キャラクター&ストーリー

  •  剣 美親
  •  揺音 玉姫
  •  クロエ・マクスウェル
  •  五六八 葵
  •  揺音 聖那
  •  アシュリー・ブラッドベリ
  •  ジークハルト・クラウス
  •  当麻芽路子
  •  明日葉 学
  •  オルガ・ブレイクチャイルド
  •  七星 縁
  •  ヴェロニカ・アナンコ
  •  ジゼル・サンダース
  •  ニーナ・アレクサンドロヴナ
  •  リオネス・エリストラートヴァ
  •  京橋万博
  •  橘 弥生
  •  森ヶ谷 夕子
  •  小湊くらら
森ヶ谷 夕子
森ヶ谷 夕子もりがや ゆうこ
性別 女性
年齢 -
身長/cm 160
体重/kg 52
血液型 A型
生年月日 6月17日
好きなもの 料理、お茶(紅茶)、綺麗なところ、写真
嫌いなもの 虫、汚いところ

6年Sクラス所属。
ピラリ学園の4つの寮の一つである白樺寮の寮長。
寮生はみんな彼女を信頼しており、時折相談をうけることもある。

盟約者フォーリナー

  • ウェスタ

    ウェスタ

    他の世界の料理を学ぶため、セプトピアを訪れた際、参加した料理教室で夕子と出会う。そこで夕子と意気投合し、彼女と初めて盟約するフォーリナーとなる。

    トランス!

     森ヶ谷 夕子 & ウェスタ

    森ヶ谷 夕子 & ウェスタ

    「え? もう学園内にはいない?」
    ヴェロニカから連絡を受けたオルガは、視線を横に。
    そこには、灰金色のショートで可愛らしい顔を飾った、ピラリ学園の制服に身を包んだ華奢な感じの美少女「違います! 僕はお、男ですうううう!!」もとい美少年が、いた。
    「あー、ジーク。言いにくいんだが・・・
    プランBは、中止だ」
    「え!?」
    同じく連絡を受けていた美親が、隠れていた茂みから出てきながら
    「ああ、どうも、もう敵はここらへんにいない、らしくて、ね」
    「ええー!!」
    プランB。
    それは、討ち漏らしたペンタクルスの使者たちを釣り出すため、彼らの目標たるピラリ学園の生徒を囮にし誘い出すという作戦プランである。使者たちを残らず摘発するためとはいえ、この作戦のために女生徒たち、あるいは女子職員たちを危険に晒すわけにはいかない。故に、この作戦に危険を承知で敢然と立候補したのが、ジークハルト・クラウスで「女装するなんて、聞いてませんでした!!!」あった。
    「いやジークよ。安心しろ。
    俺のロジックが聞こえる。
    お前の女装がバレる確率は0%だ!!」
    「うん、けっこう、いや、かなり可愛いと思うぞ」
    『そうですね、こういうのは、なかなかの逸材、って言うのでしょうか?』
    この年頃の、少女のナチュラルな身だしなみを指導していたアテナも太鼓判を押し、
    『むう、どうしよう、私自信無くしそう』
    とルシアも嫉妬する出来栄え。
    「嬉しくありません!!!!」
    という訳だったのだが、残念ながら、非常に残念ながら、本作戦は中止となった。
    「もったいないから、記念写真でも、撮るか?」
    「・・・そんな事したら、先輩たちを倒して僕も舌を噛みますからね・・・」

    ピラリ学園体育祭の外で、そんな大騒ぎが繰り広げられていた、その日の、夜。
    とある住宅地、小洒落たマンションの一角。
    帰途を急ぐ一人の女性がいた。
    彼女の名前は、東瑞希。
    ピラリ学園の卒業生であり、生徒会長でもあった女傑であり、そして今は、ALCAサッポロ支局の、ヒラの新人局員である。彼女は、後輩たちが遂に自分たちで企画したピラリ学園体育祭にゲストとして呼ばれながらも、残念ながら休日出勤の当番のため、行くことができなかった。ある程度勤務した人間ならば、同僚たちで都合をつけることもできるのだが、流石に今年入局したばかりの新人ではそうもいかない。
    「後輩たちの光る汗、輝く涙をこの目で見守ることができなかったとは・・・
    慚愧に堪えない。なんとも口惜しい。
    この悲しみは、我が愛するひとの胸で癒やすしかないのではないか?
    うむ、そうだ。そうに違いない!」
    と、いつもの調子の独り言を呟きながら、帰り道を急ぐ。
    今彼女は、同じピラリ学園を卒業し同期で入局した同僚、森ヶ谷夕子とホームシェアして(瑞希本人の主張によれば、二人で愛の巣を育んで)いる。

