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HBT02 ストーリー

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 HBT02 ストーリー

Happy×Heart メインストーリー

桜が散り始めた春の日。

天真爛漫な小国のお姫様・リオンは
ホッカイドウの学校に通うことに。

ここは世界の平和を守る定理者ロジカリストを育成するため、
ALCAが運営する特別な教育機関。

リオンが入った1年Sクラスには、定理者ロジカリストのニーナをはじめ、
個性的なクラスメイトたちがたくさん。

定理者ロジカリストのヒナたちが送る、
とってもにぎやかでかわいらしい日々

合体トランス!!はじめます

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  • 京橋 万博 & ドレッド・デストラクト001

     京橋 万博 & ドレッド・デストラクト001

     京橋 万博 & ドレッド・デストラクト001

    京橋 万博 & ドレッド

    見渡す限りの大海原。
    海の青、空の青、そして雲の白。
    ひたすら、いっそバカバカしくなるぐらいのコントラストに囲まれて、
    万博は思わず「うひゃひゃひゃひゃー!」と笑い出したくなるところ、
    だったが・・・そんな元気はなかった。
    彼女が乗っているのは、大型の外洋向けモータークルーザー。
    真白い船体は傷一つなく、甲板も磨き抜かれたように輝いている。
    キャビンに人はおらず、乗り込んでいるのは万博一人のようだ。
    その舳先に座り込んだ彼女は、足を投げ出しつつ、明らかに急ごしらえの釣り竿で、
    ぼんやり糸を垂らす。-が。

    「釣れないっす・・・」
    そんな呟きに答える声がある。
    『だろうな。やはりエサもない仕掛けではなあ』
    「魚にやるエサなんかないっすー そんなもんあったら、あたしが先に食べてるっすよー」
    ぐうう、と腹が鳴った。
    「あー 腹減ったっす・・・」
    もう何回目になるかわからないボヤキ。
    思わず天を仰ぐ。
    ちなみに漂流48時間目である。

    さかのぼること3日前。
    週末、突然「こう、でっかいマッシーンががちゃーん ぐわちゃーん と働いてるところが見たいっすー!」と思ってしまった万博は、
    オビヒロまで出た後、特急で1時間半、クシロの港まで来ていた。
    ちなみにリオンたち1年Sクラスの友達もオビヒロまでは一緒に来たのだが、
    やはり重機力あふれるクレーンのロマンが分かり合える女子はいない様だった。
    リオンは、ニーナと一緒にプラネタリウムへお出かけ。
    弥生は華凛、華恋を連れて家の行事とやらに行くとのことだ。

    クシロ港はホッカイドウ東側の物流拠点のひとつ。
    今も轟音を挙げてガントリークレーンがうなり、コンテナを次々船に載せている。
    「やっぱり重機はロマンっすねー」
    と。突然、ふところからプープープーと電子音。
    取り出したるはいつもスイッチを入れっぱなしにしているフォーリナーレーダー。
    どうやら近くに反応があるようだ。
    「来た来た来たっすー! どっちっすか? 右? 左?」
    反応は港の方を指していた。
    しかし、コンテナ船のある貨物港の方ではない。
    漁港? いや、ヨットやプレジャーボートを係留しているあたりに反応がある。
    ・・・
    「おっかしいっすねー 誰もいないっすよー?」
    反応は確かに一隻の大型クルーザーを指している。
    だが付近に他の人間、あるいは鳥や獣の姿もない。
    ひょっとして、このクルーザーの中に潜んでいるのだろうか?
    心の中で一応無断侵入を詫びながら、桟橋を伝って船内へと足を伸ばす―と。

    『娘、何か本船に用か』
    「え?」
    声がする。しかし、見る限り船内には誰もいない。
    「ど、どこにいるっすか?」
    『ここにいる。というか、君が私の中にいる』
    「・・・まさか、喋っているのは、船?」
    『うむ。本船はドレッド・デストラクト001。
    トリトミー機動艦隊に所属する、デストラクト級弩級戦艦、その栄誉ある1番艦である』
    普通の女子なら、喋る船に度肝を抜かれてしまうかもしれない。
    だが彼女こそは京橋万博。定理者養成校ピラリ学園1年Sクラスの問題児にして
    フォーリナー研究家である。すぐにそのセリフを理解した。
    「なるほどー!トリトミーの機動戦艦がセプトピアにきて、適応したんすね!」
    『その通りである』
    異世界の使者がセプトピアに来ると、セプトピアのロジック―物理法則などに縛られて、その存在が変化する。
    万博の盟約者、少女型アンドロイドのセレン・リサーチャー013が人間の少女に変化したように、大抵は姿かたちや近しい存在に変化する。
    「でも、戦艦、って感じじゃあないっすね」
    なるほど、宇宙戦艦が適応すれば、セプトピアでは海に浮かぶ船に変化するのはわかる気がする。
    むしろ、いくつもの砲塔で艤装された戦艦に適応しなかったのは幸いというところだろうか。
    いくらなんでも突然クシロ港外洋に巨大戦艦が現れたら大騒ぎになるだろう。
    『トリトミーの機動戦艦にとって、艦体のサイズは決してその戦闘力と比例しないのである!』
    「むむ・・・なるほど、船の大きさが小さくても、強力な兵器を搭載できるなら、その方が機動性も上がるし的にもなりにくい、ってわけっすね!」
    『ご明察である! 君はそんな姿だが、ひょっとして軍属なのか?』
    「ちがうっすよ~ まあ、フツーの女子とはちょーっと違うっすけどね~」
    『本艦も別に戦闘任務に来たわけではない。現在セプトピアは平和と聞く。
    であれば、兵装がなくても問題はなかろう』
    「ふ~ん じゃあ、何しに来たっすか?」
    『・・・ 海とやらが、見てみたかったのだ』
    「へ?」
    『本艦の任務は、基本宇宙空間に限られる。海というものの存在はデータベースに存在していたが、特に本艦には関係のないものであった。本艦はそもそも着水や水上航行を想定した設計をされていない』
    「ふむふむ」
    『だが・・・ このところ、トリトミーでもセプトピアに渡った者が増えてきた。
    ネットワークにその体験情報がアップロードされ、本艦もそれを共有した。
    特に、アリオール・ラプトレス015の大気圏内飛翔のドキュメントは実に興味深かった』
    「ナイエン支局の七星縁さんの盟約者っすね。そのコンビはセプトピアでも結構有名っすよ。世界を救った一人っすからねー」
    『本艦も― 本艦も、その空から見える一面の青、「海」とやらを、見てみたかったのだ』
    「・・・わかるっすよ、それ」

    まだ見ぬ世界への憧れ。相手はヒト型でも生物ですらもなかったが、これほど共感できる使者もいなかった。
    万博を乗せたドレッドが、「ちょっとそこら辺を見て回ろう」と出港したのも無理はない。
    ただ問題は、万博が今日の天気予報をチェックするのを忘れていたこと。
    そしてセプトピアに来たばかりのドレッドが、その気象に詳しくないのも仕方ない、ということ。

    まさか、季節外れの台風が行く手に待っていようとは、二人も気づかなかったのである。

    「にしても、まーさか食べられるものが何も載ってないとは思わなかったっすー」
    『仕方ないだろう、そもそも本艦は乗員を想定していない』
    「まあ、人間なんて柔らかくて不安定なパーツっすからねー 載せなくていいなら乗せないっすよねー」
    それだけではない。ドレッドに積まれている様々な計器・センサー類は全て「宇宙戦闘」を前提にしたものだ。
    適応して海上にいる今、それらは役に立っていない。
    丸一日、嵐にもみくちゃにされた挙句、陸地を完全に見失ってしまった。
    今、太陽系の星々がどんな配置にあって、宇宙を巡る人工衛星の数々までわかるのに、海上の自分の位置はよくわからない、という皮肉にもほどがある状況だ。
    SOSを打電してみたが、規格が合わないためにセプトピアの機材では受信できないだろうとのこと。
    『すまない、本艦がまさかこれほどに無力とは。
    栄えあるトリトミー機動艦隊の名折れである・・・』
    「しかたないっすー」
    だが万博は、決してドレッドを責めなかった。調子に乗ってどんどん沖へ海原へとドレッドを走らせたのは自分だ、という気持ちがある。それに。
    「まだまだ、適応の仕組みはわかってないんす。
    使者がどんな姿かたちに適応するかわからないし、それに―
    それに何故セプトピアの人間が異世界で適応できないかも・・・」
    『いつか、それも解き明かされるだろう。
    我らのような冒険者が後に続く限り』
    「そうっすね・・・ でも・・・」
    ぐうううう
    「このままだと、あたしの旅はここで終わりそうっす・・・」
    『万博! 万博! しっかりしろ!
    おのれ、本艦の本来の力ならば、宇宙まで駆け上がることも可能だというのに!』
    「本来の・・・ちから・・・」
    『本艦の・・・能力・・・』

    「『それだ!!』」

    二人の意図が図らずも一致した時、すでに二人の波長はぴたりと合い、盟約への条件は整っていた。
    合体した二人は、そのまま高々空へ宇宙へ駆け登り大気圏を突破。
    軌道上からセンサー類を展開、ピラリ学園の位置を正確に測定すると、大気圏へ再突入。
    悠々、学園の校庭へと着陸してみせた。

    もちろん、万博を探し回っていた弥生を始めクラスの友達や先生、両親、近隣住民のみなさんやALCAサッポロ支局の方々に超・心配をかけた事で、
    しばらく夢にうなされるぐらい叱られたのは言うまでもない。
    だが、お詫びを兼ねて皆をクルージングに連れ出した時の、
    夕子さんに作ってもらったお弁当の美味しさたるや、素晴らしいものだった。
    「これだから冒険はやめられないっすー!」
    夕子からハリセンを借りると、弥生は万博の後頭部にばしっと振り下ろした。

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  • 森ヶ谷夕子 & ステュクス

     森ヶ谷夕子 & ステュクス

     森ヶ谷夕子 & ステュクス

    森ヶ谷夕子 & ステュクス

    白樺寮から電車に乗ってオビヒロの街へ。そこから更に特急に乗り換えておよそ2時間半。
    やってきたのはサッポロ。
    さらにその中心近くにある、タワーを備えた特徴的な建物。

    「さぁ夕子、ついたぞ! ここが卒業後私たちが働くことになるALCAサッポロ支局だ!」

    そう言って、くるりと器用に回りながら手を広げるのは、東瑞希。
    定理者育成校・ピラリ学園の元生徒会長だ。
    秋になり、生徒会を後輩に譲った瑞希。もちろん卒業後の進路の準備も万全だ。
    成績や内申評価は十分、ALCAの入局については先生方も太鼓判を押している。
    東瑞希にとって、ALCA入局はスタートでしかない。入局後の配属や達成すべき仕事、
    たどっていくキャリアパスまでしっかり検討済み。
    現役の定理者や元定理者が重要ポストを占めるALCAの中で、
    定理者の才能があっても盟約者に恵まれなかった彼女がいかに駆け上っていくか。
    将来を考えるだけでわくわくしてくる。

