様に、わらわらと使者たちが現れ始めた。
    芽路子はやむを得ず煌煌と合体。

    『見て見て! 私ね、帰っている間に超レベル高い呪術覚えたの!』
    「……もう、勝手にやってよ……」

    悪霊、瑞獣などを呼び出し使役させる煌煌の呪術に感動も感心もすることなく、
    芽路子はどうにかこうにか地下のトンネルを抜け出し、地上に辿り着く。

    (おのれ……これもALCAのせいだ!!!
    アイツらが変なゲートカードなんか作るからッ!!!)
    芽路子の気持ちは助かった喜びに浸ることなく、
    ALCAを逆恨みする方向に向かって行った。

    「呪ってやる! 呪ってやる!」

    と、ラルフェのコンピュータを操り、ALCAのコンピュータをハッキング。
    とりあえずウイルスやらボッドやらを仕込みつつ、
    あわよくばゲートカードのデータを消し去ってやることにした。
    ものすごい勢いでキーボードを叩き、
    ALCAの研究所のものらしきサーバーにあともう一歩と迫った時だった。

    「……えッ!?」

    黒い画面に浮かぶ記号の海は消えて画面が乱れると、
    突如現れたのは見知らぬ美少女――ニーナだった。

    「ハッキングしているのは、あなた? 定理者ですか?」

    と、冷静に問いかけるニーナ。
    対する芽路子は気が動転して、しどろもどろ。

    「あ、いや、私は、その、合体はしてるのですが定理者ではなく、何というか……」
    「わかりました。あなたがどなたでも構いません。どうか力をお貸しください」
    「力を貸す……?」
    「この騒動の原因を探り、解決する方法を見つけなければなりません。
    手が足りません、お願いします!」
    「で、でも、わたし、なんか……」
    「ここまで侵入できた貴方は優秀です。素晴らしいです。
    その力をお貸しください。共にこの世界を、守りましょう!」

    端末越しでもわかる、少女のまっすぐな瞳と綺麗すぎる心の輝き。
    人の善意とか勇気とか、とにかくそんなものを信じてやまない子の光だ。

    ……正直、芽路子にはまぶしすぎて直視できない。

    「わ、わかった、わかった、から」
    「ありがとうございます!」

    感謝の言葉と共に、早速指示を飛ばしてくる少女の声を聞きながら、
    (良いけど!手、貸すけど!
    この借りは、必ず、必ず返してもらうからね!)
    そう思っても、口には出せない芽路子であった。

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  • 玉姫 & ヴィーナス

     玉姫 & ヴィーナス

     玉姫 & ヴィーナス

    癒しの障壁

    星の力によって使者たちを撃退した学。
    避難民たちと一緒に、学は星と冥に肩を担がれて高層ビルから降りてきた。

    「学っ!」

    その声に反応して、学は顔を上げる。
    こちらに駆け寄ってくる玉姫の姿が見えた。

    「怪我してるの?」
    「……怪我だけで済んでよかった」

    学が星に向かって微笑むと、星も微笑み返す。
    それを見て、玉姫も安心して微笑んだ。
    だが、周囲を取り巻く怪我人や疲弊した人々の姿に、すぐにその笑顔を消した。

