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HBT01 ストーリー

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change×collect メインストーリー

桜が散り始めた春の日。

天真爛漫な小国のお姫様・リオンは
ホッカイドウの学校に通うことに。

ここは世界の平和を守る定理者ロジカリストを育成するため、
ALCAが運営する特別な教育機関。

リオンが入った1年Sクラスには、定理者ロジカリストのニーナをはじめ、
個性的なクラスメイトたちがたくさん。

定理者ロジカリストのヒナたちが送る、
とってもにぎやかでかわいらしい日々

合体トランス!!はじめます

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  • ニーナ・アレクサンドロヴナ & アモル

     ニーナ・アレクサンドロヴナ & アモル

     ニーナ・アレクサンドロヴナ & アモル

    ニーナ&アモル

    命令に従い、ALCAの支局を離れ、ピラリ学園に入学してきたニーナ。
    教室に集まったニーナたち新入生に、副担任の藤崎が早速クラスのカリキュラムについて
    丁寧に説明をしてくれている。
    ―が。
    失礼な事とは思いながら、藤崎の声はニーナの頭の中を上滑りしていく。
    心の中の大半は、ずっとひとつの事に占められたままだ。

    昨日までは、ALCAの第一線で定理者として人々のために働く自分。
    今日からは、ピラリ学園で学ぶ自分。
    でも何を学ぶのか?
    3人の使者と盟約し、彼女たちと深く心を通わせ信頼の絆を保ってきた自負がある。
    それぞれの能力、特性を引き出し、様々な事件を解決してきた実績もある。
    その私が、いまさら何を学ぶというのか。
    何を学べば、力を証明し、戻ることができるのか。
    ずっと考えているが、その答えは出ていなかった。

    「ところで、テトラヘヴンの天使サマが、ニーナにぜひ会いたいそうだ。どうする?」
    担任の神楽の、そんな唐突な声に引き戻される。

    ―異世界、テトラヘヴン。
    テトラヘヴンと言えば、神や女神、魔神たちが実在する神話の様な世界と聞く。
    以前ナイエン区で大事件を起こしたのはそのテトラヘヴンの魔神たちだし、
    その時活躍したナイエン支局の先輩定理者たちも、テトラヘヴンの女神たちの力を借りて事件の解決にあたったのだ。
    そんな世界の使者と盟約できたら、自分がALCAに戻るための糸口がつかめるかもしれない。

    盟約室に入ると、たちまち室内はテトラヘヴンの風景に変わった。
    宙に浮かぶ白亜の神殿。事前の知識では知っていたものの、その荘厳さに思わず息をのむ。
    すると。はるか天空から、光に透ける6枚の翼を広げ、白銀の鎧に身を包んだ女性が降りてきた。
    頭上に輝く大きな光の輪が印象的だ。
    『お前がニーナ・アレクサンドロヴナか』
    「はい、私です」
    相手の名前は聞いていた。テトラヘヴンでも、神々に次ぐ高い地位の大天使だという。
    『我はミカエル。天使騎士団の団長を務めている。
    我が声に応じてくれたこと、感謝しよう』
    「では、貴方が私と盟約したい、と?」
    『うん? ちがうぞ?』
    どうも話が間違って伝わっているらしい。
    『すまん。お前とぜひ盟約したい、というのはこっちだ。ほら、アモルよ、挨拶をせよ』
    『は、はい…』
    ミカエルの陰でわからなかったが、おずおずと羽ばたきながら現れたのは、ニーナよりも背の小さい、幼く可愛らしい天使の少女、だった。

    『わ、わたし、その、あ、アモルと・・いいます・・・』
    おじぎのつもりか、頭を下げたまま、うつむいて動かない。
    ふわふわの髪から覗く可愛らしい耳が真っ赤に染まっていくのが見える。どうも相当に恥ずかしがりやらしい。
    (初めてのタイプだわ・・・)
    超然とした自信家で天才肌のエメラダ、傍若無人で天真爛漫なアイシャ、落ち着いていて高貴なリリアナ。
    かつて盟約した者たちと全く違う目の前の天使の姿に、ちょっと驚いた。
    (いや、というより・・・)
    そう、驚いたというより、心配になってしまう。

    『こら、アモルよ、ちゃんと自己紹介して、思いを自分で伝えぬか!
    それではニーナが困ってしまうだろう』
    『あ! ご、ごめんなさい、ごめんなさい・・・』
    ますます頭を下げ小さくなってしまうアモルに、思わず助け舟を出してしまう。
    「いえ、謝らないでください。緊張しているんですね。
    気を楽にして、貴方の話を聞かせてください」

    そしてニーナは、アモルのたどたどしい話をゆっくりと聞いていった。
    アモルはまだ見習いのキューピッドであること。
    この世界、セプトピアへの視察団に手伝いとして随行してきたとき、ニーナの活躍を目撃したこと。
    彼女から見た自分は、強くて、綺麗で、かっこよくて、りりしくて―
    聞いているこっちも赤くなってしまいそうだが、とにかくそういうこと、らしかった。

    『わ、わたし、こんな、何もできない、ダメな天使、だけど・・・
    か、変わりたい、そう、変わりたいんです!
    わたしも、皆の役に立てるような、
    人と人を結ぶ、立派なキューピッドに、なりたいんです!だから、だから、そのぅ・・・』
    「だから?」
    『う、ううう・・・』
    次の言葉を、ニーナもミカエルも急かしはしなかった。
    ただ待った。
    この言葉ばかりは、アモルが自分で伝えなければならない。
    『私の、盟約者に、なってください!』

    正直なことを言うと、最初にアモルが盟約を希望していると聞いて、落胆とまでいかなくても
    (どうなんだろう?)と思ったのは確かだ。
    ALCAに復帰するために、自分の強さを証明する。
    そのためには、強い使者と盟約した方がいい。
    (―でも。
    もしそうだとするなら、エメラダやアイシャ、リリアナが弱かった、ということ?
    そんなことはない。そんなことは認められない。
    私、ニーナ・アレクサンドロヴナの誇りにかけて)

    アモルはついに顔をあげて、まっすぐニーナと目を合わせた。
    今にも泣きだしそうに目が潤んでいるが、しっかりと、目を合わせた。

    今までの盟約者たちは、いつも自分を引っ張ってくれる存在だった。
    しかし今度は私が、この幼い天使の手を引いて共に歩くことができたなら。
    ―私がちゃんと一人前の定理者であると、証明できるかも?

    後にニーナはちょっと反省してこの時のことを語る。
    少々、打算がありましたね、と。

    「いいわアモルさん。私と盟約しましょう」

    小さなキューピッドの小さな勇気。
    それが大きな力となって、ニーナを助けていくようになるのに、それほど時間はいらなかった。

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  • 揺音 玉姫 & 薫花のティア

     揺音 玉姫 & 薫花のティア

     揺音 玉姫 & 薫花のティア

    玉姫 & 薫花のティア

    盟約室の中。
    視界を覆う見事な藤棚に目を奪われながら、玉姫はモノリウムの使者「薫花のティア」の身の上話に、かれこれ3時間ほど付き合っていた。
    一見、ドレスに身を包む可憐な少女に見えるが、その身を飾る薄紫の髪、蔦をもてあそぶ緑の指先、そして彼女を守り飾るように咲く藤の花が、彼女が異世界の住人であることを物語っている。

    『~~というわけで。ぜひ、この私に相応しい相手を見繕ってほしい、とそちらの局長殿に頼みました』
    彼女の語る3時間を要約すると、幼いころから「ローザ」という使者をライバル視していて、
    その彼女が少し前に盟約したらしい。彼女が盟約したいと言い出したのも、その辺りに理由がありそうだ。
    ところがこのお嬢様、自分から盟約を願ったにも関わらず、かなり好き嫌いが激しい。

    手を挙げた候補者たちを盟約室に呼びつけては、やれ「背が小さい」「高すぎる」「気品が感じられない」「声が低い」「目つきが悪い」とまあ、あれこれ難癖をつけては門前払いにしていたのだ。
    そこで、ALCAナイエン支局でも多くの盟約経験を持つ玉姫が呼ばれ、まずはティアと話をしてみよう、と言うことになった。

    ―そして今に至る。
    「ちなみに何故、盟約を望まれるのですか?」
    『良くぞ聞いてくれました!』
    飛びつかんばかりの勢いで答えるティア。
    『あれからというもの。
    ローザはしばしば宮殿を留守にしてはセプトピアの様子を見に行ったり、
    薔薇を通じて己の盟約者とやらの日々を伺ったり、まあ気もそぞろな様子で見ていられません。
    とてもとても北方花樹人の王たる責務を果たしているとは言えません。
    なので! 私が! その大任を負う覚悟で挑戦したのです!
    ―したのです、が・・・』
    (負けたんだろうな・・・)
    力が全てのモノリウムのこと、いかなる勝負が行われたのかは想像に難くない。
    ティアの悄然とした様子から、手痛い敗北の様子が伺えた。

    『そしたらあの女、言うに事欠いて
    「わらわは負けぬ。盟約の友が共にまばゆく咲く故な」
    とか言うのです。許しがたい、許しがたい!』
    「それで貴女も、盟約したい、とお考えになられたのですね」
    『別に、羨ましいとかじゃありませんから!』
    「ええ、まあ、はい。わかります、わかります」
    『聞く所によると、ローザはとある小国の姫と誼を結んだと聞きます。
    であるなら、この私にも、相応しい相手が必要なのです』
    「そうです、か・・・」
    ALCAに登録している定理者たちのなかで、王子様とかお姫様とかはいたかなーと頭の中で探し始める玉姫。
    一部の女子職員たちがジークハルト君を「王子様」と呼んでた気もしないでないが、この場合意味が違うよね―とか思っていると。
    盟約室をモニターしていたヴェロニカ局長の声が響いた。

