ルシフェル
テトラヘヴンからやってきた、謎の魔神。
その正体は、テトラヘヴンに百年戦争を引き起こした張本人の堕天使。
セプトピアでの平和な暮らしを楽しんでいる様子だったが・・・
| オルガ・ブレイクチャイルドおるが・ぶれいくちゃいるど | |
|---|---|
| 性別 | 男性 |
| 年齢 | - |
| 身長/cm | 178 |
| 体重/kg | 66 |
| 血液型 | A型 |
| 生年月日 | 11月11日 |
| 好きなもの | 盟約者探し。異世界雑学。 |
| 嫌いなもの | トレーニング。 |
ALCAナイエン支局所属の定理者の少年。 他のメンバーの前では平気な素振りをしているが、 やがて、ある重大な運命に導かれていく── |
|
テトラヘヴンからやってきた、謎の魔神。
その正体は、テトラヘヴンに百年戦争を引き起こした張本人の堕天使。
セプトピアでの平和な暮らしを楽しんでいる様子だったが・・・
オルガ・ブレイクチャイルド & ルシフェル
その建物は、ガイエン地区の端、路地を抜けた所にあった。
中庭の様に開けた場所、月光の落ちるそこに、寂れた協会が建っている。
「・・・」
彼にとって、懐かしく、またある意味忌まわしい、因縁の場所だ。
錆びついた門を押し開き、中に入る。
中は想像通り薄暗い。長椅子の連なる奥に祭壇、その脇に朗読台。
ひび割れた天井からは細く月光が差し、祭壇の上を照らし出していた。
そこには十字架に架けられた聖人の姿があるはずだったが、何者かに壊されたのだろう、折れて途中から無くなっている。
左右の壁に行くに従って、光は影に呑まれ、見通し辛い。
―だが、いる。
戦士の肌感覚とでも言うのか、何人かが陰に潜んで自分を見ているのが、わかる。
軽く息を整えると、声を張った。
「オルガ・ブレイクチャイルドだ。呼び出しに応じ、来てやったぞ!」
話は数時間前に戻る。
今回のキョウトでの事件の裏に、ルシフェルらしき人物がいるとのクロエの報告。
その情報に、ALCAナイエン支局は揺れた。ただし。
「クラウ、この情報はこの指令室から外へ出すな。
ヴェロニカ局長には俺から話す」
「―はい、しかし良いのですか?」
それに答えたのは、オルガではなくゼラだった。
「流石にルシフェルの名前はデカすぎる。
この名前だけが独り歩きすれば、せっかく平和になったこの町への影響は計り知れない。
ということですな?」
「ああ。ピエリ、今日までの調査報告をすぐに上げてくれ、確認したい」
彼の個人用端末がメッセージの着信を伝えたのは、その時だった。
『二人だけで逢いたい、あの思い出のセプトヘヴンで』
記されていた文章はそれだけ。発信者の名前もなく、アドレス情報は隠蔽されている。
だがもちろん、オルガにはその発信者も、指定された場所も、想像がついた。
そして、今。
『久しぶりだね、オルガ。我が盟約者よ』
妖艶な笑みを浮かべた男。
思い出と寸分変わらない姿が、説教壇の影から現れた。
「―ルシフェル、なのか?」
『もちろんだ。忘れたのかい?』
「・・・忘れるわけがない」
ルシフェル。
その名を聞けば、ナイエン区・ガイエン区の住民、いやこの国、この世界全ての人が震え上がるだろう。
元は異世界テトラヘヴンの天界に仕える大天使の一人でありながら、大神に反逆して100年戦争を引き起こし、破れ、堕天の地に永遠に幽閉された大罪人。
しかし堕天の地の底でゲートカードを手に入れた彼は、この世界・セプトピアへと脱出。
そして次々仲間の魔神を呼び寄せた。あまつさえ、セプトピアを自らの物にすべく、ガイエン区の住民たちを洗脳し支配。
さらにALCAの定理者をも誘惑し、遂には新世界「セプトヘヴン」の創造まで夢見た。
ルシフェルはオーバートランスをも実行し、この世界を黒い羽根のロジックで塗り変えんとしたが、
