キャラクター&ストーリー

  •  剣 美親
  •  揺音 玉姫
  •  クロエ・マクスウェル
  •  五六八 葵
  •  揺音 聖那
  •  アシュリー・ブラッドベリ
  •  ジークハルト・クラウス
  •  当麻芽路子
  •  明日葉 学
  •  オルガ・ブレイクチャイルド
  •  七星 縁
  •  ヴェロニカ・アナンコ
  •  ジゼル・サンダース
  •  ニーナ・アレクサンドロヴナ
  •  リオネス・エリストラートヴァ
  •  京橋万博
  •  橘 弥生
  •  森ヶ谷 夕子
  •  小湊くらら
ジゼル・サンダース
ジゼル・サンダースじぜる さんだーす
性別 女性
年齢 -
身長/cm 152
体重/kg 39
血液型 AB型
生年月日 6月6日
好きなもの パン。ココア。チョコやケーキなど洋菓子。
嫌いなもの 地味なこと。

ワガママで見栄っ張り、ちょっぴり自己中心的な、
美少女人気アイドル。
人気絶頂の時、定理者の資質に目覚め、
強制招集を受けてしまう。
同じ支局の揺音聖那とは反発し合いながらも、
共に戦ううちに、確かな絆を築いていく。

盟約者フォーリナー

  • 此花咲耶

    此花咲耶

    花を愛するジスフィアの桜の精霊。生命を産む力を持っている。まだ見たことのない美しい花を見ることを夢見ている。

    トランス!

     ジゼル・サンダース & 此花咲耶

    ジゼル・サンダース & 此花咲耶

    ステージ裏に、赤と青の揃いの衣装を身に着けた少女たちが、抱き合って、ちょっと震えていた。
    「やっぱりこの恰好恥ずかしいよ、お姉ちゃ~ん!」
    「泣かなくても大丈夫よ、聖那」
    と答えながら、玉姫の声も少し震えている。
    おへそと脇を大胆に見せ、スカートも大きくフリルが広がりつつしっかり足は魅せる。
    そう、二人の衣装は見事にラブリーな(ヴィーナスも太鼓判を押した)アイドル衣装である。
    「ほ、ホントに私たち、こんな格好で歌うの・・・!?」
    「そ、そうね。ジゼルさんに何かの間違いですよね、って確かめた方が・・・」
    そんな二人の希望的観測を無情に断ち切る鋭い声。
    「何も、何も間違ってないわ」
    ステージから漏れる光を受けて、逆光気味に立つのはジゼル・サンダース。キョウト支局の定理者「兼」歌って踊れて合体もできる、唯一無二オンリーワンとしてアイドル界に君臨しつつある超人気アイドル、その人である。
    彼女の方は、水色基調のやはりへそ出しでフリル盛り盛りな衣装を可愛く着こなしている。やはり本職、その姿に隙は無い。豊かな金髪をツインテールに結わえた衣装と同色のリボンがアクセントだ。
    「で、でもジゼル、私たち、そんなにちゃんと、レッスンとかしてないし・・・」
    「そ、そうよジゼルさん。わ、私たちの素人芸で貴女のステージを邪魔しても・・・」
    「うっさい」
    「「ひっ」」
    一言で黙らせるこの迫力。
    「いいからとっとと上がんなさい。次、アンタたちなんだから」
    『そーだぜぇ。もう腹くくってやっちまえってーの!』
    カン高い声で口を挟むのは、マスコットキャラの様に小さい蛇体に、誰が用意したのかサングラスとカーディガンをあつらえた蛇神、ケッツーこと、ケツァルコアトル。
    「け、ケッツー、あなたね―」
    『おおっと。今日ばかりはケッツーじゃあねぇ。
    ケッツPと呼びな。
    さあ、このイベントの総合プロデューサーである俺様の命令だぜ。早く行きなー!』
    「あんたら姉妹、せっかく良いもの持ってるんだから、それをさっさと見せつけて、こい!」
    ジゼルに半ば突き飛ばされて。
    揺音姉妹が立つは、キョウト・キヨミズコロシアムのメインステージ。
    スポットライトと観客たちの視線が二人を射抜く。と。
    「うおおおおお!!!!!!」
    「聖那ちゃんだー!!!!」
    「おねえさまもいるぞー!!!」
    「すっげーー!!!!」
    「揺音姉妹のデュエットだと・・・これは歴史に残るぞ!!!」
    怒号の様な歓声が二人を祭り上げる。
    その中心で。
    「―聖那」
    「うん、お姉ちゃん」
    視線を交わした姉妹は、その時にはもう腹をくくっていた。
    「後で、オルガの奴は」
    「うん、平さんも」