    問題は―
    「あらあら、瑞希は大変ね。毎日サッポロまで通うのかしら。家からだと、ちょっと遠いわね~」
    「いや、だから、夕子もALCAに入局してね、ほら近くに下宿をね、二人でね、ゆ~う~こ~~」

    瑞希の未来予想図には夕子が不可欠なので、事あるごとに一緒にALCAに入局しよう!
    と勧めているのだが、彼女はなかなか乗ってきてくれない。
    とりあえず今回、ALCAサッポロ支局の職場訪問に連れ出すことには成功したのだが、先はまだまだ長そうだ。

    親切な職員の案内で、二人は支局のあちこちを見て回り、気になるいろいろなことを質問することができた。
    「以前は、ある程度以上の適正のある方は強制招集の上、緊急時には即出撃でしたからね、
    盟約相手のいるいないに関わらず、支局に住み込んで貰っていました」
    「なるほど、だから宿泊施設が充実しているのですね!」
    「フォーリナーカードもありませんでしたから、盟約相手の使者の方も全員住み込んでいたのですよ」
    「今は違うのですか?」
    「はい、各定理者の方によってまちまちです。当番制のシフトこそありますが、自宅は別、という方も多いですし、こちらに住まれている方もいます。
    使者の方も普段は故郷の異世界にいてフォーリナーカードで呼ばれる方もいれば、相変わらず適応体でセプトピアにとどまっている方もいらっしいます。
    一方、以前のような、戦闘任務での出撃は、ほぼありません。
    定理者の仕事は様々に広がっていますが、特に喜ばれているのは、火事や事故、災害時の緊急応援任務ですね」
    そんな事を話しながら、今は空き室が目立つ一角を歩いていると・・・

    『!!! むぎゃっ!!!』

    何か重い物が転がる音と共に、子供の悲鳴?ともとれる声が聞こえてきた。
    ALCA支局内で子供の声?
    思わずそちらに向かう夕子と瑞希だが、案内の職員は何か呆れたような諦めたような顔でゆっくりついてくる。
    音の出処を探ると、一番隅の部屋が、酷いことになっていた。
    決して狭くはない個室が、足の踏み場もないほど雑多なもので埋まっている。
    本やら紙束やら定規やら測距儀やら。中でも一番目立つのは・・・
    「壺?」
    ひと抱えもある壺がごろごろ転がっている。先程の音は、これが崩れたかららしい。
    その真ん中で、小学校高学年か、せいぜい中学生といった感じの女の子が倒れて頭を抱えている。
    『あ、アイタタタ・・・なんで転がるんよ・・・ムカツクなー』
    「あらあら!大丈夫?」
    「お嬢さん、さあ、私の手をとりたまえ」
    助け起こす夕子と瑞希だが。
    『ム! お前、人間だな! は、はなせ! わたしにさわるなー!』
    この反応は?と目を合わせる二人。そこへ顔を出した職員は、
    「―またですかステュクスさん」
    『しかたないのだ! 壺のくせに、わたしの言うことを聞かずに転がってしまうのだ!』
    「そりゃ転がりますよ。そんな丸い壺。なんでわざわざ特注までして丸い壺にするんだか・・・」
    『カワイイじゃないか!
    ―それはともかく、いいかげん、はーなーせー!!!』
    「え、えっと・・・」
    「この方は、まさか・・・?」
    なんとなく手を離すタイミングを失った夕子と瑞希が問いかけると、
    「はい、本局に滞在中の、テトラヘヴンの使者の方です」
    『大河の女神、ステュクスであるぞ! えらいんだぞ! だから、はーなーせー!!!』
    じったじった。ばったばった。

    ステュクス自身と職員が語るには。
    テトラヘヴンの大河の女神である彼女は、ゼウスとか言うテトラヘヴンの偉い神様の命令でこのセプトピアに派遣されたらしい。
    だがステュクス本人としてはそれが相当不満なようだ。
    『・・・ったくぅ、レーテーとアケローンの定期水質調査の途中だったんだぞ?
    それをゼウスのバカチンが、他のやつにやらせるからいいとか言いやがって・・・』
    「交流事業の一環でして、テトラヘヴンから何柱かの神様が各地の支局に来ているのです。
    その一人がこちらのステュクスさんなのですが・・・」
    『なんだよー 文句あるのかー』
    「ま、こんな感じでして」
    と言って部屋の惨状を見せる。
    「研究、と称してサッポロに留まらずホッカイドウ各地に出かけてはサンプルを採取、なにやらいろいろおやりになっていまして・・・」
    『なんだよー そんな事言ってると、教えてやらないぞー?』
    思わせぶりなセリフを言うステュクス。
    『ふっふっふ、イシカリ川のとあるところに、ごくわずかだけど水質汚染が起きてる。
    知りたいかー?』
    「そ、それは確かに。本当だとすれば大変なことに」
    『本当に決まってるだろー! お前、わたしを疑ってるなー! くっそー やっぱ教えてやるもんかー!(くぅ)」

    とふんぞり返った彼女のお腹が『くぅ』と可愛らしい音を立てた。
    「あらあら、お腹が空いてるの?」
    『べ、べつに! お腹空いてなんか、ないぞ!(くぅうう)』
    「あらあら、ところでお姉さん、お菓子もってるんだけど、ちょっと多く作りすぎちゃったの」
    そ、それは私の分じゃないのかー?という声が聞こえた様な気がするが聞こえないことにする。
    「貰ってくれると、お姉さん嬉しいな?」
    『む、むう。そこまで言うなら、しかたない。もらってやるぞ』
    もぐもぐ。ぱくぱく。ぽりぽり。
    『む! こ、これはおいしいな、おいお前、おいしいぞ!!』
    「あらあら、食べ残しが口についているわ、ちょっとこっち向いて?」
    『む、むぐむぐ・・・ あ、なくなった。なくなってしまったぞ!』
    つまり私の分が無くなったというわけだな、という悲しい声が聞こえてきたが、
    お菓子のお代わりを作っている間に調査結果を教えてくれる約束を引き出したのだから尊い犠牲と言うべきだった。

    さてその後。
    ステュクスの分析は正しく、定期の水質検査をくぐり抜けていた微量な水質汚染を発見、
    事態が深刻化する前に対策を採ることができた。
    流石は大河の女神、と讃えられステュクスは大いに面目を果たし、更に研究に没頭することになるのだが―

    「・・・で。そのチビ神さまが、なんでこの白樺寮にいるんだ?」
    『(もぐもぐ)チビ言うな!(ぱくぱく)』
    「なんでも、ステュクスちゃんの研究成果を教えてもらおうとしたら、
    お菓子を捧げないと教えてくれないんですって」
    「だったら、サッポロのコンビニででも、洋菓子屋ででも、買ってくればいいじゃないか!」
    『(もぐもぐ)神への供え物を、そこらで買ってこようという考えが甘いんだ(ぱくぱく)
    あ、これあまーい! うまーい!』
    「私のお菓子の味が、忘れられないんですって」
    「だからって、わざわざサッポロからここまで来なくても!」
    「サッポロ支局の方から、先生方に是非ともってお願いの連絡があったそうよ?
    しょうがないから、白樺寮で少しの間もてなしてあげて、ですって」
    『(ぐっぐっぐっぷはー)安心しろ、さっき夕子と盟約をすませたから、卒業後は夕子といっしょに住む』
    「な、なんですとー!」
    『夕子ゆうこ、こんどゼリー作ってくれゼリー。わたしが良い水を流してやるから。
    おいしいのができるぞー!』
    「あらあら、それは楽しみね~!」
    「ゆうこ~ そんな簡単に使者と同棲とかダメだろう!
    だいたい、私が探してきた下宿は、新生活にピッタリ!というか、ニューファミリー向けというか、つまり二人暮らしにちょうどいい感じでね?」
    『わたしの水は料理に使っても最高だぞ?』
    「それは楽しみね~ きっとウェスタも喜ぶわ。なんだかお料理作りすぎちゃいそう」
    「大丈夫!夕子が作る料理なら、なんでも、いくつでも食べるとも!!」
    『バッカスも酒を仕込むときにはわたしのところに頭を下げに来るのだ。
    夕子も酒作る?ダメ?』
    「あらあら、お酒づくりはやったことないわねぇ」
    「ダメに決まってるだろう! ゆ~う~こ~!!」

    果たして、瑞希の未来予想図は実現するのだろうか。
    それはまた、別のお話。

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  • 当麻 芽路子 & 鬼道丸

     当麻 芽路子 & 鬼道丸

     当麻 芽路子 & 鬼道丸

    当麻 芽路子 & 鬼道丸

    「はぁ………」

    芽路子は今日も、ひとり日差しのもとを歩いていた。
    しかし、いつもとは異なり口から出るのは独り言ではなく溜息ばかり。

    先日、盟約を交わしたテトラヘヴンの死神・タナトスは、とにかく明るく死を説いた。
    威圧的ではなく、まるで教師のように、死とはどんなにすばらしいものであるかを説いていくのだ。

    さすがにそんな話をいつまでも聞かされ続けては芽路子でさえも嫌になる。
    とっさに出した使者カードでタナトスをテトラヘヴンに強制送還したのだ。
    それがつい10分ほど前の話である。

    「もう嫌…死神なんて……結局理想なのよ……」
    「じゃあ鬼はどうよ?メッチャ強いよ~」
    「鬼なんてどうせ退治されるじゃない…」
    「それは童話とかの話っしょ?アタシは違うけどな~」
    「ていうかアンタ誰よ!!」

    陽気な声に振り向けば、そこには着物のような和服を着た、ピンク髪の派手な少女が芽路子の隣を歩いていた。

    ピンク髪…眼帯……DQN…厨二病……ヤバイ…

    あまりにも派手過ぎるその少女に、芽路子はもはや言葉も出なかった。

    「ねぇねぇ、アンタ、定理者っしょ?」
    「……な、なんの話?」
    「隠さなくていーって!私も使者なんだけど、さっき、使者を門カード??で送り返してるの見ちゃったんだから!」

    まさかあれを見られていたなんて…!
    芽路子には嫌な予感しかなかった。

    「ところでさ、こっちには、うまかわな甘味があるんしょ?アタシ、それ食べたいんだよね!案内してよ!」
    「なん、なんで私が…!」
    「こっちでアタシがひとりうろついてたら怪しさMAXじゃね?でも、定理者が近くにいるなら別っしょ。だからヨロ!」
    「はあ?私になんの得もないじゃない…」
    「甘味ご馳走してあげるからさ!んね、んね!?」

    キラキラとした片目をこちらに向け、いつまでも食い下がる少女。
    通りすがりの人の視線も後を絶たず、芽路子は今日一番の盛大な溜息を吐いた。

    「わかったわよ……食べたらとっとと帰りなさいよ」
    「マジ!?あざお~!あ、ところで名前なに??アタシ、鬼道丸!」
    「……芽路子」
    「芽路子ね!りょりょ、早くいこーよ!」

    「ま、待ちなさいよ…!」

    芽路子の手を取り、鬼道丸は飛び跳ねる勢いで駆け出した。
    行く店は決まってんの、方向わかってんの、と問う暇もなく、鬼道丸に引き摺られないよう、
    芽路子も必死で足を動かした。