    「学たちがこの人たちを守ってくれたのね……カードが届いてよかった」
    「あのカードは玉姫が?」

    玉姫は頷くとポケットに入れていた淡く光るカードを取り出した。

    「……詳しくはまだわからないけど、
    このカードで別の世界にいる盟約者を呼び出せるみたい」
    『だから星がこの世界に……』

    冥が感慨深げにつぶやいた。

    『玉姫は一人なの? 盟約者は?』

    星が訊いた。

    「小玲は一旦ジスフィアに帰ってもらったの。状況によってはまた来てもらうわ」
    『状況によって……って?』

    よくわからず戸惑う星。

    「たとえば、今、私たちを助けてくれるのは……」

    玉姫がそう言った瞬間、カードは閃光を放った。
    そして、その光の中から飛び出したのはヴィーナスだ。

    『もう心配したんだからッ!!』

    現れるや否や、玉姫に抱きつくヴィーナス。

    『セプトピアが大変だって聞いて、私ずーっと早く呼んでって念じてたのよ。
    でも良かったわ。玉姫が無事で……』

    そう言いながら頬ずりをするヴィーナスに玉姫は苦笑い。

    「……私もヴィーナスに会えて嬉しいわ。でも喜ぶのは後にしよう?」
    『あッ! いけない私ったら……』

    ヴィーナスは照れてペロリと舌を出す。

    「! 来た……」

    その時、玉姫たちは不穏な気配を感じる。
    再び使者が玉姫たちの周囲を囲むように現れたのだ。
    一難去ってまた一難――学、星、冥、そして避難民たちもその状況に戦慄する。
    だが、ヴィーナスは余裕の表情だ。

    『大丈夫。任せて』

    頷く玉姫。次の瞬間、2人は合体する。
    ヴィーナスと合体した時の玉姫の武器は鞭のように使うリボン。

    『こんなふうな使い方もできるのよ』

    玉姫がリボンを掲げると、リボンはスルスルと伸び続け、
    それは巨大なドームとなって周囲を取り囲んだ。まるでバリアーのように。

    「これなら敵も入ってこられない……」

    驚きながら学がつぶやく。

    『ウフフッ、ただのバリアーじゃないわ』
    「?」

    学が訊こうとした瞬間、リボンの中にいた人々から次々と声が上がった。

    「痛くない!」
    「治ったぞ!」

    リボンから放たれる力によって傷つき疲弊していた人々が続々と回復していったのだ。
    それは学の怪我も例外ではない。

    『すごい……』

    驚く星。学も、冥も、さらにパワーアップしたヴィーナスの癒しの力に目を見張った。

    『どう? 名づけてラブリーバリアーよ』

    得意げなヴィーナスに、玉姫は笑って返した。

    「それ今、適当に考えたでしょ?」
    「玉姫、聞こえるか!?」

    突然聞こえたのはオルガの声だった。途絶えていた司令部との通信が回復したのだ。

    「オルガ? 聞こえるわ! 私は無事よ」
    「よかった……まだ戦えるようなら、至急クロエのところに向かってほしい」
    「クロエのところ……?」
    「現在、港付近の海底で交戦中と確認できた。クロエを狙って続々と敵が集まっている」
    『よし今度は海の中ね!』

    それを聞いたヴィーナスがはりきる。
    だが、玉姫に考えが。

    「ありがとうヴィーナス。でも適材適所があるから。
    水の中か……今度はあの子の力が必要になるわね」

    そう言った途端、バリアーの外でリボンが淡く光り、動き出す。
    一瞬のうちに、敵たちに向かってリボンが巻きつくと、
    敵たちはまるで大きな愛に包まれたかのように敵意を失い、グッタリと弛緩。
    あっという間に、敵の殲滅が完了した。

    一体倒したかと思えば、続々と現れる敵にクロエは手を焼いていた。
    どれほどの時間を戦闘に費やしていたのか。
    クロエの体力もロジックも限界に近づいていた。
    (このままじゃトランスリミットがきちゃうよ……)
    クロエの焦りを嘲笑うかのように敵の数はなおも増え続ける。
    ざっと見ただけで50体はいそうだ。

    「!!」

    その時だった。
    突如現れた魚の群れが、敵とクロエの間を割って入ったのだ。

    「なんなの……!?」

    クロエが驚いてると、群れをなしたサメや巨大なイカが現れ、敵を襲い始めたのだ。
    よく見ると、その中に、人影が混じっている。
    それは乙姫と合体した玉姫だ。

