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BT03 ストーリー

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 BT03 ストーリー

ブレイクダウン・デイ

──我々人類は長きに渡る年月の中で、人為らざる様々な異世界の使者との出会いを体験してきた。

神々や天使、悪魔、百獣、魑魅魍魎……。

その出会いはやがて歴史に刻まれ、神話や伝説、御伽話となって後世へと伝承されていった。

我々は『過去』からでしか知ることも、学ぶこともできない。
つまり、言い換えるならば、

『未来』に対してはほとんど無知で無力な存在なのである──。

この世界には数多の異世界が存在している。

その中には当然、未だかつて認識されずにいる異世界もある

──異世界トリトミー。
そこは有機生命が一切存在しない電脳の世界。

生息しているのは、超科学技術によって生み出された機械体だ。
A.I.によって独自の意志を持ち、永久機関が生み出す無限電力によって駆動する。

その世界が何者の手によって創り出されたのか、その真実はトリトミーの歴史には存在しない。

なぜなら世界の歴史も、生息者たちの記憶も、データ上の記録でしかなく、
合理主義によって自由に改竄されてしまうからだ。

全てが虚構であり、虚構こそが真実の世界──
それがトリトミーだった。

しかし今、画一化されたトリトミーの世界に未知の概念が生まれつつあった。
有機生命が存在しないトリトミーに、たった一つだけ異物が現存されていたのだ。

その昔、トリトミーの何者かによって持ち込まれた膨大な数のデータカード。

そこには有機生命に満ち溢れた未知の異世界セプトピアに関するビッグデータが記録されていた。

トリトミーの世界政府はそのビッグデータをもとに、セプトピアに生息する人間のメカニズムについて長年分析を重ねていたが、どうしても合理的に解明できない謎があった。

人間の『ココロ』という概念だ。

電脳世界のネットワークを介して『ココロ』という概念は加速度的に広まっていき、セプトピアの存在はトリトミーに住む機械たちの興味の的になった。

トリトミー世界政府は画一化された世界の崩壊を恐れ、セプトピアに関する全ての概念を封印すべく世界の記録から消去しようと考えたが、時すでに遅し。

広いネットワークの中で無限増殖し続ける記録を消去することは不可能に等しい状況だった。

そして現代
──トリトミーβ-999区で旅客業を営んでいた企業『エアライン999』は街の片隅に落ちていた門カードを発見。
セプトピアに興味を抱く機械たちに向けて、セプトピアへの旅行業を開始した。

セプトピアに向かうトリトミーの機械たちの目的は様々だった。

単純な観光を目的とする者。

有機生命に関して専門的な調査を行う者。

中でも重要な事案として関心が高まっていたのは『門』に関する研究だ。

門がなぜ、どのようにして生まれたのか──。

異世界同士を繋ぐ 門のメカニズムとは何なのか──。

そしてセプトピアでは、新たな時代が幕を開けようとしていた。

まるで魔法のような超科学技術を有するトリトミーの使者たちの出現は、
大いなる興味と脅威の対象になった。

観光目的でやってきた使者に関しては治安上の問題もなかったことから、
ALCA世界本部は友好的対応を取ることを決議。

やがて定理者たちの中には、未知のトリトミーの使者に関心を抱き、
友好関係を結ぶ者も出始めていた。
が、全ての使者が友好的とは限らなかった。

有機生命の尊さを理解していないために、セプトピアの民間人にトランスジャックすることによって乱暴な調査を行う者も多く、ALCAは対策を迫られることになった。

トリトミーの使者による調査対象には『ココロ』を尊重する神社仏閣も含まれており、乱暴な使者による破壊行動も頻発するようになった。

その事態を知ったジスフィアは、セプトピアに協力するために有力者を派遣。

各ALCA支局はトリトミーやジスフィアの友好的な使者の協力を借りつつ、首都防衛のために定理者を戦場に投じることになった。

人々は、想像を超えたトリトミーの科学技術の歴史的な目撃者となった。
そして同時に電脳世界トリトミーの存在は、セプトピアの新たな歴史として刻まれることになるだろう。

それだけではない。

トリトミーとの出会いによって、ロジカリストたちが大いなる運命に導かれようとしていた。
それは門にまつわる新事実の発見だった。

超科学のCPUを有したトリトミーの使者はALCAに極秘調査報告書を提出。

『Confidential あらゆる生命体と門の多次元的リンクについて』
一体、この調査結果が何を意味するのか──。

これまで『過去』からでしか知ることも学ぶこともできなかった。

しかし我々は『未来』から知り、学ぶ力を手に入れたのだ。

その力はやがて我々の既成概念を大きく変えることになるだろう──。

BT03 Spirit & Signal のカード一覧

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  • 玉姫 & キュア

     玉姫 & キュア

     玉姫 & キュア

    トラブル・ガール

    玉姫は定理者になる前、パラドクスシックの専門医を志していた。
    そんな彼女のロジックに共鳴する新たな盟約者として選ばれたのが──キュア119だ。
    キュアはセプトピア各地の被害を食い止めるために、主に民間人救護の遠征部隊としてトリトミーからALCAに派遣された、トリトミーの武装メカナース。
    戦地での救命任務を目的として開発されており、あらゆる医療器具はもちろんのこと、
    有事の際に患者を護衛するための武器も完備されている。
    玉姫とキュアの盟約は自他ともに認める最高の相性──のはずだった。

    その日、戦地で苦しむパラドクスシック患者を救うために、玉姫とキュアは現場に駆けつけていた。

    「キュア! 合体よ!」
    『はい! 皆さんのお役に立つのです!』

    そう言って玉姫に近づこうとした瞬間、地面につまづいてしまうキュア。
    おもわず玉姫の胸に手をついて身体を支えた。

    「ちょっと! どこ触ってるの!?」
    『ご、ごめんなさいなのです……! 足元の地形を計算に入れてなかったのです!』

    キュアの足元は、何の変哲もない平らな地面だ……。
    玉姫はそれ以上突っ込むことはやめ、気を取り直して合体。被害者の救護活動にあたった。
    持ち前の医学知識でキュアの医療器具を的確に使いこなし、患者を助けていく。