    「芽路子、ゴチ!」
    「……わ、私のお金が…リア充デザートになってしまった…」

    結局、鬼道丸の行きたい店は決まっていたらしく、芽路子は流れるように入店した。
    そこで注文したデザートは季節のフルーツもふんだんに使用し、甘さも控えめで確かにおいしかった。
    しかし、鬼道丸はこの世界で使用できるお金を持っていなかった。
    カウンターにお金ではないものを堂々と並べた鬼道丸を見る店員の目が芽路子に向き、芽路子は慌てて自分の財布からお金を支払ったのだ。

    「こっちのお金ないの忘れてたんだって~!めんごめんご!」
    「それなのにどうして食べたいとかいうのよ…!」
    「ねぇ芽路子……アタシらってさ、もうニコイチじゃね?」
    「…は?」

    あまりに唐突な意味不明発言に、芽路子はビタリと立ち止まった。
    鬼道丸は立ち止まった芽路子より一歩前に出て、片足でくるん、と振り向く。

    「こーやってエンカして、一緒に甘味食べて、帰るってさ……ニコイチじゃん?」
    「いや、全然…」
    「まー聞いてって!芽路子と一緒に甘味食べたの、テラ楽しかった。
    芽路子、アタシと盟約して、ズッ友になろう!」
    「私は別に……意味わかんないし辞めて」
    「え~!そんなこと言わないでさ~」

    これ以上付きまとわれても困る、というのが芽路子の正直な考えだ。
    だが鬼道丸はきっとなんだかんだ言ってこの後も芽路子の傍に居座ろうとするだろう。
    どうにかして鬼道丸を他の定理者のところに追いやりたいが、芽路子のことがALCAにバレても面倒くさくなるのが事実。
    そんな芽路子に不安をいだき、鬼道丸は自分の力をアピールし始めた。

    「ねね、アタシ、めちゃんこ強いから!超怪力だよ??おっきー刀も振り回せるし、岩だって人間だって一握りでバラバラになっちゃうんだから!」
    「…人間も?」
    「え、ソコ?ソコ突っ込んじゃう系??まーいいけど…」
    「人間も懲らしめられるの?」
    「モッチ!芽路子、私の怪力、ナめてない??もう、こう……ぎゅってしたら粉々だかんね!」
    「い、いいわね…フフフ…!」

    芽路子は考えた。
    もしその怪力を私の力にできるなら、それは大いにアリではないか?と。
    その怪力を以てして、握りつぶすまではいかなくても、脅したり、懲らしめたりと、
    芽路子にとっての利点が多そうだ。

    「盟約してあげてもいいわ。その代わり、私が力を揮いたいときは迷わず貸しなさい。
    そうしたら、月1回までならリア充デザートも食べさせてあげる」
    「本当に!?さっすが芽路子~~!」
    「”ニコイチ”にも”ズッ友”にもなってあげるから、約束は守りなさいよ」
    「あったりまえじゃーーん!」

    フフ……勝った!オカルトの力と使者の力で、私に逆らうリア充はいなくなるのよ!

    鬼道丸はニコニコと芽路子の手を取り、その手を高く掲げた。

    「芽路子!今日からアタシ達、ニコイチでズッ友だかんね!」
    「そ、そうね、アンタと私は”ニコイチ”で”ズッ友”よ!」

    ………ところで”ニコイチ”と”ズッ友”ってなに?

    その後、芽路子は「ニコイチ」「ズッ友」の意味を調べ、丸5日間自室に籠った。

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  • ジゼル・サンダース & 此花咲耶【後編】

     ジゼル・サンダース & 此花咲耶【後編】

     ジゼル・サンダース & 此花咲耶【後編】

    ジゼル・サンダース & 此花咲耶

    聖那とジゼル。
    向かい合った二人の間に置かれていたのは、所々焼け焦げたように破損した、1枚の透明なカード。
    -ジゼルの、喪われたロジックカードだ。

    「-ごめん」
    絞り出すように一言。言ったきり、うつむく聖那。
    あの時、犯人はアタッシュケースのセキュリティ機構を使い、自爆させた。
    収められていたロジックカードは、この様に見る影もなく破損。
    回収後、これを修復する術はないかと、玉姫を始めナイエン支局のスタッフたちが
    総出で当たってくれたのだが―
    残念ながら、玉姫の盟約者であるトリトミーのキュア・メディスン119による治療も、テトラヘヴンのヴィーナスによる回復も、この傷ついたロジックを修復することはできなかった。

    「・・・・」

    ジゼルは、無言だ。
    無言なのは当然。このロジックが喪われたために、彼女は声を喪ったのだ。

    人気絶頂にして、今こそトップアイドルの座に就こうとした時に定理者の資質が開花してしまい、そのまま強制招集を受けたジゼル。
    今、平和になったこの世の中でこそアイドルに返り咲き、本来の自分の道を華やかに駆け登っていいはずの彼女。
    だが彼女は、冥府のオーゾとのグロリアストーンをめぐる戦いの中、人々を守るためオーバートランスを決行した聖那を助けるべく、自分もオーバートランスを敢行。聖那を守ることはできたが、自分は1枚のロジックカードを失くしてしまった。
    そのロジックこそ、彼女の「声」のロジック。
    これなくして、彼女が再びアイドルとして舞台に立つことは、もうないだろう。

    無言のまま、手を伸ばして聖那の肩に触れる。
    思わず顔を上げた聖那の前にあったのは、ジゼルの笑顔、だった。

    (見つけてくれてサンキュー)
    (しかたないじゃない)
    (ま、なんとかなるって)

    肩をすくめるようなジェスチャーと、くるくる動くハンドサインでそれだけ伝える。
    そしてジゼルは、くるり体を翻すと部屋を出て行った。

    「・・・・」

    一緒に死線をくぐってきた相棒だ。
    聖那にはあれが、懸命に作り出した笑顔だという事ぐらい、わかっていた。
    わかっているからこそ、追いかけられない。
    と、その時。
    聖那の新しいフォーリナーカード―懍玲と盟約後にあつらえたものが、光り輝いた。

    そのころ、ジゼルは一人、夕焼けの見えるバルコニーにたたずんでいた。
    (さすがにこれは・・・しんどいな)
    今まで、どんな苦境、運命のいたずらであろうとも、屈せず戦ってきた自負がある。
    恵まれていたとは言えない家庭環境も、デビューしてからの衝突や軋轢も、全部自分の実力で黙らせてやった。
    定理者に「させられて」しまったのは正直閉口したし、あの最後のライブ以降に組んでいたツアーの計画が全部パーになったのは許せなかったが・・・逆に言えば、「元」定理者なんて肩書を持ったアイドルはいない。オンリーワンだ。これを武器に、返り咲いたら必ずナンバーワンになってやる。
    そう、思っていたの、だが。

    ちょっと泣きそうだったが、泣いてやるのは悔しいので。
    近くに、心配して八雷神が来ているのもわかっていたので。
    泣く代わりに、思いっきり叫んでやった― 声は出ないんだけど。

    だんだんだん!
    そこへ、騒がしい足音とともに、駆け込んできた者たちがいた。
    もちろん、こんな時にこんな騒がしい奴は、あいつしかいない。
    相棒の、聖那だ。

    「ジゼル! あんたのロジックカード、治るかもしれない!」

    ほら、なんとかなるじゃない? 相棒のことは、少しだけ、信頼している。

    場所を移して盟約室。
    部屋がジスフィアの荘厳な風景に変わると、そこに現れたのは巨大な桜の樹。
    風が舞い、桜吹雪の中、ひと柱の女性が進み出てきた。

    『初めまして、私が此花咲耶です』

    まさしく桜の精、といった風情の、美しい女性だった。
    儚げな微笑み。たおやかな所作。
    みれば、彼女の周囲では常に花が咲き、散り、再び咲いている。
    (-! 私としたことが、女の美しさに目を奪われるなんて!)
    流石はジスフィアの女神。ちょっと気を引き締める。
    そして喋れないジゼルの代わりに、八雷神が望みを伝える。
    『-というわけで、貴女の生命を産む力で、なんとか彼女のロジックを修復していただきたいのです』
    此花咲耶は、柔らかな微笑みを浮かべながら、言った。
    『確かに、わたくしの力ならば、それはできるかもしれません』
    『では、お願いします、なんとか、彼女を助けていただきたい!』
    『・・・八雷神、貴方には、私の山をひとつ焼かれたことがあったわね』
    『! た、確かに。しかしあれは、ずいぶん昔の話というか、若気の至りというか、・・・あ、謝ったではありませんか!』
    一部始終を見守る聖那や阿修羅、懍玲、そしてキョウト支局の定理者、使者スタッフたち一同が思わずぎょっとする。
    いつも穏やかで冷静、知的で執事の様な佇まいの八雷神に、そんな過去があろうとは。
    『まあ、俺が闘神、争いの神であったように、熱と炎、雷の神である八雷神も、もとはと言えばけっこうやんちゃな方だったからなぁ』
    此花咲耶は笑みを浮かべたまま答える。

    『そうですね、まあ確かに、昔の話、ですし。
    神の昔の行状をほじくり返して人にご迷惑をかける、というのもジスフィアの神格としてどうかと思いますし、ね。いいでしょう、そのお話、お引き受けいたします』
    ほっとした空気が流れた、その次の瞬間。

    『ただし、一つだけ条件を付けさせていただきます。
    -花を。
    わたくしが見たことのないような、美しい花を、見せてくださいまし』

    早速。
    キョウト支局、そして連絡の行ったALCAナイエン支局、あるいは有志の定理者・使者・スタッフたちが、様々な花の写真、動画、データを送ってきてくれた。
    例えば、セプトピアでも高山の片隅に咲くという雪割草。
    モノリウムの生命力を代表するかのような、力強い大輪の薔薇。
    テトラヘヴンの神の果樹園に数百年に一度咲くという桃の花。
    トリトミーからは、「計算上、最も数学的に美しいとされる曲線の組み合わせで作った」花の画像なんてものまで送られてきた。
    だがそのいずれを見ても、此花咲耶は
    『ええ、美しいですね。でも、そのぐらいならわたくし、どこかで見たことがありますわ』
    と言い、首を縦にはふらなかった。

    『ええい、此花咲耶姫よ、この黄龍が末裔、竜媛皇珠小玲も頭を下げる。
    なんとか、助けてやってはくれぬか』
    『こたびのこと、わらわの力足らずが故でもある。この懍玲も、どうかお頼み申しあげる』
    『なあ、頼むぜ咲耶、俺にできることなら、なんでもするからよ』
    『私の過去が許せぬというなら、この私を罰していただきたい、彼女にはなんの咎もないことではないですか!』
    桜の木の下、何人何柱もの使者が訪れた。
    そのいずれにも、此花咲耶は柔らかい笑みをたたえたまま―
    『なるほど、あのジゼルという娘は、ずいぶんみなに慕われているようですね』
    首をかしげると、笑顔のまま、言った。
    『しかし、あなたたちも忘れているのでは?
    神というのは、人に恩恵を与えるだけの存在ではありません。時には試練を、与えるものですよ』