    「ではティア様。
    その揺音玉姫はいかがですか?」
    『ほう・・・この娘が?』
    (ちょ、局長! 私聞いてません!)
    「流石に一国の王子・王女をお見合わせするのは難しいのですが、
    揺音はこのセプトピアでも由緒正しい古い都・キョウトの名家の出身です」
    (ちがいます!うちはただの医者です!)
    「それに彼女は、このALCA全てを探しても指折りの実力と経験の持ち主。
    貴女がなんらかの「力」をお求めなら、揺音は必ずやその期待に応えるでしょう」
    『なるほど。そこまで言うなら、試してみましょう』
    (・・・局長、恨みますよ・・・)
    玉姫が何もしゃべれなかったのは、盟約室の壁面モニター、ティアの背後になる位置にでかでかと【業務命令】の文字が映し出されていたからだ。

    かくして。
    「じゃじゃ馬ならし玉姫」の輝ける戦歴にまた新たな1ページが加わり、
    いよいよもって「難しい使者が来たらナイエン支局の玉姫」と皆が語るようになるのだが、正直本人は望んでいない。

    『―玉姫! 聞きましたよ!』
    「何をですか?」
    『ホッカイドウ! オビヒロ! ピラリなんとか!』
    「ああ、ピラリ学園、のことですね」
    『あのローザの盟約相手がいるピラリなんとかに、この支局から稽古をつけに行くそうではないですか!』
    「ええ、後輩たちがどれだけ育っているか、クロエたちも楽しみにしているみたい」
    『ふふふふふ・・・ これこそ天が与えた千載一遇の好機!
    あの女に、今度こそ大地の味を確かめさせてやります!』
    「・・・私たちはお留守番ですけど」
    『―おるすばん、とは?』
    「私たちはこの支局で待機です。全員行ってしまったら、何かあった時困りますから。
    あ、お土産、たくさん買ってきてもらいましょうね」
    『な、な、な、なーーーーんでじゃあああああ!!!!』
    (あ、お茶美味しい―)
    しばらく発散させておいて、疲れたころにお茶とお茶菓子を出そう、と玉姫は思った。

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  • ニーナ・アレクサンドロヴナ & ミカエル

     ニーナ・アレクサンドロヴナ & ミカエル

     ニーナ・アレクサンドロヴナ & ミカエル

    ニーナ・アレクサンドロウナ & ミカエル

    ニーナが命令に従いこの学園に入学してはや数か月。
    季節は廻り、夏になっていた。
    学園のあるホッカイドウのピラリ町はニホンでも涼しいところだが、それでも夏は暑い。
    ニーナは勉強を兼ねて空調の効いた図書館にこもっていた。

    図書館には彼女の好きな天文関係の蔵書も多く、トリトミーの技術供与によって得られた、最新の観測結果を基にした論文の数々は実に興味深い。
    思わず時を忘れて読みふけっていたところ、副担任の藤崎先生が彼女を呼びに来た時にはもう夕方になっていた。

    「こんなところにいたんですね!ニーナさん、すぐに盟約室に来てください」
    「・・・え?」
    「テトラヘヴンの天使様が、あなたを呼んでいます」

    ニーナが慌てて盟約室に駆け込むと、以前アモルと盟約した時と同じように、世界は白亜の天空神殿に置き換わった。
    光の翼を輝かせて現れたのもやはり、あの時同様、天使の騎士団長にして大天使、ミカエルだった。
    でも今度は、背後にアモルが隠れている様子はない。

    「あの、ミカエル様、今日はどんなご用事でしょう」
    『うむ、我はニーナ、君に礼を言いたくてな』
    「礼、ですか? 別に私は何も―」
    『アモルと盟約してくれただろう。その、礼だ』

    アモルは、ミカエルの頼みでニーナが新たに盟約した見習いキューピッドの天使だ。
    「いえ、アモルから力を借りているのは、私の方ですから」
    確かにアモルはまだ幼い、か弱い少女の様な天使だ。
    恐る恐る弓を構えているより、花畑で花を摘み冠を編んでいる方がずっと似合う。
    しかしニーナとの合体―お互いのロジックを交換し身も心もひとつになることで、ニーナはアモルの潜在能力を大きく引き出している。

    『君と合体するようになってから、アモルには笑顔が増えた。
    いつも瞳をうるませては叱られるのを待っている様だった、あの子が、だ。
    ニーナ、君のおかげだ。
    君と合体することで、あの子は自分でも何かができる、そう知ることが出来た』
    「そう言っていただけると、私も嬉しいです」
    『聞けば、クラスでもトップクラスの成績だそうではないか。アモルも喜んでいたぞ』
    「いえ、そんな、ことは―」

    でも期末の実技試験で1位を取ったのは、リオンだった。

    『やはり、セプトピアの定理者と合体する、というのは素晴らしいことなのだろう。
    聞けば、君も我と同じように、あえて自らを人々の盾とする、気高い心の持ち主だと言うではないか。
    どうだろう、私とも盟約してもらえないだろうか!
    我も盟約することで己自身を鍛えあげ、いずれはそう、あの勝利の女神アテナの様に―』
    「ありがとうございます、大天使ミカエル。その申し出、お受けいたします」

    食い気味の返事にちょっと気負されたミカエルだったが、渡りに船には違いない。
    『―そ、そうか。かたじけない、な』
    「こちらこそ、願ってもないことです」
    ニーナは背の高い大天使の目を見返しながら、強くはっきりと、そう、応えた。

    予想通り、ニーナとミカエルのトランスは、素晴らしい能力を発揮した。
    アモル同様、光の翼はニーナの体を自在に運び、立体的な機動を可能にする。
    弓の様な遠距離攻撃こそできないが、白銀の鎧と盾が大抵の攻撃から身を守るので、勇気さえあれば、敵の懐に飛び込むことは容易い。そこからレイピアの一撃で、敵を貫く。

    『流石、我が見込んだだけのことはある。細剣を使うのも初めてではないな?』
    「ええ、以前、別の使者と合体したときに、少し―」
    『その若さで見事な戦歴だ。これは将来が楽しみだぞ』

    2学期が始まり、他にも複数の盟約者を得てトランスチェンジを可能にした生徒はいたが、
    ニーナほど高度に連携させた合体を行える者はまだ、いない。

    「いいえ! わたくし、橘弥生が、必ずニーナさんの領域に近づき、達し、追い抜いてみせますわ!」
    「おー さすがやっちゃん。気合入ってるっすねー」
    「がんばれ主さまー」
    「私たちも応援しますし!」
    「いえあなた達もがんばるのですよ? ニーナさんを目標として、追いつき追い越せの精神で自らを磨いていってこそ、この学園のSクラスで学ぶ意義があるというものです!」
    「んー 弥生ちゃんの言ってることは、ちょっと難しいね」
    「あー だいじょぶだいじょぶ。つまり、がんばるぞー、がんばれーって言ってるだけっすから」
    「万博さん!」
    「うん!それなら私もわかるよ!」
    「ほら、リオンもわかるって言ってるっす」
    「な、なら良いですわ。では、皆さん。がんばって、ニーナさんを追い抜きましょう!」
    「「「お~!!!」」」

    模擬戦場のバリアの外で、自分をネタに盛り上がるクラスメートたち。
    最初の頃は、それが耳に入っても素知らぬ振りをしていたニーナだったが。

    『良いのか、好きなように言わせておいて』
    合体中のミカエルが、面白がるように語りかけてくる。
    冷静沈着なことが多いミカエルにしては珍しい。
    彼女もまた、合体の手ごたえに少し興奮しているのかもしれない。
    「大丈夫」
    そう胸の内で答えながら、光の翼を振るって弥生たちの前に降り立つ。
    「いつでもどうぞ。私は、負けるつもりはないから」
    「言いましたわねニーナさん! 定理者に二言はありませんですわよ!」
    「私も負けないよっ!」
    「まー あたしはどうでもいいっすけど・・・
    負けっぱなしってのも、つまらないっすよね?」
    「わっちらも~」
    「忘れてもらっては困りますね!」

    かくして、新たなる盟約者を得たニーナはさらなる力を備えた。
    その力は、ALCAに戻るにふさわしいと証明するためのものなのか。
    ―それとも?

    その答えを知るには、もう少し時間が必要だった。

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  • リオネス・エリストラートヴァ & 花唇のローザ

     リオネス・エリストラートヴァ & 花唇のローザ

     リオネス・エリストラートヴァ & 花唇のローザ

    リオン & 花唇のローザ

    緩やかな山道を、3人の少女が登っていく。
    目指すは山頂の神社。遅咲きの桜が見ごろのはずだ。

    「リ、リ~オ~ン~ ちょっと休憩するっす~!」
    「わかったー!」
    道端に立ち止まり、手ごろな石に腰かける万博とニーナ。そこへ駆け寄ってくるリオン。
    「それにしても、リオンは元気っすね~」
    「え? そうかなー?」
    ニーナも確かにそう思う。自分もALCAの訓練でそれなり鍛えてきたが、リオンは更に元気だ。息も切らしてない。
    しかも彼女は、列の先頭に立っては何かを見つけ、
    「これ、食べられるよ!」
    「これ、毒があるよ!」
    「見たことない!どんな植物なの?」
    注目して観察しては置いて行かれ、再び小走りでついてくる、そんなことを繰り返していたのだ。
    「何か体を鍛えることでもしていたの?」
    「ううん、別に何もしてないよ?
    パパと毎朝お散歩したり、お城の裏山でキャンプしたりはしてたけど」
    ちなみに、その「お散歩」やら「キャンプ」やらがどれだけワイルドなものか、その内容を知って驚くのは、まだまだ先の話である。
    「でも結構小さいころからあちこち一人でお散歩してたから、パパやママを困らせちゃったみたい。よく覚えてないんだけど、ちーさいころ、ひとりでおうちを出て歩いて、迷子になったこともあるんだよ!」
    何故か胸を張って「えっへん」口調で言うリオンに、
    「いや、それ自慢にならないっす」
    とつっこむ万博。

    その思い出話のとおり、父・ニコラファンスキーと母・リニャーニャの愛情を一身に受けてすくすく育ったリオンは、大変元気な子供だった。立って歩けるようになるとすぐに、家のあちこちを探検して回り。
    中庭で遊んでいるうちは良かった。
    ついにリオンは、子供にしか入れないような、狭い塀の隙間を見つけてしまう。