    家が近づいてきた。
    見れば、部屋の電気がついているようだ。
    今日の体育祭を楽しんできた夕子が、もう戻ってきているのだろう。
    「ゆーうーこー! 今帰ったよ~~~!」
    扉を開ければそこには、マイスイートハニー夕子が彼女の帰りを待っているはず。三つ指ついて「おかえりなさいませ、あ・な・た」「ご飯にします? お風呂にします? それとも・・・」う、うふふふふ! 妄想の翼を広げるのは自由というもの。いや実際、そんなお迎えをしてくれたことはまだかつて一度としてないのだが、いやいや夕子はまだ恥ずかしがり屋さんだなぁ、いいんだよ私はいつでも・・・
    がちゃり
    「あ、瑞希、お帰りなさい」
    「ゆ~う~こ~・・・・!!!!!!」
    その時、瑞希は目の前が真っ暗に、なった。
    彼女の思考が、視神経から入る情報を理解し把握することを拒否、放棄したのだ。

    え、なにそれ。なんか今、見えてはいけないものが見えた。

    だが彼女は東瑞希。戦う者である。
    現実を拒否していて、現実と戦うことはできぬ。
    再び目をかっぴらいて、目前の現実に立ち向かう。
    「ゆ、う、こ・・・ そ、そのお、おと、男は!いったい!誰!!!」
    そう。
    彼女たちの愛の巣、スイートルーム(瑞希の主張による)の食卓に、見知らぬ若い男(瑞希としてはどうでもいいので描写したくないのだが、ガタイの良い二十代後半のガテン系といったところ。顔はちと険があってヤバイ感じ。おいおいもしかして、その筋のヤカラか??)が座っているのだ。
    そしてあろうことか、夕子は台所に立ち、今エプロンを付けようとしている。
    つまり何? 今から夕子が、夕子が、私たちの台所で、この男のために食事を作ろうとしている、のではあるまいな???

    「こちらの方は~~ あらあら、そう言えばお名前、まだお聞きしてなかったわ~~」
    「お、俺は・・・ラハン。鉛鎚ラハン。
    評価額は8200万GD、だった・・・いや、なんでもねぇ」
    男は、相当憔悴しているようだった。服はところどころ汚れ、端が破けているところもある。顔にも真新しい傷なのか、絆創膏が貼られている。
    瑞希は大きく深呼吸をし、己の精神力を総動員して自分を抑え込むことに成功、一応成功した。そして、まずは会話を試みるという難題に挑んだ。
    「で、そのなんとかラハンさんと言ったね。
    ・・・君、何故ここにいる?」
    「そ、それが俺にもなんだかよくわからねぇ・・・」
    「はァ?」
    「瑞希!」
    夕子が抑えてくれなかったら、怒鳴り返していたかもしれない。いけないいけない。
    「こちらの方はね、玄関の近くに倒れていらしたの。
    傷だらけだったし、お腹も減っていらしたみたいだから、ついでに食事をね」
    「め、面目ねぇ・・・」