    花、花、花。
    植木鉢や花壇、生木や花束、さらに大判に刷り出された写真や投影されたデータにいたるまで。
    キョウト支局の盟約室は、ありとあらゆる花々で埋め尽くされていた。
    そのどれもが、ジゼルの「声」の復活を願って送られてきたものだという。
    部屋の隅で膝を抱えていたジゼルの視界に、またひとつ花輪が運び込まれてきた。

    ―祈 ジゼルさん復活 ジゼル・サンダース ファンクラブ一同より

    どこからか、今回の騒動が漏れたらしい。
    未だに活動を維持しているという、彼女の私設ファンクラブから送られてきた花輪だった。

    (・・・まったく。わかった。わかりましたよ)
    声にならない声で、そう、つぶやくと。
    ジゼルは花輪に手を伸ばし、一輪引き抜いて自分の髪に挿した。

    盟約室を起動させると、再び桜の木の下に此花咲耶がいる。
    『おや、今度はその挿した花が、私にみせたいものですか?』
    いいえ、とばかりに首をふる。
    自前の端末を取り出すと、曲を選んで再生。音量を最大にセット。
    指を揃えて突き出す。
    勝負を挑む。
    『まあ! これは楽しみです』
    曲が流れだした。
    ジゼル・サンダース、最大のヒット曲。
    あのスタジアムでかけた、最高のダンスナンバー。
    アイドルを休業させられた時からも、一日だって自主トレをさぼったことはない。
    一挙一動、頭のてっぺんから指先の端の端に至るまで、全身の神経に気を入れてコントロール。
    思い描く表現をなぞっていく。

    一曲、踊り通した。

    『-これが、貴女の見せたい、花ですか?』
    声が出ないから、せめて視線で答える。
    これが私。
    ジゼル・サンダースという、花。
    (どう? 此花咲耶!)
    『ふふっ、ありがとう、素敵な花を見せていただきました。
    ですがこれは未完成』
    (そうね)
    『本来なら、これに貴女の歌が、つくのですよね―
    ええ、わたくしもそれが、見たくなりました』
    ついと伸ばす手が、ジゼルの手を取った。
    『いいでしょう、ジゼル・サンダース。
    わたくし此花咲耶が、貴女の花を、もう一度咲かせてみせましょう』

    かくして。
    此花咲耶はジゼルと盟約を結ぶと、合体し、傷ついたロジックカードを取り込んだうえで、
    彼女の声を取り戻す事を約束した。
    『でもジゼルさん、今までと同じ声に戻る、というわけではありません。
    この傷ついたロジックを元に、私の力で、もう一度、声を「産みなおす」のです。
    種から芽が出て花を咲かせるように、もう一度。
    だから元通りになる、とは限りません。
    どんな花が咲くかは、貴女次第です』
    (それでいいわ。どんな声でも私の声だもの。もう一度、咲かせてみせる。
    アイドル、ジゼル・サンダースの花をね!!)

    数か月後。
    アイドル兼定理者として活躍するジゼル・サンダースの復活ライブが開かれ、多くの観客が彼女の復帰を祝った。
    職務上の事故で歌えなくなったのでは、と心配されていた彼女だが、それは杞憂であった。
    音楽関係者によれば、復帰後の彼女の歌声は、以前よりもさらに力強くかつ繊細で色気があり、
    一言で言うと「華がある」、とのことだ。

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  • 揺音 聖那 & 懍玲【前編】

     揺音 聖那 & 懍玲【前編】

     揺音 聖那 & 懍玲【前編】

    揺音 聖那 & 懍玲

    その日、ALCAナイエン支局に二人の訪問者があった。
    訪ねて来たのは、キョウト支局のチームリーダーを務める定理者、揺音聖那。
    今日は休暇を使っての訪問だ。そして傍らに、一人の妙齢の美女を連れている。
    二人が訪ねた相手は、ナイエン支局では指折りの実力ある定理者、揺音玉姫。
    聖那の実の姉でもある。
    「おねぇちゃああああああん!!」
    「ふふ、聖那、ひさしぶり」
    飛びついて抱きつかんばかりの聖那と、優しく受け止める玉姫。
    でも実は玉姫の方が背が低く、眼鏡をかけていることもあって優美で知的な印象を受ける。ここ数年で、その印象はさらに高まった。
    聖那の方は、均整が取れた体を優れた運動神経に任せて鍛えぬいた感じがあり、スポーティーでアグレッシブな雰囲気をまとっている。
    ちなみに二人とも、すこぶるナイスバディだ。
    「ところで、そのお隣の方は?」
    「あ、ごめんごめん。お姉ちゃん、紹介するわ。この娘は懍玲」
    『懍玲、と申す。よしなに』
    不思議な雰囲気の女性だった。
    輝く金髪が飾る小顔の美しさはもちろんだが、和服に包まれた立ち居振る舞いには思わず目を奪われるものがある。
    「彼女は実は―」
    「-もしかして」
    なぜだろう、玉姫は彼女、懍玲に見覚えが合った。いや、初対面なのは間違いない。ただ、彼女の面影や喋り方に、何か知人に似たものを感じる。

    「もしかして―使者の方?」
    「さすがお姉ちゃん! そう、彼女はジスフィアの使者なの」
    聖那はジスフィアの使者、阿修羅と盟約を結び、様々な事件を戦い抜いてきた。
    今は世界がかなり平和になり、またフォーリナーカードが実装されたこともあって、阿修羅も故郷の異世界に戻った。ひとたび必要があれば、すぐに召喚に応じてくれる。
    そんな阿修羅が、故郷でこの懍玲から相談を受け、聖那に引き合わせたという。
    聖那が懍玲から持ちかけられた相談、それは。
    「ほら、懍玲、自分から言うんでしょ?」
    『う、うむ。無論、わらわの問題であるからな。相談することなど、ぞ、造作もない、のだぞ。
    ・・・だが、どうも日が悪いのではないかな。どうだろう、場所を改めてまずは卦を立てて』
    「あー! もう! 情けない!わたしから言っちゃうよ!?」
    『待て、待ってほしい』
    二人のやり取りを観ていた玉姫は

    「もしかして・・・ 小玲?」
    『ひっ』
    その名前を聞いた懍玲は、短い奇声を上げたまま固まってしまう。
    「うん、そうなのよ、お姉ちゃん。ほら、固まってないで・・・貴方も「お姉ちゃん」なんでしょ?」
    『う、うむ、そうなのだ・・・』
    ぽつりぽつり話すのを聞くと。
    彼女、懍玲は玉姫の盟約者の一人、ジスフィアの竜族の娘である竜媛皇珠 小玲の姉、なのだという。
    「でも、小玲は一族の子供の中で一番年上だ、って言っていたわ。
    だから竜族の次期後継者として、一族を導いていく使命がある、とか」
    『・・・小玲は、わらわの事を、知らぬ』
    「え?」
    「お姉ちゃん、なのに?」
    『実は、わらわは黄龍の一族から放逐されておる。小玲が産まれ、黄龍の力、雷霆の力を持っていることがわかった時、
    雷を出せぬわらわは不要、になったのじゃ・・・』
    放逐、という言葉の重みに思わず声を失う二人。
    ぽつりぽつりと懍玲は、自分の妹への複雑な思いを打ち明けた。

    竜族の媛、というのはお神輿に担がれて悠々としていればいい、というものではないらしい。
    行儀振る舞いを厳しく仕込まれる事はもとより、一族に受け継がれる様々なしきたりを守り、一族を継ぐという重責を常に意識させられる、という。
    そもそも、小玲が使者としてセプトピアに来たのも、一族のしきたりが理由だ。
    一方懍玲は、黄龍の一族に産まれながら、雷を出すことができなかった。
    一族が決めたこととは言え、それらの責任全てを放り出して妹に押し付けてしまった気がして、懍玲は気が咎めていた、という。会って詫びをしたいが、そもそもそんな話を聞いて、小玲は自分を恨むのではないか、という気もする。
    そもそも、ジスフィアの一族の里付近では人の目もあり、放逐された彼女が小玲に会うことはできない。
    日々悩んで過ごしていたところ、セプトピアと親交のある神々、つまり阿修羅や八雷神たちを通じ、セプトピアでなら会って話をすることができる、と思いついた次第。
    そういう事情なら喜んで、と玉姫が話を受けたその時。不意にロジグラフが鳴った。その意味は、聖那にももちろん判る。緊急事態を告げるアラームだ。

    「休憩中に済まない玉姫」
    「何があったのオルガ」
    「警察が追っている密輸組織だが、中に使者が混ざっている可能性がある。
    念のためALCAに協力要請が出た」
    「判った、ランデブーポイントを送って」
    「すまん、目立つからトランスポーターは使えないぞ」
    「了解。
    ―ごめん、というわけだから」
    「ええ、わかってる。事件が片付いたら、また」
    『勤めの無事を祈っておる』

    とはいえ、1時間やそこらで片付く話ではないだろう。
    支局を辞してホテルに戻ろうとしたその時、今度は聖那の個人端末が着信を知らせた。
    「-キ、キョウト支局の揺音聖那、アンタが探してるもの、見つけたわよ」
    ボイスチェンジャーを掛けた声。だが喋り方になんとなく聞き覚えがある気がする。
    いやいやいや。今なんてこの子言った?
    「-探してるものって、まさか!」
    「アンタの相棒、ジゼル・サンダースの喪われたロジックカード」
    瞬間、聖那の全身の血が沸騰した。
    いや、沸騰したかと思った。
    「・・・どこにあるの?」
    思った以上に冷静な声が出た。
    本当は叫びだしたいぐらい、心の奥で叫んでいる自分を感じる。
    でもダメだ。焦ってるときほど冷静に。
    定理者として様々な危険をかいくぐってきた経験がそうさせる。
    「とある密輸犯罪組織が拾ったみたい。
    海外のヘンタイ金持ちがオークションで高値を付けた。これから取引きするらしい」
    「どこで!」
    「その端末にデータを送る。取引は1時間後。急いで」
    決断に時間は要らなかった。たとえ間違いだろうと罠だろうと、構うものか。
    「わかった。・・・けどなんで貴方がこの情報を?」
    「ハッキングしてたら、ひっかかったの」
    着信したデータを確認。懍玲には視線だけで合図する。
    「データを確認したわ。でも、何故?」
    「『超幻戦記ファンタジア』」
    「え?」
    「知らないの?神ゲーなんだけど。
    オープニング、ジゼルが歌ってるの。超良い曲だから」
    「へぇ・・・」
    「今度、続編が出るんだけど。ジゼルにまた歌ってほしいのよ。だから」
    「わかった。ありがとう」
    「必ず取り戻して。でないと・・・呪う」
    不穏な言葉で通話は切れた。おそらく、発信者はたどれまい。それでも良いと思った。
    善意の第三者?に感謝することにした。

    経路を調べ、タクシーを捕まえる。
    道々、懍玲には事情を説明する。
    『なるほど、お主の相棒の、喪われたロジックカードを探しておったのか』
    「ごめん懍玲、現場から離れた所で下ろすから、貴女は避難していて」
    『何を申す。放逐されたとは言え、わらわは竜の媛。
    これも天祐、恩を返す機会を先祖の竜神が与えてくれたのであろう。
    あてにするがよい』
    「ごめん、ありがと」