    「乙姫、まだまだ足りないわ! もっと仲間を呼んで!」
    『任せて!』

    (魚を操っているのは、タマヒメ……?)
    唖然としているクロエに向かって、玉姫が叱りつけた。

    「もう、クロエは無茶なんだから! 一人で飛び出すなんて!」
    「え? だってタマヒメが連絡つかなくてピンチだって言うからさ!」
    「え? そうだったの? ありがと……」

    頭ごなしに怒ってしまったのを反省して頬を赤らめる玉姫。
    一方、クロエは気にしていない様子で、玉姫と背中合わせになった。

    「まぁ、ともかくタマヒメがいれば100人力だね。指示だして」
    「うん、わかった……」

    玉姫の表情が再び引き締まる。
    玉姫とクロエのタッグは、海中でも健在だ。

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  • 縁 & アリオール

     縁 & アリオール

     縁 & アリオール

    戦士になる時

    アリオールと合体した縁は空に飛び立った。
    縁はできるだけ街のすべてを見渡したかった。
    自分の身体がいくつもあれば、玉姫のところにも、学のところにも、クロエのところへも、すぐに飛んで行って手助けしたかった。
    しかしそれは不可能だ。
    縁が選んだ場所は、高度1000メートルの上空だった。

    『攻撃地点の全座標は確認した。いつでも準備はできている』

    アリオールの無機質な声が耳元で聞こえた。
    ――上空から一気に敵を撃破する。
    それが縁の選んだ戦いだった。

    「……」

    縁は黙ったまま、街のあちこちで上がる火の手や黒煙を見つめていた。
    その険しい表情は、いつもの穏やかな縁は別人のようだ。
    (今は私が先輩たちを助ける番!)
    縁は自分に言い聞かせると、パンと両手で頬を叩いて気合を入れた。

    「やりましょうアリオール!!」

    次の瞬間、縁の全身のあちこちから機械が起動する音が響き始めた。
    両肩と腰に装備したビーム砲に充填されるエネルギー。
    機械に翼に取り付けられたミサイルもブイインと音を立てて微かに震えている。

    「全弾発射ッ!!」

    縁の絶叫とともに、一斉に放たれるビームの閃光といくつものミサイル。
    街の東に、西に、北に、南に。
    縁が放った攻撃は、それぞれの地点に着弾していく。
    (上手くいった……?)
    正直、縁もすべての敵を捉えられたか、確信はなかった。
    訓練によってすべての装備を同時に使いこなせるようになったが、
    実戦で使うのはこれが初めてだった。

    「どうでした? アリオール」
    『攻撃目標14体のうち、10体に着弾を確認』
    「よしッ!」

    と、喜んだのも束の間、縁の頭にある疑問が過ぎる。

    「……ん? でも残りの4体は?」
    『こちらに向かってきている』

    アリオールが言い終わるや否や、縁の目に映ったのは目前に迫る敵の姿だった。

    「えええッ……ちょっとぉ! 早く言ってくださいよ!」

    と、いつもの縁であれば動揺していた事態かもしれない。
    しかし今日の縁は落ち着き払っていた。

    「再攻撃用意――発射ッ!!」

    すぐさま向かってくる敵に向かって攻撃を仕掛ける。
    4つの閃光が真っ直ぐに敵に向かっていく。
    その光は初弾よりも遥かに大きい。
    縁とアリオールは、敵を即座に分析し、
    1度目よりも効果的な攻撃を2度目には繰り出せようになっていたのだ。
    巨大な光に包まれ、敵の姿が消えていくのが縁の目にもハッキリと見えた。

    「よし命中ッ!」

    だが、それも束の間。

    『新たなる敵が出現。地上2時の方向』
    「!」

    そこにいたのは、巨大なトカゲ型の使者だ。

    「アリオール、地上にいるソルトに敵の座標を送ってください」

    縁はすぐさまアリオールに指示を送ると、敵に向かって移動する。
    敵のいる場所は、幼稚園に近かった。
    (……ビームやミサイルじゃ幼稚園に被害が出るかもしれない)
    即座にそう判断した縁はソルトと合体して近接戦闘することを選択した。
    縁は現場に向かうソルトを見つける。