    ついつい詰問調になりそうな自分を夕子に押さえてもらいながらも、なんとかこの男が語るのを聞いたところでは。
    この男は、近くで仲間とともに仕事をしていたのだが、これに失敗。
    仲間は散り散りになり、自分もまた、仕事場から逃げ出した、とのこと。
    土地勘もなく、ただただ足の進むまま歩いていて、気づいたら家の前に倒れていた、と。
    ・・・なんとまあ、迷惑千万なことだろう。
    この様子からしても、話の内容からしても、ろくなもんじゃない。恐らく暴力関係の職業、犯罪者かその予備軍だ。
    こんなヤツに、夕子のお情けをくれてやる必要は皆無。
    即座に官憲に引き渡すべき!
    「夕子、この男だが・・・」
    と切り出そうとしたが。
    その夕子は、豊かな胸元から2枚のフォーリナーカードをすっと抜き出すと―
    「ウェスタ、ステュクス、手伝ってくれるかしら?」
    2枚のフォーリナーカードから、光があふれる。
    まず夕子の左に現れたのは、テトラヘヴンの竈の神、ウェスタ。
    セプトピアに適応した姿は夕子と背格好もまとう雰囲気も良く似ていて、姉妹と言っても通用しそうだ。竈の神というだけあって家事全般、特に料理は達人級。夕子と盟約した当時はこの世界の調理器具には慣れていなかった様だが、今ではこの台所全ては彼女の領地と言っても良い。
    『ふふ、任せて夕子。材料の下ごしらえ、していくわね』
    早速、手際よく包丁で皮むきを始める。
    右に現れた少女は、同じくテトラヘヴンの大河の神、ステュクス。
    こちらは見た目十歳ぐらいの可愛らしい少女だが、実際はウェスタ以上に古い神とのこと。テトラヘヴン全ての大河を管理すると豪語するだけあって、以前ホッカイドウ各地の水質汚染を言い当てたほどの権能を持つ。
    『まったく、わたしがいないとメシも作れないのか。しょうがないなー!』
    と言いつつ顔はにまにまと緩んでいる。こちらは皿出しと味見担当。それから食事後の皿を綺麗にするのも彼女の仕事だ。正直、彼女を呼ぶのはあらかた調理が終わった後でも十分なのだが、それはそれで「何故わたしをよばないのかー!」と不貞腐れるので難しいのである。
    「みんな、お願いね」
    夕子の指示のもと、3人で楽しそうに調理を始めていく。
    瑞希にとっては見慣れた風景である。が、いつになっても見飽きることは無い。
    ああ夕子、何故君はそんなにまで、料理という行為を楽しそうにしてのけるのか。
    君の行う料理は、調理などという単語では表現できない。一種の芸術活動。神の恵みをこの世にもたらす神聖な行為(実際、二柱もの神が参加しているのだが)。
    後光が差して見える―!

    いやいや。まてまて。
    「いや夕子、料理は嬉しいが、それよりもこの男―」
    と指を突きつけて気が付いた。
    男は、大きく目を開き、あからさまに驚きと、それから恐怖?を顔に貼付けて、のどから絞り出すように、うめいた。
    「お、お前まさか、お前もまさか、ろ、定理者なの、かっ・・・!!!」
    「あら、びっくりさせちゃったかしら? そうなの。私、ALCAサッポロ支局所属の定理者で―」
    その先の言葉が止まった。
    東瑞希、一生の不覚。
    美しいものをその視界に収めていたいという欲望に負けて、男に対する注意がわずかに逸れていた。
    視界の端を太い腕がぎゅっと伸び、
    「くっ」
    「瑞希!!」
    『動くなァ!!!』
    一瞬の早業。
    ラハンと名乗った男は、瑞希の首を左手に抱える様に軽く締め付けながら背中に回り、右手で瑞希の右腕をねじり上げていく。
    「っ―!」
    「瑞希を離して!」
    『だから動くんじゃねぇ!』
    テーブルを挟んで対峙。
    夕子と二柱の神を視線と威圧で固める。
    『動くんじゃねえぞ・・・ てめえが合体?とやらをするより早く、俺もこいつをトランスジャック、するからなぁ・・・』
    「あなたまさか、使者・・・」
    『ああ、そうだよ。
    はっ! ざまぁねぇなあ。
    ALCAの定理者にコテンパンにやられた俺を、同じくALCAの定理者サマが、拾って手当した上にメシまで食わせようってんだからなぁ!』
    まったく、何やってんだ。
    と、思わずこぼれる愚痴。それはもちろん、夕子に対してではなく、自分自身に対しての言葉。

    今回、ラハンは自らの資産の大半を投入、この「仕入れ」・・・ セプトピアの定理者の誘拐計画に賭けていた。
    楽な仕事だと思っていた。
    ペンタクルスで様々な「シノギ」をこなし、荒事師として名を馳せたラハンだ。子飼いの部下たちと買い集めた人形で、あっさりいつもの様に仕事を済ませる。今頃は悠々アジトで己の評価額がハネ上がるのを眺めていればいい、そのはずだった。
    だが目の前で次々と戦闘人形が破壊され、子飼いの部下たちが倒されていき、自分の身を守るのも怪しくなってきた時。彼に残されたのは、何もかも捨てて逃げ出すこと、それだけだったのだ。
    そう、全てを捨てて、逃げたのだ。
    ・・・だから今、俺には何も、ない。