    タクシーで近くまで行き、あとは歩き。
    移動しながら、一応キョウト支局にもメールを入れておく。
    ・・・と、すぐに通信が入ってくるが、これも心で謝りながら着信を切る。心配させているだろう。
    なにしろ休暇の今、彼女はフォーリナーカードを持っていない。盟約者の阿修羅やライアを呼ぶことはできず、鍛えぬいた体だけが頼りだ。

    現場の港付近まで行くと・・・驚いたことに、そこには姉の玉姫がいた。警官隊の姿も見える。
    「おとなしく投降しなさい! ここは完全に包囲されている!」
    それに答えたのは、物が崩れる耳障りな轟音だった。
    「バーカ! 大金がかかってるんだ、諦められるかよぅ!」
    コンテナが崩れ、港湾施設のクレーンが倒れている。
    警官隊が遠巻きにするなか、蛇腹のマジックハンドやらホースやらダクトやらをいくつもくっつけたような異形が、その腕を振るって暴れている。

    -まさか、トランスジャック?
    いや、違う。逆理領域は展開されていない。
    ・・・つまり、この異形は合理体。相手は、定理者、なのだ。
    ALCAに管理されない、違法な定理者の存在は噂されていたがー

    『フウフフフ、キミたち人類の行動は、実に興味深い』
    「お気に召しましたかね、“教授”」
    『ココロ、というアルゴリズムの解析には、やはりフィールドワークが最適だ。
    さあ、好きに吾輩の機能を運用したまえ』
    「了解っすー!」

    「下がってください!」
    鋭く叫ぶのは玉姫。一歩前に出ると、懐からフォーリナーカードを掲げ、叫ぶ。
    「ゲートアクセス!ジスフィア!」
    光り輝くゲート。そこから現れるのは―
    『あれは!小玲!』
    そう。まばゆい稲妻をまとって、黄龍の姫君、竜媛皇珠 小玲が現れた。
    そしてたちまち玉姫と合体。
    「定理者としての力を悪事に使うなんて!私が」『わらわが』
    「『許さない!!!』」
    相手はどうやらトリトミーの機械人との合理体のようだ。ならば。
    『わらわたちの雷撃には耐えられまい!!』
    放たれる猛烈な雷撃が、相手の合理体を直撃。だが。
    『フウフフフ、キミたちはこの世界の物理学を知らないのかね?』
    なんということだろう。合理体から伸びたホースから海水が噴き出すと、
    雷撃を海に流す避雷針になっている!
    「くっー! ならばもっと近くからー」
    『そうはいきませんぞう』
    海水がさらに勢いよく噴き出すと、包囲している警官隊を水浸しにしていく。
    「まずい!」
    この状態で雷撃を使えば、警官隊も巻き込んでしまう。ならば、トランスチェンジで―
    『フゥフフフ、その隙は与えませんぞう』
    伸びたマジックハンドが玉姫をつかみ上げ、そのままぐいっと絞り上げる。
    玉姫と小玲の絶叫が響いたー

    「お姉ちゃん!!」『小玲!!』

    ここまで、物陰からかたずをのんで見守ることしかできなかった、聖那と懍玲。
    この時、二人の思いは一致していた。
    『聖那!』「懍玲!」
    伸ばした手がからみあう。
    お決まりの盟約文すら必要なかった。
    『「合体!!!」』

    次の瞬間。
    玉姫をつかんでいたマジックハンドが、その体からぽとりと落ちた。
    「い、いてぇえええええ!!!」
    『わ、わたぁしの3号ハンドが!!!』
    見れば肩口が赤く溶け落ちている。恐ろしいほどの高熱を瞬間的に浴びせられたのだ。
    その視線の先には、怒りに燃える蒼い竜の媛がいた。

    「おねぇちゃんを」『わが妹を』
    「『傷つけるやつは許さない!!!』」

    黄龍の血に連なる者は、雷を自在に操る力を持つ。
    だが、ごくまれに、その力を持たない者が産まれることがある。
    それは遥かな昔、一族に交わった、ある竜の媛の力。一族の長い長い歴史のなか、忘れられ失われた力。それが蘇り、宿るからだという。
    その力は、蒼炎の力。赤い炎よりもなお熱い、敵を焼き尽くす蒼き炎の力だ。

    「こ、このー!」『吾輩の機能はこの程度ではありませんぞう』
    ホースやら周囲のコンテナやら海水やら、次から次へ猛烈な勢いで投げつけてくるものを、宙に浮かぶ蒼い結晶体がことごとく迎撃。ぶつかる端から燃やし、溶かし、消し炭に変えていく。
    いつの間にか周囲はむっとする熱気に当てられ、あたりの水気は消し飛んでいた。

    「今だよお姉ちゃん!」『小玲、とどめはお主が撃つのじゃ!』
    玉姫と小玲の雷撃が、今度こそ敵の合理体を直撃。抗する術はなく、相手はたちまち合体を解いていく。
    『うむ! 見事な雷霆じゃ。流石は竜媛皇珠の名を継ぐ者ぞ』
    その時初めて、小玲も玉姫を通して聖那、そして懍玲の姿を見た。
    『・・・その姿、その力・・・ もしや、竜族の者かや?』
    『お初にお目にかかる。わらわは懍玲。我もまた、黄龍の血に連なる者―』
    『そうか、そうか、そなたの炎も、実に見事じゃ!
    何やらお主には、近いものを感じておる!
    話を、聞かせてくれぬか?』
    『ええ、わらわも、そう、願っておった・・・』

    その時。
    玉姫と聖那の注意は確かに倒した相手から逸れていたが、それを責めるのはあまりに酷というものだろう。
    警官隊に取り押さえられようとしていた犯人、定理者であろう人間の方が立ち上がると、どこからかアタッシュケースを取り出し掲げると、叫んだ。
    「お、お前たちに渡すぐらいならー!」
    まさかその中には―!
    「返して!」
    気づいた聖那の悲痛な叫びが響く中、鈍い音がしてアタッシュケースが破裂した。

    ジゼル×此花咲耶編に続く!

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  • 当麻 芽路子 & タナトス

     当麻 芽路子 & タナトス

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    当麻 芽路子 & タナトス

    「まーた暗い顔してる!この子、本当にかわいい…!」

    テトラヘヴンの死神であるタナトスは、セプトピアで人の波に紛れながら
    暗い顔で道行く人を睨みつつ歩く少女……芽路子を観察していた。

    事の発端は、数か月前。
    セプトピアの様子が分かる鏡を覗いていたところ、アストライアーに諫められた。
    その時、つい売り言葉に買い言葉で、セプトピアに行くことを宣言してしまったのだ。

    「まあ最初はどうなるかと思ってたんですけど…来てよかったです」

    だってセプトピアは飽きることがないし、なによりあの子が本当に面白い!

    タナトスが芽路子の観察を始めて1週間ほどだが、彼女は本当にタナトスを飽きさせなかった。

    常に下を向き、周囲を睨みながら歩く。
    (悪いことはしていないし、噂されてもいないのに!)
    街中でカップルを見つけたらぼそぼそとつぶやく。
    (何を言っているか分らないけど、すっごい声低くなるんですね!どこから出てるんですか?)
    自室で黒い魔女帽子にマントを羽織り、不思議な色の鍋を混ぜる…
    (魔女になりたいのでしょうか?変な人!)
    (どうやって覗いたかなんて、秘密です!)

    「どうせなら、ヒトコト死にたいって言ってくれればすぐ魂を地獄に運ぶのにな…」

    はあ、と軽い溜息を吐いたとき、タナトスはなおも芽路子の後を追った。

    芽路子はふと、悪寒を感じた。

    何これ…なんか、寒い!

    今日も道行く人々に(心の中で)恨みつらみを呟いていた芽路子だったが、
    突如襲った強烈な寒気に、思わず路地裏に一歩逸れた。しかし、それは間違いだったようだ。

    「あん?姉ちゃん、ココ今通れねぇぞ」

    金髪で、目つきが悪く、サングラスに着崩した服…
    芽路子の中で最悪に入る部類の男たちが、数人道をふさいでいた。

    最悪!なんでこんな典型的な路地裏にいるのよ!馬鹿なの!?

    芽路子は心の中で考えられる限りの罵倒で男たちを罵るも、実際口から出てくるのは吐息だけ。
    男たちが一歩も動かない芽路子に近寄ろうとしたとき、ヌッと芽路子の背後から青髪の美女が現れた。

    「あら?こんな暗いところで何をしているんですか?死にたいんですか?」
    「な、なんだてめぇは!」
    「なんだとはなんですか、私はタナトス、死神です」

    ………

    目が、点になった。

    「お前、大丈夫か…?」
    「失敬ですね。私は本当のことを言ったまでです。それとも、そんなに死にたいんですか?
    極楽浄土は無理ですが、地獄になら連れて行ってあげますよ」
    タナトスはとびきりの怪しい笑顔を、男たちに送った。

    「おい、ずらかるぞ!こいつ、やべぇヤツだ!!!」

    男たちは見てはいけないものを見る目でタナトスを見ながら、芽路子とタナトに背を向けさらに路地の奥深くへと走り、次第にその姿は見えなくなった。

    「やばいヤツと言われてしまいました…」
    「……ところでアンタ、」
    「そうでした、芽路子さん、大丈夫でしたか?」
    「別に……アンタ、使者でしょ」
    「わかりますか?」

    芽路子に話しかけられたタナトスは、嬉しそうに肯定の言葉を返した。

    「さっきの言葉も本当ですよ。私はテトラヘヴンの死神、タナトスといいます」
    「……私は芽路子。ねえ、タナトス、私と盟約しなさい」

    芽路子は極めて冷静にタナトスに語りかけたが、内心では感情が爆発していた。

    ついに出会ったー!これこそ私の求めていたTHE・死神!
    コイツと盟約すれば、私も念願の死を操る力を手に入れる…!
    そうしたらちょっと痛いものを見る目をよこすリア充をこの手で懲らしめてやる…!