    「ソルト!」

    縁が声をかけると、ソルトは振り返る。

    『飛行したまま再合体可能と思われます』
    「私もそのつもりです!」

    地面スレスレの低空飛行で、縁はアリオールとの合体を解除。
    空中に投げ出された縁の身体はソルトへと向かって行く。
    ソルトは向かって来る縁の腕をつかむと合体。
    次の瞬間、縁は敵の前に立ちはだかっていた。

    「デュアルっ コレダー!!!!」

    縁が敵に向かって飛びかかると、紫電をまとった二つの拳がその身体を打ち抜く。
    敵の姿を確認してからここまで、僅か54秒。
    一切の無駄がない見事な攻撃だった。
    戦いを終え、再び空に上がった縁は、赤く染まる空をふと見つめると、
    にこりと微笑みを浮かべてつぶやいた。
    「玉姫先輩、クロエ先輩、学先輩……それから剣先輩。私、もう、一人前ですか?」

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  • ニーナ & リリアナ

     ニーナ & リリアナ

     ニーナ & リリアナ

    不屈のニーナ

    『「花園の祝福ッ!」』

    リリアナと合体したニーナが高く杖を掲げると、
    道を覆っていた使者たちは一斉にピタッと立ち止まる。
    やがて使者たちは、「花園の祝福」が放つ多幸感に、戦意を失い、倒れていく……。

    「相変わらず凄まじい威力を持った技ですね……」

    ニーナがつぶやくと、リリアナのおっとりとした笑い声が聞こえた。

    『さあ、道が拓けました。急ぎましょう』

    リリアナの言う通り、今、ニーナを遮る者はない。目的地まで一本道ができていた。
    「アイシャ、ついてきてくださいね」
    合体を解除したニーナが歩を進めながら、背後にいるアイシャに声をかけた。

    『ふーん……まあまあな、技ね』

    アイシャはツンとしながら、ニーナのあとをついていく。
    ニーナとリリアナと一緒に戦う覚悟で来たものの、結局合体するタイミングが無く、
    少し拗ねていたのだ。

    3人が目指した場所は、街の外れにあるALCAの支局。

    「……誰もいないんでしょうか」
    ガランとしていて人の気配を感じない。
    それに壁は傷つき、廊下には物が散乱している。
    それは、この場所もまた使者たちに襲われていたことを意味していた。
    『郊外の支局なら安全かと思ってましたのに……』
    リリアナは悲しげにつぶやいた。
    『それじゃ、ニーナのお目当てのモノもやられてるんじゃ……』

    アイシャが言い終える前に、ニーナは駆け出していた。

    『ニーナ!!』

    ニーナが向かったのは、支局にある指令室だ。
    そこにあるコンピュータから、本部のホストコンピュータにアクセスできる。
    ――この事態を招いたものは何だったのか?
    支局の端末からそれを探るため、ニーナはここにやってきたのだ。
    「……!」
    指令室を見て、ニーナはハッと息を呑む。
    アイシャが懸念していた通り、端末も無残に破壊されていた。
    「……」

    立ち尽くすニーナに、リリアナもアイシャも声をかけづらそうにしている。
    そのうちニーナは諦めがつかないのか、
    破壊された端末に近づき、黙々とイジリはじめた。
    その姿はアイシャには悲痛に見えた。
    いくら修理しようが無駄――
    そうとしか思えないほど端末はズタズタに破壊されていたのだ。