    『やっぱり玉姫さんはすごいのです! とっても勉強になるのです!』

    人間にもかかわらず的確な治療行為を施す玉姫は、キュアにとっての憧れであり目標とする存在だった。
    玉姫に絶対的な信頼を寄せ、慕っていた。
    玉姫はそんなキュアを愛おしく思っていた。
    おっちょこちょいなところはあるものの、
    失敗しても決してめげずに前向きなのがキュアの良いところだったからだ。

    そんな時、新たな使者襲来の一報が舞い込んだ。
    玉姫とキュアは緊急対応のため、現場へと向かい、直ちに合体。暴れる使者と相対する。
    今度こそ役に立ちたいと考えたキュアは、自身の特殊装備・透視光線によって使者の弱点を見破ることを提案。
    さすがはメカナースだけあって瞬時の判断力は早い。

    「お願い! キュア!」

    ところがキュアは使者に狙いを定める前に透視光線を発し、
    誤って玉姫自身に当ててしまう。
    合体時のコスチュームだったピンク色のナース服が徐々に透け、
    玉姫の裸体が露わになっていく。
    「キュア! どこ狙ってるの!」
    『はわわ! またやってしまったのです! ご、ごめんなさいなのです……!』

    玉姫は呆れつつも、一刻を争う事態だったため、そのままの姿で戦いに身を投じるしかなかった。

    また一人、手のかかる妹が増えたかな──。

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  • 玉姫 & シグマ

     玉姫 & シグマ

     玉姫 & シグマ

    砲機、決死の出撃

    ALCAのハウスサロン。

    和の趣きがある玉姫の部屋に、不釣り合いな10cmサイズのカラフルな玩具のロボットがあった。
    キュアと同様、ALCAに協力するために派遣されたトリトミーの使者・シグマ010だ。

    『いつになったら僕と合体してくれるんだ!』
    「お願い、もう少しだけ待ってて。今は民間人の救護で忙しくて」

    『これじゃ、玉姫と盟約した意味がない……』
    「約束する。戦う時は私と一緒。……ね?」

    玉姫は小指を差し出し、シグマの小さな手と指切りした。

    シグマの元体は超AI搭載の最新型砲撃支援モビルスーツであり、
    重装甲と圧倒的な火力で敵を制圧するために開発された。

    しかし製造年月が浅いため、ほとんど戦闘経験がなかったのだ。

    戦うために開発されたシグマは、どんな機械よりも血気盛んで勇敢。

    戦場こそが自分の居場所だと考えていたのだが、未だ出撃する機会に恵まれていなかった。

    シグマはもはや我慢の限界に達していた。

    なんとか戦果を上げてALCAに認めてもらいたかった──。

    ある日。戦地の救護任務から帰還した玉姫は、自室にシグマの姿がないことに気付く。

    なんと別の定理者が対応にあたっていた戦場に、適応体のままのシグマが勝手に出撃してしまっていたのだ。

    すでにトランスリミットを迎えており、再合体できるようになるまで待機命令が出ていた玉姫だったが、いてもたってもいられず戦地へと飛び出していく。

    戦場では激しい攻防が繰り広げられていた。

    得意の砲撃で使者を駆逐しようとするシグマだったが、
    適応体の砲台から発せられたのは玩具の弾。

    シグマの決死の想いは叶わず、弾はむなしく地面を転がっていく。

    やがて使者の攻撃に巻き込まれ、シグマは全壊の危機に瀕してしまう。

    ギリギリ駆けつけた玉姫は、壊れかけたシグマを慎重に抱き上げる。

    「無謀なことしないで! 死んだらどうするの!?」
    『無謀? 言っている意味が分からない。僕は戦うために開発されたんだ!』
    「戦う時は一緒って約束したじゃない!」
    『飾りの玩具にされ続けるのはもうこりごりだ!』
    「だからって……死んじゃったら、そこでおしまいなんだよ……?」