ALCAナイエン区定理者チームのリーダー、剣美親とその盟約者アテナの献身的な戦いにより企みは阻止され逮捕。その後、ALCAによって密かに「処理」された。
それが数年前に起きた大規模使者連続襲来事件「ルシフェル事変」の真相であり、愚かにもその口車に乗せられた定理者というのが俺、オルガ・ブレイクチャイルドというわけだ―
『約束通り、独りで来てくれたんだね』
「そういうお前は、独りではないようだが」
『ああ、気にしないでくれ』
軽く手を振ると、壁際の影に潜んだ何人かの気配が動く。
『彼らは私の協力者さ。
ALCAによって消された私を助け、
ここに帰ってくるのを手伝ってくれた』
そう言いつつ、右手をつと伸ばす。そう、まるであの日の様に。
『お帰り、オルガ・ブレイクチャイルド。
君と私が揃えば、ここが約束の地、セプトヘヴンだ』
その手を取り、握手する。
―いや、強く握る―
「・・・で、お前は誰だ? ルシフェルを騙る偽物め」
空いた左手。胸の前に握った拳の上で、翼の様な紋章が紅く輝く。
『な、何を言う―』
「ひとつ。
ルシフェルのロジックのうち1枚、人と神の共存を謳うロジックはここ、俺の中にある。
なのにお前は、何の欠落もなくセプトヘヴンを口にする。
ふたつ。
ルシフェルはALCAに処刑されたんじゃない。
自分からロジックを解いて消えたんだ。
みっつ。
そんな誇り高き者が、おめおめと平気な顔で俺の前に現れるわけがない!!」
決して逃さぬと、腕に力を込める。
「俺のロジックが聞こえる―
お前が堕天使ルシフェルである可能性は、マイナス200%だ!」
驚愕の顔を張り付けた、ルシフェル。いや、ルシフェルを騙る偽物。
考えてみれば、ルシフェルのそんな表情を見たことは無かったな―そんな風に思ったのも束の間。
闇の中から、乾いたまばらな拍手が聞こえてきた。
『スバラシイ、いやスバラシイですよ、オルガ・ブレイクチャイルドさん』
「・・・誰だ」
わずかな月明りに半分だけ姿を現したのは、中年のビジネスマン然とした、どこにでもいそうな普通の男。今にも名刺を差し出してきそうだ。
『初めまして。ワタクシ、金錆ギゼと申します。評価額は9500万GD』
「評価額?」
『ああ、申し訳ございません。
我々の世界では、自己紹介の際に、己の「金額」を伝えるのですよ。
それが我が世界、歯車と蒸気に彩られしペンタクルスのロジック!!』
「ペンタクルス!? 聞かない名だ。まさか、未だ見ぬ異世界か!」
それにしても、随分と金に目が無さそうな世界じゃないか」
『然り!慧眼です。
わが世界ペンタクルスは、全てを財貨が支配する世界。
さすがはオルガさん、ご理解が早くていらっしゃる』
「黙れ。このくそ芝居を仕掛けたのはお前か?」
『フフ、いやあ、そうおっしゃられてしまうと悲しいですなぁ。
いかがです? ビジュアルといい、受け答えといい、
わが社の蒸気人形はなかなか良くできていると思うのですがね!』
「蒸気人形?」
目の前のルシフェル、らしきもの。その肩から腹から腰元から、まるで合図があったかの様に、どうじに白い蒸気が吐き出される。
『いやあ、苦労しました。
我が世界で製造したものママでは、こちらの世界に持ち込んだ端から変質してしまいますから。技術と製法だけもちこんで、材料からこちらでかき集めて作ったのですよ。
どうです? 一家に一台、蒸気人形。
オーダーメイドでお望みの姿に作ってさし上げますよ』
「確かに、良く調べたようだな。外見だけはソックリだ」
『お褒めにあずかり恐悦至極です」
「―どこまで調べたんだ?」
『それはもう、顧客となられる方のニーズを調べ、適切なシーズを選択し商品化・提供する。マーケティングは営業活動の基本ですから。
ご所属のALCAのスタッフ、定理者のお仲間たちにいたるまで、調べてございますよ?』
「だが流石に俺とアイツだけが知る事柄まではわからなかったようだ」
『弊社の力不足をお詫びいたします。
よろしければぜひ、ご意見ご感想をお聞かせ願えませんか?