    それは、彼女がまだ2歳のころ。
    両親の目を盗んだリオンは、隙間を抜け、ひとりで家の裏山に入り込んでいた。
    咲き乱れる花々に、舞い踊る蝶に誘われて、足の向くまま道行くまま、リオンは奥へ奥へと歩いていく。
    ―そして。
    山道の果て、湖にそそぐ川のほとりで。景色に気を取られ、つまずいて転んでしまったリオン。
    「いたーい!」
    その時。初めて気づいた。ひとり。自分が今ひとりだ、と言うことに。
    自分が転んだりぶつけたりして泣きそうなとき、いつも優しい声をかけてくれる二人。
    大好きな大好きなパパとママが、そばにいないことに。

    「ぅうぅぅうぅぅわああああああああんんんん!」

    リオンが泣いたのは、痛かったからじゃない。
    寂しくて、寂しくて、こうして泣いても二人がいないのが寂しくて。
    太陽がだんだん傾こうとしている中、リオンは泣き続けた。

    胸に刺さるような、切ない泣き声。
    その声を、両親より先に、聞いた者がいた。

    『―何を泣いておる』

    川を挟んで向こう岸。
    野薔薇の咲き乱れるなか、薄紅の豪奢なドレスに身を包んだ女性が、日傘をさして立っている。
    見覚えのない、初めて遭った人。でもリオンは人見知りしない。
    (だって、このせかいはいいひとたちばかり。
    みんなみんなやさしい、みんなみんなすてき)
    泣きはらした名残を目元に残しながら、しゃくりあげながら、でも幼いリオンは、心から安堵して、にこりと笑った。
    『ほう・・・なかなかに愛らしい』
    ドレスの女性は、足や裾が濡れるのも構わず、ざぶざぶと川を渡り、リオンに手を伸ばした。日傘を放り出し、そのまま両手で抱き上げる。

    「こんにちわ!」
    『ふふ、よい挨拶じゃ。そなた、名前は?』
    「わたしはリオン!」
    『リオンと申すか、良い名じゃ』
    「あなたはどなた?」
    『わらわか? わらわは― わらわはローザ。そう、呼ぶがよい』
    「ローザ、あなたはローザ!」
    リオンが何の気なしにその手を伸ばすと、ローザのほほに触れた。
    柔らかくくすぐったい感触に、ローザも思わず微笑んだ、その時。
    まばゆい光が二人を包んだ―

    ―合体。
    それは、このセプトピアに住む人間の中で、稀に現れる定理者と呼ばれる者が、異世界からやってきた住人、使者と心を通じ絆を通わせ、お互いの身体を構成するロジックを交換することで心も体もひとつになる現象である。
    合体した定理者は、使者の力を借り、この世界の物理法則を超えた様々な能力を発揮することができるのだ。

    そのころ。
    家中を探し回ったのち、塀の隠れた隙間を発見、外にリオンが出てしまったことを悟ったスコラファンスキーとリニャーニャは、彼女の名前を叫びながら、あちこち周囲を探し回っていた。
    「そろそろ日が落ちる。そうすれば、ここらを縄張りにしている獣たちもうろつきだすだろう。その前に、何としても見つけてやらねば・・・」
    「いざとなったら、もう一度、合体してでも!」
    「だがリーニャ、お前の力はもう、」
    「娘の大事に使えなくて、何が力ですか!」
    その時、蒼い毛並みの、犬の様な、リスの様な、不思議な動物が『キュー!』と鳴きながら山道のむこうから走って来た。
    「ベル! 見つけてくれたの?」
    『キュー! キュー!』
    二人がその動物の後を追うと、家の近く、湖畔に大きな、大きな薔薇が見えた。
    塔のごとくそそり立つ蔓草を、いくつもの大輪の薔薇が飾っている。
    ・・・とても現実のものとは思えない光景。
    息をのんでいたのは数瞬。
    二人は目くばせすると、すぐにそこに向けて走り始めた。

    辿り着いた二人を待っていたかのように、薔薇の塔はゆっくりと解けていく。
    その中から、あたかも薔薇に守られていたかの様に、幼いリオンの姿が現れた。
    「リオン!」
    「リオンちゃん!」
    『キュー!!』
    「お前、その、姿は・・・」
    薄紅のドレスの様な姿。体を飾る大輪の薔薇。おとぎ話のお姫様の様な姿のリオンは、両親を見つけると、
    「パパ! ママ! ベル!」
    花が咲くような愛らしい笑顔で答えてくれた。
    その姿が再び光に包まれたかと思うと―薔薇と蔓たちは消え失せ、そこには元の姿に戻ったリオンと、その後ろに、薔薇のドレスに身を包んだローザがいた。
    『さあリオン、二人のところに帰るがよい』
    「うん、ありがとう、ローザ!」
    駆け寄って来たリオンを抱き留めたリニャーニャだったが、スコラファンスキーは二人をかばうように立ち、
    「リオンを助けてくれて、感謝する。貴殿はまさか・・・」
    それに答えず、ローザは再び輝いた光の扉の向こうへ消えていく。
    『父上殿、母上殿、リオンは良い子じゃ。我が盟約者を、くれぐれも、頼んだぞ』

    この事件の後。
    幸いリニャーニャは元定理者でもあり、「何が起きたのか」を正しくはっきりと理解することができた。
    「リオンには、人並み外れた定理者の才能がある」
    だが世の中は今、いつ来るともわからぬ使者の襲来に怯え、定理者の才能がある者を強制招集し、戦いに備えざるを得ない状況だ。
    まだ幼いとはいえ、非凡な才能を持つリオンのことが知れたら、ALCAがどうするか。そしてリオンがどうなってしまうのか。過酷な運命が待っていることは、想像するに難くない。
    この時スコラファンスキーは、ある決意を固めた。
    「リーニャ、私は国を作ろうと思う。ALCAの、世界連盟の手からこの娘を守るために」
    「―それは」
    「使者襲来に怯えるこの世界において、これは世界への反逆かもしれん。
    ―だが私は、この世界全てより、お前とこの娘が、愛おしい・・・
    ふっ。なあにリオンが大きくなるまでの間くらいだ。その分、世界も私が守ってやるさ」
    「ええ、ごいっしょします、あなた」

    一方そのころ、扉の向こう。
    視界を覆いつくす深緑、蒼緑、翠緑、緑と鮮やかなる花々の洪水。
    ただ中に一人、あのローザと名乗った少女が立っていた。
    そして。
    「――」
    命じると共に両手を広げると。
    瞬く間に緑の蔦たちは、ひとつのカタチを成していく。
    陽に輝く天蓋、まばゆき天楼、見る間に組みあがったそれは、確かに城。
    ローザを手招くように蔓が動き、広間へといざなった。
    『姫様!』
    『ローザ様!!』
    たちまち広間に現れる多くの家臣―みな様々に咲き誇る、草花樹木の獣人たち―を手で制し、北方花樹人の国に咲く大輪の薔薇姫、花唇のローザは、見る者全てを従える王家の微笑みをたたえた。
    『ローザ様、お戻りくださいましたのですね!』
    『我らを見捨てたのではないのですね!』
    『―許せ。わらわも少し、戯れが過ぎた』
    いかなる思いで、薔薇姫ローザが失踪したのか。そして何故、戻って来たのか。
    それを知る者はいない。
    だが彼女は、こんなことをぽつりと漏らしたという。
    『扉の向こうで、約束を―盟約を交わしたのじゃ。
    歩む世界は違えど、共に凛々しく咲こうとな』

    その後。
    小国・リオネスの姫、リオネス・エリストラートヴァが行くところ常に、大輪の野薔薇が見守るように咲いている、という。

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  • 七星 縁 & 蓮香仙女

     七星 縁 & 蓮香仙女

     七星 縁 & 蓮香仙女

    七星 縁 & 蓮香仙女

    縁は、困惑していた。

    「縁さま、お寒くはないですか?ひざ掛けをご用意したので、ぜひどうぞ」
    「明日はお天気が悪いようです。本日中にお洗濯を済ませておきます」
    「お醤油がもう少しでなくなるので、私、買ってまいりますね」

    「あ、ありがとうございます…蓮香仙女さん」

    ―落ち着きません…!

    縁の傍ら、甲斐甲斐しく世話をしているのはジスフィアからやってきた使者、蓮香仙女。
    彼女はとある魂を求め、このセプトピアにやってきたという。

    ―でも、蓮香仙女さんはどうして私の世話をしてくれるのだろう?

    そういえばと、縁は思った。実はまだ縁と蓮香仙女は盟約をしていない。
    それどころか、出会ったのはつい先日。街中でぽつんと佇む蓮香仙女に、縁が声をかけたのが出会いだった。
    街の景色からに馴染んでいない彼女を見て、使者がいることにも驚いたが、
    縁はなぜだか彼女に声をかけなくてはいけない気がした。
    そうして声をかけたところ、蓮香仙女は蕩けるような甘い笑みを見せ、そのまま縁に導かれこのALCAに滞在している。

    「蓮香仙女さん、貴方は街中で何を探していたんですか?」

    縁のためにお茶を入れている蓮香仙女に疑問を投げかけると、蓮香仙女はぴたりとその手を止め、縁との距離を縮めた。

    「私は仙術を用い、私が想い続けるただ一人の魂を探しておりました。大好きな、あの方の魂を。
    私の生き甲斐といえば、その方の為にこの身を尽くすことでした。
    …しかし、ジスフィアにその魂は輪廻していなかったのです。」

    「そんなことってあるんですか!?」

    「実際にあったようなのです。あの方の魂はどういう理か、ジスフィアでの輪廻から外れ、魂のままこのセプトピアに来たようです。そして、このセプトピアで長い時を経て人間になった……それが、縁さま、貴方様です」

    蓮香仙女は、薄らと頬を薄紅色に染め、瞳を濡らしながら縁の顔を覗き込んだ。
    その瞳の中の人間離れした虹彩に、思わず縁も息をのんだ。

    「私…ですか??」

    「はい、間違いなく、縁さまの魂はあのお方のもの。
    鏡に映した水面のように澄んだ魂のお色を、私が間違えることもございません」

    どこまでも優しいほほ笑みを携え、美しい声色で喜びを音にする蓮香仙女。

    「縁さま。どうか、私と盟約をして頂けませんか?」

    「蓮香仙女さんと?私が??盟約を…!?」

    あまりに突然の話が多すぎて、縁の頭はオーバーヒート寸前となっていた。
    しかし蓮香仙女はそんな縁に、さらに言葉を続けた。

    「はい。こうして異世界…セプトピアで私たちが出会うのも、運命だったのではないかと思います。
    私の仙術では、このような予見はできませんでした。
    でも貴方となら……私一人では見えない運命も、見える気がします」

    「運命……」

    ふと、縁にはあの日のことが思い浮かんだ。
    ―あの時、私に定理者の才能が目覚めてALCAに召集されたのも、運命?