    「さあ、続きますは、ご存知キョウトの守護神、揺音聖那とその実の姉にしてナイエン支局の揺音玉姫、二人の姉妹定理者が息を合わせて歌います!曲は!」

    「「おしおきラブリードリーム!!!」」

    まあ、なんでこんな事になっているか、というと。
    話はしばらく前に戻る。

    「・・・で。なんで私のライブツアーにALCAが口挟んでくるわけ?」
    怒りを隠そうともしないジゼルの剣幕に、いつもの様にへらへらりとした表情を崩さずキョウト支局局長代理平は答える。
    「いや~ ほら、例の事件で君のツアーラストを飾るはずのキヨミズコロシアム、壊れちゃったでしょ?」
    「そうね。どっかのバカが好き放題やってくれたおかげでね」
    じろり。
    視線の先にいたくららが、ごめん!と手を合わせる。恐らく、彼女の懐にあるフォーリナーカードの先でも二柱の神が同じ動作をしているはずだ。
    「―まあ、もういいけど。で? ALCAが全面協力して、修理はもう終わったんでしょ?」
    今のALCAなら、重機以上のパワーを柔軟かつしなやかに運用するモノリウムの使者と合体した定理者やら、現代科学を遥かに超える超科学を実践するトリトミーの使者と合体した定理者やらを投入。従来の建築技術を遥かに超える速度と精度で修復をこなすことができるのだ。
    「うん、そこだよ。
    実は、けっこうこの修理には、ALCA本部が人と、それからお金を出しててね」
    「・・・」
    なんとなく話が見えてきた。
    「キヨミズスタジアムも修理っていうよりリニューアル、以前より更に高度な演出を可能にする複合型総合エンタメステージ施設として改築されちゃったわけ」
    「・・・で?
    それだけしてやったんだから、ALCAの言う事を聞け、ってこと??」
    ゆらりゆらり、再び立ち上るジゼルの怒気。
    その時。
    「まあまあ、その辺にしてやってくれないか、ジゼル・サンダース君」
    いきなりモニタが付くと、作戦室のメインモニタに背広姿に色眼鏡の男が映し出された。
    年齢不詳、長髪をラフにまとめ、丸眼鏡の向こうににやりとした笑みを浮かべた彼。
    その名は
    「・・・アンタ、ヤルノ長官・・・」
    「ジゼル君! 言葉使い!」
    「元、長官だよ、ジゼル君」

    ヤルノ現乃。
    元ALCA長官にして、現在世界政府ニホンエリアを代表する政治家のひとり。
    その彼が言うには、この「ALCAが協力してリニューアルした施設のこけら落としとして、ジゼルのツアーフィナーレを飾って欲しい」ということ。さらに。
    「できれば、ALCAの諸君にも、君の舞台に協力してほしくてね」
    「・・・何が狙い?」
    「―わかるだろう?」
    「まあね」
    目を伏せて、思考は一瞬。考えは決まった。
    「いいわ。私のツアーフィナーレ、ALCAにあげる。
    その代わり、中身は私の好きにするわよ」
    「素晴らしい、よろしくお願いするよ」