今後の開発の参考にさせていただきたい』
「とんでもない。聞くのはそっちじゃない。こっちだ。
いったいどんなつもりでこんな事をしでかしたのか、局の尋問室でたっぷり話してもらうぜ」
『まあまあ落ち着いて。今回のプレゼンは、これからが本番です』
「―なんだと!?」
ギリギリっと何かが噛みあう音がする。
突然握手したままの右手を強く引かれ、つんのめるところを受け止められる。
―いや、左手を掴み取られている。
「くっ、離せっ」
しかし離さない。
それだけではない。
蒸気人形。その腹が、服を破りギチギチと不吉な音ともに開くと・・・オルガの左拳を抱えたまま、腹に抱き込んだではないか。
「な、なにをす― ぐわああああ」
『申し訳ない、もう少し穏便な手も考えたのですがね。
貴方の手には、素晴らしい価値が付いているのです。
より正確に言いますと、貴方に宿る、堕天使ルシフェルのロジックに、です。
あなた方セプトピア人は、もっと貴方の価値に気づくべきです。
オーバートランスを実行した定理者のロジックカードなど、この世界広しといえど、そう何枚もないのですから!!!』
ブツン
『ありがとうございます。堕天使ルシフェルのロジック、確かに頂戴しました』
吐き出された拳を右手で確かめる。手も指もついている。肉体的には何も傷ついたわけではないのに、圧倒的な喪失感がある。思わず力が抜け、膝から崩れ落ちる。
「貴様ァ・・・・」
『くっくっく、ありがとう、ありがとうございます!!!
このロジック、いくらの値が付くか・・・想像しただけでも震えますねぇ!!!』
胸元からフォーリナーカードを出すオルガ。紅武、あるいは銀影と合体すれば、こんな使者の一人や二人、一刀の下に切り伏せられるはず。
『おおっと、無駄なことはおよしなさい』
「なんだと?」
確かに。掲げたカードは、いつもの光を放つ素振りが無い。
『我らが蒸気科学の結晶は、この蒸気人形だけにあらず。
異世界ゲートの開閉技術についても、手中にしております。
・・・まあ本当の事を申し上げますと、トリトミーから供与された技術を受けたALCAの技術を、それとなくリスペクトさせていただいた、ってだけですがね。
それでも、短時間ならそのカードの作動を阻害するのは十分に可能です!』
「―なら、当然通信も遮断しているんだろうな」
『もちろんです!
お仲間の定理者の方々、揺音さん・明日葉さんは局にいらっしゃる様ですね。局長さんも同様。クロエさんはまだこちらに戻られていませんし、非番の七星さんも御家にいらっしゃることを確認しています。
仮に通信されてお呼びになったとしても、今からではとてもとても、間に合いません』
「本当によく調べたな」
『重ね重ね、光栄です…
さて、残念ですが、そろそろ本日はお開きといたしましょう。
お前たち!』
その声に応じて、二人の男が陰から現れる。姿かたちともにそっくりで双子の様だ。
『人形を運び出しなさい。大切な商品ですから、丁寧に扱うのですよ。
―いやあ、お恥ずかしい。ロジックの回収機構は複雑でしてね?
これを機能させますと、他の機能が全て停止してしまうのです。
せめて歩くぐらいはできたらと思いましたが、やれやれ至らぬ所ばかりでして』
「やらせると思うのか」
立ち上がろうとするオルガを手で制する。
『虚勢を張るのはおよしなさい、貴方にはもう打つ手はない』
いつの間にか、その手には銃らしきものが握られている。
『おとなしくしていてくれませんかねぇ?
ワタクシ、将来的に顧客になっていただけそうな方は傷つけたくないのですが…
商売の邪魔をされるなら、容赦はしません』
そう言って銃口を左右に振る。だが。
「本当に、俺が独りでここに来たと思っているのか?」
『・・・!?』
笑みを浮かべた金錆ギゼの顔に、初めて別の表情が浮かんだ。
「お前は調べきれなかったようだ。
俺が、一番信頼している定理者の事を―」
腕に巻いた時計に目を落とす。
「―そろそろ時間だ」
その数瞬前。
遥か上空に、大きな黒い翼を広げて飛ぶ姿があった。
見れば、翼を生やした少年が、一人の白いマント姿の青年を抱え星空の下を飛んでいる。
「―先輩、本当に良いんですか? こんな空から、落としちゃって?!」
「大丈夫、任せろって」
「だけど無茶しますよね。定理者による高空からの空挺潜入なんて」
「いや? ナイエン支局はよくやるらしいぜ、この作戦。
いつもは七星がクロエや明日葉を運ぶ、らしい。
悪いな、皆が目を付けられているらしいから、君に来てもらった」
「とんでもないです!憧れの先輩のお役に立てて、嬉しいです!」
端末を叩くと、現在の時刻が表示される。そろそろだ。
「いいぜ、落としてくれ」
「わ、わかりました!」
黒翼の少年が手を離すと、白の青年は星空を背景に、一直線に落ちていく。そして。
「『ロジックドライブ!! リフレクション!』」
その声が聞こえたか。
轟音と共に天井が砲撃でも受けたかの様に吹き飛び、崩落する。
広がった月光をスポットライトにして、中心に降り立った青年が顔を上げる―
「遅いぜ、剣」
「悪い、ちょっと手間取った」
『ま、まさか・・・貴方は!!!』
金錆ギゼのうろたえた様子は、少しオルガの留飲を下げた。
『剣美親― ロジックを喪い、何処かへと去ったと聞いていましたが―』
ギゼは手にした銃らしきものを軽く構えるが―
『想像通りの方ならば、ハハ、この銃ごときが通用する相手ではございませんね』
「試してみるか?」
左腕に光り輝くは、アテナの盾。
『いいえいいえ、ワタクシ、無駄は最も嫌うところです・・・しからば!』
言うが早いか、突然教会のあちこちから白い蒸気が噴き出した。
たちまち視界は白く染まる。
『これにてオサラバさせていただきましょう!』
「貴様、逃がすと思うのか! 剣!」
「ああ!」
『お前たち、人形、人形を確実に!