    その時だった。玉姫の目から一筋の涙がこぼれ、シグマの身体を濡らす。

    「……あなたは私の大切な盟約者……あなたの命はもう……あなただけのものじゃないんだから」

    そう言って、シグマを優しく抱きしめる玉姫。

    「……シグマが勇敢なことは知ってる……あなたのことすごく頼りにしてる……
    だから……お願いだから……もう二度とこんなことしないって約束して……」

    シグマは、玉姫の『ココロ』を感じ、身体に熱を感じた。

    『……分かった……もうしない……ごめん……なさい……』

    シグマの玩具の目からは一筋の涙が流れていた。
    それが玉姫の涙で濡れていたからかどうかは、誰にも分からなかった。

    「よし! じゃあ今こそ約束を果たす時ね」
    『約束……?』
    「シグマ。あなたの力を私に貸してほしいの」

    玉姫がシグマを膝の上に乗せると、二人は見つめ合い、決意した。

    「……トランス!」

    戦場に、シグマの重装甲を身に纏った合理体・玉姫が降り立った。

    二人の力によって荒れた戦場を鎮圧できたのは、もはや言うまでもないだろう──。

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  • ニーナ & エメラダ

     ニーナ & エメラダ

     ニーナ & エメラダ

    ピアノ・レッスン

    ALCA支局内に響くピアノの旋律。

    ニーナ・アレクサンドロヴナがサロンに持ち込んだグランドピアノの音色だ。

    休日の午前、ニーナはピアノに向かうのを日課にしている。

    真っ白な肌に銀髪のツインテールに品の良いワンピース。

    まるで西洋のアンティーク人形のような少女がピアノに向かう姿に、

    サロンを通りかかった者は誰もがうっとりと溜息を吐いた。

    『美しい曲ね』

    ニーナは手を止めて、振り向いた。

    そこに立っていたのは、彼女の盟約者エメラダ・シンフォニー076だった。

    「エメラダも、弾いてみますか?」

    ニーナはそう言ってイタズラっぽく笑った。

    『ありがとう』

    エメラダは嬉々としてピアノに向い、細長い白い指で鍵盤を弾き始めた。

    エメラダはもともとトリトミーで作られた電子楽器だ。

    セプトピアに適応した今でも、あらゆる楽器を弾きこなすことができる。

    初めて聴いた曲であっても、楽譜を見ただけで弾くことができた。

    超絶な技巧で、ミスのない完璧な旋律が室内に響き渡った。

    やがて弾き終えると、エメラダは満足げにニーナに向かって微笑んだ。

    ニーナも微笑み返し、パチパチと小さな手で拍手する。

    「素敵な演奏……」

    ニーナは大きな目を輝かせ、エメラダの演奏にすっかり魅了されていた。

    「きっと先生は、エメラダみたいに弾いてほしかったのね……。」

    『先生?』

    エメラダが訊いた。

    「ピアノの先生。

    私、気持ちが高まると、楽譜を無視して作曲してしまう癖があって…。」

    ニーナは苦笑いを浮かべる。

    それを聞いて、エメラダは不思議そうに首を傾げた。

    ニーナが言う「気持ちが高まると楽譜を無視してしまう」という感覚がよく理解できなかったのだ。

    『ねぇ、もう一度、ニーナのピアノを弾かせて』

    エメラダはその不思議な感覚が何なのか確かめたくなり、ニーナに催促した。

    「えっ……。エメラダの後に弾くなんて……」

    ニーナは顔を真っ赤にして恥ずかしがったが、エメラダが何度も催促するので、とうとう折れてピアノ前へと向かった。

    『気持ちが高まるって、どんな時になるの?』

    エメラダの質問に、ニーナは小首を傾げて考え込む。

    「たとえば、この曲。とっても美しい情景を表現したものです」

    『美しい情景?』

    「その風景の中が目の前に広がって、自分が溶け込んでいくような気がした時、

    何だか気持ちが高まっているような気がします……」

    ニーナが再びピアノを奏でだすと、エメラダが静かに聴き入った。

    楽譜通りの旋律が流れていたはずが、徐々に楽譜を離れアレンジされていく。

    しかし、決して悪いアレンジではない。エメラダは、高揚するニーナの感情がそのまま音で表現されているような気がした。

    「ほら、深い森を通り過ぎるそよ風、小鳥たちのさえずり、湖で踊る水鳥……

    そんな情景が目に浮かんできませんか?」

    トリトミーの世界にそんな風景はなく、エメラダは見たことがなかった。

    だが、ニーナが奏でる旋律はいつの間にかエメラダにそんな世界を想像させていた。

    それはエメラダが初めて味わう感覚だった。

    ニーナの演奏が終わると、エメラダは力強い拍手を送った。

    『音楽とはその場かぎりで楽しむもの、そんなふうにしか考えていなかったわ……

    音楽で、世界を作り出すことができるのね……』

    エメラダの目には涙も溜まっていた。

    エメラダが他者の演奏を聞いて、こんな気持ちで涙するのは初めてのことだった。

    それを見て、ニーナは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにほほえんだ。

    「エメラダ……。

    今度は一緒に、弾いてみませんか?」

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  • 七星縁 & ソルト

     七星縁 & ソルト

     七星縁 & ソルト

    戦闘アンドロイド・ソルトの或る朝の風景

    新たにセプトピアに開かれた門。

    それは、未曾有の超科学技術を有した異世界、トリトミーに通じる門だった。

    トリトミーからやってきた使者たちの目的は、調査や研究、あるいは単なる観光と様々だったが、中には魔法の様な超科学技術を乱暴に駆使し、勝手気ままに振る舞う者達もいた。

    ALCAは早速その対処のため、友好的な使者と盟約を結んだ定理者たちを招集。

    その中には、トリトミーの戦闘アンドロイド・ソルト236と
    新たに盟約した七星縁の姿もあった――

    ALCAナイエン支局の、定理者が生活するハウスサロン。

    ここの掃除洗濯といった家事一切を仕切っているのが、定理者・七星縁である。
    もともと、盟約者を得るまでの、せめてものお手伝いと始めたことだったが、
    盟約者を得た今も、縁は望んで引き受けている。

    今日も縁は、自ら料理した食事をテーブルに並べ、チームの皆にふるまう。

    「しっかりした食事管理も、定理者の努めなんですよ」

    チームのメンバーたちが舌鼓をうつ中、ひとり、箸をつけずにいる者がいた。

    異世界トリトミーから来た、縁の新たな盟約者の一人。

    元は戦闘アンドロイドの、ソルトだ。

    未曾有の超科学技術を有した異世界、トリトミーに通じる門が開き、多くの使者が現れた。

    彼らの目的は、調査や研究、あるいは単なる観光と様々だ。

    だが中には、魔法の様な超科学技術を乱暴に駆使し、勝手気ままに振る舞う者達もいる。

    ALCAは早速その対処のため、友好的な使者に協力を依頼した。

    依頼に応じたトリトミーの使者たちの中には、セプトピア防衛の任務を与えられた戦闘アンドロイド・ソルト236の姿があった。

    そのソルトと盟約を結んだのが、ナイエン支局の定理者・七星縁である。

    セプトピアのロジックに適応した今は、ソルトも一見、普通の女性に見える。

    ただあまりに無表情なので、はたから見ると何を考えているのか、ちょっとわかりにくい。

    「ソルトさん、ご飯、お口に合いませんでしたか?」
    『そうではありません、縁』

    人間同様の身体になったソルトに、特に苦手な食事はない。しかし。

    『縁、前にも意見具申しましたが。
    このニザカナ、という栄養補給方法には問題があります』

    「えっ? 美味しくありませんでした? 自信、あったんだけどな・・・」

    『いえ。セプトピアのロジックに適応した現在の私が有する味覚、と呼ばれるセンサー。
    この感覚器から入力される情報には価値を認めます』

    「うんうん、この味付けは、母から教えてもらった秘伝の味付けなんですよ?」

    『私の問題提起はそこではありません』

    「じゃあどこです?」

    『今回の補給にあたっては、この様に』

    ソルトの右手が素早く動くと、皿の上の煮魚から次々と細かい骨が抜かれ、脇にのけられていく。

    『このコボネと呼ばれる部位を除去するために、約23秒の時間を浪費しています』

    「箸の使い方、上手くなったよね」

    『これより扱いの難しい武器はいくらでもあります。
    そうではなく。単位時間あたりの摂取カロリー、つまり栄養補給効率を私は問題にしています』

    「いつもソルトは食べるの早いよね。よく噛んで食べてる?」

    『消化器官にも問題はありません。それより』

    卓上の、湯気を立てている湯のみをさすと、

    『このオチャと呼ばれる飲料についても、同種の問題があります』

    「自分でお茶葉を焙じてみたんですよ、良い香りでしょう?」

    『確かに、私の嗅覚でも同様の評価を得ています。
    ――そうではなくて。
    縁、ペットボトル、と呼ばれる容器に、
    すでに抽出済みかつ速やかに接種可能な温度の同種の飲料が、用意されています。