    一瞬、小さな違和感を感じたが、それよりも念願の使者に出会えた興奮の方が大きい。
    必死に顔に出ないよう取り繕うが、芽路子の口元は怪しく歪んでいた。

    「ま、まずは合体してみない?」
    「ええ、構いませんよ」

    タナトスと芽路子がそれぞれ手を重ね合わせると、まばゆい光が2人を包み、
    芽路子の身にまとう色が赤へと変わった。
    赤と青を基調とした大きな刃の鎌は、芽路子を一層興奮させた。

    『芽路子さん、どうですか?』
    「ふ、ふふふ…!問題ないわ!これこそ私の求めていた力!」
    『それは良かったです。私も芽路子さんと合体できるなんて…フフ、夢のようです』

    そうして2人は合体を解除し、改めて向き直り、盟約を交わした。

    「改めて、これからよろしく、タナトス」
    「はい、よろしくお願いします。ところで、芽路子さんって、どんな死に方を考えてるんですか?」

    「……は?」
    「いっつもいっつも暗い顔してるし、人とほとんど話すこともなかったから、もう秒読みかなってここ数日観察してたんですよ!
    あ、でも楽に死にたいからってクスリはダメですよ?」

    さっきまでの落ち着いた死神らしい雰囲気はどこへやら、明るく微笑むタナトスに芽路子はきょとんとする。
    いや、それよりも語りかけられた言葉に驚愕した。

    「何言ってんの…?え、しかも観察…??」
    「え、芽路子さんこそ、死にたいんじゃないんですか?」
    「死ぬのは他のヤツ!私は死神の力を揮いたいの」
    「そんな、いきなりは難しいですよ~!死神の鎌で刺したり、冥府の使いの召喚はできますけど、
    合体していても死を操るのは、直接の死の経験がないと難しいんです。
    そしてその経験を積むには死んで地獄に行くのが一番!だから芽路子さん、まずは一度、元気に死んでみませんか!?きっと性格も明るくなりますよ!」

    「余計なお世話よ!それに、死んだら合体できないじゃない!」
    「んん……?確かにそうですねぇ…。
    あ、でも、その時は私が地獄まで行って芽路子さんの魂を迎えに行きます!
    もとから芽路子さんの魂を地獄に送りたいなって思ってたので!タナトスの送迎は安心安全が第一なんです!」
    「なんで私が地獄に行かなきゃならないの!」

    ヤバイ!!この死神、だめな死神だ!

    そしてあの盟約から数日たつ今も、タナトスは今日も死への言葉を芽路子に贈るのだった。

    「芽路子さん、どんな死に方がご希望ですか?」
    「むしろアンタはなんで私が死ぬと思っているの?」

    がっかりとした表情で問いかけてくるタナトスに、芽路子は睨みつけながら質問を返す。

    「だって芽路子さん、相変わらず死にたそうな表情をしているじゃないですか。初めてちゃんと会った時も、とっても表情が暗かったし、私が死神だとわかると笑ったから、死神に会いたかったんだな、って…」
    「…そりゃ、死にたいときもあるけど、本当に死にたいわけじゃ……」
    「そうだったんですか…?芽路子さんみたいに暗い人、私、初めて見たので…。手には数珠持ってるし…死神に会って嬉しがるなんて、死ぬ準備万端の人に見えるじゃないですかぁ…」
    「………」
    「芽路子さん、大丈夫ですよ。悲しむ人なら私がいます!またお迎えに行くまで芽路子さんに会えなくて、私は悲しいです!なので、まずは終活!死んでみませんか!?」
    「だからなんで私が地獄に行かなきゃならないのよ!」

    また厄介な使者と盟約してしまった………

    芽路子は、今日も激しく後悔した。

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  • 明日葉 学 & 海颯のウィーゴ

     明日葉 学 & 海颯のウィーゴ

     明日葉 学 & 海颯のウィーゴ

    明日葉 学 & 海颯のウィーゴ

    定理者は使者を自ら引き寄せることが多い。そんな逸話がある。

    ALCAナイエン支局―学自室、ある朝のこと

    目を覚まして学は違和感に気付いた。
    ――なにか自分のベッドの中にいる――

    今の学の部屋は個室だったし、昨夜床に就いた時は一人だった。
    時々、クロエが「マナマナ!一緒に寝よー!」とかなんとか言って自室に上がり込んで来る時もあるけれど、今日にかぎってはそんなこともなかった。
    寝ながら、自分のシーツの中で恐る恐る手で探ってみると、柔らかい感触に触れた。

    「何これ……!」
    驚いて手を引っ込める。
    異物の正体を確かめるべく、ベッドから飛び起きて、
    シーツをめくってみるとそこには大きなペンギンのぬいぐるみがあった。
    「ペンギン……!?」
    愛らしいぽっこりしたお腹に、よく見るとマフラーを巻いている。
    (きっと、クロエが驚かせようとして私のベッドに入れたんだ)
    くすりと微笑んで、学はそのぬいぐるみを撫でる。
    (かわいい)
    「すーすーすー」
    何故か、そのペンギンのぬいぐるみから寝息が漏れている。
    (もしかして……これ、生きてる!?)
    「すーすーすー」
    驚いた学は一気にベッドから後ずさり、机の角で足をぶつけた。
    ドカッと大きな音がして、そのペンギンが目を開けた。
    「痛っ」
    「ん……なんだここは……、お、おい!だれだお前は!?」
    そういってペンギンは飛び起きて拳を両手に構えた。
    「私の部屋、むしろあなたこそ…」
    学が答える間もなく、そのペンギンはジャンプし、学に掌底を放つ。
    ペチ。
    「どうでもいい、寝込みを襲うとはいい度胸だ!はっ、とうっ、」
    ペチ、ペチペチ
    とそのペンギンから学に痛くもかゆくもない連続攻撃が飛んでくる。
    「やるな、なかなかの耐久力だ。これでどうだ!」
    ペチン!
    「いたっ!」
    しっぺをお見舞いされたような微かな痛みが学を怒らせた。
    「止めて!」
    そう言って学はペンギンを手でつかみ、ベッドに放り投げた。
    「おいっ、おいっ、やめろ!わーーーーーー」
    そう言いながらペンギンはベッドに放り投げられ、コロコロとシーツの上を転がっていった。
    「参った参った!お前が強いのは俺が認める。俺の名前は海颯のウィーゴだ。」
    「学。私の名前。あなたは、使者……?」
    「なんだその『使者』というのは……?」

    暫くウィーゴの話を聞いてみると、モノリウムの氷河エリアのクレバスから落下して
    意識を失って気づいたら学のベッドで寝ていたこと。
    そしてここが異世界であることに驚いていること。
    さらに、本当の自分はモノリウムの氷河エリアでは随一の拳闘家であることを、本気にしない学に対して何度も語った。

    「わかった。」
    「本当だな?故郷の俺は強い。だが、奢りはない。この世界ではお前の方が強い。」
    「帰り方を教える。一緒に来て。」
    「ちょっと待て。この世界で強くなったら、故郷でもっと俺は強くなれる。そんな気がするんだ。」
    「そうかもね。」
    「学といったな、頼みがある。」
    「何?」
    「俺を鍛えてくれ。お前は、俺の勘だが、相当な修羅場をくぐってきているな。」

    当惑する学。人を鍛えるなんてことはしたことがなかったし、その相手がペンギンのぬいぐるみ、もといペンギンの使者だったからだ。
    暫く考えこんだ学の口から出た言葉は本人にとっても意外なものだった。
    「いいよ。」
    「本当か!?恩に着る。しばらくここに居候させてくれ。」
    「わかった。」

    後日玉姫はその時の話を微笑みながらクロエにこう話す。
    「『弟ができたみたいだった。』学、そう言ってた。」
    「マナマナと一緒にペンギンがついて回ってるのチョー可愛んだよねー!」
    「本当。でも、なんとなく学も楽しそう。」
    「そーそー!多分あの二人相性いいんじゃないかな!」
    学について回るウィーゴはとても愛らしく、ナイエン支局でも注目の的だった。
    一方のウィーゴ本人は至ってまじめだったし、学もウィーゴを抱っこして歩いたり真面目に話を聞いたり。ときどき単純に可愛がっているだけに見えるが二人の仲のよさそうなところはだれの目にも明らかだった。
    ウィーゴが合体や盟約の仕組みを知ったときには、「これで学に俺の強さを見せられる。」
    と嬉しそうに語っていた。

    一度、海に迷い込んだ凶暴なモノリウムの使者に対して、学はなんの躊躇いもなくウィーゴを選び合体して使者と対峙したことがあった。

    『学、突っ込みすぎだ。こいつは強いぞ。』
    「水中なら、本気出せばアルテミスの銃弾よりも早く動けるから。」
    『コントロールだけは気をつけろよ。』
    「わかってるって。」
    海中にも関わらず、一瞬で敵の巨大な体躯に入り込み、手甲からすさまじい数の打撃を打ち放ち、海上に使者が打ち上げられるまで数分とかからなかった。
    『流石だな。また、いつでも助けが必要だったら俺を呼べ。』
    「助けが必要じゃなくても呼ぶ。」
    『まったく、しょうがねえな。たまには一人で寝やがれ。』

    1人と1匹はまるで姉弟のようだった。

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  • 橘 弥生 & 凪

     橘 弥生 & 凪

     橘 弥生 & 凪

    橘 弥生 & 凪

    『―風が吹いていた。
    良くない風だ― 

    ジスフィアの使者、凪はそう呟くと、隻眼で闇の向こうを見透かす。
    風が運んでくる・・・悪の匂いッ
    しかし安心するがいい。
     いかなる悪の邪智暴虐が世を乱そうとも。
    この悪しき風、俺が止めてやる。
    風が止まると書いて凪と読む。
    そう、この俺の名だ!
    くっくっく・・・・
    はっはっはっはっはーーー!!!!!!』

     ―という、独り言にしては結構大音量のモノローグが、木の上から聞こえてくる。
    「・・・・凪さん。そろそろ、よろしいかしら?」
    『ヌ? 我を呼ぶのは誰か―?』
    「下をごらんなさい。わたくしですわ」
    『ム! そこに見えるは我が輪廻が導きし宿縁の盟約者、橘弥生ではないか。
     だが済まぬ、今ここに悪しき気の流れが―』
    「ではあなた、今夜のご飯はいらないんですのね?」
    『―! い、いります、いります。
     すぐ、すぐに降りるから!』
     と答えると。
     黒ずくめの小柄な姿が木の上からよっこいしょ、どっこいしょと言いながら降りてきた。
    「まったくもう・・・
     そんなに苦労するなら、わざわざ木の上になど登らなければいいでしょうに」
    『くっくっく・・・
     仕方がない。これは、悪の気配をいち早く掴むための日課なのでな・・・
     というか、この前までは鳥に適応していたのだ!空が飛べたのだ!
    高いところから見たいのだ、木登りは仕方ないではないか!』

     フォーリナーカードが実装され、定理者はその力が必要なときにだけ、盟約者である使者を異世界から呼び出すことができるようになった。
    呼び出された使者は、用が済んだ後は自らの世界に速やかに帰るのが普通だ。使者たちにとってはここ、セプトピアこそが『異世界』だ。セプトピアのロジックに適応すると体が変化し、セプトピアに住む人間や獣など、近しい何かに成り代わる。そのため、本来の世界で使えた超自然的な力を振るえなくなってしまう。だから彼らにとってこのセプトピアは、決して過ごしやすい世界ではないはずだ。
     しかし。たまに、呼び出されたあと、これ幸いとなんやかんや理由をつけてはなかなか帰ろうとしない者もいる。
     弥生の二人目の盟約者、このジスフィアの烏天狗・凪もその一人だ。
    「確かに、出会った頃のあなたの適応体は鳥でしたわね」
    『うむ』
    「なんで人間の姿になりましたの?」
    『・・・わからん』
     適応の仕組みについては、ALCAでも研究中だが詳しいことはわかっていない、と聞く。
    つい数年前までは、トランスジャックした使者に対する戦い方だったり逆理病に侵された人を救うことだったりが研究の主体だったのだから、まあ仕方ない。
    『待たせたな我が盟約者よ! では今宵の供物を頂戴に参ろうか!』
    「はいはい、食堂に行く前に、まずちゃんと手を洗うのですよ?」
     凪については学園長の許可を得たので、一晩ぐらいなら寮の自室に泊めることもできるし、食事も用意してくれる。
    『白樺寮の夕餉は実に滋味豊富な天上の果実。
     日頃ジスフィアにて霞を喰らうて生きる俺には、ふっ、過ぎた供物よ・・・』
    「まあ! ジスフィアでは霞を食べているなんて!
     ふふっ 万博さんに教えてあげたら、喜ぶかもしれませんわ。
     他にどんな物を食べているのか実験してみよう!
     とか言いそうですわね」
    『まてまてまて弥生、それはヤダ! それはヤーダー!』
    「安心なさい、本当に実験なんて、させませんですわよ?」
    『いや、うん、それはありがたい。
    そのう、霞というのも、まあ、そういう設定の方がカッコイイかなー、なんて・・・』