この際、手足がもげても構いません!すぐに運びだし―』
『それは困るな』
「!!!」
煙幕替わりの蒸気が晴れていく。
ついさきほどまで、マネキンの様に突っ立っていた人形が、強烈な存在感を放っていく。
月光の影、夜と星に照らされて、輝くロジックカードが見えただろうか?
人形を中心に、999枚のロジックカードが束ね、集まっていく。
それはあの日、彼の魔神が手放した、己のロジック。
『神の依代としては、まあまあの出来栄えだね。
せっかくの供え物だ、ありがたく使わせていただこうじゃないか』
ゆらり、その姿が闇より現れる。
『神の名を騙る不届き者に、その報いを与える間ぐらいはね』
その笑みは、さきほど人形が浮かべていたものとは確かに比べるべくもない。
『そのためならば、この世界に在るという恥辱すら、しばし耐えよう』
もっと美しく、そしてはるかに―恐ろしい。
『―神罰を、くれてやる』
『もはやこれまで!』
優れたビジネスマンは、その引き際の判断も早いと聞く。
金錆ギゼが手を叩くと、人形を運ぼうとしていた2人が―身体の内側からいきなり弾けた。
さらに噴き出す煙と蒸気。
『改めて、オサラバです!商談はまたの機会に!!』
運搬役の二人すらも人形だったのだろう。
それらを自爆させ、逃げに徹したペンタクルスの使者。
彼の後を追うことはできなかった。
後に残されたのは―
『「トランス解除」』
月光の下たたずむ、ひと組の男女。
『―久しぶりだね、アテナ。そして剣美親。仲睦まじいようで何より。
・・・そして』
もう一人の青年もまた、ゆっくり、おそるおそる、あたかも手を伸ばせば消える幻に近づくように、歩を進める。
「ルシフェル」
『我が盟約者よ。
また逢う事になるとは思っていなかったが』
差し出された手を取り、握手する。
「―やはり、本物は違うな」
『だろうね』
再会、そして新たな出会い。
奇しくも七星縁と蓮香仙女の占いは的中していた。
果たしてこの縁の糸は、どこへ続いているのか。
事件はまだ、解決していない。
―続く
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ジスフィアにて、長いこと銀影と覇を争ってきた武将。
見た目通り豪放磊落、馬上槍と軍配を奮い、
部下の騎馬隊を率いて戦ってきた。
セプトピアにてオルガを気に入り、自分も盟約を申し出る。
響き渡る不協和音
「……ククク、ハーハッハッハッ!」
『……ククク、ガーハッハッハッ!』
その日、ALCAには二人の男の奇妙な笑い声が響き渡っていた。
一人は、もはやALCAメンバーもスルーすることに慣れていた定理者オルガの高笑い。
もう一人、オルガと肩を組んで豪快に笑っていたのが──ジスフィアの軍神・紅武だ。
自尊心が強かったオルガが誰かと仲良くしている光景は稀だった。
二人が意気投合していたのには訳があった──。
覇王の座を争って銀影をライバル視していた紅武がある日、セプトピアにやってきて民間人にトランスジャック。銀影に再戦を挑んできた。
そしてオルガと銀影は合体して紅武を討ち取っていたのだ。
敗北を悔しがった紅武に対し、オルガは告げた。
「……俺のロジックが聞こえる。この勝敗は……無効だ!」
紅武と銀影、互いに同じ条件で戦わなければ意味がないからだ。
紅武は潔いオルガの対応に応える為、自分も潔く軍門に降ることを決意。
『我が勝負、どうやら第二の時を迎えたようだ』
そして今度はオルガの盟約者として、紅武と銀影のどちらが相応しいかを勝負しようと考えたのだ。
「……ほぅ面白い。この俺様を取り合うとは、見所があるな」
が、ALCAはこの二人の盟約を受け入れてしまったことを早々に後悔することになった。
オルガと紅武は暇さえあれば、男気を賭けて互いのロジックを披露し合っていたのだ。
その日もALCAハウスサロンのバスルームから騒々しい声が響き渡る。
「道とは探すものではない。己で作り上げるものだ!」
『我が眼前に道は無し! 我の往く跡に道はできる!』
「時代の中に俺が生まれたのではない。俺が時代を生んだのだ!」