    「・・・で? それでどうするのさ」
    腕の中の女が、全く脅えるでもなく、彼に問いかけてきた。
    「な、何?」
    「だからこれから、どうするのか。どうしたいのか、と聞いているのだよ」
    東瑞希は、首をひねり右目でラハンを睨んで問いかける。
    「私をトランスジャックしたところで、この夕子は2人の盟約者を持つ腕利きの定理者だ。君が太刀打ちできる相手ではないぞ」
    『んだとっ』
    と反射的に反駁しようとして、その脳裏に黒い流星と白い閃光の記憶がフラッシュバックした。
    『っっ!!!』
    「その分だと、どこかの支局の定理者にとっちめられたんだろう。
    そんなお前が、夕子に勝てるわけがない!」
    『うっ、うるせ―』
    脳裏に再びフラッシュバック。
    荒事師の矜持を粉々に砕く、悪夢の記憶。
    『くそっ!!』
    頭を振って、それを追い出そうとする。できない。
    『くそっくそっくそーーーっ!!!!』
    瑞希の計画は、もちろんこの使者をびびらせて隙を見て脱出、ALCAに連絡を入れ保護・救出を求めることだ。夕子の強さ、なんてものは無論ハッタリ。彼女に戦わせるなんて、とんでもない!
    ・・・だが瑞希の計算は、少々理知的に過ぎたようだった。
    『や、やってやる。やってやろうじゃねぇか!!!!』
    「え」
    『お、お前!』
    夕子を睨み、吠える。
    『お前、俺と、勝負しろっ!!!』
    「ええー!」
    失うものをなくしたラハンにとって、砕かれたプライドを再びかき集めるには。まずは目の前の「敵」を倒す事。それしかないように思えたのだ。

    「いいわ、どうしてもって、言うなら。お相手、します」
    「夕子!?」
    驚く瑞希。いや、ウェスタもステュクスも驚いている。
    「お相手します。お約束、します。
    だから一旦、瑞希を離して。そして、席に座ってくださいな」
    『な、なんでだ』
    その落ち着きよう。勝負を受けるというこの態度。
    やはり俺は、勝ち目のない賭けをまた仕掛けてしまったのか?
    人質を取り、有利なはずのラハンが、夕子の落ちついた声ひとつにあっさり転がされる。
    夕子は言った。
    「だって、せっかく炊いたご飯が、冷めてしまうでしょう?」

    異様な空気だった。
    炊きあがった米を蒸らす20分。
    その間に、下ごしらえをしておいた魚を焼き、手早く味噌汁を作る。
    夕子ひとりが鼻歌を歌いながらいつものご機嫌で調理を進めるのを、ラハンも、そして彼女の盟約者であるステュクスも、何か異様なものを見るかのように眺める。
    『お、お前、凄いな』
    思わずそうこぼしたステュクスに、
    「だって、誰であろうと、お客様に料理を出すのは、楽しいわ」
    とあっさり返す夕子に、
    『ふふ、しょうがないわね。そりゃあ鼻歌もでるわね』
    と、より付き合いの長いウェスタが受ける。
    「うん。流石は私の夕子だ!」
    と瑞希が納得の笑みを浮かべたが、こちらの台詞はだれも拾ってくれず流れていく。
    「そんなあー!」
    『こ、これが定理者、ってヤツなのか・・・!?』
    今まで、ラハンがカモにしてきた相手は、みなラハンの暴力の前に脅え、頭を垂れ、崩れ落ち、どんなに逆らうヤツも最後はモノが言えないようになっていた。
    だがこの夕子という女の態度はどうだろう。
    ラハンがこの時感じていたのは、恐怖とか、畏敬とか、なにかそんなものに違いなかった。

    「さあ、めしあがれ。
    異世界の、使者さんの口に合うかは、わからないけれど」
    それは、ごくごく普通の、家庭の食卓に上るような献立。
    炊き立てのご飯に焼き立ての焼き魚。あらく食感を残した大根おろしがアクセント。
    椀には豆腐と大根の味噌汁。味噌は白みそ3に赤だし1を混ぜた自家製ブレンドで、出汁はいりこを一晩漬けたもの。
    海苔と醤油はお好みで。ついでにカリカリ梅と昆布の佃煮が添えられていた。
    どこにでもある、普通の、食事
    でも。