    凪は一度呼び出されると、こうして夕方の「日課」を済ませ、弥生や1年Sクラスの少女たちといっしょに食事をとる。その後、しぶしぶと故郷に帰っていく。

    『クククッ 我が輪廻が導きし宿縁の盟約者、橘弥生・・・
     再び悪がこのセプトピアに手を伸ばそうというなら、
     いつでも構わぬ。この俺を呼ぶが良い・・』
    「はいはい、わかりました、ですわ」
    『本当だぞ! 本当の本当に、呼ぶんだぞ!約束だぞ!』
    「ええ、遠慮なく呼びつけますわ」
    『では、サラバだ!』

    「いやー やっちゃんの二人目、凪は面白いっすねー!」
     そう声をかけてきたのは、同じ1年Sクラスのクラスメートで幼馴染の、京橋万博。
     凪と出会って盟約したのも、この幼馴染と一緒の時だった。
     そもそも凪は、自分の方からこのセプトピアに盟約者を探しに来た使者だ。
    あの楽しかった夏祭りのあと。
    白樺寮に帰る道の途中、黒い鳥ががぁがぁ叫びながら皆の回りを飛び回るものだから、さてはカラスが優勝メダルを取り返しにでも来たのかと身構えた。しかしよく見れば様子がカラスとは違うし、何よりまた万博のフォーリナーレーダーが鳴り出すので、まさかと思い学園の盟約室に連れて行ったのだ。
    盟約室で元の世界での姿―元体を現した凪は、居並ぶ少女たちを見て開口一番、言ったものだ。
    『お前たち、この俺と、悪を倒さないか?』
     あまりのセリフにぎょっとする一同の中、それに動じず
    「もちろん、悪はこの橘弥生が許しませんわ!」
     とすかさず返したこの幼馴染は凄い、と万博は思う。
    『くくっ そう言ってくれるのか。有難い。
     では早速だが橘弥生よ。今、この世界には悪の手が忍び寄っている!』
    「なんですって!」
    『闇に潜む巨悪を見つけ、暴き、葬るのが俺の役目だ!』
     この凪のセリフを最初に聞いたときは、一同大騒ぎになったものだ。
    まさかまさか、新たなる異世界からの侵略が!
    ALCAにも報告、至急調査と対策を!
    ―と盛り上がったところで。
    『ま、まてまてまて、おちつけ! 落ち着くんだ!』
    「これが落ち着いていられますか! 凪さん、早速ですが、その「闇に潜む巨悪」とやらについて、知っている限りの情報を教えてください!」
    『い、いや、そのう・・・
     俺もまだ、調査中というか、まだ詳しくはわかってないというか、これから設定するっていうか・・・』
    「わからないからこそ、調査が必要なのです! まずは貴方の知っている情報を―」
     と詰め寄った所で、後ろから弥生をつついたのが万博だった。
    「あー、やっちゃん、やっちゃん、それぐらいにしてあげるっす」
     見れば、凪はなんだか小さく背を丸めると―
    『・・・ゴメンナサイ・・・』
    全てが自分の「妄想」であることを認めた。

    「なんですか「設定」って! まったく、本気にしたわたくしがバカみたいではないですの」
    「まあまあ、良かったじゃないすか。本当じゃなくて。
    あたしもまさか、異世界から来た使者が中二病患者だーなんて、驚いたっすけどね」
    「全く、困った子を任されたものですわ」
    「そうすか? それにしては、やっちゃんも悪い気はしてないように、見えるっす」
     どうかしら、と弥生は肩をすくめてみせた。

    そんなある日。
     授業中の実技訓練で凪を呼び出した後、別れた弥生は、クラス委員の仕事が少し長引いたので、いつもより遅く寮に帰ってきた。
     ほとんど陽も落ち、いつもの「日課」に行っているであろう凪を迎えにいかなければ。そんなことを思いながら寮の門をくぐると、ほとんど同時に、凪も戻ってきたようだ。
     だが、その様子がなにやらおかしい。
     息を切らせて走ってくる。
    『わ、我が盟約者、橘弥生よ!帰ったか!
     く、くくくっ 
     今こそ、今こそ我らの力で正義を執行、闇を払い光をもたらしこの世に正しき風をもたらすのだ!! ふ、ふははははは―がほっげほっ』
    「・・・今度は何の設定なのです?」
    『ち、違う、今度は本当なのだ!』
     改めて話を聞くと。
     遠くの方、森の端に、赤いものが見えた、気がするのだという。
     さらに、風に乗って何か焦げた匂いもすると。
     それを聞いた弥生は―
    「―華凛、華恋」
    「はい、主さま」
    「おそばに~」
    「華凛はすぐに学園に向かい、先生方にこの事を知らせなさい。応援を頼むのです」
    「はっ!」
    「華恋はわたくしと来なさい。力が必要になるかもしれません、フォーリナーカードは持っていますね?」
    「ばっちり~」
    「凪、貴方はわたくしと合体しますわよ。すぐに現場へ向かいます」
    『弥生、その・・・ありが、とう・・・』
    「貴方のことは、盟約者であるこのわたくしが、一番わかっていますわ。
     ―まあ、貴方の勘違いなら、いいのですけれど」

     凪と合体した弥生は、烏天狗の力を得る。
     空を蹴る様に舞い上がると、上空から闇を見通す。
    「凪! 貴方が見たのはどちらの方角です?」
    『あっちだ弥生、見ろ! 火の粉が!』
     強化された感覚が捉えたのは、火の粉が踊る赤い色、生木が焦げる嫌な匂い、そして―
    『「―子供の声!」』
     空を駆けて闇を渡る。一気に近づく。眼下に見えたのは、炎に囲まれた二人の子供の姿だ。泣いている。
     間に合った。まずい。どうしよう。囲まれている。対策は?避難は?どうしてこんなところに子供が?火はどこから?
     弥生の脳裏を様々な思いが駆け巡るが、決断は早い。
    「凪! 貴方の力を!」
    『おお! 使いこなして見せろ!』
    『「ロジックドライブ! 神仙竜巻返しの術!!!!」』
     威力と範囲を絶妙に絞り込まれた竜巻が、子供たちを優しく包むと宙に巻き上げる。
    「華恋!」
    「お~まかせ~!」
     ついてきていた華恋が子供たちをキャッチするのを確かめると、気流を操り延焼が広がらないよう制御する。風を操る力で火を消すのは難しいが、応援が来るまで被害が広がらないよう防ぐことはできる。
     皆が華凛の先導でやってくるのに、時間はほとんどかからなかった。

     合体を解くと、弥生は凪に
    「お手柄ですわ、凪」
     と声をかけたが、その本人は何かを噛み締めたかのように拳を握って呟いている。
    『よ、良かった・・・お、俺も、俺にも正しい事が、正義の味方が、できるんだな・・・』
    「まあ、当たり前ですわ。
     この橘弥生の盟約者ですもの。正しい心で世界の役に立つ。当然の事ですわ」
     凪は何かを感じたかの様に、明るい笑顔を見せたが―
    『い、いや、この程度、お、俺の力をもってすれば容易いこと。
     フ、フハハハハハ―!』
     とまあいつもの調子に戻る。
     それでも、今夜は夕子に頼んで、食後に凪の好きなデザートを出してもらおう、と思う弥生だった。

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  • 森ヶ谷夕子 & ウェスタ

     森ヶ谷夕子 & ウェスタ

     森ヶ谷夕子 & ウェスタ

    森ヶ谷 夕子 & ウェスタ

    夕子が彼女と出会ったのは、今から2年ほど前のことになる。

    ピラリ学園の4年生になった夕子は、もっと料理のバリエーションを増やしたいと思い、
    休みの日を使ってオビヒロの料理教室に通うことにした。

    基礎は身についている自信があったので、ちょっと背伸びしてプロのシェフに習うコースを選択。
    二人一組になって授業を受けるのだが、その時同じ組になったのは夕子と同じぐらいの背格好で、
    柔らかい印象の若い女性だった。

    ウェスタ、と名乗ったその少女は、夕子よりも大人びた立ち振る舞いをしながらも、ちょっとした受け答えでころころ笑う表情はまるで年下の様でもある。不思議な人だった。

    「まずは野菜を、それぞれ指示した通りに包丁で切ってください。
    ここで大きさを揃えておかないと、火の通りがばらばらになりますからね、気を付けてください」
    講師の指示に従って野菜の皮をむき、指定した形に切っていく。
    輪切り、半月切り、銀杏切り。

    夕子の目から見ても、ウェスタの包丁使いはなかなかのものだ。
    ゴロゴロした形のジャガイモも、無駄を出さず丁寧に皮を剥いていく。

    「では炒めていきましょうか。フライパンは用意できていますね。
    今日は油通しをしない方法を教えます。
    油は少なめ、材料を入れたらすぐに弱火に。じっくり火を通していきましょう」

    フライパンをコンロに置いたウェスタは、両手を構えると、『えいっ』と小さく声をかけた。
    そのまま数秒。
    『・・・あ、失敗失敗。こっちでは力、使えないんだっけ』
    舌を出すその仕草は、あざといぐらいに可愛いものだったが―

    『夕子さん、わたし、このコンロって言うの?使い方、良くわからなくて。
    火の点け方、教えてくれない?』
    「ええ、もちろん・・・でもあなた、もしかして・・・」
    『あ、火が点いたわ! なんだか不思議ね、なでるだけで火が大きくなったり、小さくなったり。
    精霊さんのご機嫌を伺わなくていいから便利ね!』
    「・・・使者さんも、料理はするの?」
    『ええ、料理は得意中の得意。だってわたしは、竈の神だもの』
    「私も料理は大好き。嬉しいわ、そんな使者の人と出会えて。改めてこんにちは、ウェスタさん。
    私は森ヶ谷夕子。定理者育成機関ピラリ学園の4年生です」
    『始めまして、夕子。私はテトラヘヴンのウェスタ。竈の神ウェスタ。セプトピアのお料理、わたしに教えてくれる?』

    定理者の素質があると認められ、定理者育成機関・ピラリ学園に入学したものの、長らく盟約者が見つからなかった森ヶ谷夕子。
    それがこうして使者に巡り合い、料理という得意分野を通じて仲良くなり、あれよあれよという間に盟約する関係になったのだから、運命とは不思議なものだ。

