聡明なる才女、その願いを込めて
揺音玉姫には大いなる夢があった。
パラドクスシックに苦しむ人々を救うために、
ロジックカード専門の医師になることだ。
医師の家系に生まれ、
幼少期から英才教育を受けていた玉姫は中学の頃、
キョウトの実家からナイエン区へと一人上京。
有名私立中学で寮生活を送りながら勉学に励んでいた。
そんなある日、招かざる運命が彼女の人生を一変させた。
定理者の能力に目覚めてしまったのだ。
玉姫は世界統一自衛法第六条の規定によりALCAに強制召集された。
こうして医師の夢を断たれてしまった彼女だが、
決して弱音を吐くことはなかった。
定理者として人々を守ることは、
医師として人々を救うことと同義だったからだ。
玉姫は見習い定理者として懸命に鍛錬を重ねる日々を送った。
そんなある日、
ALCAに思いがけない来客が現れた──竜媛皇珠 小玲だ。
10歳程度の少女でありながら、
大人のALCA職員たちにも物怖じしない小玲。
『わらわが手を貸してやる。盟約を希望する者は前へ出よ』
小玲はセプトピアのロジックに倣い、適応体の姿こそ小さな身体ではあったが、
その正体はジスフィアの由緒ある竜族のお姫様。
小玲がALCAの門を叩いたのには理由があった。
幼少期の多感な時期に知識と経験を深める為、
異世界へ武者修行の旅に出されることがジスフィアの竜族の掟だったのだ。
ワガママなお姫様だった小玲は嫌々ながらも掟に従った。
ゆくゆくは竜族の皆を導いていく立派な大人の龍になる為に──。
ALCAナイエン支局は小さな来賓・小玲の対応に頭を悩ませた。
なぜなら力を貸すと言っておきながら、定理者を選り好んで盟約を嫌い、
挙句の果てには寝室が狭いだの食べ物がまずいだのと
ワガママを言って周囲を困らせていたからだ。
かといって竜族の血を引く者の力はALCAとしても貴重な戦力。
無碍にはできない。
誰もが小玲の扱いに困り果てる中、ただ一人、
懸命に小玲のワガママに対応する定理者がいた。
セプトピアのお菓子を献上しては、小玲の話し相手になっている。
『人族にしてはなかなか気が利くな。そち、名は何と申す?』
「定理者の揺音玉姫です」
玉姫は小玲を見ていると、
実家の妹・聖那のことを思い出すと告げた。
中学の頃に実家を出て以来、
聖那とは文通を交わすのみで顔を合わせていなかった。
小玲もまた、ジスフィアに大勢の竜族の弟や妹たちがいた。
一番年上だった小玲は竜族の次期後継者として一族を導いていく使命があったのだ。
「……えらいね。まだ小さいのに家族のことをそこまで考えているなんて」
『わらわ、よいこだからな!』
小玲は褒められて悪い気がせず、少しずつ玉姫に心を許し始めていた。
『たまきの願いならば、叶えてやってもよいぞ。何かないか? 願いごとは?』
「私、この世界の人々を守りたいんです……よかったら私と……」
玉姫と小玲が実戦投入されたのは、それから三日後のことだった──。
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