    「縁さま、運命は確かに存在するものです。でも、変えることもできるのですよ」

    まるで心を見透かされたかのような答えに、縁はキョトンとした。

    「あの方の魂と同じ縁さまのお気持ち、仙術を使わなくともお見通しです」

    「…蓮香仙女さんってば、ずるいです」

    軽く頬を膨らませ蓮香仙女を見上げれば、ほほ笑みを返された縁。
    蓮香仙女と描く運命はどんな形だろう。
    そして、未来は、どんな色をしているのだろう。
    縁の心は決まっていた。

    ―…というよりも、今の話を聞いて、混乱はあったものの、
    蓮香仙女の思いは縁の心にスッポリと当てはまった。
    ずっと前から盟約をしていたような、心が通じ合っているような…そんな気さえしてくる。

    「蓮香仙女さん。これからは私にも貴方のお世話をさせてくれますか?」

    「それとは話が別ですよ、縁さま。ですが……そうですね、ぜひ、縁さまの手料理を頂いてみたいです」

    「もちろんです!とっておきのお料理を用意しますね!」

    縁と蓮香仙女が仲睦まじくキッチンに立っているのをALCAの局員が目撃するのは、
    もう少し先のお話である。

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  • リオネス・エリストラーヴァ & 綿毛のワッフル

     リオネス・エリストラーヴァ & 綿毛のワッフル

     リオネス・エリストラーヴァ & 綿毛のワッフル

    リオネス・エリストラーヴァ & ワッフル

    「「「可愛い~!」」」
    可愛い動物たちの動画を観て、思わず歓声が上がる。
    それは定理者の素質を持つ少女たち、ピラリ学園1年Sクラスのクラスメートたちでも変わらない。
    「これ! この動物、なんて言うの?」
    「うーん 毛むくじゃらで丸くて素早くて― でもモルモットよりは大きいですわね。
    耳もカールしていて特徴的ですが― 可愛いですわね」
    「どれどれ~ むむむむ~なるほどわかったっす!これはチンチラっすね!」
    「チンチラ? 確か猫にもそんな名前がありましたわね」
    「こっちのチンチラは、ネズミの仲間、げっ歯類っすね。チリ原産の固有種で~」

    万博が検索した結果を読み上げるのを、リオンは実のところ途中から全く聞いていなかった。画面の中で動き回る小動物をじーっ と見ている。
    「-リオンさん、何か気になることがあるの?」
    「うん、ニーナちゃん。ちょっと― どっかで見たことがあるような―」

    ・・・・

    「思い出した! あの子だ!」
    それはつい昨日のこと。
    山の神社の方に散歩に出たリオンは、山道の途中で、可愛らしい小さな子供に出会ったのだ。
    ふわふわのファーが付いた上着が良く似合うその子は、とても元気で人懐こく、リオンともすぐに仲良くなり、日が暮れるまで山の中を二人で走り回って遊んだのだと言う。

    「なんでこのチンチラを見て、その子を思い出しますの?」
    「なんでかな・・・ ! わかった!耳だ!」
    「耳?」
    「その子にもね、こんなくるっとした耳がついてた!」
    といって頭の上に手をやるリオン。
    「・・・・頭の上に、耳?」
    「主さま、これはひょっとすると―」
    「―使者、かもしれないわね」
    「つまりこのあたしの出番っすね!」
    と言って取り出したフォーリナーレーダーを見て、皆が少しゲンナリしたのは言うまでもない。

    かくして、早速委員長弥生を中心に使者捜索隊が結成。
    放課後、山の神社の方へと歩いていく。
    「でも、今日もいるとは限らないんじゃない?」
    「ううん、その子ね、昨日お別れするとき、『また遊んでくれる?約束だお?』って言ったんだ。
    だからね、きっと、待ってる。そんな気がする」

    プー、と気の抜けたような例のブザー音。
    「どうやら、リオンが正しいみたいっすよ」
    万博がレーダーを向けた山道の先に、その子はいた。
    『りおんちゃん! また遊んでくれるんだお?』
    「うん! ワッフルちゃん、今日はお友達をたくさん連れてきたよ!」
    『わっはははーい!』
    「初めまして、ワッフルさん。私は橘弥生、麓にあるピラリ学園1年Sクラスの―がふっ」
    弥生の自己紹介は言い終えることができなかった。ワッフルが体当たりの様に飛び込んできたからだ。
    『何して遊ぶ?何して遊ぶ?何して遊ぶんだおー!?』
    「主さま!」
    「こら~ 主さまにひどいことすると~」
    「「許さない!」」
    華凛と華恋がワッフルを取り押さえようと飛び掛かる。
    二人はこう見えて橘家に仕えるシノビの者、合体前の運動能力ならクラスでも随一、
    のはずだが―

    『わはははーい! 最初は鬼ごっこかお?』
    手の中をするりとすり抜けると、道のわき、木々の間へと消えていく。
    「待ちなさい!」「待て~ こら~!」
    追っていく二人の背中が小さくなる前に、なんとか復帰した弥生は、
    「万博さん、レーダー! リオンさん、私たちも追いましょう!」
    「おっけー! 新開発の“どこでも追いかける君V3”が役立つときが来たっすね!」
    「よーし、私も負けないよー!」
    ・・・・
    「-え?」
    嵐の様な一瞬のあと。皆が放り出した荷物と共に、ニーナが置いていかれていた。

    結局その後。
    鬼ごっこに始まり、影ふみ、手つなぎ鬼、だるまさんがころんだ等々、また日が暮れるまで、少女たちは遊びに遊んだ。
    最初は「本当に使者だったら?」とか「どこの異世界から?」とか「この場合の正しいコンタクトルールは」とか言っていた皆々だったが、全身を使って駆け回り、全力で遊んでいるうちに、どうでもよくなっていた。

    そして、日は暮れる。
    『・・・・りおんちゃん、やよいちゃん、まひろちゃん、かりんちゃん、かれんちゃん、にーなちゃん、みんなもう帰っちゃうのかお?』
    「ワッフルちゃん、もうすぐ夜になっちゃうよ」
    「夜は危ないわ」
    「ワッフルさん、あなたもお家にお帰りなさい、お父さんは?お母さんは?」
    そう言われたワッフルは。
    つぶらな瞳に大きな涙を浮かべた。
    『帰れないお! おうち、わかんないんだお!』
    「やっぱり、迷い込んだ使者だったのですね」
    「学園に戻ってALCAに連絡すれば、帰るゲートも開けるはずっす。安心するっすよ」

    しかし。
    『いやだお! 帰らないお! まだまだみんなと遊んでいたいんだおおお!』
    駄々をこね始めた子供に、思わず肩をすくめる少女たち。
    その中からひとり、リオンがそっと手を伸ばした。
    「わかった、ワッフルちゃん。私と、盟約しよう」
    『めーやく?』
    「うん。そうすれば、いつでも私たちと会える」
    『めーやくしたら、りおんちゃんともっと、もっとあそんでいられるお?』
    話はこうしてまとまった。
    『わかっただお! じゃあわっふる、りおんちゃんとめーやくするだお!』

    それから数日。
    ピラリ学園の模擬戦場に1年Sクラスの少女たちが集まり、
    それを担任の神楽と副担任の藤崎が見ていた。
    「これは・・・思った以上ですね」
    「うむ・・・」
    幼いころから「あの」父親のトレーニングで育てられたリオンは、
    「小国のお姫様」の肩書とは裏腹に、純粋な体力・運動能力、ついでにサバイバル能力がクラスでもずば抜けている。
    それに、天真爛漫で屈託のない彼女の心理傾向も、野生に生きるモノリウムの使者たちとは、相当に相性がいい。

    「それはもちろん、使者側のロジックを受け入れすぎてしまう事にも繋がるが」
    「心配、ですね」
    「だがー」

    「うっははははー!
    たっのしいだおーーーー!!!」
    「ちょ、リオンさんー!」
    リオンの方は、体が動くのに任せて模擬戦場を駆けずり回っているだけだろう。
    だがそのスピードはもの凄い。
    それも、直線的な動きではなく、思いつくままに右へ左へはたまた上へ下へと
    壁を蹴ったりジャンプしたり不規則に動き回るものだから―

    「すごいっすー やっちゃんが完全に見失ってるっすー」
    「好きにはさせませんわよ! 如意棒!」
    伸縮自在の如意金箍棒、これを長く伸ばし、いずれの方向から来ても良いように油断なく構える弥生。
    「いっくだおー!」
    「ふっ! やらせませんわ!」
    飛び込んでくるリオンに、流石のカウンターを合わせていく。
    合体相手の七宝が積んだ功夫四千年の重みは、伊達ではない。

    「はあっ!」
    気合を込めて突き込む如意棒―が。
    「だおーーーー!」
    打撃をかわし、そのままひらりと棒に乗ったリオンが体ごとぶつかってきて、弥生の防御シールドはあっけなく砕けた。
    勝負が決したことを告げるブザーと共に、バリアーが解除されていく。

    「わ、わ~~~ 頭ぐるぐるする~~」
    「アイタタタ・・・頭から突っ込んでくるからですわ! 武器があるんだから武器を使いなさい!」
    「リオン― ちょっと、ちょーっとそのワッフルの体、調べさせてほしいっすー!」
    「万博さん、次は私との試合よ。準備、お願いします」
    「えー ちょっと、ちょっとでいいっすからー」
    「ダメ」
    「そうですわ万博さん、あなたも少しニーナさんに鍛えなおしてもらった方がいいと思います!」
    「そーんなー!」
    「次はニーナちゃんとなの?いいなー 万博ちゃんもがんばってねー!」