    先生に言われるまま、Sクラスへ移動の手続きを進める彼女の部屋に、今日も騒がしい訪問者があった。
    「良かったじゃないか夕子!これで君も立派な定理者だ!」

    彼女は東瑞希。
    小学生の時からの幼馴染で、何かといつも自分を気にかけてくれる。
    「ええ、そうね、そうなんだけど・・・」
    「浮かない顔だね、何を心配しているんだい―
    はっ! そうか! 私としたことが気づかなかった!
    夕子、私とクラスが離れてしまうことに、君がこれほどまでに胸を痛めていよう、とは。
    ああ! そうだとも! この重大事! だが大丈夫。私はいついかなる時も心は君と共にある。
    なあに一言呼んでさえくれれば、授業中であろうがなんであろうが、私はすぐに駆け付け―」

    「クラスのことは、別に構わないの」
    「ええー」
    「それより、Sクラスになったら、戦闘訓練がある、でしょう?」
    「! ・・・夕子、君は・・・」

    視線を自分の手に落とし、少し震えているかの様な夕子。

    「ううん、わかっているの。
    戦闘訓練ではちゃんと、しーるど?って言うのがあって、私たちは怪我したりしないようになっている、って。でも万が一って事はないのかしら?」
    彼女のことをいつも見ていた瑞希には、わかっていた。
    夕子は、自分が傷つくのが怖いのではない。

    「万が一、万が一私のこの手が、人を傷つけ、怪我させてしまったらって思うと、どうしても・・・ね」
    思わず瑞希は、夕子の両手を手に取り、包むように握っていた。
    「夕子―」
    「こんな事じゃ、いけないわよね。
    定理者の先輩方は、今も世界のため、戦っているというのに。私も盟約者ができたのだから、すぐに戦えるようになって、皆を助けないといけないわ。なのに、ね」
    そう。つい先日も、トウキョウはナイエン区に強大な使者の襲来があり、ALCAは定理者の少年少女たちを動員し、なんとかその制圧に成功したと聞く。
    考えてみれば、ウェスタがトランスジャックで人を襲うような使者でなかったのも、実に幸運なことなのだ。

    ほどなく、夕子はSクラスに移動。
    危惧していた戦闘訓練では、残念ながら予想通りの状況となっていた。
    『夕子、少しは攻撃しないと。いえ、攻撃するフリだけでもしないと―』
    「わかってる、わかってる、けど・・・」

    ウェスタの能力は、二つの錬金釜を使い、様々なものを産み出す能力だ。
    竈の神の由来通り、産み出せるものは家庭の台所にあるようなものが中心になる。
    正直、人を害する武器の類を産み出すのは、ちょっと苦手だ。
    でも物は使いよう。
    家庭にある包丁だって十分凶器になりえるし、鍋に油をたたえて熱すればいくらでも恐ろしい使い方ができるだろう。
    ・・・それが、できない。

    「え、ええ~い」
    本人は必死、だがどう見てもへっぴり腰で振り下ろされた箒が、あえなく空を斬る。
    対戦するクラスメートも済まなそうに放つ光弾が、夕子の最後の防御シールドをあっさり破壊して、今日の戦闘訓練は終わった。

    『ごめんなさい夕子、私がもう少し、戦いに向いた能力を持っていれば』
    「いいえウェスタ、それが原因じゃないことは、一番私が知っているわ」
    戦闘訓練後は、いつもこんな風に反省大会になってしまう。
    原因ははっきりしている。
    本人もウェスタも、教える担任やクラスメートたちも、その理由はわかりきっている。
    だが誰がこの優しい少女に言えるだろう。

    ―他人を傷つける覚悟をしろ、などと。

    それが言えぬまま、時間が過ぎていく。
    世界は今日も、悪意ある使者の出現を恐れている。
    Sクラスの中でも、成績優秀と認められた生徒がALCAに仮配属となった。
    人々を守るため、戦いに行くのだ。

    「・・・ウェスタ、手伝ってくれるかしら」
    『ええ、夕子。せめて、楽しみましょう』

    お別れのパーティー。
    寮の台所を借りた夕子は、こっそりウェスタと合体。竈の神の全力を使い、トランスリミットぎりぎりまで、精魂込めて美味しい料理を作ってふるまった。
    「こんな事しか」
    『私たちには、できないから』
    でもそんな二人を、学園の皆は誰も責めなかった。
    皆の気持ちを代弁し瑞希が言う。
    「いいじゃないか、戦うのが嫌いな定理者と使者がいたって。
    私は好きだな、そういうの」
    「ありがとう、瑞希」

    あの日から、もうかなり経った。
    先輩定理者たちと使者たちの努力により、悪意ある使者襲来の恐怖は去り、世の中は平和になった。
    生徒会選挙を圧倒的大差で制した瑞希は、宣言通り生徒会を私物化。
    思いつくまま、規則の改正やら突発イベントの主催やらで度々学園を騒がせているが、そのいずれもがこの学園の生徒たちを楽しませているのだから、生徒の支持は熱烈だ。

    副会長に指名された夕子は、まさかウェスタの錬金釜で「ハリセン」を錬金することになるとは思わなかったが、これが便利で使い減りしないものだから度々役立っている。
    瑞希の勧めもあって、白樺寮の寮長も引き受けた。
    寮に入った子の中には、初めて親元を離れ、不安のあまり泣きそうな子もいた。
    夕子は台所を借りると、ウェスタの力も借りてお菓子を作り、歓迎のパーティーを開いた。
    笑顔を取り戻した少女たちを見て、夕子も、そしてウェスタも、心から幸せを感じたものだ。

    再び季節は廻り、春。
    学園は、また新たな定理者のひなたちを迎える。
    相変わらず戦闘訓練の成績はさっぱりだが、今夜のおやつとそれを食べるみんなの笑顔を想像するだけで、夕子は今日も幸せだ。

    「ウェスタ、今日も手伝ってもらえるかしら?」
    『ええ夕子、わたしの鍋をあなたに預けるわ』

    宙を舞い光り輝く錬金釜。
    武器を産むのは苦手だけれど、笑顔を産むのは、ちょっと自信がある。

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  • クロエ・マクスウェル & 哪吒太子

     クロエ・マクスウェル & 哪吒太子

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    「ジスフィアの使者と盟約したいなー!」
    突然のクロエの発言に驚くアシュリー。
    「だってさー!シュリリンがシェリーっちとこの間盟約したでしょ!
    それを見てたら羨ましくなっちゃって!」
    たしかに先日、クロエの計らいにより、アシュリーはシェリーと盟約をすることが出来た。
    一緒に水族館に行った時のアシュリーの一言をクロエが覚えてくれていて、
    フィリルにお願いをしてくれたからこそであった。

    「それなら私も…」
    小さな声で呟くアシュリー。
    「ん?シュリリンどしたのー?」
    「い、いえ。なんでもないですわ!」
    クロエさんを驚かせるためにも秘密にしておきましょう!

    数日後、クロエはアシュリーから盟約室に呼び出された。
    「シュリリン、話ってなにー?」
    「私、あの…お礼に艶鬼さんにお願いしたんです」
    「お礼?お願い?」
    いまいち話を理解できていないクロエ。
    「艶鬼さん、お呼びいただけますか?」
    『アシュリーのお願いなら聞かんわけにはいきませんなあ』
    「えっもしかして!!」
    以前自分がアシュリーにした流れとほとんど同じだ、とここで気が付くことが出来た。

    次の瞬間、赤い服を身にまとい、炎を帯びた槍を持ち、自信にあふれた表情の女性が現れた。
    『あとは、お二人におまかせしましょ』
    「ありがとう艶鬼さん」
    二人を見守るアシュリー。
    先に口を開いたのは、ジスフィアの使者であった。
    『名前は?』
    「クロエ!クロエ・マクスウェル!あなたは?」
    『哪吒太子と呼ばれている』
    クロエは少し考えこんだ表情を見せ、
    「じゃあ、ナタッチだね!!」
    神妙な面持ちから一転、ぽかんとした表情を見せる哪吒太子。

    「よろしくね、ナタッチ!」
    まだ盟約をしていないのにもかかわらず、強引に話を進めていくクロエの様子に、
    アシュリーは苦笑いをしていた。
    『艶鬼から紹介をされたはいいが、盟約したい理由が、
    これまでの盟約相手にジスフィアの使者がいないから、とはどういうことだ?』
    自分に対して、初対面でここまで距離を縮めようとする者は、初めてかもしれない。
    ジスフィアでは、“太子”と呼ばれているだけのことはあり、尊敬の念を抱いて、
    接してくる者がほとんどであった。いや、戦いにも秀でていることから、尊敬よりも、“畏怖”であったのかもしれない。
    そのため、これまでに呼ばれたことのない名前で、しかも親しみを込めていきなり呼ばれることは、驚くべきことであった。だが、その気持ちを悟られないように、平静を装いながら、目の前にいる少女に疑問をなげかけてみた。

    「いろんな世界を知りたいんだ!ジスフィアのことをよく知るには、
    やっぱり使者との盟約かなって思ってさ!」
    『たしかに、知識が増えることで見えてくる世界もある。
    探求心があることは、良いことだ。私も、セプトピアの世界には興味がある。』

    2人の様子を見守っているアシュリーが、小さな声で、艶鬼に問いかける。
    「哪吒太子さんはどのような方なんですの?」
    『えらい強おて賢しゅうて、正義感にあふれておりますなあ。まるでうちみたいやわあ』
    (…最後の一言は、聞こえなかったことにしよう。)
    そんなアシュリーたちの様子をよそに、嬉しそうに口を開くクロエ。
    「じゃあ盟約してくれるってこと!?」
    『定理者として、戦う理由はなんだ?』
    鋭い視線でクロエを見つめ、制するように問いかける。
    「街を、みんなを守るためだよ!」
    自信を持って即答する。
    ALCAから強制召集という形で、定理者として戦うことになったが、
    自分の使命や立場に不満を感じたことは一度もなかった。

    「ま、戦うこと自体も好きだけどね!今はけっこう平和になったから、
    前ほど戦うこともなくなったけどねー!」
    と付け加える。
    『その言葉に偽りはないようだね。表情を見ればわかる』
    ふっと微笑み、
    『ジスフィアのこと、教えよう。私の知識は、きっと君を満足させることができるはず。
    もちろん、戦いとあらば、私の力を存分に使うといい』
    クロエの答えは、哪吒太子を満足させたようだった。

    ・・・・

    「よーしいくよ!ナタッチのスピード、甘く見てるとケガするよ!」
    『平和を脅かすというのなら容赦はしない!』
    風火二輪を操り、空を飛び回るクロエ。
    「いやー!空も飛べちゃうんだね!いろんな武器があって、楽しいね!」
    『クロエ、戦いに集中しよう』
    「集中してるよー!よしっ、いくよー!必殺“ハイパーファイヤーランス”だっ!!」
    『…火尖槍だ』
    盟約をしてから、クロエの持つ、裏表のない素直さをどんどんと知るようになり、尊敬していた。
    …が、“ナタッチ”といい、ネーミングセンスだけはいつまでたっても、あまり尊敬できるものではないな、と苦笑した。

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