    ジゼルとヤルノの密約?が組まれてからというもの。
    彼女のツアーフィナーレ・キョウト公演の後援にでかでかとALCAのロゴが入り、ALCAからも多数の人員と経費が投入。
    ジゼルは改めて公演の舞台監督とプランの練り直しに入り、大胆にそのプログラムを変えていった。
    「―ジゼルくん、本当にこんな演出が成立するのかね?!」
    「できるわ。定理者なら、ファンの目の前での早着替えができる」
    「こんな特効装置、どこにあるんだ?」
    「装置じゃない。私と咲耶の能力で出すのよ」
    「なるほど、これはかつてないステージができそうだ!」
    「―しかし、この曲数は・・・大丈夫なのか?」
    「そうね・・・」
    現役の定理者であり、合体して特殊な力を発揮することができる、ジゼル。
    そのことを、ツアーを見に来る彼女のファンたちはみな、知っている。
    そしてその姿を目の前で見たい!と思っていることも分かっている。
    これまでステージ上で合体することを考えなかったわけではないが、あくまで「一般の芸能活動」である以上、その許可は降りていなかった。
    しかし今回は違う。
    ヤルノと取引して、ALCAの全面協力を取り付けたジゼルは、己のアイドルとしてのオンリーワンの能力である「合体」を大胆にステージプランに導入しようとしていた。
    「残念だけど、合体しながらステージをこなすのは、精神的にも体力的にも負担が大きい。今までと同じ曲数は、無理ね」
    「では減らすか?」
    「・・・そうね、でも私に考えがある」

    「というわけで、私としても理解に苦しむのだが・・・
    我々ナイエン支局としても、局を挙げてジゼル・サンダースのライブツアーファイナルに協力することになった」
    いつもの冷静な仮面を少し崩しながら告げるヴェロニカ。
    「まあ、私たちがペンタクルスの件で出払っていた時に、聖那たちキョウトのチームにサポートしてもらいましたから、協力はしますけど・・・」
    そうなのだ。ナイエン区の定理者チームが北はホッカイドウに向かっていた時、何かあってはまずいと留守を守ってくれたのは、聖那やくららといったキョウトのチームの面々だったのだ。
    「で、アタシたち、何やるの? ステージ見に来て~ってチラシでも配る?
    それとも裏方さんで荷物運び? ジゼっちの肩でも揉む?
    それともそれとも、いっそ代わりにステージで歌っちゃう、とか?」
    いつもの軽い調子で聞くクロエだったが、
    『金髪ゥ、それ、正解。にしししし』
    ネメシスの答えに皆がぎょっとする。
    「え、どういうことですか、ネメシスさん?」
    「ああ、つまり、だ。
    揺音、クロエ、明日葉、七星。君たちに、ステージで歌って欲しい、そうだ・・・」
    「「「ええ~~~!!!!」」」
    「ふっ、俺のロジックが聞こえる・・・
    お前たちの頼りない歌で客が盛り下がる確率は60%といったところか―」
    「ああオルガと剣、お前たちにも前座を務めてもらう」
    「な、なんですって!?」
    「バカな、俺たちの華麗なるステージングが、前座だと!」
    「オルガ、まさかお前、歌も歌えるのか?」
    「ふっ・・・」
    「今までやったステージは? 曲のレパートリーは?」
    「ははっ」
    「ダンスは? 衣装は?」
    「ふははっ はーっはっはっはー!!」
    「―経験、無いんだな」
    「まあな」

    結局、ジゼルのライブツアーフィナーレは、ALCAの全面協力によりその趣旨を変え、
    「ジゼル・サンダーズ with ALCAロジカリストムーンドリーマーズ
    スペシャルチャリティライブ」
    として開演することとなった。
    プロではない定理者たちをステージに上げるについては、本来高いプロ意識を持つジゼル自身が悩んでいた様だが・・・
    「プロとしての技、ステージは私が魅せる。
    あんたたちは、とにかく客を喜ばせることに集中して。やりすぎぐらいで丁度いい。何かやらかしても、私が拾って見せるから安心して」

    揺音姉妹がデュエットの途中でそれぞれ盟約者と合体、トランスチェンジを繰り返しては可憐な姿に変身すれば、
    「あの二人は、あの衣装でがんばってくれれば、充分お客様を喜ばせると思うのよね」
    『ああ、あのバディは罪だぜ・・・』
    クロエはノリノリでピンクのフリルから赤炎のスーツまで合体しながらワイルドなダンスを披露する。
    『やっぱクロエが一番ダンスの覚えが早かったナ』
    「体動かすことならなんでもこい、って感じだったものね」
    学が恥ずかしそうにステージの中央で可憐な歌声を乗せれば、彼女を挟んで二人の盟約者―星と冥があわせてくるりくるりと舞い踊る。
    「さすがジスフィアの踊り巫女、やるわね」
    『学もこれで「守ってあげたいオジサン」が大量に湧いてきたんじゃねーか?』
    以外にも積極的だったのが縁で、フリル多めのカントリーガール風な衣装で歌いつつ、トランスチェンジでサンバの踊り子の様な姿になり観客の度肝を抜いていた。
    「くっ、ここにも伏兵がいたか・・・」
    『お前ら! それは俺の巫女だ! 見てるんじゃねー!!!』
    さらに、部下たちにだけ恥ずかしいことはさせられぬと、ヴェロニカまで一曲こなしたのは驚きだった。和風のドレスに扇子を使った艶やかでしとやかな舞から一変、トランスチェンジで女王様然とした姿でスピーカーに足をかけると、マイクスタンドを蹴立てて
    「ついてこない奴は置いていくぞ!」
    と客を煽る。
    「―やるわね」
    『―ああ、やるなあ』