    「-やれやれ。藤崎、これは相当、手がかかりそうだぞ?」
    「先輩、それにしては、なんだか嬉しそうですよ?」

    苦笑する神楽たちが見守る中、Sクラスのひなたちは今日もすくすく育っている。

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  • アシュリー・ブラッドベリ & 泡沫のシェリー

     アシュリー・ブラッドベリ & 泡沫のシェリー

     アシュリー・ブラッドベリ & 泡沫のシェリー

    アシュリー & シェリー

    アシュリーがピラリ学園に来ることになる、数か月前のこと。

    アシュリーはクロエに誘われ水族館に来ていた。
    いつも図書館にこもりがちなアシュリーを、クロエが半ば強引に連れ出したのである。

    「すっごーい! 何アレ!」
    「ほら、クロエさん。あちらもご覧になってください。」
    「何アレ!見たことない魚!超おっきいね!リルリルと合体したときにも見たことないよー!!」
    リルリルはクロエの盟約者の一人、シャチの使者フィリルのことだ。
    「海に入れるとこんな景色が見られるんですね。うらやましいですわ。」
    そんなアシュリーの一言がクロエを本気にさせるとはその時、思ってもみなかった。

    数日後、ALCAの盟約室にヴェロニカ、クロエ、アシュリーの姿があった。
    「アシュリー、詳細はクロエから聞いた。水中戦闘可能な使者との合体を認めよう。」
    ――あれ……?私、そんなこと言ったかしら。
    「シュリリンが海に強い思いがあるって局長に伝えた甲斐があったよー!」
    ――クロエさん……。こないだの水族館の時に言ったこと、覚えてくださっていたんですね。
    とても、うれしいですわ!
    「ヴェロニカ局長。クロエさん!本当にありがとうございます!合体して海の探索をしたいですわ。是非、盟約者となっていただける方がいらっしゃるのであれば盟約したいです!でも、合体してくれる方がいらっしゃるかしら?」
    「大丈夫!リルリルに頼んどいてあげたからー!」

    そういってクロエはフォーリナーカードでフィリルにコンタクトを取る。
    「リルリルー?例の件で、盟約室に今いるのー!シェリーっちに声かけてあげてくれないかな?
    データベースに入ってるみたいだからこっちからもコンタクト入れるから!」
    『かしこまりました。今お呼びします。シェリーも楽しみにしていましたわ。』

    ほどなくして、クラゲの使者の少女が現れ、盟約室はたちまちモノリウムの海の底、
    大小さまざまな魚が大海原を行き交う様子に変化する。

    ゆらゆらとアシュリーに向き合った白髪の少女はとても神秘的なドレスをまとっており、
    思わず息をのむアシュリー。
    「私は、、、私はアシュリーと言います!あなたのお名前は?」
    少しうつむいて、恥ずかしそうに下を向く少女。はかなくも可憐な姿。

    今までのアシュリーの盟約者は癖の強いメンバーばかり。
    振り回されるばかりの毎日がつらくもあり、楽しくもあった。
    そんな彼らとは全く異なる雰囲気の使者に、アシュリーは、相手が女の子という事も忘れ、恋に近い感情を抱いていた。
    「お名前を知りたいの。教えてほしいですわ。」
    『私は……、シェリー……。』
    ぽつりとつぶやく。
    『あなたは……、とても暖かい……やさしい声……。』
    アシュリーは、声をほめられて顔を赤らめながらもうれしさを隠しきれない。
    「ありがとう、ですわ。」

    アシュリーとシェリーの二人の会話は、ぽつりぽつりと口数は多くなかったが、
    お互いの言葉が共鳴しているかのように、盟約室が光り輝き始める。
    『セプトピア……って…どんな場所……?きらきらしてる……?』
    「セプトピアはとても美しい世界ですわ。」
    なにか、特別な会話をしているわけでもない、
    しかし、お互いに相手がなにを言おうとしているかが手に取るようにわかる。
    そんな感覚が二人を包んでいた。

    『もっと知りたい……、アシュリーの世界……。』
    「……もちろんですわ」

    「盟約完了だな。では、さっそく、アシュリーにはしばらく海浜警備全般を担当してもらう。
    今回の配備は毎日早朝3時からの勤務となるから注意するように。
    クロエに担当してもらおうと思っていたが、アシュリーに任せよう!」
    そう言い残し部屋を出ていくヴェロニカ。

    「クロエさん。海浜警備ってどういうことですの!?しかも早朝3時って、早すぎますわ!」
    「シュリリン、海に入りたそうだったしー、盟約者も見つかったしよかったじゃん!」
    ――きっと、朝早く起きたくなかっただけですわ!
    「海浜警備なんて言ってないですよ!クーローエーさーん!!!!」
    「いいじゃんいいじゃん!今度一緒に海遊びに行こうよー!」
    まったくこの人は!そう思いながらも思わず微笑むアシュリーの手元でフォーリナーカードが応えるようにきらきら光っていた。

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  • 橘 弥生 & 七宝

     橘 弥生 & 七宝

     橘 弥生 & 七宝

    弥生 & 七宝

    橘弥生は、焦っていた。
    本人は認めたくはないだろうが、焦っていた。

    「主様~ わっちも盟約の相手が見つかったよ~」
    のんびりと報告をしてくる華恋。
    「そう、良かったですわ」

    「す、すいません主様。うちも、その・・・」
    余計な気を回す華凛。
    「華凛も、お見事ですわ」
    恐縮して小さな背をさらに縮める華凛と、変わらず大きな体をふにゃーと伸ばす華恋。
    二人は幼いころから橘の家、特に弥生に仕えている「忍びの者」だ。
    そして何より、弥生の大切な友人、いや家族、でもある。

    元々弥生は、目標を自分できちんと決めて、そこに向けて努力するのが好きな性分だ。
    自分や華凛・華恋に定理者の素質があることがわかり、来年から定理者育成校・ピラリ学園への入学を勧められた時。最初に弥生がしたのは、自分なりに「定理者とはどういう存在か」
    「彼らが所属するALCAがどういう組織か」などなど調べることだった。華凛にもいろいろ情報収集をさせたものだ。そして決めた。
    「定理者となるからには、その中でも1番の定理者になりましょう。目指すはALCAの長官ですわ!」
    と。
    有言実行。目標を定めた弥生は、それに向かって日々、彼女なりに努力している。

    ・・・しかし。定理者は一人ではどうにもならない。
    異世界の使者と盟約できなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
    もちろん、来年入学してから、学校で学びつつゆっくり盟約者を探すこともできるのだが、
    それでは彼女の目標たる「1番の定理者」に後れをとってしまう気がするし、なにより―なにより、華凛・華恋と別のクラスになってしまうではないか。

    「主様、うちの盟約者はジスフィアのニンジャです」
    「わっちの盟約者はサムライだよ~」
    「それぞれ、向こうの世界での人脈もあるようです。
    ・・・差し出がましいようですが・・・」
    華凛・華恋の言いたいことはわかる。彼女たちの盟約者に、故郷の世界・ジスフィアで弥生と盟約しても良いという使者を探してもらおう、というのだ。
    「ありがとう、華凛、華恋。
    でも心配は無用ですわ。わたくしは橘弥生。あなたたちの主です。
    自分の盟約相手は自分で、探してみせますわ」
    そう言い放ち、供を断って一人歩き出したものの・・・
    正直なところ、何か当てがあるわけではない。

    折しも今日は休みの日。あてどもなく歩いていたら、いつの間にかオビヒロの街まで降りて来ていた。
    街の賑やかな様子をみると、少し心が晴れる。
    商店街には、彼女の生家である橘財閥の系列も店を構えている。
    他の商店と足並みを揃えつつ、街を発展させ、住む人々を豊かにする。
    大財閥にして大商人、橘家の家訓は
    「商いで得た利益は人々のために使うべし。世界を豊かにすれば、さらに大儲け!」
    であり、その教えは弥生にもしっかり根付いている。だから街を行き交う人々が笑顔だと、自分と自分の生家が褒められたような気がして嬉しいのだ。
    「この世界を守り、正しく導いていくためにも、わたくしは1番の定理者にならなければいけませんのに―」
    その時。
    「!!」
    平和だった街の中に、物が壊れる音と野太い怒号が響いてきた。
    考えるより先に、そちらへと弥生は走り出している。ほどなくして辿り着いたのは、繁華街の一角。見れば、少女らしき人影が、二人の大柄な男性に絡まれている様だ。酔っぱらった観光客だろうか。見過ごせない。声をあげるか、あるいは警察を呼ぶかと思ったが、

    『おやおやぁ、お二人さん、よくない酒をしているねー
    そういうの、あたしぃ見過ごせないわねぇー』

    言うが早いか。少女の手が左右にするすると伸び―
    いったいいかなる技なのか、くるり体を翻すと男たちは軽々空を舞い、
    近くを流れる用水路に次々落ちていく。
    『水でもかぶって酔いを覚ますといいわよぉ。そしたら一杯、付き合ってあげる。
    そっちのおごりならだけど』
    思わず呆然と見ていた弥生の視線に気づいた少女は、目を合わせるとにやっ と笑い、そのまま―
    ―そのまま、ぐらりと道に倒れ込んだ。
    「ちょっ、だ、大丈夫ですの!?」
    思わず駆け寄り助け起こす弥生。
    『アタタタタ・・・ 急に動いたら回ちゃってぇ~~』
    答える声が、うっ、酒臭い。それもかなり。
    「貴女いったい―」
    『いっや~ こっちの世界の酒も、なかなか美味しいわね~ ヒック!』
    それが、ジスフィアのカンフーマスター、七宝との出会いだった。