    そちらを提供した方が、効率的な水分補給を行えるのではないでしょうか』

    『毎回、茶葉からエキスを抽出し数杯分の飲料を作成するのは、縁にも余分な負担を与えていると判断します』

    「はい、冷たいお茶も良いですよね。
    でも私は、食後にはやっぱり、熱いお茶が美味しいと思うんです!」

    ソルトは改めて縁の顔を見ると、その疑問を口にする。

    『美味しい・・・ 縁、そのパラメータはそれほど重要なものでしょうか』

    「美味しいのは、とっても大事なことだよ。だって、美味しいは、心の栄養だから」

    『ココロの、栄養・・・』

    ソルトにはまだ、セプトピアの人間が
    「ココロ」と呼ぶ、その姿形のない器官の価値が、よくわからない。

    セプトピアに適応した自分に、「ココロ」があるのかも、わからない。

    ただそれを、縁たちが大切に守ろうとしていることは、理解している。

    自分がこのセプトピアに派遣された理由。
    縁と合体し戦う理由がそれだと言うのなら。

    心臓、と呼ばれる器官が、通常より早く鼓動する。

    数値化できない体温の上昇を感じる。

    これを守るためなら、私はいつでも、彼女の光の剣となろう。

    今日も縁の笑顔を見ながら、ソルトは己の任務を再確認していた。

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  • 七星縁 & アリオール

     七星縁 & アリオール

     七星縁 & アリオール

    バード&ハート・ストライク

    縁はALCAの任務の為にヘリで移動中、言葉を喋る一羽の鷲が機体に接触する事故に遭遇。
    命がけで鷲を救出することに成功した。

    その鷲はある目的でセプトピアにやってきた
    電脳世界トリトミーの使者

    ──空を飛び獲物を狩る為に設計された汎用型戦闘翔機だった。

    鷲はプログラムされた目的に従い、負傷した身体のまま再び空へと戻ろうとする。

    鷲を心から心配し、なんとか説得を試みる縁。
    やがて鷲は身体の中に未知の熱を感じて──。

    その日、縁は別支局の休暇のローテーションのため、ALCAのヘリで出張することになった。

    新天地での初めての任務に大きな期待と
    多少の不安を抱きながらヘリから外の景色を眺めながら、かつて使者と合体して自由に空を舞った日々を思い出す。

    そんな時、ヘリと並行飛行する一羽の鷲に気付いた。

    機体に接触しそうな程の距離を飛ぶ鷲に驚きつつ、ドアを開けて思わず「危ないですよ!」と叫ぶ。
    鷲に言葉が通じるはずも無いのに。しかし、

    『……システムオールイエロー……本機の飛行に支障は……ない……』

    喋るはずのない鷲から返事があったことに驚く縁。

    だが鷲は不安定な飛行によって機体に接触。
    意識を失って落下しかける。

    縁はとっさに手を伸ばし、自分も落ちそうになるギリギリのところで鷲を掴んで救った。

    医療機関で治療を受け、意識を取り戻したその鷲
    ──トリトミーの使者、アリオール・ラプトレス015。

    自分に似ているが、機械ではない『鷲』という生物がいることを知り、一目見たさに訪れたアリオールだったが、
    セプトピアのロジックに適応した身体になったことで飛行能力の違いに戸惑っていたのだという。

    怪我した身体で強引に医療機関を飛び出そうとするアリオールを、縁が引き止める。

    『……本機は空を飛び、獲物を狩る。その為に製造された』
    「そんな身体じゃ危険です! 私も空を飛んだことがあるから分かります!」
    『……その時はその時。本機の同型は数百機。代替機はいくらでも存在する』

    汎用型戦闘翔機だったアリオールは、同じ生産ライン上で何機も製造されている。
    戦闘用・狩猟用として、開発段階から使い捨てられることを想定して設計されていたのだ。

    「……アリオールさん、兄弟がたくさんいるんですね。私と一緒です」

    アリオールほどの大家族ではないものの、縁にも三人の弟がいた。

    背格好こそ似ているものの誰一人として同じ人間ではなく、性格もバラバラで世話が焼ける弟たちだ。

    「アリオールさんだって一緒です。だって鷲に会いたいって思ったのは、兄弟の中でもアリオールさんだけですよね?」

    その時、アリオールの思考回路が狂い始めた。
    画一化された合理社会トリトミーには無いロジックだったからだ。

    やがてアリオールは縁が定理者であり、
    セプトピアのルールに従おうとしない一部のトリトミーの使者から、首都を守るための任務についていたことを知った。

    「今、トリトミーから困った方たちが来ているんです。
    よかったら私と一緒に説得してくれませんか?
    その代わり、本物の鷲を探すの一緒に手伝いますから!」

    アリオールは身体の中に未知の熱を感じた。
    その原因が接触事故によるものか、縁と出会ったからかは不明だったが、彼の中で何かが変わり始めた。

    生きたい
    ──使い捨ての汎用型兵器ではなく、代わりのない一個体として。

    アリオールが感じた未知の熱こそ
    ──トリトミーには存在しない『ココロ』という概念だった。

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  • 芽路子 & ラルフェ

     芽路子 & ラルフェ

     芽路子 & ラルフェ

    スパイスに惹かれて……

    香ばしいスパイスの匂い

    ――それを嗅いだ瞬間、当麻芽路子のウジウジした悩みは一気に吹き飛んでいった。

    いくらカレーが好きでも行列のできる人気店に行くのは、芽路子のキャラではない。
    人混みも、キャーキャー言いながら友達と行列に並んでいる人を見るのも、芽路子は苦手だった。

    しかし昨夜テレビでこのカレー店が取り上げられたのを観た途端、
    芽路子はそんな苦手すらも度外視したくなった。

    香りの強いスパイス数種類が調合され、
    野菜も原型が無くなるほどドロドロに煮込まれたそのカレーは、
    まさしく芽路子の好みのど真ん中だった。

    『行列は一時間待ちのようです』

    そう言ったのは、芽路子の盟約者ラルフェ・インセクト012だ。
    芽路子は来なくていいと言ったのに、半ば強引についてきいた。
    盟約してからというのものラルフェは、芽路子を「主人」と慕い、
    まるでSPや執事のように絶えず彼女の周囲を警戒し、ついてまわった。
    芽路子はそんなラルフェを時折鬱陶しく感じるのだが、強くは拒めないでいた。