    『ニーナ、あんまり無理しないで。ちょっとさ、息抜きしようよ』
    気遣ってアイシャは言った。
    『それがいいかもしれませんね。ここに来るまで戦い続きでしたし』
    リリアナも同じ気持ちだ。
    『そうそう! 何かして遊ぼうか! 気晴らしにさ!』
    『じゃあ……おままごと?』
    『いや……』
    『かくれんぼ?』
    『ええと……』
    『鬼ごっこ?』
    『もう、子ども扱いはよしてよ!!』
    アイシャはたまらず叫んだ。
    『ごめんなさい。アイシャは子どもじゃないものね……』
    リリアナはクスクスと笑った。
    アイシャは不満そうに「んもお……」と腕を組んで行こうとする。

    『何か面白そうなものがないか、探してくるよ』
    「結構です」
    ニーナは目もくれずピシャリと言った。
    「私は任務をまっとうします」
    『任務ったってそれがそんな状態じゃ――』

    そう言いかけた瞬間、部屋が次々と淡い光りに照らされはじめた。

    『!!』

    部屋のあちこちにあるモニターが息を吹き返したのだ。
    「……これで何とかなりそうですね」

    そして、ニーナは淡々とキーボードを叩き始める。
    ニーナは、不可能としか思えなかった端末の復旧をやり遂げてしまったのだ。
    ――忘れてた。ニーナは天才だった。
    リリアナもアイシャも、その小さく可憐な背中をただただ唖然と見つめていた。
    一方、ニーナは目的だったホストコンピュータへのアクセスに成功し、
    この状況を分析するため、深い思考の海へと沈んでいった。

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  • 学 & 星

     学 & 星

     学 & 星

    空から降る「ほし」

    同時多発的に起こった使者の襲来――。
    学と冥がいた高層ビルもその例外ではなかった。
    階下から使者たちが押し寄せ、商業フロアにいた人々をパニックに陥れた。
    救援を要請しようにも、ALCA本部も混乱をきたしてるのか通信不能。
    階下のフロアは使者たちに占領され、下に降りてビルから脱出するのは不可能だ。
    客たちを上の階へと誘導し、使者たちの殲滅に徹する――
    学と冥にはその道しか残されていなかった。

    「2人で相手するには少し多い……」

    波のように押し寄せる使者たちを前に、学はまるで他人事のようにボソリとつぶやく。

    『……ならば、もう1人増やそう』

    冥が冷静に言うと、学はうなずいた。すぐにあの技だとピンときたのだ。

    『「多重分身の術ッ!」』

    合体した学たちが唱えた瞬間、その身体は3体に分身する。
    残像ではない。呪力と気力によって、本当にその身を分けたのだ。
    3体の学は息の合った連携技で、使者たちの足を止め、一体、また一体と、仕留めていく。
    だが、敵の数は想像以上だった。
    本来、暗殺者である冥に一度に敵を殲滅せしめるような大技はない。
    次から次へと襲い来る使者たち。過ぎていく時間。
    学と冥は次第に疲弊し、ついに分身に費やす気力も限界に達した。
    2人は撤退を余儀なくされ、ビルの最上階から屋上へと追い詰められていった。
    分厚いシャッターで屋上までの侵入は防ぐことができたが、いつ打ち破られるかは時間の問題だった。
    大勢の避難民たちとともに、学と冥は合体を解除して最後の戦いに備え気力を養っていた。
    恐怖に震えながら身を寄せ合う人々を見て、学はボソリとつぶやく。

    「……この人たちだけでも助けたい」
    『……そうだな』

    その時、冥は夜空を見つめていた。
    (星のことを思い出してるんだ……)
    学はすぐにそう思った。学もまた星のことを思い出していたからだ。
    禁断のオーバートランスを使い、遠い世界へと去っていった大切な友達のことを――。
    (……オーバートランスを使うことを冥も考えている、きっと)
    学がその思いを口にしようとしたその時だった。

    『……なんだ、あれは?』

    翼をつけた少年が飛び去ったのが見えたかと思うと、
    キラキラと光りながら何かがヒラヒラと落ちて来るのが見えた。
    (「ほし」が落ちてきた……?)
    学は一瞬そんな錯覚をした。
    だが、その光の欠片から人の姿が飛び出してくるの見えた。
    「ほし」ではない「星」だ。
    やがて星が2人の前に、着地する。