    そして。いよいよ。
    「みんな、まだまだ行ける? 行けるよね?」
    答える歓声を全身に浴びて。
    「いいわ、これからは私のステージ。
    みんなを楽園へ連れて行ってあげる。
    まずはこの曲。
    ラッキーバルーン!!!!」
    躍り出たジゼルは、いつもの様に、いつも以上に、歌って、踊って、語って、舞って、歌った。
    あえてあの日、あの「定理者になってしまった日」のあの歌をあの時と同じ衣装を新たに仕立てて歌う。途中で一瞬の暗転を挟み、曲が中断したか?と思わせ直後、八雷神と合体し客席上空から舞い降りる。
    稲光をアクセサリーに、より激しく突き刺さるアレンジで残りを歌い上げ、続くはハードなロックナンバー。敵に見立てたダンサーたちと群舞を織り交ぜ、時にはまた阿修羅と合体した聖那を壇上に吊り出し殺陣を演じ、背中合わせにサビを歌う。
    これまでついてきてくれたファン、待っていてくれたファンたちへの感謝と。
    新たに彼女を見に来てくれたファンたちへの歓迎の思いをMCに。
    続くスローナンバーはピンスポットの中心で大きく腕を振り上げると此花咲耶と合体、全身で「華」を演じると、ステージと客席いっぱいに桃色の花びらが艶やかに舞う。
    『なるほど、これはこれは素晴らしい花、ですね。
    いいものを見せてもらいました』
    「言っとくけど、まだ途中だから。気合い入れなさい、咲耶」
    合理体の特殊能力によるかつてない特効を織り交ぜながら、トランスチェンジと、従来通りの早着替えを織り交ぜ、多彩なレパートリーを展開、時に客席のノリを煽り。時に客席の意表を突き。一瞬たりとてファンを飽きさせない。

    「すっごー・・・・」
    今回、ステージ裏のアシスタントとして、言われるまま右へ左へと独楽鼠の様に働かされていた小湊くらら。
    ステージを直接は観られないが、その魅力はあちこちに設置されたモニターと、なにより割れんばかりに響いてくる客席の反応でわかる。
    「これが、ジゼル先輩のステージ・・・ うう、客席で見たかったーっ!」
    『ご、ごめんなさい、くらら』
    『でも、あたしたちに付き合う事無かったんじゃね?』
    くらら達がアシスタントをしているのは、今回の事件の「犯人」である鳴神と玉風の連帯責任を取った形、なのだが。鳴神と玉風が会場を破壊したのはくららと盟約する前だったのだから、彼女にとってはとばっちり以外の何物でもない。
    「いーよいーよ。裏から見るなんて、逆にレアだし?
    先輩のライブだって、これが最後じゃないし?
    次は、三人で客席から見ようね!」