    2人が行列に並んで30分ほど経過した時のことだ。

    芽路子の前に並んでいた女子大生風の若い女性が「あ!ここ、ここ!」と明るい声を上げた。
    見ると、彼女の友達らしき若い女性たちが明るい笑顔で駆け寄ってくる。
    そして、なんと彼女たちは行列の中へと割り込んだのだ。その数は、5人!
    その瞬間、芽路子に怒りのスイッチが入った。

    芽路子は苦手な行列を30分も我慢し、やっと中ほどで辿り着いたというのに目の前の女たちは何の努力もせずに自分の前にいる

    ――それが許せなくてたまらなかった。

    と言っても、芽路子は彼女たちに直接怒りをぶつけるわけではない。
    芽路子にできることは、誰にも聞こえないような小さな声で彼女たちを呪うことだけであった。

    ――なんでもいい……なんでもいいから、この人たちが不幸になりますように……。

    そしてその願いは叶った。

    彼女たちが入店直前、カレーソースが底をつき、店は急遽閉店となったのだ。
    「えー」と不満の声を上げる若い女たち。
    芽路子はそれを見て、ニヤリと笑った。

    だが、同時に重大な事実に気づく……
    売り切れでは芽路子もカレーが食べられない!

    我慢して行列に並んでいた1時間は何だったのか……。
    芽路子は落胆し、ガックリと道端にひざまずいた。
    そんな芽路子に手を差し伸べたのは、ラルフェだ。

    『諦めるには早いです。まだ別の手があります!』

    ラルフェは、こんなこともあろうかとこの人気カレー店に2号店があることを調べ上げていた。
    それがあるのは、この店から数キロ離れた高層ビルの最上階。
    だが、一つ問題があった。2号店もあと数分で閉店時間を迎えるのだ。

    「……それ無理ゲーじゃない」

    芽路子は絶望感丸出しの溜息を吐いて、トボトボと帰ろうとした。
    だが、ラルフェは諦める気配がまるでない。
    芽路子は、ラルフェのしつこさにとうとう折れてトランスに合意する。
    仰々しい機械に包まれたトランスユニオンと化すと芽路子は憂鬱な溜息を吐く。
    はっきり言って芽路子はこの姿が好きではなかった。

    「……トランスまでして何をする気なの? とっとと済ませてよね」
    『すぐに終わらせます。絶対にあなたにカレーを食べさせますから……』

    それを聞いて芽路子は嫌な予感がした。
    ラルフェは使命に燃えると、時たま暴走してしまう傾向にあった。
    嫌な予感は的中し、芽路子の身体は、猛スピードで道を越え、雑居ビルを越え、一直線に高層ビルへと突き進む。
    そして気がつけば、芽路子は高層ビルの壁を蜘蛛のように這い上がっていた。
    カレー店に着く頃、高所恐怖症の芽路子が恐怖のあまり失神していたのは言うまでもない。

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  • オルガ & 紅武

     オルガ & 紅武

     オルガ & 紅武

    響き渡る不協和音

    「……ククク、ハーハッハッハッ!」
    『……ククク、ガーハッハッハッ!』

    その日、ALCAには二人の男の奇妙な笑い声が響き渡っていた。
    一人は、もはやALCAメンバーもスルーすることに慣れていた定理者オルガの高笑い。
    もう一人、オルガと肩を組んで豪快に笑っていたのが──ジスフィアの軍神・紅武だ。
    自尊心が強かったオルガが誰かと仲良くしている光景は稀だった。
    二人が意気投合していたのには訳があった──。

    覇王の座を争って銀影をライバル視していた紅武がある日、セプトピアにやってきて民間人にトランスジャック。銀影に再戦を挑んできた。
    そしてオルガと銀影は合体して紅武を討ち取っていたのだ。
    敗北を悔しがった紅武に対し、オルガは告げた。

    「……俺のロジックが聞こえる。この勝敗は……無効だ!」

    紅武と銀影、互いに同じ条件で戦わなければ意味がないからだ。
    紅武は潔いオルガの対応に応える為、自分も潔く軍門に降ることを決意。

    『我が勝負、どうやら第二の時を迎えたようだ』

    そして今度はオルガの盟約者として、紅武と銀影のどちらが相応しいかを勝負しようと考えたのだ。

    「……ほぅ面白い。この俺様を取り合うとは、見所があるな」

    が、ALCAはこの二人の盟約を受け入れてしまったことを早々に後悔することになった。
    オルガと紅武は暇さえあれば、男気を賭けて互いのロジックを披露し合っていたのだ。
    その日もALCAハウスサロンのバスルームから騒々しい声が響き渡る。

    「道とは探すものではない。己で作り上げるものだ!」
    『我が眼前に道は無し! 我の往く跡に道はできる!』
    「時代の中に俺が生まれたのではない。俺が時代を生んだのだ!」
    『時代が我に逆らうならば、我が手で時代を斬って正すまで!』
    「……ククク、ハーハッハッハッ!」
    『……ククク、ガーハッハッハッ!』

    そんな時、使者襲来の一報が舞い込んだ。
    瞬時にオルガと紅武の表情が一変し、戦場へと出撃していく。
    普段は陽気な一面を見せる二人だが、いざ戦いとなれば切り替えは早い。

    現場に到着したオルガと紅武は、暴れる使者と対峙した。

    「紅武。お前に問う……お前にとって、戦いは何を意味する?」
    『愚問だ。我は軍神。我が軍こそがジスフィア最強であることを証明するため。その為に覇王の座を手にする!』
    「……追いついてこれるか? セプトピア最強の定理者である俺様のところまでな」
    『望むところだ』