    『助けにきたよ!』

    星は何事もなかったかのように屈託のない笑顔を見せる。

    「……」
    『……』

    学も冥も、あまりのことに驚き、言葉を失っていた。

    『えーと……私のこと忘れちゃった?』

    星は戸惑いながら冗談っぽく言った。
    思いがけない再会に、2人の感情は次第に驚きから感動に変わっていった。
    しかし、学も冥もそれを表に出すのがあまりに下手だった。

    「いや……」
    『……忘れるわけがない』

    そう言うのが精一杯だった。

    『あー……いいよいいよ。2人がリアクション薄いのは何となく予想したから……』

    星は苦笑いで、嬉しい感情を誤魔化す。
    ドン! ガシャーン!!
    使者たちの行く手を遮っていたシャッターの強度はもはや限界のようだ。
    今にも使者たちがあふれだしそうなほど歪んでいる。

    『……こうしちゃいられないね。学、合体しよう』

    星は学に手を差しだした。

    「……できるの?」

    学は驚いた。
    オーバートランスの影響で星はロジックを失い、合体不能のはずだったからだ。

    『まあ、やってみればわかるよ!』

    学と星は手を握り合うと、光に包まれ合体する。
    と、同時にシャッターを打ち破り、ついに使者たちが屋上に現れた。

    『荒ぶる魂を鎮めるのも、巫女の役目……』

    星のつぶやきとともに、学から放出される巨大な霊力。
    使者たちは目に見えぬ重圧に押しつぶされるように、一斉に身動きを止めた。

    「すごい……」

    新たなる星の力に、学は目を見張った。

    『向こうの世界で新しいロジックを得たんだ……。これでまた一緒に戦えるよ』

    星の言葉に、学はやっと笑顔を見せた。
    それを見て、ホッとする星。
    ふと、冥を見ると彼女は学たちに背を向け、
    避難民たちをより安全な場所に誘導しようとしていた。
    だが、一歩踏み出したところで足を止める。

    『……おかえり、星』

    背中越しに冥の声が聞こえた。
    星は微笑んで答える。

    『……ただいま』

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  • クロエ & ダイガ

     クロエ & ダイガ

     クロエ & ダイガ

    二人の盟約者

    玉姫との通信が途絶えた。
    オルガがスタッフたちと話しているのが聞こえた瞬間、クロエはすでに走り出していた。
    無我夢中で表通りに出ると数キロ先で上がる黒煙が見えた。
    (きっとあそこだ!)
    直感でそう思ったクロエが、黒煙の方向に足を向けたその時だった。
    ドンッ!
    と、突然地面が揺れた。
    「!?」
    驚き立ち止まるクロエ。
    次の瞬間、地面が割れて、中から現れたのは厚い甲羅に覆われた巨大な亀――モノリウムの使者だった。しかも、2体。
    (もう! 今、どんだけの使者が街中で暴れてんのよ!?)
    クロエは街が今、危機的状況に置かれているのを改めて実感し、身が震えた。
    使者はいかにクロエを料理しようかと想像して楽しているのか舌なめずりしている。
    この危機をいかに打開するか――クロエの頭はそれでいっぱいになった。
    だが、妙案は思い浮かばない。
    合体しようにも盟約者は傍にいない。
    (今は自分の力だけで……踏み込んで思いきりキック! イチかバチかやるしかないでしょ!)
    そしてクロエは膝を屈して思いきり敵に飛びかかった。
    その瞬間、クロエの足首に何かが巻きついた。
    使者の長い舌だ。
    「くそッ……」
    抵抗しようにも物凄い力で、クロエは使者のほうへと引きずられていく。
    『グオオオッ!』
    「!」
    突然吠える声が聞こえ、次の瞬間、巨大な影が使者に向かってドシンと体当たりした。衝撃で使者はクロエから離れていく。
    「ダイガ!」
    クロエを救った、白銀の毛皮に黒の縞を持つ大きな虎。
    そう、迅撃のダイガ――故郷の世界へと帰っていたはずのかつての盟約者だ。
    「どうしてここにいるの……?」
    思わず呆然とするクロエ。
    ダイガは『その説明はあとだ』と目で訴えながら、クロエに近づく。
    クロエはダイガの気持ちを察する。
    今、クロエがダイガとできることは一つだけだ。