    木陰に座り、膝枕をしながら、扇子であおいで風を送る。
    改めて、七宝と名乗った少女の姿を見る。いや、本当に少女だろうか。
    身長は同じぐらいだが、スタイルは圧倒的だ。服の上からでもよくわかる。
    (いや、羨ましくなんかないですわ)
    喋り方からして年上らしいが、確かに流す目つきは通りがかる男の人が立ち止まるぐらい色っぽい。一方、こぼれた笑みは乙女の様でもある。
    『あんまり美味しいから、飲み過ぎちゃったわぁ。
    ・・・あ、そういえばこっちの世界のお金持ってなかったわー
    あんたさ、代わりに払っといてくんない? だめ?』
    「ダメに決まってるでしょう!
    ・・・いえ、ここで放置してはお店の方にご迷惑がかかります」
    弥生の脳裏を、噂好きなマスコミがあることないこと好きに書き立てる様が駆け巡った。
    「わかりました。ここはわたくしが立て替えておきますわ。
    その代わり、私と一緒に学園まで来てもらいます。
    そのうえで、しかるべき身元引受人に来てもらい、酒代をお支払いいただいたうえで、丁重にお帰り願いますわ!」
    『なんだいなんだい細かいねー アタマの可愛いパンダが泣くよ?』
    「細かいのは性分です、ほおって置いてください!
    ・・・でもこのパンダの可愛いらしさに気づいたところは褒めてあげますわ。
    というか、そちらの世界にもパンダいますの?」
    『いるよ~ ただこっちのパンダは可愛いってより――強いけど』
    「強い!?」
    『ヤツら結構鍛えてるからねー。パワーがあって、タフなのよ。
    前に戦ったときは三日三晩ぶっ通し』
    「ごめんなさい、それ以上聞くとわたくしの中のパンダ観が変わりそうです」
    『にしても、驚かないのね。もしかして、お嬢ちゃんが噂の定理者、ってやつ?』
    「お嬢ちゃん、は止めてください!
    ・・・それにまだ、定理者とは言えませんわ。わたくしには、盟約相手がいませんから」
    『ふ~ん、そりゃ大変ねぇ~』

    「ところで貴女の先ほどの技、素晴らしいものでしたわ」
    『わざ~? べつに、あんなの、技って言うほどのもんじゃないよ』
    セプトピアのロジックに適応した使者は、故郷の世界の様々な能力を失って、
    大概はただの人間や動物などになる。にもかかわらず、腰の回転と重心の移動?だけで大の男二人を投げ飛ばした七宝は、
    どれだけその身に超絶の技を宿しているのだろうか。

    「この世界、セプトピアには、何をしにいらしたの?」
    『―お酒』
    「え?」
    『美味しいお酒、呑みにきたの』
    思わず、膝から彼女の頭を落としそうになる。
    「貴方、それだけの技を磨いていながら、今はただの酒飲みですの??」
    弥生も、茶道華道といった習い事をしているし、特に日舞は好きで日々鍛錬を積んでいる。
    だからこそ、この使者がどれだけ自分の体を苛め抜いて鍛えてきたか、推し量れるつもりだ。
    それには相当な決意と覚悟が必要なはずで、およそ何がしかの使命を帯びた人物であろうと思ったのだが―

    『いやいや、酒もバカにしたもんじゃないよ?
    お嬢ちゃんにはまだ早いけどね』
    「だからお嬢ちゃんは止めてください!」
    『その土地のお酒を飲むとね、その土地のこと、その土地に住む人のことが、よくわかるの。
    ・・・ここは、良い世界よね。
    人々がちゃんと努力して、世界を豊かにしてきた、そんなふっくらとした味がする。
    だからわかるよ』
    すい、と一呼吸で身を起こす。
    逆に見下ろす形になった七宝は、弥生の頭に手を伸ばし、ゆっくりなでると、

    『――良く頑張ったわね』

    気が付くと、弥生の頬に熱いものが流れていた。
    涙のしずくがこんもりと盛り上がり、後から後から流れてきた。
    自分でも良く分からない。
    この世界が、この街が褒められて、嬉しかったのかもしれない。
    なのにそれを守るチカラを得られない自分が、悔しかったのかもしれない。
    止め方もわからず、そのまま弥生は泣いた。大泣きした。そしてその激情のまま、叫んでいた。

    「わ、わたくし、わたくし橘弥生は! 橘家の娘として、この世界を守りたい。導きたい。
    もっともっと平和に、もっともっと豊かに、もっともっとみんなが幸せに笑って暮らせる、そんな世界にしたい!
    そのために、そのための、それに必要な力が、チカラが、欲しい!!
    だから七宝さま、わたくしに力を、お貸しください!!」
    そう言い終わるが早いか。
    七宝の腕がついと伸び弥生を捉えると、そのまま豊かな胸にしまい込む様に抱き込んだ。
    『これからは七宝、って呼んでいいわよぉ、弥生』

    「主様、本当によろしいのですか?」
    「主様ぁ、二対一だよ~?」
    合体し武器を構えた華凛・華恋の二人に、弥生はゆっくりその手を向けて、手招きをしてみせた。
    「構わない、と言っているのです。さあ、いきますわよ、七宝!」
    『弥生はやる気満々だねー。ま、その方がらしいけど』
    「『合体!』」
    また一人、頼もしい定理者のひながピラリ学園に現れた。

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  • アシュリー・ブラッドベリ & アストライアー

     アシュリー・ブラッドベリ & アストライアー

     アシュリー・ブラッドベリ & アストライアー

    アシュリー・ブラッドベリ & アストライアー

    アシュリーがピラリ学園に入学して仲間と出会う、素敵な未来がやってくる数か月前のこと。

    読書好きなアシュリーは、随筆や小説、詩歌から純文学まで幅広く読んでいた。
    彼女はもちろん神話も幼いころから親しんでおり、
    後に出会うアストライアーがどんな女神なのかを本でよく知っていた。

    アストライアーは善悪を司る天秤を所持した星の乙女と呼ばれる女神。
    アシュリーはアストライアーと出会うまで特に星が特に好きではなかったし、
    性格についても正義感が強い玉姫に比べると自分はそうでもなく、
    人を傷つけるような人は嫌いだけれどもそこにもなんらか意図があるに違いないと思ってしまうようなタイプだったから、アストライアーに出会うまではまさか盟約するなんて思ってもみなかった。

    そんな、アシュリーとアストライアーが出会う、ほんの少し前のテトラヘヴンのこと。
    「アストライアーは堅いんだから~!ちょっとからかっただけじゃないですか!」
    「タナトス!あなたという人は。人の命をもて遊ぶなんてもってのほかですわ。」
    正義を司る女神は、死を司る女神とは旧知の仲。友人というよりも腐れ縁に近い。
    いつもタナトスの面倒をみているのがアストライアーなのである。

    「だって、すごい暗そうだから面白そうなんですもん!」
    タナトスはセプトピアの様子がわかる鏡を見ながら笑っている。
    「人はみなさんそれぞれの正義があります。それをバカにしたりしてはいけないと思います。
    こっちの人なんて、一生懸命読書をしているからきっと素敵な未来がまっていると思いますわ。
    あなたも少しは見習って!」
    「じゃあ、私、セプトピアにいくことにする!そしたらニンゲンって生き物がもっとわかると思うんです!アストライアーだって星占いでほんとのことがわかると思ったら大間違いですよ。」

    ――タナトスがセプトピアにいくなんて。少し考えただけでも何が起こるかわからない。
    でも、言っていることはよくわかる。私は、ニンゲンというものを本当に知っているのかな。
    「私は占いを通して、人の信じる結果を見守ります。この子だって。」
    そういって、アストライアーが見た未来は衝撃的なものだった。
    「どうしたの?アストライアー?聞いてる?」
    「この子の未来が見えないの。」

    その数か月後、アストライアーはタナトスを探してセプトピアにいた。
    というよりも、タナトスを探すというのは名目で、実は未来を占った少女に興味があったのだが。
    いざ来てみると、テトラヘヴンとあまりにも違いすぎる星空でうまく未来を占えない。
    本来の能力も使えないしどうしたらよいのかわからず、露頭に迷ってうろうろしているところで見知らぬ少女に声をかけられた。

    「何かお困りですか?」
    ――どこかで見たことのあるような顔…。いえ、この子…。占っても未来が見えなかった子だわ!
    「人を探しているんですが、見つからないんです。」
    アストライアーはアシュリーの顔をまじまじと見つめながら、応える。
    「それは、困りましたわね。どんな姿なんですか?どこで見失ったんですか?」

    ――占えば簡単なのに、とても一生懸命ね。この子の未来がなぜ私に見えないのかしら!
    「紺色の髪で、赤い服を着ています。背はふつうくらいです。見失ったのはこの世界ではないんです。」
    とりあえず、アシュリーの会話に合わせつつアシュリーの様子を伺う。
    「この世界ではない?あなたはもしかして……使者?」
    「そうなんです。実は、私、テトラヘヴンから来た、アストライアーと申します。」
    街角で使者に会ったことに驚くアシュリー。しかもその使者は女神アストライアーと名乗る。
    驚きを隠せないアシュリーはあまりにも突然のことで変な事を口走ってしまう。

    「あなたが!?もっと光貴で威厳のある方だと思っておりましたわ。」
    ――とても不躾ね!タナトスみたいな子だわ。でも、面白い子だわ。
    アシュリーは自分で失礼なことを言ったことを自覚する。
    「ごめんなさい!失礼なことを言ってしまって!まさか眼鏡をかけた美少女が女神様だなんて!」
    「いえ、気にしないで。実はね、私、あなたに興味があるの。」
    「私にですか?あなたのような女神様が私に?」
    「そうなの。私、未来を占う力があるんだけど、あなたの未来が見えないの。」
    「私のですか!?もしかして死ぬ日が近いとかでしょうか?」
    無茶苦茶な展開に混乱するアシュリー。

    ――突然声をかけたら女神と名乗り、しかも未来が見えないだって!?
    「それはないわ。死ぬ人の未来は死ぬときが見える。でもあなたはそうじゃない。私にも理由はわからないの。」
    アシュリーはアストライアーの言葉が妙に魅力的に聞こえた。
    星を占う女神なのに私の未来が占えないなんて。

    ――私はほかの人にはない未来が待っているのですね。きっと素敵な未来ですわ。
    アストライアーはアシュリーの未来を見守ることがとても楽しそうな未来に思えた。
    ――タナトスの言っていた、ニンゲンというものを知るというのはこういうことかもしれない。