    鳴りやまぬアンコールの中、ジゼルがあたふたする聖那の腕をむんずとつかみながらステージに戻ってくるのを、VIPルームから見下ろすヤルノ。
    「いいステージになったじゃないかね、ヴェロニカくん。まさか君まで歌うとは思わなかったケド」
    隣には、いつもの制服に戻ったヴェロニカが来ていた。
    「これで、思惑通りというわけですか?」
    「このライブは世界中に配信されている。
    彼女―ジゼル君のファンは世界中に広がっていく。
    歌って踊って合体できるアイドル―イイじゃないか。
    みんな、彼女をまた観たいだろうね?」
    「世界防衛法を復活させれば、ジゼル・サンダースの芸能活動は再び中断する―
    それは世界中のファンが許さないでしょう。
    ―つまり、武断派の思うようにはさせない、と」
    「僕たち定理者は、もうこの新しい世界を生きている。
    過去の栄光が忘れられない俗物たちには、そろそろ引退していただくつもりサ」
    ジゼルが此花咲耶と。聖那が懍玲と合体しながら、再び二人でデュエットしている。
    蒼い炎が幻想的に彩るステージ。
    花びらが舞い、燃え、儚くもしたたかな、生命の輝きを歌い上げる。
    「―いやあ、イメージ広がっちゃうねぇ」
    「今度は芸能プロデューサーでもおやりになるつもりですか?」
    「君がデビューするなら、考えちゃおうかなァ」

    ジゼルのライブツアーフィナーレにしてキヨミズコロシアムのリニューアル記念でもあるこのライブは記録的な興行収入を得、関連グッズもソールドアウト。見に行けなかったファンの怨嗟の声が遂に運営を動かし、当初予定されていなかった映像ソフト化が実現「そんな! 後には残らないから、って約束したじゃない!!!」し、ただいま各種店頭および通販サイトで好評予約受付中。出演者の日常の姿も織り込んだ特製ブックレット付の「ロジカリストスペシャルセット」はALCA広報サイトでのみ販売中だが、受付初日サーバーをダウンさせ、お客様からのクレームが殺到したという。

    こうして、キョウトの異変から始まった一連の事件は、キョウトはキヨミズコロシアムにて一つの締めくくりを見た。
    キョウトで始まった、新たな出会い。そして再会。
    だが再会があれば、別れも、また。
    それについても、ここで記しておきたい。

    その時。
    キョウト支局の盟約室は、異様な緊張感に包まれていた。
    特別な許可のもと、盟約室は外からもロックが成され、万一のためにキョウト支局の定理者たち、揺音聖那やジゼル・サンダースたちも合体したまま、外で警戒についていた。

    盟約室の中。
    壁際から中央を油断なく監視するように。
    揺音玉姫と、愛と美の女神・ヴィーナス。
    クロエ・マクスウェルと、剣と戦いの女神・ヴァルキリー。
    明日葉学と、月と狩猟の女神・アルテミス。
    七星縁と、翼蛇神・ケツァルコアトル。
    そして。
    剣美親と、正義と勝利の女神・アテナ。
    一同に囲まれる、その中央。
    ヴェロニカ・アナンコと復讐の女神・ネメシスの前に立つのは。

    オルガ・ブレイクチャイルドと、その盟約者にして、「ルシフェル事変」の張本人、100年戦争を起こした魔神、堕天使ルシフェルであった。

    「準備はいいか?」
    「ああ」
    『私も構わない』
    ヴェロニカの問いに、オルガとルシフェルが短く答える。
    と、盟約室の空気が一変した。
    熱く、寒く、乾いて、湿った。不快で刺々しい空気。
    遠くから響く、唸り声とも悲鳴ともつかぬ絶叫。
    『ふふ、懐かしい』
    ここは堕天の地へと至る道。
    堕天使ルシフェルがテトラヘヴンの大神ゼウスに逆らった末、その羽根をもがれて落とされた場所。一度落ちたら二度と天の光は浴びられぬと伝えられる永久の監獄。その、入り口にあたる場所だ。
    そこに向かって。
    一歩踏み出すルシフェル。
    その足並みはあまりに軽く、無造作で。
    あたかも己の家に変える帰途のごとく。
    たまらずアテナは声をかけていた。
    『―ルシフェル!』
    『何かな?』
    『大神ゼウスに、従うつもりはありませんか?』
    『ないね』
    即答だった。
    『ゼウスに降るぐらいなら、この身を再び解いた方が、ましというものだ』
    ゼウスとルシフェルの間に何があったか。それはもはや、時の彼方であり二柱の神同士でしかわかりえない。
    『だがそれでは、ふふ、また愚かな者たちの愚かな行為で、我が盟約者に迷惑をかけるかもしれないからね。控えておこう。
    となれば、私に選択肢はない。いざ、帰るとしよう、堕天の地へ』
    そして再び歩を進めんとした時、ルシフェルはくるり身を翻す。
    『オルガ、我が盟約者よ。
    そしてアテナ、剣美親。君たちのおかげで、私も楽園のあり方を考える機会を得た。
    今やこのセプトピアは、モノリウム、ジスフィア、トリトミー、そして我がテトラヘヴンの神々や魑魅魍魎、獣や機械が跋扈しながらも、平和的に皆が快楽のロジックを享受する新世界だ。あの宴―ライブと言ったか? 実に良い出し物だった。セプトピアのロジックの賜物だね。
    私が目指したセプトヘヴンとは違うが、ふふ、神と人間の共存を真なる意味で叶えているのは、この今のセプトピアかもしれない」
    改めて視線をオルガにやると、
    「良い手本を見せてもらった。改めて、感謝しよう。
    そして願おう。この世界を、君たちが守りぬくことを。
    さらにここに誓おう。
    幾万幾億の月日がかかろうと、この堕天の地を我が王国とする。
    そしていずれこの地にこそ、我が楽園を築いてみせよう」
    最後にアテナに向け、
    「ゼウスに伝えてくれ。その暁には、ぜひ我が玉座まで来駕賜りたく存じます、とな』
    メッセージを託すと大仰に腰を折り、居並ぶ者たちに綺麗なお辞儀をすると―
    『では、さらばだ』
    そう言い残し、二度とは振り向かなかった。
    一歩、二歩。
    歩み去る背中が遠ざからんとする前に、盟約室は元の世界、セプトピアへと戻った。