    「よし合体!!!」

    瞬く間に、クロエの身体は虎柄の毛皮に包まれる。

    『さあ、どれだけ腕を上げたか見せてくれ』

    力強いダイガの声が聞こえる。

    「でもさ、アイツ甲羅ちょ~っと硬そうだよ? アタシたちの力で割れるかな?」
    『信じろ。オレたちの拳に破れんものはない』
    「フフッ……言うと思った!」

    久々に交わすダイガとの会話に、クロエのテンションもMAXに上がった。
    闘志と共に、ふつふつと全身に力がみなぎってくる。
    (アタシたちの力は、前より、もっともっと、凄い!)
    野獣のようにクロエは敵に近づくと、使者に向かって爪を突き立てた。

    『!!』

    敵もクロエたちの力を感じたのか、手足を甲羅に引っ込めて防御に徹する。

    「必殺! スペシャルタイガークラーッシュ!!!!!」

    ギッ! ガガガガッ!!!
    鋭い爪が硬い甲羅を食い込んでくと、次第に亀裂が入り始めた。
    ピッキキキキッ!
    と、亀裂は甲羅全体に広まると同時に、敵の内部から光が漏れだす。

    「うおおおおおおッ!!」

    クロエの拳はついに甲羅を砕き、敵の身体を貫いた。
    やがて敵は内部から爆発したように、砕けて散った。

    「い……痛ぁ~!!!」

    勝ったにもかかわらず、叫んだのはクロエ。

    『す、すまん……捻挫でもしたか?』

    ダイガも少し動揺している。

    「ダイガの嘘つき! めっちゃ硬いじゃん! アイツの甲羅!」
    『いや、確かにそうだが……』

    しどろもどろとなるダイガ。
    軽口を言いつつも、一方クロエは成長した二人の力をはっきり感じていた。
    流す気力をコントロールしてやれば、この爪はもっともっと強く、鋭くなる。

    その間にもう1体の使者はいつの間にか消えていた。

    「あッ! 逃げた!」

    慌てて見回すと運河に逃げ込む残りの1体が目の端に見えた。
    観光スポットにもなる綺麗な運河だが、この運河は港へと通じている。
    今を逃せば、港から海へとどこまで逃げていくだろう。
    (うっ水中……こんな時、あの子がいてくれたら……
    でも、そんな都合よく現れるわけないよね……)

    「とにかく追いかけようダイガ!」

    運河に飛び込もうとするクロエの肩を何者かがそっとつかんだ。

    「え……」

    そこにいたのは流のフィリル。
    彼女もまたクロエのかつての盟約者だった。

    「フィリル! あんたもこの世界にはいないはずでしょ!?
    今日は一体全体どーなってんの!?」
    『その説明はあとにしましょう。それよりも――』

    と、フィリルは水路を見やる。

    『水の中なら、私と合体したほうが戦いやすいでしょ?』

    そう言ってフィリルはいたずらっぽく笑った。

    「そー思ってたとこ!」

    クロエはダイガとの合体を解除。

    「ダイガありがと! フィリルよろしく!!」

    そしてすぐさまフィリルと合体し、水路に飛び込んだ。
    やはり水中ならフィリルは無敵だ。
    あっという間に敵を捉え、クロエは敵にトドメを刺そうと三叉矛を構えた。
    そしてふと思う――
    (戦いながら盟約者をチェンジできるなんてゼータクうううッ!!)
    ――と。

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