『時代が我に逆らうならば、我が手で時代を斬って正すまで!』
「……ククク、ハーハッハッハッ!」
『……ククク、ガーハッハッハッ!』
そんな時、使者襲来の一報が舞い込んだ。
瞬時にオルガと紅武の表情が一変し、戦場へと出撃していく。
普段は陽気な一面を見せる二人だが、いざ戦いとなれば切り替えは早い。
現場に到着したオルガと紅武は、暴れる使者と対峙した。
「紅武。お前に問う……お前にとって、戦いは何を意味する?」
『愚問だ。我は軍神。我が軍こそがジスフィア最強であることを証明するため。その為に覇王の座を手にする!』
「……追いついてこれるか? セプトピア最強の定理者である俺様のところまでな」
『望むところだ』
オルガと紅武は互いの拳を突き合わせる。
「トランス!」
真紅の鎧を纏った合理体・オルガは使者に反撃の隙も、逃亡の隙も与えなかった。
まさに軍神の如き猛攻撃。
後に、その戦いでオルガによって捕縛された使者はこう語ったという。
たった一人の定理者の力とは思えない。
相手にしていたのは『軍』の如きであった、と──。
ジスフィアにて、長いこと紅武と覇を争ってきた武将。
自分が女性であることをひた隠し、
長大な野太刀を振るって戦ってきた。
オルガと出会い、偶然正体を知られた彼女は、
秘密を守るため強引に盟約を結ぶ。
踏み越えた一線
オルガは自分こそが最強の定理者だと信じて疑わない。
そんな自分に最も相応しい盟約相手が、ALCAの協力者の中に一名いた。
ALCAの制服に身を包み、見目麗しく耽美な美青年。ジスフィアの武神・銀影だ。
「なぜお前はALCAに手を貸す?」
『セプトピアの治安維持に興味などない。
私の目的はただ一つ、紅武を討ち取り、覇王となること。その為の修行の一環にすぎぬ』
紅武とは、ジスフィアの地界で銀影が何度も剣を交えた宿敵らしい。
「……ククク。お前のこだわりなど興味はないが……」
オルガがふと左手の甲を見つめると、ルシフェルの紋章が浮かび──消えた。
「人と神の共存こそ、俺のロジック……その望みを叶えてやってもいい。この俺と盟約すればな!」
『断る。これは私と紅武の勝負。部外者は黙っていろ』
「……大した気概だ。ククク、ハーハッハッハッ!!!」
オルガは盟約の申し出を断られた気まずさを、勢いでごまかした。
しかしオルガには奥の手があった。
男同士が絆を深めるために有効なロジックが聞こえていたのだ。
ALCAのハウスサロン。
銀影がバスルームに入っていった姿を見たオルガは決意し、自らも裸になって、シャワー音が響くバスルームの戸を開けた。
男同士、裸の付き合いをするためだ。
「邪魔するぞ」
が、オルガの眼前には、驚くべき光景があった。
シャワーの湯気に隠れて全貌こそは見えなかったものの、銀影の麗しい裸体は彼が男ではないことを物語っていたのだ。
『き、貴様、どうしてここに……!』
オルガは引きつった顔のまま、何も言わず戸を閉めた。
その後、風呂から上がった銀影はひと気のない場所にオルガを呼び出した。
『……先程の貴様の愚行……私に対する無礼千万だと思え』
「……俺のロジックが聞こえる。女のお前が男装している理由は、武家を継ぐ為だな」
男子に恵まれなかった武家に生まれた銀影は、武士としての道を進む為、男として生き抜く覚悟を決めていたのだ。
「……この俺との盟約を拒否した理由も、それならば納得がいく。お前との盟約は諦めるしかなさそうだな」
『それは困る』
意外な銀影の発言にオルガは戸惑った。
銀影は古風な精神の持ち主だ。
誰にも見せたことがなかった裸体を見られてしまったことで、もはやオルガと契りを結ぶしかないと思い至ったのだ。
銀影はわずかに濡れた頬を赤らませると、オルガの首筋に剣を突き立てて告げた。
『……私と……盟約しろ。それが……貴様の責任だ』
オルガは戸惑いつつも、首を縦に振ることしかできなかった。
彼らの電撃盟約はまさに青天の霹靂だった──。
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