    一同の緊張が、明らかにゆるりとほぐれた中。
    「局長、これを」
    オルガがヴェロニカに差し出したのは、フォーリナーカード。
    盟約者ルシフェルが登録された、フォーリナーカードだ。
    そう、これはペンタクルスの蒸気人形を依代としてルシフェルがこの世界に再臨したのち、オルガとヴェロニカで話し合い、決めていたことだ。

    少なくとも今のナイエン支局に、オルガの意志を疑う者はいない。
    また、彼が主体となって合体する限り、ルシフェルもまた、彼の意図に沿うものであろう。その事は、ナイエン支局の面々なら理解している。
    ―だが、市井に生きる普通の人々は、どうだろうか。
    彼らにとってオルガとルシフェルの合理体の姿は、この世界を破壊し作り変えんとする黒き魔神の記憶である。
    今、世界が平和を享受し始めた今だからこそ、その「記憶」が「現実」に蘇る。それは危険にすぎる。
    だから。
    今回の事件が解決した時は、ルシフェルはテトラヘヴンに帰る。
    登録されたフォーリナーカードはALCAに預ける。
    そう、決めていた。

    「うむ」
    フォーリナーカードを預かったヴェロニカは、カードの表面に指を走らせ、ある動作を行った。そして、カードを再び、オルガに差し出した。
    「受け取れ」
    「え?」
    これはオルガも承知していない事だ。覚悟を持って手放したカードを返す、とは?
    「今、このカードに私の権限でロックをかけた。
    ロックを解除しない限り、合体することも、意志を伝え合うこともできない。
    ―ただの飾りだ」
    ヴェロニカの視線がオルガを射た。
    「だからお前が持っていろ。
    いずれ世界がその力を必要とする、その時のために」
    「―局長・・・」
    思わず周囲を見回す。
    剣とアテナ、玉姫とヴィーナス、クロエとヴァルキリー、学とアルテミス、縁とケツァルコアトル。
    みな、何も言わなかったが、オルガに向けたまなざしこそ、万言より雄弁だった。
    そして、ヴェロニカと、ネメシス。
    『さっさと受け取れ、リーダー』
    自分に差し出されたそのカードに、伸ばす手は奇妙なほど時間がかかった。
    少し、震えていたかもしれない。
    しかし、遂にはそのカードを手に、そしてぐっと掴んだ。
    「局長、みんな」
    ぐるり、見回す一同の、暖かなそれを受けて。
    「ありがとう」
    さすがのオルガ・ブレイクチャイルドも、そう言うのがやっとであった。

    ALCAのデーターベース。
    かつてALCAと接触した、全ての使者の記録が登録されており、中には敵として戦った者も、斃して排するしかなかった者の名も刻まれている。
    テトラヘヴンの堕天使、ルシフェル。
    その名もまた、刻まれている。
    ALCA支局定理者チームリーダー、オルガ・ブレイクチャイルドの「盟約者」、として。

    定理者のカード 使者のカード 合理体のカード

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  • 八雷神

    八雷神

    ジスフィアからやってきた、ジゼルの盟約者。
    周囲からは『ヤクサ』と略称で呼ばれる。
    ジゼルをお嬢様扱いして跪き、
    彼女の指示に従うような関係性を保っている。
    八つの雷神(大雷、火雷、黒雷、柝雷、若雷、土雷、鳴雷、伏雷)の能力を持つ。

    トランス!