    オルガと紅武は互いの拳を突き合わせる。

    「トランス!」

    真紅の鎧を纏った合理体・オルガは使者に反撃の隙も、逃亡の隙も与えなかった。
    まさに軍神の如き猛攻撃。

    後に、その戦いでオルガによって捕縛された使者はこう語ったという。

    たった一人の定理者の力とは思えない。
    相手にしていたのは『軍』の如きであった、と──。

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  • オルガ & 銀影

     オルガ & 銀影

     オルガ & 銀影

    踏み越えた一線

    オルガは自分こそが最強の定理者だと信じて疑わない。

    そんな自分に最も相応しい盟約相手が、ALCAの協力者の中に一名いた。

    ALCAの制服に身を包み、見目麗しく耽美な美青年。ジスフィアの武神・銀影だ。

    「なぜお前はALCAに手を貸す?」

    『セプトピアの治安維持に興味などない。
    私の目的はただ一つ、紅武を討ち取り、覇王となること。その為の修行の一環にすぎぬ』

    紅武とは、ジスフィアの地界で銀影が何度も剣を交えた宿敵らしい。

    「……ククク。お前のこだわりなど興味はないが……」

    オルガがふと左手の甲を見つめると、ルシフェルの紋章が浮かび──消えた。

    「人と神の共存こそ、俺のロジック……その望みを叶えてやってもいい。この俺と盟約すればな!」

    『断る。これは私と紅武の勝負。部外者は黙っていろ』

    「……大した気概だ。ククク、ハーハッハッハッ!!!」

    オルガは盟約の申し出を断られた気まずさを、勢いでごまかした。

    しかしオルガには奥の手があった。
    男同士が絆を深めるために有効なロジックが聞こえていたのだ。

    ALCAのハウスサロン。

    銀影がバスルームに入っていった姿を見たオルガは決意し、自らも裸になって、シャワー音が響くバスルームの戸を開けた。

    男同士、裸の付き合いをするためだ。

    「邪魔するぞ」

    が、オルガの眼前には、驚くべき光景があった。
    シャワーの湯気に隠れて全貌こそは見えなかったものの、銀影の麗しい裸体は彼が男ではないことを物語っていたのだ。

    『き、貴様、どうしてここに……!』

    オルガは引きつった顔のまま、何も言わず戸を閉めた。

    その後、風呂から上がった銀影はひと気のない場所にオルガを呼び出した。

    『……先程の貴様の愚行……私に対する無礼千万だと思え』

    「……俺のロジックが聞こえる。女のお前が男装している理由は、武家を継ぐ為だな」

    男子に恵まれなかった武家に生まれた銀影は、武士としての道を進む為、男として生き抜く覚悟を決めていたのだ。

    「……この俺との盟約を拒否した理由も、それならば納得がいく。お前との盟約は諦めるしかなさそうだな」

    『それは困る』

    意外な銀影の発言にオルガは戸惑った。

    銀影は古風な精神の持ち主だ。

    誰にも見せたことがなかった裸体を見られてしまったことで、もはやオルガと契りを結ぶしかないと思い至ったのだ。

    銀影はわずかに濡れた頬を赤らませると、オルガの首筋に剣を突き立てて告げた。

    『……私と……盟約しろ。それが……貴様の責任だ』

    オルガは戸惑いつつも、首を縦に振ることしかできなかった。

    彼らの電撃盟約はまさに青天の霹靂だった──。

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  • アシュリー & 艶鬼

     アシュリー & 艶鬼

     アシュリー & 艶鬼

    艶鬼の異常な愛情

    サロンでいつものように読書に耽っているアシュリー・ブラッドベリは、突如黒い影に覆われた。
    ハッとして見上げると、アシュリーの盟約者・艶鬼が笑みを浮かべていた。

    『これから、お暇?』

    艶鬼はアシュリーに顔を近づけてきた。

    アシュリーは艶鬼の大きく盛り上がった胸元にドギマギしながら、コクリと小さく頷いた。

    それを見て、艶鬼は更に笑顔を弾けさせた。

    『ほんま? めっちゃ嬉しい!
    ほんなら、うちらの部屋にもどってきて。
    10分後。待ってるから』

    艶鬼がウキウキとした足取りで去っていくのを見届けると、アシュリーは再び本に目を移した。
    しかし、頭の中にまるで内容が入ってこない。
    アシュリーの脳裏に嫌な予感が渦巻いていた。

    ――艶鬼、一体なにを企んでらっしゃるの!?

    アシュリーと艶鬼はまだ引き合わされたばかり。
    実際にトランスするのもまだだった。

    だが、アシュリーは自分が憧れていた盟約者とは「何かが違う!」と感じていた。

    対する艶鬼は、微妙なリアクションをするアシュリーのことなどお構いなしにアシュリーへの愛情を一方的に深めていくばかりだった。

    ファンタジー趣味のアシュリーが『鬼』も趣味の範囲と艶鬼は思い込み、それが嬉しくてたまらないのだ。
    アシュリーは不安を感じながら、約束の10分後に本を閉じると、自分と艶鬼の部屋へと向かって歩き始めた。
    やがて、部屋の前までやってくるとアシュリーは緊張気味にノックにした。

    『アシュリー? ええから入って』

    中から陽気な艶鬼の声が聞こえ、アシュリーは一度深呼吸をしてドアノブを回し、扉を開いた。

    『おかえりやっしゃ』

    部屋に入るなり、艶鬼はアシュリーに抱きつき、そのままお姫様抱っこをした。

    アシュリーは唖然としたまま室内を見回す。

    ――なんですの!? このお部屋! 朝までは普通のお部屋だったのに!

    壁は朱色に塗られ、あちこちの置かれた行燈が淡く輝いている。

    ALCAの施設内にある部屋とは思えない、あまりにも遊郭チックな内装だった。
    どうやらアシュリーが読書に耽っている間に、艶鬼が勝手に模様替えしてまったらしい。
    「これから何をなさるおつもりなの!?」

    アシュリーは動転し、思わず声を上擦らせた。

    『街で可愛い着物、見つけたの。アシュリーに似合いはると思うて』
    「困りますー! はしたないそんな! 恥ずかしい!」

    アシュリーは抵抗するものの、艶鬼の怪力の前では無意味であった。
    あっという間に身ぐるみを剥がされ、手際よく着物を着つけていく。

    『さあ、おめかししまひょね』

    艶鬼はアシュリーが嫌がっていると気づくことなく、鼻歌さえも歌っていた。
    アシュリーは諦め、されるがままに身をゆだね、気がつくと鏡の前には艶やかな花魁姿の自分がいた。

    おまけに胸元がざっくりと開き、露出度が高い。
    アシュリーはあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして、下を向いた。

    『いやあ、かわええなあ。一緒に花魁道中をしたいぐらいやわあ……』

    ――そこまでなさるおつもりなの!?