    その数日後、意気投合した二人は盟約することになる。

    二人はお互いの未来に興味があったし、二人の言葉を理解することで新たな発見があったからだ。

    アストライアーがアシュリーの未来を占えなかった理由。
    それは、アストライアーが自分自身の未来を占えないから。

    二人が盟約することで二人の運命が重なることになっていたから。アストライアー自身がそれに気付くのはずっと先のことなのだが。

    アストライアーはセプトピアの星空を見上げてつぶやく。
    「タナトス。ありがとう。」
    占えない未来は面白い。

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  • 京橋 万博 & セレン・リサーチャー013

     京橋 万博 & セレン・リサーチャー013

     京橋 万博 & セレン・リサーチャー013

    万博 & セレン

    ピラリ学園は、定理者になる素質をもった少女たちを集め、
    定理者としての教育を施す教育機関である。
    少女たちの中で、運よく波長の合う使者と巡り合い盟約することができた者はSクラスに移り、
    戦闘訓練を含め、合体に関するより実践的な知識を学ぶことになる。

    春、入学式を目前に控えたある日。
    入学前の説明のため、そしてある特別な儀式のため集められた定理者の卵たる彼女たちは、
    期待と不安に胸をときめかせ、口々に
    「テトラヘヴンの素敵な神様に出会えないかしら」
    「モノリウムの野性的な使者様と合体してみたい」
    「ジスフィアの陰陽師サマとか、神秘的でよくない?」
    などなど、にぎやかに話をしているが―そんな空気もどこ吹く風とばかり。

    手元に何やら怪しげな機械をいじっては、
    あーでもないこーでもないとブツブツつぶやく少女がいた。正直、ちょっと異様でもある。
    そんな彼女に、また別の少女が声をかけた。

    「万博さん、あなたは相変わらずマイペースですわね」
    声をかけたのは橘弥生。あの立花財閥の娘で、学内でも既に有名人だ。
    一方、声を掛けられた方の少女は
    「あ、やっちゃん。やっちゃんは緊張してるんすか?」
    「別にわたくしは緊張していませんわ。わたくしは既に、盟約者がいますもの。
    でも他の皆は違います。
    盟約者に出会えるかどうかで、今後の人生が変わるかもしれないのです。
    みな不安なのですわ―
    って、小さいころの呼び名で呼ばないでください!」
    「そうっすか? でもまあ、盟約者に会えるかどうか、こればっかりは運だ、
    ってうちの両親も言ってたっす」
    万博の両親は、ALCAの研究者だ。
    定理者でこそないが、門の仕組みやさまざまな異世界との交流、
    逆理領域の成り立ちなどを研究しており、その知識を万博もいろいろ聞いていた。

    「―ま、あたしはちょっと、予約済みなんすけどね」
    「・・・予約? なんですかそれは?」
    それに答える間もなく。
    「次、京橋万博。こちらに来なさい」
    Sクラスの担任となる目つきの鋭い女性―神楽が万博を呼びに来た。
    「はーい!、待ってたっすよ!」

    「春から入学するのはみな、定理者の才能を持つ者たちだ。
    中でも既に盟約者を持つ者は、すぐに私のSクラスで学んでもらう。
    そこで今日、盟約できるか確認するが、万博。君はどの世界の使者を探してみたい?」
    「トリトミーでお願いするっす」
    「ほう、珍しいな。まあ、らしいといえばらしいか」
    トリトミーは、科学技術が超高度に発達した世界。
    そこから来る使者たちは皆、機械でできたロボットやアンドロイド、自律兵器たちだ。
    それだけに、定理者の卵たちの間では「そもそも会話が成り立つのか?」
    「合体したら体が機械になっちゃったりするのではないか?」
    などなど、知りもせずに敬遠する者が多かったのだ。
    「実は、もう相手も見つけてあるっすよ」
    「なんだと?」
    さすがに驚く神楽をよそに、万博はブランクのフォーリナーカードを高く掲げた。

    「ゲートアクセス、トリトミー!」
    声に応じカードが輝くと、宙空に多次元超電子回路の魔法陣が組みあがり、
    異世界・トリトミーへの門が開いた。
    「さあ、約束の時っすよ、セレン!」
    門がいっそうまぶしく輝く。それが収まった時には、盟約室の中はどちらが上とも下ともつかない
    暗く蒼い闇と、煌き走る光の回路に包まれた、サイバースペースになっていた。
    『―全く、マヒロさんは強引ですね』
    落ち着いた声が響く。
    ブロックノイズが固まって、中から現れたのは、
    漆黒のボディを持つ少女型のアンドロイドだ。
    「久しぶりっすね、セレン。1年ぶりっすか?」
    『正確には357日と22時間18分40秒ぶりです』

    そのころ万博は、両親と共にピラリ町に住んでいた。
    オビヒロにあるALCAの研究施設に出勤する両親の後ろに度々ついていっては、
    施設のあちこちに顔を出し、研究員たちにあれやこれや興味の赴くまま質問をして回るのが日課だった。
    そんなある日。
    手に何やら自作の機械を手にした万博は、施設の裏手からどんどん山の方へと分け入っていた。
    「ん~~~~ 確かに反応したっすが・・・・ 方向はこっちでいいはず・・・」
    視線は機械のメーターに落としたまま。何かを探るように、
    機械から突き出したアンテナを左右に振りながら歩いていく。
    と、突然手元からひときわ甲高い音が鳴った。
    「! こっちっすか!?」
    その方向に向け、ぐいとアンテナを差し出す―
    『あ、痛い、です』
    「!!!」
    そこで初めて視線を上げると、
    確かにアンテナの先が見知らぬ少女のお腹をぷにゅっとつついている。
    流石の万博もこれには焦り、
    「ご、ごめんなさいっす!」
    謝ると同時に後ろへ飛び下がる。
    見てみれば、自分と同じぐらいの年恰好、黒髪を後ろで二つに束ねた女の子だ。
    全身黒づくめ、なのは何かそういうファッションなのだろうか。

    「ここらでは見ない顔っすね、観光客さん?それともALCAの職員のご家族っすか?」
    この道はただ山の中に続いていくだけだ。
    何か観光客を呼べそうな施設でもあっただろうか。
    『いえ、その様な所属ではなく―』
    (ピピピピピー!)
    遮るように、機械がさらに音を高める。おかしい。
    確かにすぐ近く、そう、言うなれば目の前ぐらいにパラドクスレベルの主、
    すなわち異世界からの客、『使者』がいるはずなのだ。
    右に向けて(ピピー!)。左に向けて(ピピー!)。
    正面に向けて(ピッピピピピピー!!)。
    『―その装置はなんでしょう?』
    「これすか? あたしが作った、フォーリナーレーダーっす。
    適応した使者でも、その体からはパラドクスレベルが検出できるっす。
    それを感知し強度と方角を示すのがこのメーターで―」
    『なるほど、貴女はこの世界の、使者に関する技術者なのですね』
    「―へ?」
    『―はい?』
    思わずメーターから顔を上げる万博。黒髪の少女と目が合った。
    何か、聞き逃してはならない事を口にしていなかったか?
    その時。手の中のレーダーがいよいよ音を強くすると同時に、じんわりと温かく、いや熱くなって、あちこちから煙を出し始めた。焦げ臭い匂いが漂う。
    「あ、やべ」
    『やべ、とは?』
    それに答える間もなく、フォーリナーレーダーはいつもの様に、爆発した。

    『―はい、私はセレン・リサーチャー013。トリトミーから派遣されました、門の調査分析チームの一人です』
    「本当に?本当すか?本当っすね?やったー!やっぱあたしの理論は間違ってなかったっすー!
    で? で? セレンはどんな能力を持っているんすか? 合体とかできるすか? 調査分析って言ってたっすね、ってことはアンドロイド?機械?体は?今どーなってるんすか?その服は?身に着けているものは?何かアイテムとか持ってるすか?トリトミーはどんな世界すか?物理法則は?地象地形は?天体運航は?生態系は?文化文明は?統治機構は?そもそもどんな使者が」
    『―マヒロさん! 答える暇がありません!』
    洪水の様に流れ出す、万博の質問の嵐。そのひとつひとつに、答えられる範囲でセレンは答えていく。が、一つの回答に二つ、いや三つ、いや五つの疑問が湧くのか、
    万博の疑問と質問は尽きる事が無い。

    『・・・というわけで、こちらの世界に来たのは良いのですが。適応体になると私の分析機器や調査システムは一切使えないようで、正直困っています』
    「なるほどー。使者もタイヘンっすね。あ、でもだから定理者と合体するんすねー」
    『そうなのですか?』
    「異世界から来た使者がそのまま力を発揮できるなら、合体とかしなくてもいいはずっす。
    以前、悪い使者は、戦ったり暴れたり、好きな事するために人間を襲ってはトランスジャックしてたんすね」
    『今は違うのですか?』
    「うちの両親が言うには、トリトミーの技術のおかげで、
    門が偶然開いたりするのをかなり防いでコントロールできるようになったらしいっす。
    だから、悪い奴はそんなにこれなくなったみたいっすよ」
    『なるほど。でも困りました。では私は、どうやって調査を続けたら良いのでしょう』
    「それなら、良いアイデアがあるっすよ」
    そう言って万博は、にかっと笑った。
    それが、今から1年前のことだ。

    盟約室の外から、神楽の声がする。
    「なるほど、お前、既にその使者と出会っていたのか」
    「ふっふっふー このフォーリナーレーダーの輝ける実績、ってやつっすねー!」
    『マヒロさん、まだその危険なレーダーを使っているのですか』
    「もちろん! だーいじょうぶ大丈夫、あの時から常に改良改造をしてるっすからね、
    探知範囲も探知精度も各段にアーップ!
    ・・・ちょっと爆発の頻度もアップしたっすけど・・・ま、しょうがないっすね。
    科学の進歩に爆発は付き物っす」
    『マヒロさん!』
    トリトミーのアンドロイドの中には、人間の様に豊かな表情を見せる者もいる。
    だがセレンはそうではなく、装甲に覆われた頭部が変化することはない。
    が、明滅するアイランプと声の調子が、万博のことを本当に案じているとうかがわせた。
    「さあセレン、約束っすよ!
    あたしはこうして、ちゃーんと定理者になったっす。
    だからだから、あたしと盟約して、まずは合体してもらうっす。
    合体すれば、セレンは自分の調査分析機能をこのセプトピアでも使うことができるはずっす。
    そして思う存分、調査すればいいっす。
    フフフフ、もちろん、あたしもその機能をちょーっと貸してもらってぇ、
    いろいろとぉ、フフ、いろいろーと調べてみたいことが、あるっすよ!!!」
    なぜだろう。
    表情はないのに、トリトミーのアンドロイドには感情はないはずなのに、
    神楽にはその使者が「迷惑だなぁ・・・」と「仕方ないなぁ・・・」で揺れ動いている様に、見えた。
    『了解です。約束ですから。
    フォーリナーカードで呼び出される事は、私の、門を調査しデータを収集するという任務にも好適と言えます。
    ―それに、マヒロさんは放っておくと・・・危険なのではと、判断します。いろいろと』
    「よっしゃーあ!
    じゃ、やるっすよ、セレン!
    あ、あたしのことは、もう呼び捨てでいいっすよ。盟約者なんだから」
    『わかりました、マヒロさん、いえ、マヒロ』
    「あたし京橋万博は、セレン・リサーチャー013にこのロジックを捧げることを誓いますっす!」
    『本機セレン・リサーチャー013は、マヒロ・キョウバシにこのロジックを委託することを承認します』
    「『合体!!』」