     ジゼル・サンダース & 八雷神

    家出少女ジゼル

    ジゼル・サンダースがALCAキョウト支局に配属され、数週間が経った。

    ジゼルの教育係に任命された揺音聖那は、
    いつまで経っても定理者としての自覚を持とうとしないジゼルに愛想が尽きかけていた。

    「もういい加減、ローカルアイドルだった頃は忘れなさい!」

    いつもであれば「はいはい」と聞き流すのだが、『ローカルアイドル』というフレーズがジゼルの逆鱗に触れた。

    「ローカルアイドルですって……?
    もうすぐ全国区のアイドルになれたのにあんたらが無理やり辞めさせたんでしょ!?」

    それからここに書き記すのも見苦しい罵り合いが展開され、この日の研修は2人の猛喧嘩で幕を閉じた。

    その後も怒りが収まらないジゼルは、施設からの脱走を決意する。

    研修期間中、キョウト支局内の一室に監禁状態にいたジゼルだったが、言葉巧みに局員を一人、また一人と籠絡し、ついに施設外へと出ることに成功する。

    だが、そこからが手詰まりだった。

    施設の周辺は馴染のない土地であるのに加え、研修が終わるまで私物など全てALCAに一時保管されていたためジゼルはお金も持っていなかった。

    あっという間に行き場を失い、ジゼルはキョウト支局から数キロ離れた公園でブランコに揺られ途方に暮れていた。
    「ここでしたか」と柔らかな声が聞こえ、顔を上げるとジゼルの盟約者・八雷神が笑顔で彼女を見つめていた。

    「……帰らないわよ」

    ジゼルは、八雷神を見るなり冷たく言い放った。
    八雷神は微笑んだままだ。
    ジゼルの盟約者となってから、八雷神はまるでジゼルの従順な執事のようだった。

    この時も、八雷神はジゼルの前にひざまずくと、そっと手を差し伸ばし、言った。
    『せっかく外に出たんですから、この辺りをご案内しましょう。
    ジゼルさんはまだここの土地柄に不慣れでしょう』

    そんな八雷神の優しい言葉にグッとくるジゼルだったが、表面に出る態度は素直なものではなかった。

    「……勝手にすれば」

    ジゼルは素っ気なくつぶやいて、ブランコから降りて歩き出した。
    こうして八雷神のキョウト案内が始まった。

    『あそこがキョウト支局から一番近いコンビニです』

    「あ、そう」

    『あの神社に祀られている神は、ジスフィアにいた頃の私の友人です』

    「聞いてない」

    『この辺りは猫が多いんです。私も時折エサをあげています』

    「私は猫より犬が好き」

    八雷神のガイドにも、ジゼルの態度は素っ気ないままだったが、そのうち八雷神は軽快なメロディが聞こえていることに気づいた。
    ジゼルの鼻歌だった。

    なんだかんだ言って楽しんでいる――
    それがわかると、八雷神は思わず微笑んだ。

    キョウト支局に戻ると、心配した聖那が前で待っていた。

    勝手に出て行ったジゼルを叱るつもりであったが、ジゼルを背負って帰ってきた八雷神を見るとその気は失せてしまった。

    ジゼルは八雷神の背中で、子供のような寝顔で眠っていた。

    「……八雷神も振り回されて大変ね」

    聖那は溜息混じりでねぎらいの言葉をかける。

    『いえ、私の大切な盟約者ですから』

    八雷神は微笑んで施設の中へと入っていった。

    その時、ジゼルの口から「ありがとう……」と聞こえた。

    見るとジゼルは目を閉じたままだった。

    それが、寝言だったのか、目を覚ましていたのか、八雷神はわからなかった。

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