    『―うめぇ』
    ハシ、という食器はまだ上手く使えなかった。
    スプーンで米をすくい、フォークで突き刺した魚をかじる。
    旨い。ただひたすらに、旨い。
    「当たり前だ! 夕子のご飯は、最高なんだぞ!」
    横の女が何か言っているが、耳に入らない。
    頬を熱いものが流れていく。
    これが「涙」と呼ばれるものだとは、まだこの体に適応して日の浅い彼は知らなかった。
    『何故だ・・・! 止まらねぇ・・・ 止まらねぇよ!!』
    飯をかきこむことも。
    熱いしずくが流れることも。
    どちらも彼は、その意志で止めるすべを、知らなかった。

    それは、どこにでもある、誰でも知っている、普通の献立。
    しかして、隅々まで夕子が、相手の事を思い、彼女なりのおもてなしを込めて作り上げた食事だ。
    元ピラリ学園生徒会副会長にして当時の白樺寮の寮長。
    いつも柔らかな笑みを絶やさず、クラスメートからも後輩たちからも慕われた、6年Sクラスの女神。
    意に副わぬ現実に抵抗することが「戦う」ということならば、彼女、森ヶ谷夕子は、けして戦えない女性では、ない。
    『戦い方が、他の子とは、ちょーっと違うだけ、なのよね』
    ウェスタとしても、今の夕子の「戦い」を傍で助けられるのは、密かな誇りでもある。

    『借りが、できちまったな』
    米粒のひとつ残さず、全て綺麗に平らげた後で。
    ラハンは夕子の前に手を付き頭を垂れた。
    『俺は、荒事専門でな。この身一つで、どんなヤバイ橋も渡ってきた。
    あくどいと言われた商売も、誰もやりたがらねえようなシノギも、命をタマにやりとりすることも、全部、全部この腕でやってきた。
    俺はバカだったからな。他に稼ぐ方法を知らねぇのさ。
    そんな俺のことを、周りがどう言ってんのかは知ってる。
    悪童、荒事師、押し込み屋、弾け玉。
    どう言われようと、どう見られようと、今更後悔はしてねぇが―
    だけどな、俺は俺の、もう1GDも残ってやしねぇが俺の評価額の全部を賭けて誓う』
    そう言って、顔を上げると、まっすぐに夕子を見た。
    『俺は、借りたもんを踏み倒したことだけは無ぇ。
    だからこの借り、必ず、必ず返すぜ』

    さて、その後の話である。
    クシロの港に、一人の男がやってきた。
    ガタイのいい男で、見た目通り体力も腕力もあり、港湾労働者のひとりとしてすぐに馴染んだ。顔は怖いが話してみれば意外に気さくな男で、毎日サボらず熱心に働いている。
    何故そんなに一生懸命に働くのかと聞いたらば、男はこう、答えた。
    『借りを。でっけぇ借りを、返さなきゃならねぇんで』
    どれだけの借金を背負っているのかと周りは少し心配したらしいが、男はそれには答えず、ただひたすら、今日も額に汗して働いているという

     

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

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  • ステュクス

    ステュクス

    テトラヘヴンからやってきた、大河の女神。水その
    ものや河の流れを操る力を持つ。大神ゼウスの命令
    でセプトピアに派遣されたところ、ALCA支局にて
    夕子と出会う。

    トランス!

     森ヶ谷夕子 & ステュクス

    森ヶ谷夕子 & ステュクス

    白樺寮から電車に乗ってオビヒロの街へ。そこから更に特急に乗り換えておよそ2時間半。
    やってきたのはサッポロ。
    さらにその中心近くにある、タワーを備えた特徴的な建物。

    「さぁ夕子、ついたぞ! ここが卒業後私たちが働くことになるALCAサッポロ支局だ!」

    そう言って、くるりと器用に回りながら手を広げるのは、東瑞希。
    定理者育成校・ピラリ学園の元生徒会長だ。
    秋になり、生徒会を後輩に譲った瑞希。もちろん卒業後の進路の準備も万全だ。
    成績や内申評価は十分、ALCAの入局については先生方も太鼓判を押している。
    東瑞希にとって、ALCA入局はスタートでしかない。入局後の配属や達成すべき仕事、
    たどっていくキャリアパスまでしっかり検討済み。
    現役の定理者や元定理者が重要ポストを占めるALCAの中で、
    定理者の才能があっても盟約者に恵まれなかった彼女がいかに駆け上っていくか。
    将来を考えるだけでわくわくしてくる。