    かくして。
    京橋万博は盟約者を得、Sクラスに入学。
    盟約者を持つ定理者としての訓練を始めることになった。
    の、だ、が・・・

    爆音が鳴り響く。
    『マヒロ、たまには自衛機雷ではなく、探査子機も設置してみませんか』
    「おっかしーすねー。
    プローブ出してるつもりなんすが、なーんで機雷になっちゃうんすかねー?」
    今のところ、あまり調査は進んでいない。

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  • 五六八 葵 & トール

     五六八 葵 & トール

     五六八 葵 & トール

    葵 & トール

    トリトミー襲来の混乱の後、葵はいかなる場合にも備えて、「強さ」が必要であることを実感した。

    単純な戦闘の強さだけではなく、精神の強さも非常に重要になると。
    それは、使者の襲来が激減し、戦闘よりもパトロールや慈善活動に従事するようになった、
    今この時においても。

    『葵、闘いはまだか!?』
    また始まった…と心の中で呆れる葵。
    今日お願いされている活動は、道を塞いでいる倒木の処理。
    確かに、彼女の求めているような闘いではない。
    「言ったでしょ?今の定理者は闘うだけじゃないって。こういう活動だって、とても大切なことなのよ」
    『そうかもしれないが…』

    ここまで彼女が闘いを求める理由、
    それは彼女が、テトラヘヴン屈指の戦闘力を誇る、雷の戦神だからであろう。
    “戦神”ともあろうものが慈善活動にいそしんで、自慢の戦闘力を発揮できないことが、
    腑に落ちないのかもしれない。
    葵も、その気持ちは十分に分かっているつもりだったが、
    「トール、あなたはそれでもいいって言ってたじゃない」
    そう言いながら、彼女と盟約した時のことを思い出していた。

    ALCA盟約室には、葵とトールの姿があった。
    実戦経験を持つ定理者と盟約がしたいというトールからの要望に、葵が呼ばれたのである。
    葵のトールへの第一印象は、力強さ、であり、これまでの盟約者とは毛色が違うかな、
    というものだった。

    「実戦経験を持つ定理者なら私以外にもいるわ。その中からなぜ私が?」
    『キュウドウの名家で育ったという話を聞いた。葵は闘いの為の能力を幼いころから鍛えてきたということだろう。“戦神”の異名を持つ私にぴったりの定理者だと思ったのだ!』
    「弓道は闘いってわけでもないけど・・・」
    『それに、モノリウムの腕利きの戦士、メルチとも盟約しているそうじゃないか!
    あれだけの力を持った者と盟約をしていることが、葵の実力を証明している!』
    トールは、葵以外の盟約者は他にいないと考えているようだった。
    葵の話を聞こうとせずに、とにかく盟約をしようと、葵についての情報を熱弁している様子である。

    「トール、あなたは“戦神”の異名を持つみたいだけど、今のセプトピアはかなり平和なの。
    使者の侵略も減ったし、滅多に闘うことはないのよ?」
    葵は、勢いに押されそうになりながらも、なぜこのタイミングで盟約を、という疑問を投げかけてみた。
    『定理者と盟約をすれば、さらに強くなれると聞いた!
    葵と盟約をすれば、もっと強くなれると感じたのだ!それに、強くなることに理由などいらない!
    闘いが少なくても構わない!』
    答えになっているような、なっていないような返答であったが、葵が何を言ってもこの熱意は変わらないのだろう。葵にとっても、「強さ」を求めることに異論はなかった。
    「そこまで言うなら…」
    『本当か!?ありがとう、恩に着る!』
    これまでとは違った、力強い盟約者であるため、葵は内心ドキドキしながらも、自分の心の強さを鍛えていくために、良い相手なのではないかと考えていた。

    「戦いが少なくても構わないって言ってたわよね?この倒木だって、私たちだから簡単に処理できるのよ」
    そう言いながら、トールハンマーの一閃で倒木を吹き飛ばす。
    『こういう能力の使い方ももちろん必要なことだとは思う……』
    トールと過ごしていく中で、彼女のことを徐々に理解するようになっていた。
    “戦神”という異名を持ちながらも、闘いを求める純粋な子供のよう一面があること。

    なんだかんだ文句を言いながらも、慈善活動にも能力を発揮して、精を出してくれる真面目な性格であること。
    盟約した当初はどうなっていくのか不安もあったが、上手くやっていけそうだな、と感じるようになっていた。
    出来ることであれば、彼女が一番輝ける、闘いの場を用意してあげたい気持ちはあるが、
    「今、私たちにできることをやりましょう。この活動も、しっかりと強さに繋がっていくと思うわ。」
    『葵が、闘いでは得ることのできない強さがあるというのなら信じてみよう。ただし毎日1時間の訓練には付き合ってもらうぞ』
    「はいはい」

    駄々をこねたような言い方に少し呆れながらも、強さを純粋に求める姿勢は見習うべき点だな、
    と微笑みながら返事をした。

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  • 五六八 葵 & ブリュンヒルデ

     五六八 葵 & ブリュンヒルデ

     五六八 葵 & ブリュンヒルデ

    五六八 葵 & ブリュンヒルデ

    「ここで仕留めるわ!」

    葵の声が宵闇に響き渡る。
    使者の襲来が激減したとはいえ、それでも完全に途絶えたわけではない。

    『戦うことでしか、分かり合うことが出来ないのですね……』
    ブリュンヒルデが哀しそうに呟く。
    「大切な人を。平和を守るために。戦いましょう。」

    トールと盟約した少し後、ALCAの盟約室に葵は再び呼び出されていた。
    またしても、葵と盟約をしたいという使者が現れたという。
    (なんだか人気者になった気分だわ…)
    そんなことを考えていると、
    「あなたが葵さん・・・ですね。伺っていた印象とぴったりです。
    私と盟約してくださいませんか?」
    いきなり名前を呼ばれてハッとする。
    室内はテトラヘヴンの風景に変わっていた。
    目の前にいたのは、綺麗なでおしとやかな女性であった。
    紫色の髪をなびかせて、憂いを帯びた表情に、思わず見とれてしまう。
    「葵さん…?」
    返答がない葵に、ブリュンヒルデは再度問いかけた。
    見とれていた、と言うわけにもいかず、少し焦る。
    「ごめんなさい…!でもなぜ盟約を?」
    いきなり盟約をしようと持ち掛けられる理由が全く見当たらなかった。
    トールの時と同じ流れだな、と思いながらも問いかける。
    「トールが、葵さんと盟約をしたと聞きました。」
    ちょうど今考えていた名前が、目の前の女性の口から出てきたことに驚く。
    「なぜご存知なんですか?」
    「同じテトラヘヴンにおりますから。“闘い”と“強さ”を求め、強く、凛とした定理者と盟約をしたと聞いて、その定理者の方を探していたのです。」
    葵の目を見つめながら、話を続けるブリュンヒルデ。

    「私は、戦いを好みません。トールにもできるだけ戦いをさせたくないのです。
    それが出来るのは、葵さんのそばにいることだと感じました。」
    戦いをさせたくないから、盟約をしたいとは、今までに聞いたことがない理由であった。
    「私も出来ることなら戦いたくはないわ。
    でも平和のために“強さ”は必要だと思ったからトールと盟約したの。“強さ”を求めているのはトールも私も同じよ?」
    「私とトールは幼馴染なんです。」

    いきなりの告白に動揺する。
    「トールは、小さいころから、戦いから帰るたびに、私に楽しそうに戦いの様子を話してくれていました。戦神として名を知られるようになってからは、もっと目を輝かせて。
    トールが楽しそうにしているのを見るのは私もとっても嬉しかったです。」
    「それなら、戦いをさせたくないなんて…」
    葵の言葉を遮るように、ブリュンヒルデは言葉を続けた。
    「それでも…楽しそうに話す彼女の身体は、いつも傷だらけでした。
    私は、彼女にこれ以上傷ついてほしくないのです!」
    ブリュンヒルデの、強い想いが葵の心を動かす。
    「・・・。あなたの、トールを守りたいという気持ちはよくわかったわ。」
    「それでは・・・!」
    ブリュンヒルデの顔が明るくなる。

    「私は平和を守りたい。必要があれば、戦うこともあるし、
    ブリュンヒルデにも一緒に戦ってもらうわ。それでもいいかしら?」
    「私がトールを守りたいのと同じように、葵さんは平和を守りたいのですね。
    平和のために戦うというのであれば…お手伝い致します。」
    “守りたい”という共通の気持ちが、盟約の決め手となった。

    「なぜブリュンヒルデが!?」
    ブリュンヒルデを見たトールが驚きの声を上げる。
    「私も葵さんと盟約をしたんですよ。」
    微笑みながら答える。
    驚きながら、トールも嬉しそうな表情をしている。
    二人のやり取りを見ていると、本当に仲が良いことが伝わってくる。
    その様子を見ながら、
    (私にも、あんな仲間がたくさんできたらいいな)
    と葵は考えていた。

    ―これは、アシュリーと共にピラリ学園に転入して、大切な仲間がたくさん出来る、
    数か月前の出来事である。

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