    アシュリーは目を白黒させながら、艶鬼を見上げた。
    だが、目に飛び込んだ艶鬼は目を細め、今までアシュリーが見たことないほど幸せそうな表情を浮かべていた。

    『うち、ほんま嬉しい。アシュリーみたいに『鬼』の好きな子と盟約できることになって……』

    そんな艶鬼を見ているとアシュリーは何も言えなくなった。

    ――外に出るのはご遠慮願いたいけどこの部屋の中だったら……。

    アシュリーはそう自分に言い聞かせ艶鬼に向かって小さく笑った。

    「こんな素敵なお部屋にしたんだから、お外に出るのはもったないですわ。
    何かジスフィアにいた頃お話を聞かせてくださらない?」
    『ええよ。とっておきの話があんねん。あんな……』

    艶鬼は目を輝かせて語り始め、アシュリーは微笑んでその話を聞き入った。

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  • 学 & 星

     学 & 星

     学 & 星

    星に導かれるままに

    その日、繁華街で手を取り合って歩く二人の少女の姿があった。

    『ほら、早く早く〜! 今日は一日付き合ってもらうんだから!』
    「……ま、待ってっ」

    ALCAの休日を利用して買い物に出かけていたのは定理者・明日葉と、学の新たな盟約者でありジスフィアの巫女・星だ。

    星は幼い頃、ある事件に巻き込まれて両親や幼馴染と生き別れ、妖怪に育てられた。

    そんな星がセプトピアを訪れたのは、
    生き別れた幼馴染・冥がいるという噂を聞いて、再会を果たすためだった。

    やがて冥が学の盟約者であることを知り、三人はALCAの一員として行動を共にすることになっていたのだ。

    買い物中、星は着物の生地でリメイクした洋服を取り揃えた洋服店を見つけた。
    好奇心旺盛だった星は、見たこともないセプトピアの洋服を楽しげに眺めている。

    一方あまりファッションを気にすることなく過ごしていた学にとっては、馴染みのない洋服屋に戸惑うばかり。
    『じゃあ私が学に似合う洋服を選んであげるね!』

    星が試行錯誤した末に選んだのは──朱色の着物の生地でリメイクしたシャツとミニスカートだ。

    「……やだ……こういうの、着たことないし」
    『そんなことないよ。私と合体する時、似たような格好してるでしょう?』

    星は強引に学を試着室まで連れていくと、
    選んだ洋服と一緒に学を閉じ込めてカーテンを閉めた。

    しかしいくら待っても、いくら声をかけても、学は試着室から出てこようとしない。
    待ちかねた星は頃合いを見計らって試着室のカーテンを開けた。

    そこには、朱色のシャツとミニスカートを身につけている学の姿があった。
    両足のふとももを寄せ合わせて、恥ずかしそうにモジモジしている。

    『いいじゃない! すっごく可愛いよ、学!』
    「……やっぱり……やだ」

    学は無理やりカーテンを閉めると、
    慣れないことでドキドキした心臓の鼓動を鎮めるように胸に手を添えた。

    何度か深呼吸した後、試着した洋服を脱いで着慣れたいつもの服装に着替えようとした。
    その時──カーテン越しに星の声が聞こえてくる。
    『……本当にありがとう。学がいてくれなかったら……あの時、冥を救えなかった』

    突然の言葉に表情が変わる学。

    「……でも、そのせいで星は……」
    『いいの。私自身が望んだことだから』

    彼女は『ある決断』による代償で、神の巫女たる力を司るロジックカードを失ってしまっていたのだ。

    『学は……私にとって、とても大切な人。だから学をもっともっと幸せにしてあげたい』

    学の心臓の鼓動が高鳴った。
    『だって……学の幸せが、私の幸せだから』

    学は包み込むような星の愛を感じ、脱いだ朱色のミニスカートを小さな胸の前でぎゅっと握りしめる。
    この愛にどう応えればいいのか、学には分からなかった。

    しかしこの愛に何か応えなければいけないことだけは分かる。
    学は、カーテンの隙間からそっと顔だけ出し、わずかに微笑んだ。
    精一杯の学の笑顔が、星を幸せにさせる返事であったことは言うまでもない──。

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  • 学 & 冥

     学 & 冥

     学 & 冥

    少女たちの覚悟

    『……学。星のことは頼んだ』

    そう呟くと、静かにALCAの下を去っていくジスフィアの暗殺者──冥。
    その眼差しには──死の覚悟が宿っていた。

    ──その昔、ある事件で星と生き別れた冥はジスフィアの暗殺組織に拾われて育てられた。
    確実に任務を遂行する暗殺者になるために心を殺す教育を受ける日々。
    やがて任務の為、セプトピアを訪れた冥は、
    セプトピアで暗殺対象の情報を得るために学と盟約し、
    そこで奇跡的に幼馴染の星と再会を果たしたのだ。
    学や星との暮らしは長年殺し続けた冥の心に彩りを与え、
    失った時は徐々に取り戻されていった。

    が、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。
    組織が星を暗殺するために大勢の刺客を差し向けたのだ。
    冥は知った──自分に与えられた暗殺任務はダミーであり、全ては星をセプトピアに誘導するための囮。
    組織は神の巫女たる星の力を恐れ、
    本来の力を発揮できないセプトピアの地で亡き者にしようとしていたことを……。
    冥の心は一つだった──刺客と刺し違えてでも星だけは守る。

    冥は単身で大勢の刺客の前に立ちはだかり、命を賭して戦い続けた。
    が、そこへ現れたのが──星と合体した学だ。
    全ての事実を知り、冥を守るべく抵抗したのだ。
    しかし屈強な大勢の刺客には敵わず、ほとんどのロジックを使い果たしてしまう。
    すると刺客は冥を人質に囚え、学に合体を解除して星を殺害するよう要求した。
    星が殺さなければ、冥が死ぬ。
    しかしどちらか一方を、学が選べるわけもなかった。