    問題は―
    「あらあら、瑞希は大変ね。毎日サッポロまで通うのかしら。家からだと、ちょっと遠いわね~」
    「いや、だから、夕子もALCAに入局してね、ほら近くに下宿をね、二人でね、ゆ~う~こ~~」

    瑞希の未来予想図には夕子が不可欠なので、事あるごとに一緒にALCAに入局しよう!
    と勧めているのだが、彼女はなかなか乗ってきてくれない。
    とりあえず今回、ALCAサッポロ支局の職場訪問に連れ出すことには成功したのだが、先はまだまだ長そうだ。

    親切な職員の案内で、二人は支局のあちこちを見て回り、気になるいろいろなことを質問することができた。
    「以前は、ある程度以上の適正のある方は強制招集の上、緊急時には即出撃でしたからね、
    盟約相手のいるいないに関わらず、支局に住み込んで貰っていました」
    「なるほど、だから宿泊施設が充実しているのですね!」
    「フォーリナーカードもありませんでしたから、盟約相手の使者の方も全員住み込んでいたのですよ」
    「今は違うのですか?」
    「はい、各定理者の方によってまちまちです。当番制のシフトこそありますが、自宅は別、という方も多いですし、こちらに住まれている方もいます。
    使者の方も普段は故郷の異世界にいてフォーリナーカードで呼ばれる方もいれば、相変わらず適応体でセプトピアにとどまっている方もいらっしいます。
    一方、以前のような、戦闘任務での出撃は、ほぼありません。
    定理者の仕事は様々に広がっていますが、特に喜ばれているのは、火事や事故、災害時の緊急応援任務ですね」
    そんな事を話しながら、今は空き室が目立つ一角を歩いていると・・・

    『!!! むぎゃっ!!!』

    何か重い物が転がる音と共に、子供の悲鳴?ともとれる声が聞こえてきた。
    ALCA支局内で子供の声?
    思わずそちらに向かう夕子と瑞希だが、案内の職員は何か呆れたような諦めたような顔でゆっくりついてくる。
    音の出処を探ると、一番隅の部屋が、酷いことになっていた。
    決して狭くはない個室が、足の踏み場もないほど雑多なもので埋まっている。
    本やら紙束やら定規やら測距儀やら。中でも一番目立つのは・・・
    「壺?」
    ひと抱えもある壺がごろごろ転がっている。先程の音は、これが崩れたかららしい。
    その真ん中で、小学校高学年か、せいぜい中学生といった感じの女の子が倒れて頭を抱えている。
    『あ、アイタタタ・・・なんで転がるんよ・・・ムカツクなー』
    「あらあら!大丈夫?」
    「お嬢さん、さあ、私の手をとりたまえ」
    助け起こす夕子と瑞希だが。
    『ム! お前、人間だな! は、はなせ! わたしにさわるなー!』
    この反応は?と目を合わせる二人。そこへ顔を出した職員は、
    「―またですかステュクスさん」
    『しかたないのだ! 壺のくせに、わたしの言うことを聞かずに転がってしまうのだ!』
    「そりゃ転がりますよ。そんな丸い壺。なんでわざわざ特注までして丸い壺にするんだか・・・」
    『カワイイじゃないか!
    ―それはともかく、いいかげん、はーなーせー!!!』
    「え、えっと・・・」
    「この方は、まさか・・・?」
    なんとなく手を離すタイミングを失った夕子と瑞希が問いかけると、
    「はい、本局に滞在中の、テトラヘヴンの使者の方です」
    『大河の女神、ステュクスであるぞ! えらいんだぞ! だから、はーなーせー!!!』
    じったじった。ばったばった。