    『退け、学……このままでは三人とも死ぬっ』
    「……やだ……冥を連れて帰る」

    冥だけを犠牲にして退避する選択など、学の頭にはなかった。
    すると星は決意し、突然学との合体を解除した。学は戸惑いを隠せなかった。
    星は学と冥を守るために決意。自ら自害することで学と冥の命を救ってほしいと組織に取引を持ちかけたのだ。
    組織の狙いは星の命一つ。星の取引に応じようとした。

    『やめろ……星がいない世界に生きる価値なんてない……
    一人だけ残されて自分だけが生きるなんて……嫌だ』
    『冥……それは私も同じよ。でもこれしか方法がないの……お願い』

    互いが互いを救いたい一心で対立する冥と星の想い。
    冥は、腰に身につけたアクセサリーを握りしめた。
    星もまた、頭の右側につけたアクセサリーを握りしめた。
    それは二人が幼い頃から身につけていたお揃いのアクセサリーだった。
    冥と星を意味する二つの飾り。
    どちらかが欠けることなくいつでも一緒──そんな想いを込めて。

    その時、学が呟く。

    「……やだ……連れて帰る……冥も……星も……」

    冥と星、どちらの提案も受け入れようとしない学。
    冥は叫ぶ──『学! 星を連れて逃げてくれ! それが私の唯一の望み!』
    星は叫ぶ──『学! 冥と共に生きて! 二人の幸せが、私の幸せなの!』
    しかし学はどちらの声にも耳を傾けようとしない。
    長年の時を経て、ようやく再会を果たせたばかりだというのに、冥と星が再び引き裂かれてしまうことを、学は受け入れることなど到底できなかった。
    冥と星が共に歩むこと──それだけが学の望み。
    すると学は星のすぐそばに歩み寄り、耳元で囁いた。

    「……一つだけ、方法がある」

    二人だけにしか聞き取れない声で星にある決断を迫る学。
    星は言葉を失った。
    が、同時に、他の選択肢がないことを瞬時に悟った。
    学はALCAに通信し、ある作戦の行使を進言。局長の許可を取った。
    そう、学と星が下した決断は──。

    「……オーバートランス!」

    勝負はまさに一瞬。
    星光の如き速さで刺客を殲滅し、冥を救うことに成功した……。
    オーバートランスによって、学と星のロジックカードが飛散しかける。
    が、星は神の巫女たる力を開放し、学のロジックカードの飛散を全て防いだ。
    学が驚いて星を見ると、星は何も言わずにただ微笑んだ。

    冥は知った。
    どんなに過酷な運命でさえも、強い意志で変えることができることを。

    闇に生き続けた冥に、道標となる希望の光が射した──。

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  • ジゼル & 八雷神

     ジゼル & 八雷神

     ジゼル & 八雷神

    家出少女ジゼル

    ジゼル・サンダースがALCAキョウト支局に配属され、数週間が経った。

    ジゼルの教育係に任命された揺音聖那は、
    いつまで経っても定理者としての自覚を持とうとしないジゼルに愛想が尽きかけていた。

    「もういい加減、ローカルアイドルだった頃は忘れなさい!」

    いつもであれば「はいはい」と聞き流すのだが、『ローカルアイドル』というフレーズがジゼルの逆鱗に触れた。

    「ローカルアイドルですって……?
    もうすぐ全国区のアイドルになれたのにあんたらが無理やり辞めさせたんでしょ!?」

    それからここに書き記すのも見苦しい罵り合いが展開され、この日の研修は2人の猛喧嘩で幕を閉じた。

    その後も怒りが収まらないジゼルは、施設からの脱走を決意する。

    研修期間中、キョウト支局内の一室に監禁状態にいたジゼルだったが、言葉巧みに局員を一人、また一人と籠絡し、ついに施設外へと出ることに成功する。

    だが、そこからが手詰まりだった。

    施設の周辺は馴染のない土地であるのに加え、研修が終わるまで私物など全てALCAに一時保管されていたためジゼルはお金も持っていなかった。

    あっという間に行き場を失い、ジゼルはキョウト支局から数キロ離れた公園でブランコに揺られ途方に暮れていた。
    「ここでしたか」と柔らかな声が聞こえ、顔を上げるとジゼルの盟約者・八雷神が笑顔で彼女を見つめていた。

    「……帰らないわよ」

    ジゼルは、八雷神を見るなり冷たく言い放った。
    八雷神は微笑んだままだ。
    ジゼルの盟約者となってから、八雷神はまるでジゼルの従順な執事のようだった。

    この時も、八雷神はジゼルの前にひざまずくと、そっと手を差し伸ばし、言った。
    『せっかく外に出たんですから、この辺りをご案内しましょう。
    ジゼルさんはまだここの土地柄に不慣れでしょう』

    そんな八雷神の優しい言葉にグッとくるジゼルだったが、表面に出る態度は素直なものではなかった。

    「……勝手にすれば」

    ジゼルは素っ気なくつぶやいて、ブランコから降りて歩き出した。
    こうして八雷神のキョウト案内が始まった。

    『あそこがキョウト支局から一番近いコンビニです』

    「あ、そう」

    『あの神社に祀られている神は、ジスフィアにいた頃の私の友人です』

    「聞いてない」

    『この辺りは猫が多いんです。私も時折エサをあげています』

    「私は猫より犬が好き」

    八雷神のガイドにも、ジゼルの態度は素っ気ないままだったが、そのうち八雷神は軽快なメロディが聞こえていることに気づいた。
    ジゼルの鼻歌だった。

    なんだかんだ言って楽しんでいる――
    それがわかると、八雷神は思わず微笑んだ。

    キョウト支局に戻ると、心配した聖那が前で待っていた。

    勝手に出て行ったジゼルを叱るつもりであったが、ジゼルを背負って帰ってきた八雷神を見るとその気は失せてしまった。

    ジゼルは八雷神の背中で、子供のような寝顔で眠っていた。

    「……八雷神も振り回されて大変ね」

    聖那は溜息混じりでねぎらいの言葉をかける。

    『いえ、私の大切な盟約者ですから』

    八雷神は微笑んで施設の中へと入っていった。

    その時、ジゼルの口から「ありがとう……」と聞こえた。

    見るとジゼルは目を閉じたままだった。

    それが、寝言だったのか、目を覚ましていたのか、八雷神はわからなかった。

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