    ステュクス自身と職員が語るには。
    テトラヘヴンの大河の女神である彼女は、ゼウスとか言うテトラヘヴンの偉い神様の命令でこのセプトピアに派遣されたらしい。
    だがステュクス本人としてはそれが相当不満なようだ。
    『・・・ったくぅ、レーテーとアケローンの定期水質調査の途中だったんだぞ?
    それをゼウスのバカチンが、他のやつにやらせるからいいとか言いやがって・・・』
    「交流事業の一環でして、テトラヘヴンから何柱かの神様が各地の支局に来ているのです。
    その一人がこちらのステュクスさんなのですが・・・」
    『なんだよー 文句あるのかー』
    「ま、こんな感じでして」
    と言って部屋の惨状を見せる。
    「研究、と称してサッポロに留まらずホッカイドウ各地に出かけてはサンプルを採取、なにやらいろいろおやりになっていまして・・・」
    『なんだよー そんな事言ってると、教えてやらないぞー?』
    思わせぶりなセリフを言うステュクス。
    『ふっふっふ、イシカリ川のとあるところに、ごくわずかだけど水質汚染が起きてる。
    知りたいかー?』
    「そ、それは確かに。本当だとすれば大変なことに」
    『本当に決まってるだろー! お前、わたしを疑ってるなー! くっそー やっぱ教えてやるもんかー!(くぅ)」

    とふんぞり返った彼女のお腹が『くぅ』と可愛らしい音を立てた。
    「あらあら、お腹が空いてるの?」
    『べ、べつに! お腹空いてなんか、ないぞ!(くぅうう)』
    「あらあら、ところでお姉さん、お菓子もってるんだけど、ちょっと多く作りすぎちゃったの」
    そ、それは私の分じゃないのかー?という声が聞こえた様な気がするが聞こえないことにする。
    「貰ってくれると、お姉さん嬉しいな?」
    『む、むう。そこまで言うなら、しかたない。もらってやるぞ』
    もぐもぐ。ぱくぱく。ぽりぽり。
    『む! こ、これはおいしいな、おいお前、おいしいぞ!!』
    「あらあら、食べ残しが口についているわ、ちょっとこっち向いて?」
    『む、むぐむぐ・・・ あ、なくなった。なくなってしまったぞ!』
    つまり私の分が無くなったというわけだな、という悲しい声が聞こえてきたが、
    お菓子のお代わりを作っている間に調査結果を教えてくれる約束を引き出したのだから尊い犠牲と言うべきだった。

    さてその後。
    ステュクスの分析は正しく、定期の水質検査をくぐり抜けていた微量な水質汚染を発見、
    事態が深刻化する前に対策を採ることができた。
    流石は大河の女神、と讃えられステュクスは大いに面目を果たし、更に研究に没頭することになるのだが―

    「・・・で。そのチビ神さまが、なんでこの白樺寮にいるんだ?」
    『(もぐもぐ)チビ言うな!(ぱくぱく)』
    「なんでも、ステュクスちゃんの研究成果を教えてもらおうとしたら、
    お菓子を捧げないと教えてくれないんですって」
    「だったら、サッポロのコンビニででも、洋菓子屋ででも、買ってくればいいじゃないか!」
    『(もぐもぐ)神への供え物を、そこらで買ってこようという考えが甘いんだ(ぱくぱく)
    あ、これあまーい! うまーい!』
    「私のお菓子の味が、忘れられないんですって」
    「だからって、わざわざサッポロからここまで来なくても!」
    「サッポロ支局の方から、先生方に是非ともってお願いの連絡があったそうよ?
    しょうがないから、白樺寮で少しの間もてなしてあげて、ですって」
    『(ぐっぐっぐっぷはー)安心しろ、さっき夕子と盟約をすませたから、卒業後は夕子といっしょに住む』
    「な、なんですとー!」
    『夕子ゆうこ、こんどゼリー作ってくれゼリー。わたしが良い水を流してやるから。
    おいしいのができるぞー!』
    「あらあら、それは楽しみね~!」
    「ゆうこ~ そんな簡単に使者と同棲とかダメだろう!
    だいたい、私が探してきた下宿は、新生活にピッタリ!というか、ニューファミリー向けというか、つまり二人暮らしにちょうどいい感じでね?」
    『わたしの水は料理に使っても最高だぞ?』
    「それは楽しみね~ きっとウェスタも喜ぶわ。なんだかお料理作りすぎちゃいそう」
    「大丈夫!夕子が作る料理なら、なんでも、いくつでも食べるとも!!」
    『バッカスも酒を仕込むときにはわたしのところに頭を下げに来るのだ。
    夕子も酒作る?ダメ?』
    「あらあら、お酒づくりはやったことないわねぇ」
    「ダメに決まってるだろう! ゆ~う~こ~!!」

    果たして、瑞希の未来予想図は実現するのだろうか。
    それはまた、別のお話。

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